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熊谷千弘(くまがいちひろ) 大学-相撲部員編

  意外に思われるかもしれないが、千弘の相撲歴はかなり長い。小学校に入る前から、父親と一緒に地元の相撲教室へ通い始めたのが、その始まりである。以来、ずっと相撲に打ち込み、小学生・中学生の大会でも、それなりに優秀な成績を収めてきた。高校も、強豪相撲部がある高校へ進学する事が決まっていた。あの事さえ無ければ.....

  千弘が中学二年生の時に発覚した父親の不倫、そして離婚。家庭は荒れ、父親は去っていった。それ以来、千弘は全てがどうでも良くなり、決まっていた相撲強豪校への進学も止めて、地元の、元々推薦で進学する予定だったのでまともに勉強もしてこなかった為、偏差値の低い高校へと進学した。其処から更に、母親の仕事の都合で、今のこの町に引っ越してくる時も、転入できる学力で、相田高校に転入したに過ぎない。

  正直、相撲と父親の記憶は深く結びついていた為、一時期は相撲を見る事さえ嫌だった。それでも、相撲部の助っ人になったのは、体に染み付いた『相撲への思い』がそうさせたのか...

  例の件で、喧嘩での『真剣勝負』という物にすっかり幻滅した千弘は、その行き場の無くなった思いを相撲へと集中させた。中学二年生から高校三年始めまでの、三年間のブランクを必死で埋めようと、元々の相撲部員以上に熱心に練習に打ち込んだ。伸び盛りの三年間をまともに練習してこなかったハンデは大きい。それでも千弘は必死に練習に打ち込んだ。まあ、助っ人として大会に参加してたので、最低限の基礎練習は欠かしていなかったのだが.....

  その甲斐あって、なんとか全国大会への出場という相田高校始まって以来の快挙を成し遂げた。まあ、組み合わせに恵まれた事もあったのだが.....

  流石に、全国大会はそんなに甘いものでは無く、早々に敗退してしまったのであるが.....

  だが、その千弘の相撲が、とある大学の相撲部の顧問の目に止まった。橋西大学の橋本顧問である。たまたま下見に来ていた橋本の前で取られた千弘の相撲は、まだ色々と荒削りだが、何か光る物があった。そして、奇遇な事に、千弘の小学生時代の相撲教室の先生と、師弟の間柄であった。千弘の事を調べた橋本は、師匠に連絡を取り、千弘の事を聞いた。其処で千弘の素質、家庭の事情によって一時的に相撲から離れていた事を知った橋本は、千弘と直に会い、相撲に対する千弘の思いを問い質した。

  其処から、橋本の動きは迅速だった。学部長宛に、千弘の推薦資料を作成し、千弘を是非とも推薦枠に入れてほしいと何度も懇願した。その甲斐あって、今、千弘は橋西大学に推薦枠で入学し、相撲部で汗を流している。

  今日とて、他大学の相撲部との交流試合。千弘は、1年生の中で、5連勝するなど、他の目をつけられた1年生達と共に、際立った成果を上げていた。しかし、千弘の中では「ブランクの3年間」という物が常に意識されてしまい、これでも、本人は納得出来ていないのであるが....

  そんな焦りもあって、交流会の後の打ち上げを断って、一人、土俵で基礎の反復練習と体力づくりに励んでいた。顧問の橋本は『そんなに焦らなくても良いから』と言ってはいるのだが、本人が納得しないと駄目だろうと、暫くはこのまま様子見をするつもりであった。

  だが、やはり、どうしたって気が滅入ってくる。そんなに簡単に、三年間のブランクを取り戻せる物ではない。いくら気ばかり焦っても、そんなに早く成果が出るものではない。ならば、素直に顧問の言う事を聞いて、交流会の打ち上げに参加したり、他の1年生達と遊びにでも行けば良いのだが、どうしても「自分は遅れを取っている」との思いから、なんとなく他の相撲部員達と素直に打ち解ける事が出来ずにいた。

  そんな気ばかりが焦り、空回りし、モヤモヤが溜まっていく毎日.....

  そんなある日だった.....

  部活からの帰り道、日もすっかり落ちて一人駅へと向う千弘の後ろから声がかかる

  「やあ、遥(はるか)くん。お久しぶり」

  遥(はるか)という名前が、あの『性の狂宴』の際に自分が名乗っていた源氏名である事を、咄嗟には思い出せなかったが、何処か聞き覚えのある声に思わず振り向いた千弘の前に、あの加藤と名乗っていた中年の大柄な虎を見て、思わず固まってしまう。

  何か、言葉を口に出そうとしても、頭が真っ白になり、何も出てこない。躰が熱く上気し、股間が固くなり、あの時の体験がフラッシュバックする。僅かに残った理性が

  『誰ですか? 俺の名前は千弘です。 じゃあ急ぎますので』

  と声に出して、その場を急いで離れろと、ガンガン警告を鳴らすが、躰は既に熱く滾ってしまい、加藤の笑顔から目を逸らす事が出来ない。

  恐らく普通の精神状態の千弘ならば、躰が熱く滾っている事を誤魔化して、直ぐにでも、その場を離れていただろう。しかし.....ここ暫く続いた鬱屈した精神状態で、千弘の心は何か『はけ口』を求めていた。其れが、あの『異世界体験』とでも言うべき、異常な性の狂宴に心が奪われてしまっていた。躰が熱く震え、加藤を見つめる目が熱っぽく潤んでくる.....

  何か言わなくては....焦るばかりで言葉が出ない。口がパクパクと言葉無く無意味に開閉する。そんな様子を見た加藤は......

  「済まないね。ちょっと、驚かせてしまったかな。ただ、ちょっと会って話をしたかっただけなんだけど.....」

  ニッコリと微笑むと、千弘に一枚の紙切れを握らせる。

  「私の連絡先だよ。もしも、気が落ち着いて、もう一度私と連絡を取りたいと思ったら、ここに連絡してくれたまえ」

  そのまま立ち去っていく加藤の後ろ姿を、千弘は見えなくなるまでじっと見つめていた.....

  次の日、千弘は岡本に電話していた。先に述べた焦りの心境から、千弘は岡本とのデートはおろか、連絡も控えていた。岡本も、そんな千弘の心境を慮って、岡本の方から連絡する事は控えていた。久々の千弘からの電話に岡本の声が弾む。

  「千弘先輩! お久しぶりです!」

  暫く連絡してなかった事で、少し後ろめたい気持ちになった千弘だが、取り敢えずの要件を口にする。

  「ああ、圭佑(けいすけ)。突然、電話して済まないな」

  岡本圭佑(おかもとけいすけ)。既にお互いを下の名前で呼ぶ程度には親しくなっている二人であった。

  「いえ、先輩は暫く部活に専念しなくちゃいけないんですから....」

  ちょっと寂しそうな口ぶりに、千弘の胸が少しだけ痛む気がした....気を取り直して要件を口にする。

  「なあ....一年半前にさあ、加藤って人と会っていたじゃんか? あれから連絡って取っているか?」

  不思議そうな口ぶりで

  「いえ....あれから会ってもいないですし、連絡も取ってないですけど....何かあったんですか?」

  慌てて

  「い、いや....何にも無い。ただ、ちょっとあの頃の事を、思い出しちまってな」

  その言葉に、圭佑がからかうように

  「あー....先輩、ひょっとして欲求不満なんじゃないですか? だったらデートしましょうよ。偶には息抜きも必要ですよ」

  その言葉に赤面しながら

  「ば、馬鹿野郎! よ、欲求不満なんかじゃねえよ! 第一、今は相撲に集中しなくちゃいけねえんだし.....」

  「いつでも電話してくださいね。何でも相談にのりますから」

  圭佑の屈託のない声に

  「あ、ああ、分かった......ありがとうな」

  返事を待たずに電話を切る千弘。圭佑の声を聞けた事で、ほんの少し気持ちが明るくなった....そんな気がした。

  しかし....今、一枚のメモを取り出してじっと見つめる。加藤から無理矢理握らされた連絡先のメモだ。本当はこんな事に気を取られちゃいけない。自分は相撲の道に邁進すると決めたのだ。もしもこんな事をやっていた事がバレたら、相撲部全体の問題にだってなりかねない。だけど.....加藤と再会した時の躰の熱い震えは忘れようとすればするほどに、却って気になってしまう。

  『一回だけ.....』

  そう思うと、取り出したスマホの上を指が滑らかに動いて、メモに書いてある番号をタッチしていく....最後の番号を打ち込み終えた。後は『通話』のボタンを押しさえすれば....

  「いや、駄目だ!!」

  慌てて通話アプリをOFFしてスマホの電源を切る。背中に脂汗が流れるのを感じながら、スマホを部屋の反対側へ投げ捨てて、ベッドへと潜り込む。幸いにして大学が近い事から、千弘は自宅から大学へと通っていた。一人暮らしの為の寮費とか、推薦枠での入学故の奨学金など、余分な出費もかさまずに通えた事で千弘は大学生活を送れていた。しかし、母親だけの稼ぎでは余分な出費も出来ないし、偶に空いた稽古の休みの日に、圭佑とデート出来ても、あまり出費は出来ない。一人悶々としながらベッドの毛布を頭に被った.....

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  そんな日から一週間が経とうとしていた。アレは兎も角も、金欠な事には変わりない。多少、相撲の練習時間を削る事にはなるが.....

  「いっらしゃいませ!」

  千弘は大学の近くの食堂でバイトをしていた。慣れない接客業、始めてのアルバイト。最初は元気に働いていた千弘だったが.....

  「おらあ!!」

  「うお!」

  大学の授業を終えてからの相撲部の練習。今までだったら何でもない1年生同士のぶつかり稽古で遅れをとるようになってしまう。流石に見かねた橋本顧問が

  「千弘、お前、ちょっと休め」

  「え、しかし....」

  「いいから。そんな体調じゃあ、怪我しちまうぞ。今日はもう帰って躰を休めろ」

  言われるがまま家に帰った千弘だったが、気ばかりが焦る。母親には、こんな事、気づかれる訳にはいかない。今だって、学費等の余分な出費こそ無いものの、自分を大学に通わせる為に懸命に働いているには違いない。

  「金の為だ.....」

  自分に言い聞かせる様に、今度は躊躇する事なく、通話ボタンを押した。

  「遥(はるか)です。その....」

  翌日、橋本顧問に頭を下げる千弘の姿があった。

  「済みません。暫く部活を休ませてください」

  「それは、今のアルバイトに慣れるまでの間の事か?」

  「あ、いえ....実は別口でもう少し実入りのいいバイトが見つかったので....

  其処での仕事に慣れたら、直ぐに戻って部活動に復帰します」

  「そうか....もし、そこも駄目なようなら、直ぐに戻ってこい。こっちも知り合いのツテを当たって、お前に合うバイト先を探してやるから」

  「はい....」

  後ろめたい気持ちを隠して、千弘は部室を後にした....

  「ああ、ちょっと稼ぎにな。其れで....暫く連絡がつかないかもしれないから」

  「え? 先輩? 一体、どういう?」

  「心配しなくても大丈夫だ。前にも経験しているし.....」

  「? あの先輩?」

  圭佑の不審そうな声に、慌てて電話を切る千弘。電源も完全に切った....

  ファミレスの隅の座席、千弘の対面には、あの大柄な中年の虎、加藤が座っていた。加藤が手を伸ばして千弘の携帯を取り上げる。そして小さいが、頑丈なジュラルミンケースに入れると、しっかりと鍵を掛けた。

  「信用してない訳じゃあないけど、突然連絡がついたりすると色々と厄介だからね。戻ってきたらちゃんと返すから安心して」

  千弘は神妙な顔をして

  「はい。あの、報酬の方は....」

  「勿論払うよ。ちゃんと君が仕事をやり遂げて戻ってきたらね」

  二人はファミレスを出て、例のワンボックスカーへと向う。ダンボールで車窓を目張りした最後尾の座席に千弘を座らせると、

  「はい。一応儀式だからね」

  千弘に皮手枷、首輪を嵌めて後部座席に固定し、更に轡・目隠し・耳栓を施す。全て緩みがない事を確かめた加藤は、後部座席のドアを閉め、運転席へと座り車を走らせ始めた。後ろから千弘の静かなイビキが聞こえて来るのに舌なめずりする。誰に言うともなく呟いた。

  「そう。戻ってこれたらね.....」

  千弘に噛ませた轡には、睡眠薬が染み込ませてあった。

  一方....

  「先輩、なんか変だったな.....」

  胸騒ぎがした圭佑は、橋西大学の橋本顧問へ電話を掛ける。顧問とは千弘と一緒に会った事もある。電話をすれば直ぐに橋本が出て、千弘の事を尋ねる。すると、やはりバイトで相撲を少し休ませて欲しいとの事だった。意外そうに橋本が

  「しかし....熊谷の奴、君にも次のバイトの内容を言ってないのか?」

  「はい....」

  橋本にも新しいバイト先の連絡先は教えられてないらしい.....電話を切った圭佑は、

  「まさかね.....」

  加藤の電話番号に電話する。しかし通話口からは

  「この電話番号は現在使われておりません.....」

  「な!?」

  単に使い捨ての電話番号で、定期的に電話番号を変えているだけかもしれない。しかし、だとしても、どうやったら連絡を.....

  そこで圭佑は思い出した。何回かの加藤との仕事で千弘の付き添いをしていた際に、本来はルール違反だがメンバーの一人と個人的にメールアドレスの交換をしていた事を.....

  ダメ元で、メールを打てば、明日の夜なら会う事が出来るとの返事が夕刻に来た。

  圭佑は、念の為に、自分に何かがあった場合の書き置きを、自室に置いて、都内某所の指定された高級ホテルへと向う。ホテル内の高級和食店に入り、名前を告げれば、奥の、扉付きの部屋へと案内される。其処に居たのは恰幅の良い、落ち着いた趣味の和服を着た白髭の猪の老爺だった。因みに、最初の日に千弘の精液を飲み干した人物なのだが、其処までは流石に圭佑も知らない。促されるがままに対面に着席した圭佑は早速要件を切り出した。

  「あの....実は、あの虎の人に連絡を取りたいと思っているんですが.....」

  其れを聞いた猪の老爺の顔色が変わる。

  「よしなさい。あの男はルール違反をして、メンバーから追放されたんだ。今じゃ何をやっているか、判ったもんじゃない!」

  「え!? 一体、何があったんですか?」

  「あの男、あの後....つまり君たちの後に来た者をえらく気に入ってしまってな。自分一人だけの物にしようとして、山中の山小屋に監禁したんじゃよ。そのまま行方不明になった事にしてな....流石におかしいと、探偵に内定させたら、案の定....我々がなんとか、被害者と示談を成立させて事件にはならなかったが....」

  「え! じゃあ.....」

  「ああ、もうあの男は、この業界から永久追放じゃよ。裏で手配書も回って、表立った所では、もう仕事は出来ない筈じゃ....その後、アヤツがどうなったか、儂も知らんのじゃよ」

  「え......」

  何処に先輩がいるのか、確証も確信もない。しかし....圭佑には、千弘の今と、虎の男が密接に関係している。そんな確信に近い思いがあった。

  「な、なんとか知る手掛かりは、無いんでしょうか?」

  猪の老爺はひとしきり唸り、顔を捻ると....

