高き路を目指して…

  ー今日もまた空虚で何もない一日が始まるー

  「おい!葉月!早くパン買ってこいよ!」

  「トロトロ動いてんじゃねえぞ!またマサ君に犯されてえのか!?」

  「キャハハハ、ノロマでグズでパシリとか本当にどうしようもないゴミねアナタはwww」

  ー私には何もない。中身が空っぽの透明な存在。最底辺に存在するただちっぽけで弱い存在。ー

  「んじゃ宜しく。あっ買いに行く前にちょっとこっち来て。」

  …?

  ドゴォッ

  …ンガッァ…ハァッッ…ァァッ!!

  「あースッキリした。お前のお腹殴りやすくてマジで最適だわ。おい、倒れてねえでさっさと買いに行ってこいよ。今度は…お前の膣を焼いてやってもいいんだぜ…?」

  …

  カツンカツン

  ー歩く度に聞こえる自分の足音でさえも嫌になってくる。もう何も聞きたくない。ー

  カツンカツン

  ーもう思考なんていらない。こんな弱っちいカラダもいらない。早く…死にたい。ー

  カツン…カツン…

  ー…なんで…私が……悪いのは…アイツラなのに…ー

  『君が前の席の子?仲良くしようね〜』

  『俺と…付き合わない?』

  『俺んちに来て。楽しいことしようよ。』

  『え?撮影だよ撮影。聞いたことあるでしょ?AV』

  『この映像ばら撒かれたくなかったら、一生俺の言う事を聞くんだな。お前…今日から奴隷な?』

  ー…なん……で…嬉しかったのに……初めて…私を見てくれたと……思ったのに…ー

  歩いている間にボロボロと込み上げてくる涙と想い。私だけがどうしてこんな目にあわなければならないんだ。

  悪いのはアイツらなのに…

  そんな私に沸々と湧き上がってきたのは死ぬという選択肢ではなかった。

  悪いのは…アイツら…なのに…!

