彼女をオレ達の家族に迎え入れてから、月日が流れた。
その間あいつが襲ってきたりする事はなく、とりあえず平穏な毎日を送れている。
しかし、あいつのコトだ。またいつオレ達の住処へやってくるか分からない。
そんな時、仮にまたオレが此処を空けていたら……。そう思うとやはりいざという時戦える存在が必要だ。
それに相応しいのは……。
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「ラビッピ、頼みがある。」
「……えっ?は、はいっ、なんですか?」
「今から、お前を特訓したい……。」
切り株で子供達と遊んであげている彼女を呼ぶと、オレは真面目な顔をしてそう言った。
「特訓、ですか……?」
「ああ。」
突然の事にきょとんとする彼女を他所に頷く。
そして、その理由を話すと彼女はやはり不安げな表情になった。
「そんなっ………わたしなんて、そもそもウサギなのに跳べないし……。」
「いや、お前ならいざという時でも大丈夫だ。」
「も、モグラーニャさんに迷惑……掛けちゃうと思いますっ。」
両耳を垂らし、自分の非力さに悲観的になる彼女。だけどオレにとってはとてもそうには見えない。
元々あいつ等と共に、あの世界ではオレに立ち向かってきて苦戦もさせられた。
少なくとも、キャビッジや球を押し返してきた事は覚えている。
「まあ、いきなりこんな事言われても困るよな。」
「……ぁ、えっと……。」
「ん、どうかしたか?」
「その、ちょっと考えてみますね……っ。」
彼女はそう言うと、「ダメ、ですか……?」とばかりにオレを見つめてきた。
そんなどこかあざとい仕草を見せられると、さすがに強要は出来ないなと思い一先ずその場では彼女の意向を認める事にする。
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日が暮れて夜になると、今度はオレのもとへ彼女がやってきた。
さっきまで昼間と同じく子供達の相手をしていた彼女だったが、どうやら子供達を寝付かせた様子。
そして、オレの前まで歩み寄ると。
「お、どうした?」
「あのっ……わたしに特訓、お願いします……!」
「……ああ、もちろんだ!」
頭を下げて、特訓を申し込んできた彼女。
オレはそれを聞くとニッと笑ってそんな彼女の頭を撫でてあげ、早速明日から彼女を特訓してあげる事にした。
「っ……ありがとう、ございますっ……!////」
「よし、今日はもう寝ようぜ。」
「はい……っ!」
そう言いいつもは子供達と寝ている彼女は、今晩はオレやモグリーナと共に寝る事にしたのだった。
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朝になり、オレは早速彼女を森の方へと連れて行く。
そこで特訓をしようと思い、何処からか用意しておいたキャビッジを運んでくると彼女に見せる。
「フゥっ。これが練習に使うヤツだ。」
「ちょっとおっきい、ですね……っ。」
普段目にしているものよりも大きかったのか、彼女は目をぱちぱちとさせながらキャビッジを見ている。
ただ、オレが実際に使っていた球はこんなもので、当然重さもそれなりにあった。
「うーん。まあ、普段お前が運んできてくれるキャビッジはこれより小さいしなぁ。」
「はい……あ、でもっ……ちょっと、持ってみても良いですか?」
彼女がいつも運んできてくれるキャビッジの大きさと見比べつつ、頷く。
しかし、すぐに彼女はこれを持ち上げようとしてオレに確認をとってきたので、すかさず「もちろんだ」と了解。
「分かりました……っ。いつものよりちょっと大きいだけですから……せ~のっ!」
「おお、持てるんだな。」
そう言うと特訓用のキャビッジを持ち上げてみせ、「どうですか?」と彼女。
オレはそんな様子を見ると少しばかり安心し、それならばと次のステップへ移る事にした。
「よし、それなら大丈夫そうだな。……じゃあ、いきなりだが。」
「まず前へ投げる所からだ。」
「は、はいっ!えっと、………っ、それっ!」
オレがそう促すと、彼女はキャビッジを両手で掴み言う通りに前へと投げてみせた。
だが、投げる力までは無かった為かキャビッジはただその場に転がっただけだった。
「あれ……どうしてっ……。」
「次はバックドロップ、出来るか?」
仕方なく今度はバックドロップをさせる事にし、彼女に振りを見せつつバックドロップをさせてみる。
しかし……。
「じゃぁ、バック……ドロッー……きゃふ!」
投げたはずのキャビッジはそのまま、彼女を押し潰すように落ちて下敷きにしてしまった。
「いたい、ですっ……。」
「うーん、ちょっと力が入り過ぎだなぁ。」
「ご、ごめんなさい……っ。」
「いや大丈夫だ。だが、それじゃすぐやられちまうな。」
「っ……そう、ですよね……。もっと、頑張らないと……っ!」
そう言って立ち上がり、再びキャビッジを掴む彼女。
ふと、そんな彼女の姿勢を見てオレは微かに手足が震えているのを見逃さなかった。
「えっと、モグラーニャさん……?」
「オレがちょっとラビッピの緊張を解してやるか、向こう向いてくれ。」
そう言って彼女に背を向けさせるオレ。
正直、事前に爺さんからリラックスのさせ方を教わっておいたのが役に立つ時が来たんだなと思った。
「ぇ、向こう……ですか?」
「あぁ、そのままじっとしてくれ。」
「分かりました……っ。」
背を向けさせると、オレはそっと彼女を後ろから抱きしめ、落ち着かせるようにしばらくそのままの姿勢をとりつづけた。
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あれから彼女は、それまでが嘘のようにキャビッジを持ち上げ前だけでなく、後ろにも徐々に投げることが出来るようになっていた。
「おおっ!すごいじゃないか!」
「ほ、ホント……ですか?」
「ああ。まるでさっきまでとは大違いだ!」
よしよしと彼女の頭を撫でながら。まだ不安定ながらも一歩前進した彼女を見てオレも嬉しそうに笑って言う。
まあ、あれだけで本当に彼女をリラックスさせられたのかは疑問だが。
「ぁ、ありがとう、ございます……////」
「いやいや。でもまだこれからだぞ?」
「はいっ……!」
恥ずかし気に顔を赤くする彼女。
まだ完璧とは言えない為これからどんどん特訓を積み重ねていこうと思えてきた。
ふと、そんなことを思っていると彼女はオレを見上げて。
「あっ……えっと、モグラーニャさん……。」
「ん?どうした?」
「その……目、閉じてください……。」
「……、っ?」
彼女の言う通り、オレはその場で目を閉じる。
すると、ふと頬に何かが当たる感触を受けた。
「ラビッピ……?」
「っ……今までのお礼、です。モグラーニャさん……////」
「あ、ありがとうな……ラビッピっ!」
気になって、頬に触れてみると、なんと彼女がオレの頬にキスをしてきたのだ。
まさかの行動に一瞬戸惑ったが、彼女の言葉と真っ赤になった顔を見るとオレは思わず彼女をギュッと抱きしめてあげた。
「きゃっ……」とか細い声をあげる彼女だが、嬉しそうにしているのを見てオレは暫くこのままの体勢を取り続けた。
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「ん、よし。そろそろ戻ろうぜ?」
「はい……っ!」
「じゃあ、競争だ!それっ!」
「ぁ、ズルいです……っ!わたしも、負けないですよっ……!」
気づけば日が沈みかけていたので、オレ達は森を出て住処へと戻っていくのだった。