灰色のあっちがわ~一般狼獣人だけど知り合いのワニ獣人が朝俺の…+etc
真っ裸の虎獣人、フリッドを拾って早数ヶ月。
特になんのハプニング──いやまあ大の男がリビングで裸になって寝ている光景が普遍的になってきていること自体、大問題ではあるが……。
ともかく、だ。
そんな春先のバカ騒ぎも過ぎ去り、今は秋。紅葉色づく季節へと差し掛かろうとしている。
狼を先祖とした獣人である俺ではあるのだが、朝の寒暖差というのはとてもつらい。
ダブルコート? いやいや、身体の芯まで冷えてたらそんなの関係ない。どんな種族であれ、気候の変化は身に堪えるもんだ。
現に毛布一枚身を包み、二度寝を決め込もうとしている俺としては、温かみがちょっともの足りない。
秋は人肌恋しくなるもの、なんてのたまう奴がいるけれど、今このときばかりは肯定しよう。ヒーターまではとは言わない。ほんの少し、温もりが欲しい。
そんな俺の淡い欲望が聞き届けられたのだろうか。そっと、誰かに毛布ごと抱きとめられる。
──ああ、この感じ。この、控えめでもあり、すべてを預けてもいいとさえ思える、心地いい温もり。
自然と頬も緩むというものだ。「おい」ヒトに抱き締められる感覚というのは酷く懐かしい気分にさせられるというもの。「おいって」
いつの世も抱擁という行為には相手に対する愛が込められているものだ。それに身を任せ、溺れることは一生の幸福とさえ取れるだろう。
ああ、いっそこの愛に満ちた抱擁で、身も心も絆されてしまいたい──
「離れろや糞ワニが!」
「あでっ」
勝手に潜り込んできた不届きモノを思いっきりベットから蹴り落とす。
おいなんだ今のモノローグ。なんだ今の独自。
いくら寒いからって他人がベットに潜り込んできたら危機感が真っ先に走るわ。自分の巣から外敵追い出すのは獣の本能ぞ?
「あっててて……。ったく、折角寒そうだから俺の多大なる愛情であっためてやろうとしたのに」
「全ての行為に愛と付ければ許されると思うな」
「愛と戦いにおいてはすべてが許されるのに?」
「憎悪は愛から生まれるもんだ」
先程ベットから蹴り飛ばした不審者──鰐獣人ガレッツォが、わざとらしくいたがりながら起き上がる。
コイツ普段アホらしい絡み方してくるのに学だけは地味にあんだよな、そういえば。なんだっけ、愛と戦い……イギリスのことわざじゃねえか。パンジャン生み出した脳筋国家らしいわ、マジで。
まだもうちょっと眠っていたかったがしょうがない。
愛だのなんだのほざいてるアホに空返事をしつつ、俺はいまだ恋しいベットから身を起こす。
これはくだらない、ごく平凡な狼獣人である俺が振り返る、本当にしょうもないただ小噺だ。
語る価値も見る価値もない。だから──
こんなこともあったんだと、どうかひっそり笑ってくれ。
*注意*
以下、会話文のみで構成された話が混ざります。
合わないな、と思われた方は避けることをお勧めします。
#なんなら乳首もない
狼「なんで俺の寝床に潜り込んだ」
鰐「欲しかったろ? 温もり」
狼「物理で寄越すな。だいたい男同士で身を寄せ合うとか不快極まり……」
鰐「なんだ黙り込んで。ハグ、おかわりするか?」
狼「いや……。押し付けるブツそういやなかったな、と」
鰐「おいノンデリ」
#逃げても追うし役立たせる
狼「お前不法侵入って知ってるか?」
鰐「俺との仲だ、そんな法の壁なんて障害にすらならねーよ」
狼「守れ。せめて境界線引かせてくれ」
鰐「いやでもあった方が興奮するか……? 障害があった方が燃え上がるし……」
狼「突破する気満々じゃねえか。隔てろって言ってんの俺は」
#モーニングコールはいかが?
