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けもケット15新刊『奇跡の子』サンプル

  [chapter:奇跡の子]

  ◆本書の読み方

  ・本書には一部ゲームブック的な要素を含みます。

  ・途中、選択肢によって指定のページに移動する場合があります。

  特に初めて読む時は指定されたページ以外は開かないことをおすすめします。

  ・各選択肢では何個まで選択できるか指定があります。

  こちらも初回時は指定個数を守って選択することをおすすめします。

  ◆薔薇の印について

  本書では選んだ選択肢によっては薔薇の印を獲得できる場合があります。

  物語の分岐に関わるので獲得した薔薇の印の個数は覚えておくことをおすすめします。

  ※本サンプルではどの選択肢を選んでも薔薇の印は入手できません

  ◆目次

  一日目

  ・選択肢1

  ・選択肢2

  二日目

  ・選択肢3

  ・選択肢4

  ・選択肢5

  三日目

  ・選択肢6

  ・選択肢7

  ◆登場人物

  ■狛野 稔(コマノ ミノル)

  犬獣人男子大学生

  獣帝大 経済学部 経済学科 四年

  青の部屋の宿泊者

  ■戌井 咲(イヌイ サキ)

  犬獣人女子大学生

  獣帝大 文学部 英文学科 四年

  赤の部屋の宿泊者

  ■猫丸 虎徹(ネコマル コテツ)

  猫獣人男子大学生

  獣帝大 経済学部 経済学科 四年

  緑の部屋の宿泊者

  ■羽鳥 百合(ハトリ ユリ)

  鳥獣人女子大学生

  獣帝大 教育学部 教育学科 四年

  黄の部屋の宿泊者

  ■大上 青也(オオガミ セイヤ)

  狼獣人男子大学生

  獣帝大 理学部 化学科 四年

  青の部屋の宿泊者

  ■宇佐美 唯(ウサミ ユイ)

  兎獣人女子大学生

  獣帝大 理学部 数学科 四年

  赤の部屋の宿泊者

  ■狗狸田 誠(クリタ マコト)

  狸獣人男子大学生

  獣帝大 工学部 電子情報工学科 四年

  緑の部屋の宿泊者

  ■神谷 蓮(カミヤ レン)

  狼獣人男子大学生

  獣帝大 文学部 英文学科 四年

  黄の部屋の宿泊者

  [chapter:一日目]

  「…い。おい、稔?」

  「…ん?あ、あぁ。」

  山へと続く道を走る車内で声をかけられ、はっと我にかえる。気付けば都心からかなり離れており緑豊かな風景が広がっていた。強い日差しを反射して煌めく緑葉が眩しい。窓から入ってくる日差しの熱と頭上から降り注ぐエアコンの風のコントラストに少し身震いする。旅行へ行く道中にいつの間にか呆けていたようだ。

  声の方を見やれば青藍の被毛の狼が心配そうに顔を覗き込んでいた。

  「大丈夫か?熱中症とか気をつけろよ。」

  「大丈夫、大丈夫。少しぼーっとしてただけだって。」

  幼少からの付き合いのこの狼はいささか心配性な気があるような。まぁ呆けていたのはこっちだけれど。

  夏休みを利用したミステリー同好会同期の卒業旅行のような何か。山荘でゆったり過ごす二泊三日。卒業を前にした最後の青春、なんて言うと大げさかもしれなけど、何か一つの区切りのように思う。

  「なんかさ、もう卒業だなって。」

  「なんだ、気が早いんじゃないか。別にこれで終わりじゃないさ。」

  「まぁ、そうなんだけどさ。なんとなくね。」

  日常と違うことをしているからか、少しセンチメンタルになっていたのかもしれない。それだけ旅行が楽しみとも言えるか。

  また外を見れば、もう山の中で走っている道路以外に文明的なものが見当たらない。

  「みんなーそろそろ到着だよー。」

  この旅行の主催であり、ミステリー同好会の元代表えあり、俺の彼女でもある咲が皆に呼びかける。朝に出発してもう昼になろうとしているから結構な時間揺られたんだな。あまり遠くまで旅行に行くことって無いからなんだかソワソワするな。

  到着してバスを降りると目の前には豪邸と言えるのではないかという程に大きい建物がどっしりと構えていた。三階建ての屋敷は個人のものとしてはあまりにも豪華なのではないだろうか。

  「うおーーーすげーーーー!」

  後から降りてきた三毛猫の虎徹も歓声を上げる。そんなリアクションも納得だ。実際山の中にこんな豪邸があるなんて想像していないし、当然見たことも無いわけだからな。他の皆も口々に「すごい」だの「大きい」だの歓声を上げている。

  「これ、マジで青也の…?」

  俺もせいぜいが普通の一軒家程度のものを想像していたから、あまりの衝撃に隣に立つ、この建物を手配してくれた青藍食の狼に思わず声をかける。

  「んー…まぁ俺のというか、親戚の、だけどな。」

  衝撃度合いはあまり変わらないな。親戚だとて、こんなものを所有しているなんてそうそうないだろうし。その伝手のおかげで多額の宿泊費を供さなくてもこうしてすごい屋敷にお世話になれるのだから当然文句はないどころかありがたいのだけれど。

  「こんなに立派なお屋敷を私たちだけでつかっちゃっていいのかなぁ。」

  白鳥の羽鳥さんも俺たちと同じように見上げてわっと息を吐いている。控えめな彼女らしいと言えばらしいが、確かにこの大きさをたった八人で貸し切りともなれば気が引ける気持ちも分かる。

  「えーいいじゃん。貸し切りだよ貸し切り。」

  羽鳥さんの隣で蓮もはしゃいでいる。…元カノだから一緒に旅行とか割と気まずいんだけどな。そもそもミステリに興味無いくせになんで同好会に残っているんだか…。まぁ四年間どうにかなってきたし、あんま変に絡まなければいいか。

  「さ、じゃあとりあえず中に入ろっか。」

  バスから荷物を全て下し、運転手とのやり取りを終えた咲の合図で青也が鍵を開けて、みんなで中に入る。普通の家のようなせせこましい玄関はなく、ちょっとした空間が広がっていた。所謂玄関ホールというものだろうか。天井も高く、実際の面積以上に広く感じる。玄関から既に庶民との差を見せつけられた訳だが、一方でこんなすごいところで三日間過ごせる楽しみもある。

  「とりあえず部屋に荷物を置いてこよう。」

  管理人室で各部屋の鍵を取ってきた青也の提案で三階にある客室に向かった。三階まで上がると六つの客間があった。各部屋のドアには薔薇をモチーフにした模様が描かれており、部屋毎に色が異なっておりその色がそのまま部屋の名前になっているようだ。

