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二人部屋。ルームメイトが失恋した日、俺は「慰め」の名目で彼を押し倒した
夕陽に焼けたユニフォームの匂いが、部屋中に沈んでいた。
寮の二人部屋は、いつもより狭く感じた。窓は半分だけ開いていて、網戸に当たる風が、しゃり、しゃり、と乾いた音を立てている。グラウンドからは、まだ遅くまで残っている野球部の掛け声が遠く聞こえた。バットの乾いた金属音。土の匂い。汗の抜けきらない夕方。
その全部が、ベッドの端に座る同室の男を、ますます黙らせていた。
陸斗は俯いたまま、肘を膝に置いていた。でかい背中だった。肩幅が広い。練習終わりで風呂にも入らず戻ってきたせいで、首筋に汗がまだ薄く光っている。短く刈った髪の生え際にも塩が浮いていた。握った拳だけが妙に白い。
俺――遼は、少し離れた自分のベッドに腰かけたまま、陸斗の横顔を見ていた。
昼間のことを思い出す。
中庭。放課後。転校生の水城が、生徒会長の手を取っていた。あれは誰が見ても、そういう空気だった。ちょっと出来すぎなくらい絵になっていた。桜の葉の影。白いシャツ。生徒会長の整った横顔。水城の、いつも人を真っ直ぐ見る目。
陸斗は、それを見た。
見てしまった。
そのあと何も言わずに部室へ行って、何も言わずに戻ってきて、こうしてずっと黙っている。
俺には、その沈黙がうまかった。正直に言えば、胸の奥が少しだけ軽かった。ひどいとは思わない。だって、俺はずっと陸斗が好きだった。毎日、寝起きの髪をぐしゃぐしゃにした陸斗を見て、喉の奥が熱くなるのを、ずっと飲み込んできたからだ。
俺はベッドから立った。
床に落ちた陸斗のソックスをつまんで、洗濯籠に放る。そんなことに意味はない。ただ、動いていないと、自分の顔がにやける気がした。最低だな、と頭のどこかで思う。けどその最低さごと、今の俺には都合がよかった。
「なあ」
声をかけると、陸斗の肩がわずかに動いた。
「……なんだよ」
掠れていた。喉が乾いている声だ。ずっと何かを堪えていた男の声だった。
俺は冷蔵庫代わりの小さな保冷庫からスポドリを出した。汗をかいた手に冷たかった。キャップを開けて、陸斗に差し出す。
陸斗は少し迷ってから受け取った。ごく、ごく、と大きな喉が鳴る。飲み方まで男っぽい。口の端から少しだけ垂れた液が、顎を伝って首へ落ちる。
陸斗はボトルを握ったまま言った。
「見てたんだろ。昼」
「うん」
「ダセえよな、俺」
「全然」
自嘲の気配だけが、口の端に固く残っていた。あの場面を何度も反芻している顔だ。水城の手。会長の指。近すぎる距離。失恋した側は勝手に何十回も見返してしまう。
だからこそ、今日はもう行くしかなかった。
俺は陸斗の前にしゃがみこんだ。膝と膝がぶつかる。汗と土の匂いが濃くなる。野球部の男の匂い。日焼け止めが落ちたあとみたいな皮膚のにおい。塩気。ユニフォームに染みたグラウンドの乾いた土。全部、俺の好きなものだった。
「なあ、陸斗」
「……んだよ」
「一回ヤったらスッキリするからさ!」
言った瞬間、部屋の空気が止まった気がした。
網戸が鳴る音だけが、しゃり、とした。
陸斗がゆっくり顔を上げる。目が合う。ただひたすら疲れた目。その奥に、俺の言葉がちゃんと届いたあとの空白が見えた。
「は?」
当然だ。普通はそうなる。
でも俺は引かなかった。こういうとき引いたら終わると思っていた。冗談っぽく笑ってごまかすのも、今日は違う。やさしく、でも逃がさず。そこが大事だ。