まあ、こんな酷い朝なんてそう毎日やってこない。
そうだな……じゃあ、いつもの朝ってやつも見せておこうか。
*
「ふぁ……ん、くっ……」
気だるい体を起こすように、手を組み上にあげ、軽く伸びをする。
筋肉が伸びていく感覚がなんとも気持ちいい。たまにパキパキ骨が鳴るのが心地いい反面、ちょっと不安にはなるが、まあそれはそれ。
今日も一日頑張ってみるか。活力あふれる性格でもないものの、自分なりに気合を入れつつリビングへと向かう。
「あ、おはよ」
「ん……はよ」
戸を開けるとふわりと漂う、香ばしい香り。
中では居候である虎獣人、フリッドがコーヒーを淹れているようだった。
薄目で奴の状態を確認する。
……よかった、今日はしっかり服を着ている。
当たり前と言っちゃ当たり前なんだが、油断はできない。コイツと暮らしていて何となく察した。というか学習したのだが。
コイツ、全く常識がなってねえ。そして変なとこで恥じらいがねえ。
「もうちょっとで出来上がるから、あの、その」
「そ」
まだ抽出が終わってないからか、フリッドはどもりながらそう言う。
起きてくる時間をみこして淹れてるのだろう。健気というか、律儀というか。
そんな虎に俺は素っ気なく返事を返し、ミルクを取りにキッチンへと向かう。
冷蔵庫から取り出すついでに、中にある食材を確認する。
たまにあの馬鹿ワニが勝手に奢ってくれたりはするが、自炊を怠ろうとしたことはない。あれは完全にあいつの気分だし、いつ見捨てられて一人になっても困らないようにするのは大事なことだ。
さて中は……ふむ。卵と、あとは肉が足りないか。
スマホのメモアプリにリストアップし、キッチンをでる。再び戻ったリビングでは、フリッドが机に突っ伏し、コーヒーの出来上がりを待っている。
「……」
ただ居させるだけでは置物と変わらないと、いくつかの家事を教え込んだ。コーヒーもコイツの仕事のひとつ。
ほんのり埃がかぶっていたサイフォンを取り出し、奴の前で使い方を教えたのがつい最近のことのようだ。最初は乱暴に扱ってて、その度壊したら体で償わせると脅しをかけたりもしたっけ。
けど、まさかここまで夢中になって淹れてくれるとは思わなかった。
沸騰した湯が上へとのぼり、コーヒーとなって下に流れてくる。ただそれだけのことのはずなのに、あいつはそれをまるで手品を見に来た子供のように眺めるんだ。
毎回そんな反応をするものだから、その光景を見るたび俺はこっそり笑ってしまう。
朝のゆっくりと流れる時間を、コーヒーの出来上がりと共に過ごす。忙しい毎日の中で、こうし何もしない時間というのが、凄く贅沢だと俺は思う。
なんというか、こんなのんびりとした時間、今まで過ごせなかったような。いつも命がけで、必死で生きてきたような……。
「うぃりー?」
「ん。なんだ」
フリッドが呼んでいる。どうやら抽出が終わったらしい。
俺はそれにはじかれたように返事をし、ミルク片手にフリッドの待つリビングへと赴く。
さっきのことはまあ、気のせいだろう。
ただの空想。絵空語りだ。
だってそうだろ? 俺とアイツが命がけの状況で生き残る、なんて。そんな夢じゃあるまいし。
#むちむちポーク! 〜秘密のピンクパンツ大作戦ッス〜
「い、ぎっ……」
ギチギチと肌に絡むコード。
もがけばもがくほど、それはきつくより複雑に。淫らに締め上げては、虎獣人の肉体を蝕み、食い込んでいく。
普通の家庭ならあり得ない状況だろう。拘束され、身動きの取れない状態にさらされるというのは。
或いはそういう趣向の持ち主なら、まああり得るのかもしれない。サディストのガレッツォあたりなら、喜んでやっていそうなことである。
「み、見て、ないで……助けてぇ!」
一部始終をみていた俺からすれば『なにやってんだお前』である。ガックリと肩を落としたくもなる。
家にただいるだけじゃ暇だろうと、掃除機片手にやり方を教えようとしたのが事の始まりなのだが……。今どきコード式なのが災いした。
まさか、自分で伸ばしたコードに楽しくなって自分で絡まりにいくとは。
バカじゃねえの。なあ、バカじゃねえの。
「うぐ、ひっぐ……なんで、こうなんのぉ……」
知らねえよバカ。
二十二世紀の猫型ロボット見習ってもう少しまともな働きしろよ。いくらポンコツでも、あっちの方が有能じゃねえか。
「あーもう、動くなよボンレスハム」
「俺、は! ハムじゃ、ねえ!」
芋虫が如く地を這いずるフリッドを片足で踏みつけ、複雑に絡まったコードを解いていく。
ああ。なんでホント、コイツ引き取ったんだか。
#世界はそれを
狼「なんでこんな世話のかかる虎引き取ったんだろ」
鰐「運命(さだめ)だからだろ」
狼「……(絶句)」
鰐「俺との出会いも“運命”……だしな」
狼「お前それが言いたかっただけだろ」
#世界はそれを 2
狼「なんでこんな(以下同文」
ナターシャ(以下シェ犬)「え。オナ✕飼育してたんじゃなかったの?」
狼「アンタ息子の同居人をなんだと」
シェ犬「オナ✕」
狼「……」
#世界はそれを 3
狼「なんで(略」
リッチ(以下オラ)「愛だからだろ!!!!」
狼「うるせえ」
#その背中を見ていたから
鰐「それにしたって口悪いよな、ビネガー」
狼「酢じゃねえよ。……仕方ないだろ、あの親なんだから」
虎「でも……電話先とか、そんな口調じゃないじゃん」
狼「お前等にそんな気を遣う必要ないし」
鰐「……へえ」
狼「なにニタついてんだアホ鰐」
#堅物なあの子にエッチな事を言わせる百の方法
鰐「今日は口の悪い狼ちゃんを改善するためにいいもの持ってきました」
狼「いらん」
鰐「ほい、マウスウォッシュ」
狼「治す気ないだろ。なんでトンチ効かせた」
鰐「モンダミンセンシティブ!!」
狼「言いたかったのな、ハイハイ」
鰐「センシティブ!!」
#今日はいけそうな気がする
狼「まずセンシティブってエロワードじゃねえのよ」
鰐「おっそうだな」
狼「SNSでそのワードが出るときは大抵そうだし、そういうものだって認知が広まってるかもしんねーけどさ」
鰐「そうだな」
狼「でもこの場合のセンシティブって言うのはデリケートとか過敏とかそういった意味で」
鰐「つまり口で感じやすいと」
狼「は?」
鰐「エロ画像を漁るしお口は敏感だし……うわ、俺の狼ちゃんエッチだ」
狼「おいまて。知識として知ってるってだけでそんな事実は」
鰐「あーやっべ、興奮した。あんま否定すんなよ余計クる」
狼「何勝手に俺で勃起してんだお前は」
#愛 それは
「なにを恥ずかしがっているんだ! フリッドを受け入れてくれたのはひとえに君の愛だろう?!」
フリッドを股ぐらに座らせ、全力の猫可愛がりを披露しながら、オランウータン獣人リッチが恥ずかしげもなく主張する。
あの、やめてくれませんかね。ここ、俺んちなんですけど。
親子のふれあいを邪魔したいというわけじゃない。それを人の家で実行するというのも、まあ百歩譲るとしよう。
男との愛を大声で語るなよ。俺と、このゴミとの間に愛があると、拡散するな。
ここ一戸建ての家じゃなくて、ごくごく普通の安アパートですからね?
