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【19】盛大な八つ当たり。

  カーテンの隙間から刺す朝日を見つめ、壁に掛けられた時計の時刻を確認して傍仕えを呼ぶベルを鳴らした。

  少しして、ハーフエルフの傍仕えが扉の外にやって来る。

  「お呼びですか?」

  「・・・ジャス。すまないが、[[rb:迷宮 > ダンジョン]]に潜りたい。装備一式を準備してくれ。使用許可の申請も頼む」

  「・・畏まりました。わたくしもご一緒してよろしいでしょうか?」

  「・・・許可する」

  「ありがとうございます。では、すぐに準備して参ります」

  顔を見る事無く、傍仕えは扉の前から離れて行く。

  その気遣いが有難い。

  一晩中、アヤの事を考えないで済むようにと水操魔法を使い、試行錯誤を続けていた。

  お蔭で、だいぶコツを掴めたように思う。

  手の平を上に向ける。

  空間の水分を意識して集まるようにイメージすれば、コイン大の水玉が手の上に現れ浮かぶ。

  水の粒子が動きを止めるイメージを込めれば、水玉は凍り付いた。

  手の平に氷を落とし暫し弄んで、今度は粒子が散るイメージを込めて上に放れば氷は一瞬で昇華して消えた。

  一晩でこれだけ水を操れるようになった。

  なれば、次は実戦で試したい。

  今は、何も考えずに体を動かしていたいのだ。

  現実逃避だとは自覚している。

  が・・今はこの暴力的な衝動を抑えるのが、とても難しい。

  迷宮を訓練で利用する騎士候補生らには申し訳ないが、今日は魔物を殆ど狩る事が出来ないだろう。

  燻る、鬱屈とした感情を込めて拳を握った時、ノックの音が響いた。

  「アディード様、お待たせ致しました。装備をお持ちしました」

  「あぁ。入れ」

  「失礼致します」

  入室した傍仕えは私の顔を見て一瞬、心配そうな表情になったが、何も言わずに支度を始めた。

  動きやすさを重視した、急所にのみ金属を使用した革鎧。

  両刃の片手剣をメインに、補助の戦闘ナイフと、投擲武器として薄刃のナイフを10本。

  頭部の防御には結界陣を施したバンドを装備する。

  回復薬の入ったベルトポーチを腰の後ろで留めれば、準備は完了だ。

  城内をこの姿で動き回るにはあまりに場違いで目立つ為、迷宮まではローブを羽織って移動する。

  「迷宮使用の申請は無事、受理されております」

  「わかった。直ぐに向かう」

  「畏まりました」

  同じように準備を終えている傍仕えと共に、ローブ姿で部屋を後にした。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  王都近くの森に、5階層からなる小規模[[rb:迷宮 > ダンジョン]]がある。

  小規模といっても、その中は王都と同規模の広さがある迷宮だ。

  1、2階層は小物しか現れないため、対魔物の訓練に使われる事が多い。

  騎士の候補生や、冒険者登録したばかりの初心者らが利用するのだ。

  3階層以降は[[rb:単独 > ソロ]]では危険な魔物も出てくるが、騎士が訓練がてら定期的に潜って数を調整しているので、魔物が増えすぎるということは無い。

  今までは剣しか使えなかった。

  だから、安全の為に私は2階層までしか経験していない。

  「水」だけとはいえ、魔法を使えるようになった今なら一人でどこまで行けるのか試したかった。

  迷宮入り口までは馬で移動。

  馬番と、監視の兵が常駐しているのでそこで馬とローブを預け、携帯食料を口にして水で流し込んだ。

  監視の兵に許可証を見せて、傍仕えと二人ダンジョンへと足を踏み入れる。

  「ジャス・・今回は私一人で戦わせてくれ」

  「アディード様。それは・・」

  「命に危険が及ばぬ限りは静観していてくれ。頼む」

  「・・・はぁ。危ない時はわたくしの判断で戦闘に参加致しますが。よろしいですね?」

  溜息を吐き、しかめっ面で譲歩を提示してくる傍仕えに「それで構わない」と返事をして、早速現れた虫型の魔物に剣を抜き構えた。

  ただただ、現れる魔物を屠る。

  虫型は切り捨て、スライムは凍らせて砕く。

  [[rb:小鬼 > ゴブリン]]は水操魔法で鼻と口を塞げば簡単に始末できた。

  これは良い。

  小鬼は体臭だけでなく、血も酷く臭うのだ。

  出血させずに倒せるのは有難かった。

  一度も立ち止まる事無く、死体が消えた後に残る魔石も拾わずにひたすら奥へと足を進める。

  3階層からは集団戦が増える。

  小鬼、[[rb:豚頭 > オーク]]、[[rb:犬頭 > コボルト]]、[[rb:大鬼 > オーガ]]、[[rb:狂猿 > マッドモンキー]]。全てが常に三体以上の群れで行動するからだ。

