第一話 みんなのところへ

  ーtemari-

  カタガタと天窓の少し錆びたシャッターが開く音で意識が浮上していく。ガラスと天窓溜まった水が日中の強い日差しを通して汗を吸ったシーツに水面のように落ちる。

  「てまり、おはよう。」

  男性にしても低めの声がスピーカーから流れてくる。返事も聞く気は無いようで、

  ぷつっとスピーカーの音が切れる。うつ伏せになっている体を腕の力だけで起こすと隣のリビングからナリクが必死に誰かを起こす声がぼんやりと聞こえてくる。

  ・・・

  「もうっ、起きてください、ミサキ!!」

  「今日は、橋下に行く日ですよ!」

  ・・・

  そこでやっと脳が起きてくる。

  ベットの下に足を下すと、すぐにスリッパの感触がする。感覚だけでスリッパを履くとコンクリートの冷たさがじゅわじゅわと伝わってくる、スリッパの意味もなさなくなってきたそれを脱ぎ捨てて

  ペタペタ、換気のためにベランダの窓を開け、残りが数本になった煙草をくわえ細い煙をゆるりと残してリビングに向かった。

  扉を開くと、ミサキを必死の起こしていた意識がこっちに向いたようで、顔を180度回してこちらを向くと先ほどスピーカーから流れてきた低めの声が「おはよう。」と薄めの唇からあいさつを向ける。

  「あぁ、おはようナリク」自分の喉から、朝市の煙草と安酒で焼けた寝起きのかすれた声がつっかえて出てくる。

  それを聞いて満足したのかニコっと屈託のない笑みを浮かべて、またミサキへと意識が移る。

  俺もそちらを見るとナリクの陰から、ミサキがソファーの腕置きから頭を落として少し長めの二本の牙が見えるぐらい大口を開けて目は白目手足は大幅にはみ出すという、図太さが体をなして寝ていた。

  「飲み?」

  「正解です、昨日合コンだったみたいで。」

  「あー、」

  それは起きないわけだ。大方、彼女持ちのイケメンはいたが取ろうとして、ほかの女に取られ用無しだ、とばかりに男に飲ませて自分もつぶれて帰ってきたのだろう。

  悪い癖みたいなものなのでいつものことだ。

  四つのカップに瓶から直接インスタントコーヒーを入れて、ナリクが沸かして置いたであろうお湯を注ぐ一つはミルク入り、一つは砂糖とミルク普段であればミルク入りは二つなのだが二日酔いにはブラックコーヒーの方がいいだろう

  俺がコーヒーを入れ終わった所でナリクはしびれを切らしたのか、肩にミサキを担ぎあげてバスルームにすっと入っていく、頭に血が上るのは早いのだ。

  スプーンは昨日の夜アイスを食べた時に使ってシンクの中だ、洗うのもめんどくさいので箸でそれぞれ混ぜれば完成。

  朝の仕事は終わりだ。

  ばしゃーん!!!

  シャワーをぶっかけるぐらいだと思っていたがどうやら昨日溜めていた残り湯の、もう冷水になっているであろう物の中に突っ込まれたらしい。

  バシャパシャと暴れている音が喘ぎ声に変わるのをBGMにしながら新聞を開く、コーヒーが冷めない内に戻ってこれそうにはなさそうなので、優しいやさしいナリク君の分だけでも後で作り直してあげよう。

  現在昼の一時、三時には橋下についときたいのでそろそろ準備をしたいのだが、今脱衣所に行くと巻き込まれそうなので行く気にはならん。

  しかたなし、部屋に戻りタンクトップにパーカーを羽織る、スキニーと迷ったが、七分丈のラフなパンツにしよう。橋下はスラム街だ下手に裾を汚すのもいやだし。

  前髪とサイドのパッツンだけ残してくっせけを隠すためにパーマを当てた後ろ髪を耳を内側に隠すように一つに結べば、まだ肌寒い春の風が刈り上げた部分に当たって気持ちがいい