「慰め。そういうの、あるじゃん」
「ねえよ」
「あるって。ほら、失恋するとさ、身体に残るんだよ。行き場ない感じ」
「お前……」
陸斗は眉間を押さえた。混乱している。そりゃそうだ。だけど完全に拒絶しているときの顔ではない。怒鳴らない。立ち上がって距離も取らない。その時点で、俺には十分だった。
この男は、根がやさしい。相手を強くはねのけられない。しかも俺が相手なら、なおさらだ。甘い。いつも無意識に甘やかす。ずっとそうだった。眠そうにしてると牛乳を買ってくれる。テスト前に俺のノートを勝手にまとめてくれる。風邪をひいたら氷枕を替えてくれる。
俺はその膝に手を置いた。
熱かった。太い腿だった。短パンの上からでも筋肉の形がわかる。触れた瞬間、陸斗が息を止めたのがわかった。
「俺、そういうの平気だし」
「平気ってなんだよ」
「男とヤるの」
「……は?」
二度目のそれは、さっきより小さかった。
俺はちょっと笑った。もう一歩踏み込める。そう思えた。
「前から言おうとは思ってたんだけど。まあ今のほうがタイミングいいかなって」
「いや、よくねえだろ」
「俺はいいよ」
「お前がよくても」
陸斗は言いかけて、止まった。
その続きは、たぶん、俺がよくねえ、だ。
そう言いたいのだろう。自分が失恋した直後で、頭が回っていないことも。俺をそういう対象で見たことがあるのかないのか、自分で整理できていないことも。全部ひっくるめて、踏み切れない。
でも、踏み切れないだけだ。
俺は膝に置いた手をゆっくり上へ滑らせた。腿の付け根近く。ユニフォームの布越しでも、内ももの熱がわかる。陸斗の脚がぴくっと引けた。けれど逃げきらない。途中で止まる。俺はその反応に喉が焼けた。
「嫌ならやめるよ」
「……」
「でも、少しでもラクになりたいなら、俺、手伝える」
陸斗は黙ったままだった。
その沈黙を、俺は都合よく受け取る。いや、都合よく受け取るくらい、今日くらい許されるだろうと思い、俺は指先に力を少しだけ込めた。太腿の硬さを確かめるみたいに、ゆっくり撫でた。
陸斗は長く息を吐いた。
それが諦めなのか、迷いなのか、俺にはもう区別する気がなかった。
陸斗はスポドリのボトルを床に置いた。ごと、と鈍い音がした。大きな手が太腿の上で開いて、閉じる。指の節がごつい。
「変なことしたら殴る」
「それはこわいな」
「笑ってんじゃねえよ」
そこで初めて、ほんの少しだけいつもの陸斗の調子が戻った。俺はそれが嬉しかった。結局いちばん満たされるのは自分かもしれない。そういう最低さが、ますます体を軽くした。
俺は立ち上がると、カーテンを閉めた。夕陽の赤さが布の向こうでくすむ。部屋は少し暗くなる。ベッドの下に押し込んでいたトートを引っぱり出した。洗面用具のポーチ。使いかけのローション。コンドーム。こういうものを寮で持っているのは、べつに不思議じゃない。風俗雑誌を隠すみたいに、みんな何かしら隠している。
けれど、陸斗はそれを見て目を止めた。
「お前、慣れてんのか」
「まあ」
「まあ、って」
「そういうの、ひと通り」
「……マジかよ」
呆れたような顔だった。
でも、その顔の下にあるのはたぶん別のものだ。知らなかった、という驚き。自分の知らない俺がいたことへの戸惑い。ちょっとだけ置いていかれたみたいな感じ。陸斗はたぶん、自分が俺のことをよく知っているつもりでいた。実際、こいつは俺の生活のかなり近い場所にいた。朝起こして、夜は同じ部屋で寝て、タオルや洗剤の減り方まで見ている。そんな相手が、急に知らない顔を見せる。そのざらつきが、今の陸斗にはきっと効く。