響くんですよ声が。しかもオランウータンの声だ、かなりどでかく響くんですよ。
くっそ迷惑なんですが。なんでどいつもこいつも俺を巻き込んで被害をデカくしていくんですかね。くそファック。
「あの」
「人が人の手を取る……それはひとえに愛のなせる行動だろう?! 俺は君がそんな愛の溢れる青年だからこそ、フリッドを安心して任せられると確信したんだ!!」
「は、はあ」
「それなのに……それなのに! 君が愛を忘れるだなんて!! 一体なにがあったんだ! 嫌なことでもあったのか? 大丈夫だ、俺が全身全霊をもって君を元気にしてみせよう!」
なにこのパワフルモンキー。滅茶苦茶かったるいんだけど。
机を挟んで向かい側にいるってのに、なんで騒ぐ必要があるんだ。抱きついているフリッドを見てみろよ、あまりのデカい声で気絶してんじゃねえか。
「さあ、俺の胸に飛び込んでこい!! 俺の愛で精魂漲らせてやろう!!!」
「あ、コイツにそういうの間にあってるんで」
口角泡を飛ばしながら嬉々として腕を広げるオッサン。それを、俺の隣にいた鰐が制す。
「さっきから愛あいアイaiうっせえんだよ。猿か」
「おさ〜るさ〜んだよぉお??!!」
「……ふ、」
ん? 誰だ、今笑ったの。
その場の全員が一斉に振り向く。そこには、
「あ、すいません。続けて」
存在感を消して一人紅茶をすすっていたリッチの連れ。
フクロウ鳥人のバートンが、一人笑いをこらえていた。
#和解
鰐「あーいあい」
オラ「あーいあい」
鰐「あーいあい?」
オラ「あーいあい!」
二人『おさ〜るさ〜んだね〜!』
狼「ハモんな」
梟「ぷふっ」
狼「……んで、なんなの。このヒト」
#賑やかな街角の一角に建つカフェテリアで働く青ストライプシャツに黒エプロンコーデなイケメンバリスタ狼獣人が仕事で疲れている客に対して可愛いワンコのラテアートが入ったカプチーノをこっそり振舞って『他のお客様には内緒ですよ』なんて照れくさそうに耳打ちする要は『恋に落ちる瞬間を、はじめてみてしまった』って甘酸っぱい展開を一億光年前から読みたいのになんでケモナーは(略
「……はぁ」
カフェテリアのテーブル席で、小さな溜息がこぼれ落ちる。
時刻はお昼時をすぎ、丁度人がはけてきたころ。その一角からは、シックな音楽の流れる店内には到底似つかわしくない、陰鬱な空気がただよっていた。
テーブルに広げられた紙束の一枚目には、企画書という文字が大きく書かれている。
そこを塗りつぶすように、赤く大きいバツ印も。
社会人になってはや三年。周りの期待に応えようと頑張ってきた。
そうして舞い込んできた大きな仕事。俄然やる気になってこうして取り組んだはいいものの……上司に言い渡されたのはボツの一言。
「頑張ったのに……なぁ……」
ページを一枚めくれば、そこには苦労の末に出されたアイデアの数々。頭を抱えてまで悩んだというのに、こんなにも呆気なく否定されるなんて。
見たくもなくなって、その人がテーブルに突っ伏する。
直後、バサバサと落ちる紙の音。テーブルに伏せた弾みで、持っていた企画書が手から滑り落ち、床にばら撒かれてしまった。
慌ててその人は散らばった企画書をかき集める。
ああ、本当についてない。まわりにヘコヘコと頭を下げ、再び席についたときには、その人の疲れはピークにまで達していた。
あーあ、こんな世の中早く滅んじゃえばいいのに。
そう思い、その人が天を仰いでいると──
コトリ。テーブルに、コーヒーカップが置かれた。
えっ? と不思議に思ったその人がコーヒーを置いた人物を視線で追う。
それは、店の店員さんだった。店の雰囲気に溶け込むような、物静かな狼獣人。蒼い毛並みがその彼の澄ました表情によく似合う。
「こちら、サービスです」目が合った狼の彼が業務の一環のようにそう告げる。
当然、というか、まだその人は注文すらしていない。いいです、遠慮しますとその人が断ろうとすると、狼の彼は人差し指の先をその人の唇に押し当てた。
「お静かに。他のお客様のご迷惑になりますので」
コクコクとその人が頷く。
狼の店員はほんのりと微笑むと、指先をそっと離した。
「先程からみていたのですが……その、お客様がなんだか疲れていそうだったと申しますか。非常に辛そうでしたので」
コーヒーに視線を落とせば、そこには白いクリームの上にココアパウダーで可愛い犬の顔。
彼がするとしては似合わなすぎて、思わず笑みがこぼれてしまう。普段行きつけとして利用しているからこそ、イメージとしてちぐはぐで、それがどうしても──
「行き過ぎたマネをして申し訳ありません」
「あ……いえいえ! こちらこそご迷惑を……」
狼の店員が会釈し、その場を離れようとする。
けど、数歩歩いた所で忘れ物でもしたのだろうか。Uターンしその人の元へ戻ってきた。
顔を耳元へと近づけると、狼の店員はこう言う。
「他の人には、どうかご内密に。……元気、出してくださいね」
そう言い終えると、狼の店員は一礼し、照れくさそうにその場を去っていった。
その人が自身の唇に触れる。
狼が触れたその部分がじくじくと痛む。まるでまだ、彼が触れているかのように。
❋
鰐「──ってカンジでコーヒーサービスしてくれね? ウォルター」
狼@カフェで仕事中「まず注文してからもの言え」
鰐「いいじゃねえかケチくせぇ」