  俺と青也の部屋はドアに青い薔薇が描かれている。どうやら「青の部屋」のようだ。中はダブルベッドが二つもある程に広く、下手なホテルなんかよりもずっと快適そうだ。

  「めちゃくちゃ良い部屋じゃん。」

  「広さだけはな。周りは緑ばかりだから外の眺めはさして面白味がないさ。」

  確かに何が見えるという訳でもないけれど、これだけくつろげそうな部屋なら十分だと思うのは俺が庶民だからだろうか。というかこんなブルジョワな青也の家庭事情を未だによく分かっていないんだよな…。ま、別に首を突っ込むことでもないし、いいんだけどさ。

  宿泊部屋の観察もそこそこに荷物を置いて一階のリビングに戻ると皆も丁度集まってきているところだった。

  この旅行に来たのは全部で八人。

  「みんな揃ったみたいだし、時間も丁度いいからお昼にしよっか。」

  犬獣人の女子が戌井 咲。サークルの元代表というだけあってしっかりしている。明るく積極的でイベントごとも好きだから誰よりも楽しみにしていただろう。旅行の計画もずっと楽しそうに話していたからな。

  「そうだねぇ。丁度お腹すいてきたもんねぇ。」

  鳥人の女子が羽鳥 百合。いつもふわふわした雰囲気で穏やかな感じではあるけれど、教育学部だからが案外下級生への面倒見も良い。

  「待ってました!昼メシは何すんだ?」

  猫獣人の男子が猫丸 虎徹。サークルのムードメーカーで少しお銚子者なところがあるが、ミステリ同好会に入るだけあって以外と読書家なんだよな。

  「昼は簡単にサンドイッチだな。」

  狼獣人の男子が大上 青也。サークルの元副代表でこいつも咲同様しっかりしている。この館も青也の親戚の別荘だそうで、旅行の予定も咲と一緒に計画していた。シュっとした所謂イケメンで昔からよくモテていたな。

  「ま、これから動くし軽めで丁度いいんじゃない。」

  狼獣人の女子が神谷 蓮。ちょっと面倒くさい性格だし、ミステリーに興味ある訳でもないから結局サークルにもそんなに顔を出してなかったな。文学部なだけあって読書自体は好きみたいだけど。

  「作るのも手早くできますからな。」

  狸獣人の男子が狗狸田 誠。オタクっぽい…というかまぁオタクなんだが、話してみると案外面白い奴だし、サークル活動にも積極的だ。

  「そうね。あんまり食べても眠くなるしいいんじゃない。」

  兎獣人の女子が宇佐美 唯。クールな感じでお喋りなタイプでもないしイベントごとにも消極的だが、意外にもサークル自体にはそこそこ顔を出すんだよな。

  「あぁ、俺も手伝うよ。」

  そして犬獣人の俺、狛野 稔。ミステリーが好きで青也と共にサークルに入って早四年、それなりに活動したし、下級生の面倒もそれなりに。ジュンカツユノヨウナ…いや、嫌な思い出のことは忘れよう。料理は正直得意ではないが、一人暮らしはしているからサンドイッチくらいはできる、はず。

  個性豊かではあるが、なんだかんだ同じサークルで四年間やってきたメンツなだけあってそれなりに仲良く…というか上手くやってると思う。四年にもなると就活やら卒論やらで忙しくて皆で会うのは今日が久しぶりになったけどな。

  軽く昼食を終わらせた後は事前の計画の通りハイキングに行くことになった。真夏おは言え避暑地でもあるこの山はなかなか涼しく虫よけをきちんとしていれば中々快適そうだ。それにいくらか歩いたところの川で水遊びをするようだから結構涼めるだろう。

  「はい、唯。虫よけ。」

  咲が持ってきた虫よけスプレーを皆に回していた。

  「私はいいよ。」

  「えっ、でも虫いっぱいいると思うよー。」

  「あぁ、私ハイキングは行かないから。」

  「えっそうなのー?」

  「うん。二階に書斎があったから本読んでるよ。」

  相変わらずマイペースだな。まぁ自分のやりたいことをやるのはいつものことだしな。最低限やるべきことには協力するしな。ただ確かに涼しい環境で読書に耽るというのもありだな。どんな本が蔵書としてあるのか気になるしな。ミステリーもあるかもしれないし。

  「そっかー。夕飯には戻るからね。稔は?ハイキング行くよね?」

  宇佐美の次に俺に虫よけを渡そうとした咲が俺に聞いてくる。さて、どうしようか…。

  ◆選択肢1(一つ選択)

  ・1-1「あぁ、行くよ。」

  →[jump:2]

  ・1-2「うーん、俺も書斎で読書しようかな。」

  →[jump:3]

  [newpage]

  [chapter:1-1「あぁ、行くよ。」]

  咲から虫よけを受け取りながら答える。もともとハイキングに行く予定だったしな。川遊びってのも中々やらないし。

  宇佐美を除く七人で外に出かける。コンクリで舗装はされていないものの、木々の間を縫うようにして道が出来ており思っていた程歩きにくさはない。緑葉の天幕が作る影の中、そっと風が被毛を撫でる感覚が心地よい。天幕から覗く深い青と方々から聞こえる蝉の声。土と水と制汗剤の匂い。日常の忙しさの中では暑さにうざったたいという感情しか抱けなかった夏に対する懐かしく健やかな気持ちが蘇る。これがアウトドア特有の気持ち良さが、

  「んがっ、神谷おめー柑橘の制汗剤つかっただろ。」

  「ん?あっごめーん。」

  そんな爽やかな雰囲気も早々に壊れた。そういえば、虎徹は「先祖返り」だったな。獣人は霊長となる以前の元となる動物の特徴を受け継いでいるが、霊長としての歴史の中でその血は随分と薄くなっていった。けれどごく稀に特徴を濃く受け継ぐ者がいる。その特徴は人によって様々な形で現れる。外見的特徴が出る者もいるが、多くの場合は五感が鋭くなる形で現れる。そのような人はパッと見ではそれとは分からない上数も少ないため忘れがちになるのだが、確かにそういった人たちがいるのだ。

  虎徹もその一人で例に漏れず五感が優れている。また体質も元の動物に似ているようで、一般的な獣人は元の動物とは摂取できる食物や好みが異なるが、虎徹は動物の猫動揺柑橘の香りが苦手らしい。

  「うぅレモンくせぇ…。神谷―風下の方にいてくれー…。」

  「はいはい、ごめんって。」

  実際どのような感じ方をしているのか俺には分からないけれど、反応を見る限り相当らしい。オレンジジュースとかも飲まないしな。

  「大丈夫ですかな?虎徹殿。」

  「んー、あぁ。なんとか。」

  難儀な体質だな。街中とかでも柑橘の香りなんてどこからでもしそうなもんだけど。

  「川まで行けば匂いも洗いながせるだろうし、もう少しの辛抱だよ。」

  それからしばらく歩いて川に着くころには虎徹も元気を取り戻して、我先にと川へ飛び込みはしゃいでいる。なんとも単純な奴だけどまぁ元気で良かった。

  「稔は水に入らないのか?」

  「ん、青也。俺は水辺で涼んでれば十分かヴぁっ。」

  「へへ、狛野。いつまでもそんなとこいねぇでこち来いよ!」

  言い終わるか終わらないかのところで虎徹に思いっきり水を顔面にかけられる。こいつ…小学生かよ。

  「…やったな!」

  それはそれとして売られた喧嘩は買わないとな。馬鹿みたいだけど、もう濡れてしまったしこうなったら踊らにゃなんとかってやつだよな。お返しとばかりに虎徹の顔に向かって思いっきり水をかけてやる。