俺はベッドに座って、手でシーツを叩いた。
「こっち」
陸斗はしばらく動かなかった。
それから、重たい足取りで立ち上がった。筋肉で布を押し上げた太腿が近くで見ると余計に太い。ユニフォームの脇には汗染みが濃く残っている。風呂前の男の匂い。塩と土と、ぬるい体温。俺はくらくらした。
「まず、上脱いで」
「……命令すんな」
「じゃ、お願い」
「なお悪いわ」
ぶつぶつ言いながらも、陸斗はシャツの裾を掴んだ。脱ぎ方が乱暴で、首元に引っかかる。大きな腕が上がり、腹筋がのびる。汗で湿ったインナーごと引き抜くと、むっと熱い匂いがした。練習終わりの肉体の匂い。鼻の奥が痺れる。胸板は厚く、乳首の周りに汗が細かく光っていた。腹は割れていて、脇腹に土が少しついている。俺は何度も見てきた体なのに、いざ触っていいと思うと、見え方がまるで違った。
「いい身体」
「今それ言うかよ」
「今だから言うんだよ」
俺はそう返して、手を伸ばした。ベルトに指をかける。陸斗はそれを見下ろしていた。止めたいのか、止めたくないのか、自分でも決めきれない顔。俺はそういう曖昧さをこじ開けるのが得意だった。
金具を外す。
チャックを下ろす。
擦れた音が静かな部屋にやけに響いた。
野球部指定のパンツの内側は、もう少し膨らんでいた。完全に無反応ではない。俺はそこにじっと視線を置いた。陸斗の喉が、ごくりと鳴った。
俺にはそれが聞こえた気がした。
気のせいでもよかった。
視線を向けられているだけで、股間がずしんと重かった。
「……見んなよ、そんな」
俺はパンツの上から手のひらを当てた。
熱い。
分厚い。
布の下で、もうはっきり形がわかる。
「でか」
「うるせえ」
「知ってたけど」
「じゃあ言うな」
その返しに、俺は笑った。
こういうときでも律儀に返してくるところが、どうしようもなく陸斗だった。
手のひらで根元から先までゆっくり撫でる。
布が擦れて、じゅっ、と湿った音がする。
パンツの前が少し濃くなっていた。
たぶん、今さらだった。
相手が男だとか。
俺が慣れてるとか。
そういうことに、ひとつひとつ驚いている余裕がない。
失恋の痛みと、目の前で自分のモノを愛撫する同室の男と、身体が先に反応してしまっている現実と。全部が一度に来て、処理しきれていない顔だった。
俺はパンツのゴムに指をかけた。
ゆっくり引き下ろす。
太い腿を擦りながら、野球部指定のパンツが膝まで落ちる。
出てきたのは、思っていたよりもっと凶悪なやつだった。
硬い。
太い。
竿が日焼けで少し濃い。
先端だけ赤く、つやつや濡れている。
重そうに腹へ反っていて、脈打つたび先走りが糸を引いた。
「……は」
思わず声が漏れた。
陸斗がそれを聞いて、ほんの少し眉をひそめる。
恥ずかしいのか。
見られているのが堪えるのか。
それとも、そんな顔をされたこと自体が初めてなのか。
俺には全部、都合よく見えた。
「何その反応」
「いや、だって……でけえ」
「お前……」
「褒めてる」
俺は根元を片手で握った。
熱が掌に食い込む。
硬さが男くさい。
先を親指でこする。
ぬる、と先走りが広がる。
匂いが濃くなる。
陸斗が息を乱した。
「は、ぁ……」
「感じてるじゃん」
「……っ、うるせえ」
声がいつもよりずっと弱い。
俺は先端に口づけた。
ちゅ、と吸う。
塩気と苦味が舌に乗る。
陸斗の腹筋がかたく縮んだ。
「っ、あ、」
「声、いい」
「よくねえ……っ」
陸斗は荒く息をしていた。
胸が大きく上下する。
乳首がうっすら立っている。
