ハロウィンはケモノのにおい

  街灯とジャックオランタンが照らす夜の街。

  近所を回り、お決まりの呪文を唱える。

  「トリックオアトリート」

  今日はハロウィンなので、狼男の仮装をして外に出ている。

  と言っても、そこまで本格的なものではなく、カチューシャタイプのつけ耳と、昔バザーで売っていた尻尾のアクセをつけて、それっぽいパンクなジャケットを羽織っただけ。

  ジャケット以外はほぼいつもの服と変わらない。

  「おっ、秀斗じゃん。

  お菓子どのくらいもらったんだ?」

  「俺たちよりも多いなら、ちょっと分けてくれよ」

  後ろから声をかけられて振り向くと、見覚えのある2人がいた。

  こいつらは友達の目黒と長田。

  小学校からずっと一緒で、よく一緒に遊ぶメンツのうちの2人だ。

  ちなみに目黒は髪型がオールバックで、長田は眼鏡をかけている。

  目黒はフランケンシュタイン、長田は吸血鬼の仮装をしている。

  「俺のお菓子はやらねえぞ。

  分けてもらいたきゃ別のやつに頼むんだな」

  「ちぇー

  ケチなやつ」

  ピロリン!

  俺のスマホが鳴った。

  「、、、五十嵐からだな。

  なになに、、、

  「お菓子用意して待ってるから、僕の家でゲームしない?」だってよ!

  みんなで行こうぜ!」

  五十嵐も小学校からの仲で、よく遊ぶメンツのうちの1人なんだが、

  よく変なことをしたり、いつのまにか背後にいたりする。

  時には突然姿を消したり、動物と楽しそうに話していることもあった。

  たまに「不思議くん」と呼ばれるのも無理はないだろう。

  「みんな、いらっしゃい!」

  五十嵐の家に入ると、五十嵐が出迎えてくれた。

  ちなみに五十嵐は魔女の仮装をしていた。

  「お邪魔しまーす」

  「相変わらず五十嵐ん家って、ハロウィンの日気合い入ってるよな〜」

  「そうかな?」

  「ハロウィンで家の中の雰囲気まるっきり変えるのはなかなかないと思うぞ」

  壁紙や装飾に至るまで、かなり細部まで作り込まれている。

  張っている蜘蛛の巣は本物そっくりで、玄関に置かれた枯れ木がそれっぽい雰囲気を演出していた。

  リビングで待ってて、と言われたので、リビングで五十嵐が来るのを待つ。

  「そういやあいつって、ちょっと不思議なやつだよな〜」

  目黒が突然変なことを言い出した。

  「突然どうした?」

  「あいつって異様に動物に懐かれるし、ちょっと目を離したらいなくなってたりするだろ?」

  「確かに!

  俺あいつが楽しそうに猫に話しかけてんの見たことあるぞ!」

  「そういや、五十嵐って時々「不思議くん」って呼ばれるよな。

  おれも五十嵐のことは詳しくは知らないし、、、

  、、、でも、獣人のマンガ読んでる時にめちゃくちゃ五十嵐に話しかけられたな。

  俺とも語り合えるレベルだし、あいつ俺と同じタイプだ」

  「つまりケモナーってことか?」

  「まぁそうなんじゃないか?

  同じ趣味を持つやつは惹かれ合うって言うしな」

  「お待たせ〜」

  そんなことを話していたら、五十嵐が戻ってきた。

  「はい!

  好きに食べてね!」

  五十嵐が持ってきた皿の上には、動物の形をしたクッキーやグミ、キャンディーがたくさん置かれていた。

  「うめー!

  これ全部お前が作ったのか⁉︎」

  「お母さんに教えてもらって作ったんだ。

  ほら、秀斗も食べてみてよ」

  とりあえず、犬の形をしたクッキーを一枚食べてみる。

  「なんだこれうまっ!」

  「グミもうまいぞ!」

  長田はキャンディーも食べ始めた。

  「酸っぱ!

  でもうめぇ〜」

  、、、なんだ?この違和感。

  体の中で、何かが変わっているような、、、?

  「秀斗、早く食べないと無くなっちゃうよ?

  もうストックもないしさ」

  「あっ、あぁ、、、」

  もう一枚、犬の形をしたクッキーを食べる。

  試しにグミも食ってみた。

  うまい。

  うまいがー

  全身にゾワっとした感覚が走る。

  突然めまいに襲われて、床に倒れ込む。

  息が苦しい、、、

  音も聞こえなくなっている。

  自分の手を見ると、どんどん灰色になっていっているのがわかった。

  全身が熱い。

  死ぬのか?

  だから視界が灰色に染まっていってるのか?

  でも床の色は茶色いままだ。

  、、、ちょっと待て。

  灰色になってるのは、、、俺の腕か?

  頭が落ち着きを取り戻すと、視界に犬のような長いマズルが写っていることに気がついた。

  手には肉球があって、鋭い爪も生えている。

  音はいつもより大きく聞こえるし、クッキーのいい匂いも強く感じる。

  雰囲気作りに置かれたであろう鏡に反射した自分はー

  狼の獣人の姿をしていた。

  アクセそっくりの尻尾まで生えている。

  カチューシャと尻尾はどこかにいってしまったか、一体化して俺の体の一部になったかのどちらかだろう。

  、、、というか、この姿、俺のファーソナ(理想のケモノ)だ。

  授業中にこっそり書いていた獣人と見た目が完全に一致している。

  理性はしっかりしているし、肉食本能が目覚めた感じはない。

  思考もクリアで、元から獣人だったみたいに違和感を感じない。

  、、、そういえば、目黒と長田はどうなったんだ?

