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前回の朝食の時のように、兄姉と夕食で集まり食事の後で異世界について報告と話し合いを行う。
予定通り、姉は彼女が留守にしている間に鏡を詳細に調べ上げた。
結果、やはり鏡は魔道具へと変質しており、その性能は国宝級と言っても過言ではない事が判明。
予想していた[二つの世界を繋ぎ固定][言語の相互変換][無魂物の行き来]の三つの機能の他にも[不壊][所有者固定]の機能があることが解った。
また、移動させても特に問題ない事が確認できたので、実際に見て確認したいという兄らの要望により、この部屋に持ち込んでいる。
彼女はまだ帰宅していないらしく、運び込んでから時折ベルを鳴らして声を掛けてみるものの、反応は無かった。
姉から説明を聞いた長兄は眉根を寄せながら訊ねる。
「つまり、こちら側で鏡を使えるのはアディだけだと?」
「ええ。実際、あたくし達が見ても普通の鏡にしか見えませんでしょ?・・はぁ。アディの想い人である「異界の魔女」をこの目で見たかったですのに・・」
そう残念そうに零した姉は、恨めしそうに壁際の机に立てかけられた鏡に視線を投げた。
「そうか・・その鏡の機能、何かこちらで役立てられそうな物はあったか?」
「読み取れた範囲で直ぐに応用出来そうなのは[言語の相互変換]と[無魂物の行き来]ですわね。元々あった[言語変換]の魔道具と[転移]の魔術強化に役立ちそうですわ」
「ああ。それは助かりますね。騎士団でも異種族の方と接する機会が増えていますし、お互いの言葉が正しく理解できれば、余計な問題事や誤解が減ります」
「そうだな。それに[転移]の魔術は未だ魔力消費が大きく、緊急時に手紙や軽い物資を送る程度。此度の件でその辺が改善されるのならば大きな収穫となろう」
「それにしても美味い・・」と「かれー」を掬い口に運ぶ長兄。
彼女から譲り受けた「るー」を使い、異世界とのやり取りを知る唯一の使用人、自分の傍仕えであるジャスパーに「かれー」を作ってもらったのだ。
味見をした彼も「美味しいです!」と驚いていた。
異世界の食の為に皆、夕食は軽めにしていた。
主食と一緒に食す物なので、今回は輪切りにしたパンを添えている。
・・・今度「こめ」も融通してもらえるか、彼女に相談しよう。
今回も部屋には兄姉だけで集まっているため、給仕を買って出た青年は次兄のお代わりを皿によそいながら姉に気になっていた事を訊ねた。
「それで姉上・・鏡が魔道具と化した原因は、やはり私の魔力が影響した。という事でしょうか?」
「ええ、あれはたしかアディが生まれた時から部屋にあった物ですわよね?だとしたら、その可能性が一番高いと思いますわ。あなたの魔力は城に大量にある魔道具の動力、その半分を賄える程あるのですから」
そう言うと「あたくしにもお代わりをお願いしますわ」と小食の姉にしては珍しく二杯目を頼んで来た。
「後はそうですわね・・異世界に繋がった理由としては、魔力にそういった「指向性」があった可能性がありますわ。あなたの願い、願望が魔力となって鏡に影響を与えたのかも知れませんわね」
「私の、願い・・」
姉の話を聞いて、ストンと胸の内に納得が落ち、波紋の様にじわりと広がった。
そうか。
彼女との出会いは、私がそう願い、望んだからか。
ずっと、自分の状況をどうにかしたかった。家族の、民の役に立てる様になりたかった。
兄姉と話し合い、相談して方法を模索したが、現状を維持しながら改善する切っ掛けを待ち続けるしかなくて・・
だが、成程。
鏡は、私の願いによりそんな状況を打破するべく、解決へと導くものとなったと。
そして、自分の膨大な魔力がそれを可能にした。
そう考えると、生まれてこの方煩わしいとしか思えなかった自身の体質も、素晴らしい物の様に思えて来るから不思議だ。
兄姉の視線が集まる中感慨に耽っていると、長兄も「お代わりを頼む」と空になった皿を差し出す。
「うむ、美味い。こちらで作れるようになれば良いが、この味に辿り着くには時間がかかりそうだな・・」
「そうですね。ですがこれ程素晴らしい味なのです。他国との交渉の場でも良い働きをするでしょう・・目指すべき味は手元にあるのですから、完成までの時間は短縮できると思いますよ?まずは料理人を選出し、魔術契約を結んだ上で研究をしてもらっては?」
「それが良いと思いますわ」
