Ad
「──あ〜、これで良いのかな…?よし、撮れてるっぽいな。」
スーツをきっちりと着たキツネ獣人が、カメラの前に立ってネクタイを直した。
レンズに映り込む自分の姿を確認し、カメラをわずかに持ち上げる。
画面の更に奥には、椅子に縛りつけられたネズミ獣人が見える。
両腕は背後で固定され、身じろぎするたびに金属の留め具が小さく鳴った。
映像は低い駆動音とともにかすかに揺れ、蛍光灯の白い光が画面全体を硬質に照らし出している。
「──えぇと、キツネのナフィーです。これから…捕らえたネズミに尋問?します。」
ナフィーはそう言うと椅子へと半歩づつ進んだ。
画面が揺れ、ネズミ獣人の顔が映り込む。
灰色の毛並みは乱れ、額にはじっとりと汗がにじんでいる。
ネズミは声を発しない。
ただ、縛られた両手が縄の下で小さく震えていた。
「さぁ盗人ネズミ君。名前からいきましょうか。」
「……シアンだ。」
かすれた声がマイクに拾われ、ノイズ混じりに響いた。
ナフィーは一瞬だけカメラの方へ目を向け、口角を上げる。
次の瞬間、拳が振り下ろされた。
乾いた衝撃音。
椅子が軋み、
シアンの体が大きく揺れる。
彼は呻いたが、言葉にはならなかった。
ナフィーは背筋を伸ばし、ネクタイを軽く整えると、再びカメラの正面に立った。
「──では、盗んだ物はどこにやったんだ?シアン?」
「し…知らない!た…たのまれたヤツにわたしてそれっきりさ!」
ナフィーはゆっくりと距離を詰め、片手を腰に当てたまま、もう一度シアンを見下ろした。
カメラが二疋を同時に捉えたまま、ナフィーの拳が静かに引かれ、次の瞬間、鈍い衝撃音が室内に低く響いた。
「ぐはっっ…」
シアンの肩が前へ折れ、息が強く吐き出される。胸の上下が乱れ、背後の縄が数センチ食い込むのが画面に映る。
カメラは腹部のあたりへ自動的に寄り、シャツの布がへこむ様子と、短い吐息がマイクに重なるのを捉えた。
「本当か?」
「あ…あぁ!ほんと……っぐ゛」
二度目の衝撃で、シアンの体が椅子の上で沈み込み、俯きながら細かく震えた。画面にはその震え、短い吐息、床に落ちる薄い影と吐瀉物が残っている。
「盗人の話は信頼出来ないからな。」
ナフィーの冷たく低い声が部屋に響く。
次の映像では、彼が画角の外へ消え、数秒の静寂が続く。
やがて金属の擦れる音とともに、片手に大ぶりのペンチを持って再び画面へ戻ってきた。
「やめろ…っ! いやだ!」
シアンが身を震わせ、縄に締め付けられた腕ごと椅子を揺らす。
金属の留め具が甲高く鳴り、蛍光灯の光を反射して瞬いた。
ナフィーは椅子の背後へと回り込み、ペンチを片手にゆっくりと歩いた。
画面にはその姿が一度途切れ、代わりにシアンの表情が大きく映し出される。
灰色の耳が伏せられ、口元は強く引き結ばれている。肩が上下に震え、浅い呼吸の音がマイクに断続的に拾われた。
「だ…だめ……」
押し殺した声が漏れる。椅子の背に縛られた両手が縄の下で大きく揺れ、金具が軋む高い音を響かせた。
「ッ…!」
大ぶりのペンチが尾を挟み込むと、シアンの体が大きく跳ね上がった。
次の瞬間には全身が固まり、椅子に縛られたまま動きを止める。
尾の断面から赤い液体が流れ落ち、足元を濡らしていく。
呼吸は乱れ、胸の上下が不規則に繰り返された。
声にならない音が喉の奥で途切れ途切れに漏れ、マイクがかすかに拾っていた。
「──で、その頼まれた奴はどんな奴だ?教えてくれよ。」
「し…知らない……匿名で顔も種族も知らない……!」
ナフィーは手にしてる大ぶりのペンチを打ち合わせながら、椅子に縛られたシアンの周囲を一定の歩調で回っていた。
映像に映るシアンの顔は青ざめ、呼吸は浅く途切れがちで、怯えの色が濃く刻まれていた。
「…そうか。」
ナフィーは再び画角の外へと姿を消し、短い静寂が室内を支配した。
やがて画面に戻ってきたとき、彼の手には小ぶりのペンチが握られていた。
「なぁ。本当は知ってるんだろ。いつまで黙ってるつもりだ?なぁ?」
低い声が淡々と響き、ナフィーがシアンの前に立つと、映像にはその背中だけが映り込み、縛られたシアンの様子は見えなくなって、何が行われているのかは判然としなかった。
やがて縛られた足が大きく揺れ、直後に重く鈍い衝撃音が続けざまに響いた。
少し身をずらしたナフィーの隙間から、画面には浅い呼吸を繰り返すシアンの半身が映り込み、
口元からは赤い液体と砕けた白い欠片がこぼれ落ちていた。
「痛みに強いんだな。……つまんないな。」
ナフィーの呟きがかろうじてマイクに拾われた。
椅子の下では液体が広がり、照明を受けて暗く鈍い色を映しているのが確認できた。
ナフィーはそのまま画角の外へと消え、しばらくしてから錐を手に戻ってきた。
縛られた椅子の上で、シアンが掠れた声を洩らす。
「……なにするつもりだ。」
「なにって。そりゃあ……な?」
シアンの前へと歩み寄ったナフィーが立ち止まると、映像には再びその背中だけが映った。
直後、その小柄な身体からは不釣り合いなほどの悲鳴が上がり、マイクは耳を刺すような音量でそれを拾った。
やがてナフィーがわずかに身をずらすと、画面には少し俯いたシアンの顔が半ば映り込み、荒い呼吸を繰り返しながら、左目のあたりから濁った液体が頬を伝って流れ落ちていた。
「やっぱ、これは流石に堪えるか。」
カメラに向き直ったナフィーの表情には、不自然な笑みが浮かんでいた。
背後には痛みに沈むシアンの姿が小さく映り込み、ナフィーの片手は赤く濡れたままレンズを支えていた。
「──どうでしたか、ボス。お楽しみいただけましたか。では──」
低い声が響いた直後、映像は途切れ、暗転した。
Ad