少年狼、水遊びで本気になってしまう。

  陽が傾き始めた森の奥深く、木々の間を縫うようにして進む一つの影があった。灰色の毛皮に覆われた、まだ幼い線の細さを残す狼獣人の少年だ。肩には太い蔓で編んだロープが食い込み、手製のそりを軋ませていた。

  「……ふっ…!」

  荒い息が、白い靄となって空気に溶ける。そりの上には、見事な角を持つ若い雄鹿が横たわっていた。腹を裂いて内臓も的確に取り出され、首筋の一筋の切り傷から丁寧に血抜きまで済まされている。

  少年の名はアシュ。狼獣人らしい精悍な顔つきにはまだあどけない幼さが残り、灰色の毛皮で覆われた体は大人の男たちのそれと比べれば頼りないほど細い。だが、未成熟な四肢には狩りと鍛錬の賜物たる筋肉が、確かな熱を帯びて発達し始めている。

  その体が今、大きな獲物を載せたそりを引いている。肩にずしりとかかる負荷さえもが心地よく、彼の口元を満足げに歪ませていた。大きく息すれば、肺を満たすのは鉄の匂い。辺りには己の汗と獣の血、それに臓物の生臭さが混じり合った、濃密な死の香りが立ち上っていた。

  狼の尻尾が、隠しきれない高揚感に小さく左右に揺れている。

  狩りの確かな手応えは、ふと昨晩の出来事を思い起こさせた。

  辺境の村にある、唯一の酒場。夜になれば顔なじみの猟師や村の男たちが集い、安いエールを呷るような、寂れた場所だ。隅の席で、アシュの師匠は古い馴染みと静かに杯を交わしていた。大人びた雰囲気に憧れて、聞き耳を立てていたアシュに気づくと、師匠は呆れたように、しかし悪戯っぽく笑った。

  『なんだ、お前。いっぱしの男みてえな顔して聞き耳立てやがって。いいかアシュ、背伸びするのも大概にしとけ。お前が獲物を仕留める腕は確かだがな、こういう酒の味が分かるようになるには、まだちいと早えんだよ』

  周囲から漏れたのは、微笑ましいものを見るような温かい笑い声。だが、それが子供扱いされている何よりの証拠で、アシュのプライドをひどく傷つけた。

  (…へっ、どうだ師匠。これでもまだ、俺をガキ扱いする気かよ)

  アシュは己の腕を見下ろす。灰色の毛皮に覆われた、まだ線の細い腕。だが力を込めれば、しなやかな筋肉が硬く盛り上がる。師匠や酒場の大人たちの丸太のような腕にはまだ遠くても、数年前の自分とは明らかに違う。戦うための肉体へと変わりつつある。成長の自覚が、ロープを握る手に一層の力を込めさせた。

  しかし高揚感とは裏腹に、体は正直だった。じわりと、太腿の筋肉が熱を持って震え始める。肩に食い込むロープが、急にずしりと重みを増したように感じられた。狩りの間、獲物を追跡し、息を殺して待ち伏せ、最後の一撃に全神経を集中させた。そんな緊張が途切れた今、体中に疲労が重く圧し掛かる。

  「……ちっ」

  思わず舌打ちが漏れ、そりを引く足が止まった。瞬間、張り詰めていた気がぷつりと切れ、ごまかしきれない疲労が全身を鉛のように重くする。

  アシュは誰に見られているわけでもないのに、その場にへたり込みたい衝動を意地で押さえつけ、代わりに腰の水筒を抜き放った。ぬるくなった水を一気に呷ると、乾ききった喉を液体が潤していく感覚に、ようやくひと心地つく。思考も幾分か鮮明になった。とはいえ、被毛に染み付いた汗と獣の血の生臭さだけはどうにもならなかった。

  (このまま帰るのもな…………そうだ)

  アシュの頭に浮かんだのは、この森のお気に入りの場所。村へと続く帰路を外れたところに、水の綺麗な泉があるのだ、あそこなら汚れを洗い流すにはうってつけだし、少し手間だが獲物の処理も済ませてしまえばいい。

  そう思い立つや否や、アシュは村への道を外れ、泉へと続く獣道へ足を踏み入れた。

  森の奥深く、そこはあった。岩の間から清らかな水がこんこんと湧き出し、静かな水面をたたえる泉。そこから溢れた水がさらさらと音を立てて流れ出す、一本の小川。外界の音が嘘のように途絶え、聞こえるのは己の心臓の音と、水のせせらぎだけ。ひんやりと湿った空気が、火照った体を撫でていく。

  アシュはまず、鹿を載せたそりを小川まで引き寄せ、獲物の最終処理を手早く済ませることにした。冷たい流れで腹の内部を洗い、残った血を丁寧に流していく。作業を終える頃には、自分の毛皮もさらに汚れてしまっていた。

  「……よし」

  短く呟くと、アシュは今度こそ自分の体を清めるために泉の方へと向かう。そして満足気にため息をつき、無造作に革鎧を脱ぎ捨てた。ナイフを下げたベルトも解き地面に放る。狩人としての緊張から解放される瞬間だ。全裸になり、己の体を見下ろす。灰色の毛皮の下で、日々の鍛錬が確かな形を結び始めている。大人の男たちのようではないが、もうただの子供の体でもない。アシュは変化を正確に理解しているつもりだった。

  腕に力を込めると、ささやかな力こぶが盛り上がる。悪くない。誰に見せるでもなく、少し得意気に口の端を吊り上げた。

  (へへっ……男らしい体になってきたんじゃねえか?)

