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俺がヒーローじゃないからか。

  絶海の孤島。

  その片隅で身体を重ねる二つの影。

  人工灯のない夜は長い。自分たち以外のたまたま流れ着いた人間は完全に眠りについている。

  それを何度も確認した上で、ギアンサルの掌が観測者の腕を掴んだのだ。

  「んっ……ふ、ううっ……!」

  「……お前、なんで抵抗しねえ。」

  後ろは岩壁だ、逃げ場などない。

  羽織っただけの服の下に潜り込ませた指は、為人の荒っぽさとは反して決して爪を立てまいとゆっくりと、だが縦横無尽に暴れ回る。

  声は簡易コロニーの砂浜には届かない。それでも必死に堪える様は、この場の略奪者を益々苛つかせた。

  「どうせ相当遊んでんだろ。ヒーロー共に持て囃されて、さぞいい気分だろうな。」

  「そん、な……俺は……あっ!」

  「口堪えするな。こんな身体中どこ触っても感じまくる奴が、今更清廉ぶりやがって。」

  二人とも水着に一枚薄布を羽織っているばかり。否応無しに鍛えられた身体を押し付けられて何も感じないほど鈍感ではない。

  新しく仕立てた水着の中、窮屈そうなそれは股に押し付けられたギアンサルの太腿によってみるみるうちに硬度を増していく。

  ふん、と不満気に鼻を鳴らすギアンサルではあったが、その股間もまた観測者を突き刺すほどに鋭利さを増していた。

  「なら"解析"してやる。お前がどれだけ淫乱なのかをな。」

  「うあっ……ギアンサル、本気なの……?」

  「……本当にムカつく面しやがって。チンポおっ立てて今更尻すごみしてんじゃねえ!」

  勢いよく取り払われる水着。バランスを崩して尻餅をつく観測者だが、目を開いた時に待っていたのはラバー調の黒光りする膨らみだった。

  先端から玉の雫を溢れさせ、鼻先に突き付けるそれは観測者へ言外に命令を下すように小刻みに震えている。

  「初めてじゃねえんだろ。今まで何本しゃぶったんだ?」

  「そ、そんなの……」

  「正直に言ったら解放してやるよ。何人のヒーローと寝たんだ。尻軽がよ。」

  「俺は誰彼構わずそんな事してないよ!」

  「ならその物欲しそうな顔はなんだ!さっさと咥えろ!!」

  ひと突き。

  頭頂部を片手で押さえつけられ無理やりねじ込まれる怒張は容易に観測者をえずかせる。

  自分と比べて小柄な地球人の咥内は窮屈だが、不思議と多量の粘液でもって迎えられている。

  思ったよりも初々しい。自身の憶測に似た推理を疑うほどの反応に、数ストロークほどでギアンサルは腰を引いた。

  酷い顔だ。涙と鼻水で濡れ、口の上下には粘っこい唾液の糸が幾本もかかっている。そして自分の水着と逸物もまた同じ液体で塗れていた。

  「……抵抗、しろよ……」

  「かはっ……はあはあ……ギ、ギアンサ……っ!?」

  解放された安堵も束の間、未だ呼吸の定まらない観測者をよそににわかに取り払われるギアンサルの水着。タイトな布地から解放されたそれは一見すればすぐにでも暴発してしまいそうな危うさを孕んでおり、限界間近の男のフェロモンを帯びていた。

  また突き刺される。

  半ばそう覚悟していた観測者だったが、自分を追い詰める目の前のヴィランは仁王立ちしたまま動かずにいた。

  見上げれば顔がある。星の光だけでは暗くて分からないがいつもの不適な笑みとは少し趣が違った。

  「……しゃぶれよ。」

  さっきは無理やりにねじ込んだというのに、今度は遠い波の音にも掻き消えるくらいか細い命令。ただ待つは拙い口淫。

  自分でもひどく下手糞な交渉だと思った。ここで否定されたらもうやめようとも思った。

  ハリボテの自己肯定感は跡形もなく崩れる寸前だった。

  「うおっ……!?」

  ぬるりと伝う感触。柔らかな舌と暖かな咥内の皮膚が唾液でもって包み込む。

  まだ亀頭しか埋もれていない。だが確かに吸い付く人肌を感じる。

  いかに暗くとも、観測者が口淫を始めたのは明らかだった。

  じゅぷじゅぷと音を立てる結合部。正直、技術自体はかなり拙いものだ。無理もない、観測者にしてみれば肉棒のサイズは地球人のそれの平均を大きく超え、未だ全てを飲み込むことも能わない。