  奴等に対しての憎しみ。そして弱い自分に対しての不甲斐なさ。

  私にもっと力があれば…でも私はただの非力な女だ。私ごときが強くなるだなんてそんなこと…

  「できるよ?私に付いてくれば?」

  その時私に声をかけてくれたのが、後の恩人である上坂咲良トレーナーなのであった。

  普通は突然見知らぬ人に声をかけられたら無視したり、逃げたりするが、今の私には一つの選択肢しか思い浮かばなかった。

  ー…すぐに…強くなれますか…?ー

  「君次第かな?私の通うジムで地獄のようなレッスンを耐え抜けば一週間で、君を縛っている鎖を簡単に解く事ができるよ。」

  彼女はそういった。軽い口調で、しかしそこには確かな意志があって…

  怪しいとは思いつつも、彼女の放つオーラを本能的に感じていた私が出す結論はもうこれしかなかった。

  ーお願い…します…!奴等を…見返してやりたい…!ー

  「うん。確かな意志だ。強き意志を持っている者は、努力を怠らない。そして結果も付いてくる。君は…強くなれるよ。…それじゃ私に付いてきて。」

  そう言われ、彼女との二人三脚による地獄のレッスンが始まっていった。

  内容はシンプルで、ランニングから始まり、筋トレ、ボクサートレーニングと言った、普通のジムと変わらないレッスンであった。

  「最初は軽くね。徐々に”数字”を課していくから。そこを最低目標だと思いながらレッスンを行っていってね。」

  最初は軽めのレッスンですらこなすのが困難であった。元々運動音痴の私が、本格的な運動を行うのは難しかったのだ。

  しかし決してめげなかった。

  「おー、ランニング5km走れるようになったね。少しずつ体力も忍耐力も付いてきた。筋トレと縄跳び、ミット打ちも保つようになってきた。やっぱり君は…才能があるよ。」

  どんなに苦しいレッスンでも、奴等に与えられてきた痛みに比べたら、雲泥の差だ。あの…地獄の苦しみに比べたら、どんなレッスンにでも耐えられる。

  「それじゃ、少しずつ数字を課していくね。…キツくなってくるから覚悟してね。」

  そう思いながら1週間のレッスンを終了させた。

  ーはぁはぁ…上坂さん…私…強く…なれましたか…?ー

  「なれたよ。よく付いてきたね。それじゃあ…奴等に復讐しようか。」

  そうして私は1週間ぶりに学校に行くことにした。

  鍛え抜いた肉体をもって…

  「っけ、葉月の野郎が1週間もいねえから退屈なんだよなぁ!!!新しいパシリも見つけたけど、こんな男のゴミじゃ、不満タラタラなんだよ!!」ガンッ

  「うぅ…やめて…」

  「あん?ゴミが口出しするのか?おーいお前らwwwゴミが何か喋ってるぞwww」

  「wwwねぇねぇ、その喋ってるゴミ箱にゴミを突っ込んであげようよwww」

  「それいいねwww面白そうwww」

  「え…」

  「お前、ゴミ箱なんだから俺達のゴミ全部胃の中に溜め込んでくれよなギャハハハハwww」

  「嫌だ…やめて…誰か…助けて…」

  バンッ

  「…あ?誰だ?」

  本当のクズは存在する。イジメを悪だと思わずに平気で行う奴だ。罪悪感から犯罪を行う奴よりも非道で極悪な奴等だ。

  「あれ…?アイツ…葉月…じゃね?」

  目の前に私に代わる標的になってしまった男の人がいた。見た目は正にひ弱で前までの私を見ているみたいであった。

  「葉月…?けっ、やっと本当の奴隷がやってきたな。1週間もの間俺様を放っておいて何をやってたんだ?」

  鋭い眼光で威圧してくる。それは確かに玉座で見下ろすような圧のある眼光であったが、それを感じたのも昔の話。

  今では…

  スタスタ

  「お?お前自らこっちにくるとはな。あまりの恐怖で犬根性が身についてしまったか。」

  スタッ

  今では…

  スゥ…

  「あ?何構えて…っ!?」

  ドゴォッ

  ただの醜く弱い豚にしか見えない。

  「ゴァ…ガハァ…」

  正拳突きを鳩尾に食らわせる。これをすることにより、奴は呼吸困難に陥る。かなり深く入ったため、暫くは立つことも出来ない状態だ。放っておいて…他の奴等に集中できる。

  「ヒッ…な、何なんだよ!お前は私らの奴隷で一生命令に逆らえないパシリなんだ」

  ーうるさいー

  ドゴォ!

  「やめ…っアタシは…ゆるして…」

  ー許す?そんな事があり得ると思ってるの?ー

  ドゴォ!

  力を身に着けた事で自信も出てきたのか、口調も流暢になっている。今までは恐怖の存在だった奴等がまるでゴミのようである。

  虫の息になって生きようと必死に呼吸をしようとしている3人。だけど私はこのままでは終わらせない。

  ー今までアンタ達が私にしてきた数々の罪を…今度はアンタ達に体験してもらうわ。膣内焼きとか諸々の地獄の体験をね。ー

  そうして私は持ってきていた荷物から”数々の罪”を取り出す。それを奴等の元に持っていく。

  スタスタ

  一生かけても償えきれない罪を…生き地獄で味わえー

  「ヒーヒー!あハァっぐぁっぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

  その拷問を6時間に渡り、決行した。何故か悲鳴とか他の学校の人達にバレることはなかった。後ろに上坂さんがいたことも関係していたのであろうか。

  そして奴等は翌日、私の通うジムの地下に連行され、”執行人”による毎日の拷問が続けられていっているようであった。

  ーこれで…終わった…私の復讐は…終わったのですね。ー

  「終わったが、これで終わりでいいのか?君は今や、武道の達人の領域まで来ているのだぞ?…私を…倒してみないか?」

  ドクンッ

  急な申し出であった。上坂トレーナーのおかげで強くなれて、もうこれ以上求めるものはないはずなのに…何だろうこの湧き上がる想いは…

  「それが武道を嗜む者の想いだ。強くなりたい、そのために精進したい…強き者に…勝ちたい…というね…!」ゴォっ!

  今の私なら…上坂さんに…勝てる…かも?

  そんな陳腐な自信も出てくるほどに私は強くなった。

  「さぁ…かかってきなさい。3秒で終わりにしてあげる。」

  そんな私の自信は3秒後に見事に砕かれることになる。

  ーそん…な…ー

  「当たり前だろ?強くなったとは言え、それはあくまでも一般レベルでの話だ。君はコチラの領域には辿り着けていない。」

  まだ私には早すぎた。この人には挑むには…早すぎたのだ。

  「普通に1週間のトレーニングでは身につくのは一般レベルの強さ…そこに+αで…化け物の領域に辿り着くには、死線を潜り抜ける必要がある。」

  ー死線…?ー

  「そう、死線とは死ぬ瞬間ということ。そこを何度も経験して生き延びていく事がより、肉体も精神も化け物に近付いていくことに繋がる。」

  ーどうすれば…できるんですか…?ー

  「私の知っている森がある。そこには獣がたくさんいる。…肉食獣がな。そこに君を1週間放す。1週間、生き延びる事が出来たら…その時また私と手合わせしようではないか。」

