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虎の威を駆る野良猫

  昔の人は、 世界が全部ひっくり返るようなことが起こって『終わり』が来る、って考えていたみたい。

  初めてそのことを読んだ時、そんなの怖いなって思ったけど、それはホントに来ちゃったとか。

  大地震に、大津波。

  火山の噴火に、異常気象。

  そして世界中に広がった生き物たちの突然変異。

  "新世紀"って呼ばれる出来事の後、世界は──終わらなかったんだ。

  私も今生きてるから当たり前だけど。

  その前までは魔人さんや妖怪さん、他の世界の人や電脳世界の人も居なかったらしいから、信じられないな~とは思ってる。

  でもデータベースを見る限りだとホントのことらしい。

  …それでも考えられないや!

  [newpage]

  ──時間つぶしは出来たかなっ。

  情報端末の電源を切って、隣でピーピー鳴ってる機械から出てきたカードを手に取って…うん、ちゃんと出来てる!

  私の車両系建設機械運転者免許!

  大型免許も紐付けされてるから、コレで運転には困らな~い!

  盗られないようにちゃんとしまっておかないとね。

  どっちも長い時間勉強することになったし、"旧世界"の免許が高額取引されるのも分かるなぁ。

  旧世界のシステムと施設が完全に稼働してるところを見つけるの、大変だからね。

  "ホエール・ハビタット"の市民で良かった~!

  「合格おめでとうございます、シャムス様。次回の免許更新は9999年12月31日が期日ですので、お忘れなく。」

  受付のロボットさんとは暫くお別れになるな~。

  免許更新は…近くのモニターで見ると今日も相変わらず9999年12月31日だから、大丈夫そうだね。

  「ありがと、また免許取りに来るときはお世話になりま~す!」

  ニッと笑って握手握手。

  手を振ってお別れっ。

  免許センターから出て、ホエール・ハビタットの出口に一直線。

  ようやく本命の仕事が出来るぞ!

  駆け足で走ってると、熱い日差しでも涼しく感じるくらいの飛沫がかかってきた。

  大量の噴水が、周りのビルの半分くらいまで高く高く噴き上がってる。

  "鯨の住処"って呼ばれるだけあって、噴水の勢いも数も凄いね。

  この付近の街の噴水と比べても、考えられないくらいに大きい。

  旧世界からある都市遺跡なのに、新世紀の後でも壊れないどころか、今でも完全に機能しているココはやっぱり不思議な場所だなぁ。

  ビルも当時の姿のまま、夜になると一際目立つライトアップまでされるし。

  その上、迎撃機構も警備機構も、浄水機構も食料プラントもそのまま。

  私みたいな"スカベンジャー"が入り込むのも分かるし、入っても警備のロボットさんに捕まって牢屋に入れられちゃうから、劣化も少ないんだろうな。

  私は小さい頃から何故か、ココの市民扱いで暮らせてたから、何一つ苦労してないんだけどね。

  だからこそ、一人で歩いて生きることに憧れてるのかも?

  [newpage]

  私のお仕事はスカベンジャー。

  旧世界から残された物品を拾い集めて、それを売って生活してるんだ。

  主な活動場所はこの砂漠地帯なんだけど、他の地域に進出してみるのも最近考えてたりする。

  スカベンジャーである以上、旧世界の物品がありそうな場所に足を踏み入れる必要があるんだけど、注意しないといけないことがある。

  その一つが”贋作”(リミナル)って呼ばれる存在。

  正体不明で、色んな姿の個体は居るけど"ヒト"に似たタイプが多い。

  でもそのタイプは耳とか尻尾とか羽根とか生えてなくて、電脳世界の人達に近い外見だったりする。

  ヒトなら色々いてもおかしくないのに、不思議だね。

  それで、なんで注意しなくちゃいけないかって言うと、生き物を襲うから。

  襲い方にも色々あって、暴力を振ってくるのもいれば、エッチなことをしてくるのもいて、最悪殺しにくるのもいる。

  一目見るだけじゃ危険な個体か分からないから、基本的に接触しない方がいい。

  なんだけども、この砂漠地帯だと贋作の集団が極めて多いんだ。

  一番有名なのは、"黒い箱に祈る贋作たち"かな。

  実際に数えてみたら、その一帯に100万体くらい固まっていたらしいよ。

  贋作たちを刺激して一斉に動き出したら大変なことになるから、接触を避けるため移動ルートを考えないといけない。

  とはいうものの、旧世界にまつわる場所に贋作が居ることが何故か多いから、慎重に動かなくちゃいけない。

  でも私には秘策があるんだ。

  贋作たちと接触しない迂回ルートを知ってるからね…それは、山なんだ!