狼@面倒な客に絡まれ中「まずそういうコンセプトの店じゃねーからココ。なんだその吐きそうなくらいのスパダリ狼」
鰐「お前だが?」
狼@早くカウンターに戻りたい「野郎相手に変なモン求めんなよ……ハァ」
#就いた理由は本編と一緒
鰐「バリタチちゃんコーヒー淹れて~」
狼「今度そういう呼び方してみろ。マジでぶっ殺す」
鰐「カリカリしなさんなって。ほら、早く早く」
狼「……もしや目の前で淹れろ、って言ってる?」
鰐「そうだが?」
狼「うわダリぃ。機械でいいだろ」
#ギャグじゃない
虎「コーヒーのこの黒い粉ってさ、元はなんなの?」
狼「コーヒー豆をばいせ……火で炒って粉状にしたやつ、だな」
虎「え、ジョーク?」
狼「違う」
虎「豆ってことはさ、ひよこ豆とかと一緒で鞘みたいな成り方してるの?」
狼「んー……まずコーヒー豆は豆じゃないんだよな」
虎「???」
狼「まずコーヒーノキって木があってな」
虎「なんでジョークはさむの?」
狼「違うから」
#一代で終わる
狼「いまってイケメンのこと傾国顔とか建国顔とか言うんだな」
鰐「お前……建国したのか……? 俺以外の男と」
狼「ぶっ、馬鹿かオメー……っく、ふふ」
鰐「建国するなら
お れ と ! ……だろ!?」
狼「ぶっは……て、めぇ……ホントさ、まーじで、ふふふ」
#鰐獣人の副収入
男が一人、路地を歩いている。
道端には飲み捨てられた缶やら瓶やらが散乱し、煉瓦造りの壁にはせめぎ合うグラフィティアートの数々。
いかにも治安の悪そうな、いつ犯罪に巻き込まれてもおかしくない通りだ。
男の名はガレッツォ。鰐獣人だ。
何故彼がこんな不穏な気配漂う道を通っているのか、というと──
「おい」
不意に誰かがガレッツォを呼び止める。
気怠げそうにガレッツォが振り向けば、そこには獅子獣人の姿があった。
「あー? 誰だお前」
「誰だ、って?」
さっと記憶を洗っても該当する人物を思い出せない。
憶えのない姿にガレッツォがそう聞けば、獅子獣人はわなわなと震えだす。
「ハメた男の面なんて覚えてられねぇ、てか?」
「そりゃそうだろ。俺顔の悪い男、ハメハメするシュミねーし」
「あ゛?」
「なんだ発情期か? 悪いがプラグでもケツに挿して慰めとけ。俺イケメンしか相手したくねーの」
やっぱ愛でるのも抱き寄せるのもイケメンに限る。DickFace(ブサ面)じゃ絵面が悪いし?
──そうガレッツォはのたまうが、その視線は獅子獣人を捉えたままだ。
と、いうのも。獅子獣人が後をつけてきていたのを、ガレッツォは随分前から知っていた。
焼けるような男の視線を肌で感じつつ、けどまあ襲ってこないザコなんて相手するヒマないし、なんて理由で無視を決め込んでいたのだが。
「ざっけんな!! 誰がテメェみてぇなふざけた男抱くかよ!!」
「あ、ちげぇの? 執拗にー、俺のケツ、追っかけてたクセに?」
挑発でもするかのように、妖美に獅子獣人へと腰を振ってみせるガレッツォ。
それが完全に決め手となった。完全に頭に血が上った獅子が、勢いよくガレッツォへと襲い掛かったのだ。
「オイオイお客さん、慌てなさんなって。イイ男ってのは逃げも隠れもしねーんだから」
が。その特攻も、ガレッツォの前では所詮子猫の突進に過ぎず。
即座に打ち込んだカウンターが獅子の顎下へとクリーンヒット。地べたに熱烈なキスを交わすハメとなった。
「はいノック。ダメだろ〜? 善良な市民ちゃんに襲い掛かるなんて。ママに教わらなかったか?」
「あ……ぐッ゙」
「地面でオネンネなんて、行儀悪いなぁ? しつけがなってねえんだ、ケツ追ったところで女にも相手されねえだろうよ。
そこんとこ、おわかり?」
獅子の背中を遠慮なく踏みつけ、ガレッツォは無様ぶりを嘲笑う。
どこの誰かは知らないが、随分と可哀想なおつむを有しておられる。
相手の力量を測れないなんてまず論外。そもこんな人気のない場所、“誘い込まれてやった”のだ。どんな手で襲ってくるのか内心期待していたというのに、こんな愚直ぶりを見せられるとは。
「喧嘩売るなら相手みてから売れって。群れの中でイキってても所詮井の中の蛙。時代はワールドワイドなのよ、チ・ビ・カ・ス」
「言わせて、おけば……ぐあッ!!」
「あ、でも声はいいじゃねえか。顔はゲロカス以下だけど無様ぶりは映えるばえる。インスタのっけていい?」
踏めば踏むたびぎゃあぎゃあと鳴く獅子獣人。
これは傑作、まるでジョークグッズみたいじゃないか。
押すとぷぴぷぴ鳴るあのニワトリの玩具。あのマヌケ面と獅子が非常にそっくりで、無様なことこの上ない。自分こそが強者だと思い込んでいる奴がそういう扱いを受けているのだから、マヌケっぷりにも拍車がかかる。
けれど蹴って殴って遊ぶだけ、ならただの三流。
報いというものは無慈悲で残酷であるべきだ。歯向かったことがいかに愚かなことか、それをより明確に、この獅子に刻み付けなくては。
起き上がろうとする獅子獣人の鬣を掴み上げ、ガレッツォは乱雑にぶん投げる。
何本か毛が毟り取れたがどうでもいい。こんなのお目当てでもなんでもない。
「ぐっ……ぅ…」
「さって。俺を襲ったオトシマエ、つけてもらおっか」
「あ……?」
「欲求不満なんだろ? 男にも手をつけるくらい、だもんなあ?」
「なに、いって」
「いーっぱい、溜まってんだろ? 男だもんなあ?
