元ノンケ同士の惚気話 2

  第一幕

  早朝特有の鼻腔をつんざく寒気を感じる中今日もワタルのベッドの上で目を覚ました。仕事に勤めてる時のクセでまだ早朝に起きてしまう。現在時刻午前4時、仕事も辞めてるので二度寝しても問題ない。しかし、リビングの方から漂うラスクのような匂いとコーヒーの匂いに釣られてリビングに足を運んだ。そこにはコーヒーを飲みながら漫才の番組を見るワタルが居た。

  ワタル「お、もう起きたか」

  春樹「仕事のクセでね...」

  ワタル「こんな朝早くから仕事に行ってたのか」

  春樹「まぁブラックだし」

  ワタル「寝る暇あったのか?」

  春樹「たまたま部屋から近かったから4時間くらいなら寝れた」

  ワタル「すっくなッ!」

  コーヒーを口に含んでいたはずのワタルがコーヒーを吹き出して驚いた。そんなに驚くことなのか?

  4時に起きて出勤して...22時に仕事終わって帰宅して、飯食べて風呂入ったら24時くらい。

  ワタル「...お前仕事辞めたんだからもっとゆっくり寝てくれていいのに」

  春樹「そうしようとしたけどラスクの匂いに釣られてちょっと...」

  ワタル「なるほどな。俺に関してはたまたまこの時間に起きちゃったからな...腹も減ったしラスク食ってたとこだ」

  春樹「コーヒー飲んでるってことはずっと起きてるつもりなのか」

  ワタル「まぁな。休みは満喫したい」

  春樹「休み...?」

  仕事に休みがあることに驚いた。365日年中無休で働くのが普通かと...

  しれっと余ったラスクをつまみながらそうワタルに問いかけた。

  ワタル「お前なぁ...しばらく体休めたほうがよさそうだな」

  春樹「...?」

  ワタル「どっか行きたいとこないか?どうせ暇だしどっか行こうぜ。」

  春樹「そうは言われてもなぁ...行きたいとこなんか...」

  そこでふと思い出した。修学旅行で行ったあそこ、名前なんだったかは忘れたけどとにかくあそこ。

  春樹「中学の修学旅行で行ったあそこ...えっと...名前忘れたけど」

  ワタル「ん...? あ、あそこか。ハウスナインボス」

  春樹「そうそこ」

  ワタル「じゃあ行くか。」

  春樹「りょーかい」

  再び眠気に襲われた俺はその場で横になった。

  ワタル「そんな体勢で寝たら寝違えるぞ~」

  春樹「ん~」

  枕の代わりになりそうなものを手探りで探す。ふと、ほんのり暖かくてふわふわしたものを見つけた。

  俺はなんとかそれに頭を乗せて眠った。その暖かくてふわふわしたものの正体がワタルの太ももということに気づかずに。

  第二幕

  ワタル「そろそろ起きろ~」

  春樹「ん~...?」

  自分の真上あたりの位置から聞こえるワタルの声に違和感を抱きつつ目を開いた。案の定、目の前にはワタルのお腹らしきもの。もちろん服だ。つまり俺の鼻先に当たる妙に柔らかくて暖かいモノは...

  春樹「...!?」

  おかげで一気に目が覚めた。

  ワタル「そんな驚かなくてもいいだろ。俺の太もも枕にしたのお前だし」

  そうだ...もとはと言えば俺が枕に...

  自分の顔がどんどん紅潮していくのがよくわかる。外は寒いはずなのに体は熱い。そんな俺を見てワタルが吹き出す。

  ワタル「ふふ、あっははは! ちょっと股間に鼻当たってただけじゃんなんでそんなに恥ずかしがる必要があるのさ」

  春樹「う...だってぇ...」

  ワタル「えっちなの俺よりお前なんじゃねぇの? あはははっ」

  春樹「う~...おまえきらい...」

  ワタル「ごめんて」

  率直に「嫌い」と冗談を言うと割と食い気味に謝られた。脊髄反射かな?ってくらいの速度でちょっと怖かった。でもそれで確信できた。ワタル、ほんとに俺のことが好きなんだな。自分で言ってて恥ずかしいけど。

  ワタル「じゃ、行こっか」

  春樹「ん。」

  なぜか差し出された手を無意識に取った。それに気づいた俺はまた顔が赤くなった。

  それに対してワタルはうれしそうだ。俺はしばらくワタルの手を握っていた。暖かくてもふもふで、気持ちかったし。

  ワタル「そんなに俺の毛並みが好きか?」

  春樹「うん...俺時間なくて毛並みまで気にするなんてできなかったから...」

  ワタル「...そか。」

  それを聞いたワタルはなぜか申し訳なさそうな顔をして俯いた。

  俺も自分で言ってて少し悲しくなった。でも今は時間はたっぷりある。

  ワタル「なんかごめんな」

  春樹「別に気にしてないからいい。」

  ワタル「でも...」

  変なとこで律儀な奴、と俺は思った。

  ワタルなにかしでかしたときはどんな小さいことでもなにかしらの埋め合わせをしようとする。

  春樹「なら、その毛並み好きな時に触らせてくれ。」

  ワタル「...そんなことでいいの?」

  春樹「別にいい。ワタルの毛並み好きだし」

  ワタル「春樹がそれでいいならいいんだけど...」

  春樹「さ、行くぞ。ハウスナインボス」

  第三幕

  ワタル「ついたぞ。」

  車を運転していたワタルに肩を揺らされたことで自分が寝ていたことに気づく。振動も少なくて太陽光が心地よかった。

  ワタル「子供みたいな寝顔だったぞ」

  春樹「うっせ 睡眠だけが唯一の楽しみだったんだから」

  これは本当。働き尽くしだった俺は勤務終わりの、たった4時間だけど睡眠をとるのが人生の楽しみと快楽だった。彼女なんて作る暇なかったし作ろうとも思わなかった。作ったところで「仕事と私どっちが大事なの」的なこと言われて捨てられるのは分かりきったことだ。

