場所:湾岸地区・コンテナヤード
「ブモォォォ……! 女……女ハドコダ……ッ!!」
深夜の倉庫街に、獣の咆哮が響く。
第一号怪人・イノシシビーストは、苛立っていた。
最近は「アイギス・ライノ」や「スレイブ・レオン」といった新型怪人に主役の座を奪われ、ドクターキマイラからも「旧型」扱いされ、出撃の機会が減っていたからだ。
鬱憤を晴らすため、彼は勝手にアジトを抜け出し、手当たり次第に人間を襲おうとしていた。
「フゴッ!? ソコニイルノハ、メスか……!?」
彼が見つけたのは、赤いバイクスーツに身を包んだ人影だった。
獣の直感が、獲物だと判断する。イノシシビーストは、涎を撒き散らしながら猛然と突進した。
「ヒャッハー! 捕マエタァァァッ!!」
2. 紅蓮の正義、降臨
ガシィッ!!
イノシシビーストの丸太のような腕が、その人影を掴もうとした瞬間――。
その腕は、鋼鉄のような赤い手甲によって、片手で受け止められていた。
「……女性を襲うのが貴様の『進化』か? 笑わせるな」
「ブモッ!? ナ、ナンダ貴様ハ……!?」
月光の下、その人物が姿を現す。
深紅の強化スーツ、燃え盛る炎を模したバイザー。
人類を守るために結成された特殊戦隊『ブレイブ・レンジャー』のリーダー、ブレイブ・レッドだ。
「エヴォリュートの怪人だな。貴様らの悪行、これ以上は見過ごせない!」
「五月蝿イ! 俺ハ強イ! ドクターノ最高傑作ダァァァッ!!」
イノシシビーストは逆上し、肩のミサイルポッドを一斉発射した。
ズドドドーン!!
爆炎がレッドを包み込む。
「ハハハ! 木ッ端微塵ダ! 俺ノ勝チダァァァッ!!」
3. 旧型の限界
しかし、炎の中からレッドは無傷で歩み出てきた。
「遅い。そして軽い」
「ナ、ナニィ……!?」
レッドが地面を蹴る。その速度は、イノシシビーストの動体視力を遥かに超えていた。
ドゴォォォォン!!
「ブギィッ!?」
強烈なボディブローが、イノシシビーストの腹部に突き刺さる。
自慢の分厚い皮膚と筋肉が、たった一撃で悲鳴を上げた。内臓(と埋め込まれた機械)がひしゃげる音が響く。
「貴様の力は、ただの暴力だ。信念のない力など、正義の前では無力に等しい!」
「ウソダ……俺ハ、強イ……人間ヲ、支配スル……進化……種……」
イノシシビーストはよろめきながらも、獣の本能で爪を振り回す。
だが、その攻撃は空を切るばかり。
レッドは流れるような動きで懐に入り込むと、右腕にエネルギーを集中させた。
「ブレイブ・インパクトォォォォッ!!」
灼熱の炎を纏った拳が、イノシシビーストの胸部にある「ライフコア」を正確に撃ち抜いた。
バキィィィン!!
「ア゛……ア゛ア゛ア゛……ッ!!」
コアが砕け散る。
イノシシビーストの動きが止まった。
体内のエネルギーが暴走し、全身の傷口から赤い光が漏れ出す。
「ドクター……俺ハ……マダ……ヤレル……」
最期に脳裏をよぎったのは、自分を生み出した創造主の顔だった。
だが、その思考も熱量に飲み込まれて消滅する。
チュドォォォォォォンッ!!!
夜空を焦がす大爆発。
第一号怪人イノシシビーストは、跡形もなく消し飛んだ。
4. 創造主の冷徹な分析
場所:エヴォリュート移動要塞・司令室
モニター越しにその様子を見ていたドクターキマイラは、悔しがるどころか、薄ら笑いを浮かべてワインを揺らしていた。
「なるほど……。やはり『素体』の差か」
彼は、爆散したイノシシビーストではなく、勝利のポーズを決めるブレイブ・レッドの姿を熱心に見つめていた。
「イノシシビーストの素体は、ただの肉体労働者だった。
だが、あのヒーローは違う。鍛え抜かれた肉体、不屈の精神、そして正義という名の強烈な『エゴ』……。
あれこそが、私が求めていた真の素材だ」
ドクターは、イノシシビーストのデータファイルを「廃棄済み」フォルダへとドラッグ&ドロップした。
「ご苦労だったね、イノシシ君。君の死は無駄ではない。
おかげで、カナリーとミストレスへのプレゼント(ヒーロー)が、どれほど素晴らしいものか確信できたよ」
初期作の死は、エヴォリュートにとって悲劇ではなく、より凶悪な進化へのステップでしかなかった。
場所:高層ビル群・屋上
「フフッ……今夜の獲物はどの子にしようかしら……」
レイヴン・サキュバスは、月明かりを背に高層ビルのアンテナの上に佇んでいた。
その漆黒の翼と、ボンデージ風の肢体は、闇夜に溶け込み、獲物を探す死神そのものだった。
彼女の足元には、すでに数人の「骨抜き」にされた男たちが転がっている。
「あら、そこにイイ男がいるじゃない」
彼女の鋭い視線が、隣のビルの屋上に立つ人影を捉えた。
青いスーツに身を包み、夜風にマフラーをなびかせている男。
ブレイブ・ブルーだ。
「ヒーローですって? 生意気ね。私の口づけで、ただの家畜に変えてあげるわ」
レイヴン・サキュバスは音もなく空へ舞い上がり、滑空してブルーの背後へと忍び寄った。
2. 知性 VS 誘惑
「こんばんは、ボクちゃん。迷子かしら?」
ブルーの耳元で、彼女が甘く囁く。
同時に、麻痺毒を含んだ「幻惑の口づけ(チャーム・キッス)」を放とうとした。
バシィッ!!
