熊峰さんとの用事を済ませた俺は会社へ戻るために歩道を歩いていた。夕日が俺の目へと射し込んできており、少し眩しい。俺は持っていたカバンで日差しを遮るようにして眩しさを防いだ。建物で夕陽が隠れたためカバンをおろし、俺はそのまま自分の頭をそっと撫でた。……つい先程まで熊峰さんのおっきな手で撫でてくれた頭だ。あの快感を覚えてしまった俺は、思い出すだけでも心臓が早くなっているのを実感してしまう。
――また次も会えるといいなぁ。
俺はそう願いながら、ゆっくりと再び歩き出す。
「あっ……」
俺は思わずそう口にだしてしまった。俺の前方から歩いてくる白い毛並みのおっきな熊獣人である。立派なスーツを着ており少し圧を感じるが、熊峰さんにそっくりである。俺の身長を遥かに上回る立派な体格を持った熊獣人サラリーマンは俺の事など見向きもせずに、そのまま歩き去った。俺はその熊峰さんみたいな後ろ姿の熊獣人をじっと眺めていた。同性になど興味がないと思っていた俺だが、どうやらそうでもなかったようだ。俺は少しピンッと張っ
たズボンをバレないように直しながら会社へと向かった。
会社に着いた俺は、大型獣人サイズに作られている長い長い廊下を歩いていた。廊下の突き当たりはT字になっており、右に行くと大型獣人用の事務所。左に行くと慣れ親しんだ自分たちの事務所である。廊下の突き当たりまで来た俺は、当然右に行く用事はないので左へと方向転換をした。
「……おい」
誰かが俺の後ろで誰かを呼んでいるみたいだ。周囲を見ても俺以外に該当するような人物はいないため、俺だということはすぐに理解した。しかしながら、その声は冷たく低く重い声である。午前中にどこかで聞いたことのある声。俺は後ろを恐る恐る振り返る。俺の視界には、ピチピチのズボンしか映っていない。
――もしかして……
俺はそう思い恐る恐る上へと視界を移動させる。
「……よぉ、何ビビってんだよ」
俺はその人物が見えた瞬間、心臓がビクッとなった。まず目に入るのはその大きな身長である。俺の何倍はあるのかという大きさである。さらに、腕はどんな重たい物であろうと軽々しく持ち上げることができそうな大木みたいな腕。そして、俺の腕や顔など軽く握りつぶせそうなゴツゴツとした手。そして、歳をとったからなのか、少しふっくらとしているお腹。これらの上半身によってシャツは悲鳴をあげてそうなほどギチギチである。……俺の目の前にいるのは、熊獣人の部長である。
「……ぶ、部長!?」
俺は情けないような声で目の前にいる大型獣人の部長にそう言った。
「あぁ?お前ごときに役職で呼ばれる筋合いはねぇんだわ。常識的なマナーだろ?」
上級部長の彼は俺に向かってそう冷たく言う。
「す、すみません……。そ、それにしても俺に何の用ですか?」
俺は謝罪をすると同時に上級部長になぜ俺を呼び止めたのかを聞いてみる。
「お前は今日熊峰さんのところに行ってきたんだろ?その報告をだな。」
上級部長は、俺に向かって「ついてこい」と合図を出すと、廊下の突き当たりの左側である大型獣人のオフィスに向かった。俺はそのまま後ろを必死について行った。
俺は上級部長の後ろを必死に小走りでついて行こうと必死だ。しかしながら小走りであるにもかかわらずのんびり歩いている上級部長との差は広まるばかりである。それもそのはず、俺と上級部長では身長が全く違う。上級部長の正式な身長は知らないが恐らく5メートル後半くらいであろう。そのため歩幅にも大きな差が生じてしまい、どんどんと差が広がってきているのである。俺はもう少し早く歩こうと考えた時――
「いでっ!」
俺はドスンと何かに当たってしまった。俺は倒れながらも目を開くと、上級部長がこちらを無言で見下ろしていた。
「も、申し訳ありません!」
