初めてモグラーニャさんからの特訓を受け始めてから、3ヶ月程が経った頃の事。
初めの内はキャビッジを持ち上げることにすら苦戦していましたが、今ではすっかり非力ながら投げる事が出来るようにまでなりました。
「よし、だいぶ上達してきたな!」
「はぁっ……はぁっ……ぁ、はいっ。もう少しでわたし、モグラーニャさんのお役に立てそうな気がしました……っ!」
「ははっ、そうかそうか。だが、無理はするなよ?」
「はい……!」
口ではそう言うものの、わたしはまだまだモグラーニャさんの力になれるほどにはなっていない気がします。
それもそのはず、わたしは元々あの世界ではモグラーニャさんの邪魔をしていた側でした。
そこでただ、彼に押し付けられたキャビッジとか球を押し返した程度、そして無意識に体当たりをしていたくらい……。
やっぱり、わたしには無理なのかな。
だってわたしは、こう見えてウサギらしくないから……。
「ん?どうした?」
「ぁ、いえっ……なんでもないですよ……っ。」
「そうか?何かまた悩んでる事とかあるなら、遠慮なく頼っていいんだぞ。」
「ありがとうございます……っ、でも今は大丈夫です……!////」
「なら良かった。さぁ戻ろうぜ!」
モグラーニャさんは、いつだってわたしに優しくしてくれるし、それでいてかっこいい。
それにモグリーナさんに子モグラさん、みんな良い人達ばかりです。
そんな人達と一緒に居られるなんて、本当に今のわたしは幸せ者ですね。
でも、わたしは……。
そもそも、わたしって本当にウサギ、なのかな……。
[newpage]
──その日の夜、わたしは皆さんが寝静まったころを見計らって、こっそり巣を抜け出して空を見上げました。
ちょうど今夜は満月で、目の前には真ん丸なお月様が輝いています。
「はぁ……。」
お月様を眺めていると、ふとさっき思っていた事が頭に浮かんできて溜息を一つ。
確か月の模様は、人間にとっては二羽のウサギがお餅付きをしている風に見えるというようなお話を聞いたことがあります。
そのウサギ達は、わたしと同じく二本足で立っているのに重いはずの杵を持っていたり、臼を支えていたりと力持ち。
でも、わたしはどうなんでしょう。月のウサギと違って力がないどころか、ウサギなのに跳ねることすら出来ない。
だから、あの世界ではわたしはただ何をする訳でもなく、ただモグラーニャさんの邪魔をするだけの役目だった気がします。
そして、あの人の元へ残ったアジラさんとは違い、役立たずのわたしはさっさとあの人から離れて独り生きていこうと思って、こっそりあの人の野菜を餌に過ごしていたら、あんな目に遭わされて……。
当然跳べないし、こんな性格なのでもしあの時あの人に抵抗でもしていたらきっと、あのままモグラーニャさんに出会うこともなく終わっていたのかもしれません。
そんなわたしは、ウサギの姿をした何かなのかもしれない……。
「くしゅん……っ。そろそろ戻らないと……。」
春と言っても、まだ夜は寒いです。
わたしはとりあえず、モグラーニャさん達の巣へと戻る事にして、これ以上はもう考えないことにしました。
[newpage]
──翌朝。
「おはよう、ございます……。」
「あら、おはよう。」「おはよう、ラビッピ。今日は随分と遅いな?」
「へっ?ぁ、もうこんな時間っ。ご、ごめんなさいっ……!」
草のベッドから起き上がり、モグラーニャさん達の方へ行きいつものように挨拶をすると、寝過ごしてしまったのか既に皆さんは朝食を取り終えていました。
「大丈夫だ。とりあえず今日はちょっと場所を変えるぞ。」
「えっと、何処ですか……?」
「そうだな~……広い場所がいいから、久しぶりに砂浜の方にでも行ってみるか!」
「ぁ、いいですね……行きたいです。」
「よし、じゃあさっさと食って行こうぜ?」
「ふぁ……ぁ、はい……!」