  「もしかしたらじゃが.....ここなら判るかもしれん....」

  老爺は、袖口から古びた名刺を取り出した.....

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  「ん.....」

  轡から、力ない呻き声が漏れる。千弘は、全裸の躰から、全身から汗を吹き出して喘いでいた。車に乗って直ぐに意識を失った千弘が、次に目を覚ましたのが今の場所....三角木馬の上に跨り、両腕を後ろに真っ直ぐに引っ張られて、腕を捻りこむ様な形で手首に革枷を嵌められ、後ろ上方に引っ張られて、お陰で上半身を微塵も動かす事が出来ない。三角木馬の両脇にぶら下がる両の足首にも革枷がしっかりと食い込む。その先には錘では無く、床に据え付けられた巻取り機が両足首を引っ張り、千弘の体重に上乗せして、千弘の股間を三角木馬の頂点に食い込ませる。豊満な乳首には、穴が開けられ前から強い力で、頑丈な縄で引っ張られ、乳首が変形して伸びきっていた。尻穴には丁度、千弘が咥えられだろうギリギリの大きさの張形が挿入されており、その圧迫感が千弘に更なる苦痛を加える。目隠しを取られていない千弘は、今、自分がどんな状態になっているのか知らされていない。疲労で意識を失いかけると、突然襲ってくる鞭の殴打。千弘の躰には、その痕が赤い蚯蚓腫れとして浮き上がっていた....

  [pixivimage:73242405-1]

  「....う.....(一体、何が....)」

  躰が熱く火照る。久々の責めに躰が熱くなり、股間が滾る。その欲情は紛れもない、自分が求めていたソレである事には違いない。自分の意思など無視して、この躰を容赦なく弄ぶ、この扱いに。だが、欲情と疲れでぼうっとする頭で『何かがおかしい』と感じていた。何か異常な事が起きていると....だが、今の千弘には、其れを確かめる術はない。ただ、ひたすら、この態勢で責めを受け続けるのみであった....

  前後左右上下からカメラで撮影されている千弘の姿に、満足しながら加藤、いや、もう加藤では無い虎男は、

  「いい....実にいい....やっぱり君は最高だよ。千弘くん。もうすぐ外の世界を忘れさせてあげるからね....」

  そうして、モニターを眺めながら、複数の薬品のアンプル....精神に作用し、理性と記憶を徐々に壊していく禁止薬物を手でもてあそびながら、モニターの前で舌なめずりをしていた....

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  虎の手が、この地下牢獄の、壁に横一列に並べられた、細い頑丈なロープが巻き取られているリールのハンドルの一つに手をかける。慎重に、しかし、力を込めて、リールのハンドルを下向きに回せば、ギシリと軋んだ音と共にロープが僅かに巻き取られる。

  そのロープの繋がっている先を辿って行けば、数個の滑車を介して、牢獄の中央....三角木馬に跨った、太くガッシリとした内筋を膨よかな脂肪とモチモチな若い肌で覆った、まさにガチムチ体型と言うに相応しい黒熊が目隠しと猿轡と耳栓を施され、四肢と乳首を皮枷に繋がれたロープで四方に牽引されて微塵も躯を動かす事もかなわない姿を目にする事が出来る。

  先程のリールが巻き取ったロープは、三角木馬に跨る黒熊の右足首の皮枷に繋がれていた。

  「んぐ!....」

  右足首が僅かに下に引っ張られる。そのまま太腿も引っ張られ、股間に当たる三角木馬の頂点が右寄りの力が加わって、不均等な力が股間に加わる。体勢がやや右寄りに傾きながら、木馬の上の熊が

  「...んぅ....」

  と呻き声を漏らすのをニヤニヤしながら見ていた虎は、今度は、その隣のリールのハンドルを同じだけゆっくりと下向き回す。すると、今度は、左足首を下向きに引っ張る皮枷が同じ長さだけ下に引っ張られる。今度は、両脚を引っ張る力が均等に強くなった為に、股間の位置が真ん中に戻ったが、三角の頂点を股の中心で真っ向から受け止める事になる。

  「ぅぅ....」

  更なる苦悶の呻きを猿轡の下から漏らす、脂汗で全身が滴るむっちりとした黒熊の躯をうっとりとした目で眺めていた虎は、

  「ああ....いい....君は苦悶の呻きを漏らす度に、どんどん魅力的になっていくよ、千弘くん」

  そうして今度は左右の足首を引っ張るリールを同時に回す。ギシリと軋んだ音と共に、更に両足首の皮枷が、同時に下へ、僅かに沈み込む。其れは、千弘の股間の真ん中に、木馬の頂点をギリリと食い込ませる。

  「んぐぅぅ!!!...」

  僅かに、股間から吹き出す脂汗に混じって、赤い何かが....脂汗と混じって、股間周りを薄ピンク色に染めていく。恐らくは度重なる両足首の牽引に、三角木馬の頂点を受け止め続けた股間の皮膚が耐えきれず、少し裂けてしまったのだろう。そして....其の効果は股間だけにとどまらない。尻穴に挿入された、尻穴よりも僅かに大きめの張形。その肛門に露出した部分をグイグイと中へ押し込み、肛門周りの性感帯と、最奥の前立腺を、無機質で無慈悲な物理的な力で刺激してくる。其の効果は、千弘の股間を見れば明らかだ。短小包茎の根本と陰嚢をタコ糸で厳重に縛られ、尿道にプラグを挿し込まれているにも関わらず、千弘の短小は固くそそり立ち、プラグの脇から我慢汁を染み出させて、ピンク色の脂汗と混じって、股間周りをぬちゃりと粘性のある液体で汚していた....

  千弘には、もう何がなんだか判らなかった。明らかに今迄のプレイと違う、事前説明も会話も客も無い....何も見えず聞こえず悲鳴も塞がれて、ひたすら無機質に物理的な力で、千弘を苦しめ続ける拷問まがいの仕打ち。苦痛と疲労で意識を失いそうになると襲ってくる、手加減無しの鞭の殴打。ただただ、千弘を苦しめる事だけを目的にしている様な。どれだけ時間が経っているのか、全く判らない。これがいつまで続くのかも。千弘の朦朧とした心を恐怖が鷲掴みにしてくる。もしかして....

  『自分の躯が壊れるまで、続くのか?』と....

  そんな千弘の、疲労し、全身を脂汗で滴らせ、股間を薄ピンク色の汗と我慢汁で濡らす、発汗で躯から湯気が立ち上る姿に酔いしれながら、虎は更に別のリールのレバーを下にゆっくりと回す。千弘の両手首を後方に捻った状態で後ろ上方に引っ張るロープがピンと張られ、千弘の手首から肩関節までに、捻じれの力が加わり、上半身が肩の付け根から後ろ上方に引っ張られる。

  「ぅ!!....」

  苦悶の呻きがまたしても、猿轡の下から漏れる。苦痛と疲労と寝不足で朦朧とする千弘の頭では、どんな姿勢を取れば、僅かにでも苦痛を和らげる事が出来るのか、判断する事が出来なくなっていた。ただ、四方に引っ張られる四肢の、躯からもげてしまいそうな苦痛を甘受し、そして....千弘がそんなぼんやりとした頭でも驚いていたのは、こんな仕打ちの中で『快楽』を感じ始めている事だった。それは虎男のし掛けた罠....四肢がもげる様な苦痛の中でも、しっかりと性感帯....張形で刺激される最奥の前立腺と肛門周り、ロープで縛って前に引き伸ばした乳首、太腿の内股から股間に塗り込んだ皮膚からの刺激を快楽に感じる軟膏の媚薬。それらにより、苦痛を与えて、躯が捩れる程に、それら快楽も強く感じる様にされていた。

  今迄の圭佑らの調教、つまりはSMプレイでも、快感を感じてはいた....無論、それはこの様な拷問まがいの物などではなく、きちんと快楽を感じる様に、また、躯に無理をさせない様に考えられたプレイであったが、今、追い詰められ、朦朧とした千弘の頭では、それらのプレイと、今の拷問まがいの、いや拷問そのものと、区別がつかなくなり始めていた。

  『俺は.....こうされると「気持ち良い」って感じる、そういう奴なのか....?』

  その事を否定する理性や記憶を、今の追い詰められた千弘の頭は持ち合わせていない。そして....何よりも、股間がそそり立ち、我慢汁を漏らしている。その事が、その思いを強く補強する。苦痛と疲労で、体の芯から発汗している事も、『興奮して躯が上気している』と勘違いしてしまう程に、判断力を失っていた。

  虎男が、更に別のリールを下にゆっくりと回せば、前から乳首を引っ張るロープがピンと張られる。その刺激が『痛痒い』と感じてしまった千弘は....

  「んんんぅ!!!」

  苦悶の呻きの中に、色艶のついた嬌声を混じらせてしまっていた。間を置かずに、手加減無しの鞭の殴打が、全身を襲う。その一撃一撃に

  「んんぅ!!! んんぅ!!!」

  と明らかに艶めかしい嬌声が主の呻き声を上げて、全身をビクビクと震わせて、股間を更に固くして我慢汁を漏らして、頬を赤く染めて、三角木馬の頂点が股にキツく食い込んで僅かに出血し始めた、四肢をバラバラな方向に引っ張られて躯を無理な体勢に拗じられた、脂肪が程よく乗ったむっちりとした全身を脂汗で滴らせた黒熊は、虎男の思惑通りに、被虐を喜ぶ雌熊へと精神を変容させ始めた....

  この責めがどれだ長く続いたのか、千弘には判らない。ただ、相撲で体力と柔軟性を鍛えられたこの黒熊は、普通の者ならば、到底肉体的に耐えられない責め苦に長時間耐え続けた。そうして一層、思考が混濁し、先程の思い

  『俺は.....こうされると「気持ち良い」って感じる、そういう奴なのか....?』

  その思いが加速度的に強化されていく....しかし如何に躯が頑強な千弘であっても、肉体の限界はやってくる。特に、今回のように何も栄養も水も与えられない状況では。結局、千弘は三日間、その責め苦に耐えてから気を失った。虎男が拘束を解き、床に慎重に下ろした時、千弘の顔は、苦悶だけではない、何処か快楽の笑みも混ざった複雑な表情を浮かべて、うっとりと眠るように気絶していた。虎男はニンマリと嗤い、

  「最高だよ、千弘くん。次の調教までゆっくりと休むが良い」

  この地下牢獄の水場にて、腸内を洗浄され、複数の栄養剤と、ゆっくりとだが理性と記憶を蝕む薬を注射された千弘は、全身を革袋で拘束する拘束服を着せられ、目隠しと耳栓と猿轡を施されて、口に薬物投与用の管を噛まされ、頭に革袋を被せられた状態で床に転がされ、一日毎に栄養剤と水分と睡眠薬を口に繋がる管から投与され、3日間休養させられた。

  [newpage]

  千弘の意識が徐々に覚醒していく....肌にまとわりつく、生暖かい湿った空気の感触。手首は後ろ手に回され、手首に麻縄が食い込む感触が心地よい。脚は折り曲げられ、正座の状態で足首が尻の下で麻縄で縛められていた。手首・足首だけではない。正座した状態で、全身に縄が掛けられているのが判る。口には猿轡、目に目隠し、耳に耳栓が施されている事も。喉にも何かが締め付ける感触が感じられた。

  千弘は、正座の姿勢で全身を麻縄で縛められていた。

  上半身は、二の腕と肘と手首とが背中からの縄で背中から引っ張るようにきっちりと極められ、胸の上下左右を通る縄が脂肪の乗った豊満な胸....所謂『雄っぱい』を強調する様に締め上げて前にせり出させ、腹を横に通る縄がボリュームのある腹に段を作って締め付け、其れ以外の場所を亀甲の文様で覆っていた。

  下半身も、太腿の付け根と足首をぴっちりと閉じさせて締め上げる縄に、膝関節に挟み込んで脚が閉じられないようにした棒を中心に膝頭周りを緊縛する縄、尻下の両足の親指同士をピッタリと閉じて締め付ける細引きが上に引っ張られて、手首の縄と結び付けられていた。

  開かれた股間....その奥に鎮座する短小包茎と巨大な陰嚢は、細引きで竿の根本と陰嚢本体を厳重に縛められ、其れが前に露出する様に胸を通る縄と結ばれて強引に引っ張られ、臍の前辺りまで引き上げられていた。その更に下....股間では、上半身と下半身の縄が結び合わされて、股下と尻を菱形の縄目で締め付けていた。

  天井からの吊り縄が、背中の首の根元の縄と結ばれて、千弘の上半身が倒れ込まない様に上に吊り上げていた。首の半分程を覆う幅広の厚い革の首輪は、少々呼吸を阻害する位の締め付けで首元を締め付けていた。

  顔....口の中には、三日前に我慢汁と脂汗と若干の出血でぐしょぐしょに汚れていた千弘自身の股間の体液を拭き取った布が押し込まれ、口に噛ませる為の固結びの瘤を作った手ぬぐいの猿轡が、頬に食い込んで痕が残るむ程にキツく顎に食い込まされていた。手ぬぐいの目隠しも、頭を締め付けるような強さで目の周りに巻きつけられていた。耳栓が熊の耳穴をかたどる様な形状のスポンジが押し込まれて、僅かな隙間も無く耳孔が埋められていた。そして....鼻上に薄汚れた布が被せられ、其れが落ちない様に、布の上から鼻を軽く摘むようなクリップが付けられる。この布は、三日前の千弘の股間と尻穴周りを拭った布だ。

  千弘の意識が、徐々に覚醒していくにつれて、口中から湧き上がる我慢汁と血と脂汗が混ざったすえた臭いと、鼻からの肛門周りの腸液と脂汗が混ざった独特の臭いに、それらが呼吸する度に嗅覚を刺激して、頭をツーンと刺激してくる。キツくなってくる臭いに咽て、それらを吐き出し、振り払おうと頭を振ってもみたが、まるで取れる気配は無く、そうする事で息を乱して、却って胸奥まで臭いが吸い込まれて、頭がぼんやりしてしまう。

  臭いだけではない。鞭で殴打され全身に蚯蚓腫れを起こしていた皮膚は、三日も経てば完全に腫れは引いた様に見える。しかし外見の痕が消えただけで、まだ触れられればジーンとむず痒い痛みが疾走る。その躯を、麻縄で容赦無く全身を縛めているのだ。縄が食い込む箇所が痛痒い。膝裏に挟ませた棒も膝関節を締め付けてくる。三日前の責めで痛めつけられた各関節も、躯の自由を奪う為に各関節部に食い込んでくる縄に悲鳴を上げる。

  五感を奪う為の目隠しや猿轡も、キツく顔の各所に食い込んでくる。胸元を締め付ける何か....革首輪も首を締め付け、呼吸を阻害する。

  じわじわと染み込むように、全身と五感を責め苛む拘束....息が乱れ、躯から脂汗が噴き出して体温が上がる。普通ならば『不快』な筈のこの状態を、千弘は....

