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呪術師虎さん×スリット化狼戦士

  「ぐぅぁぁっ…!」

  

  屈辱に塗れた表情。そして苦悶の声を上げながら…左目に大きな傷跡を携えた狼が地面で激しく背筋を仰け反らせた。

  それを愉しげに見下ろすのは蝙蝠。その手に禍々しい魔力を放つ杖。

  

  「良いですね、良い声ですねぇ…あぁ、いいですよ、その表情…♪」

  

  「黙…れッ…!あぐっ…!!」

  

  蝙蝠の恍惚の声に吼えかけるが、その遠吠えも苦悶にかき消される。

  狼の目の前に立っている蝙蝠の手下であろう、屈強な獅子が狼にのしかかり…巨大な肉棒を狼の股間に擦りつけた。

  すると…

  狼の毛並みを押し倒し、ひくつくワレメが露出した。そこからとろとろと精液と先走りの混ざった液体が溢れ出す。

  

  「アナタのお仲間はどちらに?目論見は?どんな作戦を?」

  

  「俺が言う事なんぞ…なっ…いっ…!」

  

  「あぁ、良いですよ?答えても、答えなくても。答えればその礼にアナタを解放しましょう。私達はその裏をかいてアナタの国を亡ぼすだけ。答えなければ私はアナタが犯される事を見続ける事が出来ます。」

  

  蝙蝠は杖を狼の胸に突き付けると…ゆっくりと優しく撫で上げる。狼は快楽からかビクビクと小刻みに体を痙攣させた。

  ぽう、と優しく甘く妖しい光が狼を包む。

  

  「もちろん犯されるのは苦しいですよね?嫌ですよね?大丈夫です。それも今和らげています。…もう少しこの力を強めれば…アナタの雄は永遠に失われます。もうすでにない、かもしれませんが。クククッ…クハハハッ…!」

  

  蝙蝠が杖を降ろすと…狼は全身から汗を噴出させた。

  熱い。全身が燃えるように熱い。そしてクパクパとワレメが勝手に引くつく。

  その奥にはいまだに男根の感触を感じられるのだが…表に出てくることは無い。そして。

  目の前の。自分の体を押しつぶしている獅子から漂う雄の臭いが。フェロモンが。

  狼の全身を更に熱くしていく。

  獅子の剛直が、ワレメに宛がわれた。

  

  「あっ、はぁっ、やめっ…ろっ…ォォっ!!!」

  [newpage]

  

  

  「っはぁっ!!!」

  

  狼はそこで意識を覚醒させ、上半身を起こした。悪い夢だ。…いや、夢ではない。かつてあった、悪夢のような現実。

  何年前だったか。自国を侵略してきた敵国。それに立ち向かい、敵の巧妙な罠にかかった。

  仲間全員を巻き込むより、自分一人の犠牲なら安いものだと自分だけがわざと捕まり…夢で見た拷問を受けた。

  そして、今もなお、それは彼を蝕み続けている。

  狼はごろん、とベッドに寝転がり…自分の体にかけていたシーツを取り払う。

  そうすると…もう、と自分の体臭が部屋に漂った。

  雄のような、雌のような、そんな臭い。

  流れていた冷や汗をベッド脇のテーブルに置いてあるタオルで拭き取り。…下半身に手を伸ばす。

  通常、狼獣人の股間はふさふさとした毛並みで覆われている。彼も例外ではない。

  今の彼の股間。その毛並みはべっとりと液体で濡れそぼり、その皮膚を晒している。だが、そこにあるはずの、雄の象徴たる肉棒は無い。

  代わりに在るのはワレメ。…所謂スリットだ。

  呪術の力により、肉棒と睾丸を体の中に埋め込まれ…尿道だけが表に出ている。そしてそこを覆い隠すように皮膚や筋肉が形作られていた。

  そのせいだろう、若干スリットの周辺は不自然に盛り上がっている。歪に治ってしまった傷痕の様だ。

  

  「はぁ…はぁ…」

  

  スリットが近付いてくる手の気配に気が付いたのだろう。先程まで夢の残光のせいでゆっくりと収縮を繰り返していただけのスリットがその動きを早め、狼の理性をちりちりと焦がす。

  スリットの入り口にそっと触れると…狼は体を震わせた。その感触は、雄の快楽と雌の悦び両方を得られる、不思議なものだった。そして退避したいものであり、しかし体が求めてしまうものだった。

  

  

  呪術師による呪いはそれだけに収まらなかった。

  最初はスリットに変えられただけだった。その後、呪術師お抱えの兵士達に犯された。

  犯されている最中。絶頂に達し、その絶頂を延々と脳に刻みつけられた。同時に雄の臭いを押し付けられる。

  人の脳と言うのは不思議なものだ。臭いを嗅ぐ。何かを見る。何かを聞く。

  それらと記憶が結びつき、無意識のうちに思い起こされる。それを呪いにより、強調され、刻みつけられ…何よりも優先してその記憶が蘇るようにさせられてしまった。

  雄の臭いを嗅ぐと体がその絶頂を思い出し、さらに欲しがる。誰彼構わず、雄を求めてしまう。

  

  

  もう元の生活には戻れないのだ。と。絶望したのは何年前か。

  

  「はぁっ、はぁぁぁっ、んんふぅぅぅっ…!」

  

  狼は遠くでそんな事を考えながらスリットの入り口をグチグチと摘まみ上げたり、くぱぁ、と開いてみたりしながら…肉の壁を撫で回す。痛みはなく、肉棒を撫でている以上の快感が駆け抜けた。奥にある尿道から先走りが溢れて、スリットを濡らす。

  潤滑が良くなると快感は高まっていく。

  片手でスリットを、片手で自分のマズルを撫で回しながら口の中に指を突き入れる。

  

  「あぶっ、んぁっ、あぶぁぁぁ…♪」

  

  塩辛い先走りをたっぷりと飲み込むと体はもっともっと、とねだってしまう。

  スリットも、雄穴も、胸も。全てが疼いて疼いて。

  犯される続けている間も狼は自我を失うことなく、呪術師の責め苦に耐えた。耐え切り…そして自国の兵士達によって救出された。

  

  「あっ、んぁっ、ふぁぁぁっ…!」

  

  快感の波が大きくなるにつれ狼は眉をしかめながらも、なおスリットを弄るのを止めない。

  口の中を弄り回していた指を抜き取り、両手でスリットを慰める。びくびくっ、とスリットが激しく蠢いた。

  乱雑に指の抽送を繰り返すと尿道から溢れる先走りが更に量を増していき、指の潤滑をどんどんと良くしていく。

  両手の指を突き入れ、ぐりぐりとかき混ぜて。

  来る、あの瞬間が。狼はそれに背筋を震わせながらベッドからふらふらとまるで夢遊病患者のように降りて、扉を開ける。

  欠片ほどに残っていた理性が部屋の中を汚す事を嫌ったのだ。

  外に出ると…人の気配はない。動物の気配もない。

  明るくなりかけた空が見えて、少しだけ冷たい風が全身を撫でる。

  

  「ふぁっ、ふぁぁっ、んんんぁぁぁぁぁ!!」

  

  狼は風を全身に浴びた瞬間、押し殺したような嬌声を上げた。

  

  

  

  救出された狼だったが…その際に呪術師は兵士により即座に討たれた。

  そして狼の体を元に戻す手段が…無くなった。狼の住む国では呪術は昔に危険で邪悪なものだとして封印された。

  封印されれば当然知識などは薄れ、失われる。知る者、操る物、解く者も、彼の国にはいなかったのだ。

  呪術によりスリットと化した肉棒。雄の臭いを嗅ぐと発情してしまう体。

  それを抱えたまま、以前の生活に戻るのは、不可能だった。

  王や兵士達も残るよう自分に働きかけてくれた。自分もそれに応えようとしたが…

  兵士達の臭いを嗅いでいると。それだけで理性が壊れそうになる。欲しくて、欲しくてたまらなくなる。

  限界に近付いた時、狼は物陰に隠れ、誰も居ない所で。兵士達の使い古した小手や鎖帷子。それらを抱きしめながら性処理をしてしまった。…もし近くに雄が居たら。自分はこの体で、雄に何もせず終われるだろうか。いや。きっと終わらない。自分は犯してもらうよう、懇願するだろう。そんな事、出来る訳ない。そんな姿、見せられるはずもない。

  耐え切れなくなる前に。自分はここを去るべきだ。そう判断した狼は…

  こうして人里離れた、誰も居ない。この場所で。

  

  「はぁっ…はぁっ…」

  