  「助太刀しますぞ狛野殿!」

  「あたしも!」

  狗狸田と咲も俺に加わって虎徹に水をかけ始める。

  「あばっ、ちょ、お前ら。」

  久しぶりに童心へかえったように夏を満喫していた。

  →[jump:4]

  [newpage]

  [chapter:1-2「うーん、俺も書斎で読書しようかな。」]

  最近落ち着いて本を読むことも無かったしな。たまにはこういうのもいいだろう。

  「えーそっかぁ。夕方には帰ってくるから。」

  ハイキングに出かけた皆を見送って二階の奥にある書斎に向かう。中に入ると本棚の前で宇佐美が蔵書を物色していた。

  「あれ、狛野?どうしたの。」

  「あぁ、俺も蔵書が気になってな。残って読書でもしようかと。」

  宇佐美は人に聞いておいて「ふーん」と興味無さそうに返事すると、また本棚へと視線を戻した。いつも通りではあるんだけどな。せっかくなら少しくらい会話をしたいよな。

  「ミステリーとかあるかな。」

  「それなら…この辺りが小説っぽいよ。ほら、『毒入りチョコレート事件』とかある。」

  そう宇佐美が指し示す方を見れば確かに小説のようなタイトルと大きさの本が並んでおり、ミステリーとしては『そして誰もいなくなった』、『アクロイド殺し』などの見慣れたタイトルや『名探偵の掟』といった変わり種もあるようだ。ミステリージャンルで固まって収められている訳では無いようだからじっくり探してみれば読んだことが無いミステリーもあるかもな。

  「『毒入りチョコレート事件』か、昔読んで以来だし久しぶりに読み返すのもいいな。」

  「…毒殺ってさ、ミステリーにおける殺害方法の一つとしてメジャーなものじゃない。」

  「え?あぁ、そうだな。」

  急になんの話だろうか。確かにイメージとしては思い付きやすい死因の一つは毒だろう。

  「毒殺ってさ、実際にはどうなのかって思うのよ。」

  「実際に…?」

  それは仮に現実で毒殺をしようとしたら、という意味だろうか。いささか物騒な話ではあるけれど、トリックなどのリアリティに関連する話として見れば確かに興味深い話題かもしれない。

  「そう、毒殺って現実的な手法なのかしら。」

  「んー、まぁ、毒に勝てる人なんていないし、物理的に襲うような方法よりかは成功率が高いんじゃないか。」

  殺害する相手が自分よりも小柄で力もないような相手なら良いかもしれないけれど、自分より大きくて力もあるような相手ならかなり難しいし、普遍的に大体同じような体格なら五分、苦労はするだろう。一方で毒なら耐性があるなんてことはほとんど無いだろうし殺害という目的は果たしやすいんじゃないか。

  「確かに、殺害自体はできるかもね。」

  どういうことだろうか。今は実際にできるか、って話じゃないのか。

  「でも毒殺には少なくとも二つの大きなハードルがあると思うわ。まず一つは毒の取り扱い。狛野は毒物を扱ったことはある?」

  「あ、ある訳ないだろ。」

  「そうでしょうね。扱い方も分からないわよね。つまり毒を使うにはある程度専門的な知識が必要なのよ。どうしたら危険なのかも知らなければ人を殺すのはおろか、自殺行為よ。」

  たしかに、揮発性の毒とも知らずにうっかり毒薬を開けて自分が死ぬなんてまぬけにも程があるし、そもそも普通は怖くて毒が入っている容器すら触れないか。

  「もう一つは毒の入手難易度よ。狛野は毒を入手する伝手はある?」

  「それもあるわけない。」

  「あるって言われても困るけどね。私たちみたいな一般人はそもそも毒を手に入れることも難しいのよ。例えば有名な毒としてよく名が挙がる青酸カリなんて簡単に買えるものではないわ。そしてそういうものは危険だからこそ厳しく管理しているはず。仮に触れる機会があっても持ち出すのは容易くないだろうし、足もつきやすいでしょうね。」

  そんな毒薬が簡単に手に入るようではあまりにも物騒だ。外国だとどうだか知らないが少なくとも日本では宇佐美の言う通り不可能とは言わずとも簡単ではないだろう。でも身の回りにあるような危険物もあるんじゃないか。

  「漂白剤とかはどうなんだ。入手は簡単だと思うけど。」

  「所謂『混ぜるな危険』というやつね。確かに手には入りやすいでしょうけど、あいいうのはガスが発生するものよ。自分は吸わずに相手にだけ吸わせるというのは簡単ではないわ。心中ならともかくね。」

  「それもそうか。」

  「だから現実問題としては毒殺って不可能ではないけれど、あまりその手法を取る必要性を感じないのよね。あぁ、でもミステリーのトリックを否定している訳じゃないのよ。単なる思考よ。」

  「あぁ、分かってるよ。ありがとう、面白かった。」

  理系だから論理的で中々興味深い話を聞けたな。毒殺の必要性か…。

  →[jump:4]

  [newpage]

  [chapter:◆選択肢1後]

  ハイキング組が戻り、俺たちは夕飯の準備を始めた。最初の夜は炭火で肉やら野菜やらを焼く、皆でわいわいする夏の定番、バーベキューだ。館の二階に大きなバルコニーへ倉庫からバーベキューのセットを持ち出して準備する。俺と狗狸田が雑用。青也は火起こし係。理系な青也は火起こしまで科学的に捉えているのか、いつもどう炭を置けば上昇気流がどうのと言っている。細かいことは知らないが言うだけあって火力はしっかり出るのでいつも任せている。火が安定したころに女子たちがキッチンから食材や食器、炊いたご飯などを持ってきて夜の宴が始まった。

  「あーうまそー。早く食いてぇ。」

  肉を焼くのは主に虎徹の役割だ。こう見えて肉の丁度いい焼き加減を見極めるのが上手く、生焼けにならずかつ焦げ付かないいい塩梅で肉を拾い上げてくれる。普通の薄いスライス肉なんかは俺たちでも分かりやすいが、どれだけ焼けばいいかイマイチ分からないウインナーやホルモンなんかでも虎徹にかかれば正確だ。これも「先祖返り」の五感の鋭さ故なのだろうか。最も先祖返りたる虎徹自身は普通の獣人よりも生肉で腹を下しにくく、実際レアとかユッケが好きらしいが、通常のセーフなラインをよく理解しているのも彼だからこそかもしれない。欠点と言えば野菜を焼かないことくらいか。