  『「気持ち良い?」のか、俺は....?』

  何も見えず、聞こえず、助けも悲鳴も上げられず、鼻にはすえた臭いが充満し、躯を微塵も動かせない、じわりじわりと全身にゆっくりとだが苦痛を与えてくる、この拘束に、千弘は苦痛と恐怖以外の何かを感じていた。

  [pixivimage:73242405-2]

  先日の、苦痛と一緒に与えられていた『快楽』の刺激の記憶が蘇ってくる。前立腺と肛門周り、乳首、股間を刺激してきた快感を。

  今、千弘の躯は、厳重に拘束されて、与えられているのは『苦痛』のみである。だがしかし....先日の調教で加えられた苦痛と快楽は、その苦痛の強さ故に、快楽の記憶も然と刻み込まれていた。先日与えられた苦痛に比べれば『生ぬるい』とも言える、このじんわりと全身を苛む苦痛には、むしろ包み込まれる様な『心地よさ』を感じてしまっていた。

  嗅覚さえも塞がれた触覚以外の全てを遮断する拘束も、何も見えない・聞こえない・臭わない・声も上げられない恐怖よりも、生暖かい『闇』に包まれている様な心地よさを感じ始めていた。何も感じる事が出来ないのならば、『何も考えなくて良い』気持ちよさがあった。

  鼻に充満する、キツくすえた臭いも、全ての思考....『逃げなければ』という理性から発せられる焦り、『どうなってしまうのか?』という恐怖感、それらを瞬時に霧散させてくれる意味で、却って全てを忘れさせてくれる癒しの「病みつきになる臭い」という考え方になっていく。

  躯が微塵も動かせない事も『何も出来ないのだから、何もしなくても良い』という刹那的な心地よい思考放棄を正当化させる。

  そうした思いと、全身をじんわりと蝕む苦痛が相まって、千弘は心地よい興奮を感じ始めていた。むしろ期待さえしてしまう。

  『全く何も出来ない無力な自分は、ただ、これから与えられる刺激を、素直に受け入れ続ければ良いのだ』と...

  躯が発汗して全身から脂汗が流れ、体温が上がる。今、千弘の躯は不快感からではなく、興奮によって躯が上気して、心拍数が上がり、全身を包み込む『自分を無力にして何かをする必要を奪ってくれる』じんわりと苦痛を与えてくる闇に、心地よさを感じ始めていた....短小が固く立ち上がり我慢汁を垂れ流して、股間の下の床に粘性の液体で溜まりが出来始めていた。

  ............

  ........

  ....

  どれだけそうしていたのか、千弘には判らない。ただ、もうこの状況に恐怖も不快感も焦りも感じていなかった。ただ『痛痒い心地よさ』を感じて、顔を弛緩させ、猿轡から涎を垂れ流して胸元の体毛の薄い部分を汚していた。股間の下には我慢汁で溜まりが出来、正座している両足をべっちょりと濡らしていた。そんな時

  「!!ッ...」

  胸に衝撃が来た。其れは、鞭による殴打だった。千弘は、しかし、その刺激が『心地よい』様に感じてしまっていた。無力で何も出来ない自分を受け入れてしまっていた。思わず顔がにやけてしまっている事にも気が付かない。ただただ、与えられる刺激を全て受け入れようと....

  すると今度は、耳元から声が聞こえた。

  「どうだ? またして欲しいか? 否なら首を横に、して欲しいなら首を縦に振れ」

  其れは、耳栓に仕込まれた小型のワイヤレススピーカーからの、虎男の声だった。

  千弘の今の頭では『どうして声が聞こえたのだろう?』『誰だろう?』という疑問さえ浮かばない。ただ、先程の質問で頭の中がいっぱいになる。

  『またして欲しいか?』

  千弘は疑問を持つ事無く、首を縦に何回も振った。胸だけでない、腹や、内股や、背中にも衝撃が疾走る。痛いとか、そんな事はどうでも良かった。ただ、されるがままに刺激を与えられる事が快感だった。千弘は再び首を縦に振った。今度は衝撃が全身を包み込む。短小も陰嚢も引っ叩かれる。だが、千弘の、刺激を欲する気持ちは止まらない。何度も首を縦に振り立てる。全身を鞭の殴打が襲い続けた。千弘の顔は興奮に紅潮し、涎が延々と垂れ流され、我慢汁が一層多く股下の床に垂れ流された....

  ............

  ........

  ....

  どれだけ、鞭で叩かれつづけたのか、千弘には判らない。千弘には『自分が何で叩かれているのか?』さえ判らないし、疑問も持たない。ただ、全身を苛む痛み....鞭の殴打で再び蚯蚓腫れを起こしていた全身の皮膚、その皮膚を締め付ける麻縄、ずっと同じ姿勢を取らされ続けている事での疲労、疲れで息をより多く吸い込む度に肺腑に行き渡るすえた臭い、荒くなった呼吸を阻害する革首輪の締め付け....これら全てが気持ち良く感じていた。無力な自分、何もかも受け入れざる得ない自分の状況が『何もかも放り出して、流されるまま、されるがままにすれば良い』という心地よい思考放棄につながっていた。だから

  『次はどうされるのだろう?』

  期待で胸が膨らみ、股間の短小はギンギンに固く立ち上がって、我慢汁を垂れ流し続けていた。

  すると、尻穴周りを何かが擦り始めた。其れは指だった。ローションに浸された指が、尻穴周りをなぞり始め、やがて...

  「!」

  ズブッという感触と共に尻穴に何かが侵入して掻き回してくる。千弘は、猿轡の下から荒い息を吐き出して、艶のある呻き声を漏らす。其れが2本に増え、3本に増え、激しく掻き回してくる。千弘は、

  「! ! !」

  ハッ!ハ!と荒い息を猿轡と鼻から漏らしながら、興奮していた。やがて....今迄入っていたものが抜かれると.....もっと太い物がゆっくりとだが、肛門をこじ開けて、ズブッ...ズズーっと侵入してくる。其れは腸壁を押し分けて更に奥へと入っていく。下腹が圧迫感で苦しくなるが、肛門と腸壁を擦る感触が、圧迫感を打ち消す程に気持ち良い。いや、圧迫感自体を気持ち良く感じ始めていた。やがて到達する直腸の最奥の前立腺。そこへ先端が到達して圧迫する刺激に

  「!ッ...ぅぁぁぁ」

  其れがもたらす快楽を隠す事無く、嬌声を含んだ呻き声が漏れ出す。其れはゆっくりと抜き差しされて、抜く時に腸壁と肛門を擦りたて、押し込まれれば再び腸壁と肛門を擦りたてて前立腺を激しく刺激する。触覚以外の五感を遮断された千弘には、その刺激が頭の中で何倍にも増幅されて頭の芯から痺れるような刺激となって襲ってくる。その強すぎる快感に、思わず躯を捩るも、微塵も躯は動かせない。捩った事で、全身を締め付ける麻縄が、蚯蚓腫れの浮かぶ皮膚を擦りたて、縄の食い込む関節に無理な力が加わり、荒くなった息を首を締め付ける革首輪が阻害して脳に充分な酸素が行くのを邪魔する。朦朧とした頭で、快感と苦痛が混じり合い、今感じている物が全て『快感』に塗りつぶされる。脂汗が全身から噴き出し、体温が上昇し、心拍数が上がり、多幸感に包まれる。ゼェゼェと息を細く刻んで辛うじて呼吸を確保する。触感以外の全てを遮断する『闇』に包まれて、与えられる刺激のみを全て甘受するしかない千弘は、今、言い様の無い多幸感と快感で頭がホワイトアウト寸前の状態だった....

  ............

  ........

  ....

  どれだけ、その状態が続いているのか、千弘に判る筈も無く、又、千弘の頭の中には『時間』という概念も消え去っていた。朦朧とする頭で、ずっとこの状態が昔から続いている、その様にしか考えられなかった。全身が訴えてくる痛みを含んだ刺激が全て『快感』として感じられ、臍の辺りまで引き上げられた包茎短小と陰嚢が脈打って我慢汁を垂れ流す。何度もイッたが、男根の根本を固く縛める細引きが、イかす事を許さない。その情欲を発散できないもどかしささえも、無力な自分を弄ぶ仕打ちとして気持ち良さを感じ始めていた。だが....さすがに躯は『もうイキたい』と、千弘の壊れかけた心に激しく訴え続けていた。そんな時、耳元で再び声がした

  「イキたいか? 否なら首を横に、イエスなら首を縦に振れ」

  千弘の心はさらなる継続を望んだが、躯の欲求の方が勝った。気がつけば、首を縦に振っている事に気がついた。そうすると、耳元で

  「イキたいなら、ヒトを止めろ。俺の、俺だけの奴隷、俺に一生飼われるだけの豚に成れ。否なら首を横に、イエスなら首を縦に振れ」

  ヒトを止める。その言葉に、千弘の壊れかけた心は....何の警告も発しなかった。むしろ、『一生飼われる』という言葉に魅力さえ感じてしまっていた。千弘は何の躊躇も無く、首を縦に振っていた。耳元で笑い声が聞こえた。そして....猿轡が外され、中の布切れが引き抜かれて、口が自由になる。耳元で再び声がした。

  「復唱しろ。「私、熊谷千弘はヒトを止めて、残りの生涯を豚として飼育される事を望みます」と」

  口が自由になった事で僅かに理性が戻った。そして大音量でガンガンとやかましく頭の中に警告を発し始める。『決して、その言葉を口にしてはいけない!』と....だが、心はその警告を無視した。長い間、猿轡をされていた事で口周りの筋肉が強ばり、最初は上手く言葉が出せなかった。だが....ゆっくりと口が動き始めると、己の意思に関係なく、躯がそれを欲する様に、口が自然に動いた。震える口で

  「わ、私、熊谷千弘はヒトを止めて、残りの生涯を豚として飼育される事を望みます」

  「私、熊谷千弘はヒトを止めて、残りの生涯を豚として飼育される事を望みます」

  「私、熊谷千弘はヒトを止めて、残りの生涯を豚として飼育される事を望みます」

  「私、熊谷千弘は....

  まるで壊れたICレコーダーの様に同じ言葉を繰り返す千弘の口に再び布切れが押し込まれる。耳元で、再びあの声が耳元で、満足気な笑い声と共に

  「そうか、そんなに豚になりたかったのか。じゃあ望みどおりにしてやらないとな」

  短小の根本をせき止めていた物が取り払われた。そして、何か....恐らく指が激しく男根を擦り立てる。同時に中断されていた尻穴からの刺激も再開された。その後の記憶を千弘は、よく覚えていない。ただ....最後に布切れを口から吐き出して

  「うがあああー!!!!!」

  獣の様な叫び声で絶叫して、溜まりに溜まった精を吐き出す究極の開放感と幸福感で意識が真っ白になり、直後に視界が真っ白になって意識がぷっつりと途絶えた。その事だけは覚えていた.....

  千弘は、正座の姿勢で全身を緊縛されたまま、口を半開きにして涎を垂れ流しながら、首の後ろの根本に繋がれた吊り縄で上半身を上に引っ張られたまま、首をカクンと前に倒して意識を失っていた....

  先程の射精の勢いは凄まじく、腹は勿論、胸、顔に至るまで、ドロドロの白濁液がべっとりと体表を覆っていた。そんな自身の精液まみれの上半身で、首の付根から上に引っ張られて、上半身をぐら~りぐら~りとゆっくりと揺らしながら、これ以上無いほどの幸せそうな顔で、口を半開きにして涎を垂れ流し続ける姿は、壮絶とも滑稽とも見れた。そして、それ程の射精をした後でも、短小がビクビクとしゃくりあげて尚も少量ながら精液を零し続ける姿は、千弘の底が抜けてしまった情欲を表している様で、空恐ろしくさえ感じられる光景だった。だが、虎男は

  「くく....実に良い....実に良いよ、千弘...いや、愛しの豚よ」

  意識を失った千弘の上半身を、自分が汚れるのも構わずに、背中から愛おしげに抱きかかえて指や舌で愛撫し、千弘の躯が無意識で反射動作を返してくるのを...乳首をいじればピクリと震え、短小や陰嚢を弄ってやれば、短小がしゃくりあげて薄くなった精を吐き出す....そんな反応を楽しみながら、弄り続けるのだった....

  [newpage]

  再び千弘の意識が覚醒し始める。だが、前回までとは違っていた。前回までは『自分はどうなっているのか?』『誰がこんな事を?』『一体いつまで続くのか?』『自分はどうされてしまうのか?』....疲労や苦痛や刺激で、頭がまともに働かずに思考が直ぐに霧散してしまうも、それでも、僅かに残っていた理性が、そういった疑問を問い続けた。しかし今は....

  『今度は何をしてもらえるんだろう?』

  頭に浮かぶ思いは、其れだけだった。なんで自分がこんな目に遭っているのか?という疑問さえ持たない。不安や恐怖も無い。只々『与えられる刺激を、仕打ちを、されるがままに甘受していけば良い』と、餌を待ちわびる犬、否、豚の様に期待で胸を膨らませていた。

  目は....何も見えない。耳も....何も聞こえない。鼻も....口に押し込まれた布と、鼻の頭に貼り付けられた布の、すえた臭いでかき消されて他の臭いを感じられない。声も....口中の布の上から固く結ばれた猿轡が顎に食い込み、舌の動きも口の動きも封じられて、叫ぶ事さえ出来ない。

  只々、残された触感だけが、周りの様子を教えてくれる。全身にまとわりつく生暖かく湿った空気。背中に回された両手首を拘束する革手枷の食い込む感触。足首にも皮枷が食い込む。左側面の肌が感じる硬い感触が、自分が左側を下にして、床に横向きに横たえられている事を教えてくれる。他には?....何となく曲げている脚を伸ばそうとした所で股間に違和感、否、激しい痛みが陰嚢に疾走った。

  「んぐぅ!!!」

  脚を伸ばそうとしたら、陰嚢が引き抜かれる様な痛みが疾走った。今度は、曲げている太腿の付け根の関節を少しづつ真っ直ぐにしていくと...