  狼のスリットからどろり、と精液が零れ、狼の脚を汚した。

  また、してしまった。狼は肉壁に触れる精液の感触に快感とどうしようもない脱力感に大きなため息を吐きながら…

  自らの指でスリットを割り拡げた。…直後、どぼどぼ、と大量の精液が地面に落ちる。

  こうして自らスリットを拡げないと、中に精液が溜まったままになってしまう。…羞恥心を刻みつけるために、呪術師はわざとそのように体を造り替えたのだ。

  スリットの中が空っぽになるまでスリットを掻きだし…それが終わると狼はぺろり、と精液を舐めると顔をしかめ、その場に座り込んだ。

  …こうして一人。どうしようもない体を抱えながら生きていく事にした。

  これから先も、毎日、毎日。このように悪夢にうなされ、自分を慰め、生きていくのだろうか。

  朝の爽やかな空気と太陽ですら吹き飛ばすことの出来ない、暗澹たる思いを抱えながら生きていかなければいけないのだろうか。

  助けてもらった命。無駄に散らす事はしたくない。しかし。

  まるで鎖の様だ。「生きる」という事が。この命を繋ぐものが。…情けない。これでは死んでいったものに申し訳が立たない。

  狼はゆっくりと立ち上がると小屋に戻り、掃除用具一式を取り出すと自分が噴き出した精液の掃除を始めた。

  掃除を終え、ようやく朝日が昇り切って。心地よい風が狼の体をすり抜けていく。

  一日が始まる。

  食事は生っている植物。穀物を育て始めた。…一人分を作るだけならそこまで重労働でもない。

  むしろこうしている間だけは嫌な感情すら忘れられる。

  それらの手入れが終われば動物を狩る。必要最低限。精々兎を一羽程度だろう。

  そうして生きるために必要な糧を求めている間は無心になれる。…この間に、自分の命が断たれないだろうか。

  断ってくれないだろうか。そんな風に考えてしまう事もある。その度に狼は首を振り、ため息を吐く。

  もう何年経つだろう。まだ、あの時共に戦った兵士達は生きているだろうか。

  人が恋しくなる。誰かと話したい。…このワレメを…

  狼は無意識のうちにスリットを弄っていた。周りに人はいない。服を着る必要が無い彼の全身はいつだって陽に晒されていて。

  

  「むっ…」

  

  狼は唸り、ぐちょぐちょと液体が滴っていたワレメから指を離す。びくびくとワレメ周辺の肉壁が震え、汁を零しても。

  ちっぽけな理性が拒んだ。

  いっそ飲み込まれてしまえばよかった。

  あぁ、またこんな事を考えてしまった。

  こうして自己嫌悪と体の疼きに耐える日々。そんな何もなく繰り返される毎日の中で。

  その日はある変化があった。

  指にべっとりとついた先走りを腹の毛に擦りつける。陽も沈みかけた。

  呼吸のために動かした鼻。…それがとある臭いを嗅ぎつけたのだ。

  

  「…人…か…?」

  

  久しぶりに嬌声やため息以外に声を出したような気がする。狼はそんな事を思いながらその臭いの方へ向かう事にした。

  人の、雄の臭い。心が少しだけ昂る。

  辺境の地、人が来ることなどほぼ無い。この昂りが、人に出逢えるかもしれない、という喜びなのか、それとも。

  いや、よそう。これ以上頭を動かす必要はない。

  狼は首を振り、自分でも思っていた以上の速度で臭いの方へ向かう。そして、目に入ってきたのは。

  

  「ぅ…ぅぅ…」

  

  黒いローブを全身に纏い、うつ伏せに倒れながら呻き声を上げる…虎、だろうか。

  少し短い尻尾は黄色と黒の縞模様。くたぁ、と倒れていて…狼は駆け寄ると虎を仰向けにすると上半身を持ち上げる。

  呼吸はある。まだ生きている様だ。

  

  「大丈夫か?おい、聞こえるか?」

  

  久しぶりに喋るが意外と喋れるものだ。そんな事を考えつつ。

  狼は軽く虎の体を揺さぶった。すると。

  ぐぅぅぅぅぅ。

  どこか間抜けな音が辺りに響き渡る。そして虎はうっすらと目を開け…

  

  「お腹…空いた…」

  [newpage]

  

  

  「その、ありがとうございました。」

  

  「いや、いいさ。」

  

  血色の良くなった顔でニコニコと笑いながら虎は丁寧に頭を下げると、狼は少しだけ照れくさそうな表情を浮かべながら視線を逸らし、頬をぽりぽりと掻いた。

  どうやら彼は旅をしているらしく、その道中で道に迷い、遭難。食料も底をついてしまい…行き倒れていたようだ。

  

  「本当に死ぬかと思いました。貴方は命の恩人です、ほんとうにありがとうございます。」

  

  お礼を言われるのは慣れていない。狼はあぁ、と曖昧に頷きながら尻尾をゆらゆらと揺らした。

  

  「それにしても…こんな所に旅なんてお前も物好きなんだな。ここの先には何もないぞ。…何の見どころも無い、普通の国があるだけだ。」

  

  自分の育った国。それを想いながらちくり、と心の奥に痛みを感じながら狼はそれを悟られぬよう、無表情のまま虎に語り掛ける。

  狼の問いかけに先程まで浮かべていた柔らかな微笑みを、虎は真剣な物へと変える。

  

  「その国に、私は行きたいのです。」

  

  「何故?」

  

  狼の言葉に、虎は一瞬口ごもり俯くが、すぐに真っ直ぐと狼の瞳を見つめる。そこから感じられるのは、決意。

  そして揺らぐことの無い、意志。

  

  「…呪術を、広めるために。」

  

  予想だにしていなかった言葉に狼は一瞬頭を白くする。しかし、直後、激情が彼の体を支配した。自分の体をこんなものに変え、あの国から追いやった、呪術という存在。

  それを広めよう、などとは。

  気が付けば狼は虎の胸倉をつかみ上げ、彼の体を宙に浮かせていた。

  

  「何をほざくかッ!呪術を広めるなど…!呪われた力ッ!人を苦しめ、貶めッ!そんなものッ、消え去ってしまえばいい!それを貴様はぁッ!」

  

  ぎりぎりと音が聞こえるほど強く、狼は虎の首を締め上げる。虎は表情を苦悶の物に変え、狼の腕に手を添える。

  

  「違…う…それ…だけ…じゃ…な…ぐふっ…がっ…!」

  

  虎の顔色が赤から、青へ。紫へ。変わりかけた時に狼はようやく我を取り戻した。ぱっ、と手を離し、どしゃりと床に落ちた虎を見下ろすと…狼はくるり、と虎に背を向ける。

  げほげほと虎のせき込む声が聞こえて。

  

  「…失せろ。今すぐ。俺の気が変わらん内にな。貴様を殺す前に。」

  

  どこまでも冷たく、鋭い言葉を虎に投げつけ、狼は鼻にしわを寄せる。虎は数度咳をして…

  狼の目の前に歩み寄った。

  その瞳は、先程と変わらない。決意と意志。あれだけの暴力をふるわれ。それでも、変わらない。

  

  「呪術は、人を苦しめるものだけではない、と私は思っています。」

  

  「…貴様、本当に死にたいのか。」

  

  ふつふつと沸きあがる怒り。理性がもしなければ今すぐにでもこのか細い虎を細切れにしているところだろう。

  殺意を感じているであろう虎も。それを理解しながら、続ける。

  

  「私の師匠は、沢山の人達に呪術を使い…沢山の人達を助けました。ですが、確かにそれ以上に人々を傷付けました。」

  

  自分の胸を、虎はぎゅう、おさえる。口元を歪め、苦々しく。俯く。

  

  「呪術は多くの国で、忌々しい物、危険な物、憎むべき物。消し去るべき物だと言われています。けれど、私は…」

  顔を上げる。

  

  「人々を助ける事だって、出来ると思っています。今も呪術に苦しむ人たちを助けたい。いや、それだけじゃない。沢山の人達を助けたい。呪術を悪用している人たちを止めたいのです。」

  

  「だから、あの国に行こう、と。」

  

  「はい。」

  

  虎のまっすぐな言葉を。

  狼は受け入れられない。だから。

  がんっ、と虎の体を押し倒す。マズルをがぱり、と開き、唾液の滴る牙を見せつける。

  

  「貴様の言っている事は良く分かった。だが呪術をあの国で使おうものなら…貴様はすぐさま処刑される。そうなる前に、俺がこの場で殺してやろう。」

  

  虎は一瞬怯み体を硬直させるが…すぐにその硬直を解いた。

  

  「どうぞ。どのみち、私はあの場所で死んでいました。貴方になら殺されても、文句はありません。」

  

  牙を首筋にあてる。虎はびくり、と震えた。しかし、それだけだった。抵抗も、虚勢も張らない。

  ただ静かに。牙が突き立てられる瞬間を待っている様だった。

  …狼はゆっくりと牙を離す。

  

  「…気が変わった。明日の朝、ここを去れ。お前の好きにしろ。あの国に行って処刑されるか、野垂れ死ぬか。どちらでもいい。」

  

  立ち上がると。狼は椅子に腰かけ、ふぅ、とため息を吐く。

  虎は…ふらふらとゆっくり立ち上がり、頭を下げた。

  

  「ありがとうございます。…申し訳、ありません。」

  

  「謝罪も礼も不要だ。ベッドは貴様が使え。」

  

  [newpage]

  

  