自分で気づいていないだろう。
「まだ我慢して」
「まだってなんだよ」
「挿れたいから」
「は?」
俺は立ち上がった。
そのまま自分のシャツを脱ぐ。
タンクトップも頭から引き抜く。
胸に夕方の湿気が触れる。
陸斗の視線が、今度は俺の体に止まる。
「挿れるの、陸斗だよ」
そこで陸斗が、はっきり固まった。
陸斗は口を開いて、閉じた。
喉が動く。
視線が俺の顔から胸へ、腹へ、下へ落ちる。
俺はジャージも下ろした。
勃起した自分のモノが、ばちんと腹に当たる。
「……っ、お前も、すげえな」
「嬉しい」
「褒めてねえ」
「褒めてる顔してる」
実際、陸斗は困った顔をしていた。
でも目は逸れていなかった。
男の本能みたいなもので、比べてしまっているのだと思う。
自分より少し細いが、いやらしく反り返った俺のチンポを。
先走りでぬらぬら光っているそれを。
そしてその持ち主が、自分の前で足を開こうとしていることを。
俺はベッドに腰を上げた。
枕を引いて、膝を立てる。
自分の内腿を開く。
見せつけるみたいに。
「ローション、そこ取って」
「……マジでやんのか」
「早く。気持ちいいうちに」
この言い方が効くのを、俺は知っていた。
陸斗はその場の熱に弱い。
勢いが切れる前なら、わりと押し切れる。
案の定、陸斗はのろのろとポーチからローションを取った。
手がでかい。
その手がぬるい透明の液を握っているだけで、俺は尻が疼いた。
「どうすんだよ」
「指で広げて」
「俺が?」
「他に誰がいんの」
陸斗は露骨にためらった。
眉間が寄る。
けど目の前にある俺の脚はもう開いていて、太腿の間の場所を隠していない。
男のケツ穴なんて、見慣れているはずがない。
戸惑わないほうがおかしい。
俺は自分で指を一本、口に含んで濡らした。
くちゅ、といやらしい音を立てて抜く。
そのまま後ろへ回し、穴をなぞる。
ひく、と締まる。
見せつけるように指先を押し込むと、陸斗の息が目に見えて止まった。
「こうやって」
「……」
「ほら、こっち来て」
陸斗は近づいた。
ベッドが沈む。
マットレス越しに、体重の重さが伝わる。
俺は脚をもっと開いた。
股のあいだから、濡れた穴が空気に晒される。
恥ずかしさはなかった。
好きな男に見せるために鍛えてきた尻だ。
使ってもらわないと困る。
陸斗の指が、そっと尻に触れた。
ごつい。
硬い。
野球で鍛えた指先だ。
そこにローションのぬめりがあって、そのアンバランスさがたまらない。
「あ……」
「っ、そんな声出すな」
「出るって。気持ちいいから」
陸斗の肩がぴくっとした。
言葉に弱い。
俺が感じていると、きっとこいつは責任を感じる。
だから、もっとちゃんとしなきゃ、みたいな顔になる。
そういう真面目さが、今は全部、性欲に変わっていく。
指が穴を押す。
ぐ、と入り口が凹む。
俺は腰を少し上げて、受け入れた。
ぬる、と第一関節まで入る。
「あっ、は、ぁ……♡」
「……こんな、入んのか」
「力抜けばね。もうちょい」
「お前、慣れすぎだろ」
もう一本、指が増えた。
太い二本が穴を押し広げる。
俺は息を吸って、吐いて、膝を抱えた。
痛みは少しある。
でもそれごと欲しかった。
広げられてる感じが、むしろ気分を煽る。
「っ、は、ぁ、んん……♡」
「すげえ締まる」
照れている。
でもチンポはますます硬くなっている。
視界の端で、陸斗の竿が跳ねるのが見えた。
互いの息が近い。
汗の匂いが濃い。
ローションと先走りの匂いが混じる。
夕方の部屋が、もう完全にセックスの臭いになっていた。