  「んぅ?」

  陰嚢が膝と一緒に引っ張られる。膝の裏側の肌に器具の感触が伝わる。どうやら、膝下に付けられた器具により、陰嚢が膝下で根本から挟まれて、膝を伸ばそうとすると、一緒に陰嚢が引っ張られて苦痛を与えて、脚を伸ばす事....真っ直ぐに立つ事を邪魔する器具らしいという事は、何とか判った。このままでは、脚を曲げたまま、丸くなって横倒しのままで、床に横たわるしか無い。しかし千弘は、焦りや不安は感じなかった。

  『これまで同様に、只々、全てを甘んじて受け入れれば良い』

  そう感じていた。何か、大事な事を忘れてしまっている様な気もするのだが、『どうせ何も出来ない』という諦めの思考が心地よく、自分を包み込む『闇』....外界から何かも遮断して何も判断させず、思考させず、自分になされる仕打への抵抗する力を全て奪い去って苦痛も何もかも受け入れるしかないように躯を縛り付けるこの....

  『自分は、自分で何かを考えたり、判断したり、行動したりする必要は無い。ただ、この『闇』に包まれて、与えられる物を素直に全て受け入れればいいだけだ....』

  何もかも忘れ、思考を放棄して、『闇』の中に拘束されて包まれている今、千弘は心の平安を感じていた。それでも....何か『思い出さなくてはいけない物がある』という思考が、時折脳裏をかすめてほんの一時だけ不快感で顔をしかめていたが。

  そんな、起きているにも関わらず、思考を放棄して半ば眠るように微睡んでいた千弘の尻に何かが触れた。

  「ん....?」

  尻穴を指らしき物が解し始めた。徐々に動きが激しくなり、またしてもズプッと一本入ってくる。其れが肛門を内側から掻き回して尻穴を解していく。2本、3本と増え、尻穴の入り口部分が解される。千弘は、その刺激をうっとりしながら受け入れ、股間を濡らす。短小の根本は固く縛められているので、我慢汁しか漏らせないが。

  不意に掻き回していた物がズッポリと引き抜かれた。尻穴は開いたまま、パクパクと伸び縮みして、次の何かを誘ってくる。今度は、何か硬い、丸い形状....ボールの様な物が連なった何かが押し込まれてくる。其れはとても長く、最奥....前立腺に到達した所で、まだ入り切らないボールがある事が尻に触れる感触で伝わってくる。其処に、無理矢理押し込むように筒型の何かが脇から押し込まれる。長さは其れほどでは無いが、太さはそれなりだ。そんな物が一本、二本と押し込まれて、流石に千弘の尻穴も伸びる限界まで広げられて閉まっていた。最初の....ボールが沢山ついた何かが奥まで入り込んで下腹を膨満感で圧迫する。次に挿し込まれた2本の筒が、尻穴を限界まで広げてくる。千弘は、その苦しさよりも『新たな刺激』が与えられた事に喜んでいた。

  『何が始まるんだろう?』

  不意に尻穴から衝撃が疾走った。筒状の物が2本とも振動し始めたのだ。其れは脇を通って、最奥の前立腺まで届いている器具にも伝わり、振動させる。

  「んふぁ!!!」

  振動は、直腸全体を揺らした。最奥の前立腺にも振動が伝わり、腸の内壁も振動で掻き回し、限界まで引き伸ばされた肛門周りを振動で刺激する。その強すぎる刺激に、

  「ふぁ!! ふぁ!! ふぁ!! ふぁ!!」

  猿轡の下から嬌声混じりの呻き声を漏らして、躯を震わせる。容赦ない刺激は、歓喜の涙を流させ、鼻水が漏れ出る。そうして横向きに丸まった体勢で、床上で嬌声を漏らしながら、様々な体液を滴らせる千弘....その躰、腰を何者かが両手で掴むと、グイッと躰を縦に....腹ばいに起こした。当然ながら、例の、脚を伸ばすのを阻害する器具はそのままだ。結果として

  「ぅん!! ううー!!」

  千弘は顎を床につけて躰の上半分を支え、脚が伸びない様に尻を上に突き出して膝立ちの体勢を取らざるおえなくなる。しかし....尻穴に挿し込まれたアナルパールと、それを介して前立腺や直腸の内壁の諸々を振動させるバイブ2本の刺激は強烈だった。陰嚢が引き伸ばされる痛みから逃れようと必死に腰を上に突き出して、膝立ちの体勢を保とうとする千弘だが、刺激は容赦無く続き、下半身の....特に膝に力が入らない。しかし少しでも力を緩めれば、尻が沈み込んで膝が伸びて....陰嚢が引き伸ばされる苦痛が待っている。千弘は、脂汗を流しながら必死に体勢を維持しようと、震える膝で辛うじて、尻を上に突き出した体勢を取り続ける。脂汗が全身から噴き出して体温が上がり、心拍数が上がり、呼吸も乱れて....千弘の意識が朦朧となる。その中で

  『ああ....俺、興奮してる....』

  [pixivimage:73242405-3]

  股間の短小が固く立ち上がり、我慢汁を垂れ流していた。こんな状況....苦痛を与えられる事で、脂汗が滴り落ちて体温が上がり、心拍数も上がり、呼吸が乱れて、意識が朦朧とする。その様な状態の中で快楽を同時に与えられる『条件付け』により、今、千弘は、苦痛のみで躰がその様に反応する事に快感を感じ始めていた。いやむしろ....アナルパールとバイブによる快楽に、この苦痛が加わる事で、より一層、快感が強化されていた。千弘の顔が弛緩し、涎が床に垂れ流される。膝の筋肉疲労さえも、心地よく....股間からの我慢汁がより一層激しくなり、腹の下に粘液の溜まりを作っていた。そこに....

  「ぐあぁ!!」

  千弘の腰を踏みつけ押し下げる力が加わった。耐えきれずに潰れて、腰を下ろしそうになるも、器具....タンブラーの牽引により、陰嚢が引き伸ばされ、耐え難い苦痛が下腹を襲う。必死になって震える膝で抵抗して押し返すも、尻の上から踏みつける力は変わらない。時折、力に負けて尻が下がる度に下腹の痛みが酷くなる。だが、千弘は笑っていた。余裕なのではない。こうして予測不能な仕打ちに翻弄されるだけの『無力な自分』に快感を覚えていた。そう、

  『自分は、自分で何かを考えたり、判断したり、行動したりする必要は無い。ただ、この『闇』に包まれて、与えられる物を素直に全て受け入れればいいだけだ....』

  その闇に包まれている自分に....

  [newpage]

  一方、圭佑は、あの猪の老爺が教えてくれた住所の前で立ちすくんでいた。築ウン十年の雑居ビルの2階。周りには如何わしい店が並び、とても堅気の者が住むような場所ではない。その一角の一番奥の部屋のドアに

  「渡瀬探偵事務所」

  というボードが貼り付けてあった。確かに此処で間違いはない。しかし....圭佑がドアの前で逡巡していると、突然ドアが開き、中から出てきた人物が

  「あ~!!! 焦れってえな、もう!! 入るか他所へ行くのかはっきりしやがれ! この野郎!!」

  その人物の顔を見た圭佑が、口をあんぐりと開けた間抜けな顔で凝視する。その人物は....体毛こそ白が基調だが、それ以外は.....顔の作りや背格好まで、あの虎....圭佑達に「加藤」と名乗った虎とそっくりな、白虎だったからだ。

  「どうすんだ、入るのか、他所へ行くのか?」

  急かされた圭佑は、慌てて事務所の中へ入って行った.....

  圭佑は事務所の中....ドアの外の周囲のいかがわしい雰囲気とは打って変わって、趣味の良い調度品や家具で整えられた居間....接待用の客室に通されて目を丸くしていた。アンティーク調のテーブルの対面に座る件の白虎、この探偵事務所の所長・渡瀬護(わたらせまもる)に、あの猪の老爺に書いてもらった紹介文及び依頼文を渡した、高校3年生の小柄な....見る人が見れば『愛らしい』と感じる顔つきの柴犬の岡本圭佑(おかもとけいすけ)は、不安と緊張が混ざりあった複雑な表情で、依頼文を何も言わずに鋭い眼差しで読み続ける渡瀬を、縋る様な真剣な眼差しで見つめていた。

  最初にこの探偵事務所のドアの前に立ち尽くしていた....即ち、周りの猥雑な雰囲気や、外の小さなボードを見、又、中に招き入れる時の乱暴とも受け取られかねない態度などで、感じていた当初の不安感は、今はかなり払拭されていた。丁寧に整えられた室内にアンティーク調の家具類。真剣に依頼文を読みふける白虎の姿....見ようによっては端正な顔つきの、黙ってさえいれば『色男』と呼んで差し支えない姿に、少し驚きを覚えていた。

  『あの加藤って人も、雰囲気が変われば、こんな風に見えるのかな....?』

  そんな思いを懐きながら、静かにソファー....こちらもかなりの年代物、しかも長年手入れされてきたであろう風格さえ感じるその中央に座っていると

  「失礼致します。護様。お茶をお持ちしました」

  「ああ、其処に置いておいてくれ。篠さん。」

  白虎が目も上げずに答えれば、ドアから入っていたのは、黒い燕尾服を纏った、横に大きい、柔和な笑みを浮かべ、整った大きな灰口髭に片眼鏡をかけた....まるでアガサかコナン・ドイルの小説にでも出てきそうな茶毛のアイリッシュコーギーの由緒正しき英国執事の姿だった。優雅な手つきで、二人の前にティーカップと皿、焼き菓子を並べていくと、丁寧かつ無駄のない動きで紅茶を注ぎ、圭佑に

  「私、護様にお仕えします、執事の篠沢と申します。何かありましたら遠慮せずに申し付けくださいませ」

  入ってきた時と同様に、優雅にその場を立ち去っていった。ポカンとした顔で、篠沢氏が消えていったドアを見つめていた芝ワンコ.....圭佑に、白虎....渡瀬が

  「ああ、あの人は、ウチの実家から来てくれている人でな。『来なくていいから』って何度も行ったんだけどなぁ....」

  そう言う割には、渡瀬の表情には、恥ずかしさや困惑に混じって、何処か嬉しそうな....そんな眼差しが過ぎった様に見えたのは、果たして圭佑の気の所為だったのか? なんというのだろうか、自分と千弘の関係に近い何かを感じた様な気がした。そんな事を思っていたら、渡瀬が、改まった態度で

  「さて....一通り読ませてもらった。で、これは、熊谷千弘くんの現在の所在を確認する。其れだけで良いのかな? それとも.....」

  「それとも?」

  「熊谷くんを無事にお前さんの元へ送り届ける。そういう事も含まれた依頼になるのかな?」

  「あ、えーと.....」

  圭佑が言葉に詰まる。何せ、今の所『千弘が危ない目に合っている』というのは、なんの根拠もない、圭佑だけの危機感に過ぎないのだ。もしかしたら、あっさりと見つかって安全で割の良いアルバイトをしているだけの可能性もあるのだ。その場合、自分が下手に騒ぎ立てた所為で、千弘の上手く行きかけているアルバイトを邪魔する可能性もあるのだ。どうしようかと迷っている顔を見て、

  「まあ、先ずは所在の確認からだな。其れが判らなけりゃあ、なんとも判断しようがない。それと....依頼料及び費用は、山岡の爺さんが肩代わりするとは書いてあるが....あくまでも依頼主は、お前さん....岡本圭佑という事で良いんだな?」

  「あ、はい!!」

  コクコクと必死に頷く圭佑に、渡瀬はニヤリと少しばかり凶相の入った笑みを浮かべながら

  「よし、良いだろう。だが、お前さん。依頼するからにはちゃんと全部を話してもらうぞ。お前さんと熊谷くんの、本当の関係を洗いざらいな」

  圭佑は、ゴクリと生唾を飲み込みながら、ゆっくりと頷いた....

  ............

  ........

  ....

  「成る程ねぇ....だから爺さん、ウチに回してきた訳か。確かに普通の探偵事務所じゃ、ちょっと難しい案件だな。色々と微妙な事情も絡んできているし。そもそも手掛かりを掴めるかどうかも怪しいわな....」

  本当に千弘との間にあった事を全てを洗いざらい話して(話させられて?)、羞恥心の残りライフ値が0.5%以下にまで削られた圭佑が、顔を真赤にして両手で顔を覆いソファーに沈み込んでいるのを見ながら、護が呟いた。指の隙間から目を覗かせて圭佑が

  「あの....本当にその、根拠は無いんです。ただ....」

  その言葉に、対面に座る白虎は

  「何も恥ずかしがる事はねぇだろ。恋人と突然連絡が取れなくなった。周りに聞いても行方を知っている人間が居ない。そりゃあ、心配にならねえ方が寧ろおかしいだろ」

  『恋人』という言葉に、ライフ残値0.3%を切った圭佑が顔から湯気を立てながらも、涙目で頷く。探偵の白虎....渡瀬護は

  「今は、お前さんと熊谷くんとの通話内容が手掛かりだ。他に何か思い当たる事は無いか?」

  「すみません。あの加藤って名乗っていた虎の人の事を口に出した事以外は....」

  申し訳なさそうに答える圭佑に、探偵の白虎は....

  「後は、俺に良く似た顔立ちねぇ....」

  その呟きに複雑な表情が一瞬過ぎった事を見る余裕は、今の圭佑には無かった......

  ・

  ・

  ・

  時折、夢を見る.....

  手も脚も、縄から開放されて、真っ直ぐに伸ばされた手脚。耳栓も、猿轡も、目隠しも無い。仰向けに大の字になって床に横たわり、呼吸を阻害する物も無く、思う存分肺腑に吸い込んだ空気を染み渡らせる。血流を阻害する全ての物から開放された皮膚の内側の血管達....指先の毛細血管に至るまで小躍りして、心臓からドクンドクンと送り出された血液を隅々まで行き渡らせる。冷たくなりかけていた手足の指先が血流でビクビクと震えてほんのり温かくなり、痺れたような感覚しか感じなかった指先が、隣に生えている指に触れてくすぐったく感じる。あまりの開放感に

  「ほぅ.....」

  轡から開放された口の筋肉が、こわばった状態から徐々にほぐれ始めて、呻きとも溜息とも判別のつかない響きが口から漏れる。目を瞬かせて、ゆっくりと周囲を見渡す。何も、躰に付いてなかった.....