  切り立った山は当然人が立ち入らないし、贋作たちも行かないんだろうね。

  よしっ、そうこうしているうちに迂回ルートに辿り着いたよ。

  上を見上げると……そこそこ頑張る必要あるかも?

  うん、これは壁……一般的に言うと、"崖"だね。

  道じゃない?そうだね、私もそう思ってたんだけど…いけるんだなぁコレが。

  手袋を外して、リュックにしまって。

  液体チョークのボトルを取り出して。

  ブーツの紐を解いて脱いで、リュックに吊るして。

  掌に液体チョークを垂らして、両手両足に馴染ませる。

  こうすると掌も足の裏も真っ白になっちゃうけど、液体チョークに含まれたアルコールで手足の皮脂が飛んで、汗もチョークが吸ってくれる。

  つまり滑りにくくなるんだ。

  何をしてるかって?これはね、"登攀"の準備!

  ブーツを吊るしたリュックを背負い直して、岩肌に手を伸ばす。

  ぐっと岩肌に指をかける。

  うん、これなら登れる登れる。

  登攀は昔のヒトが培った技術なんだけど、道具を使わないと危険だったみたい。

  でも、自重ぐらい指の力だけで支えるのは簡単だから…昔のヒトって、力が弱かったのかな?

  つま先も岩肌に張り付けて、足の指をひっかける。

  掌と足の裏の感触で岩肌を確かめつつ、指でがっちり掴みながら進めば、簡単に登れるね。

  今の時代なら空を飛んでった方が早い?それはそうだね。

  でも、それはしない方が良いと思う。

  この地域は昔、ずっと戦争してたみたいなんだ。

  だから旧時代の武器とか兵器がよく見つかるんだけど、それと同じくらい旧時代の戦争用システムが残ってたりする場所でもある。

  ヒトくらいのサイズでも見逃さない迎撃機構がどこに潜んでるかも分からないんだ。

  昔は墜落事故が多かったし、今でもたまに、ヨソから来たヒトが空を飛んで撃ち落されてるね。

  さて、気付けばもう10mぐらい登ってきちゃった。

  本腰入れなきゃね!

  [newpage]