シコるだけじゃ限界ってもんがあるもんなぁ。うんうん、わかるぜ?」
獅子の背筋がぞわりと震えた。
本能が叫ぶ。この男は、本気だと。
ふざけた物言いであるにもかかわらず、この鰐男は、本気で、自分を食おうとしている。
ガレッツォがニタリと笑みを深めて近づけば、獅子は恐怖に震えあがり、足をばたつかせ逃れようと藻掻く。
そうそう、このカンジ。獲物を追い詰めるというのは一方的であるべきだ。
追い詰められて、抵抗も虚しいと諭させて。恐怖に染まる相手を肴に、甘く芳醇な蜜を戴く。
「やめ、ろ」
「なんだよ。期待してんのか?
いいぜお前のその目、その表情。下手な女よりだいぶソソんじゃねえか」
「おれに、そんな趣味は、」
「知らねえよんなもん。誘ったのはオ・マ・エ。どんだけ溜め込んでんのか知らねーが……
──たっぷり、ヌいてやるよ」
尚も藻掻く獅子獣人に忍び寄る、ガレッツォの魔手。
敗者はすべてを奪われる。それは自然の摂理で、当然のこと。
ただ唯一許されるのは、
「や、やめ
止めろぉぉぉ!!!」
虚しい遠吠えを、あげるのみだ。
❋
鰐「メっシの時間だオラぁ!」
狼「いらねえ帰れ」
鰐「まあまあそんなこと言わず、な? 硬くすんのは股間だけでいいから」
狼「死ね」
鰐「臨時収入入ったし、良いもん食おうぜぇ? デカいだけのオプションも一緒でいいからよ」
虎「今俺のことバカにした? ねえバカにした?」
狼「臨時収入ってそもなんの臨時だよ」
虎「え、無視? フォローは?」
鰐「清掃活動、かな」
虎(あ、ウソだ) 狼(ぜってぇウソだ)
#扱いが上手い
鰐「邪魔すんぞー」
虎「うわ来た」
鰐「あ? なんだその反応。喜べよカス」
虎「カスじゃねーよ! なんでガレッツォも俺をゴミ扱いすんだ!」
鰐「で、アイツいねーの?」
虎「そんでもって雑! 悪かったないなくて」
鰐「んだよつまんねー。チッ……出直すかな」
虎「自分に対して素直すぎでしょ!!」
鰐「なんだ文句ばっか。もてなしでもしてくれんの?」
虎「え、あ……コーヒー、淹れてくる!」
#好きになるのに、一秒もいらない
虎「ガレッツォはさ、ウィ……アイツの、何処がすきなの?」
鰐「顔」
虎「……他は?」
鰐「え」
虎「え?」
鰐「他に理由、必要か?」
虎「うわ……。アイツが嫌いな理由、わかったかも」
鰐「アレは照れ隠しだから。わーっちゃねえなあ虎ちゃんよお」
虎「うっわぁ……」
#そして後で『その倫理観の線引きもどーよ』となる
シェ犬「私思うの」
狼「なんだよ」
シェ犬「私さ、男の子育ててよく『✕✕✕成長日記』とかつけなかったなって」
狼「ぶっ」
シェ犬「ほんとよかった。そこまで✕✕狂いのアバズレじゃなかったんだね私って。一歩間違えてたら終わってたね、うん」
狼「終わってたのは俺の人生なんだが」
シェ犬「あっはっはっ、なにそれ一蓮托生? なら今からでも付けよっか」
狼「止めろ」
#あくまで売女の意見です
シェ犬「あーもー、やんなるー!」
狼「暴れんなナターシャ」
シェ犬「お母さんって言え。じゃなくてさ、聞いてよビリー」
狼「嫌だ」
シェ犬「なんで男って✕✕✕デカいほどキショいくらい威張り散らすワケ? ほんっと訳わかんない!」
狼「嫌だっつった。嫌だって、言った」
シェ犬「そんでもって器の大きさは反比例すんの、おかしくない?」
狼「知らねえよそんな威張れるほどのモン持ってねーし」
シェ犬「まあそれは私に対して大きな態度取ってる時点でねぇ」
狼「アンタが聞きたくもねえこと喋るからだろがい!」
#血は争えない
虎「あ、の」
シェ犬「ん? なに〜オナ✕君」
狼「オナ✕呼び止めろって」
虎「その……ナターシャ? さんって、その……」
シェ犬「ハッキリしねーコイツ。なんでモジモジってんの? ねえビリー」
狼「無理に話しかけんなフリッド。コイツはな、こういう女なんだ」
虎「え、あ」
シェ犬「ひっど。仮にも母親に対して言うセリフ?」
狼「仮だってわかってんじゃねーか」
虎「あ、の」
シェ犬「あーあー聞こえないー。女の揚げ足とるとか、女にモテないよアンタ」
狼「モテなくていい。つか、今モテてもヤベェだけだから」
虎「その」
シェ犬「あー、家でオナ✕飼ってるとねえ……」
狼「ごみ出し出来ねえのって思われちまうし……」
虎「なんで急に息合わせてくんの?! どっちも違うよね??!!」
#ネジは外れてるが母性はある
虎「あの、ナターシャさんって、男のヒト……嫌い、なんで、すか」
シェ犬「は? 意味わかんな」
虎「ひっ……」
狼(訳知り顔)
シェ犬「好きに決まってんじゃん。えー怖」
虎「???」
狼(だよなーって顔)
シェ犬「性格と性根と言動はマジカスだけどお金くれるからね〜。羽振りいいならいいだけ好きよ?」
虎「?????」
狼「それは男が好きって言わないだろ」
シェ犬「あっはは、そだね〜」