昨夜、夜ふかしをしてしまったせいか、今日はなんだか眠いです。
結局巣へ戻った後も、あの事が頭にあってほとんど寝付けずにいました。
今日は本格的に黒い玉を使っての特訓ですが、こんなので大丈夫なのかなと不安でいっぱいです。
「ラビッピさん、大丈夫?」
「ぁ、はい。大丈夫ですよ……?ご心配おかけして、ごめんなさい……。」
わたしが遅れて食事を済ませると、モグリーナさんがわたしの元へやってきて心配そうな表情を見せました。
わたしは申し訳なさそうにそう言うと、モグリーナさんも「何かあったら言ってちょうだいね?」とだけ言い残して子モグラさん達の方へと向かっていきます。
「まぁ、年頃の女の子だ。そういう時もあるよなっ。」
「ぇ、えっと……い、行きましょう!」
「ん、お、おおっ。」
そのやり取りを、葉巻を吸いながら見ていたモグラーニャさん。
とりあえずわたしは、何事もなかったかのようにそう急かすと、モグラーニャさんと共に砂浜へと向かうことにしました。
[newpage]
少し離れた砂浜へやってきたわたし達は、早速特訓を始めます。
モグラーニャさんが慣れた手付きで、何処からか例の球を運んできました。
それはまるで、あの世界で見たものにそっくりなものです。
「よっしゃ。今日からは早速こいつを使うぞ!」
「わっ、あの時のと同じものでしょうか……っ。」
「うーん、あれはあいつの世界にあったやつだからなぁ……まあ、でもこれも同じくらいデカくて重いな。」
「そ、そうなんですね……。」
わたしに持てるか心配ですが、いざ戦う時にはこれを使うんですよね、きっと。
そうしたら、当たり前だけどわたしもこれを使いこなせないといけません。
「大丈夫だ。あのキャビッジを投げつけることが出来るようになったんだ、これだってお前でも使えるようになるさ。」
「ぁ、はい……ありがとうございます……!」
モグラーニャさんに励まされると、何だか不安な気持ちが和らいできました。
わたしでも、きっと扱えますよねっ。
「さ、その前にまずはウォーミングアップだ。いつものようにキャビッジを投げてみてくれ。」
「はい……っ!」
返事をすると、わたしはいつものようにキャビッジを掴みます。
そして、投げるために持ち上げようとしました。
ですが……。
「せー……っ、キャアっ!?」
いつもならば、持ち上げられるはずキャビッジが何故か持ち上がらずそのまま後ろへ。
キャビッジに潰される形でわたしは砂の上へ倒れてしまいました。
「いたたっ……。」
「ん?どうした、いつもは軽々持ち上げてたぞ。」
「ぁ、はい……も、もう一回……っ!」
ゆっくり起き上がると、再びキャビッジを掴んで持ち上げようとします。
しかし、さっきと同じく何故か力が入らずわたしはキャビッジの下敷きになってしまいました。
「きゃふ!」
どうしてだろう、本当に力が入らない。
寝不足だからなのか、それとも……。
「仕方ない……向こう向いてくれ。」
「ぁ、ありがとう、ございます……。」
初めての特訓の時のように、優しくモグラーニャさんに抱きしめられるわたし。
ただ、いつもならばこうされると心が落ち着くのに今日は気持ちが沈んだままです。
「まさかキャビッジを持ち上げられないとはな……何かあったのか?」
「っ、いえ……なんでもないですよ?」
「そうか?まぁ詮索はしないでおこう、とりあえず、今日は仕方ない……。」
「っ、ごめんなさい……モグラーニャさん……。」
せっかく、ここまで連れてきてくれたのに申し訳なさでいっぱいで、ただただ謝ることしか出来ませんでした。
────
結局、昨日までの勢いとは打って変わって、今日はほとんど何もできずに巣へと戻ってきたわたし。
やっぱり、このままではダメな気がしてきました。
「はぁ……。」
そう、わたしはこれでもウサギなんだから、ウサギらしくしなきゃダメですっ。
なので明日からはわたし、自分を変えたいと思います……!