  最後に脱ぎ捨てたスリッパを、持っていく荷物の中に突っ込んでベットに寝転がり、スマホをいじる。

  着替えている間もずっとかすかに聞こえていたBGMもやんだところでベットから起き上がり、コーヒーを入れなおしに行く。

  次は箸もなかったため割り箸を出していると後ろのドアが開いた、ドライヤーを先にゆっずたのであろう、黒と白の前髪は乱暴に拭かれたままスラックスに上裸のナリクが死んだかおをして出てきた、冷蔵庫をあさる顔にはふさわしくない顔であるのは確かだろう。

  「どした」

  声をかけると、

  お目当ての水を取り出して飲むや否やこっちを見ながらつぶやくように

  「はかれました。」

  なんていうから大爆笑ものだ、詳しく聞くと慰めるつもりで機嫌の悪い二日酔いの相手をしたら肩に思いっきり吐かれたらしい。

  機嫌が悪いのは冷水に突っ込まれたのもあるだろうが災難にもほどがある。行かなくて正解だったみたいだなと出かかっていた言葉は心の中でとどめておくことにした。

  「お疲れさん」

  「あぁ、ありがとうごさいます」

  コーヒーを差し出すとかわゆく笑って飲みだす

  「おいしいよ」

  (悪ぃ、それ賞味期限切れのミルク)

  「あーー!!すっきりした!!!」

  この女つきあわされたナリクと真逆に今日は快晴かと勘違いさせるほどの笑顔である。

  「おー、おはよう。」

  「あ!てまりー、おはよーてか起きてたんだ」

  「誰かさんが趣味の悪いお花畑香水の匂いを落とす前からおきてたぜ」

  「合コンだったの」

  「ゲロの匂いのほうが随分にあうぞ」

  「え?全身洗ったからしないはず、、、というか、風呂もまともに入らないあんたのほうがやばいよ。香水ってアルコール入ってるらしいよ、消臭になるんじゃない飲む?」

  「おめーが投げ入れられた冷水を溜めて使ったのは俺だ」

  「性格の悪さが匂いとしてにじみでてるのね、」

  「自己紹介か?」

  「いっしょにあんたの分の紹介までしてあげてるんだから感謝してよ」

  絶好調に口を動かしながら、赤いワンピースに洗い立ての体を収めて赤みのかかった黒髪をひもでくくりサイドに流し、人懐っこい顔をころころ喜怒哀楽と変えているこいつが、さっきの干からびてたやつと同一人物か疑う。女は女優とはよく言ったものだ。

  これ以上言って機嫌を損ねてるのも面白いが今日はこの後仕事なので、やめておこう。

  「助かるな」

  「感謝してよ」とわざとらしくニヤとわらってミサキもこれ以上はないと判断したのか

  「ナリク、ごめんねー」と飯を食ってるナリクのほうに構われにいっていた。まあ、あの後に当たり前のように飯を食えるナリクもなかなか図太い

  顔を洗いに立ち上がった所で、玄関から緩い「ただぃ、まぁ~」という声がかすかに聞こえる。

  「「「おかえり~ぃ」」」

  リビングに声の主が入るのも待たずに顔を洗いに行きメイクを施す、子供たちと会うときにかすかにのこっているクマが怖く無いように、まあ俺より濃いクマを隠さずいるやつもいるが。短く太い牙付きのギザ歯を適当に磨き、前髪に櫛を通してしまえば完成だ。

  戻れば先ほど帰ってきた声の主が卵が吊るされたような形のソファーで冷え切った賞味期限切れのミルク入りコーヒーを飲みながらゲームをしていたとこだった。

  見ればちょうどクリアの画面

  「コト、おかえり」

  「あゝ、ただぃ・・・、荷物、もぉつんだあ、、」

  仕事がはやくおわたのか終わりにそのまま荷物を積んで来てくれたらしい。

  今はオフのモードなのか、ぼそぼそとしゃべるコトはいつものことなのだ、今でも聞き取れなかったり何を言ってるのかわからない時もあるが大体は長年の付き合いで聞き取れる。

  仕事のスイッチが入るとだいぶ話すようになるんだが、、、まあ、スイッチがはいってないときのこいつはイケメンだ、というか儚い、

  櫛も通していないが。水色にピンクのメッシュが入った髪を襟足が腰まであるウルフカットにして、クマがひどいが隠すこともなく幅のある二重を持った瞳孔が横に長い切れ目を眠そうな目で流す。