「では「異界の魔女」に研究用と合わせて「るー」を多く融通してもらえるよう交渉してみます」
「ああ頼む。だが対価をどうするかな・・」
「魔女殿は「金はいらぬ」と言っていたのだろう?」と長兄はパンを手にしながら言った。
「はい。あちらでも金は価値の高い物だそうですが、使うには不便すぎるからと・・」
「金は金だろうに・・良くわからんな」
「気になるようでしたら、今度あちらの通貨や、経済の流れなども訊ねてみますか?」
「いや、そこまでは良い。先にもっと重要な、急を要するものから情報を求めるとしよう」
そう言って、長兄は姉へと視線を移す。
「え?あたくし、ですの?」
「ああ成程。それは良いですね」
次兄の反応で、青年も姉の状況に思い至り「良いかと思います」と頷く。
「クリス。お前もう嫁いで何年になる?いい加減、あちらの家からの圧が鬱陶しいのではないか?」
「あっ・・でも、こればかりは授かり物ですし・・アディの魔法強化が先では?」
弱々しく遠慮する姉に、青年は微笑んで言った。
「姉上、私は水魔法が使えるようになっただけでも十分です。何時あちらとやり取り出来なくなるか判らない以上、求める情報に優先順位をつけるのは当たり前です」
「アディ・・」
「そうですよ。それに、御子が授かればあの脳みそ筋肉な団長は、更に家に入り浸ることでしょう」
「そうしたら鍛錬が軽くなって助かります」と肩を竦め、遠回しに姉を励ます次兄。
長兄も「諦めるにはまだ早いぞ?」と微笑みを浮かべている。
「姉上。義兄上との間に御子が授かれるよう「異界の魔女」に知恵を貸してくれるよう頼んでみましょう」
「アディ、兄様、フィル・・・えぇ。そうね。よろしくお願いしますわ」
「承りました」
目元を潤ませる姉に、しっかりと頷いた。
家族の間に、温かな空気が流れる。
だが、それは唐突に断ち切られた。
ブツっ!びりぃ!
胸の真ん中辺りに、刃物で切り裂かれたような痛みが走った青年。
驚きと共に、咄嗟に手の平で胸を押さえる。
「どうしたアディ?」
「解りま、せん。急に、痛みが・・」
胸を押さえたまま、激痛に前のめりになると次兄が席を立ち駆け寄り、長兄と姉もその後に続いた。
「大丈夫ですか?!倒れたら危険です。横になりましょう!」
「よし、俺のマントを使え」
「頭をあたくしの膝に!」
青年は痛みに身体を強張らせ、顔を顰めながら長兄が床に敷いたマントの上に身体を横たえる。
床に座った姉は横になる青年の頭を支えると、そっとその膝の上に乗せた。
「突然どうしたと言うのだ!」
「・・胸が痛むようです。脱がせて確認しましょう」
「アディ!アディ!しっかり!」
呼びかける声に返事をしたいが、痛みで碌に舌が回らない。
「アディ。服を脱がせる。握るならこっちだ」と、グラグラと揺れる視界に兄の手が差し出された。
固く握っていた服を、震えながらなんとか離す。
その空いた手に兄の手の平が滑り込んで来たので、そのまま強く握りしめた。
「よし、偉いぞアディ」
「兄上。そのままでお願いします」
次兄が手早く青年の服を緩めていく。
上着を開くと、その下のシャツが赤く染まっているのが見て取れた。
「血が、こんなにっ?!」
「落ち着けクリス」
「シャツの下も確認します」
次兄は急ぎシャツのボタンを外し、胸元を大きく開いた。
そうして兄姉らの目に飛び込んできたのは、どす黒く変色した契約紋と、そこから溢れ出る鮮血・・
「これは、精霊からの警告、か?」
「いえ、それにしては出血が多いです」
戸惑う兄らの耳に、驚愕に震える声が届く。
「これ、は・・」
口元を手で覆い、じっと契約紋に視線を注ぐ姉に兄弟は思わず呼びかけた。
「クリス?」
「姉上?」
二人の呼びかけを片手で制すと、姉は膝の上の青年と視線を合わせて言葉を紡ぐ。
「アディ。落ち着いて聞くのよ。あなたが「異界の魔女」と結んだ契約が、一方的に破棄されつつありますわ」
「・・それ、は、どういう・・」
はっ、はっと短く息を継ぎながら、青年は姉に問う。
「つまり「異界の魔女」が契約の破棄を一人で宣誓したか・・或いは・・」
辛そうに眉根を寄せ、姉はその言葉を口にした。
「その命が尽きようとしているか、ですわ」
姉が発した言葉の意味が理解出来なかった青年は首を傾げかけ・・
直後にその目を驚愕に見開く。
しん、と。
張りつめた静寂が、室内に満ちた。
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