  上を見れば、剥き出しのコンクリートの天井に付けられた蛍光灯が周囲を照らしている。黒い体毛に、胸と腹の白い薄い体毛が、ごわごわになっている。股間は....なんだか判らないが、べとべとした何かで体毛が固まりかけている。

  こんな姿、見っともない。だから....隠れてしまいたい。せめて体毛をどうにかしたい。そう思って躰を起こそうと....力が入らなかった。何処にも。腹にも、手脚も、何処にも....

  途端に怖くなり始めた。こんな、何も出来ない状態で、全身を無防備に曝け出して....嫌だ、怖い、怖い、怖い、怖い

  助けを呼ぼうとした。だけど口が、舌が、動いてくれない。

  「あ.....ぅ......」

  怖くて怖くて、自然に涙が溢れる。そんな時だ。上から覗き込むアレを見たのは。何なのか判らない。黄色と黒の模様をした『顔』が、口が耳元まで裂ける様なニィと不気味な笑い顔で、ひと噛みで躰を貫かれそうな鋭く大きな牙を覗かせて

  「流石にずっとあのままだと、手脚に障害が出るかもしれないし、体毛もだいぶ汚れているしね。排泄もさせてあげないとね」

  何を言っているのか判らない。兎に角ジロジロと見つめる目が怖かった。上からねっとりと、纏わりつくような視線を、体の隅々まで絡ませてくる....何を考えているか判らない、横に長く細められた白目にポツンと浮かぶ光の無い黒い目が

  両方の手首に革枷が嵌められた。其処には縄みたいな、でももっと細くて頑丈そうな物が繋がっていて、その先は天井に繋がっていた。黄色と黒の毛皮の指が、何か機械みたいな物を弄っていた。すると

  「ウィーン....」

  繋がっている縄みたいな物がどんどん上に引っ張られていく。その内に、とうとう、俺の手首が両方共、上に引っ張られていく。

  うわあ!! い、嫌だ、怖い!! こんな動けない躰で吊り上げられるなんて!! もし革枷から手首がすり抜けたら、躰がコンクリートに打ちつけられちゃう!!! 止めて!! 下ろして!! うわあ!!!!

  俺の躰が、床から腰が離れ、丁度、膝立ちの様な態勢で、天井から両手首を吊り上げられて、バンザイの様な態勢になった所で、ゴトンと音がして、動きが止まった.....でも怖い。何かの拍子に手が抜けたら。もしも、あの黒と黄色の毛皮が今度は勢い良く俺を下に下ろしたら....俺はコンクリートに無防備にぶつかるしか無い。打ちどころが悪ければ頭や首の骨が....だって力が何処にも入らないんだ。受け身なんか取れない。涙が溢れてきた。

  アイツ....黒と黄色の毛皮の奴が、弄っていた平べったい機械を、壁に突き出た鈎に吊り下げると、じっとこっちを見ながら近づいてくる。目がもっと細くなって、口が....耳元まで裂け、あの鋭い牙を見せつけながら、あの目で見つめてくる。い、嫌だ、近づかないで。こ、怖い、怖い、怖い.......

  「ふふ、薬で全身の筋肉が動かない筈なのに、顔だけが僅かに動く。必死だねぇ。そんなに私が怖いのかな? あんまり感心しないなぁ。君は自分で何度も誓ったじゃないか。残りの人生を私に『豚』として飼育される事を望みますって。ほら」

  黄色と黒の毛皮野郎が、腰に下げていた黒いプラスチックの棒を弄ると、目の前....大きなTVだ。壁に埋め込まれて、色もコンクリート壁と一体化していたから気が付かなかった。そこに誰かの顔が大写しになった。黒い毛皮の、目隠しと耳栓をされた....熊だ。若い、黒い熊だ。黒い毛がなんだかボサボサで、太った....お、俺!? 画面の中の黒い若熊が喋り始めた。

  「私、"ピー!!"はヒトを止めて、残りの生涯を豚として飼育される事を望みます」

  「私、"ピー!!"はヒトを止めて、残りの生涯を豚として飼育される事を望みます」

  「私、"ピー!!"はヒトを止めて、残りの生涯を豚として飼育される事を望みます」

  お、俺だ....俺が、俺が、自分で....嬉しそうに.....

  「おやおや、感動して泣いてしまったかな? 涙が出ているよ」

  黄色い指が俺の顔を、顎下から目元まで撫で上げる様になぞり、すくい取った液体で、濡れた指先を目の前でちらつかせる。

  畜生! 何も言い返せねえ! こんなに悔しいのに、憎まれ口も返せねぇ....躰がこれっぽっちも動かねぇ。口も。なのになんで、悔し涙ばっかり流れるんだよ.....

  俺の顔を撫で回しながら、野郎が

  「ねぇ? 判っただろう。君は豚で、私はその飼主なんだよ。私は自分が飼っている生き物を虐めたりはしないよ。まあ、喜ばせてあげる為の労力も惜しまないけどね」

  ....その時の顔がとても怖かった。あの大きな牙で喉元を食いちぎられるんじゃないか? そんな獰猛な顔だった。笑っているのに.....

  いくら俺が力自慢の....あ、あれ? 俺は何だったけ? 俺....俺は、俺は......

  お、おれ、は.....

  なんで、さっきまで、あんなにおこって.....さっきのこと、おれ、おもいだした.....

  おれ、じぶんで、たしかに、いっていた。おれ、ブタになるって。このひとに、ずっと、かわれるって....そういっているじぶん、たしかにうれしかった。かわれるの、たのしみだった。

  「さて、先ずは、溜まっているモノを排泄させてあげないとね」

  あのひと、おれの膝をひろげさせて、おれの股の下に、おおきなタライを置いた。前の画面が変わった。あ、おれの背中? お尻がおおきくうつされた。あのひと、なにか右手に....

  「ふふふ、先ずは一つ目」

  お尻のあなに、なにか、細いものがはいってきて、なにかが.....おれのお腹、なんだか変....

  「さあて、どんどん行くよ」

  目の前のTV、とても大きくて、おれの尻を大きくうつすから、あのひとが、おれの尻になにかを入れていくのがよく見える。なんだろう、おれのお腹、熱くてゴロゴロする。ああ、なんか、お尻の穴が変な感じ、する....あ、おれ、☓☓☓したくなってきちゃった。

  でも嫌だ。こんな所で、ひとの見ている前で、☓☓☓なんか....でも、駄目だ。ガマンできない。おねがい、トイレに連れて行って....こんな所で、駄目、恥ずかしい、怖い.....

  ............

  ........

  ....

  「う.....あ.....ッ!」

  全身の力が抜けたまま、両手首をバンザイの姿勢で天井から吊るされ、膝立ちしている膝の間に大きなタライを押し込まれ、浣腸薬を通常の数倍、尻から注ぎこまれた若い黒熊は、躰をビクビクと震わせながら、尻穴から、これまで大腸に溜まっていた老廃物を、勢い良く下のタライに排出していく。その有様を、背後のカメラと大画面モニターによって見せつけられている若熊は、恥ずかしさで顔を真っ赤にして涙を流していた。蝋で瞼を固められて目を閉じる事も出来ない若熊は、ひたすらに自分の屈辱的な姿を見ているだけしか出来なかった。

  「さて、まだまだだぞ」

  両手にゴム手袋をした虎男は、ホースの水で尻穴周りを洗い流す。水の冷たさに、若熊の躰がビクリと震える。尻穴周りの汚れを洗い流すと、今度は

  「ぅあッ」

  ホースをそのまま尻穴に潜り込ませる。見る見るうちに、若熊の下腹が膨れていく。若熊が、苦しそうに、半開きにした口で息を荒げていく。頃合いと見た虎男が、ホースを外して若熊の下腹を蹴り上げれば、たまらず若熊は涙を流して、尻穴から茶色い液体を、下のタライに噴出させる。其れが何度も何度も繰り返された。最後は....透明な液体しか出なくなった所で、その行為は止められる。

  恥ずかしさ、悔しさ、苦痛の繰り返し、そして何をされるか判らない恐怖....若熊は顔を真赤にして涙を流して震えながら、虎男....ニンマリと嗤いながら、先程までの屈辱的な排泄行為を大画面で何度も再生させるのを、恨みがましい目で見つめていた。

  ............

  ........

  ....

  「さて.....とっとと、やらんとね」

  手早くタライを片付けた虎男は、今度は若熊の口に離尿剤を流し込む。為す術もなく、飲み込むしか無い若熊は、目を白黒させて飲み込むんでいく。それから30分....早速、効果が現れ始め、若熊は動かない顔の筋肉を必死に動かして懇願の表情を向けてくる『と、とい、トイレ....』

  だが虎男は其れをニヤニヤと眺めるばかり。いや、リモコンを操作して今度は画面に、若熊の短小を大写しにする。そして.....尿瓶を短小に押し当てると、

  「ほら、我慢するなよ」

  下腹を揉みしだけば、我慢できずに尿瓶へと放尿が始まってしまう。ジョロジョロと勢い良く大きな音を立てながら、大きな尿瓶が黄色い液体で満たされていく。もう若熊は、虎男を、涙を流しながら見つめる事しか出来ない。やがて放尿が止まれば、虎男が

  「さあて、今度は外側もキレイにしてやらないとねぇ」

  若熊の躰が更に吊り上げられて、脚が真っ直ぐな状態で吊るされる。足首に革枷が嵌められると、両側から引っ張られて、若熊はバンザイの姿勢のまま、脚も開かされた「大の字」の状態で床から足の裏が5cm程の高さで宙吊りになる。頭の上からバッサバッサと白い洗剤がふりかけられ、黒熊の躰が真っ白に染まる。其処にホースで熱めのお湯をかけながら鼻歌交じりにデッキブラシで執拗に擦り立てる。無論敏感な股間も下腹も胸も顔も容赦なく.....

  [pixivimage:73242405-4]

  知性が後退して『躰を洗ってもらっている』という事も理解できてない、その上微塵も躰を動かすことが出来ない若熊にとって、虎男の行動は、意図が見えない無茶苦茶で乱暴な仕打ちで、予測も対応も出来ず、恐怖以外の何者でもない。

  下手をすれば、泡で息を塞がれてしまいそうなのだ。そんな事態を避けるような気遣いを全く感じさせない、虎男のデッキブラシでの狼藉。躰がキレイになったとか、今の若熊にそんな事を考える余裕は全く無い。ただひたすらに、無事に済んでくれるように、泡に巻かれながら祈るのみ。そして、全ての泡を洗い流した後、虎男はリモコンを操作して、若熊を更に高く....足が床から1m程の所まで吊り上げた。無論、濡れた若熊の体毛を乾かす必要もあってだが、別の効果も考えてのことだった。

  高い!高い!!高い!!! 怖い!怖い!!怖い!!!

  どうして、あのひと、こんな事をするの? いじめたりしないって言ったのに!!

  あんな恥ずかしい事させて、泡で息ができない様な事して....今はこんな高い所に吊るして....

  怖い....あのひとが怖い....あのひとの顔が怖い....あのひとの牙が、目が.....怖い。あの目に、こんな怖い所に、無防備に晒されているのが怖くてたまらない。お願いだから、早く帰らせて....あの『闇』の中へ....怖くない『闇』の中へ....

  ............

  ........

  ....

  ....目が覚める。目の前は真っ暗で何も見えない。耳からも何も聞こえない。すえた臭いが口から立ち上り、鼻にかかった布からもキツイ臭いがして、他の匂いが感じられない。腕に力を込めてみる....関節の節々に懐かしい縄の食い込む感触が返ってくる。脚は....どうやら真っ直ぐにされて一分の隙も無く縄が巻き付いているらしい。足の裏で床に足をつけている事を感じる。ああ、ほっとする....

  「あ.....う......(帰ってきた...)」

  『闇』だ。『闇』の中に帰ってきたんだ。何も考える必要のない『闇』の中に。

  このままずっと、こうしていたい....あんな怖い夢なんか、まっぴらだ。きっと『闇』の外に出れば、いや、『出たい』なんて少しでも思ったから、あんな怖い夢を見たんだ。それも、何度も。明るい所に出たいなんて、少しでも思ったから.....

  もう、このままずっと、『闇』に包まれていたい。この中なら、どんな事をされても耐えられる。いや、きっと全部気持ち良くなる。ああ....