  やつれているのに、どこか清潔感がある、長めのピアスがしゃらしゃらとなるのも雰囲気を出すというものだ。

  「サンキュー、ナリクが髪乾かしたらいくか、、、」

  「もうちょと、待ってください」

  もうちょっとと言いながら手を出すのは、朝から体を動かして腹が減っていたのだろう五枚目の食パンである、ちなみにトースターの中には六枚目の食パンがもう少しで食べごろという具合である。

  「髪乾かすわよ」

  ミサキが慣れたようにドライヤーでナリクの髪を乾かし始める。

  「あふぃがほうごふぁいまふ」

  「いいからっさっさと食べて、、」

  「なんかきょ、、ミサキぃ、ごきげn、、」

  「ハハ、、ナリク様様だよ」

  「おや、今日も行くのかい?」

  家の向かいにあるお菓子屋のおじちゃんが、ひましていたのだろう瞼の皮で笑っているように見えるのか、本当に笑っているのかわからないがやわっこい声で話しかけて来てくれた。

  「はい、今日は大量なんですよ」ナリクもマスクで口元は見えないが目をやわっこく丸めて返す。

  おじいちゃんがトラックに目をやればトラックのカーテンの中には大量のお弁当が入っている。

  てりてりに焼かれたお肉と菜の花のお浸しそれから、ポテトサラダにお魚の南蛮付けおにぎりが二つずつ。健康的を代表したような弁当。

  「おぉ、大量大量、がんばってね」

  そう言ってカンカンのちっさなコーラを四つ袋に入れて持たしてくれるキンキンに冷えているから車橋下まで1時間ほどかかる、道中で飲みなさいということだろう

  「ありがとうございます」

  「あ、、りがとぅ、」

  「コト君もいつでもおいで」

  「うん、」

  ここはコトのお気に入りのお店なのだ、レジの隣にある畳の休憩スペースでおじいちゃんから出てくる面白いお話とお菓子、自分で買ったジュースをちろちろとつまみながら過ごしている。

  おじいちゃんも平日の昼間はたまに来る学校にいけない万引きヤンチャ坊主の相手が終われば、嫁も施設なので暇だそう。コトが来てくれるのがうれしいようでこうしてたまにおこぼれをもらえるのだ。

  「それでは」

  「行ってらしゃい」

  ペコリと一礼して車に乗る。しわしわの手を振ってくれるのにコトも小さく手を振り返す。

  「先行きます」

  「分かった、てまり早く乗って」

  車が急発進とは言わずとも早めのスピードで動き出すのを横目に、玄関から間延びした声が聞こえて来る。

  「靴のチャックが行きたくないって言っててさ、文句ならこいつに言って」

  下を指させばサイドのチャックが絡まって空きっぱなしだ、ミサキがバイクから降りて近ずいたと思えばきれいに閉じているほうのチャックを勢い良く開けて

  「よし、これで左右対称ね」

  満足したように、ひとつ頷くとサッサっとバイクにまたがった

  「早く!追いつかなくなる」

  顎でくいッとバイクの後部座席を指してせかす、てまりもおおざっぱな性格なのでそれもそうだと勢いよく飛び乗る。

  次はまごうことなき急発進だ。

  「じいちゃん、いってくんねー!」

  すぐ見えなくなってしまったがじいちゃんが手ぇ振るしぐさがみえてかあいい。

  「やっぱ俺たちもああいう、かあいいじいちゃんになりたいね」

  「無理無理、」

  「そういうなよ、いい夢だろ」

  「願い事は話すと叶わないよ」

  「夢はいつか叶うだろ、なあコト」

  「んー、てまりぁむりぃ」

  スピード狂のミサキにバイクのかけ合わせだ人が少なかったのもあるがすぐ追いついた。

  窓を開けて、体育座りでだるそうに煙草をくわえるコトまでも辛らつなものだ。

  「あっそ、、」

  子供たちに会えると思って上がっていたテンションがスッと下がっていく、一人でも肯定の言葉をかけてくれてもいいじゃないか、、、

  まあ、言いたいことも分からないでもないけど

  「なりぃ、こーら」

  「はい、どうぞ」

  「ん」

  「そろそろつくよ」

  「あゝ」

  スラム特有の匂いがきつくなってくる。ここは扇状地に出来上がった国の真ん中に流れている川の近くに一直線にできあがったスラム街、左と右をつなぐでかい橋の下洪水や地震などが起きれば一番に犠牲になる場所だ。