俺は血相を変えてそう言い、土下座をした。大型獣人にぶつかることは基本的にタブーとされている。よく街で俺たちのような普通の獣人が大型獣人にぶつかりボコボコにされているのを見かける。俺はどんなおしおきが待っているのか内心ドキドキしながら向こうの返事を待っていた。
「チッ」と上級部長は舌打ちをした後
「相変わらずおせぇな。どんだけとろいんだよ」
と言いしゃがみこむと俺の腰に手を回した。俺がキョトンとしていると、俺の視界はグッと上へと上昇した。俺は意味もわからずにただただ呆然とした。しばらくしてようやく今の状況を理解することができた。俺は今、上級部長に抱っこをされているのである。そのため、俺の今の視界は自分の身長より遥か上である。そして何よりも蒸し暑いことが問題である。エアコンがガンガン効いている室内とはいえど、今の俺と上級部長のゼロ距離である。鼻息が俺にかかってくる程の距離である。さらに上級部長は汗っかきなのか知らないがかなり汗が出ている。そのため、俺はこの汗の匂いとジメジメとした湿気に耐えなければならなかった。問題はそれだけではないが、とりあえず俺は
「あ、あ、あの。お、おろして貰えますか?ほら、周りに人がいたらこんなの大問題じゃないですか。そ、それに恥ずかしいですし……」
恐る恐る上級部長にそう言った。
「あぁ?お前ごときが命令してくんじゃねぇ。それに、周囲には誰もいないだろうから問題はねぇ。お前のそのヒョロい足で歩いてたら時間が勿体ねぇんだよ。いいか!お前の足などどうなってもいいんだ、俺は。でも時間が勿体ねぇから仕方なく運んでやるだけだからな。勘違いすんなよ!」
上級部長は若干早口で俺に向かってそう言った。
「は、はぁ。ありがとうございます。」
とりあえず俺はそう返すと
「と、とにかく無駄口叩いてないでとっとと行くぞ!」
と言い、俺を連れて歩いた。
「……着いたぞ」
そう言うと、上級部長は俺を乱暴に床に下ろす。
「いでっ」
俺は尻もちをついてしまい、つい声にだしてしまった。
「あぁ、すまない。つい……」
上級部長は俺に対してそう言った。俺は正直かなり驚いた。この人……いや大型獣人が俺みたいな身分に謝ったのだ。それは決してありえないことである。確かに大型獣人の中にも熊峰さんみたいな優しい人がいることは今日知ることが出来た。しかしながら、この人に限ってそれは決してないと思っていた。
「お、お気遣いありがとうございます。でも、俺は大丈夫ですので……」
と、とりあえずお礼を言うと、上級部長の彼は慌てた様子で
「べ、別にお前を気遣って言った訳ではないからな。勘違いすんなよ!」
と言ってきた。
[newpage]
それにしても何とか抱っこをされている間耐えることが出来た事に俺はほっとしている。当然、蒸し暑く汗臭い環境に耐えたこともだが、実はもう1つあった。俺は抱き上げられてしばらくして僅かに興奮していたのである。熊峰さんと今日会ってから、俺は男もいけるタイプであることを知った。熊峰さんだけでなく、帰り道に大柄な獣人を見るとそれだけで少し興奮をしていた。そこで、興奮を抑えられずに、もし俺の逸物がピンッと張ってしまったら、ゼロ距離にいる上級部長は気づいてしまうだろう。もしそうなってしまった場合のことを考えるとどうなるか分からない。最悪クビである。いや、それより重い罰があるかもしれない。それだけは絶対に避けたかった俺は興奮を抑えることに耐えたのである。そして、俺では到底開けれそうにない重厚な扉を上級部長が開けたのを確認すると俺も扉が閉じる前にすかさず入った。そこは今日、俺が来るのは2度目の上級部長の部屋へと入ることになった。
「失礼します……」