  登攀も終わって、後は目的地である"救難信号の発信源"に向かうだけ。

  温度が著しく下がる夜が来る前に帰らないといけない。

  ここからは時間が勝負だから、走って砂漠を進むよ。

  救難信号は今の通信方法とは違ってて、旧世界のデバイスでないと検知できない。

  私はホエール・ハビタットに居たからそういうデバイスは持ってるんだ。

  未だに救難信号が発されているってことは、そこには救援が来てなくて。

  その発信源の位置からして、高確率で手付かずのお宝ポイントである可能性が高い。

  そんでもって救難信号が維持されているってことは、信号がロストするほど長い年月は経っていない…新世紀前後に発信され始めたものかもしれないってね。

  "旧世界の最先端"。一番混乱が激しかった時期の物品は見つかりにくくて高価。

  それでいて、今日持ち帰る予定のモノがその時期の代物なんだ。

  持ち帰る予定のモノは、これから大きな仕事を受ける為に必要な、私の仕事道具。

  スカベンジャーは贋作との戦闘が避けられない時もあるけど、連中は大体ヒトと同じ強度だから、今持ってる拳銃──"砂漠の鷲"って呼ばれる、旧世界の拳銃で十分対処可能。

  50口径弾を一二発撃ち込むだけでどうにか出来るから、今の仕事のレベルであれば必要ない代物。

  なんだけど、旧世界の最先端狙いになると話は別。

  当然、贋作程度を相手して回収できる場所は並大抵のスカベンジャーも回収できる場所で、競合しがち。

  先に回収されちゃってるケースもね。

  より大きく稼ぐってなると、より危険な場所に足を踏み入れる必要がある。

  それには強力な仕事道具が必要なわけで…そんなうちに、目的地前の副産物発見。

  頑丈そうな大きいコンテナがひっくり返ってる。

  ついでに開けてみようかな。

  こんな宝箱が手つかずな時点で、多分危険な場所にはもう足を踏み入れてるのかも。

  コンテナの上に飛び乗ってから、開封方法を探せば……うん、正規の手段じゃ無理。

  プラスチック爆薬を要所に張り付けてと。

  離れて…爆破。この手に限るね。

  爆破はするけど、コンテナは大破しない。

  ただのコンテナなのにこんなに頑丈に作る理由はある?

  …と、思ったけど、理由は開いた後すぐに分かった。

  武器庫だ。それも、見たこともない火器とアーマー類の山が見える。

  コンテナ一つにこれだけギュウギュウに敷き詰めてるってことは、戦争でもするつもりだったのかな?

  間違いなくお宝の山なんだけど、全部持ち帰るのは無理。

  本命はまだ先にあるし、ひとまず一丁だけいただいていくかな!

  このアサルトライフルはブルパップ方式、バレルも長いから射程距離は長めで、弾薬は多分7.62x51mm弾。しかもワンマガジン100発どころじゃない重さ。

  ハンドガード下にはポンプアクションのショットガン...コレ、多分8ゲージの口径だ…デカくない?しかも確認したら16発も入るし…!

  取り回しを悪くしてまで射程距離を伸ばして弾数増やして、アンダーバレルのショットガンはデカくて、全体的に過剰火力……なんか、チグハグな銃だな。

  殆ど軽機関銃みたいな性能してるのに、ショットガンで近接戦闘しようとしてる。

  どうしてこんな設計になっちゃったんだろう?

  ともかく、珍しい銃であることには変わりないから、抱えていこう。

  あとはリュックに入りそうな小物を詰め込んで、次次。

  [newpage]

  ついに目的地である救難信号の発信源に到着しちゃった。

  巨大な残骸──宇宙船のね。

  旧世界末期では惑星開拓を目的とした技術開発がされてたみたいなんだ。

  この地域にあった国でもその動きは多少なりあったみたいで、宇宙船の発着場がこうした砂漠にいくつか設けられてたとか。

  とりあえず、目的のものを探そう。

  私が探しているのは、惑星開拓用の重機。

  宇宙船の貨物に詰め込まれているのは間違いないと思うし、荷解きもされてない筈。

  旧世界の最新鋭の重機は、紐付された免許とセットじゃないと動かないから、"前任者"が一緒に見つからないと動かせない。

  だから貴重だし、高価なんだ。

  折角新品の重機を見つけてもせいぜいパーツ取りしか価値が出ないんだ。

  それで、今回免許を取ったのも、新品の重機と紐付して運転できるようにするため。

  見つけ出せば安価に、危険地帯でも活動できる準備が出来るってワケだ!

  さっさと見つけないとね。

  辺りを探し始めて分かったんだけど…この残骸を見る限り、乾いてこびりついた体液の跡が見えるから、恐らくこの宇宙船は"ローカスト"の襲撃に遭ったんだと思う。

  ローカストって言うのは、新世紀直後に現れ始めた、昆虫みたいな謎の生命体。

  ラッパのような音が響き渡ると共に空を覆うほどに群がってくる連中。

  明確な意思を持っているのか分からないけど、生き物全てを殺そうと殺到するソレは脅威であることには変わりなくて。

  一応、新世紀から少し経った頃には大規模な襲撃自体は減っていったけど、それでも断続的に大量発生するんだ。

  各地方の迎撃機構が整った今、昔ほどの脅威ではなくなった…って言われてるけど、スカベンジャーにとっては別。

  迎撃機構のある地域から離れて物品を探す以上、極めて危険な相手なんだ。

  見つけたら逃げるのも手だけど、飛行に特化した個体もいて、ヒトの足じゃ簡単に追いつかれちゃうからそもそも見つかるべきじゃない。連中の縄張りでの活動はほぼ自殺行為だね。

