夜のオオカミ森は、冷たい風が枯れ枝をざわめかせ、月明かりが木々の隙間を淡く染めていた。森の奥、朽ちた大木の幹に空いた黒々とした穴の中で、ちびおおかみくんは膝を抱えて座っていた。ピンク色のアイマスクが、彼の小さな頭についている。
「今夜は…平気だよね…?」
小さな声で呟きながら、彼は自分を励ますように首を振った。ここは誰も近づかない森の最深部。だからこそ、ちびおおかみくんはこの穴を隠れ家に選んだのだ。誰かを傷つけないため、誰にも知られず生きていくため——それが彼の願いだった。
だが、その静寂を切り裂くように、突然の風が吹き抜けた。枯れ枝がカサカサと擦れ合い、不穏な音を立てる。ちびおおかみくんはビクッと肩を震わせ、顔を上げた。
「…何?」
その視線の先、雲の切れ目から現れたのは、輝く満月の姿だった。
「うわっ…だめっ…!」
アイマスクに手をかけようとしたが,言葉を終える間もなく、彼の体に異変が走る。
「うぅ…っ!」
全身が熱くなり、小さな体が震え始めた。瞳が燃えるように赤く輝き、ふわっとしたしっぽが一気に膨張する。次の瞬間、彼の体は膨れ上がり、骨が軋む音とともに巨大化していく。鋭い牙が口から飛び出し、爪が月明かりにギラリと光った。
「ガオオオオオーーーッ!!」
野太い咆哮が森中に響き渡り、ちびおおかみくんは完全にオオカミおばけへと変貌した。巨大な影が枯れ木の穴を飛び出し、森を疾走する。木々がバキバキと折れ、大地がドスンドスンと揺れた。小鳥やウサギたちがパニックで逃げ惑い、森は一瞬にして騒乱に包まれた。
だが、時間が経ち、満月が再び雲に隠れると——
「う…ぐぅ…」
オオカミおばけの巨体が小さく縮み始め、赤い眼光が徐々に消えていく。やがて、元のちびおおかみくんの姿に戻った彼は、疲れ果てたように地面にぺたりと座り込んで、気を失ってしまった。
ちびおおかみくんが次に目覚めたのは、朝の光だった。寝ぼけていたちびおおかみが、周りを見渡すと荒れ果てていた森の姿や、いつも頭につけているアイマスクがあった。またオオカミおばけに変身し大暴れして気づいたのはその時だった。
「また…やっちゃった…」
小さな手を見下ろしながら、彼はしょんぼりと呟いた。大急ぎでアイマスクをつけるちびおおかみくん。どんなに隠れていても、満月の光を見てしまえば抑えられない。暴走して、森を乱してしまう。それが怖くて、彼はいつも一人でいるのに…。
「やっぱり僕…誰かと一緒にいる資格なんてないよ…」
肩を落とし、ちびおおかみくんはトボトボと枯れ木の穴へと戻っていく。その小さな背中を、雲間から再び顔を出した朝日が、静かに見つめていた。