「あ゛っ、はぁっ、ふ、ぅ……っ」
「痛ぇか」
「ちょっと。でも、好き……」
「っ……」
その一言が効いたのがわかった。
陸斗の喉が詰まる。
たぶん今の“好き”を、どっちに取るか一瞬迷ったのだ。
穴を広げられるのが好き、なのか。
自分にされるのが好き、なのか。
俺はあえて補足しなかった。
三本が出入りし始める。
中がじわじわ熱くなって、奥が緩む。
動きが少しだけ荒くなった。
指先が奥を探る。
こり、と当たる場所。
俺の視界が白く弾けた。
「あっ♡ そこ、そこっ、んぐぅ……!」
「ここか」
「やば、っ、やばい、好き、っ♡」
「……っ」
陸斗の呼吸まで荒くなる。
自分が遼をイかせられる。
その実感に、明らかに興奮していた。
俺はもう待てなかった。
陸斗の手首を掴む。
「もう入れて」
「まだじゃねえのか」
「もういい。欲しい」
「でも」
「陸斗の、早く」
その言葉で、最後の躊躇が切れたらしかった。
陸斗はコンドームを取った。
震える指で袋を破る。
慣れていない手つきだ。
それが逆にいやらしい。
本気で、これが初めてに近いんだと思う。
コンドームを竿に被せる。
太すぎて、途中で少し手間取る。
俺はそれを見るだけで興奮した。
好きな男のチンポが、自分に入る準備をしている。
それも、失恋の慰めを言い訳に。
ずるい始まり方だ。
でも始まれば、もうこっちのものだった。
「脚、持て」
「うん」
俺は膝裏を自分で抱えた。
大きく開く。
尻がベッドの端に浮く。
穴がぬらぬら光っているのが、自分でもわかった。
陸斗が先端を当てる。
熱い。
ゴム越しでも十分わかる太さ。
入口を何度か擦られるだけで、ぞくぞくした。
「……マジで入れんぞ」
「入れて」
「泣いても知らねえ」
「泣かせてみてよ」
強がり半分。
煽り半分。
陸斗の眉が寄る。
男の顔になった。
ぐっ、と押し込まれた。
「っ、ぁあ゛……!」
「く、っそ、狭……っ」
裂けそうな圧迫。
太い亀頭がねじ込まれる。
入口が熱く焼ける。
俺はシーツを掴んで、歯を食いしばった。
痛い。
でも、その痛みの芯に甘い痺れがある。
好きな男にこじ開けられている現実が、痛みを快感に変える。
「いいよ、来て」
「お前、ほんと……」
陸斗はゆっくり腰を進めた。
太い部分が少しずつ入っていく。
肉が押し広げられ、ぬち、ぬち、といやらしい音が立つ。
ローションが垂れて、尻の下を汚した。
「あ゛っ、そこ……!」
「まだ全部じゃねえ」
「っ、うそ……」
最後まで入ったとき、俺は声も出なかった。
ただ口を開けて、酸素を求めた。
腹が膨らむみたいな異物感。
尻の穴がきゅうきゅうに塞がれている。
陸斗の腰骨が尻に当たる。
本当に全部入っていた。
「は、ぁ……っ、すげえ……」
「陸斗……」
「お前、こんなの入れてんのかよ、いつも」
「いつもじゃ、ない……っ」
「嘘つけ」
「今が、一番……っ、いい♡」
それは本当だった。
陸斗はしばらく動かなかった。
たぶん自分もきついのだ。
遼の中の熱と締めつけを、初めて全身で感じている。
失恋の穴埋めで始めたはずなのに、もうそんな簡単な顔はしていなかった。
俺はその変化を見逃さない。
だから、わざと腰を少し揺らした。
中のチンポを、穴で擦るように。
「っ、遼」
「動いて」
「……煽んな」
声が低く落ちた。
次の瞬間、陸斗が引いた。
ずるっ、と抜けかけて。
すぐに、叩き込まれる。
「ぁあっ♡」
「く、っそ……!」
「は、っ、ぁ、いい、っ♡」
二度目は痛みより快感が勝った。
奥を太い先で抉られる。
前立腺の近くを擦られ、俺のチンポが跳ねる。