  ・

  ・

  ・

  「さて、これから先は探偵の仕事だ。進捗状況は連絡するから、大人しく待っていてくれよ。後....もしも、向こうから接触してくる様な事があったら、真っ先にこちらに連絡してくれ。くれぐれも先走って一人で行動するんじゃないぞ。」

  「あ、はい」

  頷く柴犬・圭佑に、白虎・渡瀬が何かを手渡してきた。スマホの半分程の大きさだろうか?真ん中に赤く大きなボタンが付いている。

  「あの、これは....?」

  「これを常にポケットにでも入れておいて、もしも何かあった時、迷わずにそのボタンを押すんだ。其れで携帯のキャリアを介して、そちらの位置がGPSで、音声がこちらに伝えられてくる。くれぐれも相手に気が付かれない様に押すんだぞ。バレて捨てられたら、こちらから、そっちの位置を追う事が出来ないからな。後....もしも自分のスマホを寄越すように言ってきたら素直に従え。兎に角、無理や無茶は厳禁だ。危ないと思ったら、大声出して逃げ出せ。依頼人まで行方不明になったら洒落にならんからな」

  その言葉に、圭佑が

  「でも....もしも、その....あの加藤って人が自分に会いに来たら、その人から逃げ出したら、先輩の居場所が.....」

  「そもそも、熊谷くんが今、どういう状態なのか判らないんだぞ。加藤っていう奴が、関わりがあるかどうかも含めてな。その辺りから調べていかないと、どうにもならん。何もわからない以上は、何が起きているのかを確かめるのが、先決だ....それに熊谷くんに『何か起きている』っていう事を証明できれば、警察の力を頼る事も出来る。まあ、最後の手段だけどな」

  「はあ....判りました」

  そう言って席を立った圭佑を、すかさず優雅な所作で奥のドアから再登場した執事の篠沢氏がドアを開けて、にこやかな笑顔で圭佑を送り出す。

  「どうか、護様を信用して無理をなさらないでくださいませ」

  「はい....」

  些か不安げに去っていく圭佑の後ろ姿を、ドア越しに見送った渡瀬は、ふぅーっと溜息を付いた。篠沢氏が

  「もう一杯、如何ですか?」

  「あ、じゃあ、仕事部屋の方に置いておいてくれないかな。忙しくなりそうだからね」

  「承知しました」

  奥のドアに消えていく篠沢氏を横目で見やりながら

  「さて....ちゃっちゃと動きますかねぇ」

  スマホの画面を弄ると、とあるSNSサービスのとあるグループに一斉にメッセージを送信する。

  「他にも、声掛けしねぇとな....」

  そう言って他のSNSサービスのグループにも同様に...それらが済むと、PCのある部屋へと向う。目的は随分と昔から続けられている、今では僅かに残っている古参達が時々書き込みをしてくる時代遅れの掲示板だ。最早、検索にさえ殆ど引っかからないこの場所を知る者は、ほとんど居ない。だからこそ、出処不明ないかがわしい情報が、無遠慮に個人情報まで含めて書かれている事があるのだ。顔も知らない同士が、密室で大声で猥談を楽しむように。

  渡瀬は、その掲示板に新しい書き込みがあれば、自動的に自分のクラウドドライブにその内容が落とされる様に設定していた。そのログを閲覧する為の鍵と一緒に、依頼内容をメールでとある人物へと送信する。

  「さて....後は、熊谷くんの足取りを追ってみますかねぇ....」

  渡瀬は、雑居ビルの駐車スペースに停めてあるベスパに跨ると、ゆっくりと車道に出ていく。途中で、この雑居ビルにあるゲイバーの店長の中年の牛とすれ違い

  「お、店長。随分と早いね?」

  「今晩は、店が貸し切りの飲み会で、その準備でね。大家さんこそ、何か?」

  「仕事だよ」

  ....渡瀬は、この雑居ビルの中の店の者達でも一部しか知ってないが、このビルのオーナーであり、実の所、他にも持っているビルの家賃収入だけで充分に優雅な生活を送れるのだが、その事を知っているのは、ほんの一握り....そう、例えば圭佑に依頼料の肩代わりを申し出た猪の老爺とか....彼の一族が、どれだけの財力を持っているか知っているのは、限られた層の人種である。その事に関して、自分がどう思っているかを、渡瀬護が周囲に話す事は殆ど無い。

  彼のベスパは、先ずは千弘の通う大学へと向っていた。相撲部は兎も角も、大学にはどの様に申請しているか確認する為である。ああ見えて、渡瀬は地道な労力を惜しまない男であった。

  [newpage]

  猿轡が取られて、口に何か.....プラスチックの様な太い管が入ってくる。なんだか別の意味でこの管の臭いも酷い気がする。

  「あ....が......」

  舌まで押さえつけてくる様な太い管。でも怖くない。ここは『闇』の中だから。多分、何かまた、新しい楽しい事が始まるんだ。

  待っていると、あ、何か....管から出てくる。に、苦い。酸っぱい。うぅ.....でも、飲み込まないと、息ができなくなっちゃう。兎に角、飲み込まないと.....

  ............

  ........

  ....

  うえぇ....苦い。酸っぱい。不味い。おまけに臭い.....でも、どんどん流れ込んでくる。早く飲み込んでいかないと.....

  ............

  ........

  ....

  うぅ....お腹、苦しくなってきた。まだ、流れ込んでくる.....苦しいよぉ....もう、無理.....

  ............

  ........

  ....

  うぅ..........うぅ..............オェ...........ま、まだ来る......うぇぇ.......

  ............

  ........

  ....

  ぅぅ.........................................................................

  ............

  ........

  ....

  立ったままの姿勢で全身を縄で緊縛され、目隠し・耳栓・首輪をされ、倒れない様に壁から突き出している鈎に掛けられた縄によって壁の手前に立った状態で拘束された若熊の、口に太い透明なチューブが挿入され、ドロドロとした流動食が流し込まれていく。ただでさえ太った躰の、若熊の腹が一際大きく膨れ上がる。若熊は、苦しげに息を荒げ、目隠しの脇からうっすらと涙を滲ませる。その様子を虎男がニヤニヤしながら眺めていた。

  「これからは、これが君の餌だからな。豚らしく何でも食べないとねぇ」

  [pixivimage:73242405-5]

  ............

  ........

  ....

  お腹、苦しい.....でも、大丈夫。ここは『闇』だから....きっとその内に気持ちよくなる筈......

  ............

  ........

  ....

  まだお腹、苦しい..........でも.....これも、多分、新しい『気持ち良い』になる筈.....ここは『闇』の中なんだから....ちょっと時間がかかっているだけ....きっと.....きっと....

  ・

  ・

  ・

  「大学には、二週間の休学願いか.....直ぐに戻ってくるつもりだった訳か。しかし、誰にも行き先を告げず....まっとうなアルバイトのつもりなら、おかしな話だな。となると....」

  白虎....渡瀬は、スマホを覗き込む。まだ目当ての通知は来ていない。

  「さて....流石に警察じゃねぇからなぁ....その辺のコンビニやファミレスの防犯カメラなんて、見せてもらえる訳も無し.....この辺の野良の防犯カメラの画像の覗き見でもしてみるかな.....」

  "野良"の防犯カメラとは、商店街や町内会なんかで「防犯」の為に設置したものの、設定がきちんとなされずに、事実上、ネット上から赤の他人が見放題になっている防犯カメラの事である。流石に、最近設置される物は、ちゃんと特定の者しか見られない様な設定になっているが、そうでないまま放置されているものもかなり多い。そういう放置されたカメラを見続ける物好きなマニアが居たりもする。中には録画していたりする者も居たりするのだが....果たしてその中に問題の人物が写っている幸運に恵まれるかどうか....

  後は、圭佑の話に出てきた加藤と名乗っている人物の線で追ってみる方法である。まだ確証はないが、もしも....ならば、自分と無関係な話では無い。しかし....その線で追うとなれば、苦手な実家を訪ねなくてはならないかもしれない。恐らくは....自分同様に『今、何をしているのか?』に関して、実家から追跡調査されている可能性は高い。時間を優先するならば、真っ先に聞きに行くべき所だろう。しかし、この件に関わっている何かしらの『証拠』を持ち帰らない限りは、流石に教えてはくれないだろう。自分同様、実家はそれなりの理由がない限りは、家の外に出た者のプライバシーを侵害する事は無い。それは、それでありがたい気遣いではあるのだが....

  そんな事を思っていると、SNSより通知が来た。野良の防犯カメラの映像を覗き見しているマニア達だ。件の時間の、大学周辺に点在するファミレスの近くの野良の防犯カメラの一つに例の人物....若い太った黒熊らしき者が写っているかも?との事だ。問題の映像の静止画を送ってもらってスマホで見てみれば....顔までは判別が難しいが、服装と体格からして、間違いなさそうだ。通知してきた相手への謝礼としてGoole play カードのポイントを進呈する。

  さて、通話してきたと思われるファミレスは特定できた....しかし、ファミレスにどう当たったもんだか....最近はプライバシー意識も高いから、民間の探偵如きに、店の客の目撃情報なんぞ教えてくれる訳も無いよなぁ....下手をすれば、逆にこっちが不審人物として警察に通報されかねんし.....其れに、もう10日以上...店員が覚えている可能性はかなり低い。出来れば店の防犯カメラの記録映像を見せてもらえればなんだが、その方法となるとなぁ.....

  「あまり気が進まんけど、ちょいと借りを返してもらおうか....」

  渡瀬はスマホでとある人物に電話した。

  ....10分後、渡瀬はその人物に拝み倒していた。

  「ね、お願い!! ちょっと付き添いしてもらうだけだから、ね!!」

  目の前に居るのは、青い制服を着た若い秋田犬のお巡りさん....勤務している交番の近所でも気さくなお巡りさんとして少しは知られた長瀬巡査、その人である。以前、長瀬巡査と渡瀬は、とある事件にて、偶然関わる事となり、結果として長瀬巡査の手柄を助ける事に成ったのだが。まあ、其れ以外で、ネトゲのヘビーユーザーである長瀬は、同じネトゲのヘビーユーザーである渡瀬と同じギルドメンバーであり、難関クエストでは度々渡瀬にヘルプしてもらっていたりするのだが。

  「いや、しかし....礼状無しにそんな事は.....」

  渋る長瀬巡査。当然である。公の捜査でも無いのに、ファミレスの店長に防犯カメラの映像を見せてくれなどと、完全に職務から逸脱している。しかし

  「いや、本当についてきてくれて、本物のお巡りさんだって名乗って貰えばいいだけだから! 後はこっちで、それとなく店長さんの好意である時間の店内の映像を見せて貰える様にお願いするだけだから、ね! ホント、迷惑は掛けません!」

  腰を直角に曲げて頭を下げるその様子に、

  「仕方ないなぁ....ホントに今回だけですよ」.....と言いつつも既に5回目なのであるが。

  ....実を言えば、もう一人当てがあるのだが....組対のドーベルマンの橋本刑事である。こちら、喜んでついてきてくれるのだが、その要求される対価が割りとエゲツなく、出来る限り恩の貸し借りはしたくない。見た目、どっちが捕まえる方かと疑ってしまう風体である。こっちを連れてきた場合、警察手帳を見せても信用されずに、警察署に問い合わせされかねないと思っている。とあるソシャゲの廃課金ユーザーなのだが、その元手がどこから出ているのか、怖くて追求したくない。

  .....話が逸れた。兎に角も、長瀬巡査の付き添いにより、恐らくはオーラの如く滲み出る人柄の良さのお陰であろう、何ら疑いの目も向けられずに、すんなりと件のファミレスにて、防犯カメラの映像を見せてもらえる事となった。問題の時刻....丁度、店内に入ってくる中年の虎の男と、その後、ちょっと経ってから入ってきた若い黒熊の姿を確認する事が出来た。顔もかなり鮮明に分かる映像だ。モニターに写った其れを、渡瀬がカメラで隠し撮りする。そして店内の隅のテーブルで話す二人の映像もカメラに収める。

  にこやかに店長に礼を述べ、ファミレスを後にした二人は、角を曲がった所で、出来るだけ不自然ではないように早足でその場を離れた。人通りの少ない路上にて、

  「もう....本当に、さっきの映像、大丈夫でしょうね?」

  「絶対に外に漏らさないし、まっとうな人探しだから。もしかしたら後でまっとうな理由で警察に出てきてもらうかも?だけど、出来るだけそういう事にはならないようにするから。ありがとね」

  そう礼を言って立ち去ろうとする渡瀬に、長瀬が

  「10日のイベントクエスト戦、頼りにしてますよ!」

  「おうよ、任せろ!」

  右腕の拳を高く掲げながら振り返らずに去っていく渡瀬であった....

  ............

  ........

  ....

  事務所にて、持ち帰った画像と、だいぶ昔に撮られた写真に写っている人物との、人物照合を行う。8年前の写真故に、加齢を考慮しての人物比較。複数の照合ソフトでの平均値は92%の確率で同一人物である事を指し示した。

  一方、例の古い掲示板にて、気になる記述を見つけたとの報告があり、それは、はっきりとは書かれていないものの、監禁を匂わせる内容だった。2回、そういう時期があり、2回目は現在進行形....1回目は、件の虎男....加藤が事件を起こしそうになった時期と一致していた。

  「当り....かな、こりゃ....」

  不機嫌そうに呟く。この掲示板で"S"と名乗っている人物が語る性癖は、自分が知っていた人物にかなり近い物が....いや、更に過激になったモノと言えた。

  不動産関係での調査依頼の結果はまだ出てきていないが、恐らくは其れが決め手になるだろう。警察等の国家権力に追われている訳ではない限り、下手に偽名など使った小細工して、物件を売買するとは思えない。其れで却ってトラブルになれば、却って警察に目をつけられるキッカケになりかねないからだ。あの....圭佑が「加藤」と呼んでいた人物が、思ったとおりの人物なら、寧ろ、其れ以外の部分では合法に振る舞おうとするだろう。

  調査するのが自分では無かった場合、大した手掛かりも得られずに普通に行方不明事件として報告して、警察に捜索願を出すのがオチだろう。猪の爺さん....山岡の判断は正しかったと言える。

  何日かすれば、不動産関係での調査結果から、現在の居場所を絞り込む事が出来るだろう。単独で行動しているであろう事を考えると、恐らくは、田舎では無く、都会の近郊....そこそこに行動しやすく、近所からの干渉が少ない場所。

  そういう場所に不動産を所有していれば、先ず間違いないだろう。後は、どうするかだ?

  警察に介入してもらえば間違いないだろうが、その場合には、熊谷千弘の相撲人生に幕を引く可能性が高い。こちらが一人で潜入して助け出すのも、リスクが高い。何よりも、情報統制が必要だ。山岡の爺さんも、その辺を考えてこちらを紹介したのだろう。

  ふぅ~っと溜息を付くと、手にしたスマホで、とある場所に電話を掛ける....

  「ああ....時間、取れないかな? へ? 明日!?」

  ウンザリした顔で、スマホを置くと

  「篠さん....車と服の準備を。明日の夜、実家に行く事になった」

  少しだけ間が空いてから

  「判りました。準備致します。岡本様から連絡があった場合はいかが致しますか?」

  「直ぐにこっちに連絡していいから」

  ・

  ・

  ・

  「ん....う......」

  『闇』の中で目が覚める。何も見えないし、聞こえない。口にはあれからずっと、あの太い管が挿し込まれたままだ。全身を拘束する縄の感触が心地よい。

  目が覚めたという事は、多分、食事の時間なんだろう。目が覚めたからなのか、時間に合わせて目が覚める様にしているのか判らないけど......

  そんな事を思っていると、口の中に例のモノが注がれてくる。慣れた所為なのか、あんまり苦いとか酸っぱいとか感じなくなってきた。流石に、腹一杯になっても、更に注がれるのは、今でもやはり苦しいけど、その苦しさも、そんなに悪い気はしなくなってきた。満腹になる事自体は気持ち良い事だし、今ではあれくらい詰め込んでくれないと満足しない自分が居る。それに....満腹で嘔吐(えず)いていると、全身をビシッビシッって叩いてくれるんだ。それがとても気持ちよくて.....特にチンコや金玉に当ててもらった時や、乳首を叩いて貰えると。

  時々、壁の前から外されて....多分、この部屋の真ん中辺りだと思う。そこで首の後ろ辺りに縄を通されて、爪先が床から離れるかどうかの所で吊るされると、全身の縄が引き締まって凄く気持ち良い。肘や膝、股関節に縄が、俺の重みで食い込んできて、凄く....

  そういう時はたっぷりと嬲って貰える。全身の隅々まで打って貰えて....ジンジンする肌に縄が食い込んで、とっても....