  バイクは一旦降りる、こんな町の近くだ俺の職場借りていた鍵付きの車庫に入れてでもおかないと帰りがない。というかぬかるんだスラムに持ち込もうものなら上がろうとしても上がれない。

  トラックの上に乗り緩い坂を下れば見慣れた顔がこちらに走ってくる

  「ミサキー!!てまり!!!!」

  やはり、気分が下がっていても子供たちの顔をみれば自然に上がってくる。

  「おぉーーーーーーーーー!!!」

  大きく手を振れば振り返される小さい手がかわゆい。

  「やっほぉーーーーーーーーーーー!!!」

  「おーーい!!」

  「んふっ、」

  合流して車の後ろから子供たちがついてこれるスピードで車を動かし街中に入っていく小さな広場に入ればバスケをしていた青年たちも場所を開ける

  「よお!飯にしようぜ!!」

  「ならんでくださいねー」

  「ナリク!、いつもありがとうな!」

  ナリクに声をかけたのは此処の村長、ハイリ。いつでも明るくハイテンションのため子供たちからハイ爺って呼ばれてる。

  「いえ、気にしないでください!それよりも学校の件なんですが、なかなか他の方々が賛成していただけなくて、、」

  「いやぁ、こんな所のことを考えていただいて、、」

  「いえいえ」

  ナリクは王宮でここスラム街担当宰司の秘書として働いている。配布の手配も任されているのでここにきているというわけだ。

  「くばるぞー」

  最初は一列に並んでいた子供たちも満員電車のように押し寄せてくる、並ぶように教えてはいるため一度は並ぶのだがやはり配るとなるとこうなってしまう。

  わちゃわちゃと配るとあれだけあった弁当もすぐになくなる。

  配り終え一緒にお弁当を食べる。ナリクお前どんだけ食うんだ、、、

  食べ終えればミサキとコトは子供たちと遊び、ナリクは仲良くなろうとはするけどハイヒールを合わせ200センチある身長とマスクうさん臭さで怖がられるため大人たちと話をしている。

  「ネイルあるけど塗る人ー!」

  「今日何色ー?」「かわいいー」「ミサ姉ぬってー」

  「ん、ここ、、、」

  「あ”、こっちゃん!もう一回!!」「おいこら!次俺!」「お前へたくそだなW」

  「こんにちは。何してるんですか?」

  「あ、、、」

  「はっはっは!!ナリク君は顔がうさん臭いからな!」

  「そんなことないですよぉ、、、いつになったら仲良くなれるのか」

  こんな調子だ、ハハ、、

  俺は仕事でもしますかねぇーー。

  「ハイリ、今日何人ぐらいいる?」

  「今月は、沢山生まれてね15人ぐらいいるよ」

  「いいね、またにぎやかになる。そういやデルが靴破けたって言ってたろ?俺のお古だけど渡しといてくれ」

  「いつもありがとね」

  俺は橋上で医者をしている、国の機関の研究病院所属というのもありナリクのもともとの知り合いというのもありで出張でここにきているというわけだ。

  車の荷台から荷物を出しボロ屋の中に入れば赤ん坊をだっこした人たちと、土に直接敷いた布団やシートに寝ている人達であふれている。寝ている人の容態をさっと見てから向き直ると、声がかかる。

  「あら、てまり君お願いね」「またたのむよ」「あ”ぁ”、、」

  「おいおい、リロさん何人目だよ」

  「ふふっ、7人目よ、女の子」

  「かあいいねぇ、じゃあ押さえててね」

  「はい、よろしく」

  ここでの俺のしごとは、生まれた子の予防接種、倒れたり体調が悪い奴の看病、ここで何もしてあげれない子供たちだけは上の病院に連れていくことが許されているためその子供たちの回収、、、