俺は小声でボソッとそう言うと、本日2回目となる上級部長の部屋へと入った。部屋は先程行った時と同じくらいであり、部屋の冷房の温度は上級部長が暑がりなのかかなり下げており、俺は少し寒かった。……それにしても相変わらず部屋にあるもの全てが大型獣人用に作られているためか、遠近感がおかしくなる。俺の身長は175cmに届くか届かないか位の大きさであり、推定5mを軽く超えている上級部長との身長差は歴然としている。俺ははるか頭上にそびえ立つ上級部長を見上げながら改めて大きさの差を実感した。
「よっこらせ」
そう呟いた上級部長はふぅっと息を吐くと、椅子に座った。座ると同時に椅子は悲鳴をあげるかのように軋んだ音を出したが、上級部長はお構い無しに俺の方に向いて
「そんで、今日はどうだったんだ」
こう言った。上級部長は座ったとしても俺よりも身長は高かった。座った上級部長の股間がちょうど俺の目の前くらいにあるため、少し意識してしまったが、悟られないように我慢しながら、
「そ、そうですね。軽く雑談したりした感じですね。ほんとにそれくらいです」
俺はそう言った。撫でられて興奮したことやそのまま気持ちよすぎて爆睡してたことなんて口が裂けても言えない。そんなことがバレたら……と思うと俺は少し膝が震えてしまった。
上級部長は、静かに頷くと
「うむ。まぁ、熊峰さんから先程届いたメールの内容とほとんど一緒だな。どうやら嘘はついていないようだな」
と俺に向かってそう言った。俺はホッと一息をつく。どうやら上級部長にはバレていないようである。
すると、部長は
「ちょっと便所行ってくるからそこで待ってろ」
と言い放ち部屋を出ていった。この部屋にポツンと1人取り残された俺は、どうすることも出来なかった。ぼーっとしていると、机の下に何かメモ用紙が貼ってあるのが見えた。こんなとこに貼らずにもっと目立ちとこに貼ればいいのにと心の中で思いながら、俺は机の下に入る。机の下は俺くらいのサイズなら余裕ですっぽり入れる大きさである。そのメモ用紙に近づいた俺は、見ていいものなのか分からないが、好奇心が勝った俺はそのメモを見る。そこには今後の予定などがびっしり書いてあった。少しつまらないなぁと思いながらも、俺は他のメモも見てみることにした。
――おや?
俺はある1枚のメモを見てみた。他のメモとは違い、少し大きなメモ用紙を使っている。俺は目を凝らしてよく見てみる。
《犬獣人のもふもふな毛を触りたい。でも俺の握力で握り潰してしまわないか心配だ。それにそんな姿を他の連中に見られたら……。あぁでも触りたい……。》
俺は目を擦ってもう一度見た。……しかし何度見ても内容は変わることはない。他のメモと字を見比べて見た。しかし、上級部長のやや癖のある字と一致しており、どう見ても上級部長が書いたものである。俺は見なかったことにするためにそーっと机の下から出る。それと同時にガチャっとドアが開く音がした。俺は一瞬ビクッとなりながらも何とか平常心を保った。上級部長は再び椅子にドスンっと座る。先程よりも強く椅子は悲鳴をあげた。
「あぁ、それと――」
部長の顔を再び見る。先程のメモが脳裏をよぎる。ダメだ。どう見てもこの人が書いたとは思えない。
「お前、熊峰さんがすごい気に入ってたぞ。何をしたのかは知らないが、とりあえずよくやった。この俺が直々にお前のことを撫でてやるよ。ほらこっちもっと来いよ」
と、熊峰さんは俺にもっとこっちに寄れとジェスチャーをする。
「……へ?」
俺は今、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしているだろう。
「何驚いた顔をしてんだよ。……それにそんな顔してても尻尾は正直なんだな」
と、ニヤリと上級部長は笑った。