  時には、尻穴の栓を抜いてもらって、あのボールがたくさんついた棒や振動する筒を尻穴に突っ込まれて、穴の奥や、尻穴周りが振動でガクガクさせられるのも、やってくれる。そんな時は、最後は気持ち良すぎて、意識が飛んじゃうんだけど。

  別の時は、躰を腕で抱かれて、生暖かい棒で何度も突かれるんだ。縄の間から暖かい毛皮の感触が伝わってきて、舌が首筋を這い回って、くすぐったいような....でも気持ち良くて。

  .....でも怖い『夢』は何日かに必ず一度は見てしまう。明るい中で、無防備に、あの怖い目に晒されて....いつも最後に泣いてしまうのに、全然優しくしてくれない。あの人....オレのご主人サマだって言っていた。飼い主だって.....ひょっとして、この『闇』の中で、気持ちいいことしてくる人と同じ人なのかな? でもだったらなんで、明るい中だと、とても怖いんだろう?

  ............

  ........

  ....

  うーん.....く、苦しい...お腹、パンパンで....破裂しちゃいそう.....でも、なんだか、頭もぐわんぐわんして....気持ち良くなってきたのかも.....

  ....あれ、管が抜かれて....? あ、布が口に詰められて....く、苦しい...息が詰まっちゃいそう。ああ...今度は猿轡だ。むぐぅ.....ちょっと苦しい....吐き気があるから.....

  でも、ひょっとして.....? 今日は、してくれるのかなぁ?

  あ、縄が外された。そのまま....多分、今、部屋の真ん中に運ばれている。

  多分....うん、背中に縄が通された。躰が吊られていく....ああ、体中に縄が食い込んできて気持ちいい....あッ! 叩いてくれた! もっと! もっと!

  あああー!!

  ・

  ・

  ・

  都市近郊の住宅街からから少し離れた場所に、其処....渡瀬の実家があった。周辺の土地は、ほぼ実家....剣崎家の所有地である。敷地の境界には、簡易的な柵が設置されており、一見すると簡単に侵入可能な様に見えるが、その実、センサーで厳重に監視されており、危険と判断されれば、私設警備部隊が駆けつける様になっている。まあ、大体は手付かずの自然の中での虫取り目的の近隣の子供の侵入が主なので、放って置かれるのだが....

  訪問用の道へ黒塗りのレクサスハイブリッドを乗入れ、前に現れた門の前で、運転手の篠沢氏がマイクに向かって要件を伝えれば、門が開いて車が通れる様になる。其処からさらに車で5分....漸く母屋に到着する。篠沢氏が車を降り、優雅な所作で後部ドアを開ければ、紺のスーツで正装した渡瀬護が、優雅な足取りで、中へと歩み寄る。羊の執事に案内されるまま、真っ直ぐに歩んでいくと、長い廊下の途中で篠沢氏と合流し、そのまま真っ直ぐ突き進めば、広い一室、この屋敷の食堂の重厚なドアへと突き当たる。羊の執事が丁寧な仕草でドアを開ければ、その大きなテーブルの向こうに、この屋敷の主....豊かな顎髭を蓄えた端正な顔立ちの中年の虎....やはり、渡瀬護と顔つきが良く似ている....が座っていた。渡瀬達の姿を認めると立ち上がり、歩み寄ってくる。ニッコリと笑いながら

  「なかなか帰ってきてくれないから寂しかったんだぞ、護(まもる)」

  しっかりとハグされてタジタジになりながら、護が

  「いや、その....避けていた訳じゃないんだけど....拓哉(たくや)兄さん....」

  それを少し複雑な視線で見ていた篠沢氏が

  「では、私は別室で待機させていただきます」

  と廊下へ立ち去ろうとするのを

  「いやいや、今日は篠さんもお客さんだ。一緒に食事をしていってくれないかな? 二人の部屋も用意してあるし、帰りを明日にしても問題ないだろう?」

  護と篠沢氏が顔を見合わせた。

  ............

  ........

  ....

  「で、二人の仲はちゃんと進展しているのかな?」

  拓哉の言葉に、前菜のスープで思わずむせそうになる護と篠沢氏。慌てて

  「兄さん、その話題、此処では....」

  「拓哉様....」

  だが、当の剣崎家の現当主・剣崎拓哉はにこやかに二人を見ながら

  「良いじゃないか。どうせ皆事情を知っているし、それに、今じゃ父さんも諦めたしな」

  「はあ...」

  ....4年生の大学を卒業した護が、篠沢氏に是迄の積もり積もった思いを告白したのが、12年前。このままでは長年仕えてきた剣崎家に迷惑がかかると、執事の職を辞して剣崎家を出ていこうとした篠沢氏の機先を制して

  「自分の所為だから」

  と、家を飛び出して剣崎家が懇意にしていた探偵事務所に転がり込んだ護。その際に、就職祝いとして、探偵事務所の入っている雑居ビルの所有権と他に二つのビルを護にプレゼントしたのが、その当時、既に剣崎家の次期当主として目され要職についていた拓哉であった。その後、篠沢氏が、護の執事として剣崎家から派遣された。

  探偵業を前所長から叩き込まれながら、貰ったビルを失っては拓哉の顔に泥を塗りかねないと、不動産経営に関しても、色々なツテを頼りながら必死に学び....どちらかと言うと、商才の方があった護は所有する不動産を倍以上にに増やし、優良物件を7件抱える資産家としての顔も持つようになった。まあ、篠沢氏の給料を、いつまでも実家から払ってもらっている訳にはいかないという必死の思いで奮闘した結果でもある。前所長は4年前に引退して田舎へと戻り、その際に前所長の名字を貰って渡瀬護と改名し、今に至る訳である。篠沢氏も、渡瀬探偵事務所の専属執事として、今は護の方から給料を貰って働いている為、建前上は剣崎家との間に上下関係は無い。

  拓哉の言うとおり、二人がいくらイチャコラしようが剣崎家に遠慮する必要は無い訳ではある。理屈の上では....

  元々、ノンケであった篠沢氏が、どういった心境の変化を経て、今では護の心も躰も受け入れるパートナーになったのか? それは、とても興味深い話ではあるのだが、其れを語るのは別の機会に譲るとしよう......

  ため息を付きながら護が

  「....まあ、ご想像にお任せするよ。少なくとも、聞かれて恥じる様な事は何もして無いよ」

  拓哉がふふんと笑って、二人を交互に眺める。篠沢氏は顔を赤らめたまま、スープに視線を落としている。拓哉が

  「ならば結構。ついでにもうちょっとこっちに帰る頻度を多くしてくれると嬉しいのだがなぁ」

  と言えば、篠沢氏が更にモジモジしてしまう。護が

  「兄さん、忙しいだろうに」

  「だからこそ、その疲れを出来の良い弟との邂逅で癒やしてもらおうと考えているのだがね」

  ....護、他の場面ならば結構弁も立つし、負けん気も強い方である。しかし、拓哉の前ではどうにも毎度、この調子である。しかし....流石に今回ずっとこの調子で続けられては困るのだ。意を決して口を開く。

  「兄さん、今回此処に来たのは....俺が今、受けている依頼に関係した事なんだ。不愉快な話かもしれないが、聞いてくれないか? 此処(実家)も無関係とは言えない事だ」

  すぅっと目を細め、雰囲気が変わる。其れまでのおちゃらけた雰囲気は掻き消え、威圧感と共に鋭い眼光が護を射抜く。細い眼鏡をかけ直し、テーブルに両肘を付いて手を顔の前で組み

  「聞かせてもらおうかな」

  ............

  ........

  ....

  「....成る程。で、その加藤なる虎人を、お前は「真也(しんや)」だと考えているわけだ」

  「まだ100%の確証を得た訳じゃない。だけど、遅かれ早かれ、そういう結論になると予想している。不動産関係の方から今、居るだろう場所も、近いうちに突き止められると考えている。数日張れば、食糧の買い出しなんかで誰かを監禁しているかどうか、当りもつけられるだろうし、忍び込む事も出来るだろう。ただ....事が公になった場合、色々とね....。安全を考えれば警察に介入してもらうべきだろうけど、その場合、折角俺を紹介してくれた山岡の爺さん達にも....何よりも当の熊谷千弘の相撲人生が閉ざされる事にもなりかねない。だから....なんとか隠密に処理する方法を考えている。それも、真也兄さんを逃す事無くね。逃がす様な事になれば、また同じ事をやりかねない.....」

  拓哉は眼鏡を外し....伊達メガネである....天井を眺めながら呟く

  「全くな....あの真也が、何処をどうしてな....」

  「拓哉兄さんは、真也兄さんの近況は知らされていないのか?」

  護の意外そうな言葉に、ふッと寂しい笑みで

  「一応、現在の所在地は調査部に追跡させていた。だが「何をしているか?」は必要が無ければ、敢えて知らせて来ない様に言っておいた。なんというかな....見ているのが辛くてな」

  その言葉に護も、篠沢氏も天を仰ぐ....8年前、剣崎家の財政を担っていた剣崎真也の、役職を悪用しての金の不正流用。まあ其れだけなら少々お咎めを食らう程度で済んだ。何よりそんな事をしなくても、自分で好きに使っていい金なら充分に持っている筈だった。なんでわざわざ『こっそりと金を使おう』としていたのか? 其れこそが問題だった。

  真也は、一人の男を不法に監禁して『飼育』しようとしていたのだ。流石にこれは看過できない問題だった。被害者と何とか示談に持ち込み、表沙汰になる事は無かったが。真也は剣崎家での居場所を失った。それでも単に生活するだけだったら、剣崎の家に居る事は出来ただろう。しかし、真也のプライドが其れを許さなかったのか....真也は直後に姿を消した。

  それからの真也が、どんな人生を経て、今の様になってしまったのか....残念ながら、真也は管理能力はあっても、拓哉や護の様な経営能力や商才は無い。恐らく転落していく姿を見ていられなかったのだろう....最初の内は逐一報告させていた拓哉も、いつしか「現在の住所」を追跡させる以外は、他は全て諜報部に一任してしまっていた。

  諜報部の責任者....古狸の黒崎が、拓哉によって呼び出される。拓哉は開口一番

  「たしかに「現在の所在」以外で、必要が無ければ私に知らせるな、とは言った。しかし、今の状況は、報告の必要がある事態じゃないのかな?」

  射抜くような眼光に怯む事も無く、古狸....黒崎は顎髭を捻りながら

  「はて....大御所様(前当主)にはお伝えしていたのですが、お聞きになっておりませぬか? 大御所様からは「今暫くは様子を見て、事が露見しないように努めよ」とのことでしたが?」

  その言葉に、拓哉は感情を交えない声で

  「誰が今の当主か、教える必要があるかな? 黒崎?」

  「滅相も御座いません。拓哉様が御当主である事を、一時たりとも忘れた事などございません。ただ...大御所様は、どうやら内密に処理をしたがっていたご様子でしたので....」

  「....ふん。まあ良い。だが、次があると思うなよ。お前達が掴んでいる情報を護に全て渡せ。それから、これからは護の行動に協力を惜しむな。判ったな?」

  「仰せのままに....」

  右手を胸に当て、頭を下げた古狸は、音も無くその場から消え去った。拓哉が苦々しげに

  「あの、クソ親父....真也が大人しくなるなら、学生一人の人生なんてどうでもいいって訳か。全く....」

  護も拓哉の言葉の意味を理解していた。要は、加藤と名乗っている今の真也に、熊谷千弘を生贄として差し出して、真也をおとなしくさせる。そして他の全てをうむうやにしてしまおうと....仮に何かの拍子に露見したとしても、公になる前にもみ消してしまおう。拓哉達の父親はそう考えていたのだと.....

  つくづく拓哉と早めに面会できて良かったと胸をなでおろす。もしも自分だけで突き止めて、救出作戦を実行しようとした場合、剣崎の諜報部に妨害されて、今度は本当に消息不明にされる。そういう可能性もあったのだと....

  黒服を纏った狐の女性....黒崎の副官だ。それが、数人の屈強な男達と共に現れる。黒崎は完全な実力主義で人を使う。恐らく、黒のビジネススーツに身を包んだ一見華奢に見える躰も、一皮剥けば鍛え上げられた無駄のない躰なのだろう。ひょっとしたら、連れてきた男達と一人で渡り合える程に.....

  女狐....香川は、部下達に二つの地図を広げさせる。一つは、現在の真也の住まい周辺の地図。もう一枚は、真也の住まいの構造の詳細だ。やはりというか....外からは判らないが、大きな地下室が存在していた。恐らく、熊谷千弘は其処だろう。

  香川が口を開く

  「真也様は、昼間は出かけている事が多く、夕方頃に戻ってきます。食糧などは、週末にまとめて買い置きするようです。仕事は、民間の税理士の所に勤めている様です」

  「この地下に、問題の人物が居ると思われます。既に何度か潜入して、簡易的な警備システムが仕掛けられている事も掴んでおります。ですが、短時間で無力化が可能です」

  「一度、中の様子を探る為に、地下室のカメラに回線を繋いで、中で撮影している映像をこちらでも入手する事が出来ました。問題の人物と思われる映像がこちらです」

  其処には、裸の全身を緊縛され、目隠し・耳栓・猿轡を施され、地下室の中央に吊るされた若い太った黒熊の姿が写っていた。画像はかなり鮮明で....躰のそこかしこに蚯蚓腫れが浮き上がっているのを確認できる。顔も....なんというか圭佑に渡された写真と違って、生気が抜けているが、先ず間違いなく熊谷千弘だろう。

  護はかなり頭に来ていた。此処まで詳細に、犯罪行為の証拠を掴んでおきながら、こいつらは、其れをそのまま隠蔽しようとしていたのだ。真也という、剣崎家の膿を隠す為に。『仕方ない』という事も頭では理解している。彼らは、剣崎家の存続を第一に組織された集団だ。其処に個人的な正義感その他諸々の感情が入り込む余地は無い。

  寧ろ....彼らにそういう行動を取らせた『クソ親父』の考え方こそ、責めるべき事なのだ。現当主である拓哉にさえ黙って事を進めようとした隠蔽思考に。

  護は務めて、感情を抑えて口を開いた。

  「最優先の目的は、監禁されている人物の安全な確保。そして剣崎真也の確保。これらを周囲に気づかれない様に実行して、身柄をこの家に移す事。監禁されている人物が、今、どういう状態か全く判らない以上、できるだけ早く身柄を確保したい。よって、明日の昼に救出作戦を実行してもらう。真也には常に誰かを監視に当てて、もしも気づかれて逃亡されそうな場合には、直ぐに確保する事を優先する事。絶対に逃すな」

  女狐は一言

  「判りました」

  と言い残して部下達と共に姿を消した.....