  夜が更ける。

  椅子に腰かけていた狼は眠ることが出来なかった。椅子で眠れない、という訳ではない。そこまで上品な暮らしをしていたわけでは無い。

  ただ…虎の瞳がまっすぐで。今まで見てきたことのある呪術師とは一線を画していたのだ。

  言葉に嘘はないだろう。逃げるための嘘でもない。本当に、心から言っている様だった。呪術。

  まじない。忌まわしく、退避しがたいものばかりだと思っていた。しかし。思い出してみる。

  幼い子供が傷付いた時。母親がしてやれるのは傷の治療。そして、おまじない。他愛のないものだ。いたいのいたいの、とんでいけ。

  悪い物が寄らないよう、ヒイラギの枝を玄関に備えた。

  雨が降らなければ、雨ごいをする。

  そういうものだって、呪術と言えるのではないか。

  しかし、自分の体をこんなものに変えたのも、また呪術。

  分からなかった。考えても、考えても。

  眠れなかった。

  耳を澄ますと、虎の定期的な寝息が聞こえてくる。全く、呑気と言うか、何というか。自分が殺されるかもしれない、という危機感は無いのだろうか。

  狼は立ち上がるとベッドに近寄る。シーツをめくると。

  服を脱いでいたせいだろう、自分以外の雄の臭いと、自分の臭いが同時に漂ってきた。

  

  「…ぁ…」

  

  どくん、と心臓が大きく跳ねた。目の前の雄に発情したのが自分でも分かった。だが。それ以上に。

  彼の細く、今にも折れてしまいそうなほど華奢な体は古傷が無数についていた。それも剣などの武器で傷ついたものでは無い。

  小さな、小さな傷痕が無数に。痛々しく。中にはまだ血がうっすらと滲んでいる、比較的最近ついたであろう傷も見受けられる。

  傷口に見えるのは、小さな石の欠片。

  彼は。そうか。

  呪術に苦しむ人たちを助けたい。しかし、呪術を受けた者が、それを受け入れられるだろうか。

  自分は、受け入れられなかった。激情のまま、このか細い虎を殺そうとした。下手をしたら、本当に殺していただろう。

  憎しみに囚われていた。今も囚われている。それでも虎は。自分が為すべきだと思ったことを為そうとしているのだ。

  自分を恥じるような気持ち。心の中を覆っていく。

  そして。

  どくんどくんと。

  それとは関係なく。どうしようもなく。

  じゅぐ、じゅぐ、と。

  疼く。疼く。疼く。

  欲しい。欲しい。欲しい。

  虎に尊敬と、畏敬の念を抱きながらも。浅ましく狼は呼吸を荒げる。こんな彼に。自分は。何を求める。

  求めてはいけない。それでも体は正直なものだ。

  シーツの中に顔を埋める。彼の臭いが、鼻の奥を直撃する。まるで直接鈍器をぶつけられたような。そんな錯覚をするほど。

  心が昂る。興奮が隠し切れず、呼吸がどんどんと荒くなる。弄ばれ続けた乳首がシーツに当たると体の奥底がもどかしく、何かを求める。

  ワレメはいつの間にか自分の出した先走りですっかりと濡れ…自分の指を容易に受け入れた。一本、二本、三本と。

  増やしていっても、物足りない。

  雄の眠る布団に顔を突っ込み、自らのワレメを慰める。蕩けた顔で、求めるように。滑稽だ。

  傍から見たら滑稽で、そしてどこまでも淫らで。娼夫となんら変わらない。蔑まれる。見えない誰かに。見えない何かに蔑まれる。

  それすら快楽となる。

  

  「ハァッ、ハァッ、ハァァァッ…♪」

  

  雌が肥大化する。先程まで考えていた事がちっぽけな事で。どうでもよくなって。この体を鎮めて欲しい。このワレメに。

  

  「欲しい…ッ…♪」

  

  虎が眠る前までの自分。それは自分が作り出した何かで。本当はこの雄を求める雌が。雌犬が、本当の自分なのでは無いだろうかと。

  虚勢。虚構。虎を責め、呪術など消え失せてしまえばいいと。そう言った自分は。

  本当の自分…それは、何?

  考えがよぎる。考えると同時に、本能が求める。この雄が。無防備に眠っている雄が。どうしようもなく。

  狼は虎の下着を口でずらした。萎えている肉棒は少々小振りだった。しかし、今の狼には十分だろう。

  汗と恥垢の臭い。青い臭いが漂い、狼は飲み込み切れないほどの唾液を口の端から零しながら虎の肉棒に口づけを落とす。

  びくっ、と虎の腰が震えるが、まだ寝息が聞こえる。意識の覚醒までは至っていないようだ。

  与えられた馳走を前に。狼は大きく、ぐぱぁ、と唾液が大量に零れだす事も構わず口を開いた。そして。

  虎の肉棒を咥え込む。

  与えられた雄の味に、狼は全身を激しく痙攣させると尻尾が千切れんばかりに振りたくり、幸せそうに破顔する。

  目じりを下げ、瞳を上に向かせる。片手でワレメを弄り回し、片手で乳首を捏ね繰り回す。雄穴にも刺激が欲しい。

  だが、その前に。この雄を。しゃぶりつくす。

  狼は口の中に収めた虎の肉棒に舌を絡ませた。ザラザラとした突起が狼の口腔内を傷付ける。その度にぞくぞくと背徳と快楽が駆け抜ける。

  極上の奉仕。虎はそれを受けると…

  

  「んふぁっ…!?」

  

  声を上げ、意識を覚醒させたようだ。見られる。見られてしまう。こんなに浅ましく、醜い姿を

  あれだけの事をしておきながら、それをした相手に媚び、雄を貪る自分が。見られる。

  シーツが捲り上げられた。目と目が合う。虎の驚愕の表情。狼の蕩けた表情。

  

  「え…あ…?」

  

  口の中の肉棒が少しずつ膨らむのが分かった。狼は。

  ワレメに入れた指の抽送をがむしゃらに繰り返し、そして。

  

  「ふんぐぅぅぅぅぅ♪」

  

  くぐもった嬌声を上げながら絶頂に達したようだ。全身が何度も大きく痙攣すると…

  ごぼんっ、ごぼんっ!

  ワレメから勢いよく精液が噴き出す。噴き出し続ける精液が地面を、狼の体をグチャグチャに汚していく。

  久方ぶりの精液塗れ。それは気が狂ってしまうのではないかと思うほど心地よく。狼は目を血走らせながら虎の肉棒を吸い上げる。

  顔を上下に動かし、甘く噛む。

  

  「ぅっ、ぁっ…!ぅぅぅっ…!」

  

  狼の奉仕に虎はベッドのシーツをぎゅっと握ると背筋を仰け反らせ、牙を食い縛った。

  こういった行為をほぼしたことが無いのだろう。肉棒はすぐに大きさを増し、硬くなると、大量の先走りを零した。

  塩辛い。もうすぐ、もうすぐ。自分以外の出す、白い欲望が飲み干せる。

  嬉しい。幸せ。気持ちいい。欲しい。早く。

  

  「やめっ…ぐぁっ…でっ…でるっ…!」

  

  単純な単語が羅列する狼の頭に聞こえた声。限界を知らせる声。それを聞き。狼は。

  更に奉仕を強めた。頬が凹んでしまうほどに虎の肉棒を吸い上げると。

  

  「ぁぁっ!」

  

  虎は天を仰いだ。

  びゅるっ、びゅぅぅ、びゅーっ、びゅるるっ!

  

  「~♪」

  

  狼は一滴たりとも逃すまい、と虎の睾丸まで咥え込み、溢れ出てきた白い欲望をごくごく、と飲み干す。

  自分のものに比べ甘く感じる。長い旅をしていて、自慰もそこまでしていなかったのだろう。量は少ないが、濃厚で。

  飢えが。乾きが癒えていく。

  もっと欲しい。もっと。もっと。もっと。

  射精が終わり、口を離す。虎の肉棒はびくびくと射精の余韻から震えながらしかしその硬さを保っている様だった。

  

  「な、なん…やめっ…」

  

  「ちんぽぉ…ほひっ、ほひぃっ…雌犬にっ、ちんぽぉ…ぐへっ、ぐへへっ…」

  

  狼に理性は欠片も残っていなかった。ただ目の前の本能と快楽に縋りつく。

  長い間封印していた本能は、彼の体を、思考を、全てを奪い去る。ゆっくりと立ち上がると虎の体に跨り、ワレメを拡げた。

  ごぼ、と残っていた精液が溢れ出して虎の肉棒に降りかかり、白くコーティングする。

  虎はそれを視認すると目を見開いた。何故、雄である彼にそんなものが…?