「ウサギらしく……しないとっ!」
草のベッドの上でそう呟くと、パンパンと両手で自分の顔を叩き気合を入れます。
その様子をモグラーニャさんが見ていた事には気付かずに……。
[newpage]
──翌朝を迎えたわたしは、昨日とは打って変わり早起きしました。
「お、おはようございますですピョンっ!」
「おはよう……って、ピョン?」
「あ、モグラーニャさん!」
やっぱり、モグラーニャさんの方が早起きでしたね。
今日はわたしが一番だと思ったのですが、まだまだでした。
ただ、そんなわたしの口調に疑問を抱いたのかモグラーニャさんが不思議そうにわたしを見つめてきました。
「お、お前……ラビッピ……だよな?」
「は、はいですピョン!ささっ、今日も特訓お願いしますピョンっ!」
「お、おう……。」
でも、わたしは気にすることなく両手を両耳にあてがってポーズをとり、そしてぺこっとお辞儀をしました。
その様子を、わたし達の後ろから不思議そうに子モグラさん達とモグリーナさんが見ていましたが。
「らびっぴねーたん……?」
「あらあら……。」
そして、いつも通り朝食を済ませるとそんなわたしのテンションに押されつつ、昨日に続いてモグラーニャさんに浜辺へ連れて行ってもらい、早速特訓が始まりました。
しかし、幾らキャラクターチェンジをしたとは言え、わたしは昨日と変わらずキャビッジへ突っ込んだり、掴もうとして潰されそうになったりと散々でした。
「ったたた……。」
「お、おい、大丈夫か?」
「ぁ、え、えへへっ。わたしはウサギなので大丈夫ですピョン!これくらい平気ピョン……っ♪」
転んでも笑顔で立ち上がり、心配そうに声をかけるモグラーニャさんの様子を気にせず。
「ちょっと今日のお前、なんだか変だぞ?」
「そーですか?わたしはいつもと同じで……すピョン!さっ、どんどんやりましょう!」
「お、おー。」
わたしはひたすら特訓を続けます。
そうだ。わたしはこうじゃないとダメなんだ。だから、もっと……もっともーっとウサギらしくならなきゃっ。
跳べなくたって力がなくたって、わたしは立派なウサギなんですから!
「ま、まぁ元気が出たならいいんだ。そうじゃなきゃ実戦でやられちまうからなっ。」
「はい……ですピョン!」
「だが、あんまり無理するなよ?」
「ぁ……だっ、大丈夫ですピョン!」
わたしはそう何度も転んだり、キャビッジを投げるのに失敗してボロボロになる中、心配を掛けないよう明るく振る舞います。
口癖は慣れないけれど、子ネヂミちゃんだっていつもあんな感じだし、わたしにだって出来ないことはないはず。
だいぶテンションは掴めてきたので、このまま行けばわたしは本当に変われると確信が持ててきました。
それにきっと、皆さんもこんなわたしを受け入れてくれるはずです……!