  ・

  ・

  ・

  ....今日も、お腹一杯に詰め込んでくれて、色々遊んでくれた。違う縛り方....手脚を背中に折りたたんで、躰全部に縄をかけてもらって....背中に重石を載せて吊り上げてくれた。それから右や左にぐるぐると回されて.....気持ち悪くなって思わず餌を吐いちゃったけど....その後、思い切り躰全部を叩かれて、胸やチンコや金玉に凄く重い錘を吊り下げられて....色々と弄ってもらえて楽しかった。やっぱり『闇』の中って、良いなあ.....全部が楽しくなっちゃう。だけど....また声が聞こえて、『明日はまた掃除の日だ』って....

  また、あんな夢を見ちゃうのかな? 明るい所に引き出されて、あの怖い顔にジロジロ見られて、目も牙も凄く怖くて....目の前で☓☓☓や○○○○○させられて、あのブラシで躰を泡だらけにもみくちゃにされて.....最後に、怖いのに、高いとこに吊り下げられて....あんな夢見たくないのに....もう明るい所になんて、出たくないのに.....

  ・

  ・

  ・

  昼前に、護と香川達は、目的の家の近くの道路に車を停めていた。朝、真也が出勤していった事は、10日以上前から、監視を続けていた諜報部の監視班から連絡を受けていた。護が

  「それじゃあ、早速だけど、監禁されている人物を救出する。慎重にな。俺は、救出された人物が、俺が探していた人間と確認できたら、そのまま一緒に本家に戻る。どういう状態か判らないから、先ずは医者に診せないとな。その後の、真也の身柄の確保はそちらに一任する。くれぐれも言っておくが、変な思惑で逃がすなんて事するんじゃないぞ」

  香川は一言

  「判りました。救出作戦の実行に入ります」

  ・

  ・

  ・

  ....ん? なんだろう? 躰....縄が外されて....あれ? もう、そんな時間なのかな? まだ眠い....縄、解かれて....え!? 目隠しが? あ、明るい!!! うわー!!! うわー!!! 怖い!!! 怖い!!!! 明るいの怖い!!!!

  ・

  ・

  ・

  「くッ!!」

  「暴れるな!!!!」

  「んー!!!!!! んー!!!!!!」

  「隊長、コイツ!!!!」

  縄を解き、目隠しを外した途端に、必死になって暴れだす千弘を抑え込むのに、諜報部の屈強な男達数人がかりでも苦労していた。この2週間余り、稽古もせずに躰を緊縛されていたとは言え、相撲部でもかなりの実力者。生易しい筋力では無い。寧ろ彼らだから、吹き飛ばされずに済んでいる様なものである。しかし、このままでは、隠密行動はおろか、外に連れ出す事さえ難しい。すると香川が、尻に素早く注射を行う。そして

  「何とか、30分だけ押さえ込め。流石にそれだけ時間が経てば麻酔も効いてくるはずだ」

  忌々しいという態度を隠しもせずに、そう告げる。

  『全く、隠密行動が聞いて呆れる。これで両名同時確保の作戦なら、間違いなく失敗していた所だ』

  そもそも縄も目隠しも解いたのが失敗だった。この人数なら、目標をそのまま静かに担ぎ出す事も出来た筈なのだ。そう気がついて.....試しに目隠しを戻してみると、途端に暴れるのが止んだ。そうして暫く....30分もすると寝息を立て始める。玄関の前に横付けした車に、素早く肩を担いで連れ出した若熊と一緒に乗り込む。その場にて護が

  「ああ、間違いない。熊谷千弘だ」

  その確認が済むと、車はその場を離れて、剣崎の家へと急行する。先ずは医者に診せる事が先決である。

  後に残った面子は、真也の確保に動いた....しかし、家の中で待ち構えていた諜報部の面々は空振りを食らう事になる。監視役の二人が、勤務先を出て帰路につく真也を追っていたのだが....途中で姿を見失ったのだ。そして、そのまま真也の自宅で待ち構えていた残りの連中も、真也の姿を見る事は無かった。数日間、外と中から待ち伏せが行われたが、真也の行方は様として知れなかった。

  ・

  ・

  ・

  剣崎家に運び込まれた熊谷千弘は、眠っている間に、剣崎家の専属の医者にボディチェックをされる。どうやら、骨折等の酷い怪我は無い様だと確認されたが....全身の皮膚に残る蚯蚓腫れ。ボサボサの体毛。酷い体臭。口の中の臭いも酷い。長時間、縄で拘束されていた為か、関節等に浮腫も出ている。しかし、それらは、それ程大した事ではない。普通の生活さえ送れれば、一週間ほどで元に戻るだろう。其れよりも.....

  「うわー!!! うわー!!!」

  ベッドの上で目を覚ました途端に暴れだす千弘。凄まじい力だ。とても抑え込めるものでは無い。何とか、目隠しを掛けさせると、途端に大人しくなる。

  「怖い....明るいの怖い.....」

  心療内科の医者も呼ばれて、先程暴れた様子を見せれば

  「どうやら、暗ければ安心できる様です。どうしてそうなったのか、までは判りませんが、暫くは目隠しは外さない方が良いでしょうね.....」

  身柄の確保は出来た。どうやって今の状態から治療するかは、医者に任せるしか無いだろう。兎も角、依頼人に現状をどう報告するか、それに集中する事にした。

  ・

  ・

  ・

  事務所にて、報告書を読む小柄で愛らしい柴犬の顔が真っ青になり震えている。務めて感情を抑えようとしているが、動揺しているのは明らかだ。渡瀬が

  「報告書の通り、躰に深刻な傷は負っていない。だが....精神的にやられてしまっている。明るい所に出るのが怖いようなんだ。目隠しを付けてれば、どうにか落ち着いてはくれるんだが....それと、どうやら幼児退行を起こしているらしい。目隠しをさせて落ち着かせても、話す内容が幼稚園児並の会話しか出来てないんだ。責任の一端は、こちらにもある。治療はとことんするつもりなんだが.....正直、今は、会えたとしても.....それでも会うつもりかい?」

  柴犬....圭佑は、キッと目を上げて....薄っすらと目に涙が滲んでいたが

  「はい!」

  「判った。では、行こうか...」

  ・

  ・

  ・

  篠沢氏の運転する車の後部座席にてだまりこんだままの圭佑....渡瀬がどう声をかけたもんだかと思案していると、前の運転席から篠沢氏が声を掛けてくる。

  「岡本様、よろしいでしょうか?」

  「あ、はい?」

  普段は、個人的に声を掛ける事が珍しい篠沢氏が何を話すのかと、些か興味を惹かれて黙っていると、篠沢氏は

  「私と護様がどういう関係なのか、話した事はあったでしょうか?」

  「いえ?」

  不思議そうに聞き返す。まあ、普通に執事と雇い主だと思われているだろうな、と思いつつも篠沢氏が続ける。

  「私達は、そう....貴方様と熊谷様と同じ関係....恋人同士でもあるのですよ」

  「え!?」

  一瞬、圭佑は呆気にとられる。渡瀬さんと篠沢さんが恋人? じゃあ、二人でベッドの中で裸で....そう想像して思わず赤くなる。でも確かに....執事として振る舞っている時も、なんというか、二人の間にはそれ以上の親密さを感じさせる何かが感じられた事があった。

  「意外、ですか?」

  「いえ、そんな事は.....」

  言葉を詰まらせる圭佑に、篠沢氏が続ける。

  「護様は探偵業をやってますでしょう? そうすると少々危険な案件に出くわす事もあるのです。そんな時、私は居ても立ってもいられない....そんな時があるんです」

  「そんな時、その、どうするんですか?」

  「何も....信じていつも通り待つしか、出来ないんです。どんなに思っていても、大した事は出来ない時は沢山あるんです。ただ、戻ってくるのを信じて待つしか無い時が」

  「でも.......」

  「ただ寄り添ってもらうだけでも、とても心強く感じる時があります。兎に角、焦らずに、寄り添ってあげましょう。其れだけでも何かが変わるかもしれませんよ」

  ....そんな事を話していると、剣崎の家の門の前に辿り着いた。

  ............

  ........

  ....

  暗い部屋の中で、千弘先輩は、ゆったりとした寝間着を身に着けてベッドの上で目隠しをつけたまま、眠っていた。足音を立てない様にそっと近づいて、脇に立って、手をそっと握る。暗い中でも、寝間着の袖から覗く腕の蚯蚓腫れが痛々しい。恐らくは全身にあるのだろう。でも、それらは直ぐに治るだろうとの事。それよりも....詳しくは判らないが、薬物を併用した虐待に近い調教による心の傷、其れが深いとの話だった。

  元はと言えば、自分が先輩とあの加藤という虎人と遭わせさえしなければ....そう思うと涙がこみ上げてくる。

  『やっぱり自分は先輩に近づいちゃいけなかったんだ』

  そんな思いが強くなってくる。知らず知らずの内に涙が溢れて、千弘の腕にポタリと垂れた。

  「ん.......だ、だれ.....?」

  千弘が目を覚ます。元々、この状態がずっと続いていたので眠りが浅いのだ。圭佑は慌てたが....意を決して

  「圭佑です、先輩」

  「け・い・す・け.....?」

  記憶も後退しているのだろうか.....誰なのかも判ってもらえてないみたいだ。涙がまた流れてしまう。兎に角、此処に居るのが辛かった。そのまま離れようとすると.....千弘が握り返してきた。

  「先輩?」

  「あの....怖いの。お願いだから、一緒に居て.....」

  「はい....」

  少しだけ胸が暖かくなったような気がした.....

  別室にて、モニターで部屋の様子を観察していた心療内科の医者は

  「ふーむ....どうやら、あの少年には恐怖を感じていないみたいですね。我々では、近くにいるだけで怯えていたのが....」

  興味深げにモニターに見入っていた....

  [newpage]

  [pixivimage:73242405-6]

  若い黒熊が、土俵の上で四股を踏んでいた。周囲には相撲部の顧問と圭佑、それに主将など数人程度。内心、冷汗をかいているのだが、兎に角相撲の動作に神経を集中させる。二ヶ月ぶりとは思えない動きで、四股を踏む。顧問が

  「よーし、まあ今日はそんな所だろ。無理はするなよ」

  「あ、はい」

  大人しく従う若い黒熊....相撲部1年生の熊谷千弘である。二ヶ月ぶりに踏む土俵。他の人の前で躰を晒すという事自体、随分と緊張させられる。だが....締めたマワシの感触と、圭佑の存在が安心感をもたらす。焦りを感じているが

  『慌ててはいけない』

  と自分を戒める。此処まで来るまでに、圭佑に随分と苦労をかけさせてしまった。焦って、しくじれば、また、更に後ろに下がってしまう事になる。兎に角ゆっくりと人前に出る事に、明るい場所で晒される事に慣れなくては、と自分に言い聞かせる。

  剣崎家で診断書を偽造してもらい、全治二ヶ月の大怪我を負った事にして、その間に心療内科の治療に集中した。圭佑に側に付き添ってもらい、先ずは普通に過ごせる所まで....恐怖感が薄れてくるに従って、記憶も徐々に戻り始めた。そうしてやっと、目隠しなしでも過ごせる所まで辿り着いた。圭佑に付き添ってもらいながら。診断書にPTSDも加えてもらい、人の多い所で極度に緊張してしまう為、少しづつリハビリする事が必要だと診断書に書いてもらった。

  そうしてやっと、まだ一人二人の前だが、人前に自分の躰を晒す事が出来る様になってきた。無論、最終的には大会でも大丈夫になる事だが、まだ焦ってはいけない。兎に角今出来る事を慎重に積み上げていかないと.....

  シャワー室で躰を洗いながら、そう自分を戒めた。

  ............

  ........

  ....

  夕方、迎えの車が来る。まだ、暫くは心療内科に通わなくてはならない。週末になると、剣崎家から迎えの車が来て、千弘と圭佑を剣崎家へと送り届ける。其処で回復度合いを見ながら、次の治療方針を決めていくのだ。圭佑が一緒なのは、その方が治療効果が高いと思われたからである。二人は同じ部屋に泊まり、週末を一緒に過ごす。

  部屋に運ばれた食事を終えてから、二人でゆったりと過ごす。そして....

  「なあ....また、頼む」

  圭佑がベッドの方を見れば、千弘は全裸で目隠しをして横たわっている。息も荒く、短小がピコンと立ち上がっていて、興奮しているのは明らかだ。圭佑は、片手で縄を持ちながら、そんな千弘に

  「本当にエッチになっちゃいましたよねぇ....先輩」

  先ずは、縄で躰を軽く撫でる。其れだけで、呻き声を漏らしてしまう。上に跨って、指と舌と縄で躰を撫で回す。辛抱堪らず

  「ああ....頼む。縛ってくれ....いや、ください」

  「本当にスケベなんだから....」

  口づけを交わしながら、千弘の躰を横に倒して、背中で手首足首を纏めて縛める。そのまま、手足が下になる様に躰を倒し、身動きならない躰をじっくりと弄り回してやるのだ。そうしてじっくりと全身を指と舌で愛撫し、指先にローションを浸して、尻穴をじっくりと解す。そうして、受け入れの準備が整ってから、圭佑の、小柄な躰からは想像もできない巨根をじっくりと奥まで挿し込んでいく。千弘は仰け反りながら何度も潮を吹き、トコロテンをする。最後、奥まで突き込めば、たまらず

  「ああー!!!!!」

  「いくう!!!!」

  二人同時に果てる。圭佑が心地よい疲労感で、千弘の躰に垂れかかっていると、下から

  「なあ.....ずっと一緒に居てくれよな.....」

  「はい....」

  圭佑が、千弘に舌を絡めた口吻をすると、千弘の短小がピコンと立ち上がった。

  「もう一回、やります?」

  「.....うん」

  千弘が顔を赤らめて答えた。

  ・

  ・

  ・

  一方、渡瀬探偵事務所では....事務所の奥、ダブルベッドの上で、篠沢がアイリッシュコーギーの豊かな毛並みと短い手足と肥体を大の字に広げて痴態を晒していた。其処に渡瀬の逞しい体が覆いかぶさる。手足を絡めて胸と胸を合わせると、舌を絡めた情熱的な口吻を交わす。下から

  「護....」

  普段からは想像もつかない、情欲に浮かされた熱っぽい表情を浮かべ、情熱的な瞳で上からのしかかる白虎を見上げてくる。その何もかも殴り捨てて絡みつく視線に、白虎も

  「愛してるよ、遥(はるか)....」

  と、下の名前を呼び合う。二人の夜はまだ始まったばかりである.....

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