虎「どういうことなの……?」
狼「諦めろ。そういう女だ」
#ばよえ~ん
シェ犬「ところでオナ✕君」
虎「俺はオナ✕って名前じゃ、」
シェ犬「ほい」
虎「おにゃあああ??!!?!」
シェ犬「うわいい反応。生娘かよ」
狼「なんで胸揉ませてんだ」
シェ犬「さっきの、そういう話じゃなかった?」
狼「なんでそうなる」
「『俺男だけど嫌われてんのかな……』ってことでしょ?」
狼「段階何個かすっ飛ばしてんだろ……」
虎「あ……あ……」
狼「コッチは理性飛んでっし」
虎「ぷ、ぷよぷよ……」
狼「感想口にすな」
虎「えーい……やーあ……」
狼「消すな。連鎖すな」
#コッチでもフリッドは不死者です
たまに俺──フリッドのもとに、バートンさんがやってくる。
「具合はどうだ」
しかも、一人で。
「あ……う……」
「言語障害か?」
「う、ううん! そういうのじゃ、ない……デス」
いつもならリッツの隣で物静かに立ってて、俺には絶対関わってこないのに。
正直すごく返事に困る。
だって、きっとこのヒトは俺のことを嫌っているから。
「ここに来て怪我は」
「してない、よ。具合が悪くなったこともないし」
「そうか」
くちばしに手を当て──手と言うより羽だけど──、ふむ、とバートンさんが呟く。
毎回、こんな感じだ。
こんな調子で様子を聞いて、なんか納得したように帰っていく。
心配とか、そういう感情で聞いてるようでは、決してない。
なんというか……ロボットに動くかどうか確認をとっている、みたいな? そんな……ニュアンス? を感じるんだ。
ほんと、何考えてんだろこのヒト。そういうの、苦手なんだけど
「あの」
「なんだ」
「今日はどうして一人で?」
「フリッツなら二日酔いだ。ベットに縛りつけている」
「あ、うん。そっか」
いやまあ、リッツのこと聞きたかったわけじゃないんだけど。
俺の返事に納得がいかないのか、バートンさん首をかしげてるし。
苦手なとこ二つ目。話がなんとなくかみあわない。
わざと聞いてないとか合わせてないとか、そういうんじゃない。これで素なんだから怒鳴れもしない。
「それで……なんでバートンさん、が?」
「用事は済んだ。すぐ帰る」
「あ、いや。そうじゃなくて」
「嫌だろう。私と話すのは」
そうじゃなくって。そうじゃなくってさ。
苦手なとこ三つ目。決めつけが早い。
決断力っていうのかな。狼が俺によく足りないって言ってくるやつ。それが、すさまじいほど早い。
リッツも何かを決めるのは早い方だけど、こういうのじゃないし。
あっちはなんていうか……色々巻き込んで『よっしゃやったるぞ!』みたいな? カンジだし。
「嫌というより近寄りがたい……」
そう。
突き放されてるって感覚が一番ピンとくる。
狼のような、なんだかんだで待ってくれてるとは違う。リッツのような、巻き込んでくるのとも違う。
仲良く出来そうな隙がないんだ。
興味も関心も一切ない。好きになって欲しくないから、隙を作らない。
「よく言われる」
俺が酷いこと言ってもこれだ。バートンさんはそういうこともあると、当たり前のように受け流す。
傷ついたりしねえのかな。俺だったらゴミとか言われてちげぇしって、言うのに。
「……私と、話したいのか」
「え」
ままならない会話にヤキモキしていると、バートンさんがそんな、意外なことを言ってきた。
いやどうだろ? これといって話したいことが俺にはないし、楽しく会話できる間柄にも……なれそうにないし。
「私はキミが嫌いではない。だから、対話くらいならしてやれる」
「え、うえぇ?!」
「なんだ」
「いや嫌いじゃないって、え、うっそぉ!」
「嫌いではない。扱いに困っているだけだ」
あ、扱いに困るって……。
それだと俺、イロモノみたいじゃん。え、ウソ。
間違いじゃないかなって一瞬思ったけど、バートンさんそういう冗談言うヒトじゃない。
むしろ事実だが? なんて返してくるヒトだ。現に今だって澄んだ目で俺のこと見てくるし。
……バートンさんにすら、変なやつ扱いされてたのか、俺。は、ハハ……。
「へ、へこむ……」
「? 何故だ」
「いやだって俺が変だから困るって」
「変なんて言っていない」
え、じゃあなに。話の流れ的に変ってことじゃないの。
「前に、私は君をヒトとして見れないと語っただろう」
「あー……そう、でした」
俺がリッツ達と出会った頃、確かにそんな話をバートンさんはしていた。
俺はなんというか……他と違って死にづらいというか、おかしなカラダのつくりをしているから。だから、仮に大怪我していても構ってやれない──そう、言われた。
「紛争地域……私達と一緒にいた頃は、多くの患者を目の当たりにしただろう」
「……うん」
「生命に優先順位はない。けど、医師としては、軽症患者より重症患者を優先する必要がある。
──時に、見殺しにすることだって、ある」
