小さくなったアルゴをお世話するだけ

  アルゴ「...」

  早朝に尿意で目が覚めた。冬だからかまだそとは暗い。

  アルゴ「...トイレ...」

  ふと、自分の声が高いように感じた。

  しかし眠気が強いからそう感じただけだろう、とそのまま布団から降り...ようとしたら何故か地面までの距離が近く感じる。

  ...まるで子供のような、そんな感じの視点。

  確かめようにも鏡は無いしパウルは寝てるし...まぁいいやとりあえず用を足そう...

  やっぱり変だ。回りの物が大きく感じる...見回りしてる教官に見てもらうしかないか...?

  そんなことを考えていると前からセリオ教官らしき人が歩いてくるのが見えた。怒られるとかそういうのは正直どうでもよくてとりあえず現状を確認したかった。

  セリオ「おや、迷子です...か...」

  こちらの姿を見るなりセリオ教官の顔には困惑が浮かんでいた。やっぱり俺、縮んだのか...?でもなんで...誰かのE.P.の影響でもなさそうだし...

  セリオ「アルゴ君で間違いはないですね?」

  アルゴ「...はい」

  肯定を返すとセリオ教官は顎に手を当ててなにかしらを考え始めた。

  ...そういえば...

  アルゴ「セリオ教官、」

  セリオ「なんでしょう?」

  アルゴ「俺のE.P.のことなんですけど、なぜかカードが出てくる気配が無くて...」

  そう、今までで手に入れたはずの「肯定」「否定」「観察する」その他諸々のカードが見えないのだ。

  セリオ「う~ん...体が小さくなった、というよりこれは幼児化ですかね...それが原因だとはなんとなく想像がつくんですけどそれ以前になぜ幼児化したのかがわからない以上何とも言えませんね...こちらも前例がないものですから...」

  アルゴ「なるほど...」

  セリオ「あと、なるべくはやく部屋に戻るように。」

  アルゴ「は~い」

  セリオ「とりあえずまたこの現象に関しては対処法がわからないので今まで通り過ごしてくださいね。あと、筋力や体力なども衰えているでしょうから訓練は控えてくださいね。デリク教官にはこちらから言っておきます」

  アルゴ「わかりました。」

  あの人は多分見るまでそこまで信じないと思うな...前例がないってのもあるし

  パウル「アルゴ殿、どうしたんですかそれ」

  アルゴ「起きたらこうなってたからなんとも」

  パウル「小さいアルゴ殿、初めて見ますね~」

  アルゴ「騎士学院で一緒になったんだからそりゃそうでしょ」

  アルゴ「それもそうですね」

  朝食を食べに行く前にグランとオスカーと合流した。そしたら案の定

  グラン「なんだお前、すげぇちっせぇじゃねぇかwww」

  グランには思いっきり笑われ、

  オスカー「...かわi...大変そうだね。疲れてない?肩に乗せようか?」

  予想は外れてオスカーには変な心配をされた。確かにまだ疲れては無いけど筋力とか体力とかも小さい頃に戻ってるってなると当然疲れやすくなるよな...

  アルゴ「机が高く感じる...」

  グラン「食べずらそうだな」

  オスカー「確かに食べずらそうだね」

  テオ「おい、なんだこの状況は」

  偶然すぐそこを通りかかったテオに声をかけられた。まぁそりゃそうなるよね。

  アルゴ「俺もよくわかんないんだよね。起きたらこうなってたし」

  テオ「精神までは幼くなっていないようだな。」

  アルゴ「だな。 わっ」

  テオ「元々貧弱そうではあったが今はすぐにでも潰えてしまいそうだな。」

  テオはなぜか俺を両手で持ち上げていた。抵抗しても無意味なことは分かっていたのでそのままテオを見つめていた。

  アルゴ「...おろして」

  そう言うと素直に下ろしてくれた。それとなくテオの顔が赤いように感じたけどまぁ気のせいだろう。

  講義を受けに来たもののやはり机が高くて話を聞くどころの話じゃないな、と感じていると珍しく横に座っているテオに声をかけられた。

  テオ「見えないのか」

  アルゴ「見えないわけではないけど...集中できない」

  テオ「そうか。ならこうすれば多少見やすくはなるだろう」

  分厚い敷けそうなものを珍しくテオが貸してくれるのかと思って待機しているとテオは俺を朝食時と似た感じで軽く持ち上げられた、と思えば俺が次に座ったのは椅子ではなく何か妙に柔らかいモノだった。