  

  「やめてっ…くださっ…」

  

  抵抗しようとする虎だったが、狼の力にかなう訳も無かった。がっしりと組み伏せられ。精液まみれのマズルが近付き、青臭い息を吐き出す。

  

  「ぐへへぇ…すぅぐ…気持ち良くなる…だからぁ…ぐへ、ぐへへへぇ…♪」

  

  ゆっくりと腰を降ろしていく狼。そのワレメに肉棒の先端がぴとり、と当たると。

  

  「~~~~ッ♥♥」

  

  それだけでも頭が吹き飛びそうなほどの快楽が全身を走る。狼はもう止まらない。

  動き出した歯車は止められない。狼は貪るように。ずぬんっ、と腰を一気に沈めた。

  

  「がひっ…♪ひっ…おひゃぁぁぁぁ♥♥」

  

  「っぁっ…!!!」

  

  狼はがくがくと全身を激しく痙攣させながらはしたない嬌声を上げた。耐え切れなかった。虎を貪ることがこんなにも心地よいなんて。

  雄の味がこんなにも甘い物だなんて。犯されていた当時を思い出す。そうだ。これを与え続けられていた。

  きゅう、とワレメが少しだけ締まる。そこを拡げるのは指ではなく、雄の逸物。それがこれだけの幸福だなんて。絶頂だなんて。

  欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。

  注ぎ込んで欲しい。滅茶苦茶にして欲しい。快楽を得た狼だが、一つが満たされればもう一つ欲しくなってしまう。

  狼は虎に体を乗せるとその体勢のまま激しく腰を振り始めた。

  

  「ひぎっ、おひっ、ひひっ、ちんぽっ、おちんぽっ、しゅきっ、しゅごぉっ、おほぉぉぉ♥」

  

  なぜ今まで封印できていたのかもはや分からない。雄を貪る雌が暴れまわる。

  肉棒がごつごつと肉の壁に当たり、収縮を繰り返す。どくんどくんと肉棒に絡みついている血管から血の流れを感じる。

  尿道同士がごつごつと何度も辺り、先走りが泡立って。

  

  「ひひっ、おひっ♪ちんぽ孔あたってりゅぅぅっ♥キスしてるのほぉぉぉ♥」

  

  壊れてしまった言葉を並べ、狼は快楽を必死に表現する。そうすれば雄が激しく犯してくれると調教された。

  それが表に出てしまっているのだ。そしてその言葉は自分を更に貶め、快楽の坩堝へと誘う。

  虎の乳首に自らの乳首を擦りあてる。虎の唇を貪り、自分の雄穴に指を捻じ込む。

  

  「あぶっ、んぶぅぅっ♥あっ、おちんぽびくびくっ♥んぁっ、はぁぁぁっ♥ケツマンと雄マンコの中で擦れてりゅうぅぅぅ♥♥」

  

  虎は…何も出来なかった。ただただ与えられ続ける快楽に腰をびくびくと痙攣させる。

  異常事態に脳が動かない。体も動かすことが出来ない。否定も、悲鳴も上げられない。

  自分を助けてくれた。自分を殺しかけた。どちらとも違う狼が。

  雌犬、と呼ばれることに悦ぶ狼。

  信じられなかった。彼は呪術を憎んでいたが…あぁ、そう言う事だったのか。得心がいった。

  呪術の力が、起こした出来事。虎は。真っ直ぐに狼を見つめ続ける。喘ぎ、啼き、快楽に溺れ、人としての尊厳を喪った彼を。ずっと。じっと。

  雌に貪られる。それは虎が今まで経験したことの無い出来事だった。

  肉壁が心地よく肉棒を締め付け。切なげに吸い上げたかと思えば離し。離したかと思えば蠢き、じゅぐじゅぐと汁を零しながら一気に扱きあげる。

  腰の奥が熱くなる。肉棒がびくびくと何度も震えて。

  

  「あひゃぁぁぁぁぁぁっ♥いぐっ、イグイグイグゥゥゥ♥♥♥おちんぽで雄マンコイぐぅゥゥゥ♥♥♥」

  

  「あぐぁぁっ!!!」

  

  絶頂に達したのは二人ともほぼ同時だった。狼は半分ほど白目を剥き、肉棒とワレメの隙間から大量の精液を噴き出すとひたすら喘いだ。

  虎はぎゅっ、と目を瞑り、流されてくる快楽に戸惑いながらも身を震わせる。

  そう長くない時間のはずだが、今の狼や虎には途方もなく長く。にゅぽっ、と萎えた肉棒が狼のワレメから抜け出ると。

  狼は壊れたように笑いながらそのまま気を失った。虎はぜぇぜぇと呼吸を整え…狼の体をベッドに横たわらせると自身は立ち上がる。

  びくんっ、びくんっ、と時折跳ねる狼の体をよく観察してみる。股間にはスジが一本。そこに触れると狼はぐへへ、と幸せそうに笑う。

  くぱくぱと蠢きひくつき。塞ぐものを求めるように。

  そこから感じ取れるのは、わずかだが呪術の力。

  虎は無言のまま力なく、へなへなとその場にへたり込んでしまう。自分の無力さと。そして快楽を見出してしまった事が、情けなくて。

  

  [newpage]

  

  「んぅっ…」

  

  狼は久しぶりに夢を見ず眠れたことに驚いていた。深く、深く眠っていたようだが…

  鼻を突く異臭に…昨晩の出来事を思い出す。そうだ、自分は…

  がばっ、とベッドから起き上がる。にちゃり、と乾くことがかなわなかった精液が全身を覆い、不愉快極まりない。

  訪れるのは自己嫌悪。昨晩の行為が自分の意志と反し…と、言い切れない事が何よりも屈辱で。そう、求めていたのだ。求めて求めてやまないものだったのだ。

  数年かけても忘れる事が出来なかった。ベッドを忌々しそうに殴ると。

  

  「…おはよう、ございます。」

  

  申し訳なさそうに、か細い声が外から聞こえる。同時に扉が少し開き…タオルと水の入った桶が部屋の中にゆっくりと入り込んできた。

  声の主は分かり切っている。ワレメがきゅん、と切なく疼くのを感じながら。

  

  「去れ、と昨日言ったはずだ。首筋を引き千切られたいのか?」

  

  それを悟られないよう低く、威嚇するような声を狼はあげる。それでも気配は消えることは無い。

  

  「全身、拭き終わったら…話をさせて下さい。」

  

  「もう一度言うぞ。去れ。今すぐに。ここから。消え失せろ。」

  

  「…嫌です。ここで、私がやらなくてはいけないことが出来てしまいました。」

  

  虎の声は震えている。恐怖におびえるものなのだろうか。分からない。が…決意は固いようだ。

  しばらく動かない狼。虎は本当に、ただひたすら待っている様だった。一度も扉の中を見ようとはしない。

  狼はやがて根負けしたかのようにはぁ、とため息を吐きながらベッドから立ち上がり桶とタオルを手に取る。臭いを嗅ぐ限り、自分が普段汲んでいる水と変わらないようだ。

  タオルを水で濡らし、全身にこびりついている精液や体液を拭き取っていく。そうだ。自分がこれをやったのだ。

  屈辱に塗れながら。目立つ汚れを拭き取り切ると。

  

  「…拭き終わったぞ。」

  

  「失礼します。」

  

  虎はゆっくりと扉を開き狼をまっすぐに見つめる。狼は自嘲するように笑い。そしてすぐに虎を睨みつけた。

  

  「…分かっただろう。」

  

  何を、などと聞くまでも無い。狼が呪術と言う言葉を聞いた瞬間に、激高した事。その理由。

  虎は静かに。小さく。確かに頷いた。

  

  「はい。」

  

  「それなら今すぐ出ていけ。あの国にも行くな。この地に、貴様のような輩の居場所はない。」

  

  憎悪と恨み。全てを塗り付けた言葉を虎へと突き刺す。それはまるで、極限まで研ぎ澄ましたナイフのように。

  それでも虎は首を縦に振らない。

  

  「…いいえ。私は…貴方を、助けたいです。」

  

  「貴様にッ…何が出来るッ!!」

  

  「貴方の体にかかっている呪術。スリットとなってしまった男性器を…元に戻す事が出来ます。」

  

  虎の予想だにしない言葉に狼は目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。

  諦めていた。元に戻る事なんてもう出来ないのだと投げ捨てていた。それを…そんなこと…

  

  「本当に、出来るのか!?」

  

  「はい。…今すぐ、というわけではありません。一週間ほど準備に時間がかかります。」

  

  虎の言葉が真実なら、狼は元に戻ることが出来る。そうすればまた、あの国に戻れる。

  昔のように、という訳にはいかないだろう。しかし、それでも。

  だが。

  余りにも都合が良過ぎる。あれだけの仕打ちをした狼に。呪術師である虎がそんな事をする理由が見えない。

  

  「…そうやって希望を抱かせて、砕くのか?」

  

  疑う心が。狼の態度をどこまでも冷酷なものに変える。

  もし虎の話が真実だとしても。虎が逃げ出す可能性もある。対価として何かを差し出せと。元の体に戻してから言われる事だってあり得る。

  それどころか別の呪術に変えられ、虎の物になる可能性だって。

  疑念が疑念を呼び。

  虎は首を横に振った。

  

  「いいえ。必ず、貴方の体を元に戻します。」

  

  「対価はなんだ。貴様は何を望む。」

  

  「何も。私は呪術で苦しむ人々を助けたい。…それだけです。」

  

  「信用出来んな。」

  

  狼の言い放つ一言一言を、虎は怯むことも恐れる事もせず。しっかりと受け止め、頷く。

  

  「…では、契約をしましょう。」

  

  「契約?」

  

  「はい。」

  

  そう言いながら虎は自分の持っていた小さなポーチから紙を取り出した。それは古めかしい、特殊な材質の紙。

  自らの指を傷付ける。そして虎はそこに血で文字を刻んでいった。

  

  「私が貴方を見捨て、逃げ出す事があれば…私は絶命します。タイムリミットは二週間。」

  

  「もし俺が元に戻ったとして…本当に何も望まぬのか。」

  

  「はい。何も。」

  

  虎の目はどこまでも真っ直ぐだった。

  今まで見た事も無い程まっすぐで。純粋で。無垢で。

  狼は迷うような表情を浮かべ…しかし。

  

  「分かった。結ぼう、その契約を。」

  