  冷たい水が、足先の毛皮を濡らす。びくり、と小さく身を震わせ、ゆっくりと体を沈めていく。膝下まで浸かると、狩りで火照った体に水の冷たさが心地よく染み渡った。

  「……ふぅ」

  安堵のため息が漏れる。狩りの緊張から解放され、膝まで浸かった泉の冷たさが、火照った体に心地よく染み渡っていく。全身の筋肉の強張りがゆっくりとほどけて、思考が静かな水面のように凪いでいく。だが、それも束の間だった。

  脳裏に蘇るのは、己の力で巨大な鹿を仕留めた、あの圧倒的な高揚感。――俺は、強い。そんな万能感も、すぐに師匠にからかわれた昨夜の記憶によって焦燥感へと変わる。認められたい。けれど、まだ子供だと笑われる。

  精神的な興奮と、肉体の疲労と弛緩。二つの熱が混じり合い、行き場をなくして、じわりと下腹部へ集まってくる。

  熱の正体に、アシュは思わず息を呑んだ。意識するまでもなく、己の垂れていたものが、いつの間にか腹に付かんばかりに勃起している。あまりにも正直な肉体の反応に、カッと頬に血が上る。もし誰かに見られたら――そう考えただけで、狼の鋭敏な聴覚が、森の僅かな物音にも過敏に反応した。

  聞こえるのは梢を揺らす風の音と、水滴が苔を濡らす微かな音だけ。ここは自分だけの聖域。燃えるような羞恥心は、ゆっくりと背徳的な好奇心へと変わっていく。

  ――誰も、見ていない。

  確信が、アシュに今までしたことのない大胆な行動を許した。

  恐る恐る、それでいて強い興味に引かれて、アシュは己自身へと視線を落とす。毛むくじゃらの陰嚢。そこから伸びる、まだ若さゆえの青さが残る肉竿。村の同年代の奴らよりは太くて大きい、という自負が心をくすぐる。だが、包皮はまだ完全には剥けていない。

  意を決して、濡れた手で己の勃起に触れる。まずは竿の先端、緩く亀頭を覆う包皮の先に、そっと指を這わせた。すると、小さな先端の口から、とろりとした透明な蜜が滲み出る。ひやりとした指先と、熱を帯びた蜜。温度差に、ぞくりと背筋が震えた。

  粘液を指で絡め取り、包皮の上から、中に隠れた亀頭を確かめるように、くり、と扱いてみる。野暮ったい皮一枚を隔てて、敏感な粘膜が内側から捏ねられる感触。ぐちゅり、と中で蜜が蠢く生々しい音。

  「ん……」

  まだ遠慮がちな、甘い吐息が漏れる。この体の熱を自分の手でどうにかできると知ったのは、ほんのひと月前のことだ。数えるほどしか試したことはなく、どうすれば一番気持ちいいのかも手探りの状態だった。

  ただ本能のままに、指の腹で竿を擦り上げてみると、びく、と体が大きく跳ねた。だが快感への戸惑いも、一瞬で好奇心へと塗り替えられる。手つきは次第に大胆になっていく。

  指先に絡みつく、ぬるりとした先走り。そいつを一度すくい上げて、まじまじと見つめてみる。太陽の光を浴びて、きらきらと粘り気のある糸を引く。くんくんと鼻をひくつかせれば、快楽に緩んでいた顔付きが一瞬だけ苦々しく歪む。

  (うわ……くっせぇ……)

  しかし、これが自分の体から出てきた。おぞましくも誇らしいような、奇妙な感慨がアシュの興奮をさらに煽った。

  狼の鋭敏な嗅覚が捉えたのは、獣としての己の、まだ熟しきっていない、それでいて生々しい雄の匂い。――その匂いは、ある記憶の扉をこじ開けた。

  村の酒場。火の粉が舞う暖炉のそばで、酔っぱらった大人たちが交わす、下品で、それでいて抗いがたいほど魅力的な猥談の記憶だ。隅の席で聞き耳を立てていたアシュの脳裏に、とある傭兵のがらがら声が蘇る。

  『いいか、お前ら。熊族の女のふわふわの乳袋も最高だがよぉ、人間の女ってのも侮れねえぞ。この前抱いた行商人の女、見た目は華奢で折れそうだったのによぉ、夜になったら腰の振り方がまるで……』

  傭兵が続けた言葉は、周りの下品な笑い声に掻き消されて、アシュの耳には届かなかった。だが、それで十分だった。断片的な知識が、彼の頭の中で、熱を帯びた具体的な妄想へと変わっていく。

  猥談に出てきた、ふわふわの乳袋。村で洗濯物を運ぶ人間族の女の、服の上からでも分かる柔らかな体の線。それらがごちゃ混ぜになり、顔も知らない、都合のいい“女”の姿を形作る。拙い妄想が、欲望を加速させた。

  「はあっ…ん、ふぅ…っ…」

  もう、ただ扱くだけではない。腰が勝手に小さく揺れ始めた。膝下の深さの泉の水が、ぱちゃ、ぱちゃ、と情けない音を立てる。妄想の中の女に腰を擦りつけるように。動作そのものが、アシュの肉竿をさらに硬く、熱くさせる。

  呼吸が荒くなる。頭の中は妄想と“気持ちいい”だけで満たされる。もう、周りのことなんて見えていない。聞こえていない。ただ、もっと気持ちよくなりたい。本能だけが、彼の体を支配していた。