先走りが腹へ飛んだ。
陸斗はその反応を見て、完全にスイッチが入った。
腰が本格的に動き出す。
どん、どん、どんっ。
ベッドが軋む。
壁に小さく当たる。
ぬちゅ、ぱちゅ、ぐちゅ、と体液の音が続く。
コンドームのこすれる音と、汗ばんだ肌のぶつかる音が混ざる。
「っ、はぁ、あっ、んぐ、ぅ♡」
「締まる、っ、やば……」
「陸斗、すご……っ、深、いっ♡」
「お前が、っ、気持ちよさそうな声出すから……!」
その言い方に、俺はぞくっとした。
自分のせい。
そう言ってるも同然だった。
陸斗は腰を掴んだ。
指が食い込む。
逃がさない手だ。
野球部の主将候補らしい、容赦のない握力。
そのまま引き寄せられ、奥へ何度も突き上げられる。
「あっ♡ あ゛っ、そこ、そこぉ……!」
「どこだよ」
「奥、っ、右、んぁっ♡」
「注文多すぎんだろ」
「でも、ちゃんと、やる……っ♡」
そう。
こいつは言えばやる。
真面目だから。
俺が欲しいところを教えれば、そこを正確に突いてくる。
陸斗の角度が変わる。
次の一突きで、前立腺をまともに擦られた。
「あ゛っ♡♡」
「っ、そこか」
「やば、っ、やだ、出る、っ♡」
「まだ出すな」
「無理、ぃっ……♡」
陸斗の声も荒れていた。
俺の中に入れたまま、自分の快感もどんどん増しているのだろう。
腰の振りが重く、深くなる。
一発ごとにベッドが揺れる。
枕がずれて、シーツにローションが染みる。
俺は自分のチンポを握った。
先走りまみれだ。
しごくたび、ぬるぬる鳴る。
陸斗がそれを見て、息を呑む。
「触んな、俺がやる」
「え」
「手、貸せ」
陸斗は片手で腰を支えたまま、もう片方で俺のチンポを掴んだ。
ごつい手のひらが、熱い竿を包む。
その瞬間、俺は本気で頭が飛びそうになった。
「っっ、あ゛♡」
「これ、こうか」
「んぁ、ちが、もうちょ、上……♡」
「うるせえな」
「だって、陸斗の手、でっか、気持ちいい……♡」
握り方は雑だ。
でも力がある。
野球のマメが少し硬い。
それが皮を擦るたび、たまらない刺激になる。
後ろからは太いチンポで奥を穿られ、前は好きな男の手でしごかれる。
こんなの、我慢できるわけがなかった。
「は、ぁっ、あっ、出る、っ、出るぅ……!」
「待て」
「むり、っ、無理、むり、ぃ♡」
陸斗が腰を深く沈める。
同時に手で先を強く擦る。
俺はびくん、と跳ねた。
腹筋が攣るみたいに縮む。
白い精液が、どくどく弾けた。
自分の腹と胸に飛ぶ。
陸斗の手の甲にもかかる。
濃い匂いが一気に立った。
「あ゛っ♡ は、っ、ぁ、あぁ……♡」
「……すげえ」
「ん、ぅ、見んな……♡」
「見せつけといて今さらかよ」
そう言いながらも、陸斗は止まらなかった。
俺がイったあとも、腰を打ちつけ続ける。
中が敏感すぎて、俺は涙目で喘いだ。
「っ、あ、や、だ、っ♡ イった、のに……」
「俺まだ」
「はぁ、そう、だけど……っ♡」
「責任取れよ、俺を慰めるんだろ」
「っ、ふ、は、ずる……♡」
その言葉に、変な笑いが混じった。
でも本当にそうだ。
始めたのは俺だ。
なら最後まで付き合うしかない。
俺は足をもっと開いた。
自分から迎えにいく。
陸斗の目つきが変わる。
理性より、雄の欲が前に出る。
「遼」
「ん……?」
「お前、俺のこと、そういう目で見てたのか」
唐突だった。
でも、セックスの最中だからこそ出る問いでもあった。
陸斗の手が、俺の腹に残った精液をぬるりと広げる。
腰は止まらない。
奥を突きながら、そんなことを聞いてくる。
俺は息を乱したまま、笑った。