  だが────

  「フーッ……フー、ッ……!!」

  日頃嬉々として上から他人を見下すヴィランは片手で口から漏れ出る空気を押さえつけるので精一杯だった。

  眉間に力を込めれば込めるほど涙腺は緩み、慣れない性の感触が高止まりしたプライドを揺るがしていく。

  ギリギリと奥歯を噛み締めても見せかけの余裕すら生まれることはない。

  「くそっ……! お前が……お前がっ!!」

  「ふぐ……んはあ、はあっ……んっんっ、んむう……」

  「が、ああっ……くそっ!!」

  観測者の顔を引き剥がす間も無く、ギアンサルは暴発した。ぼたぼたと欲望の白濁が観測者の鼻筋やら口元、はたまた上半身を流れていく。強い雄の凝縮されたエッセンスだ。

  だが自分から迫っておいて、あまつさえろくに楽しむ間も無く果ててしまったギアンサルだ、完璧を謳う己の有様は、その形容詞から遠くかけ離れていたと言っていい。

  こんなぱっと見何の取り柄もなさそうな、敵の強引な誘いを断ることもできない男に。味わったのは大きな敗北感か、それともほんの少しの愉悦か。

  未だとろとろと鈴口から漏れ出る白液は観測者の腹に垂れ落ち、体の凹凸にしたがって流れていった。

  「ぐおおお…………ッハア、ハア……!」

  「…………」

  顔にへばり付いた精液は拭おうと指を這わせればぬめり糸を引く。ギアンサルを覆ったのは目の前の生意気な地球人を雄として最も濃い体液でもって塗り潰したというえもいわれぬ達成感だが、それは海風にさらされた体温と同じであっという間に霧散していった。

  代わりに残されたのは気化熱で少し冷えた体表と、望まぬ相手を汚してしまった後悔に近い後味の悪さであった。

  「……おい。」

  「ごめん、もう寝ないと明日に響くから……先に戻ってる。」

  「待てって言ってるだろうが!」

  その辺に転がっていた水着を拾うなり足早に去ろうとする観測者の手首を、再びギアンサルが捕える。自分でも想定外なくらいに籠った力は柔らかな肌色の皮膚をほんの少し赤く色付けた。

  「いつもヒーロー共に良いように扱われてる癖にこの程度で……嫌なら断ればいいだろ!」

  「……ギアンサルは本当に、俺が誰とでもそういう事をすると思ってるの?」

  「俺に黙って襲われてるんだから実際そうだろうが!普段はあのS級か?それとも赤いガキか?」

  「ライキさんもアカシもそんな事しないよ!!」

  急に強くなった語気に思わずギアンサルは手を離してしまう。それまで流されるままだった筈の観測者の、怒気を帯びた否定。何の証拠にも為りはしないというのに、だがその剣幕はギアンサルの誤った認識をほんの少し改めさせるのに十分だった。

  解放された筈の観測者は、背を向けたまま逃げる事はしない。震えるのは小さな肩だ。仲間のヒーローを侮辱された悔しさが良くも悪くもヴィランからの逃走を阻んだ。

  「俺はお前以上にヒーロー社会が腐ってるのを知ってる。俺ならお前を……」

  「…………」

  「お前を……完璧に利用してやる。もうアイツらと関わるのは止めろ。俺の……俺の仲間になれ。」

  小刻みに揺れる両肩。その震えを押さえつけるようにギアンサルの両手が触れた。伝わる暖かみのある体温は人間らしさに溢れていた。

  その大きな掌は頼もしいのに、何故か少しでも重心が傾けば埋もれてしまいそうで。

  それでも観測者は一度だけ、首を横に振った。

  「……俺がヒーローじゃないからか。」

  「ギアンサルは……何も分かってないよ。」

  否定の言葉。だというのにこの手を振り払おうともしない。

  この観測者のそういうところがあまりに危うく、あまりに儚い。完璧とは程遠い存在なのにたまらなく自分の何かを惹きつける。ただ言語化できない。この知らない感情は、苛立ちは、ある種の飢えや渇きに近かった。

  自分の行動原理が僅かに揺らぐほどに強い渇きに。

  「俺がヒーローなら、お前は首を縦に振るのか。」

  「そうじゃない……俺は……っ。」

  言葉を詰まらせた観測者は、次の単語を紡ぐ代わりに一歩二歩、足を進めた。届かなくなったギアンサルの両の手は空気を掴むばかり。永遠にも思える隔たりが、たった今初めてそこに出来上がった気がした。

  「ごめん、今日のことは忘れよう……おやすみ。」

  「おい……っ!」

  引き留める言葉は既に無かった。

  すぐに見えなくなる人影。その人間とさっきまで身体を重ねていたという事実すら闇に溶けて消えていくような気がした。

  分かってはいるのだ。分かってはいてもそこに不可能があった。完璧を自称するからこそ許されない失敗がむしろギアンサルを完璧から遠ざけていた。

  ただ一言。それがあればどこかで何かが変わっていただろうか。

  だがもう良い。今日この時、全てが終わったのだ。

  「言えるわけ……ねえだろ……」

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