「――遅い」
ブルーは振り返りもせず、レイヴン・サキュバスの手首を正確に掴み上げた。
「なっ……!? 私の気配を消すステルスを見破ったというの!?」
「計算通りだ。
このエリアでの被害者の発生分布、風向き、そして貴様の放つ不快なフェロモンの濃度……。
すべて計算すれば、貴様がここに来る確率は99.8%だった」
ブルーは冷静な声で言い放つと、彼女の腕を捻り上げ、一本背負いでコンクリートの床に叩きつけた。
ズドンッ!!
「キャアァァァッ!?」
「女性をいたぶるのは趣味じゃないが……貴様は害獣だ。駆除させてもらう」
ブルーが懐から専用武器「ブレイブ・ブラスター」を取り出し、銃口を向ける。
3. 黒翼の断末魔
「お、おのれぇぇッ! バカにするなぁぁッ!!」
レイヴン・サキュバスは激昂し、背中の翼を大きく広げた。
無数の黒い羽毛を手裏剣のように射出する「フェザー・レイン」だ。
「私を誰だと思っているの! ドクターに愛された夜の女王よ!
貴方なんてハチの巣にしてやるわ!!」
「無駄だ」
ブルーは慌てず、ブラスターのモードを切り替えた。
彼のゴーグルには、飛び来る羽の軌道と、レイヴン・サキュバスの急所(ライフコア)の位置が瞬時に解析・表示されていた。
「ターゲット・ロック。……サヨナラだ」
ズガガガガガッ!!
ブルーが引き金を引くと、蒼いレーザー光線が幾重にも放たれた。
それは飛来する羽をすべて撃ち落とし、正確無比な軌道でレイヴン・サキュバスの本体へと吸い込まれていく。
「い、嫌ぁぁぁぁッ! 私の翼がぁぁぁッ!!」
レーザーが彼女の自慢の翼を根元から切断し、最後に胸元のコアを貫いた。
バシュゥゥゥ……!
「あ……あぁ……ドクター……私、まだ……もっと……男を……」
レイヴン・サキュバスは膝をつき、空を掴もうと手を伸ばした。
だが、その体は黒い灰となって崩れ落ち、風にさらわれて消えていった。
夜の街を恐怖に陥れた搾精姫の、あまりにあっけない幕切れだった。
4. 執着の視線
場所:エヴォリュート移動要塞・司令室
モニター越しにその様子を見ていたのは、ドクターキマイラと、管理女王グリフォン・ミストレスだった。
「あらあら、あのカラス女、あっさり殺されちゃったわね」
ミストレスはワイングラスを傾けながら、同僚の死を嘲笑った。
だが、その視線は死んだサキュバスではなく、彼女を倒したブレイブ・ブルーに釘付けになっていた。
「でも……ゾクゾクするわ。あの冷徹な判断力、無駄のない動き。
そして何より、あの『知性的なプライド』の高さ……♡」
彼女の頬が紅潮し、呼吸が荒くなる。
「ドクター、あいつよ。あいつが欲しいわ。
あの冷静な顔を恐怖で歪ませ、私の靴を舐めさせながら、計算高い脳みそを快楽で焼き切ってやりたい……!」
ドクターキマイラは、ミストレスのサディズムが極限まで高まっているのを見て、満足げに頷いた。
「承知した。イノシシビーストに続き、レイヴン・サキュバスも失ったが……釣果は上々だ。
次なる作戦で、必ずや彼ら(ヒーロー)を生け捕りにし、君たちのペットにしてやろう」
二体の怪人の死は、エヴォリュートの怒りを買うどころか、魔女たちの欲望に油を注ぐ結果となった。
場所:湾岸地区・特設ライブ会場跡地
「みんな〜! 今日は私のスペシャルライブに来てくれてありがとー!