  それもあるけど、女性に関心を持ったことが何気に一度もない。まぁ関わることが無かったというのが原因だが。

  ...恋愛的感情を抱くことはなかったけどワタルと居れればそれでいいとも思ってたし。

  ワタル「...お~い」

  気が付くとすぐ目の前にワタルの顔があった。もうすこしで鼻と鼻が触れ合うくらいに。

  春樹「うひゃっ」

  普通に驚いて頭をぶつけた。

  「う~」と蹲っているとワタルが俺の頭を撫でた。

  ワタル「そんな驚かなくても...」

  春樹「そりゃ驚くよぉ...」

  ワタル「はは、すまんすまん」

  暫くそのまま社内...あっちげぇ、車内だ車内。

  車内でゆっくりしてからハウスナインボスの入場ゲートに向かった。

  マフラーとコートに身を包んでいたが寒い。今年は10年に1度の大寒波が来てるらしい。

  ワタル「寒いな...」

  春樹「10年に1度の大寒波が来てるらしな。」

  ワタル「うえぇ...」

  そういえばワタルは寒さに弱かったな...

  冬休みに入るたびに冬眠かってくらい睡眠時間伸びてたよな...ふふ、寝てる間にほっぺとか触りまくってたっけ。

  そのたびに「あ~」とか「う~」とか顔顰めながら言ってたなぁ。最近はちゃんと起きれてるんだろうか

  ワタル「寒い...」

  春樹「握ればあったかいんじゃ?」

  ワタル「う~ん...手袋でいいや。握りたいのは山々だけど片手塞がるから...」

  春樹「そか」

  ワタルの白と黄色の比率が5:5くらいの手が手袋に包まれた。手袋はふつうのふかふかした白い手袋だ。

  俺たちはアトラクションより先に土産売り場に吸い込まれた。何故かって?暖房が効いているからだよ。

  春樹「は~あったけぇ~...」

  ワタル「っくしゅ」

  春樹「ワタルのくしゃみは昔と変わんないんだな」

  ワタル「うっせぇ」

  ワタルのくしゃみは昔から「っくしゅ」と随分と可愛らしいくしゃみなのだ。成人男性だとはとてもじゃないが思えない。まぁそれが可愛いんだがな。

  何かしらの気遣いなのか店内に置いてあるベンチに腰を下ろしているワタルを横目にぬく~いお茶を4本買った。

  春樹「ほい、これ」

  ワタル「ん、ありがと」

  ぬく~いお茶を渡すとワタルはぽっと顔を少し赤く染めて軽く俯いた。風邪かな?

  春樹「顔赤いぞだいじょぶか」

  ワタル「うん...だいじょぶ」

  だいじょぶならいいんだけど...

  そんなことは置いといてしばらく施設内で暖を取ってからアトラクションがあるエリアに向かった。

  空気が澄んでて天気も晴れ。この上ないくらい最高のコンディションだ。

  それから俺とワタルはアトラクションを片っ端から楽しんでいった。気づいたら晴れて真っ青だった空は茜色に染まり始めていた。昼も過ぎたので余計に肌寒く感じる。なんとなく俺とワタルの間が狭くなっていた気がした。息が白い。帰ったらココアでも飲むか...

  ワタル「こたつそろそろ出そっか」

  春樹「あるんだ、こたつ」

  ワタル「物置きにつっこんでるはず」

  春樹「お~たのしみ」

  ワタル「お前はとりあえず自分の部屋の家具揃えろや」

  春樹「はぃ...」

  ワタル「まぁあと3か月くらいなら俺の部屋に居てもいいけど」

  春樹「かなりだな」

  ワタル「3か月って結構あっという間だぞ」

  春樹「確かにそうだな」

  ワタル「まぁ家具選ぶのは手伝ってやるから。」

  春樹「ありがてぇ」

  ワタル「まぁまずは帰ろうか」

  ...困った。ひっじょ~に困った。うん、困った。好きな家具を買ったけど部屋が割と広くてスッカスカだ。前までのクセかぁ...これ...

  そりゃワタルにも「それだけでいいの?」みたいな顔されるわけだ...

  ちなみに机、椅子、ベッド、タンスのみだ。

  ワタル「...俺の部屋かネットでなんか探してそれ参考にして部屋飾れ。さすがに寂しいぞこれは」

  春樹「でもな~...」

  ワタル「もうあそこで働いてないんなら暇すぎるだろこの部屋。PCくらい買っとけ。これだけ寂しい部屋で過ごしてるんなら結構貯金してんだろ?」

  春樹「まぁ...それなりには」

  落ち着くのがこれだし...もともと部屋飾る気はないんだよね。PCは買うとしてだけど。それに

  春樹「仮に俺も『元ノンケ』になればこの部屋もあんまり使わなくなるでしょ?」

  ワタル「お前さらっとすごいこと言ったな」

  春樹「まぁ仮にだから。」

  『元ノンケ』にはならなくても今まで離れて多分一緒に居たいのも事実。これから一緒に居れるとなると正直楽しみでしかない。そういえばこの近くって

  春樹「この近くってハルトとレン住んでるよね?」

  ハルトとレン、その二人は俺とワタルの同級生だ。あの二人、最近結婚したらしいから色々アドバイス貰えるかも。仮に『元ノンケ』になった時の、ね。