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【15】常識人の体でいこう!え?今更遅い?そんなバカな?!

  「今日はこの辺で~。また明日の昼過ぎにね!おやすみ!」

  別れの挨拶を交わして、大判のバスタオルを鏡にカバーとして掛け、彼方からの視線を遮った途端、真横のベッドへとうつ伏せに飛び込んだ。

  や、やっちまった~っ!!!

  またやっちまっただよ~!

  一度目は疲れからプッツンして正気じゃなかったし、今回はお酒入っててテンションおかしかったのっ!!

  はい!THE言い訳ですっ!!自分でも解ってるっ!!

  ん?・・でもアド君喜んでたし・・相手が良しと言ったら問題無いの・・か?

  頭を抱え、左右にごろごろと転がっていた頼子だが、ふとその動きを止めて暫く思考の海を泳ぐ。

  だが、またすぐに転がりを再開した。

  いや、いやいやいやいや~・・

  アカンやろ。

  問題だらけだわ。

  しかもあの契約内容、何だよ「望む行為に付き合う」って。

  契約書まで作ってんのにガバガバじゃないのよ。

  こんなの何でも要求出来ちゃうじゃん!

  え?何それ興奮す・・って違うっ!!

  ち~が~う~っ!!

  この腐女子っ!同人脳っ!そんなんだから彼氏の一人も出来ないんだぞ私っ!

  べ、別にどうしても欲しいってわけじゃないけどっ!

  あ~。でもモノホンのチン〇、いつか体験してみたい~~~

  ・・・アホか!だから彼氏が先だっつーのっ!

  愛のないえちちは嫌だ~っ!

  んでも、アド君の可愛かったなぁ~

  本体も可愛いけど、下も素直でとっっっっても良きでした・・・

  あ。これネタになるな。

  ソフトSM本、か・・・

  ふふふ。薄い本が分厚くなりそうだぜ!!

  早速ネーム切ろーっと!

  ころりと転がりベッドから降りてそのまま作業机の椅子に座る。

  紙のノートを取り出して広げると、シャーペンをカチカチと鳴らしてすぐに線を引き始めた。

  暫く、部屋にはカシカシとシャーペンが走る音が響く。

  が、突如として額をノートに押し付けた頼子は拳で机を叩き始めた。

  『だから違うだろっ!もうちょっと反省とか後悔とか無いんかい自分っ!』

  と己を振り返り内心で罵倒する。

  これはアカン。

  ちょっと間を置いてじっくり考えないと真面に反省出来そうにない。

  『とりあえず。ネーム切ってから寝よ』

  ネームは大事だ。自分の中では最優先に処理すべきものなのだ。

  問題を一度棚上げして、頼子は額にシャーペンの黒い線を残したまま作業に没頭した。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  夜中の3時を過ぎた頃に片づけを全くしていない事に気付いたけど、もう面倒でそのまま寝た。

  で。只今起床。スマホで確認した時間は9時13分・・おはようございます。

  目元を擦りながら眼鏡を手探りで探す。

  クリアな視界を確保して、再度画面を確認するとメッセが一件。

  「は?今日来る?・・急だなぁ・・ま、良いけど」

  唯一の友人から「夜に顔を出す」との連絡だった。

  長年の付き合いから、こちらの生活パターンを把握しているのは流石だ。

  「暇になったタイミングで連絡してくるんだから。凄いな親友。んで夜か・・何か作るかねぇ・・買い物行かないとだけど」

  「了解」と簡素な返信をして、今日の行動予定を立てていく。

  先ずは昨日の片づけと部屋の掃除。それからスーパーまで足を延ばそう。

  そんで外出がてら、久々にカフェで昼食といこう。

  『あ、そういえばアド君と昼過ぎに約束してたわ。んじゃ昼食はテイクアウトしよっと』

  予定は決まった。

  だが寝起きの体は思うように動いてくれない。

  ぐぐっと伸びをした後で足を上げて勢いよく振り下ろし、その反動で起き上がる。

  「っしゃあ!やりますか!」と少しばかり気合を入れ、どうにか行動を開始した。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  さて。素面になり、一晩寝た上で考えた訳ですが・・