  ローカストの一般的な個体である"ソルジャー"は、そうそうあんな感じに2m弱の大きさで、群生相みたいに黒っぽくて所々赤い縞模様みたいなのがあって、頭は無いけど何らかの器官で獲物を捕捉してきて、地についた四本脚もだけど、カマキリみたいに構えた攻撃用の脚が鋭利になっててソレで突き刺してきて──コッチ、向いてるね。

  探索してる私を待ち伏せしていたように見えるな。

  物音立てずに佇んでいるんだから。

  ほぼノータイムで飛びのいた瞬間に、砂へ大穴を穿つように前脚を、元居た場所に突き刺してきた。

  抵抗の方法は一つしかない。

  抱えていた大型のアサルトライフルを構えて、掃射。

  7.62x51mm弾のフルオートは、流石に全力で反動を抑えないとブレが発生する。

  ソルジャーは被弾を無視するように強引に突っ込んでくる。

  風穴が出来始めてるのに、デタラメ過ぎる生き物だな…!

  ソルジャーの大鎌が振るわれる瞬間に再び飛びのく。

  それは切り裂く、という動きじゃなく刺突に近い形。

  しかも胸部狙い…何とか避けられたけど、明らかにヒトの弱点を理解してると思う。

  後退しながら掃射していくと、発射音が軽くなっていってるのが分かる。

  弾切れが近くなった時、アンダーバレルに気付いた。

  同時に、アンダーバレルの射撃方式にも気付いた。

  一か八かの賭けに挑む。

  迫り来るソルジャーに対し、ショットガンを発砲。8ゲージの散弾が穴を穿つ。

  でも、止まらない。

  だから、トリガーを引きっぱなしの状態で思いっ切りコッキングした。

  その瞬間に再び発射される散弾。

  コッキング。コッキング。コッキング。その度に吐き出される散弾。

  フルオート式散弾銃顔負けの発射レートで16発全ての散弾を吐き出した。

  ソルジャーの原型は殆ど残ってなかった。

  ──スラムファイア。

  トリガー・ディスコネクターっていう安全機構がないポンプアクション銃しか出来ない、暴発現象を利用した手動連射。

  チグハグな銃だから、安全機構なんてないと思ってたけど…正解して良かった。

  崩れ落ちたソルジャーと同時に、溜息ついでに尻餅をついちゃった。

  その直後にパーッ、と一帯に響き渡る音。

  その音の方向を見れば、空中にホバリングしている"トランペット"が。

  この個体は、自分の器官を震わせてラッパみたいな音を発して、仲間を呼ぶんだ。

  即座に撃ち落とすと、動かなくなった。

  その代わりに聞こえ始めたのは、遠く遠くから聞こえる重低音。

  無数の羽音だ…のんびりしてる場合じゃないね。

  立ち上がってすぐに探索を再開する。

  …あった。

  宇宙船の横っ腹の大穴は貨物ブロックに繋がってたみたいで、中に目的の重機が。

  あれ、でも外見がちょっと違うな…?

  って、もう確認してる場合じゃない。

  飛び上がって、装甲にしがみついて。

  外部からハッチを開く手段は知ってる。

  ツマミを捻ったと同時に跳ね上がるハッチ。

  その中に飛び乗って、即座にハッチを降ろした。

  連中が来るまでに起動まで終わらせないといけない…!

  [newpage]