  「はっ…、はぁっ…!」

  着実に快感の波が押し寄せてくる。顎が上がり、無防備に喉が晒された。最近になってようやく形を成してきた喉仏が、ごくりと上下する。もっと強く、もっと速く。熱に浮かされたように、竿を握る手つきが乱暴になっていく。ただ快感の頂へ至りたい一心で、無我夢中で腕を扱き続けた。

  その時だった。

  足元で、ぐにゅり、と不快な感触。水底の苔むした岩に足を取られ、体勢が大きく崩れる。

  「うおっ!?」

  短い悲鳴とともにアシュは体勢を崩し、派手な水しぶきを上げて水底に尻もちをついた。

  「くそっ……!」

  尻を打った鈍痛と半身が水に浸かった衝撃で、分かりやすく悪態をつくアシュ。じんじんと痺れる尻を押さえながら、ゆっくりと目を開ける。先ほどまでの熱狂が嘘のように、頭が冷えていく。硬く勃起していた肉竿が、水の冷たさと醜態に勢いを削がれてしまった。天を突くような威容も、水中でわずかに項垂れている。

  (もう少しだったのに……!)

  苛立ち紛れに水面をバシャリと叩き、慌てて立ち上がろうとした。だが、彼が立ち上がることはなかった。太腿の内側を、ぬるりとした何かが這ったからだ。

  小魚か。いや、もっと重たい。藻が絡みついたのか。違う。水っぽい肉を思わせる、生々しい弾力。明確な意思を持って、ゆっくりと、しかし執拗に、アシュの股座の中心へと向かってくる。

  ぞわり、と全身の毛が逆立った。本能が警報を鳴らす。

  そこにいたのは――臓物だった。アシュの太腿ほどもある、ぬらぬらと黒光りする塊。それ自体がひとつの巨大な筋肉みたいに、水中でドクドクと脈打っている。

  「――っひ!」

  喉から引き攣った悲鳴が漏れる。強がりでは打ち消せない恐怖と、強烈な嫌悪感。無我夢中で追い払おうとするが、体表を覆う粘液で指が滑り、まともに掴むこともできない。

  そうしている間にも“それ”はアシュの太腿の内側に円盤状の吸盤を押し当て、血を吸おうと蠢く。だが、密生した毛皮が邪魔をして、うまく吸い付くことができない。

  吸盤が皮膚を探して這う、ぞっとする感触。毛先が吸われ、細かな歯がチリチリと引っ掻くような、痛みとも痒みとも違う不快な刺激が、何度も繰り返される。しかし、やがてそれも終わりを告げた。アシュの錯乱した動きが、かえって事態を最悪の方向へと導いたのだ。

  太腿に張り付いていた“それ”が、アシュの暴れる動きで不意に剥がれ、水の流れと慣性に任せて、よりにもよって半勃ちになっていた股座の中心へと滑り込んだのだ。

  「っ……ん、ぁ…?」

  脳天を貫いたのは、生命を吸い取られるような生暖かさ。醜い生き物の肉がぐにり、ぐにりと蠢く冒涜的な感触。

  頭は嫌悪感を叫んでいる。それなのに、アシュの股間は正直だった。恐怖とは別に、腹の底からじわりと熱が湧き上がる。竿の先から意志とは無関係に先走りが滲み出て、そいつの冷たい皮膚との間に薄い膜を作り上げる。

  (あ、やばい、これ…チンポが、勝手に…!)

  気持ち悪いはずの滑りが、最悪なことに、致命的なほど気持ち良かったのだ。

  「あっ…ぅ、あ…」

  自分で扱く覚えたての快感など、一瞬で色褪せて消し飛んでいく。眼下、水の中にあるのは、グロテスクで、生々しくて、それでいて今まで知らなかった異物の感触。

  恐怖も嫌悪感も、まだ確かにある。だが、それらを飲み込むように、腹の底からもっと原始的な欲望が鎌首をもたげてくる。

  嫌悪と快感。脳をぐちゃぐちゃにかき混ぜる相反する感覚。そのあまりの異質さが、逆にパニックで沸騰していた思考に、一筋の冷静さをもたらした。

  (……なんなんだ、この気持ち悪いの……)

  狩人としての本能が、慌てふためく醜態から、観察する者へとアシュを強制的に切り替えさせる。水底に擬態する黒い体色、ぬらぬらとした醜い軟体。血を吸うためのおぞましい吸盤。水中で波打つような特徴的な蠢き。森の沢で、獲物の体表で、何度も見たことがある。

  (こいつ……もしかして[[rb:血吸い虫 > ヒル]]か……? こんなにデカいの見たことねぇ……!)

  途端に、得体の知れない怪物への恐怖は霧散した。馬鹿げたほど巨大ではあるが、正体はただの下等生物。師匠に教えられた危険生物のリストにも載っていない、ただの虫ケラだ。牙も、爪も、毒もない。ただ、ひたすらに不快で、醜いだけの。

  頭ではそう分かっている。

  分かっているのに、腹の底から湧き上がるこの熱は。竿に絡みつく、この脳を痺れさせるような感触は。

  気持ち悪いのに、気持ちいい。

  相反する感覚が、アシュの頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。自尊心が警鐘を鳴らしている。こんなものに屈してたまるかと。しかし、身体の芯で疼く今まで知らなかった熱い疼きが、理性を麻痺させていく。

  (……なんだ、これ……)