「今さら?」
「……今、わかった」
「遅い」
「遅えよな」
陸斗は苦そうに笑った。
俺は首を伸ばして、陸斗の肩に腕を回した。
汗まみれの首筋に噛みつく。
塩辛い皮膚を舐める。
「好きだよ」
「っ……」
「ずっと」
「今言うかよ、普通」
「今だから」
「……くそ」
陸斗の腰が乱れた。
効いている。
間違いなく。
失恋直後で、慰めのセックスの最中で、告白まで食らっている。
まともに受け止められるわけがない。
でも、受け止めきれない顔のまま、俺を抱く腕だけは強かった。
「俺、今日、お前が落ち込んでんの見て、ちょっと嬉しかった」
「最低だな」
「うん。でも好きだから」
「……そういうとこだよ」
何がそういうところなのか、説明はなかった。
でも陸斗は怒っていなかった。
ただ、困って、参って、どうしようもなさそうだった。
そのくせ、チンポは俺の中でますます硬い。
「なあ」
「ん……っ」
「たぶん俺」
「うん」
「お前に甘すぎたんだな」
無自覚だったものを、自分で掴み直す声だった。
「今さらだよ、陸斗」
「……ああ」
陸斗は俺の脚を肩に担いだ。
角度が変わる。
次の一撃で、奥をえぐられる。
「あ゛っ♡♡」
「こっちのがいいだろ」
「っ、ぅ、わかっ、てる、じゃん……♡」
「お前の顔見りゃわかる」
それが嬉しかった。
ちゃんと見ている。
俺のことを。
今、抱かれて喘いでいる男としてだけじゃなく、ずっと隣にいた俺として。
陸斗の突き上げが速くなる。
がつ、がつ、がつっ。
尻肉がぶつかり、湿った破裂音が散る。
汗が飛ぶ。
息が絡む。
空気が熱い。
「っ、はぁ、あ、遼、やべ……」
「ん、んぁ、なに、っ♡」
「出る」
「中? コンドームの中で?」
「当たり前だろ、ばか」
言いながら、陸斗の顔は完全に余裕がなかった。
眉を寄せ、歯を食いしばり、俺の腰を掴む手が震えている。
俺はその顔がたまらなく好きだった。
転校生を見ていた顔より、ずっといい。
「出して」
「っ」
「俺の中で、イって」
「遼……」
「欲しい」
その一言で、陸斗の理性が切れた。
最後の数発は、ほとんど叩きつけるみたいだった。
奥にどんどん当たる。
俺の視界がまた白む。
「あっ♡ あ゛っ、は、ぁっ♡」
「っ、く、ぅ……!」
「陸斗、っ、好き、好き、っ♡」
「っ、うるせ、ぇ……!」
ぐ、と一番深くまで入ったまま、陸斗が止まる。
腹の奥へ、脈打つ熱が伝わる。
コンドーム越しでもわかるほど、どくどくと精が吐かれていた。
「は、ぁ……っ、くそ……」
「ん、ふ……♡」
陸斗の体が震える。
重い。
熱い。
そのまま覆いかぶさられ、俺はベッドに沈んだ。
胸と胸がくっつく。
汗まみれの肌同士が、ぺたぺた貼りつく。
しばらく、どっちも動けなかった。
荒い呼吸だけが続く。
窓の外では、もう部活の声が消えていた。
代わりに、虫の音が細く混じる。
陸斗が俺の肩へ顔を埋めた。
風呂前の匂いが近い。
汗と土と男の臭い。
その中に、自分の精液の匂いも混ざっていた。
「……やっちまった」
「うん」
俺はわざとそっけなく返した。
すると陸斗が少し体を起こし、俺を見た。
その目は、さっきまでと違った。
失恋で空っぽになっただけの目じゃない。
ちゃんと俺を見て、困って、でも目を逸らさない目だ。
「お前、そうやってまた調子乗るだろ」
「乗るよ」
「だろうな」
「じゃあ責任取って」
「普通逆だろ」
そう言いながら、陸斗は俺の額の汗を親指で拭った。
あまりにも自然な仕草だった。
たぶん本人は気づいていない。
こういうところだ。