  今後アド君とどのように付き合って行くか?という結論は『請われるまではこちらから性的なアレは自重!』というなんとも相手任せな対応と相成りました。

  こちらが「望む行為」って別にえっちい事じゃなくても良いわけで。

  暫くはジ〇リ映画とかに付き合ってもらって、契約を乗り切ろうと思います。

  で、現在。

  お気に入りのカフェでテイクアウトしてきた厚焼き玉子サンドを差し出し、急な予定が入った事をお知らせなう。

  「んなワケで夕方からちと来客があるので、今日は夜まで付き合えないわ。ゴメンね?」

  アイスコーヒーの入ったグラスに鼻を寄せ、香りを確認していた青年は「それで部屋が片付いているのか・・まぁ致し方あるまい」とあっさり予定変更を受け入れてくれた。

  ホッとしたものの、完全にこちら側の都合を押し付けた形になるので、詫びとして用意して置いた某有名焼き菓子の缶を取り出して見せる。

  「なので、こちらがお詫びのお菓子です。どうぞお納めください。お茶請けにでもしてくだせぇ」

  「・・妙な所で義理堅いのだな。別に私は気にしておらん。詫びは不要だ」

  「え?いや~でもなぁ。折角買って来たんだから持ってってよ~老舗店の有名なお菓子だよ?うちんとこの首都土産の定番!そっちの家族とかにあげたら喜ばれるかもだし・・」

  まぁぶっちゃけ、自分が好きなのでお勧めしたかったってのもありますが。

  「開けるね?」と一言断って、青年が頷いたのを確認してから缶の蓋を固定していたビニールテープをぺりーっと剥がす。

  かぱん。と軽い音と共に蓋を外すと、緩衝材の下から個包装された葉巻型のクッキーが現れた。

  「ほら、こんな感じ。食前だけど一個くらいなら行けるでしょ?はい、味見にどーぞ」

  蓋を開けて中身を見せ、そこから一つ取り出して青年に手渡す。

  「強引な・・」と少々呆れた様子はスルーして、包装の開け方をジェスチャーで教えた。

  「まぁまぁ、良いから食べてごらんよ。私これ、好きなんだよね」

  「気に入ってくれたら嬉しいな」と続け、自分用に買った紅茶のペットボトルを開ける。

  「・・・アヤがそこまで言うのなら」と、青年は包装を破りクッキーを一口齧った。

  欠片を零すことなく上品に食べる様子に感心しながら見守っていると、無言で二口、三口と食べ進み、クッキーはあっという間に青年の口へと消える。

  コーヒーを一口飲んで、ふぅ~と静かに息を吐き出したその様子に「え?どっち?」と妙にドキドキしながら「ど、どうかな?」と思わず感想を訊ねた。

  目を閉じていた青年はその声にはっとして瞬きすると、満面の笑みで答える。

  「とても上品な味で美味かった。甘すぎないのが良いな・・歯触りも軽く、口の中で細かく砕けて滑らかになっていく様子が面白い」

  とクッキーの感想を述べ、にこりと笑った。

  グラスを軽く掲げて「この飲み物の苦みと相性が良いな」とコーヒーも一緒に気に入った様子に、頼子は嬉しくなってつられて笑う。

  「良かった!コーヒーもおかわりあるから好きなだけ飲んでね!」

  「分かった。ところで、この食べ物はどうやって食すのだ?」

  「切り分ける食器が見当たらんぞ?」と首を捻る青年に『ベタな反応だな~』と思いながら食べ方を伝授。

  「こうやって素手で持って、そのままパクッと」

  「・・少々下品ではないか?」

  「や、マジでこれが正しい食べ方だよ?直接触るのが気になるなら・・」

  そこまで言って立ち上がり、冷蔵庫の扉に固定してあるキッチンペーパーを何枚か切り取って戻る。

  「はい。紙に包んで食べたら少しはマシかな?」

  「・・手で持って食べるのは変わらんのか・・」

  「どうしてもって言うなら用意するけど?」

  「・・・いや、紙でいい」

  そう言って手を差し出すのでキッチンペーパーを渡してあげた。

  青年が玉子サンドを包む間に、こちらは「いただきます」と手を合わせて付け合わせに買った細切りのフライドポテトを口にする。

  このお店のポテトは絶妙に癖になる味で、定期的に食べたくなるのだ。

  細切りなのでカリカリとした食感も大変気に入っている。

  ペットボトルを傾け、玉子サンドを手にしたところで青年は一口目を食べた様だ。

  咀嚼して飲み込み一言「美味いな!!」と言うと笑顔で黙々と食べ進める。

  「美味しいよねぇ」と同意して、以降は互いに無言で食事に集中した。

  何事も無く完食して「ごちそうさまでした」と手を合わせゴミを纏める。

  青年は食後のコーヒーを堪能しながら「アヤの用意する食べ物はどれも素晴らしく美味だな」と満足気な溜息を吐いた。

  「いや、そりゃあ[[rb:他人様 > ひとさま]]に不味いのは出せないさね。ま、うちの国は割と食道楽なところがあってさ。食事に関する外国からの評価は高いって聞くし」

  「美味しい食べ物は多いかな?」と続けた言葉に青年も「国が豊かな証拠だな」と頷いた。

  「まぁそうね。今の生活が割かし楽なのは昔の人達が頑張ってくれたお蔭だと思うし」

  「先人に感謝と尊敬の念を抱くのは良い事だ」

  「ねー。色んな事を研究してくれてホント、有難いわ」

  そこまで言って、ふと「水」についての話を思い出した。

  「研究といえばさ、どうする?時間まで「水」の件、話聞く?」

  小首を傾げて訊ねると、青年は期待に僅かな不安を帯びた表情で「無論だ!」と答えた。

  「有難い。是非頼む!」

  「はいよ了解。したら筆記用具・・はそっちのだと駄目にするんだったね。私のノートとペンをあげるから、気がついたり、疑問に思った事をメモすると良いよ」

  作業机のレターケースから大学ノートと、書きやすい事で定評のある油性ボールペン(どちらも新品)を取り出して渡す。

  その際、ちゃんとペンの使い方も教えた。

  「よし。じゃあ動画を見ながら解説していこうかな~」

  「?何の事か解らんが・・よろしく頼む」

  「はーい」と答えて、タブレットに表示したのは「原子と分子」について解りやすく解説した動画。

  「じゃ、水の前に基礎をしっかり押さえていこう」

  こうして、第一回科学的授業「原子と分子を学ぼう」が始まった。

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