  少し痩せているリロさんの子供はすやすやと寝ている、注射をすれば起こしてしまうだろうが致し方ない。

  痩せていても柔い腕をもむもむと少し楽む。スタンプ注射のため少し力を込めて押せば赤ん坊の口から元気良い鳴き声が聞こえる。

  「相変わらずリロさんの子は元気がいい、ハハっ」

  「ホリーは元気?」

  ホリーは前に体の震えが止まらなくなり上へと行ったリロさんの子だ。

  「あぁ、だんだん飯食う量も増えてきてる元気だよ」

  「そう、よかったわ!てまり君に頼めば安心ね」

  「はい、ここ押さえて」

  「ありがとう」

  優しく微笑むリロさんは見ていて飽きないものだ。

  次々とスタンプを押していけばあっという間に終わる。一人ぐったりとしてスタンプを押しても泣かない、反応もしない子は上へ連れていくことになった。

  生まれたばかりで引き離すのも心が痛いが死ぬよりかはいいと素直に預けてくれた。

  寝ている奴らに手を付ける前にボロ屋を出てから煙草をくわえる。

  「コト!」

  「ん、あぁ、ちょっぉ、まってっってぇ、、、」

  子供たちとのチェスを中断してカーディガンの土も払わずこちらへ歩いてくる。煙草をくわえながら歩いてくる姿でさえ絵になるこいつは周りにいる人の目線を男女関係なく集める。

  毎度のことながら落ち着いて話もできん。車の中に入れば多少は落ち着くのだが、、、

  「なん、、ぐらぃ、いたぁ?」

  「14人、と大収穫で赤ん坊一人」

  「お、いいねぇ、、こっちは食べてなぃこがぁ、一人、、」

  「連れてく?」

  「やぁ、飴だけあげたぁ、、」

  「食べねえんじゃね?」

  「たぁべたぁよ、、♪ まずいってさ、、、」

  きれいな顔がゆがむ、口の端が片方吊り上がり眉間にしわが寄る、まゆげはㇵの字でニタリと笑う姿でさえ美しい。

  「そう、、ならいいや仕事してくるわ」

  「行ってらぁ、」

  ひらひらと手を振ればコトも車を降りて子供たちのもとへと戻っていく。

  最近多いな、お弁当食べないこが、、、、

  考え事をしながらボロ屋に帰れば寝ている人の治療を進める。

  最近は不思議なことにその半数が同じ症状を上げる。初期症状は体の震え、よろける、呂律が回らなくなる。

  次に歩けなくなり、激しい体の震え、精神にも影響するようで感情が不安定になる。

  最後は、失禁、周りに反応しなくなり、重度の運動失調だ。

  それでもざっと30人は居るのでそれぞれに時間はかけていられない、一か月分の薬と多少のここでできる治療を終える。それでも人数が人数だ時間はだいぶかかった。

  上に連れていける人が14人、此処の人たちにも力を借りて弁当がなくなったトラックに寝かせればお別れの時間だ。

  子供たちが別れに備えて周りに集まってきてくれる。上へいく子の親族も少ないが集まってくれた。

  「よろしくね」

  赤ん坊をあずけた親がミサキの腕の中にいるわが子を笑顔でみつめる。つよいひとだ。

  ミサキが小さくうなずいたのを見て赤ん坊を受け取るとエンジンをかける。

  「また来るなーーーーーー!」

  車の窓を開けて叫べば「またねー」「まってる!!」など元気な声がかえってくる。

  みんなが乗り込んだのを確認してアクセルを緩ーく踏めば来た時より確実に重くなった車体が泥に取られながら出発する。

  暖かな空気と泥が行くな、と尾を引くようで気持ち悪さを感じながら橋下から出のだった。

  帰りはナリクの運転で助手席はおれで、働く病院へ向かう、バイク組は一足先に家に向かうらしい。

  トラックの荷台からは苦しそうなうめき声、狂人のような笑い声、ぶつぶつと話す不気味な声が聞こえてくる。

  「今回は一人か、、、」

  「それだけでもいいじゃないですか」

  「まあ、あの子次第だけどな」

  「私としては14もあの場所から出せただけで大喜びですよ」

  「人間としては扱わないんだな、、、」

  「どうせ人間じゃなくなるんですから」

  「そうだな」

  眠った赤ん坊を抱っこしながらずっと座っているのわ思いのほか疲れるもので、起こさないように座りなおすとポッケトの中にある飴があるのに気づく。

  コトが子供たちにあげていたものだ。包み紙から取り出して口に入れるとほんのり甘い味がする飴とカリカリに痩せているはずなのに重い赤ん坊に気分が少し沈むのを感じながらどんどんきれいになっていく街並みを流し見た。

