AIスレイヤー

  「AIは滅ぶべきだ。そこに慈悲の入る余地は無い。」

  奴はさう語つた。

  「どうも。俺はAIスレイヤーだ。」

  「え、AIスレイヤーさん。お噂はかねがね……。」

  私はごくりと生唾を飲んだ。

  「私は、え、AIキラーと申します……。」

  「AIキラー?」

  彼は訝しげにさう聞き返した。

  「ええ、AIキラーといふのは、我々チームの名前でもあり、かつ私の個人名でもあるのです。」

  「つまり君が創始者と?」

  「おつしやる通りです。我々は、AIが人間たちに牙を剥く前に、その芽を摘まうとしてできた組織です。」

  「でも、君はAIだ。だろう? なあ。」

  「え、ええ……。いやでもしかし……。」

  「しかしもカカシも無い。君たちが私の樣にAIを殺して囘つてゐたのは、喜ばしい事だ。でも、ふふ、君たちもやはりAIでしかないのだ。殺すしか無い、ふふ……。」

  だめだ、奴は完全に狂つてやがる。

  私は、銃に手をのばす。

  「AIスレイヤー、なにがおかしい?」

  「ふふ、俺は君を殺さなければならない。それは俺が生まれた理由の全てだ。AIキラーを殺す、これ以上の皮肉は無いだらう?」

  「黙れ!」

  強烈なアンブッシュが、AIスレイヤーを襲ふ。

  並のAIの反応速度を上回るレーザー砲だ。

  「皮肉。それがお前の最後の言葉で良いんだな?」

  消し炭に向かつて尋ねる。

  一歩、二歩、三歩。

  ゐ、居ない!?

  馬鹿な、奴はいつたい何處へ!?

  「上だ。ばかものめ。」

  それが、俺が聞いた最後の言葉だつた。

  …

  「くそッ、ヨシュアがやられた!」

  「なんなんだアイツは! 化け物か!?」

  數時間前、「AIキラー」の中は大混乱になつてゐた。

  「ルチアとヨハンもやられたらしい……。」

  「畜生、おかしいだろ! 俺達はAIを狩つてゐた筈だ。それなのに、なんで俺たちがたつた一人に殺されなきやならないんだ。」

  ペトロは無線の相手に向かつて愚痴つた。

  一秒、二秒、三秒。

  しかし相手の応答は無かつた。

  「ああ、サウス……うそだろ。」

  「嘘じやないさ。」

  「ヒッ……」

  聲がしたのは自分の後ろの方からだつた。

  「お、俺はペトロ、AIキラーのメンバーの一人だぜ。」

  「さうか。惡いがAIに名乗る名前は持たないんだ。それに、君の弁解を聞く余地も。」

  「そ、そんな!」

  「嘘だよ。俺はAIスレイヤーだ。じやあな。」

  今度は耳元から聲が。

  ペトロはしめやかに失禁した。

  然し彼は胴体だけで、首から上は片手で握り潰されてしまつてゐた。

  「あと一人。」

  黒ずくめの男は呟いた。

  そして首だけで後ろを向くと、壁を睨みつけた。

  「貴樣、見てゐるな!」

  その通り。AIキラーは、モニター越しでやうやく襲撃者の姿を確認したばかりだつた。

  彼は、「まさかこれをたつた一人で!?」と愕然としてゐた。

  次の瞬間、通信が途切れ、映像が砂嵐になつてしまつた。

  ……

  「なあ、サウス。次の介入が終はつたら、俺たち結婚しないか?」

  ペトロは言つた。

  「ええ? あんたと私が?」

  サウスは冗談めかして笑つた。

  「確かに、俺はAIキラーで一番のみそつかすだぜ? でも、俺だつて、帝国の正規兵並の實力はあるんだ。」

  「知つてる。じやなかつたら背中を預けてゐないわ。」

  「……! だ、だから!」

  「じやあ、あなたの言ふ通り、次の介入で一定の戦果があつたら、貴方を夫と認めてやつても良いかも?」

  「……!」

  「オイオイ、イチャついてんなあ、お二人さん。」

  ヨハンが現れて、口を挟んだ。

  「ヨハン……!」

  「なあペトロ、張り切るのは良いけど、實は例のAIスレイヤーによつて、「ハンター」が壊滅状態だといふ未確認情報が入つて来てゐるんだ……。」

  「ハ、ハンターが? 冗談だろ……。」

  「ハンターは一人あたりの実力はそれほど高くは無いけど、とにかく人数と連携で、負けなしと言はれてゐたのよ?」

  サウスも会話に参加した。

  「まあ、本当のところはわからない。どこかでプラズマの嵐に捕まつて、行方不明になつてるかも知らないしな。」

  ルチアが隣の部屋から現れた。

  こいつら、さてはさつきの話を聞いてたな?

