【けもケ15】Let's Vore and Show Time! 上(サンプル)【S-05】
今日は、世界が終わる日だった。けたたましい音と炎を纏う、巨大な隕石が降ってきており、今まさにそれが空を赤く染めている。そんな中、僕は沢山の観客に見守られながら、ふぅと息をついてそれを見やった。
「さぁ、世界を救うショーを始めよう!」
僕の相棒の小さな竜は、隕石を指差しながら、大きく勇ましい声をあげて僕に語りかける。僕はそれにこくりと頷き、彼の身体よりも大きな口を開けると、彼は僕の口の中へと飛び込んだ。そのままゴクリ、と飲み下し、喉に彼の分の膨らみが現れ、徐々に徐々にお腹へと落ちていく。その膨らみがお腹と同化した際、僕の満腹中枢が急激に刺激される。
やっぱり、コレは慣れないな。でも、準備が整った。僕の身体の鱗一つ一つが魔力でキラキラと光り始め、それが最高のショーに相応しい衣装のように感じていた。
「『さぁ、行こう!』」
こうして、僕たちは大勢の人と歓声を背に、隕石を跳ね返し、世界を救うショー……《ザ・ホープショー》を開演した。
***
その隕石が落ちてくることが分かったのは、三ヶ月ほど前だった。世界終末予報なるものが出されてしまい、皆最期の時ぐらい楽しもうと娯楽に飢えていた。そんな中、僕は小さな小さなステージでショーをしていたのだ。
「……ありがとうございました」
ぱち、ぱち、とまばらに聞こえる拍手。席が半分も埋まっていないのに、その中で拍手をしている人となるとさらに四分の一を下回る。それもそうだ、このショーステージは小さな地方ステージ。当然その地元の人や物好きなファンしか来ないし、僕のショーは《上位種》である竜がしているから、物珍しさで見てくれているだけであった。それも、光るリンゴを作るちっぽけな魔法と他の種族でもできる程度の滑空パフォーマンスしかできないから、日に日に拍手の数は減っていく。娯楽への評価というのは、
「さぁ、みんな! 今日も大トリ、オセちゃんのマジックショー、始めるよーっ!」
舞台袖に戻って控え室に入る直前で、キュートな女性の声がステージ中に響き渡り、それに反応するようにドッと言う音を立てて声が上がる。舞台の方を見やると、今日もオセさんが綺麗に舞っていた。
「うおーっ! オセちゃん! 今日もべっぴんさんだ!」
「オセちゃん可愛くてすっげー!!」
「オセちゃーん! がんばってーっ!!」
そう、このショーステージのトリとなるオセさんを観に来る人ばかりなのだ。彼女が披露するのは変身マジックショー。チャームポイントである豹のようなネコミミと尻尾を維持したまま様々な姿の人間に次々と変化し、トランプマジック、ボールマジック、解体マジックや瞬間移動マジックまで。その種類もさることながら、オセさんのショーはとにかく演出が華やか。タネや仕掛けがあろうと関係ない、人は彼女の美貌とマジックの煌びやかさに虜にされているのだ。だから、この時間だけは歓声と拍手に包まれたステージになるのだ。
はぁ、すごいなぁ。僕は今日も息を吞む。彼女のショーは、劣等感を抱かされる間も無く、一瞬で終わってしまう。それはお客さんも同じのようで、割れんばかりの拍手と歓声をオセさんに送るのだ。
「終わったよー、ハクくーん!」
割れんばかりの歓声を背に、オセさんはこちらに手を振って帰ってくる。まるで天使のような笑顔にネガティブな気分が一瞬で吹き飛ばされた。
「お疲れ様です、オセさん。今日も袖から見ても華やかなショーでした」
「えへへ、ありがとねー! ハクくんからそう言われるのが一番嬉しいんだから!」
素直に感想を伝えると、花が開くかのような柔らかい笑みを浮かべる。いつもながら可憐な笑みだ、と僕は思う。ショーの後に浮かべる満足げな表情が、僕の劣等感をも打ち消してくれるのだ。
「ブラボー、ブラボー。素晴らしいショーだったよ!」
その時、唐突に控え室に響き渡る声。僕はびっくりして飛び跳ねる。オセさんなんてあまりの驚きに机の下に身を隠してしまう。一体誰が入ってきたのか、と声の発生源を探るが、全然見当たらない。入り口の外に居るのかな、と思って歩くと、ゴツン、と何かを蹴る感触がする。
「あいたっ」
「……? え、足元……?」
その蹴った先から声が聞こえたものだから、驚いて見下ろしてみると、恐らく蹴ってしまった部分であろうお腹を抑えてうずくまる、小さなドラゴンがいた。
「ごっ、ごめんなさい!!あ、足元までちゃんと見てなくて……!」
「……ふっ、いやいや、失敬。君の目に入るように飛んでおくべきだったね?」
僕は慌てて謝るが、そのドラゴンは至って平気そうに振る舞う。見た目とは裏腹に、渋い声色で畏まった言葉遣いをしている。彼はパタパタと細かく小さな羽を動かして、僕の前に飛んできた。
「それでは、改めてだな。ごきげんよう、素晴らしいショーだったよ」
「あ……ありがとうございます。そう言っていただけると我々も励みになります」
僕の目を見つめながら熱を込めた様子で話すそのドラゴン。……近い。なんかやけに近い距離感で言われ、僕はたじろぐ。それを知ってか知らずか、胸を逸らしながら大きな声量で告げる。
「早速なのだが、本題に入らせてもらおう。私はスカウトしたいのだよ!」
「あー……ちょっと待ってくださいね」