  炭火で肉が焼ける香ばしい匂いにはやはり心躍るもので皆思い思いに酒も開けて楽しんでいる。風の涼しさと黄昏時の夕闇迫る深紅の空、燃え盛る火の熱さ。背中と腹に感じる温度差にどこかノスタルジーととてつもなく炎節を実感した。

  腹一杯に飲み食いして片付けも終わり、時計を見ると七時過ぎだった。バーベキューの後で風呂に入りたい気持ちはあるけれど、浴室は一つしかなく時間が決まっているからまだ時間があるな。

  どこで時間を潰そうか…。

  ◆選択肢2(二つ選択)

  ・2-1 自室に行く

  →[jump:5]

  ・2-2 遊戯室に行く

  →[jump:6]

  ・2-3 キッチンに行く

  →[jump:7]

  ・2-4 書斎に行く

  →[jump:8]

  ・2-5 ホールに行く

  →[jump:9]

  ・2-6 リビングに行く

  →[jump:10]

  ・2-7 バルコニーに行く

  →[jump:11]

  [newpage]

  [chapter:2-1 自室に行く]

  少し休もうと自室へ入ると青也も戻っていてソファで読書をしていた。

  「あぁ、稔も食休みか。」

  「そんなとこ。なんか疲れたし。」

  「今日は移動日だったしな。仕方ないさ。」

  俺も青也の向かいにある一人用のソファに座って息をつく。

  「あれ、青薔薇探偵じゃん。」

  なんとなしに青也の方を見てみると『青薔薇探偵』を読んでいた。昔、小学校の図書室で見つけて読んで以来、ずっと大好きな本だ。登場する探偵は鮮やかな青の被毛の狼獣人で事件解決のための謎解きもさることながら、ヒロインを守るそのかっこよさに子供ながら大層惚れ込んでいた。俺がミステリーというジャンルに興味を持つようになったきっかけでもある。あまり有名な本では無いから、昔は青薔薇探偵について語る相手はもっぱら青也だったな。最近はあまり話題に出すことも無かったからなんだか懐かしい気分だ。

  「あぁ。俺にとっての指標だからな、この本は。」

  「…そんなに好きだったのか?」

  子供の頃はよく青薔薇探偵の話をよくしてはいたから青也も好きだろうとは思っていたけれど、そこまで大げさに言うほどとは。

  「稔は覚えてないかもしれないけどさ…俺、この毛色のせいで小さい頃いじめられていただろ?」

  そういえば、そうだった。今でこそ文武両道で、瞳に自信を携えたイケメンで友達も多く女子にもモテる青也だけど、小学生の頃はずいぶんと控えめな性格だったな。おまけにその毛色。青藍色のそれは今見れば綺麗で、おしゃれで、青也の魅力を引き立てるものになるだろう。けれど青い被毛なんて鳥類でもなければ極めて珍しい。隔世遺伝なのか両親とも違う不自然な青は幼い狼には辛かった。そして青也自身がいつもおどおどしていたのもあって、その目立つ色は恰好の的だったのだ。

  「毎日泣いていた俺に笑顔をくれたのが稔だった。コンプレックスだったこの毛色をかっこいいと初めて言ってくれたのがお前なんだ。」

  そうだ。学校の帰り道、道中にある公園の隅っこで泣いていた青也に「お前青薔薇探偵みたいでかっけぇな」なんて、今思えばとてつもなく無神経なことを言ったんだった。その後、青薔薇探偵を知らないと言う青也を無理やり連れて学校の図書室に戻って読ませて…それで、青也は赤い目のまま「かっこいいね…」って小さく呟いて…。

  「子供だったとは言え、俺あまりにもデリカシー無かったな。ごめん。」

  「でも、俺に笑顔をくれた。あの日から稔は俺の全てだったし、青薔薇は俺の目指す形だったんだ。」

  付き合い長いのに、知らなかったな…。ずっと一緒だったのにな。でも親友の助けになれていたのであればこんなに嬉しいことはないだろう。あぁ、ずっと一緒だったからこそこうして今もなお青也のことを知れることを嬉しく思う。

  「…なんか、今更変なこと話してしまったな。まぁ俺も卒業が近づいて少しセンチメンタルになっていたんだろうな。あまり気にしないでくれ。」

  「青也。」

  「ん?」

  「これからもよろしくな。」

  「あぁ、よろしく。」

  社会人になったら今までみたいな頻度で一緒にはいられないかもしれないけれど、でもこの関係が続くといいな。

  「…でも、青也は院進じゃなかった?」

  「まぁまぁ。卒業には変わりないんだし細かいことは置いとこうぜ。」

  しばらく青也と部屋でゆっくりした。

  ◆既に2つ選択した場合

  →[jump:12]

  ◆1つ目の選択だった場合

  次はどこへ行こうか…。

  ・2-2 遊戯室に行く

  →[jump:6]

  ・2-3 キッチンに行く

  →[jump:7]

  ・2-4 書斎に行く

  →[jump:8]

  ・2-5 ホールに行く

  →[jump:9]

  ・2-6 リビングに行く

  →[jump:10]

  ・2-7 バルコニーに行く

  →[jump:11]

  [newpage]

  [chapter:2-2 遊戯室に行く]

  遊戯室がどんなものなのか興味を抱き行ってみることにした。そもそも遊戯室ってなんだよ。ここは豪華客船か何かか。…似たようなものか。俺にとってはどちらも非日常だし。

  二階の階段上がって正面の部屋に入ってみると、ダーツやビリヤードなどが置いてありまさに遊戯室といった様相だった。はぁ~家ってここまでデカいと遊ぶためだけの部屋が作れるんだ。旅行が二泊で良かったかもしれない。こんなところに長く滞在したら感覚がおかしくなってしまいそうだ。

  遊戯室には虎徹が先に来ており、ダーツを投げて遊んでいた。

  「よっ。」

  「おう。」

  虎徹の手からすっと離れた矢は見事に的の真ん中に刺さる。手先が器用な奴だが、ダーツまでも上手いもんだな。

  「そういやよー。」

  矢をしゅっと投げたと思ったらくるっとこっちに向き直り肩を組んでニヤニヤと下品な笑みを浮かべてくる。

  「なんだよ。」

  「戌井の奴とはどうなんだぁ~?」

  はぁ、ほんと下世話な…。こういう話題ほんと好きだよな、こいつ。

  「仲良くやってんのかぁ~?」

  虎徹がこういう時の仲良くというのは下ネタだ。エロオヤジかてめーは。

  「お前…ほんっと好きだよなぁそういうの。毎度毎度飽きもせず…。」

  「良いだろ~恋のキューピット様、なんだからよ。」

  ムカつくことに咲との関係について俺の後押しをしたのはこいつなので、本当に遺憾ながらキューピットなんて言われても否定はできない。様は付けてやらんけど。いや、いくらキューピットと言っても流石にそんな生々しいプライベートなこと喋ってやるつもりはないけどな。