だって、わたしはわたしなんですから。
────
「はぁっ、はぁっ……。」
「よっし。今日はそろそろ帰るぞ。」
「ぁ、はいですピョン!」
「元気があるのはいいが、腕の方も何とかしないとな?」
「えへへ、次こそ頑張りますピョン♪」
夕方になり、特訓を切り上げたわたし達は巣へと戻っていきます。
明日はモグラーニャさん達がお出かけするそうなので、わたしも早速皆さんに今のわたしを見て貰いたいと思います。
[newpage]
──翌日。既に皆さんは出かけてしまったようでわたし1人でした。
「よいしょっ……と!これで大丈夫ですピョンっ。」
以前、子モグラさん達とお散歩へ出かける時にしたように、ちゃんと巣へ戸締りを施します。
そしてわたしは早速、皆さんへ会いに森へと出かけました。
しばらく歩いていると、アジラさんらしき姿が見えたので駆け足で向かいます。
「ぁ、アジラさーん!」
「……ん?ラビッピじゃないか。お前から話しかけてくるとは、珍しいな……?」
「そーですか?あ、こんにちはですピョンっ。」
「ピョン?お、お前そんなキャラだったか……?」
普段は滅多に人へは話しかけないわたしですが、今のわたしは違います。
いつもと違う様子に驚くアジラさんですが、わたしは気にせずそのままのテンションで挨拶をしました。
「ぁ、急いでるのでまたですピョン!」
「お、おうっ……。さてはまた[[rb:モロQ > アイツ]]、変な事しやがったな……。」
とりあえず挨拶はしたのでお話はまた今度と思い、今回はここでお別れにしました。
すると、森から離れた場所で今度はフェイスネークさんと出会います。
「あ、ラビッピさんだ。こんにちは~。」
「ピョンピョンっ、フェイスネークさんこんにちはですピョン♪」
「え、ええっ!?」
「じゃぁわたし急いでるからまたですピョン!あれ?」
先程と変わらないテンションで挨拶を返すと、何故かフェイスネークさんに引かれました。
しかし、わたしは気にすることなく同じようにフェイスネークさんと別れようとします。ですが……。
「……ら、ラビッピさんがぁ~っ。ウワァ~ンっ!!」
あれ……フェイスネークさんが泣きながら、わたしから逃げてしまいました。
でも、今のわたしはそんなこと気にしません。きっとその内受け入れてくれると思いますですピョン!
それから跳ねるフリをして駆け足で海辺へと向かっていると、向こうからバルさんが空を飛びながらやってきました。
「ふよふよ~……。あ、ラビッピちゃん久し振りだねぇ~。」
「お久しぶりですピョンっ。バルさん!」
そういえば、バルさんとはあまりお会いした事はなかったような気がしますね。
わたしは森か雪山にしか居なかったものですから、海辺や工場地帯に居たバルさんと会わなくても不思議ではないです。
「おやおや~、今日はいつもより元気だねぇ~。」
「そうですか?わたしはいつもと同じですピョンっ。」
「ふ~ん、そうなんだぁ~。」
「ぁ、じゃぁ今は急いでるので!また会いましょうでピョン!」
「はいは~い、またねぇ~。」
アジラさん、フェイスネークさんとは違って、バルさんはすぐに今のわたしを受け入れてくれたようで安心しました。
後はエンペラさんとかモロQさん、カンガルーンさんに子ネヂミちゃんですね。
バルさんと別れると、わたしはそのまま砂浜の上を駆けていきました。
「はぁっ、はぁっ……。意外と、疲れますピョン……。」
ただ、さっきからずっとこのテンションで来たせいか段々と疲れてきましたね。
やっぱり、慣れないうちはキツいです……。どれだけ普段のわたしが暗いかよく分かった気がします。
ちょうど近くにベンチがあったので、そこで一先ず休むことにしました。
────
「んっ……あ、あれ、わたし……。」
うっかり眠ってしまったせいか、目の前は既に太陽が沈みかけていました。
そろそろ帰らないとですね……。つい、調子に乗ってこんな所まで来てしまいました。
「モグラーニャさんが心配してるピョン、帰らなきゃっ。」
わたしはベンチから降りると、急いでモグラーニャさん達の巣へと向かうことにします。
砂浜の上は普通に走るのも大変で、時々足を取られそうになってしまいます。
やっぱり、わたしは子ネヂミちゃんと居た森や雪山の方が好きかな。
暫くして森まで戻ってくると、辺りは真っ暗になってしまいました。
ここは、わたしがモグラーニャさんと出会った場所でしたね。もうあの人によってわたしの集めたキャビッジとか、無くなってしまってますが。
ふとそんな思い出に耽ると、何処からかこちらに向かってくる足音が聞こえてきました。
あの音は……子ネヂミちゃんですね。
「あれ?子ネヂミちゃん……っ?」
「あ!ラビッピでチュ~!う……。」
わたしに駆け寄り、抱きつこうとする子ネヂミちゃん。
でも、ハリが痛いのでわたしはひょいと避けてしまいます。
きっと子ネヂミちゃんにも、今のわたしは受け入れてくれるでしょうね。
今日からはわたし、れっきとしたウサギですからっ。
そう思ってわたしは、さっきまでのテンションのまま子ネヂミちゃんに話しかけました。
「わぁっ、子ネヂミちゃんですピョン♪」
ついでに両手で耳を立てるポーズまでしてみます。
しかし、子ネヂミちゃんの反応はわたしが思っていたものと違う事にわたしは気づいていませんでした。
「……ピョン、でチュ?」
「はい!わたし、これでもウサギですから。ピョンピョンピョ~……キャアっ!いたた……あ、ピョン?」
うっかり、カンガルーンさんのように跳ぶ真似をして転ぶわたし。
すると子ネヂミちゃんはそんなわたしを、怪しい物を見るような目で見てきました。
「ラビッピ……、なんかおかしいでチュ。」
「どうして……ピョン?」
「あたちのしってるラビッピはそんなコトいわないし、そんなハッチャけてないでチュ……。」
「そ、それは……。」
確かに普段のわたしは言ってないけど、でもこれからは……。
えっと、あれ、子ネヂミちゃんもしかして怒ってる……?