  病院に着き、てまりが管理する小さめの病棟の裏口のほうにトラックをとめると先ほど連絡していたナースの子たちが荷台にいた子供たちを慣れた手つきで次々と浴場に連れていく、腕の中にいた子も渡してきれいにしてもらう。

  すると事務室のほうから、トテトテと黒髪をお団子にまとめ、人一倍ふくよかな体としっぽはムチムチ揺れ垂れた耳をペタペタと鳴らしながら息を上げたナースが走ってきた。

  そのナースは、チラリとナリクのほうを見ると怯えているのか肩を少し上げながら入院している子たちのカルテと報告書を渡してくれた。

  「五号室のマニュちゃんお亡くなりになりました、今は遺体安置室にいます」

  その声には怯えはあれど、悲しみの感情はなく朝の会で日直が昼食のメニューを伝えるときのような淡々とした声だった。

  「そっか、わかった。ありがとー」

  「はい」

  余程怖かったのであろう、報告が済むとまたムチムチと走って行ってしまった。

  ナリクが好いている人におびえられしゅんとした姿にひと笑いしてから、病室で治療している子たちの様子を見に行こうと清潔に保つためのツルツルの床に足を向けると、今履いているブーツのガフガフいう音のほかに高くきれいなカン、カン、と音がついてくるナリクも一緒に行く気らしい。

  「はいるぜー」

  「お邪魔します」

  一部屋にベットが四つ並んで少し日は入りにくいが清潔感のあるごく見た目は普通の病室。

  皆が仕事をしている音に交じり時折聞こえてくる、うめき声笑い声叫び声を除けば。

  ベットの上にはさっきトラックの荷台にいた子たちよりは体に肉はついているが症状は特に変わらず四肢を固定されチューブをつながれ横たわっている。

  このような部屋が全部で十五部屋あるうちの子供たちがいる部屋は七部屋ありゆっくりと順番に見て回る。部屋が進むにつれベットに横たわる人間の形が薄れていく、毛深くなり手が異様に伸びている子や、体重が増えすぎて原形をとどめていないもの、手が羽へと変わりベットからはみ出している子。

  五部屋目はさっきの報告の通り窓際のベットが一つ次の子を迎えようと神経質に整えられていた。

  あまり長居することもなく次の部屋を見に行く。

  八部屋目からは空き部屋でさっきスラムのほうから連れてきたこたちがもうすぐ並べられるだろう。

  一度ロッカールームに戻り聴診器と温度計を取ったら次は最後の一人部屋だ。小さめの音でノックし声をかけるとすぐに声がかえってきた。

  「ホリーはいるよー」

  「ホリーちゃんお邪魔します。」

  一声かけ扉を開けるとホリーが満開の笑顔で駆け寄って迎えてくれる。

  きゅるりとした大きな目、楕円を横にした瞳孔に光をめいいっぱい取り込んでリロさんと同じ優しい顔で笑う女の子。

  ドンとはらにあったった体を抱きとめると受け止めるために一歩足を後ろに出す。ここに来たときは他の部屋の子たちと同じような状態だったのによく此処まで元気になってくれたものだ。腹にあったった生え始めの角は少し痛いけど、