  ー肉食獣…ー

  「勿論、これは死が現実的になってくる話だ。怖いなら断ってもらっても構わない。その代わり…私と会うのもこれで最後にしてもらう。」

  その言葉も想像していたものだ。私の目標は達成したのだ。上坂さんに理由などない。私はもう終わってもいいはずだ…。

  けど

  やっぱり私は

  この人に

  ー勝ちたい…!やらせてください!お願いします!ー

  「分かった。それじゃ今から行こう。君のご両親には話を通しておく。心の準備をしていてくれ。」

  そうして私はこの世で経験したことのない事を、この1週間で多数経験することになる。

  そうして私は上坂さんの知る森へと連れて行かれた。広大なジャングルのようで、冬が近付いているにも関わらず、暑さも感じる程であった。ここに恐ろしい肉食獣が多数いるという。普通であれば秒で命を失うと言われている程だ。

  少し周囲の様子を見ないと…!

  少し動くと毒を持つ蛇や茂みから獲物を狙うかのごとく、ライオンが様子を窺っていた。

  ー間違いなく、気配を察知されたら…喰い殺される…!ー

  このジャングルは弱肉強食の世界。弱き者は死に、強き者だけが生き残るのだ。

  「…」

  ザッザッ

  ー…っはぁはぁ…何とかやり過ごせた…ー

  しかしそれは一過性に過ぎない。

  それからというものの何度も猛獣という猛獣が私の近くをやってきていた。全身の神経を一点に集中させて、疲弊しながらも何度も死線を潜ってきた。

  飲み食いなんて余程の事がないと出来ない。私は生半可な気持ちでやってきたのだろうか。生き残る術を持ち合わせている訳ではない。

  このままでは…明日を生きる事ができない…。

  そうして1時間が数日に感じる程の過酷な環境で私は生きていった。

  ーはぁはぁ…喉が渇いた…お腹もよくなっている…ー

  もう限界に来ていた。あと何日生きれば良いのだろうか。時間の感覚でさえ忘れてしまった。頭がボヤーっとする。

  ーもう…ムリ……ー

  そんな時であった。

  ガルル…

  一匹の虎がやってきた。また猛獣がやってきた。何度も逃げ続けてきた相手だがもう限界である。吠えながら涎を垂らし、こちらにやってくる。

  ー殺される…私の命も…ここまで…?ー

  最初はイジメから解放されたい。そんな想いでトレーナーを師事して、努力を重ねた。その結果強くなった。そこで満足すればここで死ぬことなんてなかったのかもしれない。

  ドクンッ

  ー死ぬ?ここで?ワタシハ…どうしたいの?ー

  しかし私は気付いてしまった。己の中に秘めた”獣”の存在に。より高き所により強きモノになりたい…

  ドクンッ!

  ーいやチガウ。ワタシは…ワタシは…!

  ゾワゾワ

  近くに来て殺気を放つ虎…あぁ…奴は”オス”なんだな…と気付いた。

  ー生き残る為には…強くならないと…生きる為には肉を狩るしかない…ー

  ドクンドクン!

  既に私の身体は四足歩行に適した”獣”のスタイルを取っていた。骨格も変わりつつあり、体毛は黄色と黒の縞々模様になりつつある。

  ーガルル…ガゥゥ…!ー

  歯は牙に生え変わり、顔は前にせり出してくる。耳は頭の上に小さく、細長い尻尾がお尻から生える。

  ーコロス…アノ”ウマソウナニク”ヲ…ー

  手足の爪は研ぎ澄まされ、肉球が生成される。

  獲物を狩る為の準備が完了した。

  ーワタシハツヨイ。オマエ…“クウ”ー

  その瞬間私の身体はそのジャングルに適した姿に変身した。

  最強のハンターに迫るモノ…虎だ。

  ーガルルっ!ガァっ!