俺はしまったと思いながらも、上級部長の命令に逆らうことも出来ないので、近寄る。近づくと上級部長の大きな手が俺の頭上にやってくる。何故かイカ臭い匂いがするが、気のせいだろうと思い、俺は撫でられる。
……結果として撫でられるのはすごい気持ちがいい。熊峰さんは優しく撫でてくれるタイプだったが、上級部長はどうやらワシャワシャと撫でるタイプらしい。少し乱暴だがそれもそれで気持ちが良い。
《もふもふな毛を触りたい》
その言葉がよりによって今、頭の中をよぎってしまった。俺は恐る恐る上級部長の顔を見ると、普段ムスッとしかしていないような顔が今は少しデレてるような顔をしている。上級部長もこんな顔ができることが意外であった。
そんなことを思っていると、撫で方が少し変わってきた。今まで乱暴に撫でていたのに対して、次は優しく撫でてき始めた。熊峰さんのように優しくなでてくれている。この気持ちよさは、極上である。やばい。俺の下半身に妙な力が入ってくる。バレてはおしまいである。何とかしなければならない。俺は咄嗟に腕をつねる。しかしながらそれでも一向に治まる気配はない。
「あぁ?お前さっきからどうしたんだ?」
上級部長は、俺をなでていた手を止め俺にそう言ってくる。
「いえ……別に……なんでもありませんよ」
俺は咄嗟にそう言ったが、上級部長は俺を疑っているのかジッとその鋭い目つきで俺の様子を伺っている。俺はというと、何とか他のことを考えて興奮を抑えようとした。俺の目の前にあるのは、上級部長の股間である。そういえば、上級部長のものってどれくらい大きいのだろうか。あの膨らみから色々と妄想をしてしまう。……って今はそんなことを考えている暇はない。何とか抑えないと……でも目の前にある物も気になってしまう。あぁ……もうどうにでもなれ!そう思ったのと同時に
「お前……。この俺が撫でたのがそんなに気持ちよかったのか?俺と比べたら貧弱だがこんなにピンッと張って」
どうやら見つかったらしい。
「ふむ。お前にそんな趣味があったとはな……」
上級部長は冷酷な視線でこちらを見てくる。あぁ……終わってしまった。これで明日から俺は一文無しである。……これから先どうやって生きていこう。とりあえず次の職を探さなければ……。そんなことを考えていると
「……お前、気に入ったぞ。……喜べ。今日からお前は俺の直々の部下だ」
「へ?」
俺は驚いた。まさかこのような展開になるとは思ってもなかった。
「まさかお前が野郎がタイプだとはな」
「……いや!別に、そんな訳では!」
俺は咄嗟に否定する。
「ふーん……」
上級部長は俺の事を疑う目で見てくる。その目は先程までの冷酷な目とは違う。そして、上級部長は俺の方に再度手を持ってきて撫でてきた。
「あぁ、今そこを……触ったら……」
「どうした?」
上級部長はニヤリと笑いながら俺にそう話しかけてくる。
……結局、5分ほど撫でられていたがその時間は永遠に感じてしまうほど長かった。俺は何とか服を汚さずにすんだが、もう少しでイクところであった。
「ったく、お前も正直になれないもんだな」
と、上級部長は呆れた感じで言ってくる。そりゃそうだ。会社で出したらそれは大問題である。
……それにしても上級部長の顔はどことなく俺の事を見下している感じてはなくなったような気がする。
「まぁ、とりあえず今日からは俺はお前の直々の上司だ。何かあったら直ぐにでもいえよ」
と、俺に向かってそう言った。
「あ、ありがとうございます!じゃあ俺はこれで失礼します……」
とりあえず俺はお礼を言い、出ていこうとすると
「待て。」
と呼び止められた。俺はビクッとしながら立ち止まると後ろを振り返った。
「お前、この後どうせ暇だろ?」
「……暇ですが」
俺はそう言った瞬間、上級部長は立ち上がり俺の方に再度近づいてきた。
[newpage]
「いらっしゃいませー!」