  テオ「今回だけだ。次からは貴様でなんとかしろ。」

  なんとなく予想はできたがなんとテオの太腿だった。これはこれで集中できないんだよ、テオ。

  テオのおかげでなんとか講義は終えられた。テオの太腿に俺が座っているという謎めいた光景はセリオ教官からも見えたようで講義終了後に

  セリオ「アルゴ君、テオ王子とあんなに仲良かったですっけ?」

  と聞かれた。正直俺はあれだけの関係を気づいた記憶は思い当たらなかった。

  午後の訓練はデリク教官の横で傍観することになったらしい。デリク教官自身は『アルゴ本人が大丈夫って言ってんならそれを尊重してやりてぇんだが万一ケガさせちまったら怒られるのは俺だからな...』と少し残念そうに話した。ケガそのものは訓練で負うものなのになぜそういう扱いになるんだろう、としばらく自分の中で考えた。とりあえず今日はは『見て学べ』ということだろう。ちなみに俺の横にはテオが居る。体が大きい二人に挟まれるのはやっぱ慣れないな...

  デリク「にしても、なんでそうなったんだ?アルゴ」

  アルゴ「俺にもわかりませんよ。」

  デリク「...体細いし小さいしで見慣れねぇな」

  アルゴ「俺が元のサイズであろうとデリク教官が大きいことには変わりありませんよ」

  デリク「...その体で教官って呼ばれるの違和感しかねぇな。な、試しにデリク先生って」

  アルゴ「嫌です」

  デリク「即答しなくてもいいじゃねぇか...」

  放課後、再びセリオ教官に呼び出された。

  アルゴ「なんでしょうか」

  セリオ「ケガとかはあいませんでしたか?」

  アルゴ「デリク教官とテオが横に居たから特にケガはありません」

  セリオ「なるほど。施設は使いずらいでしょうから誰かと行動したほうがよさそうですね。」

  アルゴ「ですね。」

  誰と行動するか、これを考えた。グランは訓練で忙しい、オスカーは小説の執筆で忙しい、テオはヘルマンと居るだろうからどっちにも迷惑はかけられないし...ていうかあの二人はこっちが頼んでも引き受けることはないと思うけど。デリク教官は...う~ん...

  セリオ「その顔は...ほとんど用事か何かで忙しい、と言う顔ですね」

  アルゴ「そんなにはっきり顔に出てました?」

  セリオ「かなり悩んでる顔してましたよ。」

  アルゴ「全員何かと用事があるんですよね...」

  セリオ「差し支えなければ私が一緒に行動しましょうか」

  アルゴ「いいんですか?」

  セリオ「ええ。私は特に用事があるわけではありませんので」

  アルゴ「ならお願いします!」

  セリオ「はい。私個人としても小さくなった感覚とかを知りたいですしね。これも研究の一環です。」

  アルゴ「なるほど」

  前例が今までなかった、と言ってたから俺がその例になるのかな。なんだかむず痒いな...

  こうして今日の自由時間はセリオ教官と行動することになった。セリオ教官と行動するのなんか新鮮だな

  セリオ「どうです?小さくなった感覚」

  アルゴ「そうですねぇ...寝て起きたらこうなってたので不思議な感覚でしたよ。地面までの距離が近いかと思ったら地面に足が届かなくて降り方がわからなくなったりちょっと歩くだけで疲れたり。とにかく大変でした。」