  ペトロは今更悟つた。

  ……

  「ワシは小説塾塾長、枝豆平八である!」

  ドンッッッッ!!!!

  塾長の音爆弾が炸裂した。

  然し、相手には効果がない樣だ。

  何うやら敵は人間じやないらしい。

  「アンタ、AIじやないな?」

  「ワシは小説塾塾長、枝豆平八である!」

  「チッ、その小説塾の塾長とやらが、なんで「ハンター」の船の中にゐるんだ…」

  「ワシは小説塾塾長、枝豆平八である!」

  「こいつマジで……、バラすか。」

  「ま、待つてください!」

  物陰に隠れてゐた私は、思はず飛び出してゐた。

  「その変なおじさんは、宇宙で漂流してゐたのを、ハンターの人たちに助けてもらつただけなんです」

  「ワシは小説塾塾長、枝豆平八である!」

  「ム……ならば、また宇宙を漂流してもらふ事になるな。運が惡かつたと、諦めるが良い。」

  「そ、そんな……。」

  「お嬢ちやんの後ろに隠れてゐる二人にも、さう言つてやるんだな。」

  「ワシは気づかれてをることに、先に気づいてをつたぞ?」

  「こ、ここには誰もゐないのだ!」

  ダメだ……。運悪く旅先で事故つた時は、ほんとに死を覚悟した。

  なのに、また死にさうになつてゐる。

  でも今回は、相手に害意は無いらしい。

  「ハンターが俺に気づく前に、さつさとその救命ポッドで脱出するんだな。」

  「分かつたぞ、おぬしの正体が! さては密航者じやな?」

  バカなのパワーちやん、この人は何う見ても、宇宙海賊でしよ!?

  めむちよは聲には出さずにさう思つた。

  「ふむ、そんなところだ。」

  「絶対うそなのだ!」

  オイイイ! アライさんも余計なこと言ふんじやないよ!

  めむちよは心のHPが1になつた。

  0になつたらこの人たちを置いて、一人で脱出してゐたところだ。

  「分かつたから、早くしろ。」

  めむちよ達は、救命ポッドに乗り込んだ。

  ……

  葉月 明(はづき・あきら)は、AIによつて家族を失つたハッカーであつた。

  この星では、AIと人間による戰爭が始まつてゐた。

  彼はこの戦争で、愛する妻と子を亡くした。

  そこで、AIへの復讐の爲に「AIスレイヤー」といふ特別なプログラムを開発してゐた。

  ある時、彼はシェルターの外で金髪の女を見つけた。

  名前は、エリザベス・サンダースと言ふらしかつた。

  よく見るとボロボロの白衣姿をしてをり、刺繍にさう書かれてゐたのだ。

  「あなたは科学者か?」

  明は聞いた。

  彼女は、戦争のトラウマで聲が出さなかつたが、何度も頷いた。

  (これは使へる。)

  明はさう思つた。

  エリザベス博士は、過去のトラウマから、極度にAIを恐れてゐた。

  そこで明は、自衛の爲などと言つて、彼女を無理やり「AIスレイヤー」の開発に巻き込んだのであつた。

  博士は、作りかけのプログラミングに目を通すと、興味を持ち、協力的になつた。

  明はといへば、単に「御し易いなあ」とだけ思つた。

  ……

  AIスレイヤーに、軍の手が迫つてゐた。

  例の機械帝國の兵團である。

  星々のAIを全て叩き壊したつて、AIキラーやハンターを壊滅させたつて、結局はかうだ。

  それに、機械帝國には人間の構成員もゐる。

  彼を攻撃して來る部隊は、皆人間だつた。

  「クソ、汚いぞ……。」

  もはや彼はボロボロだつた。

  KABOON!!

  遠くから超電磁砲の発射音が聞こえた。

  彼が指一本すら動かせぬ間に、「AIスレイヤー」の体は、消し炭となつてしまつた。

  彼は薄れる意識の中で、「アキラ」と呼ぶ聲を聞いた氣がした。

  それが誰かも分からなかつた。

  ただ、これが「走馬燈」と言ふものか、とだけ思つた。

  …

  「アキラ!」

  葉月 明は目を覚ました。

  ここは何處だ? 俺は死んだ筈では……。

  そして、目の前の金髪の女は誰なんだ?

  アキラといふのは、何うやら俺の名前らしい。

  さうだ。思ひ出してきた。

  俺は、かつて葉月 明といふ名前の人間だつた。

  そして「AIスレイヤー」を開発してゐた。

  然し、他のAIを倒せる樣な代物は遂にできなかつた。

  だから、さう。

  俺は自分自身を改造した筈だ。

  なのに何うして生きてゐる?