わたしがそう思っていると、子ネヂミちゃんは目に涙を浮かべながらわたしに叱咤してきました。
「フザケないででチュ!!」
「ピョン……。」
「ッ…………、ら、ラビッピなんか……。」
「こ、子ネヂミ、ちゃん……?」
「ラビッピなんか、ダイッキライでチュ~ッ!!」
「ぇっ……。……。」
子ネヂミちゃんはそう言うと、わたしから逃げるようにして去っていってしまいました。
今まで見たことのない顔をされた上に嫌われて、わたしは追いかける事もなくただ呆然とその場に立ち尽くしていました。
その後、わたしの帰りが遅い事で心配になったモグラーニャさんが迎えに来てくれましたが、生憎お話する元気もなかったので一言も話せず巣まで戻っていきました。
────
「っっ……ぐす……っ。」
草のベッドの上に横になっているわたしは、先程までの事しか頭になく何も考えたくない一心で泣いていました。
まさか、わたしの大好きな友達に嫌われるなんて思わなくて、ショックで……。
「……パパー、らびっぴねーたんがないてるよー?」
「あぁ。」
「おはなししないの?」
「ゴメン……今はそっとしといてやってくれ。」
「わかったー!」
わたしは、何か間違っていたんでしょうか……。
わたしにとって子ネヂミちゃんは、ボディーガードのような存在であり、妹のような存在でした。
そんな子ネヂミちゃんを怒らせちゃうなんて、わたし……。
でも確かに考えてみたら、わたしは変だったかも。
幾ら自分を変えようと思ったからって、子ネヂミちゃんみたいなマネしてウサギらしく居ようとして。
そんなの、わたしじゃなかった……ですよね。
「……ウサギらしく、か……。しかし、お前がずっとそんな事を悩んでたとはな……。」
そんなわたしの様子を遠くから眺めていたモグラーニャさん。
先日わたしが呟いた言葉を何時の間に聞かれていたのか、心情を察してくれていました。
ごめんなさい、モグラーニャさん。わたしは、バカなウサギです……。
《ラビッピにはあたちがひつよーなんでチュ!》
《ワルモノはあたちがせーばいするでチュ!えいっ!えーいっ!でチュっ!》
あの世界での雪山でよく一緒だった縁からあの子はわたしに仲良くしてくれて、そしてフェイスネークさんとの一件以来姉妹のように振舞ってくれていました。
モグラーニャさんはあの森でわたしを助け、優しくしてくれた大切な人に変わりないです。でも、同じくらいわたしは子ネヂミちゃんも大切な友達だと思っています。
わたしにはそれまで友達という存在が居なかった……だから、余計に今は辛いです。
どうして、あんな事しちゃったんだろ、わたし……。
考えれば考えるほど今は何もしたくなくなって、眠ることすらできなくなっていました。
[newpage]
──翌朝。また一昨日のように遅く起きたわたしはモグラーニャさん達の元へ目を擦りながら向かいます。
モグリーナさんは今日は子モグラさんを連れてお散歩だそうで、既に巣を出て行っていた為居たのはモグラーニャさんだけでした。
「ん?おはよう、ラビッピ。」
「ぁ、おはようございます……。」
そう挨拶を返すと、モグラーニャさんは葉巻を置いて「昨日はよく眠れたか?」とわたしを気遣うように見ます。
昨夜はあのまま何をしていたか思い出せないけれど、ずっと泣いてたんだろうな。
おかげで今日も寝不足で、そこに昨日のことがあって余計に頭が痛いです。
でも、あのままではダメだと思ったわたしは、あの子に謝ることにしようとモグラーニャさんに相談してみました。