  「ま、その様子なら順調そうだな~。そうむくれんなよ、俺も嬉しいんだからさ。」

  「どんだけ好きなんだよ…。」

  そりゃ俺も男だし、嫌いじゃないけどあけすけに語る程ではな…。

  「俺さ、先祖返りじゃん。」

  「…え?あ、あぁ。そうだな。」

  虎徹はダーツの矢を手でくるくると回しながら壁際のソファへと歩いていき、ゆっくりと腰掛ける。急な話に戸惑いつつも俺も近くの椅子に腰かけた。

  「運動がすげーできるのは良いけど、やっぱさ、周りと感覚違いすぎて生きにくいとこもあったんだよね。なんか、自分だけ違う生き物―みたいな?」

  身体能力が高く、五感も鋭い。そういうととにかくすごいことのように聞こえるが虎徹を見てきたからそれだけじゃないことは分かる。普通の人が食べられないような生肉を食べても平気だったりする一方で、普通は何の問題もない食べ物で中毒になったりする。獣人になって鈍った俺たちの嗅覚でも感じられるような柑橘の香りは街中に溢れている。虎徹はいつもどんな思いで俺たちと遊びに出かけているのだろう。身近にいたから少しだけ慮れるようにはなったけれど、それでも分かってやれるのは氷山の一角と言えるほどにわずかだろう。

  「親も結構放置気味でよ。まぁ自分たちから動物みたいなのが生まれてきたら気味悪いよな。」

  「そんなこと…。」

  「いや、いいんだ。別に捨てられてないだけ情はあったんだろうよ。世間体もあるだろうけど。」

  こういう時でも明るく喋れるのは虎徹の良いところでもあるけど、悪いところでもある。もっと辛そうにしたっていいのに…いや、虎徹自身はちゃんと自分の中で踏ん切りをつけているんだろう。別に何かを迷ってる口ぶりではないから。それなら俺が勝手に憐れむのも失礼か。

  「でさ、先祖返りってさ、性欲もすげ~のよ!もう元気すぎてこまっちゃうくらい!」

  「ぶっ。」

  急に何の話かと思ったら結局そっちかよ。俺の純情を返してくれ。

  「ご先祖様よろしく発情期とかもあってさ、体が子孫を残したいって言ってんのが嫌でも分かんの。」

  「お盛んだな。」

  「そーなの!俺もさぁ、女の子好きだし元気なのは良いことだとは思うんだけど、あまり付き合おうとか、ゆくゆく結婚しようとかって思えねーのよ。」

  「えっなんで?」

  意外だ。何なら万年彼女募集中ですみたいな感じだと思ってたから。なんならいつもナンパとかそういうの狙ってるくらいだし。合コンも好きだし…盛り上げ役で終わることも多いが。」

  「子供は好きだしさ、俺の心も言ってんのよ?子供欲しいって。でも確率は低いとは分かってても子供が俺と同じ先祖返りだったらどうしよう、自分の子供にも同じ辛さを味わせてしまうのか、そもそも親の愛を受けなかった俺が父親なんて大層なものになれるのか…とかそんなことばっか考えちまってさ。」

  「虎徹…。俺、先祖返りのつらさは分からないけど、お前みたいな騒がしい奴が父親だったら…面白そう、とは思う。」

  虎徹はしばらくアホみたいに口をぽかんと開けて無の表情をしていたが、少しして腹をかかえて笑い出した。訂正、アホみたいじゃなくて、アホだな。

  「ぷっ、ははははっ。おもしろいか、そうか。くっくくく……いや!」

  一人で勝手に笑い転げたかと思えば急にキリっとした顔になって立ち上がった。こいつ大丈夫か…?

  「やっぱ親父になんならかっけぇ親父が良いよな。よし、ビリヤードやんぞ稔!」

  「なんの関係があるんだよ。」

  虎徹としばらくビリヤードで遊んだ。

  ◆既に2つ選択した場合

  →[jump:12]

  ◆1つ目の選択だった場合

  次はどこへ行こうか…。

  ・2-1 自室に行く

  →[jump:5]

  ・2-3 キッチンに行く

  →[jump:7]

  ・2-4 書斎に行く

  →[jump:8]

  ・2-5 ホールに行く

  →[jump:9]

  ・2-6 リビングに行く

  →[jump:10]

  ・2-7 バルコニーに行く

  →[jump:11]

  [newpage]

  [chapter:2-3 キッチンに行く]

  何か飲み物が欲しいな、キッチンを物色するか。

  「あ、狛野くん。狛野くんも喉が渇いたの?」

  ふらっとキッチンに入ると羽鳥さんがお湯を沸かしていた。

  「あぁ、何かないかと思ってな。」

  「それなら良かったら一緒にお茶しない?今ハーブティーを淹れるところだったの。」

  「じゃあご相伴にあずかろうかな。」

  「うん、ちょっと待っててね。」

  お茶が入るのを待つ間、キッチンを眺める。家のキッチンとしてはかなり広いんじゃないだろうか。コンロの数も多いし、グリルやオーブンなども揃っている。冷蔵庫だってデカいし、複数人で同時に料理をするなんてこともできるだろう。まぁ俺はあまり料理が得意ではないから使いこなせないだろうけど。

  「はい、お待たせ。じゃあダイニングでのもっか。」

  「ありがとう。」

  羽鳥からカップを受け取る。お茶からはすっきりとしうつも優しい香りが漂っている。これがリラックスする香りというものだろう。口を付けてみると口内に爽やかな香りが広がる。慣れない味だが思っていたよりは飲みやすい。

  「うん、美味しい。ハーブティは普段飲まないけど、意外といいな。」

  「ふふ、落ち着くでしょ。」

  羽鳥も柔和な笑みを浮かべてお茶を楽しむ。いつでも穏やかで他人に優しく、かといって他人に流されるような奴でもない…こういう子が先生に向いているんだろうなと時々思う。

  「この旅行って早めの卒業旅行でしょ?だからこの四年間のこと思いだしてたの。それでね、やっぱりこのサークルに入って良かったなぁなんてしみじみしてたの。」

  「それなりに楽しい学生生活になったよな。」

  「うん、それもあるんだけど…私、教育学部でしょ。だから学校の先生も目指してボランティアとか塾とか子供と触れ合う機会はなるべく作ってきたんだけど、伝えるって難しいなぁって何度も思ったの。」

  あぁ、子供に教える、とか何かを伝えるって難しいことだよな。子供だから理解力とか想像力が育ってない部分もあるし、俺たちも大人になるに連れて子供の頃の感覚をだんだんと忘れていってしまっている。自分も子供だったはずなのに、その時思ってたことなんて忘れるはずがないと思っていたのに、いつの間にか分からなくなっちゃうんだよな。