  座席に腰を下ろしつつ起動シークエンスを始める。

  水素エンジンが唸りを上げ始め、点灯したディスプレイにOSが立ち上がっていく。

  元々この重機は解体作業に特化した5m大の人型重機で、瓦礫や破片を防ぐ為に全身を装甲で固めて、頭部メインカメラやサブカメラで周囲の視界を確保してるんだ。

  その間にリュックをコクピット内の荷物用のスペースに押し込み、抱えてたライフルは──ラックを見つけたのでそこにかけておく。

  初期設定画面に移行すれば、免許をカードリーダーに差し込んで機体との紐付、操作と照準の微調整を行っていく。

  教習所の重機と全く同じだし、ここは順調順調。

  操作はともかく、照準といっても本来は"ネイルガン"用の機能。

  両手のレバーは前後左右旋回などと移動入力用のデバイスで、照準は搭乗者の目の動きをトレースしてくれるんだ。

  目を動かして遅延なく、思い通りに動いてくれるのを確認してから設定を終えると、ディスプレイに各種計器やシステムが表示され始める。

  「…FCS?!!」

  その表示を見て思わず叫んじゃった。

  FireControlSystem、射撃統制装置。

  文字通り、観測具・測定具・照準具などの機材を用いて、目標の捜索・探知・捕捉・追尾・発射を行うシステム。

  これが搭載されているのは、当然火器を搭載している機体。

  つまり、この機体は重機の筈なんだけど"軍用機"だね。

  ……惑星開拓用の重機なのに?!

  足元のペダルも確認したらヘンな感じ。

  長距離移動用のローラーダッシュ切替のペダルはなじみ深いけど、車でいうアクセルペダルの位置にある"Boost"表記…

  あ、あんまり踏みたくないなコレ。

  三人称ドローンを起動させて確認する。

  ディスプレイも三人称に切り替える。

  三人称ドローンは、人間でいう背中の辺りに駐機させているカメラ付きドローンを起動して、機体後方に追従する形でホバリングさせることで、機体周囲の状況を確認するためのデバイス。

  通信とバッテリーが保つ範囲ならマニュアル操作で遠くまで飛ばしていくのも可能なんだ。

  重機のシルエットは概ね、右手と背中以外は大きな変化はない。

  胴部の四方に設けられた稼働式バーニアは……さっきのペダルと関係してそうだ。

  だいたい想像はつくけど。

  「うわ……ミニガンじゃんこれ……」

  右腕に握られているのは、パッと見た限りだとショートバレル式のガトリングガン。

  給弾ベルトは背中のユニット…多分弾薬庫に直結してる。

  使わない時には腰部のハードポイントに固定すれば良さそうだけど……コレが重機だって言い張るのは流石に無理があるんじゃない?

  幸いミニガン規格であろうとも保持できるのは、流石TIGER謹製"マンティコア"。

  TIGER社は旧世界の重機メーカー最大手で、信頼性抜群。

  …でも、コレ軍用機だから、ホントは...?

  そんなこと考えてる場合じゃないね。

  もう既に船体の風穴へソルジャーたちが雪崩れ込んできてて、画面いっぱいに大群が迫っている状態。

  でも何故かローカストを機能的に捕捉できる──まぁ、いっか。

  ディスプレイを一人称に戻すと同時に、両手でミニガンを保持して掃射開始。

  虫たちを薙ぎ払うようにトリガーを引き絞りながら視線を振る。

  瞬時に血しぶきが一帯にブチまけられ、黄色に黒縞模様の入った装甲にビチャビチャとこびりついていく。

  同時に前進を始め、虫の残骸を踏み潰しながら船外へ出ると…第二陣。

  既に着陸した連中から、高速回転するバレルから吐き出される弾丸で不愉快な穴空きチーズを量産していって。

  上空から滑空してくる個体を迎撃しようと思ったら…ブザー音。

  弾切れ?いやまだ撃ち切ってない。

  バレルの熱量が高くなり過ぎて射撃を強制的に止められた!

  普通に運用するなら1、2秒撃つだけでカタがつくけど、連中の数が多すぎる!!

  冷却を待ってたら囲まれるのは間違いない。

  ミニガンは腰部にマウントしてから、拳を握り固めた。

  飛びかかってくる相手に右ストレート。

  4本以上あるけど四肢が飛び散る。

  大鎌を振り上げてきたのを左腕で受ける。

  ラリアットの要領で左腕を振りかぶって、相手の胴体を生き別れにする。

  未だに動くソレを踏み潰してから、別の個体の脚を鷲掴みにして振り回し、ハンマーの如く叩きつけてグチャグチャにする。

  火器すら使わなくても、こうも滅茶苦茶に出来るのが重機の強みだね。

  でも畳み掛ける物量で、物理的に押し潰されるケースもあるから油断は禁物。

  襲い掛かってくる連中をとにかく叩く、潰す、振り回す、引き千切る、磨り潰す。

  辺り一面が体液塗れになってもお構いなしに、害虫駆除を続ける。

  [newpage]