……って言いたいところだけど、邪魔者が来ちゃったみたいだねぇ。ピピッ(怒)」
瓦礫の山となったステージの上で、カナリーが不機嫌そうにマイクを握りしめた。
彼女の視線の先には、二人のヒーローが立ちはだかっていた。
「ブレイブ・レッド! 参上!」
「ブレイブ・ブルー。……推し活も大概にするんだな」
「うるさいうるさい! あんたたちなんか、私のファンがミンチにしてくれるんだから!
いっけぇぇ、タンク・アルマジロ君!」
カナリーの号令と共に、彼女の足元で丸まっていた巨大な鉄球が、猛スピードで転がり出した。
「ヒャッハァァァ! カナリーちゃんの為に、死んでこいって命令ですねぇぇッ!
最高のご褒美だァァァッ!!」
2. 連携技 VS 肉弾戦車
ギュイイイイン!!
高速回転するタンク・アルマジロが、レッドとブルーに突っ込む。
だが、二人は冷静だった。
「正面からの突進だけか。単純だな」
ブルーがブラスターで正確にアルマジロの進行方向を狙い撃つ。
バォン!
着弾の衝撃で回転軸がブレた隙に、レッドが跳躍した。
「単純な攻撃ほど、隙が大きいんだよッ!
ブレイブ・炎熱キック!!」
ドカァァァン!!
「ギャアアアベシッ!?」
レッドの炎を纏った蹴りが、アルマジロの甲羅の継ぎ目にクリーンヒットした。
彼はピンボールのように弾き飛ばされ、廃工場の壁に激突して埋まった。
「ひ、ひでぶっ……! カナリーちゃん……ごめんなさい……上手く転がれなかった……」
「ちっ、使えないボールだなぁ。
まあいいや。私が直接、あんたたちの脳みそを洗脳ソングでトロトロにしてあげる!
『聴いてください、新曲! デス・ボイス・ララバイ』♪」
カナリーが歌い始めようとした瞬間、ブルーが動いた。
「させるか! ソニック・ジャマー!!」
ブルーが特殊な音波妨害装置を起動。カナリーの歌声がかき消され、ただのノイズとなってしまう。
「えっ!? うそ、私の声が……出ない!?」
「音痴な歌は終わりだ。レッド、今だ!」
「おう! 覚悟しやがれ、エヴォリュートの歌姫!」
レッドとブルーが同時に構えを取る。彼らの最強合体技の体勢だ。
3. 歪んだ愛の盾
「まずい……このままだと、カナリーちゃんが……!」
壁に埋まっていたタンク・アルマジロが、朦朧とする意識の中で顔を上げた。
彼の目に映ったのは、必殺技のエネルギーをチャージするヒーローたちと、恐怖で立ちすくむ愛しのアイドルの姿だった。
(カナリーちゃんは……僕が守るんだ……。
だって僕は、彼女に踏まれるために作られた、最高の『盾』なんだから……!)
権田の脳内で、ドクターに改造された時の記憶と、カナリーに罵られた日々が走馬灯のように駆け巡る。
「カナリーちゃァァァァァんッ!!!」
アルマジロは最後の力を振り絞り、壁から飛び出した。
「ブレイブ・ツイン・バスター!!!」
レッドとブルーが放った、炎と氷の巨大なエネルギー波が、カナリーを直撃する――その寸前。
ドォォォォォォンッ!!!
「……え?」
カナリーが目を開けると、目の前には黒焦げになり、甲羅が粉々に砕け散ったタンク・アルマジロの背中があった。
「グフッ……ガハッ……。ま、間に合った……。
カナリーちゃん……無事、ですか……?」
彼は全身から煙を上げながら、それでもカナリーの方を振り向き、へらりと笑った。
「ど、どうして……? あんた、ただの『ボール』でしょ……?」
「はい……。ボールは、ご主人様を守るために、ボロボロになるのが仕事ですから……。
へへっ……最後に……カナリーちゃんの役に立てて……幸せ、です……」
アルマジロは満足げに目を閉じると、そのまま光の粒子となって崩れ去った。
歪んでいても、それは彼なりの「本物の愛」だった。
4. 歌姫の激昂
「…………」
カナリーは、足元に残されたアルマジロの装甲の破片を見つめていた。
彼女の心に去来したのは、悲しみでも、感謝でもなかった。
「……壊しちゃった」
彼女はポツリと呟いた。
「せっかくドクターが作ってくれた、頑丈で、便利な『おもちゃ』だったのに……。
私のお気に入りのボールを……よくも!!」
彼女の顔が、アイドルのそれから、ヒステリックな怪物の形相へと変わった。
「許さない……! 絶対に許さないからぁぁッ!
あんたたちなんか、ドクターに頼んで、一生トイレ掃除の刑にしてもらうんだからぁッ!! ピピッ(激怒)!!」
カナリーは捨て台詞を吐くと、煙幕を張り、翼を広げて空へと逃走した。
「逃げたか……。だが、これで少しは懲りただろう」
「ああ。それにしても、あのアルマジロ……歪んではいたが、見事な根性だったな」
レッドとブルーは、消えていった敵ながらも、その最期に敬意を表し、静かに現場を後にした。