  「伝えたつもりで伝わらなかったり、こういえば分かるかなと思っても分かってもらえなかったり…。言葉って完璧じゃないもんね。自分の気持ちを完全に言葉にできることなんてないと思う。だからこそ音楽とか美術とか、そういうのがあるんだと思うの。」

  「うん…分かる、気がする。言葉にならないことってあるし、言葉にあてはめたくないって時もある。」

  「でもね。」

  羽鳥は持っていたカップをそっと置き、自身の嘴にそっと手を添えた。

  「それでも言葉で伝えようと努力することがね、私は大好きなの。言葉は、自分にしか分からないことを共通のものさしを使って少しでも、ほんのわずかでも、伝えようって精一杯の相互理解を目指すかたちだから。」

  今この時も羽鳥は、俺に自分の気持ちが少しでも伝われば良いなと思って言葉を紡いでいるんだろう。話す側が完全に言葉に置き換えられないように受けても完全には理解できないんだろう。それでもこの営みは素敵なことだと思った。

  「ふふふ、これを教えてくれたのは皆だったのよ?」

  「えっそうなの?」

  「そ、やっぱり普段から本という言葉で紡ぐ物語に触れてるからかな。この四年間、皆は私に言葉で必死に伝えてくれたし、私の言葉を必死に受け取ってくれたんだもの。私みたいな口下手がちゃんと意見を言えるようになったんだもの。」

  「楽しく、実りある四年間、だな。」

  「そう!さ、お茶のおかわりを淹れるね。旅行が終わればそれっきり、なんてつもりはないけど、せっかくの機会だもの。もう少しお話ししよう?」

  会話をお茶請けに、しばし羽鳥とお茶を楽しんだ。

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  次はどこへ行こうか…。

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  [chapter:2-4 書斎に行く]

  書斎でゆったり過ごすのも良いだろう。食後だと眠くなってしまうかもしれないけれどそれはそれでな。

  書斎はちょっとした図書室と言っても良い程の広さで蔵書も多い。別荘にこんなに本があったところで読み切れないだろうに、と変なもったいなささえ感じてしまう。部屋の中には調べものをしながら作業もできそうな執務机があったり、他にもローテーブルとソファがあったりとなかなか居心地の良い空間になっている。バルコニー側は全面窓になっており解放感もあって良い。

  ソファには宇佐美が座って読書をしていた。

  「よっ、宇佐美も読書か。」

  「えぇ。」

  宇佐美は本から目線を逸らさずに答える。一見そっけなくも見えるが、こうして返事してくれる分割と心を開いてくれている。効率的なんだな、うん。

  「昼間もずっとここにいなかったか?」

  「読んだことない本もたくさんあるの。退屈しないわ。」

  とは言えこれだけ長時間読書に耽ることができるってのも才能だよな。相当な本好きじゃないとできないだろう。俺も本…というかミステリー小説は好きだけど、それでもこんなに長くいたらさすがに疲れてくるだろう。

  「それなら良い旅行になるな。」

  旅先に来てまで部屋に籠って読書しなくても…という気もするけど、好きなことにひたすら没頭できると考えたらなかなか良い時間の過ごし方だよな。

  「…私もね、寂しくないわけじゃないのよ。」

  「そうなんだ。」

  宇佐美はこう、クールだしこの旅行みたいに自分のやりたいようにするから一匹狼みたいなイメージがあったから意外だな。兎だけど。

  「皆と一緒にいたい気持ちとか、私がやりたいことと皆のやりたいことが違う寂しさとか、そういうのはちゃんとあるの。もちろん自分の好きなように行動する以上は織り込み済みだけどね。」

  あぁ、そういうのは分かるな。いつも自分と他の人のやりたいことが一致するなんてことは無いしな。宇佐美の場合はその差異がある頻度や自分がやりたいことを取る頻度が高いのだろう。

  「好き勝手やってる私だけど、皆とやりたいことが一致した時には皆快く受け入れてくれる。私はそれが嬉しいし、皆のことが好きなのよ。だから、この旅行に参加したのも私がやりたいことよ。」

  「宇佐美の意思で来てることくらい分かってるさ。四年間一緒に過ごしてきたんだからな。」

  濃いメンツだからこそ、長い間一緒にやってると愛着も沸くもんだよな。きっと皆も、それこそ比較的帰属意識の低そうな蓮だって、少なからず思っているんじゃないかな。だからこの旅行だって全員揃って来られたんだと思うし。それだけ別れも寂しくなってしまうんだけれど。

  「ふふ、そうね。自己中女にたくさん手を焼いたのだものね。」

  「宇佐美は自己中なんかじゃないさ。遊びの誘いより自分のやりたいことを優先するだけで、やらなくちゃいけないこととか、皆で協力しないといけないことはいつもきちんとやってくれていただろ。だから皆も宇佐美のそういうところも個性として好きだと思うぞ。」

  「ありがと。」

  少し小っ恥ずかしいけど、でもこういうことも素直に喋れるのが節目ってやつなのかも。皆の色々な話も聞けるし、たまには良いよな。

  しばらく宇佐美と静かに読書をして過ごした。

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  [chapter:2-5 ホールに行く]

  ホールにもでも行ってみるか。青也はホールといってもちょっとした多目的室のようなものと言っていたけれど、普通個人の家に多目的室なんてないからな。公民館かよ。

  二階奥のホールに入ってみると開けた空間が広がっていて、ホワイトボードや長机に椅子、ピアノまで置かれており確かに多目的な部屋のようだ。そしてホワイトボードの前で咲が腕を組んで唸っていた。

  「咲、何やってるんだ。こんなところで。」

  「あ、稔。ちょっとね、謎解きを作ってるんだ。」

  「謎解きって、明日の夜のイベント用の?」

  明日の夕食後にはこの旅行のメインイベントである謎解き大会があるのだとか。その企画は当然咲が考えたもので、謎も自分で作ったものを出題するんだと息巻いていた。せっかくミステリ同好会での旅行なのだからこういったイベントは俺たちらしくていいよな。

  「それはもうちゃーんと準備してあるってば!今はちょっとした食後の頭の体操。」

  あぁ、こいつは腹ごなしに頭を動かす人種だったな。お腹いっぱいになると頭がぼけっとしちゃうから叩き起こすんだと。普通はそのために軽く体を動かすんだけどな。

  「もうこれで最後だしね。気合入ってるよ!」

  「そうだな、もう学生生活も終わっちゃうもんな…。」

  「しんみりしないの!新たな門出なんだから。…あ、そのネックレスつけてきてくれたんだ。」

  咲が俺の胸元で光る青い薔薇をモチーフとしたネックレスを見る。咲が誕生日にプレゼントしてくれたやつだ。

  「せっかくの同好会での卒業旅行みたいなもんだしな。青い薔薇が気に入ってるし。」

  「稔の好きな青薔薇探偵をイメージできるものを探したからね。良かった。」

  『青薔薇探偵』…そう、俺が子供のころから大好きな本でミステリーに興味を持つきっかけになった小説だ。青い被毛を持つ狼獣人の探偵がヒロインを支え守りながら華麗に謎を解き明かしていく姿はとてもかっこよく、幼い頃の憧れの姿だった。何度も何度も本を開いてはその美しくも頼もしい姿を想像したものだ。