  暴れ続けて、気付いた時には残り一匹になっていた。

  最後の一匹を捕まえて、捩じ切った。

  ようやく増援が来なくなったと安心したと同時に、地響きが聞こえてきた。

  「お、お次は何だーッ?!」

  震動は機体直下。

  ローラーダッシュ機構を起動させて、急速後退。

  その直後に砂を突き破って現れる巨体。

  旧世界だと"ミイデラゴミムシ"って呼ばれてた甲虫みたいな見た目。

  私が見たことあるローカストは、ソルジャーとトランペットだけ。

  この個体は何て呼ばれてるかは知らないけど、少なくとも言えるのは…ヤバそう。

  腰部のミニガンを手にして、頭部狙いでトリガーを引き絞った。

  驚異的な発射レートで叩き込まれる弾丸の嵐。

  …それを、喰らっていないかのような動きで突っ込んでくる。

  こっちの機体よりも遥かにデカい。

  衝突なんてされたら多分機体ごと潰されちゃうんだろうな。

  でも、単純な動きだ。

  相手の突進を引きつけてから真横に避けて、相手を確認する。

  「…甲皮が歪みすらしてない!?どんな強度なんだよう…!!」

  ミニガンが効かないとなれば、手はない…なんてことはない。

  重機が有している"解体作業用ツール"を用いれば、きっと仕留められる。

  だけど種を明かさないようにブチ込まないと警戒される。

  決めるなら、一撃で。

  再び突進を仕掛けてくる相手に対し、今度は船体側に引きつけるように移動してから、衝突寸前で切り返した。

  巨体が船体に突き刺さると金属の断末魔が響き渡る。

  そのがら空きの脇腹目掛け、一気に接近して左拳を叩き込もうとした刹那。

  ビーッ、と警告音が響くと同時に高熱反応の表示。

  それは、こちらに向いた相手の尾端からだ。

  直感を信じて"Boost"のペダルを踏みながら後退を行った瞬間。

  全身が殴打されたかのような強い衝撃に襲われた。

  「っぶ、ああっ?!」

  完全に意識の外からの衝撃に思わず唾液を吐き出すと同時に、脂汗が噴き出てきた。

  すぐに目の前のモニターを確認すると、自分が踏み込もうとしていた場所が、燃え盛っていた。

  相手の尾端からは3000度超の熱源反応を見せていることから、尾から鉄をも焼く体液か何かを噴出できる能力を持っていると見ていい。

  始末が悪いことに、相手は既にこちらへ振り向き、地に伏せるような体勢をしながら、エビ反りのように尾を上げて、尾端を銃口のように向けてきてる。

  もう既に発射の意志を見せている以上、今更逃げても機体ごと焼かれて終わり。

  それでいて、さっきの加速を何度もやってたら、私の身も持たない。

  次の一回で、決着をつけよう。どっと汗が噴き出してくる。

  ぽちょん、と汗の粒がシートに落ちた瞬間、即座にローラーダッシュ機構を起動し相手目掛け真正面から真正面から突っ込んでいく。

  「おぉおお”ッ!!」

  勇気を振り絞る為の咆哮。

  理性を飛ばし、蛮勇を見せる時。

  再びの高熱反応に警告音が響くが、無視。

  相手の発射の寸前に、ブーストペダルを踏んだ。

  進行方向は、"相手の真正面"だ。

  尾端の可動域にも当然限界はある。

  尾を高く上げ、正面に対し攻撃する以上、尾の直下周囲は死角となる。

  その死角に、発射前に滑り込む形で突っ込んだ。

  頭上スレスレに体液が通り過ぎ、迫る相手の頭部。

  左拳に"ナックルガード"を展開しつつ、その頭部めがけて拳を振り下ろした。

  「うらーーーーーッッ!!」

  急加速と同時に振り下ろされる拳で地に押し込まれる頭部。

  しかしながらまだ潰れてはいない。

  その強靭な甲皮を切り裂くべく、左前腕に取り付けられた、解体作業用ツールが唸りを上げて駆動し始めた。

  "チップソー"、一般的には丸鋸と呼ばれるソレ。