「仲直りしたい、か。そうだな。」
「はい……、怒らせたのはわたしですから……。」
「しっかし、あいつもオレの子供と変わらないのに生意気なやつだな~。」
「そ、そんなことないですよっ!」
そういえば、モグラーニャさんは子ネヂミちゃんのことをあまりよく思ってなかったんだっけ。
途中で足を組み、葉巻を取り出しながら言うモグラーニャさんの言動を咎めるわたし。
「うおっ、ゴメン。余計なこと言ったな。」
「ぁ、いえ……わたしこそ……。」
「まぁ、お前も悪気はなかったんだろ?ちゃんと謝れば許してくれるさ。」
「そう、でしょうか……。」
「このまま何もしなかったら、ずっとお前の事嫌いなままかもしれないぞ?」
「……それは、嫌です……!」
元後言えばわたしのせい、ですからね。
確かにわたしはただ自分を変えたい一心で、あんなキャラを演じ続けようとしていました。
でも、それは単に素のわたしを受け入れてないからなんだと思います。
「なら、行って来いっ。オレも近くで見守ってるからさ。」
「ぁっ……いえいえ、大丈夫ですっ。これはわたし達のことなので、一人でいけますよ……っ。」
「そか、分かったぜ。」
そう言って、モグラーニャさんに背中を押されるとわたしは子ネヂミちゃんに謝りに行こうと思いました。
今ならまだ、許してくれると信じて。
────
モグラーニャさんの巣を出て、一人昨日と同じ森へとやってきたわたし。
ああ言ったものの、やっぱりちょっと心細いです。
「子ネヂミちゃん……。」
ここで待ってて、来てくれるかな……。
でも直接巣へ出向くのも悪いし、まだ昨日の今日ですから。
「やっぱり……ダメ、かな。」
来たばかりですが、既にわたしは自信がなくなっていました。
このまま待っていても、子ネヂミちゃんは来ないような気がして。
そもそも、あの子はわたしのことが嫌いになったのだから、当たり前かもしれません。
でも、わたしにとって子ネヂミちゃんは大切な友達です。
このままで月日が経ったら、多分二度と戻れなくなると思うから。
そんなの、わたしは嫌です。わたしの軽率な行動で傷付けたまま、お別れなんて絶対っ……。
「わたしは、バカなウサギです……本当に……。」
そう、昨日の行動を振り返って自虐するわたし。
そして森へと背を向けると、背後から足音が聞こえてきました。
「……ぇっ……?」
その足音は、子ネヂミちゃんそのものでした。
[newpage]
「子ネヂミ……ちゃん……。」
「……ラビッピ……。」
振り向くと、子ネヂミちゃんは一瞬わたしを見て名前を呼ぶとすぐに俯き、わたしとは目を合わせないよう横を通り過ぎようとしてきました。
謝るなら今しかないと思ったわたしは、そんな子ネヂミちゃんの前で頭を下げ。
「ごめんなさい……っ!」
「……チュ……?」
「あんなの、わたしらしくなかったですよね……。だから、ごめんなさい……。」
そして、元の口調で謝るわたし。
子ネヂミちゃんはそんなわたしの仕草に、顔を上げると何故かペコッと頭を下げて謝ってきました。
「……あたちこそ、ゴメンでチュ。」
「えっ……?」
思った反応と違ったわたしは、顔を上げ子ネヂミちゃんを見て。
「ダイキライなんてウソ、でチュっ。あたち、ついあたまにきていいすぎちゃったでチュ!」
「そ、そんな……、わたしのことを思って言ってくれたのに……。」
「ラビッピにはそのままでいてほしかったから……つい、でチュ。」
「子ネヂミ、ちゃん……っ。」
「チュ……?」
子ネヂミちゃんのそんな言葉を聞くと、わたしは何か大事なことを忘れていたという事に気付かされました。