  震える指が、確かめるように、己の竿に巻き付く肉塊に、そっと触れた。

  「ぐっ…、ぅ…」

  漏れたのは、恐怖に引き攣った悲鳴ではなかった。少年らしい甲高さが消え失せ、欲望に掠れた、獣じみた低い喘ぎ。己の快感を貪欲に肯定する、雄としての産声。

  確かめるように、アシュは己の竿に巻き付く肉塊にそっと触れる。腰が震えたのは、自分で触れることでさらに増幅された快感のせいだった。

  (こいつを使えば、もっと…)

  思考はもはや獣のそれに近い。彼は、まだ半勃ちの己の竿に絡みついたままの、血吸い虫のぬるりとした胴体を、両手でそっと掴んだ。アシュに掴まれたことで身の危険を感じたのか、血吸い虫はにゅるり、にゅるりと必死に身を捩って抵抗する。だが、その頭部はアシュの内腿に吸盤でがっちりと張り付いているため、逃げることはできない。

  無意味な抵抗が、アシュの支配欲を煽った。蠢く肉体を無理やり押さえつけ、よく冷えた軟体で竿を扱くように上下させ始めたのだ。

  「ふぅ、…ぅ…っ!」

  指の腹とは違う、生きた肉の、滑らかで、それでいて確かな弾力。軟体が波打って蠢くたび、竿がくすぐられるような、ざわざわと粟立つような快感に襲われる。

  もっと深く、もっと速く。欲望のままに手を動かしているうちに、指先が血吸い虫の体表のある一点で、奇妙な感触を捉えた。吸盤がある頭とは反対側、尾に近い部分。そこに、一本の深いスジ――割れ目があった。

  アシュは性的な好奇心に駆られ、扱く動きを止めて、割れ目をそっと指でなぞる。すると、まるで待っていたかのように、割れ目がぬるりと開き、指先が吸い込まれてしまった。

  ぬるりとした生暖かい感触。指先が柔らかい肉にくにゅりと食い込む。中から水とは違う粘液がじわりと溢れ出て、まとわりつく。試しに指を動かせば、きゅう、きゅう、と内壁が締め付けてきた。

  (これ…酒場で聞いたやつと同じだ…!)

  指先から伝わる、あまりにも生々しい反応。その感触は、アシュの記憶を呼び覚ました。

  年嵩の傭兵が語っていた、女の体にあるという淫らな肉の割れ目の話だ。指を入れただけで粘液に塗れた内壁が、きつく締め付けてくるのだと、下品な笑い声と共に語られていた。当時のアシュは話の半分も理解できなかったが、生々しい言葉の響きは頭にこびりついていた。

  そして今、妄想でしかなかった感触が、目の前の現実として指に絡みついている。

  「こいつ…!」

  途端に、腹の底から今まで感じたことのない種類の熱が突き上げた。冷水に勢いを削がれていた己の肉竿が、熱に呼応するように、再び石のような硬さを取り戻していく。ドクン、ドクンと、血管が力強く脈打つ。

  もう頭にはチンポと割れ目だけ。尻もちをついたまま、水中でヒルのぬめった体を下からすくい上げるように持ち上げる。そのままギンギンに怒張した竿の先っぽを、試しに生温かい割れ目に擦りつけようとしていた。

  ――それだけのつもりだった。

  ヂュプッ…

  まるで待っていましたと言わんばかりに、肉の割れ目がアシュに吸い付いた。

  「え…ぁ?」

  手で扱くのとは比べ物にならない、温かく、ぬめる内壁。それがまず、皮被りの亀頭を丸ごと包み込む。今まで経験したことのない全方位からの快感が身を縮こまらせた。

  「…はぅ……あっ……!」

  狼獣人の鋭い口吻から、間の抜けた声が漏れる。全ての動きが止まり、ただ呆然と、股座で繰り広げられている信じられない光景を見下ろした。

  身体が抵抗しようとするより早く、肉の割れ目が意思を持ったように蠢き始めた。ぬめりを帯びた無数の肉襞が、まず呑み込んだ亀頭の鈴口をちろり、と舐める。そして内壁の蠢動が、アシュのまだ固く閉じた包皮の縁に狙いを定める。アシュが深部に呑み込まれると同時、肉襞がその僅かな隙間にぬるりと侵入し、こじ開けるように、ぬるり、ぬるりと根元へと引き剥がしていく。粘り気のある生臭い粘液が潤滑剤となり、今まで一度も剥かれたことのなかった包皮がゆっくりと、しかし容赦なく引き伸ばされていく。

  包皮がカリの縁を越え、根元まで完全に引き剥がされた瞬間、ツンと鋭い痛みが走った。

  「うぁっ!? な、なんだ……は、ああぁ…っ」

  だが、痛みは一瞬のこと。今まで知らなかった種類の、脳を焼くような快感に塗り替えられた。生まれて初めて完全に剥き出しにされた過敏な亀頭粘膜は、生温かい肉壁にぬるりと包み込まれてしまったのだ。

  腰が大きく跳ね、背筋が強張る。逃げ出そうにも、快感が鎖のように体を縫い付けて、身動き一つ取れない。嫌悪感も、混乱も、この絶対的な気持ちよさの前には意味をなさない。

  (あ、だめ、これ、きもち、よすぎ、る…っ)

  無数の柔らかな肉の粒が裏筋を執拗に撫で、初めて外に晒されたカリ首の縁をなぞり、尿道口の僅かな窪みへと吸い付くように蠢く。今まで感じたことのない、身体の芯が直接弄られる感覚。自身の手でするのとは比べ物にならない。追い払おうとか、引き抜こうとか、そんな考えはもう欠片も浮かんでこなかった。