  木材を断つ用途だけでなく、石膏やコンクリ、鉄やステンレスまで断てる代物。

  回転する無数の刃が押し当てた甲皮を容易く切り裂き始め、飛び散る体液。

  断末魔を上げる前に…ゴトッ、と獲物の首が落ちた。

  次第に回転数が下がっていく音と共に拳を引き上げて。

  辺りを見回しても、彼方の空には敵影なし。

  追撃の様子もなし。

  ぐっしょりと汗だくになった身体を座席に委ねて、ハーッ、と大きく息をついて。

  簡単な仕事じゃないのは分かってたけど、今日だけで寿命が短くなった気がする……

  [newpage]

  今日のお仕事は大変だったな~!

  売れそうなもの沢山拾えたし、ごはんと宿はどうしよう。

  マンティコアを走らせていると、遠景で人影の群れを見つけた。

  丸腰の人の周りに……銃を持った人達が数人。

  うん、あれは盗賊団に絡まれてるね。

  普段なら相手しないけど、今は立派なお仕事道具あるしね!

  人助けも悪くないっ!助けちゃおうね~。

  ローラーダッシュ状態で砂漠を駆けながら、腰部にマウントされたミニガンを握る。

  その3本連なったバレルを空転させ続けて、盗賊団目掛けて接近。

  気付いたと思えば蜘蛛の子を散らすように逃げてっちゃった。

  いや~気持ちいいね!!

  丸腰の人は、腰を抜かして尻餅ついちゃってる。

  マンティコアのエンジンを切って、ハッチ開いて、リュック背負って飛び降りて。

  怖がらせちゃったかな?でも、助けたんだし今日の商売は君に決めた~っ!

  [newpage]

  「や~お兄さん!大変だったね~、ケガしてない?」

  「そんな丸腰のお兄さんのために、良いものいっぱい持ってるんだ~!買っていかな~い?」

  「へっへ、じゃあ見ていこうか~!えっとね、まず最初は~…っと、あの、お兄さん、私今日汗だくになっちゃったからくさいよ?近くない?」

  「えっ、くさくない?鼻あんまりきかないの?…えッ、好きな匂い~?うっそだ~…?」

  「そ、それはそれとして~…コレ!フレアガンっ!これはね~、大型獣とかでっかいのに襲われた時に当てても効果あって、何よりこうやって空に向けて撃つと~…」

  「……ね、ねっ、お兄さん、何で腋くんくんしてるの…?く、くさいって言ってるでしょ…?…く、くさくない?!ウソはダメだぞ!!?」

  「そ、そんなワケないなんて、ないでしょお…?…も、も~次!こ、今度はね~…」

  「ちょ、ちょっ!!おまた触るのダメ!!私は身体売ってる人じゃないんだぞっ!?…えっ?助けてくれたから、お礼がしたい?」

  「じゃ、じゃあしょうがないな~…さ、触ってもいいから、話聞いてね?」

  「…チャ、チャック開けるのダメだよ。私のおまた、見ると後悔するんだからなっ。」

  「あ、あっ、あ~…っ…ダ、ダメ。先っぽだけでも、触るのダメ。ダメだからね…ダメ。ダメ…」

  「ね、ね~っ!ダメって言ってるでしょ…っう♡」

  「あ、あーっ、ひ、引っ張らないで!いやこすっちゃダメ!!あっあ、おっきくなっちゃうから!!!」

  「も、持ち合わせ全然ないから安くならないかって?!ダ…あ、ぅ~…っ♡」

  「ダ、ダメなものはダメっ、引かないんだからな~…っうあ、先っぽグリグリしないでっ♡」

  「ぅ、う”~っ♡♡ごしごしっ、やだぁっ♡♡あ”、あ”~~~っっっ♡♡♡」

  [newpage]

  ──気付いたら、朝だった。

  凄く喉が渇いてる気がする。

  荷物、結構渡しちゃったけど…お金貰ってない気がする。

  でも…腰は軽いな。いや何かジンジンする気がする。

  後悔は…あんまりしてない気がする。

  まぁ…いっか。昨日は多分、楽しかったし。

  まずは朝ごはん、食べにいかないとね。

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