まさか、そこまでわたしの事を思ってくれていたなんて。やっぱり、わたしはダメなウサギです……っ。
泣きそうになる子ネヂミちゃんを見ると、わたしは子ネヂミちゃんをぎゅっと抱きしめました。
背中のハリはそんな子ネヂミちゃんの気持ちを表すかのように、いつもとは違って柔らかかったです。
「ありがとうございます……っ。わたしも、今のわたしが一番です……!/////」
「うんっ……でチュ////」
消極的なところは直さないといけないけど、自分のことは大事にしないといけませんね……。
そこに気付かせてくれて、ありがとうございますっ。子ネヂミちゃん。
「っと、これからもなかよくしてくれるでチュ?」
「……はいっ。もちろんですよ?よしよし……♪」
「グズッ……ありがとー、でチュっ////」
わたしはそう言って、優しく子ネヂミちゃんの背中を撫でてあげました。
その後は久し振りにわたし達2人で居たいと思い、モグラーニャさんが迎えに来る頃まで一緒に過ごしていました。
[newpage]
──翌日。わたしはいつものようにベッドから起き上がると、モグラーニャさん達の元へと向かいます。
「あら、おはようラビッピさん。今日は早いのね?」
「ぁ、おはようございます……っ。はい、お陰様で……っ。」
今日はまだモグラーニャさんは眠っているようで、その場にいたのは朝食の準備をしているモグリーナさんだけでした。
「あれ、モグラーニャさんは……?」
「ウフフっ、まだ寝てるわ。何だか疲れてるみたい。」
「そうですか……わたしのせい、ですかね。」
「まぁ、ここ最近ラビッピさんの事心配していたようだから。」
ごめんなさい、モグラーニャさん……。でもわたしはもう大丈夫です。
とりあえず、今は熟睡しているモグラーニャさんをそっとしてあげる事にしました。
────
あれから、ようやく起きたモグラーニャさんは遅い朝食を取ると、改めてわたしを砂浜へと連れて行ってくれました。
その道中で子ネヂミちゃんとはどうなったのか聞かれましたが、無事に仲直り出来たことを伝えると、ほっとしたような顔をしていましたね。
そのお陰か、今日はキャビッジを掴む事から投げる事まで出来るようになっていました。
「おぉ、今日はいけたな!」
「っ、ぁ、ほ、ホントです……!」
良かった、わたし戻ったんだっ。もう一昨日までのわたしじゃないんだ……。
あの[[rb:じんべえ > ある人]]の顔を模したボードにキャビッジが上手く当たったのを見て、思うわたし。
「良かったな、仲直り出来て。それにすっかりいつものお前に戻ったしな?」
「は、はいっ……えっと、心配掛けてごめんなさいです……っ。」
申し訳なさそうにそう言うと、わたしは頭を下げます。
「ハハハっ、まぁ気にするな。それでこそラビッピ、お前なんだからさ。」
「そ、そうですね……!////」
「ん?なんで赤くなるんだ、風邪引いたか?」
すると、そんなわたしの頭にポンッと手を置いて撫でながら笑って言うモグラーニャさん。
でもそれは何だか恥ずかしくて、ついモグラーニャさんを押し倒してしまいました。
「っ、も、モグラーニャさんのせいですよ……!////」
「うわっ!?お、オレは何もしてないぞっ。あ、そうだ!続きやろうぜっ?」
「わわわっ、ご、ごめんなさいっ!ぁ、はい……っ!////」
わたしは跳べないし、控えめなウサギです。
でも、それが一番わたしらしいし、何だかそんな自分をちょっぴり好きになった気がしました。