  むしろ、もっと奥へ、もっと深くへ。この快感の源から、一瞬たりとも離れたくない。

  「ん…っ、ふ、ぅ…あぁ…っ…」

  ただひたすら与えられる快感に、為す術もなく喘ぐアシュ。腰がびくんと跳ねたのは拒絶ではなく、より深い結合を求める本能的な動きだった。応えるように、割れ目はさらに深く、アシュの肉竿を根元まで呑み込んでいく。

  完全に呑み込まれたことで、アシュは悟った。ああ、もうダメだ。ここからは、もう抜け出せない。

  それは、雄を迎え入れ快感を貪るためだけに進化した、冒涜的な穴だった。蠢く肉壁にびっしりと生えた絨毛が、竿の皮膚の全方位をざらざらと擦り続ける。襞が脈打つ血管に蛇のように巻き付いては、強制的に血流を加速させる。一番奥では、硬い軟骨のような突起が、剥き出しになったばかりの亀頭の先端を、抉るように執拗に嬲り続ける。

  アシュのプライドの象徴たる男性器は、快楽と引き換えに得体の知れない生き物に弄ばれるだけの、一本の肉の棒になり果てていた。

  次第に、腰の中心が灼けつくような熱を持つ。尻の穴が引き締まり、二つの玉が下腹部にめり込むほどきつく縮み上がる。未熟な体は、あまりに強烈すぎる刺激に耐えきれなかった。背中が弓なりに反り、腹筋が硬く板のようになる。腰が一度、大きく痙攣した。

  (あ、出る……! 中で、イく……!!)

  そう思った時にはもう遅い。思考より先に、体が限界を告げていた。睾丸の奥から、熱い奔流が突き上げてくる。

  「ん"っ、ぁああああッ!」

  ビュッ!と勢いよく噴き出したのは、ほとんど透明な薄い精液だった。

  アシュの精液が胎内に注ぎ込まれた瞬間、射精中の竿を包む肉穴が、まるで灼熱の鉄を浴びたように、びくん!と激しく痙攣した。今まで以上に強く、アシュのチンポを締め上げる。

  締め付けは迸る精液の流れを無理やり堰き止め、逆流させるように亀頭を圧迫する。締め上げられたまま、内部の無数の隆起が奥へ奥へと吸引するように蠕動する。ただでさえ気持ちよくなっている竿をさらに扱かれ、射精しながら射精を促される快楽地獄に陥るアシュ。

  「んぅう…あ、ぁあ…っ!」

  脳が快感で蕩けきった、甘く掠れた声が漏れる。腹の底で、さっきとは比べ物にならない熱量が爆発した。

  どくんっ……びゅるっ…! びゅるる、びゅく、びゅくッ…!

  一瞬でも射精を中断させられた反動で、今度は若々しくも粘り気を増した健康的な精液が、締め付けをこじ開けるように迸る。自分の身体ではないみたいに、腰はがくがくと痙攣し、アシュの意志を無視して精液を絞り出していく。

  熱い精液がぶちまけられるたびに、胎内が歓喜するように脈打ち、さらに強く締め付けてくる。精液を吸い上げ、もっと寄越せと強請るように。射精の快感と、締め上げられる快感。二つの快楽の波状攻撃。

  (やばい、だめだ、中に出すのは…っ、だめだって、言ってたのに……!)

  アシュの若い精液を胎内に注ぎ込まれ、今まで黒一色だった血吸い虫の体表に、まるで血管が浮き出るように、幾筋もの鈍い赤紫色の文様がじわりと浮かび上がった。それは、極上の栄養を得たことによる、生物としての純粋な歓喜の証。

  自分の恥部から出た熱いものが、自分のものでない生温かい肉の中で、ぐじゅぐじゅと混じり合う感触。頭の片隅で、本能が警鐘を鳴らしていた。獣人の男として、得体の知れないものの胎内に、己の種を注ぐことがどれほど愚かで危険なことか。

  だが、そんなためらいも快感の濁流に一瞬で掻き消された。これが屈辱的で、汚らわしくて、それでいて、どうしようもなく雄の本能を揺さぶる、途轍もなく気持ちのいいことであるという事実だけが、全てだった。

  「あ…っ、は、ふぅ…っ…ん、ああぁ…っ!」

  理性が焼き切れた絶頂の声と共に、ついさっきまで包皮に守られていた未熟なチンポは、その最初の精液を、下等な生物の胎内へと根こそぎ搾り取られていく。チンポからビュッ、ビュッ、と断続的に精液を吐き出しながら、アシュは恍惚と首を反らせて生中出し射精快楽に浸る。完全に力が抜けた口吻の端から、一条の唾液がキラリと糸を引いた。

  (きもち、よすぎて……ぜんぶ、でちゃった…)

  思考と同時に、全身の力が抜け落ちる。未だ呆然と反らされた首はそのまま、割れ目と繋がった股間は、自分の身体ではないみたいに熱く脈打っていた。

  肉穴は満足したように律動し、注がれたばかりの精液を奥へ引き込んでいく。生温かい感触が腰の芯を痺れさせるたび、脳裏に酒場のざわめきが蘇った。

  ――『中にさえ出さなきゃ、ただのキモチイイ穴だ』

  ――『もし孕ませでもしたら、一生モンだぞ』

  下卑た笑い声とともに頭にこびりついた言葉の意味を、アシュはまだ知らない。知らないのに、自分の身体から出た熱いものが、自分のものでない生温かい肉の中で、何かとんでもないことを引き起こすのだと、腹の底がぞわりと疼いて理解させた。

  だが、本能的な胸騒ぎさえも、ぐにゅり、と締め上げる胎内の快感が、いともたやすく塗りつ潰していく。

  吐精を終えても萎えるどころではない。先ほどまでとは比べ物にならない、もっと獰猛で、根源的な熱が突き上げてくる。

  (足りねぇ……まだ……!)