  セリオ「なるほど...降りるときに転んだりしてません?大丈夫でした?」

  アルゴ「うつ伏せになって少しずつ降りて行ったので大丈夫ですよ。それよりもなかなか進まない...こんなに遠かったっけ...」

  セリオ「まぁ...足も短くなりますしね...」

  オスカー「あ、アルゴ。」

  アルゴ「よっ。」

  オスカー「やっぱり小さくてかわi...大変そうだね...」

  アルゴ「今朝のはなんとなく聞かなかったけど『かわいい』って言いかけてない?」

  オスカー「そんなことないよ...」

  アルゴ「ほら!目泳いでる!」

  オスカー「...ごめん」

  アルゴ「別にいーけど」

  別にかわいいと言われて嫌な気はしない。でもね、俺はオスカーの方がかわいいと思うの。

  カードが見えていたら確実に『悪魔のささやき』があっただろう。あんとなく魔が差してオスカーの足にしがみついてみた。

  オスカー「どうかした?」

  アルゴ「それ普通は目合わせて言うセリフだと思うんだけど」

  オスカー「うぅ...直視できない...」

  セリオ「オスカー君はかわいいに耐性が無いんですかね?」

  オスカー「...それもそうですけどいつものアルゴと雰囲気が全然違うし...なんか目がキラキラしてるっていうか...」

  アルゴ「ふと気になったんですけど今の俺の触り心地ってどんな感じなんですかね、自分じゃわからなくて」

  オスカー「触り心地気にするんだねアルゴって」

  アルゴ「気にするって言うか気になるんだよ」

  オスカー「見た感じはふわふわしてそうだけど...」

  オスカーが俺の頭を撫でるのを期待していると意外にもセリオ教官が俺の頭を撫でた。

  セリオ「たしかに子供特有のもふもふですね...」

  アルゴ「セリオ教官が人のこと撫でるの正直意外です」

  オスカー「たしかに」

  セリオ「...この騎士学院に居る生徒を撫でる方が特殊だと思うのですが...」

  遠回しにデリク教官のことディスった...?

  デリク「お~お~セリオが人のこと撫でるのなんて珍しいじゃねぇか」

  セリオ「普通騎士学院の生徒のこと撫でないと思うんですけどね...」

  デリク「あ~?んなむやみに撫でちゃいねぇよ。アルゴくらいだぞ、撫でてるの」

  セリオ「教官としての自覚は持っててくださいね」

  デリク「へいへい。」

  アルゴ「よい...っしょと」

  パウル「やっぱり小さいと不便そうですね」

  アルゴ「不便だぞ。セリオ教官と別れてから何回か転んだよ。なんでだろうな、元のサイズだとなんともない傷がこの体だと激痛なんだよ。小さい子が些細なケガで泣く理由がわかった気がする...」

  テオ「軟弱だな。」

  珍しく自室にテオが居る。逆にいつも居るはずのグランやオスカー達は居ない。

  アルゴ「仕方ないだろ。子供なんだから」

  テオ「まったく...心配が尽きない奴だ...」

  アルゴ「?」

  テオからテオらしくないセリフが飛び出して正直びっくりした。一応は信頼されてるんだと知ってちょっと嬉しい...

  アルゴ「一応は心配してくれてるんだね」

  テオ「心配するな、とでも言うのか貴様は」

  ...デレモードか?

  アルゴ「そういえばパウルは?」

  テオ「今日は俺が貴様と同部屋だ。」

  唐突なテオの同部屋宣言に驚いた。

  ...嗚呼、願わくば元のサイズでこの展開が欲しかった...

  テオ「もう寝るぞ。はやく対処法を見つけねばならんからな」

  アルゴ「...? うん」

  俺が寝ていたベッドはなぜかテオが先に寝ていたので俺はパウルが寝ていたベッドに入った。体が小さいから広く感じるな。

  ...テオの寝顔ってどんなだ...?

  気になりはしたがバレたら後からめんどくさいので悪魔のささやきは取っ払った。

  目が覚めた。どうやら体はまだ小さいままらしい。対処法が見つかるまではこのままかなぁ...

  それよりも気になるのは、目の前にテオが居るということ。テオって割りと睡眠時間長いのか...?

  と思って時間を見るとまだ早朝。俺が早く起きただけらしい。

  にしてもこれは...俺がやらかしたやつだな。いつも使ってたベッドの方に移動しちゃってる

  ...でもなんでだ?尿意で目覚めたなら記憶はあるはず...

  テオ「なんだ、もう起きてるのか」

  アルゴ「それよりもなんで俺こっちで寝てるんだ?」

  テオ「...どうせ寝ぼけてたんじゃないか?」

  なんだ今の妙な間は...

  これがテオの匂いかぁ...落ち着く匂いだ

  テオ「おい、嗅ぐな 蹴落とすぞ」

  アルゴ「嗅いでない嗅いでない」

  テオ「そうか。」

  元に戻るまではまだまだ時間かかりそうだな。

  だとしたら訓練は無理矢理にでも受けたほうがいいのかな?

  とりあえず今はしばらく小さい身体を満喫しようか。