こういうところに、俺は何年もやられてきた。
陸斗はゆっくり抜いた。
ぬる、と中から離れていく感覚に、俺の穴が寂しくきゅっと縮む。
コンドームの先には白濁がたっぷり溜まっていた。
陸斗はそれを見て、なんとも言えない顔をする。
「……ほんとにやったんだな」
「見ればわかるじゃん」
「そういう意味じゃねえよ」
その声はまだ少し掠れていた。
けど、最初の乾いた掠れ方じゃない。
使い果たしたあとの、熱を残した声だった。
俺は起き上がって、ティッシュ箱を取る。
体液で汚れた腹をざっと拭く。
陸斗も黙ってそれを受け取った。
同じ部屋で、同じベッドの上で、セックスのあと始末をしている。
妙に生活感があった。
それが、俺には甘かった。
「風呂、行く?」
「……いや、今廊下出たら死ぬ」
「確かに」
「お前もだろ」
「俺は顔に出ないタイプ」
「真っ赤だぞ」
言われて、俺は少し笑った。
陸斗も、つられてわずかに笑う。
その瞬間、昼間に見たはずの中庭の光景が、一気に遠のいた。
勝った、とは思わない。
恋はそういう競技じゃない。
でも、ちゃんと届いたとは思った。
こいつの体にも、頭にも。
俺が何年も抱えてきたものが。
陸斗はティッシュを丸めてゴミ箱へ投げた。
外したコンドームも、その上に落ちる。
生々しい音がした。
「なあ、遼」
「ん」
「明日、気まずくすんなよ」
「陸斗がしなきゃね」
「……善処する」
「なにそれ」
また笑う。
笑ったあと、少し沈黙があった。
その沈黙はさっきまでと違う。
重たくない。
ただ、次をどうするか考えている沈黙だ。
陸斗は自分のベッドではなく、俺のベッドにそのまま腰を下ろしていた。
たぶん無意識だ。
戻るのが面倒なだけかもしれない。
でも俺には、それすら嬉しい。
「一回やったらスッキリするって言ったよな」
「言った」
「……余計面倒になった気がする」
「それはそう」
俺が即答すると、陸斗は眉をひそめた。
でも次には、諦めたみたいに息を吐いた。
「お前、最初からこれ狙ってた?」
「どう思う?」
「狙ってた顔だな」
「正解」
さすがにそこで、陸斗は大きくため息をついた。
けど怒らなかった。
その代わり、俺の頭をぐしゃっと撫でる。
乱暴で、でもやさしい手だった。
「ほんと、ずるいわ」
「知ってる」
「……でも、俺も悪い」
俺はその言葉に、少しだけ目を細めた。
陸斗は視線を逸らし、耳の後ろを掻いた。
野球部の試合前みたいに、照れたときの癖だ。
俺は何も言わなかった。
言ったら、たぶん今は軽くなる。
こういうのは、本人にちゃんと噛みしめさせたほうがいい。
陸斗はしばらく黙ってから、俺を見た。
「……次」
「うん?」
「次やるときは、慰めとかじゃねえからな」
短くて、ぶっきらぼうで。
でも、それで十分だった。
俺の腹の奥が、また熱くなった。
さっき散々抱かれて、出されて、イかされて、それでもまだ欲しくなる。
ほんとに性欲が強い。
自分でも笑うしかない。
「じゃあ次は、ちゃんと口説いて」
「もうしてんだろ、たぶん」
「全然足りない」
「めんどくせえ」
陸斗はそう言って、俺の肩を引き寄せた。
半分だけ抱くみたいな格好になる。
熱い体温が残っている。
同じ汗の匂いの中で、俺は目を閉じた。
網戸がまた、しゃり、と鳴った。
夕方はもう終わっていた。
部屋の中には、男二人がヤったあとの匂いが濃く残っていた。
それを嗅ぎながら、俺は静かに口元をゆるめた。
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