バートンさんの表情が硬くなった、様な気がした。このヒトにしては珍しく、本当にほんの少し。
とても言いづらいことなんだろうか、聞いているこっちも背筋がピンと伸びてしまう。
生命を選ぶ。リッツとバートンさんはいつも、大変な目に遭ったヒト達を助けていた。
……でも。全員は、無理だった。
そのたびに二人は喧嘩したり、酒を飲み合って愚痴をこぼしあったり。傍で見ていたからわかるけど……見ていて、すごくつらかったのを覚えてる。
キリシタンであるバートンさんが祈るのも、救えなかった生命に対してらしい。……リッツから聞いた話だから、本当かは知らないけど。
「だから……その」
バートンさんが言い淀んでいる。
本当のことがどうであれ、救えなかったものの話をすることは流石に辛いんだろう。近くで見てきたし、俺バカだけどそういうのは……うん。
「君が生き返るのは……うむ……」
「え、困るっていうのは」
「見捨てた筈の生命がピンピンしていたらまあ……医師として、困惑する」
……いや、あの。なにそれ。
え、これってさ、つまり。
「今までの態度は医師としての扱いに困るからってことかよ!!!」
「そうだな」
「わかるかあほ!!!!!」
──この日以降、俺は少しだけ。
ほんの気持ちだけ、バートンさんと話せるようになった。
❋
「ところで今の話なんだが」
「……なに」
「こういう時に言うセリフがあるそうだ」
「はあ」
「私、またなにかやっちゃいましたか」
「うっさいよバカ」
#ハッピーエンドのはなしをしよう
「やっほ」
「……また来たのか」
フリッドがウチに住むようになってからこっち、なんだか来客が多くなった。
まあ俺としては来るもの拒まず、オランウータンのおっさんに関しては金をくれるからウィンウィン、ってところ。
なん、だが。
なんでか知らんが、ナターシャもウチに上がり込むようになったのは、予想外で。
「また男から逃げてきたんじゃねーだろうな」
「そう何度も息子相手に迷惑かけませーん」
「調子のいいことを。シェルターで一緒にいたってだけだろ」
「あはは」
「誤魔化すな。……っておい!」
話半分に俺の抗議を受け流し、ナターシャが奥へと向かっていく。
これが男絡みだったり金銭絡みだったら即追い出し案件だった。
けど、実際には本当に何の要件もないらしく、ずかずかと上がり込んではくつろいでいくという、野良猫みてーな感じで。
いやお前犬だろ、ってツッコミはなしで。俺の中で散々やったし。
「あっれ、オナ✕君は?」
半ば呆れ気味に後を追うと、ナターシャがフリッドの所在を聞いてきた。
「あいつ? 今日はアイツの保護者とおでかけ」
「え。あれアンタのペットじゃなかったの」
「違うわバカ」
未だナターシャはあの虎獣人と俺の関係をいかがわしいものだと認識しているらしい。
仮に俺が色好きだったとしても、道端に捨てられたゴミに欲情なんてするかっての。それだったらデリヘル呼んだほうがまだマシなんだが。
ソファに座るナターシャを尻目に、俺はキッチンへと赴く。
あいつ飲み物何がいいんだろ。「アンタなに飲むー?」と聞くと、紅茶でと返事が返ってきた。
注文通り注いで持っていけば、ナターシャはゴロリ、ソファの上で寝転んでて。
なにヒトんちで我が物顔で寛いでんだと文句を垂れたら、「いいでしょアンタの親なんだしー」とぶーたれられた。
「最近なんかあったか」
「なにも?」
ソファの下にあぐらをかき、紅茶を一口。
粉末ものらしい、あまり香華を感じられない安っぽい味。
紅茶なんて客用にしか買ってないし、まあこんなもんだろう。
コーヒーならまだ美味しく淹れられる自信があるんだが。……一緒のもん飲んでるのは……別々のやつ淹れるのが面倒かったからで、深い意味はない。
「アンタは?」
「……なんもねーよ」
あっそ。ナターシャが寝そべりながらクスリと笑う。
ただ、それだけの時間。
互いがそこにいて、なんとなく互いを気にかけて。
何となく、こうしていると昔を思い出す。そういえば、出会った頃もこんな距離感だったって。
顔を見合わせて「ああ、いたの?」なんて、関心があるんだか無いんだかの、不思議な関係。
周りの目とか偏見とか、そんなの一切気にしないで。そんな姿に、俺は憧れと焦燥を抱いてた。
面倒を見てくれるうちはいい。けどいつか、本当にふとした瞬間、俺の手の届かない場所に行ってしまうのだろう。そんな予感だけが、ずっとあって。
大人なこのヒトと、子供だった俺。
早く認められたくって必死に勉強して、今はこうして自立してる。
今の俺の姿を、このヒトはどう思っているのだろう。
格好良くなった……なんて、認めたりはしないだろう。
けど。
「なあ」
「んー?」
「まだ、そんな生活続けんのか」
「あったりまえ。私をなんだと思ってんの」
「老いたら魅力なんてなくなるだろ」
「そこが潮時かな。そんときゃ潔く死にますわ」