  2人の方を見ると、2人とも俺と同じように獣化していた。

  目黒は俺と同じく狼の獣人になっていた。

  オールバックの髪型はそのままだが、黒かった髪は、体表を包む毛色と同じ茶色に変化している。

  長田は黒い猫獣人に獣化していて、眼鏡はかかったままだがなぜか落ちていない。

  支える部分もないのになんでだ?

  、、、いや、今はそんなことよりもっと重要な問題がある。

  なんで俺たちが獣化したんだ?

  2人は頭を押さえて、唸り声を漏らしている。

  まるで本能と理性が拮抗しているみたいだ。

  状況を飲み込めずに固まっていると、五十嵐が突然言葉を発した。

  「おいで」

  その言葉を聞くと、さっきまで頭を押さえていた2人は突然バッと顔を上げて、五十嵐に甘え始めた。

  「よしよし、、、

  いい子だね」

  「、、、は?」

  、、、まさか、これは五十嵐の仕業なのか?

  「、、、秀斗は僕に甘えなくていいの?」

  「いや、別に俺そういう欲求はないからな?

  獣化できたのは地味に嬉しいけどよ、、、」

  「、、、え?」

  「?」

  五十嵐が意外そうな表情になった。

  「、、、秀斗、もしかして自我があるの?」

  「はっきりとな」

  「、、、マジ?」

  「マジだ」

  「、、、」

  五十嵐は黙ってしまった。

  「とりあえず、説明してもらえるか?

  戻り方も含めてな」

  「、、、なるほど。

  お前は魔女の末裔で、今は修行中。

  お菓子に魔力を込めて、魔力の使い方を覚えていたと」

  「そう。

  魔力は一度入れたら戻せないし、ちょうどハロウィンだからみんなに悪戯をしようと思って」

  「つまり?」

  「これが僕からの「トリック(いたずら)」だよ」

  顔に手を当て、ため息をつく。

  と言っても、この体じゃ顔ではなく目の辺りに手を当てることになるが。

  「全く、、、面倒なことしやがって」

  「でも大丈夫だよ。

  もう一個食べれば元に戻るから。

  ちなみに僕には効かないよ」

  「、、、本当か?

  もう一枚食べたら支配されました〜、なんてことねぇよな?」

  「そんなことにはならないよ。

  ただ、本当に秀斗が意識を保ったのは想定外だったけど。

  、、、そういえば、秀斗ってケモナーだったよね?」

  「それがどうした?」

  「もしかしたら、普段から獣化欲があったから、意識を保てたのかも?」

  「、、、よくわからんな」

  「ね」

  とりあえず、クッキーをもう一枚食べる。

  すると、さっきと違って特に苦しむこともなく、すぐに人間の姿に戻った。

  「、、、もしかして」

  五十嵐が俺の口にキャンディーを押し込んだ。

  「んぐっ!

  何すんだよ⁉︎」

  俺はキャンディーをそのまま飲み込んでしまった。

  また獣化する!

  、、、ん?

  「やっぱり獣化しないね」

  「俺で実験したのか?」

  「じゃあ、今度はさっきの姿を目を閉じた状態でイメージしてみて」

  「は?」

  「いいからいいから」

  、、、なんか気に食わないが、一応従っておこう。

  さっきの姿を想像する。

  灰色の毛並み、長く伸びたマズル、ピンクの肉球、大きめの尻尾、鋭い爪、ピンと伸びたケモ耳、、、

  そういえば、目も人間の状態とは違ったな。

  「、、、やっぱりだ」

  「何がだ?」

  目を開くと、さっきと同じ獣化した姿の俺がいた。

  「は⁉︎

  どうなってんだよこれ⁉︎」

  「どうやら、秀斗は獣化を制御できるみたいだね。

  多分ケモナーだからかな。

  僕は魔力があるからー」

  五十嵐が狐の獣人の姿になる。

  「好きに獣化できるけど」

  「、、、一応聞くが、獣人をも振りたいという欲だけでこんなことしたわけじゃないよな?」

  「、、、ノーコメントで」

  こいつ確信犯か。

  「、、、とりあえず、2人を元に戻そうぜ」

  残っていたお菓子を俺たちで食って、残しておいた二つを2人に食べさせる。

  人間に戻った直後は気絶していたが、2人はすぐに起き上がった。

  「、、、ありゃ?

  俺たち、、、」

  「、、、何してたんだっけ?」

  五十嵐と擦り合わせておいた台本を元に誤魔化す。

  「お前らはしゃぎすぎて飾りが落ちたんだよ。

  それに頭ぶつけて気を失ってたんだ」

  「そうだったか、、、?

  まぁいいか」

  「あっ!

  お菓子がもうない!」

  「お菓子ならみんなで食べたでしょ。

  腹ごしらえも終わったんだし、ゲームしよう!」

  「そういやゲームするんだったな。

  何する?」

  「大乱闘でもするか?」

  <終わり>[newpage]

  •ビーストクッキー、ファーリーグミ、ハロウィンキャンディー→獣の形をした美味しいクッキーとグミとキャンディー。魔力が込められている状態のものを食べると、姿が獣に変わる。魔力を持たない者が食べると高確率で本能に負け、元の種族がわからなくなる。ケモナーだけは確定で意識を保つ上に獣化を制御できるようになる。元に戻るにはもう一度魔力の込められたお菓子を食べる必要がある。自我が変化しても元の姿に戻ると自我も一緒に戻る。一度でも獣化状態から戻ると獣化を制御できるようになる。