  決意を固めたように、狼は頷いた。

  

  [newpage]

  

  

  その日から狼と虎の生活が始まった。

  狼がまず驚いたのは…虎の身体能力の異常なまでの低さ。早い話、極度の運動音痴である。

  狼がほんの少し、数分走っただけで。

  

  「ぜぇ…はぁ…ふぅぁ…」

  

  汗だくだく。息も絶え絶え。何処から来たか知らないが…よくここまで生きてたどり着けたものだ。

  狼が立ち止まると、虎はどさりとその場に座り込んでしまった。

  

  「…大丈夫か?」

  

  「はぁ…な…なんとか…うぇっ…」

  

  今にももどしそうになっている虎に、狼は自分の持っていた水入れを差し出した。

  

  「とりあえず飲め。」

  

  一瞬驚いたような表情を浮かべる虎だったが…すぐにそれを笑顔に変えると受け取る。

  

  「あ、ありがとうございます…」

  

  屈託のないその笑顔は、少年のようであり、呪術を使う者とは狼には到底思えなかった。

  本当に彼は呪術を扱えるのだろうか。そして、自分の体を戻せるのだろうか。

  疑念は尽きないが…

  

  「ぶはっ…はぁっ…」

  

  水入れから口を離し、呼吸を整え。申し訳なさそうに耳を畳む虎。

  

  「すみません、ご迷惑をおかけして…」

  

  「仕方が無い。ヒトには向き不向きがある。それに、貴様が居ないと儀式をするのに必要な材料が分からんだろう。」

  

  「はい…」

  

  「…少し休んだら歩いていくぞ。走るたびに休まれては困る。」

  

  「ありがとうございます…」

  

  少なくとも、初めて彼が呪術師だと分かった時より。心がほどけているのが、狼自身でも分かっていた。

  先程までとうって変わってとてもゆっくりとした速度で狼は歩く。

  あくまで狼にとってのゆっくりであり、虎にはそれでもまだ速いようだが。しかし今度はしっかりついてこれている様だ。

  

  「良く今まで魔物の類に襲われなかったな。世界を旅するとなると俺達の天敵も出てくるだろうに。」

  

  道すがら狼は虎に問いかけてみた。数多の戦場に立ち、生き残ってきた。そんな自分ですら弱く脆いのか、と。

  そう思わざるを得ない魔物と数度戦ったことがあるが…虎がそんな魔物にもし出会ったら一瞬で粉微塵だろう。

  虎は流れてきていた汗を腕で拭うとまぁ、と頷いた。

  

  「そうですね、何回も襲われそうになりました。」

  

  「…どうやって逃げてきたんだ?」

  

  狼の問いかけに虎は自分の腰につけているポーチから一つの瓶を取り出した。

  入っているのは見るからに禍々しい色をした液体。ともすればオォ…なんていう声すら聞こえてきそうだ。

  

  「これを媒介に自分に呪術をかけて、見た目を彼らより上位の魔物に変えてやり過ごしていました。」

  

  魔物同士の争いはあまり見た事が無い。つまりそれは上位の魔物に逆らう下位の魔物はおらず、同位の魔物同士でも縄張りを決めているからだろう。

  それならば上位の魔物が目の前にいたとしても堂々と抜けられる。

  理論は間違っていない。間違ってはいないが…

  

  「本当か?」

  

  「えぇ。なんでしたら、今やってみましょうか?」

  

  「…あぁ。」

  

  そういえば虎の呪術をまだ見ていない気がする。狼はそんな事を思いながら地面に腰かけた。

  虎は瓶の蓋を取ると、何事かを唱え始めた。

  ヒトの言葉ではない。禍々しい何かを感じる。だが、それなのに柔らかな空気が流れて。

  ヒトそのものの本質、とでも言えばいいのだろうか。虎の本質が、きっとそこにはあるのだろう。

  やがて瓶からもく、と紫色の煙が立ち昇り始めた。それは瞬く間に虎の全身を覆い、包み込んでいく。

  先程までしていた虎の臭いが寸断された。そして煙が徐々に大きさを増していき。

  少しずつ瓶から立ち昇る煙が量を減らすと…

  

  「!?」

  

  紫の煙が消えた先。そこに居るのはドラゴン。

  それもそこいらに居るような下位のドラゴンではない。全てを従え、全てを蹂躙する。

  

  「ま…マスタードラゴン…!?」

  

  「…」

  

  紅色の瞳が鋭く狼を射貫く。心臓がばくんっ、と大きく跳ね、呼吸が自然と速まった。

  それが先程までいた虎だと脳で理解していても、体が動かないのだ。

  何も喋らず。のそり、と虎―マスタードラゴンが一歩動いて。

  

  「…これなら魔物達も手を出してこないんです。」

  

  「あ…あぁ…」

  

  マスタードラゴンの口から出てくる言葉は紛れもなく虎のものだった。

  鋭い瞳がすぐさま柔らかな物に変わっていく。

  

  「とはいえ変えられるのは見た目だけで…もし襲われてたら何も出来ず死んじゃいますけど。」

  

  「そ、そうなのか。分かった、分かったから戻ってくれ。」

  

  「はい。…僕もこの状態でいるの凄く疲れるので…」

  

  こくり、と頷くとマスタードラゴンはしゅるしゅるとその姿を縮ませ…元の虎に戻った。

  確かにあれだけの風貌と威圧なら並大抵…それどころか上位の魔物ですら尻尾を巻いて逃げ出すだろう。

  

  「はぁ…」

  

  虎は大きくため息を吐き、地面に座り込んでしまった。

  

  「す、すいません、ちょ、ちょっと疲れちゃって…」

  

  「呪術ってのはとんでもないな。」

  

  「えぇ。…多少の修業は必要ですが、魔術ほど修行は要りません。特別な力や魔力が無くても使えます。だからこそ、悪用されやすいのですが。」

  

  憂いを帯びた瞳に。狼はほんの少しだけ、彼を信じても良いのではないだろうか。

  そう思い始めた。

  

  [newpage]

  

  

  夜が来る。

  満月が煌々と照らす空。

  

  「はぁ…はぁ…ぁっ…」

  

  狼はベッドに寄りかかりながら悶えるような声を必死に抑え込みながら身をよじらせ、荒く呼吸を吐く。

  ベッドを虎に譲り、自分は床で寝る事に決めた。最初は虎が床で寝る、と言っていたのだが…

  客人にそんな事はさせらせない、と押し切る形で彼をベッドに寝かせた。

  その言葉は半分本物。

  もう半分は嘘。…昨日した行為が忘れられない。体に刻み込まれて。虎の臭いがうっすらと混じったベッドの上では…

  じゅぐじゅぐと液体を大量に零しているスリットを指で弄り回す。

  眠れない。いや、眠れないだけで済めばいい。

  あのベッドの上では、発情しきり、また彼を襲ってしまう。そう確信したのだ。

  だからこうして。虎の規則的な寝息が聞こえるほど深い夜になって。狼は自らの体を慰めていた。

  ベッドの淵に近付くと、虎の臭いがうっすらと漂ってくる。

  遠い記憶として、見たくないものとして蓋をしていた。あの時。あの感覚。抑え込んだ分だけ、大きく膨らんだ。

  昨日の記憶が鮮明によみがえる。肉の感触。雄の味。臭い。全てが体を熱くする。

  

  「ぁぁっ…はぁっ…」

  

  だらだらと唾液が零れ、胸を。腹を。スリットを。太腿を。汚していく。

  スリットに二本目の指を突き入れて、奥にある孔をこりこりと爪の先でひっかくと、それだけで狼は背筋を仰け反らせ震えた。

  ぶちゅん、と卑猥で下品な音が体内で響く。

  欲しい。欲しい。欲しい。

  スリットを埋める肉。スリットを満たす粘液。子種。

  アナルが疼く。そうだ。尻も犯された。尻尾を千切れんばかりに引っ張られ、尻肉を叩かれた。

  芋づる式に記憶が掘り起こされていく。

  その度に心が傷付き、血が溢れるような。そんな錯覚。だけれど、体が、脳が。

  求めてしまう。

  心が悲鳴を上げても。体が止まらない。片手でスリットを弄り、片手で胸を弄り、尻尾でアナルをくすぐる。

  全てが快楽となる。だが、足りない。

  

  「ほしっ…い…や…だっ…」

  

  「どうしました?」

  

  涙が目に溜まった所で。静かな、けれどどこかぞくり、とする声が聞こえる。

  それは眠っていたはずの虎の声。

  体勢を変え、ベッドに視線を移すと…上半身を起こした虎が静かに、じっと。狼を見つめていた。

  見られた。この瞬間、この痴態を。

  どうしようもない後悔と、恥辱。

  心のあげる悲鳴。脳と肉体が期待に震える。

  

  「…来てください。」

  

  虎の声は決して昼間と変わっていない。優しく。暖かく。強制力もない。

  なのに。

  

  「は…い…」

  

  狼の瞳から光が消え失せる。狼はゆっくり立ち上がるとがくがくと腰を震わせながらベッドに倒れこんだ。

  それを虎は受け止め、抱きしめる。

  

  「こんなに卑猥な臭いをさせてしまうなんて、イケない人ですね。私を誘っているんですか?」

  