  だが・・今の私なら何の問題も無いだろう。

  そう確信して、目の前に現れた5匹の犬頭へ剣を構え突っ込んでいく。

  走りながら、空間に浸透させた魔力で水分を凝縮。

  宙に浮かせたまま凝固させ氷の[[rb:鏃 > やじり]]を生成。

  高速で打ち出せば、キュンと高い音を立てて鏃は犬頭の頭部を次々と破壊した。

  よし。行ける。次だ。

  豚頭の群れに向かって走る。

  こん棒や、石斧といった粗末な武器を構えるその足元に水を生み出し、氷にして固めれば、群れは簡単に恐慌状態へと陥った。

  その真ん中に躍り出て、剣を振り次々と首を跳ね飛ばす。

  「次だ」

  獲物を求めて走る。

  感覚が研ぎ澄まされ、自身が放つ魔力による索敵をいつの間にか習得していた。

  そうして捉えた魔物の気配を頼りにひた走る。

  目視で確認した瞬間に、待機させていた鏃を放つ。

  常に自身の周りに水玉を浮かせ、鏃として消費しては直ぐに補充する。

  「次だ」

  大鬼の口腔内に打ち込んだ鏃を昇華させれば、頑丈な頭部が破裂した。

  岩蜥蜴の足元に水溜まりを生み出し、柔らかい腹を氷の槍で串刺しにする。

  30近い数で襲い掛かって来た狂猿には適度な水分を集めて霧を生み出し、視界を塞ぐ。

  そこへ鏃を万遍なく放てば、それで戦闘は終了した。

  空襲してきた[[rb:女妖鳥 > ハーピー]]は鏃で撃ち落とし、地面から飛び出す[[rb:岩蚯蚓 > ロークワーム]]は氷槍の昇華で爆殺。

  『・・だいぶ、解れて来たね?』

  『あっ。そこ・・気持ちいっ!』

  大百足は氷塊を落として圧殺。

  [[rb:下位竜 > レッサードラゴン]]は火を吐くタイミングに合わせ、氷で口を塞げば自滅した。

  『ここ?』

  『あ゛―・・そこ、もっと・・』

  小竜の前に立ち、頭を振って雑念を振り払おうとする・・

  だが、頭の中で勝手に繰り返されるアヤと男のやり取りが、こびり付いて離れようとしない。

  「消えろ・・」

  翼を広げ、皮膜を震わせる小竜に向かって叫ぶ。

  「消えろぉおおお!!」

  人の大きさの水槍を生み出し、ぶつける端から凍らせていく。

  翼を凍り付かせ、落ちた小竜に向かって走った。

  鱗に弾かれるのを承知で、鏃を小竜の顔目掛けて途切れることなく撃ち続ける。

  「うぅおぉおおおっ!!」

  視界を塞がれた小竜の首目掛けて剣を降り下ろすが、案の定弾かれた。

  「ちっ!!」

  舌打ちをして、離れ際に薄刃のナイフを投げて片目を潰す。

  絶叫を上げる小竜の口の中へ、多量の水を生み出し流し込んだ。

  『そこ・・気持ちいっ!』

  砕ける程に歯を食いしばって、水を操作。

  「消えろって、言ってんだろぉがああああああ!!」

  呼吸を妨げられ、苦しみのたうつ小竜から距離を取って、飲み込ませた水を一気に蒸発させた。

  ぼぐんっ!と鈍い爆発音がして、口から血と共に白煙を吐いた小竜が横向きに倒れる。

  「・・・くそっ!!」

  ここまで体を酷使して動き続けても、不快さは全く晴れなかった。

  どころか、鬱屈とした感情はぐつぐつと煮立ち凝って、ますます気分は荒んでいく。

  「くっそぉおおお!!」

  小竜が消えた後に現れた大きな魔石を前にして尚、拳を固く握り迷宮の天井を睨み腹の底から叫んだ。

  「アディード様・・」

  小規模とはいえ、たった一人で迷宮を踏破した主に、傍仕えは声を掛ける事が出来ずただ立ち尽くす。

  憤りをぶつけ、怒りを追い出すように叫び続けるその痛々しい姿を、静かに見守る事しか出来なかった。

  やがて、俯き拳を震わせていた青年は魔石には目もくれず輝く転移陣に向かった。

  迷宮は迷宮主を倒すと入り口までの転移陣が現れるのだ。

  傍仕えは慌てて、魔石を抱えると主の後を追う。

  「アディード様・・」

  「ジャス。城に戻ったら湯の準備を頼む。それと、ゼクス兄上に報告を。詳細の説明には「異界の魔女」に会ってから向かうと伝えてくれ」

  「・・畏まりました」

  「・・急ごう。約束の時間に遅れる」

  内心で傍仕えに詫びて、青年は転移陣を踏んだ。

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