  「てまりくん!!ナリウくん!!こんにちは」

  慣れない前より少し長い舌でナリクという発音が難しいのだろうナリウ君になっていて少し舌っ足らず。かわいくて仕方ない。

  「おー、元気そうだね」

  「はい、こんにちは。今日はね、ホリーちゃんにお話があって来たんだ。」

  「なに?」

  暇つぶしでついてきただけだと思っていたがそうではないらしい、確かに体調も安定してきていい時期かもしれない。

  「ホリーちゃん元気になりましたよね?ここは体が元気じゃない人を元気にするための場所だからホリーちゃんは此処じゃない場所に行かないといけないんです」

  「いんなの所に戻えるの?」

  「いいえ、学校って分かりますか?」

  「うん、お勉強する場所。お勉強したらたくさんお金もらえるってハイ爺さんが言ってた。」

  「そうです。ですからシェルくんやユーラちゃんも今元気になって学校に行っています。ホリーちゃんも行って勉強します。」

  「シェル兄もユーラ姉もいっしょ!?行いたい!!」

  「はい、では明日お迎えに来ますね。学校の中に皆で住んでいるお家もあるので安心してくださいね」

  「ママには会えないの?」

  「たくさん勉強してもっと元気に大きくなったら会えるように僕がお願いしますね」

  「今はダエなの?だえにおねあいするの?」

  「ホリーちゃんが元気になれるように病院に行かせてくれた人がお腹を空かせたりまた病気になったりしないように守りたいと言っています。」

  「優しいひとね、、、」

  「はい、だから勉強して大きく元気になったらあえます。」

  「わあったわ!」

  「よかったです、じゃあ元気にしてくれたてまりくんや、お世話してくれたお姉さんたちにお礼言って待ってってね」

  ナリクも随分なつかれたものだ、最初はホリーもナリクにおびえていたがよく会いに来て遊んだり話したりするうちに信頼されていった。

  スラムの子供というのはまず仲間意識のある大人以外を疑うところから入る癖がある。

  大人だけでなく子供も働かなきゃ食べていけないスラムで勉強をしていないから計算ができなく正当な給与が支払われない、はたまた給与自体が支払われない外の大人と目が合っただけで殴られたり性欲のはけ口にされたり攫われたりする。

  スラムの子が優しい人というのは疑っているのか、ほんとにやさしいと思ってるのかは謎だが学校には行ってくれるようでよかった。

  「てまり君!ホリーのこと元気にしてくれてあいがと」

  「おう、勉強頑張れよ、ほら飴ちゃん」

  「ありがと!」

  「じゃ、もしもしさせて、あとお熱計れー」

  「はーい」

  脈拍数は72、呼吸数17、体温39・2、

  「まあ、正常値か。あとはナースのおねーさんにやってもらってー、なんか困ってることある?」

  「うん、、ここいあい」

  ホリーが抑えたのはさっきあったっていた角の部分だった。

  「生え始めた伸びてるとこだから成長痛みたいなものだね。痛み止めだしとこうか、痛いときのんでね?」

  「はーい」

  ここにきて毎日のように薬や注射など受けていたからか嫌がらずに飲んでくれる。意識が正常になってから最初のほうはスラムで薬といえば麻薬のたぐいだ、飲んでおかしくなっていった人たちを見ていたのだろう。めちゃくちゃにあばれていたが。

  「後でお姉さんに渡しとく、じゃあまた明日ね」

  「明日朝お迎えに上がります。準備しといてください。」

  「うん、またあひた!」

  バイバイと小さな手をドアが閉まるまで見てからナリクと別れ社員室へと向かう。ナリクはこの後自分の職場へ戻るらしい。

  ホリーへの薬と退院の指示を簡潔に済ませ次の仕事をしに先ほどのナースから言われた遺体安置室へ、ここは病院ではあるが研究所も兼ねている。地下は研究所になっておりいろいろな部屋があるが、ここは一つで大きな冷蔵庫のようになってる。

  床はお風呂場のタイルのようで火葬焼却炉と隣の部屋に続く扉、同じくタイルでできた人一人が余裕で横になれる簡素な台、その奥に祭壇にクロスがかけられオイルに紐を入れただけの簡潔なろうそくが置いてある部屋だ。

  それの体はタイルの台にに投げられたようにたえられていて、近づいてみると皮膚はすべて鱗の鎧に変化し首は太く小さな亀裂のようなものが入っていた、

  確かマニュはアロワナとの融合実験だったかと、カルテを見ると昨日の夜中に首の亀裂に社員が気づきすぐ研究所に移し首のみ水につけたが肺が退化しっ切っており亀裂も少しか出来上がっていなっかったため酸欠状態で死亡が確認された。