  一度知ってしまった快感は、彼の飢えを癒すどころか、さらなる渇きを呼び覚ました。つい先ほどまでの快楽は、ただの事故の産物だった。だが、次は違う。

  「グルルルル……っ!」

  喉から漏れるのは、もはや少年の声ではない。獲物を前にした、低い獣の唸り声。呼応するように、一度は満足したはずの肉体が再び滾り始める。身体の中心から突き上げる獰猛な熱が、蕩けるような快感に浸っていた性器へと流れ込み、血管を浮き立たせながら再び石のような硬さを取り戻していく。

  アシュは尻もちをついたままだった体を、腹筋と背筋を軋ませ、捻り上げるようにして乱暴に起こした。まだ己を呑み込んだままのぬるりとした肉塊を両手で鷲掴みにすると、水飛沫を上げて浅瀬まで引きずり、平らな岩肌に叩きつけるようにひっくり返して組み敷く。見下ろした醜い軟体。割れ目には肉棒が突き立っている。

  腕立て伏せの体勢で跨ると、アシュはまず一度だけ、ゆっくりと腰を沈めてみた。

  じゅぷ…

  肉が肉を喰らうような鈍い音。自分が注いだばかりの精液でぬるついた肉の割れ目が、抵抗しながらもミチミチと引き伸ばされ、再び己の全てを受け入れる。その感触を、支配者として吟味するように味わい、アシュは口の端を吊り上げた。そして――

  ばしゃっ!

  獣のように腰を振り下ろし始めた。

  アシュが水面に腰を叩きつけるたび、浅瀬がざばっ、ざばっと激しく跳ねる。衝撃で、一度目の射精で満たされていた肉の穴から、ぐちゅり、と白濁した粘液が隙間をこじ開けるように溢れ出す。

  「ぐっ…!」

  アシュの凶暴な突きは、快感よりも先に、衝撃と圧迫として血吸い虫を襲った。鷲掴みにされたぶよぶよの軟体が、アシュの両手の下で、陸に揚げられた魚のように、ぐにゅり、ぐにゅりと必死に身を捩らせる。逃げようとする無意味な抵抗。艶めかしい蠢動が、かえって胎内の肉襞を複雑に波打たせ、アシュの猛る肉竿をいやらしく搔きむしった。

  ズチュッ!

  じゅぷっ……じゅぷっ、じゅぷっ!

  「おぁっ……すげ……!」

  まず、叩き込む。

  自分の手とは全く違う。生きた肉壁が、熱く柔らかな抵抗をみせながら亀頭を迎え入れる。ぬるぬるの隘路をこじ開け、押し広げながら進むたび、己の太さと硬さが内壁の隅々までみちみちと満たしていく感触。

  そして、引き抜く。

  肉穴は獲物を逃がすまいと、きゅうう、と内壁を収縮させて竿に吸い付いてくる。無数の肉襞が、名残惜しげにまとわりつく。ぬるぬるの粘液が糸を引き、剥き出しにされたカリ首が、肉襞の一枚一枚を乗り越えていく。そのえげつないまでの抵抗感に、何度も繰り返し腰を叩き付けることを余儀なくされる。

  だが、獣性は手応えのない肉に空転する。あれほど淫猥な快感でアシュを弄んだはずの柔らかな肉穴が、今はただ、アシュの凶暴な突きを虚しく吸い込むだけだった。

  ズチュッ!

  カリ首がぬるりと滑って入口脇の肉を削いだ。

  (くそっ、こいつが柔らかすぎて、うまく入んねぇ…!)

  ぶにゅ!

  狙いが定まらず、亀頭が奥ではなく横のぶよぶよとした肉壁に埋まる。

  (もっと奥にいきたいのに……!)

  ぐじゅっ…!

  手応えのない肉の中で、一度目の射精で満たされた粘液を、ただ下品にかき混ぜるだけ。

  (こうじゃない!)

  昂る獣性に、身体がついてこない。頭の中では豪快に腰を振り下ろしているつもりが、焦れば焦るほどヘコヘコと無様に踊る。力任せの拙い抽送は、ぱちゃ、ぺちゃ、と間抜けな水音を立てるだけ。

  「はっ、ぁ…っ、は…ッ!」

  焦燥がさらに動きを空回りさせる。それでも、胎内はアシュの拙い攻撃を赦し、むしろ煽るように蠢いた。浅い挿入でも、肉壁の絨毛が性器の竿をざらざらと撫で回し、快感の火に油を注ぐ。そして入口付近の肉壁が一度だけ強く収縮し、滑って横を向いていた亀頭を、ぐい、と正しい位置へ引き戻す。まるで道を示すように、奥へと続く肉壁が一瞬だけ緩んだ。

  (――今だ…ッ!)

  導かれるままに、無我夢中で腰を突き入れた。

  にゅぷッ!