  違う。そんなはずない。

  否定の言葉は、出てこない。

  

  「…あ…は…い…俺…は…」

  

  雌犬。そう言いかけた言葉は重ねられたマズルで遮られる。

  優しく柔らかで。それなのに、どこか威圧的で、だけれど。

  

  「ぶはっ…スリット、こんなに濡れていますよ。ほら。」

  

  虎のほっそりとした指がスリットを撫で回し。つぷり、と指の腹が侵入する。それだけで。

  

  「~~~ッ!!!!」

  

  狼の目じりが下がる。頬が一気に紅潮し、呼吸が荒くなる。

  欲しくなる。もっと奥まで。もっと熱くて、硬いモノを。捻じ込んで、嬲って、犯して、蹂躙して。

  乳首がぷっくらと膨らみ。

  

  「いいですよ、あげましょう。貴方の為に、私を。」

  

  虎の瞳が、妖しく光る。それは獲物を求め、捉えた、肉食獣の瞳によく似ていた。

  雄の瞳に、よく似ていた。だから。

  

  「あ…あはぁっ…♪」

  

  狼は歓喜に震える。

  いけない事だと。嫌だと否定しても。体は、求めてしまっているのだから。

  脳は、求めてしまっているのだから。

  目の前のいきり立つ雄に奉仕することを。

  自らの雌を慰めてもらう事を。

  気が付けば狼は虎の細い体に舌を這わせていた。毛並みの薄い腹部は雄の味をダイレクトに狼の舌に叩き込む。

  頭を撫でられ、耳の裏をくすぐられると心地よさに狼は尻尾を揺らし、耳を動かした。

  

  「あぶっ、んふぅっ…あっ…んぁっ…」

  

  「つっ…あぁ…気持ちいいです…とてもお上手ですね…ぐっ…」

  

  虎は時折牙を食い縛るような表情を見せながらも、狼の頭を撫で続ける。

  びたんびたんと虎の肉棒が跳ねまわり、狼の腹を叩く。その度に狼は艶っぽい声をあげ、口を開き、びくびくと震える。

  全身を、脳を、心を支配するのは悦び。ただそれだけ。

  目の前の雄が悦び、自分を貪る。それが何よりも心地よく、幸せで。

  

  「…そろそろ、挿入れましょうか?」

  

  虎のその言葉に、狼は耳をぴん、と立てるとこくこくと頷いた。

  

  「はひっ、おちんぽっ、雄マンコにっ、ほしいっ…!」

  

  「では、どうぞ。」

  

  虎は狼の頭から手を離すと脱力したように両手をベッドに戻した。

  自分で動き、自分で挿入しろ、と言う事だろう。狼はベッドの上で膝立ちすると虎の肉棒の根元を掴んだ。

  天を突くそれは今にも破裂しそうなほど熱く、どくん、どくん、と何度も跳ねる。

  頬が緩み、自然と笑い声が漏れてしまう。どんな風に自分は見られているのだろう。

  虎は何もしゃべりはしない。ただ妖しい瞳で狼を見つめる。

  ゾクゾク、ゾクゾクと。快楽が。恍惚が。狼を満たしていく。欲しい。

  空っぽで。塞ぐものを欲しがるスリットに。肉が。

  

  「…はぁっ…はぁぁぁぁぁぁっ♥♥」

  

  ずぬんっ、と虎の肉棒を狼のスリットが受け止める。

  スリットの中を満たす肉の感触は、何度も味わった。屈辱と快楽で脳がぐちゃぐちゃにされそうだった。

  今は、快楽しか感じない。離したくない。虎の肉棒が、鈴口が狼の鈴口と触れ合う。

  稲妻のような。いや、もっと激しい。例えようのない快楽と恍惚が狼の全身を駆け巡っていく。

  口の端から唾液を零し、天を仰いで背筋を仰け反らせる。まだ肉棒が入っただけ。それだけで。

  

  「…ひぃっ…♪おち…んぽぉ…♪」

  

  「…まだ満足していないでしょう?ほうら、こんなにいやらしい汁を零して…」

  

  虎は指を狼のスリットに近付けると、そこから零れる甘い滴を掬い取った。

  ぬるりとした感触。それを腹部に塗り付けられると、狼は涙を流しながら何度も何度も背筋を震わせる。

  

  「さぁ、いいですよ?貴方の好きに…」

  

  あくまで虎は動くつもりはないようだ。ただ狼をじぃっ、と見つめ続ける。

  狼は虎の腹部に両手を置くと…全身を上下に動かし始めた。

  虎の視線に重量があるように。自分をいやらしいと思っているのだろうか。

  そう考えるだけでも狼の頭はどんどんと桃色の思考で満たされていく。もっとはしたない所を。

  そしてその思考は体に降りていく。最初は少々控えめだった上下運動。

  やがてそれは虎と狼の出した先走りが泡立つほどに激しさを増していくようになっていった。

  ずぢゅんっ、ずぢゅんっ!

  

  「お”ひぃ”っ!?ちんぽっ、おちんぽぉぉぉ♥」

  

  だらだらと零れる唾液が狼の胸を濡らし、虎の体にまで降りかかる。

  肉同士がぶつかり合う。スリットの中の肉壁と虎の肉竿が擦れ合い、狼を昂らせる。

  鈴口と鈴口がこつん、と当たると狼は尻尾を千切れんばかりに振りたくる。

  何故今まで我慢出来ていたのか。何故耐えられていたのか。

  

  「ぎもぢっ、ぎもぢぃぃぃぃぃっ!雄マンコぐちゃぐちゃにおかざれてっ、いぎぃぃぃ♪」

  

  形作っていた理性のダムが崩壊する。狼は涙を流し、ただただ喘いだ。

  虎の手がゆっくりと狼の胸に伸び…ほっそりとした指で肥大化した乳首を、胸を。優しく、不慣れな手つきで揉む。

  指の形に胸が変形すると、狼はより一層動きを激しく、淫らなものに変えていく。

  腰を捩じり、竿を締め付けるように。虎の肉棒が少し膨らみ、びくんびくん、と脈動した。

  数多の雄に犯されていた感触。それを思い出した狼には理解出来た。

  

  「ちんぽっ、おちんぽじるっ♥いっぱいっ、全部っ、そそいでぇぇぇぇ♥」

  

  スパートをかけるように。狼は深く腰を落とし、虎の体に抱き着くとスリットの中に納まる肉竿をしっかりと締め付けながら腰を振った。

  そして。

  

  「ぐぅぁぁぁぁ!!」

  

  どぶんっ、どぼぼっ、びゅるるぅぅっ!

  虎は眉をしかめ、そして射精の快楽から遠吠えを上げながら狼のスリットの中へ精液を注ぎ込んでいく。

  その熱に。

  

  「~~っ♥~~~~~~♥♥♥」

  

  狼はただただ口を開け目じりを下げながらスリットの肉壁全てを使い、その精液を味わう。

  甘く、熱く、肉が溶けているのではないかと思うほどに。幸福が全身を、スリットを、脳を、脊髄を。

  全てを蕩けさせていき…やがて狼は気を失うように。

  絶頂の余韻へと溺れていった。

  

  [newpage]

  

  

  目が覚めると。

  綺麗になった全身、ベッド。…しかしスリットを満たす精液がたぽたぽと波打つのが分かる。

  また、やってしまった。

  ベッドから体を起こすと、罪悪感と屈辱。…そして思い出す絶頂の余韻に身を震わせる。

  虎の姿が見えないが、彼はどこへ?そう思った直後。扉が開き。

  

  「お…おはようございます…その…昨日はすみません、でした…」

  

  虎は申し訳なさそうに頭を深く、深く下げた。

  狼には何も言う事が出来ない。…彼が自分を犯していなければ、きっと、自分はまた彼を犯していたのだろうから。

  

  「いや…いい…」

  

  初めて虎を犯した時とは違い、狼は尻尾を縮こまらせ、耳を折りたたみ…少々落ち込んだような様子でなんとか言葉を返した。

  

  「俺の方こそ、すまなかった。」

  

  「そんなことっ、無いです…私の、それと…呪術の、せいです…だから…」

  

  朝の爽やかな空気が、二人の重苦しい雰囲気に漂ってくる。

  いつまでもそうしている訳にもいかず。

  狼は首を一度振るとベッドから立ち上がった。

  

  「少し用を足してくる。…そうしたら朝食にしよう。それで、儀式の材料を集めに行こう。」

  

  「…はい…」

  

  そう言って狼は小屋の外へと出た。

  …心臓が痛いほどに鼓動を打つ。体が火照って仕方が無い。

  虎の声を聞くと、虎の表情を見ていると。傷付いたはずの心がほんの少しだけ癒される。

  初めて彼を見た時、彼の素性を知った時。その時には灯らなかった、湧きたつ感情。

  木々の生い茂る場所まで歩を進めると狼は屈みこむとスリットをぐぱ、と開いた。

  どろりと出てくる精液。いつもよりこの液体が外に出ていく事が、何故か寂しく感じてしまう。

  自分はどうなってしまったんだろう。

  数年ぶりに感じているこの感情は、いったい何なのだろう。

  答えが出ない。…本当に出ていない?