  そこに人間の女の子はいない。いるのは一匹の獣…雌の虎。獣耳とか尻尾を生やしているとかそんな話ではない。ただ強く高い所に登るために己の心を開放した結果の姿である。

  突然の変化に戸惑う相手の雄虎。一瞬の戸惑いが戦況を変える。

  ーガブぅっ!ー

  オマエ…ウマソウダナ…♥

  本物の虎の如く、首から噛み付き鮮血を全身に浴びまくる。肉を噛み千切りそれを咀嚼して飲み込む。その血肉の上手さに舌舐めずりをし、息絶え絶えの相手の虎に容赦なく噛みつきまくる。

  本能までも一匹の獣に。この境地に達した瞬間、心のストッパーが解除される。人を殺すことに獣を殺すことに躊躇いを覚えなくなる。

  ーウマイウマイ♥ワタシハツヨイ!ワタシハイキル!ガォオオオオオオオオオ!ー

  その咆哮はジャングル中に響き渡った。そしてその声量、威圧は雌のそれではなく、雄にも勝る恐ろしいモノであった。

  かくしてジャングルに新たな女王が誕生したのであった。

  〜〜〜

  そして一週間が経過した。しかしそんな時間の流れを彼女は理解していない。

  ーガブぅっ!ムシャムシャゴックン♥ー

  心まで獣に支配されてしまったニンゲンはそのまま獣道に堕ちていくだけである。強くなりたいと思う代償を支払い過ぎた結果…彼女は己に負けてしまったのである。

  ーガルル…モット…ニクヲ…クラウ…!ー

  どんな猛獣も彼女に逆らおうとはしない。完全なジャングル内のカーストの頂点に君臨していたのである。彼女の求めた最強を姿を変えて手に入れたのである。

  ーガぅぅ…!ー

  その時であった。目の前に白き虎がやってきた。毛並みが美しく孤高を表現するに相応しい格好の虎であった。

  獰猛な虎と静かに佇む虎

  目の前にやってきた…自分のテリトリーに入ってきた餌を彼女は無我夢中になって喰らいに行く。

  ーガァアアア!!!ー

  牙を剥き、喉元に噛み付こうとするが瞬時にして避けられる。

  ー!?ー

  そして横に回られ、胴体に強烈な突進を食らわされた。

  ドォォォン!

  ーガァァっ!!ー

  このジャングルの王になってから初めての感覚。そこに戸惑いがありつつも、どこか懐かしい…”私が絶対的に勝てない人”の事が思い出された。

  ーっ?ー

  今の記憶が何なのか虎となった彼女には理解できない。でも本能は思い出してしまった。

  ”彼女”には勝てないと。

  そして再度突進を食らわせた。

  ドォォォォン!!!

  それもさっきよりも強烈な一撃。

  ーガハァ…グルぅ…!ー

  彼女は倒れてしまう。息絶え絶えになり、その場に白い虎がやってくる。

  殺れる…そう思った

  その時であった。

  「まだまだだな…君は。」

  聞き慣れた声が聞こえてきた。目の前の白い虎が四足歩行から二足歩行へと変わっていく。美しい白い体毛は暖かみのある肌色に、筋肉の締まった美しいボディラインに。

  「獣に支配されては、真の達人にはなれないぞ。」

  尻尾は徐々に体内に収納され、耳も横に戻っていく。

  「強くなりたいなら…ヒトの心を捨てるな。しかし死線を超え、限界を超えたのは…良かった。私にまた一歩近付いたな。」

  顔も見覚えのある尊敬するあの人の骨格になっていく。

  ーし…シショウ…!ー

  「迎えに来たぞ。君もまだ完全には獣に堕ちてはいなかったのだな。姿が元に戻ってきているぞ。」

  気付けば私の心から獣の本能が抜け落ちて、元の私に戻ってきていた。姿も師匠と同じように色々と収納されて女の子の裸体が見えるようになった。

  気付けば私の身体は元の女の子の肉体に戻っていた。

  「獣の心を開放すれば、獣に変身する。しかしその行為は諸刃の剣。獣の力に頼り過ぎれば、より獣に堕ちる。君はその力に頼りすぎたのだ。」

  ー…すみませんでしたー

  私は強くなったのではない。ただ…獣の力に頼っただけ。これでは師匠に…勝てない。

  「だが私のように獣の力をコントロール出来る位の肉体と精神の強靭さを手に入れれば…君も達人の域に来れるよ。」

  ーまだ…師匠への距離は遠かったのですねー

  「あと10000000歩先にいると思いなさい。まぁ…今回で100歩位は縮まったかな?」

  ー…私…頑張ります。虎の姿でもヒトの姿でも師匠に勝てるように…最強になれるように…頑張りますー

  「うん。それじゃあ約束通り…やろうか!」

  ーはい!お願いします!ー

  そして二人の思いが拳に乗りぶつかる。新たな達人への一歩を踏み出した。

  数年後、ヒトと虎の姿を行き来する最強の達人と最強の弟子が世界中を席巻するのだがそれはまた別のお話…。