  「ね、覚えてる?私たちが仲良くなるきっかけも青薔薇探偵だったよね。」

  「あぁ。もう絶版になってる本だったから知ってる人がいるなんて思わなくて驚いたな。」

  青薔薇探偵はあまり知名度は高くないし増刷もされてないみたいだから、ずっと青也としか語り合ってなかったし、これからもそうだと思っていた。だからサークルに入ったばかりのころに青薔薇探偵の本を持ってきていた俺に「あっ懐かし~!」と声をかけてくる人がいて思わず勢いよく立ち上がってしまったのだった。

  「私も読んだことがあったから懐かしくて話したらあまりに熱弁するものだから、面白い人だなぁって思ったのよく覚えてるよ。あれは狗狸田くんにも負けず劣らずの熱さだったね。」

  「うっ、あまりからかうなよ…。」

  一年の頃の、今から思えばまだ幾分か幼かった頃の記憶が蘇り頬が少し火照るのを感じる。ただあれをきっかけによく話すようになったのは確かで、引かれずに、いやもしかしたら少し引いていたかもしれないけど、ドン引きまではされずに面白いと評されたのは不幸中の幸いといったところか。

  「ごめんごめん。でも稔と仲良くなれて良かったよ。第一印象は熱弁くんだったけど、落ち着いて話したらすごく聞き上手だし、特に代表になってからはすごく支えてもらったなぁって思うよ。」

  「俺は…話を聞いていただけだから…。」

  「それが大事なの!ともかく、私だって稔のこと助けたいんだから、何かあったら頼ってよね。私はいつでもそばにいるからさ。」

  「あぁ、ありがとう。」

  「まっ、まずは大船に乗ったつもりで明日の謎解き大会に臨むといいでしょう~。あまりの美しい謎に私を青薔薇探偵と崇めたくなるかもよ?」

  「探偵は謎を作る方じゃなくて解く方だろ。」

  しばらく咲と頭の体操をして過ごした。

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  次はどこへ行こうか…。

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  [chapter:2-6 リビングに行く]

  リビングでくつろぐか。いろいろと自分のものさしから外れたこの館はリビングもやっぱり並みではない。大型テレビがどんと構え、大画面でゲームや映画を楽しめる。そしてふかふかの絨毯にこれまたふかふかのソファ。床に寝転んでもソファに体を沈めても快適なのだ。部屋自体も広いし、天井も高いのでまさにくつろぎの空間と言えるだろう。

  そんなくつろぎ空間に足を運べば既に先客がいて、優雅にソファで読書していた。

  「狗狸田、何読んでるんだ?」

  「狛野殿、これです。」

  持っていた本を持ち上げて表紙を見せてくれる。『モルグ街の殺人』…ミステリーの古典、いや原点とも言える作品だ。また古いものを読んでいるな。

  「最近は古典にハマってるのか?」

  「そういう訳ではないんですが、ある種四年間のまとめとも言える旅行なので我々が愛してやまないミステリーの原点に立ち返るというのも良いと思いましてな。」

  なるほど、確かに節目ではあるしそういう代表作と言えるような、俺たちみたいな愛好家なら当然読んでいるような作品を改めて読んでみるのも良いかもな。俺も久ぶりにアガサ・クリスティとか読んでみるのもいいかもしれない。

  「それに、噛みしめていたところなのですよ。」

  「何を?」

  「こうして語り合える仲間の存在です。」

  あぁ、狗狸田も案外センチメンタルってたのか。同好会の活動にはかなり積極的だったし、狗狸田自身は院進するとは言えやはりサークルから引退することに寂しさを感じていたのだろう。狗狸田は読んでいた本を閉じ、その表紙をしみじみと眺めながら語りだす。

  「昔から周りの、学校の同級生たちとは趣味が合わなかったんです。別に自分は特別だ、なんて思っていた訳では…いや、昔は少しはあったかもしれませんな。とにかく、周りはミステリーなんか興味なくて。自分はオタクですから周りは関係なくただただ自身の趣向に向き合えば良いと思う一方で、教室で昨日見たドラマの話とかそういう共通の話題で盛り上がるクラスメイトを見てやっぱりどこかで羨ましくあったのでしょう。」

  俺には青也という語り合える親友がいたけど、それはとても幸運なことだったのかもしれない。青也には改めて感謝しないとな。

  「自分が、この『モルグ街の殺人』は1841年にエドガー・アラン・ポーが出した小説で、手がかりを読者に提示し最後には探偵が解決するというミステリーの基本構造を作り上げた、まさにミステリーの原点とも言える作品で――なんて語り出したら皆引いてしまいますからな。」

  俺に向かって本をずずいと突き出しながら早口でまくしたてた後に、なんてねといった具合に笑う狗狸田。きっと実際に経験したことなんだろう。オタクって悲しい生き物だな…。

  「この同好会に入ったときは天国かと思いましたぞ。何せ自分があれこれ語っても引かれることはない。それどころか自分と同じか、時にはそれ以上に熱く語ってくれるのです。同じくミステリーを愛する同志に出会えたのだと感動しましたな。」

  「狗狸田、お前新歓のときなんて夜通し止まらなかったもんな。」

  あの時は同期に面白い奴がいるな、すごい熱量だな、くらいにしか思っていなかったがそれだけ嬉しかったんだな。実際、自分の好きなものを他の人も好きで感想とか言い合えたら楽しいもんな。

  「でも違ったんですよ。」

  これまでの日々を思い返しているように遠くを見つめながら微笑んで続ける。

  「同じってことなんて無かった。たとえ同じミステリー好きでも皆それぞれ少しずつ好きなジャンルも違うし、楽しみ方だって違うし、同じ方向を向いているとは限らない。それでも皆、自分の話を聞いてくれた、尊重してくれていた。…気付くのには時間がかかってしまいましたけどね。だから自分もまわりを尊重しようと思えて、そしたら世界がもっと広がったような気がしました。」

  濃いメンバーがどうにかこうにかやれてこれたのはきっとそういう尊重の気持ちがあったからなんだろうな。まぁ咲というコミュ力がとても高い女が引っ張ってくれたところもあるんだろうけど、皆もちゃんとついていった訳だしな。

  「まぁ普通の人はとっくにそうしてきたのでしょうが、この四年間はオタクのちょっとした成長の軌跡でしたな……って狛野殿が聞き上手だからついぺらぺらと語ってしまいましたが、恥ずかしくなってきましたぞ…。」