もし、認めてくれているなら。
大人として、見てくれるなら。
カップの縁に口をつけたまま、俺は言葉を詰まらせる。
こんな馬鹿らしいこと、願っていいのかと。
本人すら願ってそうにないこと、口にして……いいだろうか。
「あのさ」
「うん」
「俺と、一緒に暮らせよ。
死ぬくらいなら……俺があんたのこと、もらう」
言って、直後すぐ後悔した。
もっと言い方ってもんがあるだろ。なんだその貰うって。
徐々に這い上がってくる恥じらいとやらかしてしまったという気持ち。ああもうなんだ、クッソ不愉快なんだが。
ナターシャもナターシャでなんか反応しろよ。
なんで無言なんだよ。俺が変なことしました、みたいな雰囲気作りあげてんじゃねーよ。
いややったんだがな。やったんだけど、そういう空気作んなって話で。
言いようのない気まずさに、口をつけていた紅茶をぐいと飲み干す。
……くそ渋い。でもこれでいい。なんか、気は紛れたし。
「あんたさ、」ナターシャがぽつりと、口を開く。
なんだよ。らしくないこと言ったなんて自分が一番自覚してんだ、切るならバッサリ切れよ。
「あたしのこと、抱けんの」
「抱かねーよ」
「EDだから?」
「ちっげーっての。俺はそういう意味で言ってんじゃ」
「じゃあパス。諦めて」
淡々と、素っ気なく。
ナターシャはソファに寝転がったまま、キッパリと断った。
「✕ックスできないなら無理。それなら舌噛み千切って自害するわ」
「……俺は」
「女ってのはね、彫刻とか絵画とか、そういう飾られて価値のあるもんじゃないの。
生きてるから価値があるっつーの? 鑑賞されて綺麗だね、可愛いね、じゃあ駄目。女として求められなきゃ桶入ってんのと一緒よ一緒」
正直、この反応はわかってた。
このヒトは男になびかない。所有物になる生き方なんてこれっぽっちも求めないって。
「それでも俺は……死んで、欲しくない……」
甘えなんだってことは重々承知だ。
これは本当の親に対する愛情ってやつが分からん俺の、なっさけないエゴだ。
甘えることが出来なくて、でも認められたくて、一生懸命もがいてた。
だから『えらいね。よくがんばったね』って、言われたい。ほかでもない、親代わりを演じてくれたこのヒトに。
けれどそんなこと、俺はきっと求められなくて。だからせめてって願うんだ。
生きていてほしい。どっかで野垂れ死ぬなんてやめてくれ。
──幸せに、なってくれ。
「あんたに野垂れ死んでほしくない。殺される末路なんて、辿ってほしくない」
「そんな簡単に死なないって」
「だったら最後くらい俺と、」
一緒にいてくれ、と後ろを振り替えようとして。
──俺は、ナターシャに抱きしめられた。
「な、に」
「あのさビリー」
「私が可哀想とか、なに決めつけてんの」
そして続く、冷静なコメント。
後頭部を殴られたような気分だった。
「いや、俺はそんな」
「ホント、いくつになってもアンタは女の扱いってものがなってない。
将来がどうとか結末がどうとか、一体どこ見てんだっての。そんなのいつか死ぬわ、アホ」
「ぐ、ぅ」
それに関しては本当にそう。
いつかは死ぬ。それは避けられようもない現実だ。
「そもそも? 私の結末なんて私の勝手でしょうが。今も未来も、可哀想な私なんていないってーの」
「……ハイハイ、そーかよ」
ああもうほんとおっしゃるとうりで。
やけくそ気味にそう返せば、まだまだ子供なんだからとナターシャに笑われた。
自分が不幸か幸福かなんて、生きているうちはわからない。
当たり前だ。バロメーターなんて存在しないんだから、外野が勝手にそうだって決めるだけの、要はただの言いがかりでしかない。
幸せになれ。それが生きる上での義務だ、なんて誰が決めた。
終わるまで何がどうなるか分からないのが人生だ。
「それでもアンタが納得しないなら、
──無理矢理にでも組み伏せてみな?」
だからずっといつまでも。
今を生きるこの[[rb:瞬間 > ハッピーエンド]]を謳歌しようじゃないか。
#そういうもの
虎「ウィリアムが本名だよな」
狼「あ? 死ぬか?」
虎「ナターシャさんがビリーって呼ぶからなんでか不思議に思っただけですグーはなしやめて待ってまって」
狼「あっそ」
虎「……で、なんで?」
狼「愛称だし短くなって当然だろ」
虎「ウィリーじゃ、ねえの?」
狼「ヒトによるだろそこは」
虎「なんで、WがBになるんだ……?」
#男ってそういうもの
シェ犬「あんたのそのカッコつけしいって誰に似たの?」
狼「ぐ、ぅ……」
シェ犬「あたしのまわりは毛色が違うし、あたしが伝授した女の口説き方でもそんなことしろって言ってないし」
狼「いやあの」
シェ犬「もしかしてあたしの事好きだった?」
狼「馬鹿言ってんじゃねえよ!!!」
シェ犬「だよね。×ックスする気ないんだし」
狼「……馬鹿、いってんなよ……」
シェ犬「???」