  結合部から脳天まで突き抜けるような、電撃的な快感が迸る。あまりの衝撃に、尻の穴がきゅうううっと固く窄まった。

  今まで届かなかった一番奥。無数の柔らかい絨毛に覆われ、獲物の精を根こそぎ絞り出すためだけに脈打つ、生きた肉のるつぼ。完全に迎え入れられる形となったアシュの肉竿は、そこにがっちりと捕らえられ、身動き一つできずに、ただびくん、びくん、と快感に痙攣していた。

  「うおぉ……ッ!」

  ――これだ! この感触だ!

  脳ではなく肉竿が雄としての悦びを理解した。がむしゃらなだけの初々しい動きが、獲物の急所だけを的確に、執拗に抉る、雄のそれに変わりつつある。体重の全てを乗せ、一番奥にある一点だけを狙って執拗に。

  どちゅ! どちゅ! どちゅ!

  肉の杭が、粘液で満たされた穴の奥を叩きつける鈍い音。ぐじゅり、と一度目の射精で吐き出した己の精液が奥でかき混ぜられる、不快で、それでいてたまらない感触。音と感触が脳の芯まで直接響いてくる。

  (また出す……中に出す……ッ!)

  腰を打ち付ける動きが止まる。その代わり、身体の奥深くで、別の何かが動き始めた。

  アシュの睾丸のさらに奥。灼熱の鉄塊と化した精巣が、ぐっ、ぐっ、と苦しげに脈打ち、身体中の血液と熱を貪欲に啜り始める。

  胎内からの要求に応えるように、アシュの腰で渦巻く性欲が全て濃密な雄の種へと作り変えられ、一本の熱い管――精管を、押し広げるように駆け上がってくる。下腹部の奥、チンポの根元に向かって、熱い奔流が逆流してくる冒涜的な感覚。

  そして、全てがチンポの根元に集結する。会陰部が、びくん、びくん、と意思とは無関係に痙攣し、袋の中で破裂寸前まで膨れ上がった二つの玉を、さらに下腹部へとめり込ませた。

  もう、止められない。意思ではない。身体が、雄の生殖機能そのものが、この熱く粘り気のある全てを、目の前の肉穴にブチまけろと絶叫している。

  「お"ぉおおおおッ…!出る…ッ!出る出る出るデるぅッ!!」

  子供じみた叫びが欲望のままに迸る。

  腰の動きがもはや抽送ですらなくなる。今にも種を噴き出しそうな根本を、肉の割れ目にぐりぐりと擦り付ける、獣じみた痙攣。

  睾丸の奥で生まれた灼熱の疼きが、背骨を駆け上がって脳を焼いた。

  狼の尻尾が硬い棒のようにぴんと張り詰める。

  足の指がぎちりと浅瀬の砂利を掴んで丸まった。

  理性の欠片もない、ただ射精のためだけの痙攣が、アシュの体を支配する。

  「ッ……ぐ、お゛おぉッ……お゛おおおぉ…………!!」

  眉根が極限まで寄り、スマートな口吻が過ぎた快楽に歪んで、牙が剥き出しになる。

  表情に呼応するように、胎内が最後の締め上げにかかった。一番奥の硬い突起が亀頭冠を抉り、入口が竿の根元を強く締め上げてくる。

  会陰部がびくん、と一度大きく波打った。

  思考が、完全に焼き切れる。

  破裂寸前の睾丸が、下腹部にめり込むほど縮み上がった。

  ドクン。

  熱い塊が、精管へと押し出された。

  ドクン!

  それが尿道を焼け付かせながら駆け上がる。

  ドクンッ!!

  ビッ!ブビッ!ブジュルルッ!ドピュウッ!

  雄の全てが、熱い奔流となって迸る。

  一度目とは比べ物にならないほど濃く、獣臭い粘液が、尿道を内側からごりごりと抉り、圧迫しながら放たれ、異生物の膣肉に叩きつけられる。

  精液が着弾した瞬間、肉穴の最奥部が、びくん、と歓喜に震えた。無数の絨毛がアシュの精液に絡みつき、一滴残らず吸い上げようと、奥へ奥へと引きずり込んでいく。

  射精の奔流が、罰のように全身の筋肉を無理やり強張らせる。己の雄が根こそぎ吸い出されていく。快感の絶頂で身体が空っぽにされていく屈辱。

  「ん、ぐぅっ……! は、ぁ…っ、ぐ、ぅッ…!」

  自分の精液が、胎内の粘液と混じり合い、ぬるぬると肉壁を伝い、隅々まで満たしていく。生々しい光景が、繋がった性器を通して、アシュの脳に直接流れ込んでくる。

  射精は終わらない。いや、終わらせてもらえない。

  ブビュルルッ!ドプッ!ドププッ!ドピュルルルッ!ドピュウッ!

  まだ足りないとでも言うように、胎内が、ぐじゅ、ぐじゅ、と粘っこい音を立てて脈打ち、竿全体をやわやわと揉み込んでくる。そのたびに、アシュの身体が意志に反してびくん、と痙攣し、タマの中から最後の一滴まで、ねっとりと絞り出されていく。

  やがて、激しい痙攣が、弱々しい震えに変わる。

  思考が戻るより先に、アシュの嗅覚を突いたのは、むせ返るような濃密な臭気だった。

  新しい汗のほんのりと酸っぱい体臭。発情した獣の、むわっとした熱い獣臭。そして――今まで自分の身体から発したことのない、白濁した粘液が放つ、生々しいまでの雄の性臭。