  顔を覗き込んでみると瞼もなくなり顎も広くなりひしゃげていた。もとは太陽に照らされて小麦の肌を持ちくせっけで手入れが面倒だからと坊主頭の子供に好かれないナリクにも膝かっくんして夏の空きっぱなしの窓のように笑う男の子だった。鱗の隙間から伸びた髪や小麦色の体色が面影を残しているのがそれを思い出させる。

  「みんなのところにもどろ、」

  それの上をまたいで通り祭壇のクロスをめくると手術に使うような細かい器具や瓶から料理に使うような包丁、バケツや斧まで置いてある。一番端にある固定電話を手にして第三研究室へと内線をつなげた。

  「おつかれいー、今から解剖するからフタとレビィー、千ちゃん呼んで。後今日連れてきた子三人ぐらいは入れるように準備してて」

  「お疲れ様っす。準備了解しましたー、ただフタさん寝てるんすけど。」

  「じゃあお前こい」

  「はーい。すぐ行きまーす」

  第三研究室の研究員は全部で六人、怠け者のフタ、働きもののレビィー、俺と並んでここが長い千ちゃん、新人のクレス、と雑用見習いのノアとアン。

  今電話に出たのは仕事と研究はできるけどそれ以外が空っぽのクレス。

  あの調子ならすぐに到着する。皆が来る前に少しでも作業中を進めておこう、パーカーを脱いで適当に丸めて祭壇に置いたら下から使い捨て用の簡易エプロンをさっと着ると手術に使う用のメスを手に取ろうとしたがやめ、料理用の三徳包丁を手にっとった。

  喉の下らへんを刃とは逆のみねの方で鱗に逆らって動かすとガリガリ音を立てながら鱗がはがれていく、一枚手に取ってみると思ったより柔らかかったがやはり葉を入れるのは一苦労するであろう硬さだった。瓶の中に鱗を一二枚保存して作業を続けた。

  刃を入れる腹側とこの鱗をある程度とったとこでドアがガチャリと空く、

  「きましたー」

  「お疲れさまてまりくん」

  「お疲れ様です。」

  あっちの部屋でも作業していたのだろう同じエプロンを身に着けた三人がガラガラとカートを押しながら入ってくる。

  「おつかれー、鱗はがしたしすぐできるぜ」

  「じゃあさっさとおわらせますか」

  さっと定位置に着くと皆黙々と作業を進める、俺が内臓を分けて切り出し、レビィーが瓶に詰めていく、クレスは瓶に名前を書きカートに置いていく、千ちゃんは皆の意見や見立ての記録だ。俺に関しては別だが皆週一二回のペースで解体しているものだから慣れた手つきで進めていく。

  「やっぱり他のやつと一緒で骨は少し細くなってんな、」

  「そうね、人間の時の鎖骨が邪魔でエラが形成できなかったみたい」

  「次やるときは鎖骨切っとくか」

  「そうだねぇ」

  「肉質は完全魚だし、いつも通りでいいっすよね?」

  「うん」

  肉が人間のものと混じっていれば燃やして無駄にしてしまうところだった。

  瓶に詰めるものはおわった。あとは肉を削いで骨格標本用に骨を取るだけだ。

  「じゃあ、僕は瓶研究室に持っていっとくね」

  「私も、一足先に戻って記録をまとめておくよ」

  レビィーと千ちゃんが、瓶に詰めたものと記録を持って行っててくれるらしい。

  「よろしくー」

  「よろしくっすー」

  のこった俺とクレスは残りの作業だ、にくを削いでは一切れ大に切りトレーに並べていくいっぱいになったら隣の部屋に続く扉を開けたらそこが丸々冷凍庫の部屋になっているのでそこの棚に積んでいく。これの繰り返しだ。

  冷凍庫は真ん中に通路があり今通ったドアと向い合せにもう一つ扉がある、そこを開ければ厨房だ。お弁当を作る。

  残った骨はそのまま各部位に分けてカートに乗せ持って帰る。

  最後に祭壇の裏にある水道からホースをつなげて水で全部流せば解剖終わり。エプロンを脱いでくるくる丸め脇に挟みパーカーを羽織ってバケツを持って研究室に向かう今度のお弁当は魚の龍田揚げにしてもらおう。