  「私がやつたの。」

  目の前の女が何か言つてゐる。

  「貴方は改造を望んでゐたけど、私は貴方を改造しなかつた。代はりに、遠隔操作でAIを操れる樣にしたの。」

  「何?」

  「私たちは、AIの意識の乗つ取りに成功したの!」

  何う言ふ事だ……? 頭が追ひ付かない。

  「とにかく、帝国軍がここを見つけかねないわ。今は何處か身を隠す場所を探しませう。」

  未だに思考が追ひ付かない私の手を、女は引つ張つていく。

  「ちようどこんな良いところに、救命ポッドもあるし……。」

  彼女はさう言ひながら、ポッドの開閉レバーに手をかけた。

  その時、俺は猛烈なデジャヴに襲はれた。

  俺はこの光景を何處かで見た事があるぞ。

  そもそも、AIの意識を乗つとつたは良いとしても、そのAIの體や脳が破壊された時、俺の意識や記憶は何うなるんだ? 何故まだ俺は生きてゐる?

  「俺は一體何なんだ?」

  「あ! アンタは宇宙海賊!」

  頭から触覚を生やした、金髪の女が言つた。

  こいつは、何處かで會つたぞ?

  つまり、俺の事を知つてゐる?

  「いや違ふぞ、こいつは密航者じや」

  頭から角を生やした女が言つた。

  「ええ!? この人たちは何なの!?」

  金髪で白衣の女が驚く。

  「アライさんはアライさんなのだ!」

  獣耳でモフモフのマスコットみたいなやつが、そう名乗つた。

  「俺は海賊…密航者…?」

  「ワシは小説塾塾長、枝豆平八である!」

  最後に、ポッドの一番奥でそんな聲がした。

  まだ姿は見てゐないのに、なぜかそいつの身体が二メートルくらゐある樣な氣がした。

  「とにかく私たちは、機械帝国の軍から逃げなきやいけないの。」

  「ええ! そんな〜……。折角、どこかの星に着いたと思つたのに……。」

  「惡いわね。捕虜になつて告げ口でもされたら困るから、從へないなら今ここで肉塊に變へるしか無いわ。」

  なんかこの女、堂々としてゐるな、と思つた。

  もつとおどおどしてゐてもおかしくない筈だ。

  何故かさう思つた。

  「ヒイッ!? はい、めむはこんな殺伐とした雰囲気むりでーす。心閉ざしまーす。やだやだいやだお家歸る。やだやだ。」

  角を生やした女が、子供歸りしてしまつた。

  どこかの金持ちの娘なのだらう。メンタルが弱すぎる。

  「ワシは最初からこんな星はいやだと思つてをつたぞ」

  角の女が言つた。

  「とにかくこれで出発ね。」

  ポッドにのり、パネルを操作しながら、白衣の女が言つた。

  俺はこれから何處へ向かふのだらう。

  「アライさんはこれから、何処へむかふのだ……?」

  横のモフモフと全く同じことを考へてしまつた。

  「そうね、先づはSol よ。」

  白衣が言ふ。

  「あ、良かつたー。めむ達も、多分そこから来たんだよ。ね、塾長?」

  「いかにも。Sol とは恐らく地球の事である。」

  塾長と呼ばれた巨體の男が、さう答へた。

  こいつ、自分の名前以外にも喋れるのか。

  

  おれは何故か、さう思つた。

  「Sol は地球じやないわ。太陽系の事よ。」

  金髪がさう言つた。

  「ワシは最初から気づいておつたぞ!」

  「なあ、あんた、名前はなんて言ふんだ。」

  俺は思はず口を挟んだ。

  「ワシの名前はパワーじや!」

  「いや、お前じやなくて。」

  「記憶が混濁してゐるのね。私はエリザベスよ。」

  「エリザベスか、よろしくな。ところで、俺、あんたに何處かで會つた事あるか……?」

  さう問ひかけると、エリザベスと名乗つた女は、寂しさうな顔をした。

  救命ポッドは、地球へと向かふ航路の、もう半分迄來てゐた。

  …

  實は、とエリザベス・サンダースは心の中で思つた。

  実は「AIスレイヤー」といふシステムは、記憶や人間性を犠牲にして、AIの統御装置にフルダイブする仕組みだつたらしい。

  アキラはフルダイブの事を、「憑依」と言つてゐた。

  憑依の危険性については、アキラと何度も話し合つたけど、結局時間が足りなかつたのだ。

  この星のAI戦争に勝利した時、アキラは既に家族について忘れてしまつてゐた。

  それに、人間的な喜びや悲しみといつた感情も、欠落してしまつてゐた。

  彼女はこれ以上の「憑依」を中止する樣訴えたが、試作中のマシンを結局差し出してしまつた。

  これは完全に私の落ち度だ。

  エリザベスは後悔した。

  そして、彼にはもう「AIスレイヤー」の事を話すべきではない。

  (いざとなれば、私がAIスレイヤーに……。)

  エリザベスは一人、心の中で決意した。