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わんわんぱにっく! その5

  心地よい眠りについていた私だが…敏感な耳がなにやらがしゃんがこんというやかましい音を聞き取った。

  なんだ、折角人が気持ちよく寝ているというのに。人じゃないが。

  目を開けてみると、バケツが転がっててそれをミク先生が頬に手を当ててみているという光景が広がっていた。

  多分だが、鶏の飼料が入っているバケツを思いっきり蹴飛ばしてしまったのだろう。

  まぁ、躓いた、という方が正しいのだろうが。

  「バゥッ」

  一声吼えてみるとミク先生は私の方を振り向き苦笑いを浮かべていた。

  「ごめんねぇ、起こしちゃって。また倒しちゃって…」

  ミク先生の口ぶりからするときっと何度もやらかしているのだろう。

  ドジっ子という奴か。私は立ち上がりミク先生のほうへ向かう。

  そして首を引っ張られる感覚でおぇ、と声を出した。

  そういえば今、私は首輪でつながれていたんだな。

  ミク先生は扉を開き、私の首輪を外して別の首輪を付け直した。

  「ちょっと来て欲しいわぁ。いいかしらぁ」

  「ワフッ」

  頭を撫でながら私に尋ねるミク先生。私は一声吼えてミク先生についていくことになった。

  飼育小屋の外は気持ちのいい風が吹いていて、しかもなにやらいい匂いがするのだ。

  食べ物の匂い。そろそろ給食の時間なのだろうか。

  効き過ぎる鼻は匂いから材料までなんとなくだが嗅ぎ取る。

  あぁ、お腹がすいた。

  「着いたわぁ。」

  そこは、体育館。この時間に体育館とは一体何事かと思うが。

  ミク先生は私を軽く引っ張る。中に入れたいのだろうか。

  とりあえず付いて行くと…中には沢山の子供達。と言っても十数人だろうか。

  皆が皆目をキラキラ輝かせながら私の方をじっと見つめている。

  今にも飛び掛ってきそうで…正直な話、少々怖い。

  全校児童の前に私とミク先生は立って。頭を撫でられ、私はなんとなくお座りの姿勢をとることにした。

  「今日からぁ、飼育小屋に新しく仲間が増えましたぁ。雑種のウルウル君です。」

  雑種扱いか私は。一応狼なハズなんだが…

  気にしたらいけないか。射殺されたり研究材料にされるよりかはよっぽどマシだし。

  「飼育委員さんのお仕事も増えちゃうけどぉ、みんなぁ、よろしくねぇ。」

  「はーい!」

  児童達の元気な声が体育館に木霊する。あまりの大きさに耳がキンキンとなるほどだ。

  私も思わず遠吠えをしてしまう。大きな音には自然と反応してしまうようだ。

  

  そして冒頭のシーンに戻るわけだ。

  すっかり慣れてしまったドッグフードをしゃぐしゃぐと咀嚼していると頭を乱暴に撫でられる。

  最初は嫌だったが、慣れてしまえばなんとなく心地よさも感じて、私は目を細める。

  歯の抜けた笑顔を見せるタケル。私の命の恩人であり、私の面倒を率先して見ているのだ。

  鎖に繋がれた首輪を外し、散歩用の首輪に変える。

  「じゃあ散歩しようね!」

  「バゥッ!」

  私は元気に吼えた。一日の一番の楽しみが散歩なのだ。

  散歩、と言っても学校の外に出るわけではない。校舎の周りをうろつき、校庭を走り回るだけだ。

  でもたったそれだけの範囲でも、ただただ楽しく感じるのだ。

  校舎の周りを歩く時は首輪に繋がれたまま。そして校庭に着けば。

  「はい、ウルウル!…でも、外に出ちゃ駄目だよ?」

  「バゥッ!」

  首輪から解放された私は…全速力で校庭を走り回る。それなりの広さがありとにかく気持ちがいいのだ。

  子供達の間をすり抜けて走り回る。人であったときではとても考えられない速度。

  全身で風を切ると、毛並みがぴったりと肌に張り付きまるで自分が銃の弾丸になったかのように錯覚する。

  思い切り跳躍して私は土が盛られていてちょっとした丘のようになっている場所に着地した。

  「アォォォォォォン!」

  そして天に向かって遠吠えする。何度か遠吠えをするとタケルと他の子供が息を切らせながら私のほうに向かってきた。

  「ウルウル速いよぉ。」

  「クゥン。」

  丘から降りて私は膝に手を当てぜぇぜぇと呼吸するタケルのふくらはぎの辺りを舐めた。

  彼らは私と遊びたいらしく、私の頭を撫でたりキラキラした視線を送ってくる。

  もう少し走って居たい気持ちもあるが…彼らの期待に答えないのは心苦しい。。

  お座りの姿勢をとる。そしてガウ、と一言。

  タケルが私の頭を撫でて…そしてポケットからテニスボールを取り出した。

  いわゆる、ボール遊びという奴である。何度かもうやっているためテニスボールには私の歯形が並んでいた。

  「じゃあ、いくよ、ウルウル!」

  私にそれをしっかり見せると、タケルはそれを思い切り校庭の真ん中へ放り投げた。

  全速力で駆け出し私はテニスボールに近づいていく。

  大した距離ではないし、ボールもよく見える。テニスボールを咥えタケルの下へ。

  咥えたボールを離すとタケルは満足そうに頷き私の頭を撫でた。

  「良く出来ました!」

  「バウッ!」

  「凄いね、ウルウル!頭いい!」

  他の子供達も同じように私の頭や尻尾を撫でる。尻尾は正直くすぐったいから止めて欲しいのだが。

  「ねぇ、ウルウルって、もしかしたら芸とか出来るんじゃない?」

  と、あの時タケルと一緒に私を助けてくれた少年の一人がポツリと呟いた。

  いや、まぁ出来るとは思うのだが。一応とぼけるように私は首を傾げた。

  「ワフッ?」

  「えぇ、出来るかなぁ。」

  「試しにやってみようよ!ウルウル、お座り!」

  周りの子供達は目をキラキラさせながら私を見つめる。…やったほうがいいのだろうか。

  私は一拍置いてお座りの姿勢を取る事にした。

  今の姿なら別にプライドも何もあったものでもないし。

  しっかりお座りした私の姿に…子供達はわぁ、と歓声をあげた。

  そしてやっぱり少々乱暴に頭を撫でられる。

  けれど嫌じゃない。いや、むしろ結構嬉しくて。私は思わず目を細めて尻尾をゆらゆらと揺らす。

  ゆっくりで、優しい時間。昔では考えられないな。

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