控え室にまで来て言うもんだから、恐らくそうだろうとは思っていたものの、いざ来ると対応をどうしたらいいものか分からない。何より、今はショーが終わってお客様が退場しているタイミング。スタッフは退場の手伝いのために出払っている。地方ステージゆえの慢性的な人員不足な自転車操業なので致し方なしといったところか。何にせよ、誰かがこの来客に対処しないといけないわけで、僕はヒソヒソ声でオセさんに相談を試みる。
「オセさん、コレどうします?」
そう聞いてみたが、返事はなく。オセさんの方を見ると珍しくオドオドとしていて全く気付いてない様子だったので、もう一度声をかけることにした。
「オセさん?」
「えっ……あっ! そ、そう言うのは、僕の独断では難しいから、座長さんを通して、欲しいので……よ、呼んできてもいい……?」
「え、でもオセさんへのスカウトなんですから、オセさんが残った方が……」
「い、いいからっ! その、ちょっとお色直ししたいし!」
なんだか慌てふためいた様子で、取れかかった帽子を直しつつ外へ駆け出す。急な頼まれごとに驚きながらも、僕は場を繋ぐ役目を引き受けることになった。
「すみません、オセさんは座長を呼んでますので、少々お待ちいただけますか」
そう言ってみると、そのドラゴンは不思議そうに首を傾げる。あれ、僕何か変なこと言ったかなと思うが、そのドラゴンからは予想だにしない言葉を言われた。
「まぁ座長さんを呼ぶのは構わないけど、私はオセくんをスカウトしに来たのではなく、君、ハクくんをスカウトしに来たのだよ?」
「えっ……えぇっ!?」
僕は耳を疑う。オセさんじゃなくて……僕?そんなの、あり得ない話でドッキリか何かだろう、と思ってしまったが、そのドラゴンは真っ直ぐと僕の方を見つめていて、嘘ではないと感じさせられる。だけど、嘘ではないのであれば、尚更伝えなくてはいけない。
「そんな、それは有難いお話ではありますが、その、僕はまだ未熟者ですので……オセさんに声をかけたほうが良いかと」
僕は、声を震わせながらそう伝える。だって、僕はチンケな魔法しか使えない。その上、空も長い時間飛べないし、ドラゴンらしさと言えばこの体躯しかない。そんな僕が、遥かにすごいマジシャンであるオセさんを凌いでスカウトなんて、そんなことがあり得るのか、と考えずにはいられなかった。
「確かにオセくんは素晴らしいパフォーマーだ。当然逸材であることは見ればわかるさ。しかし、私には君以外考えられないんだよ!」
だけど、彼は僕に固執し、断言する。自信満々にそう言われると、僕は否定の言葉を発することも憚ってしまう。そんな僕を知る由もなく、彼はそのまま、演説を続ける。
「一番難しいとされる《光魔法》を繊細に操り、その巨躯でありながら飛翔する技術を持っている! 君ほどの技術を持つ者は他にいないんだ!」
そう言われた時、僕はとても驚いた。それは確か昔、オセさんにも言われたこと。僕の、頑張ったことを、強みを、確かに見てくれている。たったそれだけでも、僕には嬉しかったのだ。
「そして何より、私を食べられる大きさだ!」
「……はい?」
だけど、それに付け加えられた言葉に僕は口をあんぐりとしてしまう。食べられる、って? 僕に食べられて、どうしたいの? 全く彼の意図が想像できなくて、と言うか理解したくなくて。僕は酷く困惑していた。その様子に何故か彼は意外そうな顔を浮かべていた。
「むむ、聞こえなかったか? 君の魔法はすごいし、私を食べることができるだろう。だからスカウトしたいのだよ」
「は、いや、そういう問題じゃないでしょ?! 僕があなたを食べられることが評価基準にあるんですか!? 僕には竜を食べる趣味は全く無いんですよ!? せめて理由ぐらい聞かせてくださいよ!!」
僕が叫ぶようにそう言ってもこのドラゴンは怯むことなくこちらを見てくる。いささか図太すぎるんじゃないか。そもそも常識なんて備わってないのではないか。僕は後退りながらそう叫んだが、狭いテントでは逃げ道が用意されておらず、すぐ壁にたどり着いてしまった。
「理由は私を食べてみれば分かる、だから食べてみないか!」
「食べませんから、僕の口に近づかないでくださいっ!!」
パタパタとにじり寄るドラゴン。期待に満ちた目で、それはまるで目の前にご馳走が待っているかのよう。十倍程度の大きさの竜が小さな小さなドラゴンに気圧されている様子は些かシュールに見えるだろうが、当の僕はそれどころじゃ無い。僕の道徳的な竜格を保つためにも、僕は必死に拒否する。だけども、彼は近づくのをやめなかった。
「大丈夫だ、一度食べたら病みつきになる、ハッピーな味わいだぞ私は! だからほら、口を開けてみて!!」
「むぐーっ!!(やだーっ!!)」
お菓子のキャッチコピーのような変なアピールをしつつ、僕の口に飛びついてその両腕でグイグイと開けようとする彼。少年のような満面の笑みにここまで恐怖を感じたのは初めてだった。もう勘弁して、と思ったその時。
「はーい! オセちゃん、座長さんと一緒に戻って来たよー……って、えぇっ!? どういう状況なのコレっ!?」
そう、オセさんがこのテントに戻ってきたのだ。この、僕がスカウトさんを口に当てがっているように見える状況で。
「あ……あの、オセさんコレには訳が……」
《続きは本誌にてお楽しみください!》