  狼には分からなかった。

  

  [newpage]

  

  「そうだ。」

  

  儀式の素材になりえる薬草を摘みながら、虎ははた、と思い出したように呟くとそれとは違う薬草を摘み始めた。

  くわぁぁ、と大きな欠伸をしながら狼はそれを退屈そうに座り込むと―少しだけ安らいだ気持ちで―眺めている。

  そういえば一人だった時はこんな風にぼう、とすることがあっただろうか。そんな思いが頭をよぎって。

  摘んだ薬草は少し離れた場所にいる狼の鼻にも届くほど良い香りが漂う。

  それを虎は一つ一つ丹念に折り、組み合わせ、輪っかを作っていく。一つの輪っかが出来れば、それにまじないの言葉を紡いで。

  やはりヒトの言葉ではない。しかし、寒気の走るようなものでもない。むしろもう少し聞いていたいような、安心感のある言葉。

  華麗な青を誇る草が、やがてゆっくりと赤みを帯び、うっすらと光り輝き始める。

  それを何度か繰り返して。やがて虎の手に、一つの大きな輪っかが出来上がった。大きな、と言っても虎の手のひらより少し大きい程度。

  下手な宝石よりもそれは美しい光を放ち…虎の体を優しく照らし出す。

  

  「…それも儀式に使うのか?」

  

  満足そうに頷く虎に立ち上がった狼は近付きながら首を傾げる。その言葉に虎は首を横に振り、狼の腕にそっとその輪っかを付けた。

  

  「いいえ。…今、これに人の精神を鎮静させる呪術をかけました。といっても、そこまで強い物ではありません。その…貴方が…えぇと…」

  

  言いかける虎の表情が恥ずかしそうなものに変わり、狼から視線を逸らすと尻尾をいじらしく動かす。

  …そこで狼は気が付いた。早い話、自分が発情して虎を襲わないように。発情した自分にあてられないように。そういった目的と言う事だろう。

  ふむ、と狼は頷き、腕につけられた輪っかを見つめる。

  自分が捕らえられ、この体にされ、犯された時につけられた手錠を狼は思い出してしまったが…

  それとは違う。

  優しく、暖かい。その腕輪を見ていると、心が安らぎ、体から無駄な力が抜けていくようだ。

  それはまるで自分の部屋に、自分のベッドで、穏やかに眠っている時のように。

  

  「そうか。…ありがとう。」

  

  不思議な事に、するすると言葉が出てくる。頬が吊り上がって、嬉しくなる。

  これも、呪術なのだろうか。

  

  「い、いえ!」

  

  狼の柔らかな微笑みと穏やかな言葉に、虎は尻尾をぴんっ、と立て全身の毛並みを逆立てると先程と違う理由で顔を赤くした。

  そんな虎が…

  

  [newpage]

  

  夜を迎えた。

  狼の身に着けた腕輪は、夜になっても僅かに光り輝き、狼の小屋の中を照らしている。月明かりと合わせ、はっきりと自分の体が見えるほどに。

  そして、隣に眠る虎もはっきりと見えるほどに。

  雄の臭いが鼻から脳へと行き渡っているのに、雄が欲しい、という感情が湧いてこない。

  いや、それ以上の感情が。燃え盛るマグマのように。心の奥底から溢れ出してきている。

  向き合い、互いを見つめ合う。

  

  「…だ、大丈夫…です、か?」

  

  目の前にせまる狼のマズルに虎はどぎまぎとしながらふわふわとした言葉を投げ掛ける。

  狼はあぁ、と頷き、虎のマズルに自分のマズルを重ね合わせた。

  唇は交わさない。ただ、マズルをすり合わせる。

  

  「なんだ。その…人恋しくて。誰かとこうやってゆっくり眠るなんて、出来なかったんだ。」

  

  狼は苦笑しながらそう返した。

  それは、嘘を混ぜた言葉。本当は、ただ。

  すりすりと自分の臭いをマーキングするように。

  相手の臭いを自分にマーキングしてもらえるように。

  狼の尻尾が優雅に、ゆるりとゆれた。こんなに穏やかな気持ちになれたのは、本当に、いつぶりだろうか。

  

  「そう、なんですか…」

  

  狼の過去を考えたのだろう。虎は悔しそうに表情を僅かに歪める。

  しかし、狼は穏やかに微笑んだまま虎の頭を撫でた。

  

  「呪術というのは恐ろしいな。…俺の体も心も変わってしまった。」

  

  あぁ、朝に感じていた感情は。

  狼の呟くような言葉に虎は何も言わない。ただ俯き、目じりに涙を溜めるばかりで。

  そんな虎が。

  狼はぽつぽつと言葉を零し続ける。

  

  「こうやって誰かに体を預ける、なんて考えられなかった。それに、自分の気持ちを喋る事なんて、二度とないと思ってた。」

  

  狼のマズルが虎の首筋へと沈んでいく。首筋や肩はほっそりと、折れてしまいそうなほどに細く。

  

  「んっ…」

  

  口づけをおとすと、虎は艶っぽい声を上げた。

  

  「なぁ。俺の事を…抱いてくれないか。」

  

  「えっ…」

  

  この感情が呪術によって造られたものなのか。それとも、本心なのか。今の狼には分からなかった。

  貪りたい訳じゃない。疼く股間を鎮めて欲しい訳じゃない。ただ、彼の存在を自分の中に少しでも刻んで欲しかった。

  

  「…共に居たいんだ。」

  

  出逢って数日も経っていない。それなのに、湧き出てくるこの感情は。

  寂しかったからなのだろうか。どうしようもなくて。欲望よりも切なくて。

  抑えきれなくて。拒絶し、否定し、消し去ろうとすらした彼が。どうしようもなく。

  

  愛おしい。

  

  あぁ、そうだ。この感情の名は。

  虎は無言のままこくり、と頷いた。

  それが狼には嬉しくて。心の中が満ち足りていって。

  狼のつけていた腕輪がはらり、と崩れていく。光が喪われ、月明かりだけが二人を照らす。

  鎮静の呪術が解けた。

  昨日までの自分なら、きっと雄の臭いに耐え切れず彼を貪っていただろう。しかし。

  今はそれ以上に。ただ、それ以上に。

  虎の首筋から顔を上げる。見つめ合って。どちらともなく、マズルを重ねた。

  唇を重ねた。

  舌を絡ませた。

  虎の体温が、狼の舌を蕩けさせる。

  狼の体温が、虎の脳を蕩けさせる。

  互いの呼気が交わされる。

  狼は互いの下半身へと両手を伸ばした。

  片方の手で虎の下着をずらし、肉棒を優しく撫で上げる。

  もう片方の手で自らのスリットを弄る。

  しっとりと濡れたそれはすでに雄を受け入れる体勢が出来ている。しかし、粘液が滴るほどではない。

  そう。必要な分だけ。虎を受け入れられるだけの。それだけの。

  くぱ、と僅かに拡げると雄と雌の臭いが入り混じった臭いが二人の鼻をついた。

  狼の優しく、もどかしい愛撫に、虎の肉棒がむくむくと大きさを増していく。

  体を密着させ、互いの肉を味わう。

  絡ませた舌を離して。狼は虎の首元へマズルを再び埋もれさせた。

  そして丹念に。古傷。生傷。それらを優しく舌の先で舐めた。

  静かな小屋の中。水の音と毛並みが擦れる音だけが部屋を支配する。

  狼の丁寧な奉仕に虎はびくびくと震えながら、はぁはぁと呼吸を僅かに荒げる。

  彼の求めるまま、望むまま。そしてそれが終わると…虎の毛並みはべっとりと狼の唾液で皮膚に張り付いていた。

  艶めかしい。そして、愛おしい。

  言葉では表せない。あぁ、だが。ゆっくりと。狼は仰向けになるべく転がり。

  虎の体を抱き寄せた。そして虎の手を取り、自らの股間へと伸ばさせる。

  くち。

  僅かな水音。虎の指が狼のスリットに触れた。その暖かさと心地よさに。

  

  「「んっ…」」

  

  二人の声が重なった。

  それがなんだか、無性におかしくて、嬉しくて。二人で笑った。

  憎くて。あれだけ元に戻りたいと思ったのに。

  もしこの体で無かったら。自分はどうなっていたのだろう。

  分からない。

  彼を想う気持ちは、本当に呪術ではないと言い切れるのだろうか。

  分からない。

  けれど。

  互いの今浮かべている笑顔。

  それだけは、きっと、本物で。確実に、そこにある。分かる。

  

  「さぁ。」

  

  「…はい。」

  

  狼が導くように。少しだけ足を広げ、股間部を晒す。スリットがくぱ、とひくついて。

  虎は慣れないながらも。狼の股間に腰を近付けると、肉棒の先端をスリットに宛がった。

  そして。

  ゆっくりと。

  ずぬずぬずぬずぬ。

  

  「んぅっ…!」

  

  虎の怒張した肉棒が狼のスリットへ侵入していくと、狼はまるで初めてを奪われた少女のように声をあげた。

  感じるのは快楽。しかし、背徳感は無い。背徳感からくる快楽も無い。

  代わりにくるのは、幸福感。満ち足りた。一人で生きていく。その鎖から、ほんの少しだけ、解き放たれたような。

  

  「つぁっ…あ…はぁっ…」

  