元気な声で俺達に向かって挨拶をしてくる。中は金曜日の夜ということもあって混雑している。仕事終わりということもあって皆ネクタイを緩めて楽しそうに会話をしている。……そう、俺たちは居酒屋に来ていた。先程、上級部長が俺を呼び止めた理由は居酒屋に行きたかったかららしい。俺は当然、断ることも出来ないし、奢ってくれると聞いたので、とりあえず行くことにした。
案内された部屋は扉付きの完全個室であり、他の客からは見えないようになっていた。
「……とりあえず、何飲みます……?」
俺は気まずいこの雰囲気をどうにかするため、とりあえずメニュー表を眺めながら、上級部長に訊ねる。
「あぁ、とりあえず俺は生を」
「じゃあ俺も同じので」
店員さんを呼び、注文をした後に俺は
「……でもなんで急に居酒屋なんか来たんですか?」
と、恐る恐る聞いてみた。
「あぁ?そんなこと気にしてたのか?まぁ、気にすんなや。お前が俺の直々の部下になったお祝いや。お・い・わ・い!」
そう言いながらメニュー表を再度見ていた。
店員さんが持ってきてくれたビールを俺たちは乾杯した後に1口飲んだ。上級部長のビールジョッキはまるで樽のような大きさをしていたが、それをあっという間に上級部長の胃の中におさめていった。
その後も軽く食べながら会話をした。最初は緊張していた俺もアルコールのせいか慣れのせいかは知らないが、徐々に緊張もなくなり、会話が弾むようになった。
「ふぅ……ちょっと暑いな」
大分酔いが回ってきた頃に上級部長はネクタイを緩め、シャツのボタンを全部開け始めた。
「……さ、さすがにまずいですよ!ほら、一応ここ外ですし……」
俺は必死に止めようとする。
「あぁ?だから完全個室にしたんだろうが。誰からも見えねぇ。それにここの店主は俺と古くからの親友だから大丈夫なんだよ。ったく」
と言いながら全てのボタンを開けて、ワイシャツを脱いでしまった。
「それにお前も気になってんだろ?俺の雄っぱいがよ。……気づいないとでも思ったか?さっきから目線がずっと俺の胸元だったからな」
俺は一瞬、ビクッとした。たしかに俺は胸元を見ていた。しかしバレていないと思っていた。しどろもどろになっている俺を横目に上級部長は更にシャツまで脱ぎ始めた。俺は目を疑ってしまったが、止めることはもう出来そうにないため、止めることを諦めた。
「ふぅ……どうだ?」
上級部長はこちらを自信満々に見てくる。上級部長の上半身が全て見えている。雄っぱいももちろんのことだが、お腹もベルトの上にボヨンと乗っかっており、俺の下半身が一段と反応する。
「ほら、パパの雄っぱいにおいで」
今までの上級部長からは考えられないほどの甘い声で俺にそう囁く。
「あ、あぁ。」
俺は我慢できずに上級部長の元へと一目散に駆け寄る。理性を抑えることなどもう不可能である。駆け寄った俺は、上級部長の雄っぱいを舐め回す。俺と上級部長の身長差は傍から見ると産まれたての赤ん坊と父親位の身長差である。そのため、まるで母乳をあげているかのような光景が広がっていることであろう。俺はそんなことお構いなしに、上級部長の雄っぱいを舐め回す。当然、母乳などは出てこないが、それでも雰囲気だけでも十分である。
10分ほどしたところで、俺はようやく上級部長の膝から下りた。
「満足したか?……それにしても、いい加減正直になったらどうなんだ?ここまでしといて野郎のこと好きじゃないとは言えないよなァ?」
上級部長は俺にそう問いただす。我に返った俺は顔から火を吹くほどに真っ赤になっているであろう。しかし、ここで嘘を着いてもバレバレなことは分かっている。
「……そうですよ。俺は……多分……大柄な雄獣人がタイプです。上級部長のことも多分……。」
俺は小声で恥ずかしそうにそう言う。