  「はは、素直に言葉を出せるのが狗狸田のいいところじゃないか。」

  俺も四年間の思い出は大切にしたいな。

  しばらく狗狸田とミステリー談議をして過ごした。

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  ・2-7 バルコニーに行く

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  [chapter:2-7 バルコニーに行く]

  夜風を浴びてリフレッシュをしようとバルコニーに出てみる。まだ炭の匂いが残るものの、外の空気というものは気持ちが良い。避暑地のおかけで夜にもなると気温も低く、風に少し肌寒さを覚えるくらいだ。

  しかしドアを開けたときの爽やかさも一瞬のことで、外に出て見渡してみると蓮が先客として外をぼんやり眺めていた。選ぶ場所を間違えたなぁと思いながら気づかれる前に引き返そうとした瞬間、人の気配を察知したためか振り返った蓮と目が合ってしまい息が詰まる。

  仕方ないので俺も蓮がいる方へ向かい隣に立つ。

  「…よぉ。」

  「…うん。」

  「……。」

  「……。」

  きまず…。元カノと二人きりなんてどんな地獄だよ…。あまり気乗りしないが、まぁどうせ気まずいなら気になっていたことを聞くチャンスかな。

  「なぁ…。」

  「何?」

  「その、今更なんだけどさ…お前ってなんでミステリー同好会なんて続けてたんだ?あ、いやダメって訳じゃないんだけどさ、ほら、お前ミステリーなんて興味ないだろ?」

  「そうね、確かに好きなジャンルじゃないけど。まぁ、百合がいるからかな。」

  「羽鳥と仲が良かったのか。意外だな。」

  言われてみれば部室でも羽鳥とは比較的話していたような気がする。それにしても、穏やかな性格の羽鳥と強気な蓮が仲いいなんてな…いや、真逆だからこそ相性が良いのか?

  「いい子なあの子と性格の悪いあたしが仲良いなんて、意外?」

  「べ、別にそうは言ってないだろ。」

  「別にいいけど。少なくとも、あたしは百合といて楽しいわ。」

  まぁ、気が合うか合わないなんて感覚的なもんだしその人といて心地よいかってだけなんだけどさ。要は仲いいやつがいたからサークルに残ったってことだよな。そういうことなら理解できるな。

  「ミステリージャンルを読まないだけで本を読むのは好きだしね。だから時々部室で読書したり、百合と話したり勉強したりしてたワケ。」

  図書室代わりかよ。ある意味宇佐美以上にサークル活動は最低限だったもんな。ただ、確かに本は結構読んでいるよな。伊達に文学部じゃないってことか。

  「あたしからしたらよくミステリーばっかで飽きないのねって感じだけど。トリックとかもう出尽くしたんじゃない?」

  「まぁ、似たようなものとか…王道っていうくらいよく使われるものはあるけど…でもやっぱり読んでるとわくわくするよ。」

  「ふぅん。」

  聞いてきた割にはあまり興味無さそうだな。別にいいけどさ。

  「ま、とにかくあたしがしつこくサークルに居座り続けたのは百合がいるからよ。それに…。」

  「それに?」

  「…なんでもない!あたしもう中入るわ。寒いし。」

  なんなんだ…。なんだか釈然としないが、まぁいいか。俺も少ししたら中に入ろうかな。

  しばし夜風で体を冷ました。

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  次はどこへ行こうか…。

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  ・2-6 リビングに行く

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  [chapter:選択肢2後]

  しばらく時間を潰した後、リビングでゲームを始めた虎徹と狗狸田に混ざる形で俺と青也も風呂が開くのを待った。

  「夜に集まってゲームなんて合宿を思い出しますな!」

  「たしかに、去年までは毎年合宿行ってたもんなー。引退した今年はこの旅行があって丁度良かったかも。」

  しかも同期だけの旅行だしな。もちろん後輩や先輩との旅行も楽しいけれど、同期水入らずってのもまた違った楽しさがあるし。いや、ほんお咲と青也には感謝だな。

  「この別荘も過ごしやすいですな。大上殿、感謝しますぞ。」

  「俺は何もしてないさ。でも喜んでもらえたなら良かった。」

  「いやいやマジでスゲー…あっ誠てめっ!」

  「ふっふっふっ、油断大敵ですぞ虎徹殿。」

  …対戦は狗狸田の勝利となりそうだな。

  「あっ大上君ちょっといいかな?」

  「ん?あぁ。」

  途中咲と宇佐美に呼ばれてどこかへ行った青也を待つ間、俺たちは交代しながら対戦ゲームを続けた。俺はゲームは普段はそこまでする方では無いし、腕もそこそこといった具合だが二人はよくしているのかかなり上手い…ように見える。虎徹は動体視力や反射神経が良くて、狗狸田は作戦勝ちするタイプだな。二人に押されつつ、たまに運よく勝ったりしてゲームを楽しんだ。

  三十分程立って青也が戻り、風呂も空いたとのことで皆で浴室に向かう。

  「青也、呼び出されてたけどどうしたんだ?」

  「あぁ、ちょっとな。大したことないさ。」

  まぁよく分からないが館の管理人的な立場としては何かとあるんだろう。とにかくシャワーを浴びたい俺は青也への追及もすぐにsぐに止め浴室の扉を開く。

  一階にある浴室は大浴場と言えるような広さではないが、数人で入るには十分な広さだ。一般家庭の風呂なんて人一人やっと入れる程度なものなのだから、豪邸は風呂までデカいんだなと感心する。なんならトイレまで少し広々とした空間だったからな。スケールが違うというのはまさにこのことなのだろう。

  「いやー広い風呂って最高~。」

  「足をのばしてくつろげる湯舟はやはり良いものですな。」

  伸び伸び入れる風呂は確かに良い。普段の一人暮らしのアパートの風呂と比べてふっと息をつく。もう少しで今日も終わる。。まだ旅行は二日もあるとも思うし、もう一日終わってしまったとも思う。時間の流れは速い、なんていささか爺臭いだろうか。

  風呂上がりに火照りを冷ましがてら、リビングで日付を少しまたぐくらいまでゲームをした後自室へ戻る。

  「明日もあるしそろそろ寝ようか。」

  「そうだな。」

  ダブルサイズの大振りなベッドに大の字で寝転がる。名残惜しさもあるが明日が寝不足でふらふら、なんて醜態晒す訳にもいかないしな。

  「雨の匂いが強いな。明日は雨が降るかもな。」

  雨だと外には行けないな。どうやって過ごそうか、と考えているうちにいつの間にか意識が深い闇の中へと落ちていった。

  ※サンプルはここまでです。

  ※サンプルではどの選択肢がエンディング分岐に関わるルートか分かりませんが、ここまでの内容にも重要な手がかりが記されています。

  本編をお楽しみに!

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