  その与えられる、慣れない幸福感に、狼は押し出すように恍惚の息を吐き出した。

  シーツに押し付けられている尻尾をゆらりと揺らしながら、狼は自分の意志と関係なく虎の腰に脚を絡ませる。

  今までの自分なら恐らく自分を完全になくしたように、雄を貪るために体を使っていた事だろう。

  しかし、今は違う。目の前に迫る虎の顔を、じっくりと見る事が出来る。瞳の奥を見る事が出来る。

  虎の瞳はどこまでも優しい物だった。慈しむような。愛するものを抱くような。そんな優しさにあふれていて。

  狼のスリットの具合がいいのだろう。虎の肉棒がビクビクとスリットの中で暴れまわるのが狼には分かった。

  

  「あ…あぁっ…いいぞ…ゆっくり…慣れて…ふっ…ぅぅっ…」

  

  虎の頭を抱き寄せ、そう囁きながら狼は少々蕩けた顔とそれでも余裕のある表情を浮かべ、虎のマズルに自分のマズルを絡ませる。

  呼吸をゆっくりと整えながら虎は狼の中に深く腰を落とし…そこで動きを止めた。

  動けばそれだけ快楽が叩きつけるように襲ってくるのだ。衝動的に抱かぬよう。虎は呼吸を整え、重ねられたマズルを擦り合わせる。

  耳が痛くなるほどの静けさの中で聞こえるのは互いの鼓動。吐息。

  スリットの中で肉棒はやがて平静さを取り戻すかの如く、だが怒張したまま。狼の中を圧迫し続ける。

  

  「う…ごきま…すよ…」

  

  息も絶え絶えに、虎は囁くと、狼はあぁ、と一言だけ返した。

  それだけで何もかもが繋がったような。そんな感覚。虎はゆっくりと腰を引いていく。

  ずるずると引き出された肉棒は狼の先走りを満遍なく纏い、卑猥に彩られていて…煽情的だ。それなのに。

  狼はふふっ、と嬉しそうに笑う。発情しない。その状態で。彼を感じられるのが嬉しい。

  純粋な喜びが、心を一杯に埋めていく。

  竿の半分ほどまで抜き取ると、虎はまたゆっくり、亀のようにゆっくり。スリットの中へと肉棒を沈めていく。

  沈んでいく肉棒の先端にこつん、と狼の奥深くにある、鈴口が触れると、狼はあっ、と小さな声を上げた。

  虎はゆっくりと腰を回し、そこをぐりぐり抉る。液体が染み出て、スリットの中の潤滑をまた一段と良くしていく。

  

  「あっ…はっ…あぁ…んっ…んぁっ…」

  

  狼は頬を赤らめると恥ずかしそうに体をよじらせ、悶えながら何度も呻くように喘ぎ声をあげた。

  虎が見てきた中でも、一番弱く、一番脆く、一番儚い。そんな狼が。

  

  「…可愛い…です…」

  

  自分でも何を言っているのだろう、と恥ずかしくなって。虎も顔を真っ赤にする。

  彼を救いたいという気持ちは本物だった筈だ。

  そこにこの感情は無かったはずだ。

  命を救われた事に恩情があれど、それ以上はなかった。

  だけど。

  魅了されてしまったのだろうか。それは彼に呪術をかけた者の呪いなのだろうか。

  分からないけれど。

  どうしようもなく彼が。狼が愛おしい。目の前で自分を受け止める、そんな彼が。

  気を抜けばすぐにでも射精してしまいそうなほど狼の中は心地よい。しかし前夜と違い、激しい快楽ではない。

  ゆったりともどかしく、そして湧き上がる幸福感。徐々に大きくなっていく。

  余裕のない表情で。虎は狼の胸に指を這わせた。拙い手つきだろう。それでも。

  狼はその愛撫に、目じりを下げると口の端から耐え切れず唾液を零した。交わしていたマズルに付着しても。

  嫌じゃない。むしろ。

  少しずつ狼の蠢くスリットに慣れてきたのか、虎は腰の動きを少しずつ早めながら狼の胸を撫で続ける。

  マズルを交わし、思い出したように唇を貪り、唾液を交わし、舌を絡ませる。

  胸の溝を一通り撫で回すと山を撫で上げ、山の頂へ。ぷっくらと膨らみ期待に波打つそれをつまむと。

  

  「んぁっ!」

  

  狼は背筋を仰け反らせると大きな声を上げた。

  びんっ、と虎は尻尾を立て、動きを止める。

  

  「だ、大丈夫ですか?い、痛かったですか!?」

  

  「あ…いや…違…気持ち…いい…」

  

  狼は蕩けたような表情でそう千切れそうにか細い声で虎の問いに答えた。

  自分の中の雌を受け入れた。受け入れてしまった。屈辱や恥辱はあっても。

  

  「もっと…優しく…してくれ…ないか…?」

  

  彼から与えられる快楽を享受したい。彼に快楽を与えたい。

  狼が震えあがった時、スリットの中が激しく蠢き、肉棒が脈動したのが分かったのだ。だから。

  虎は唾を飲み込むと狼の乳首を優しくつまみ上げた。狼の腰が震え仰け反る背中。

  汁を大量に溢れさせるスリットと雄穴。牙を食い縛り必死に声を抑えている狼。

  つねるようにぎゅむ、と少しだけ捻ると。

  

  「んあっ、あっ、ぁぁぁぁんぁっ…!」

  

  堪えきれず、狼は牙の隙間から声を漏らした。

  か細く、甲高い声。虎は全てを狼に委ねると…

  腰を少しだけ強く振り始める。我武者羅なその動きは今までの、ただ雄を貪るだけの狼であれば到底満足できるものでは無かっただろう。

  

  「あっ、そっ、こっ…!んんんっ!んぁっ、あぁっ!!」

  

  狼の瞳一杯に映る虎が、必死に。狼の為に体を使っているのが。

  ただただ胸を満たしていく。

  狼の押し殺した喘ぎ声は少しずつ狼の牙を開き、口を開けさせていく。

  

  「んぁっ、あぁっ、はぁっ…んぁぁっ…!んぅふぅっ…!」

  

  虎も少しずつ狼の感じる場所に気が付き始めたのだろう。

  スリットの一部分。そこに亀頭を押し当てたまま抉るように肉棒を押し付け、狼の乳首をつねる。

  マズルは離さない。何があっても。唇を交わす為だけに。

  

  「んぅ…」

  

  「んぁっ…」

  

  水の音が二人の耳を支配する。鼓動が二人の頭を支配する。

  どろどろに溶けて混ざり合ってしまうような。

  昇りつめていく。

  スリットからごぼり、と音を立てて泡立った液体が溢れ出しても。二人は動きを止めない。

  それどころか、虎はより深く、より強く、よりまっすぐ。

  狼の中を射貫いていく。

  狼もより深くへ、虎を受け入れていく。腰に絡めた脚で虎の臀部を器用に撫で回す。

  少しだけ硬い肉球がぷにゅぷにゅと心地よく通り過ぎて。

  ずんっ、ずんっ、とベッドがきしみ。

  互いの肉がぶつかりあう生々しいびたんびたんという音が響く。

  

  「ふぅぅっ…!」

  

  虎は息を深く吐き、射精への欲求を押しとどめる。まだだ。

  まだ終わらせない。終わってはいけない。終わらせたくない。

  しかし。

  狼は、耐え切れなくなった。

  

  「はや…くっ…中に…注いでくれっ…!」

  

  「で…もっ…!くぅぁぁっ…!」

  

  涙を溢す狼。その涙はどこまでも透き通り、純粋な幸福に満たされたもの。まるで、ダイヤモンドのように。

  月明かりに照らされ煌めく。

  

  「頼む…ッ…もう…駄目だぁっ…!」

  

  「ぐっ…あっ…そんな締めたらっ…動かっ…んぁぁっぁ!!」

  

  狼の願いを拒む虎だったが、狼は…堪えきれず。虎の腰を、脚で更に強く絡め…

  自ら腰を僅かに動かした。

  限界を超え、なんとか押し止めていた欲求は。狼によって崩されて。

  

  「ァァァァッ!!」

  

  虎は野生帰りしたかのような遠吠えをすると。

  

  「あぁはぁぁぁぁっ、はぁぁぁっ…!あぁぁぁぁんぁぁっ!!」

  

  それと同時に狼の中へと熱い欲望を注ぎ込み、注ぎ込まれた狼は目をぎゅっ、と瞑り…

  何度も何度も体を跳ねさせ、大きな口を開けた。

  やがてスリットの許容量を大きく超えた二人の精液が狼のスリットから溢れ出していき二人をべっどりと濡らす。

  それが暖かく。

  

  「気持ち…いぃ…」

  

  「あ…あぁ…はぁっ…」

  

  消え去りそうなほど小さな言葉で。囁き合い。

  二人は意識をゆるゆると、心地よい闇に落としていった。

  

  [newpage]

  少しだけ、先の未来。

  

  

  賑やかな街。少し外れた所に。

  小さな、看板の無い店。療養所とも違う。薬屋とも違う。万屋とも違う。

  少しだけ、変わったお店。

  人のよさそうな虎と。

  厳つい、威厳のある狼と。

  寄り添い合う二人に。

  もう一人。とてもまぶしい笑顔を浮かべる、少年。

  呪い《まじない》を。

  彼らに幸あらんことを。

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