  まだ青臭さが残る身体から、熟した雄の匂いが立ち上る。倒錯した事実に、快感とは別の震えが背筋を走った。

  「はぁ…っ、は…、…ん……」

  射精の奔流が過ぎ去っても、アシュの身体は解放を許されない。

  白い霧に包まれた思考を置き去りにして、腰だけが、もはや本能とも呼べない快楽の残滓に操られて、ゆるゆると震え続ける。そんな弱々しい痙攣にさえ、胎内は律儀に反応し、尿道内に残った僅かな精液まで根こそぎ吸い上げる。

  やがて、全てを吸い尽くして満足したのか、あれほど執拗だった柔肉の蠢動がぴたりと止む。

  そこでアシュは、夢から覚めるように、己の竿がまだ繋がったままであることを思い出した。

  水面下で、ぐぽり、と生々しい水音。引き抜いた肉竿は、自身の精液と化け物の粘液が混じり合った白い液体で、無様に汚れていた。

  生々しい離脱の音と、ぬるりとした感触が、己の肉竿の無様を脳に伝えた瞬間。身体を支えていた腕から、完全に力が抜けた。体勢が崩れる寸前、最後の気力を振り絞り、アシュは自らの体を浅瀬へと仰向けに投げ出した。

  ざばり、と派手な水飛沫が上がり、火照りきった全身が泉の冷水に浸かる。受け身も取れずに倒れ込んだ体は、ぜえぜえと喉を鳴らし、ただ荒い息を繰り返すだけ。あれだけの熱狂の後には、骨の髄まで軋むような、それでいて奇妙に心地よい疲労感が残っていた。

  水の中で、無様に投げ出された自分の股間に意識が向く。散々に扱かれた肉竿は力なく萎えている。だが、その姿は泉に来る前のものとは明らかに違っていた。今まで全体を覆っていたはずの包皮は、完全に剥けて、くたりと根元に縮こまっている。

  澄んだ水の中で剥き出しになっているのは、アシュ自身、今まで一度もきちんと見たことのない、丸裸の亀頭だった。既に内圧は弱まり萎んでいるが、未だ熱に浮かされたような赤みを帯び、ぬらりと濡れた粘膜が艶めかしく光っている。

  それは、いつか川辺で垣間見た、憧れの師匠のものと――成熟した雄のそれと、同じ形をしていた。

  冷たい水が、その無防備に晒された粘膜に触れる。痛みではない。だが、今まで感じたことのないほど鮮烈な刺激が、じん、と全身に駆け巡った。

  もう、何も知らなかった頃の自分には戻れない。新しい身体の感触が、後戻りできない一線を越えてしまったことの、動かぬ証拠だった。

  しばらくは、水辺にぐったりと手足を投げ出したまま、アシュは浅い呼吸を繰り返すだけだった。

  陽が傾き、泉に虫の声だけが響く頃。あの巨大な血吸い虫は満足したのか、いつの間にか姿を消していた。

  アシュはぼんやりと己の股座に目をやる。あれだけ熱く硬かった肉竿はすっかり萎え、先ほど初めてその全貌を現した亀頭は、再び包皮を被っている。しかし、それは泉に来る前の状態とは明らかに違っていた。一度完全に剥かれたことで、包皮と亀頭粘膜の感覚がはっきりと区別して感じ取れる。

  ずん、と腹が重くなる。胃の腑から、酸っぱいものが込み上げてくるような不快感。

  (俺は、なんてことを……)

  己の手を見つめる。あの生温かい肉の割れ目をこじ開けた、この手。あのぬらつく感触を思い出した瞬間、萎えていたはずの肉棒が、意志に反してじわりと熱を持つ。素直すぎる反応が、さらに自己嫌悪を煽った。

  アシュはよろよろと立ち上がり、無造作に脱ぎ捨てた革鎧を身に着ける。最後に革ズボンを履くと、今まではただぶら下がっていただけの器官が、ずしり、とした確かな存在感を主張し、内腿に当たる。奇妙な重量感に戸惑いながら、それを億劫そうに定位置へと収めた。

  肉の鮮度を保つために小川に寝かせておいた鹿に目をやる。数時間前まであれほどの高揚感を与えてくれた獲物が、今はただ重いだけの肉の塊に見えた。蔓のロープを肩に食い込ませ、そりを引き、力ない足取りで村へと帰る。

  村のはずれにある、師匠の小屋の窓から灯りが漏れている。夕餉の支度をしているのか、干し肉と豆を煮込む匂いが漂ってきた。アシュが引くそりの軋む音に気づいたのか、小屋の扉が開き、師匠が姿を現す。

  師匠はアシュの顔を一瞥し、次にそりに積まれた見事な雄鹿に目をやり、そしてもう一度視線を戻した。

  「……お前も中々やるじゃねえか」

  短くそれだけ言うと、師匠はニヤリと口の端を吊り上げた。それは、ただ獲物を仕留めた弟子を褒めるだけの顔ではない。一人の少年が男の顔つきになって帰ってきた、その成長を面白がり、また同時に喜ぶような、複雑な笑み。

  アシュが寝台に潜り込んでも、眠気は一向に訪れなかった。

  目を閉じると、泉での光景がよみがえる。嫌悪と屈辱で始まり脳髄を蕩かす快感で終わった、あの冒涜的な交わりの記憶。自分の身体から立ち上った、自分の知らない雄の匂い。

  身を丸めながらも、本能はあの屈辱的で脳髄を蕩かすような快感を覚えてしまっている。師匠に褒められた誇らしさも、この身体が覚えてしまった熱には勝てない。

  アシュは確信していた。自分が何かを期待して、再びあの泉へ向かうであろうことを。