「……で、でも上級部長だって、しょ、正直になってもいいと思います……よ。俺、机の下にあったメモ用紙を見てしまいました」
「な、なんだと!?」
上級部長は顔を少し赤くしながら大声でそう叫ぶ。
「俺のこと触りたいなら、い、いくらでも触ってくださいよ!お、俺はあなたの部下なんで、なんでも言うことききますよ!」
俺は口で息をしながらそう言った。部長は身体を震わせながら俺の方を見ていた。
「……あれを見たのか……お前。……ならしょうがない。思う存分触らせろ」
そう言うと、上級部長は俺を持ち上げると先程のような体勢にして、そのまま俺を力強く抱きしめた。
「ぐへっ。ちょ、力強くしすぎですって……」
俺は苦しみながらも声を振り絞ってそう言ったが、触るのに夢中な上級部長には届いていない様子であった。
「はぁ……はぁ……何とか耐えたぁ」
ようやく解放された俺は大きく呼吸をしながらその場に寝転んだ。すると、はるか上から上級部長が俺の顔を覗き込んでくる。
「ったくだらしねぇな。俺はそんなに力を入れていないぞ。これだから犬っころは……」
と言いながら、俺の事をその俺の身体の半分ほどある足でつついてきた。俺はそれに反応できるほど体力は残ってない。
「チッ。だらしねぇ。ならこのまま踏んづけてもいいんだな?お前さっきなんでもやるって言ったよな?」
何を言ってるんだこの人は?と思った俺の視界に黒い靴下が迫ってくる。逃げなければ潰されてしまうが、今の俺には動ける力は残ってない。徐々に近づいてくる足。そして、中年男性と夏場ということも合わさって、強烈な臭いを発している靴下。俺は思わず鼻をつまむが、このままでは潰されてしまう。もはやここまでかと思い目を瞑るが、一向に潰される感覚は無い。俺は恐る恐るゆっくりと目を開けると、ギリギリのところで止まっている靴下の様子が視界いっぱいに広がった。臭いは強烈なため、拷問に変わりはないが……。
「……まぁ、お前は俺の直々の部下だからな。流石にやらねぇよ。まぁ、お前以外の犬っころ相手なら関係なくやるがな」
と、俺に向かってそう言うと、俺の事など簡単に踏みつぶせそうな太い足を退けてくれた。
――た、助かったぁ。
俺はホッと息をつくと、再び机へと戻った。
あれから3日が経ち今日は月曜日。全く嬉しくもない月曜日ではあるが、今日からまた出勤ということで、上級部長に会える。俺は少し嬉しい気持ちを持ちながら、オフィスの廊下を歩く。突き当たりまで来て、いつも通り左へ行こうとしたその時、
「……おい」
後ろから呼びかけられる。声の主は誰だかはすぐにわかった。俺は後ろを振り返るとそこには予想通り、上級部長がいた。
「なにそっち側に行ってんだ。お前は俺の部下だろ?今日からお前の場所はこっちだ」
と言い、上級部長は右側の方を指さす。そして、俺の視線がまたグッと高くなる。
「ちょっと……!」
俺は思わずそう言ったが、上級部長は何も言わずに俺を抱き抱えた。
「ちょ!他にも人がいるじゃないですか!離してくださいよ!」
俺はジタバタしてみるが、力強い大型獣人に力勝負で勝てるはずもなかった。
「あぁ?お前がこの前なんでもしていいって言ったんだろうが?」
そう。俺がこの前そう言ってしまったのである。だから何も言い返すことも出来ない俺は黙って従うしかないのである。そのような光景を見た大型獣人の社員は驚いた表情でこちらを見ていた。そりゃそうだ。あの顔面で人を簡単にビビらせてしまうような強面の上級部長の表情が少し柔らかくなっているのだ。さらに、大型獣人である彼が何故か俺のようなヒョロい奴を運んでいるのだ。それは驚いて2度見するのもうなずける。
結局、俺が上級部長の直々の部下になったという前代未聞の出来事は一日で社内全体に広まるのであった。