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龍狼ファインディング その1

  この聳え立つ木からしたら、きっと俺らの一生なんてほんの瞬間的な物でしかないのだろう。

  それでも、俺達は生きて死ぬのだ。

  だから。

  せめて。

  この一瞬。

  この一瞬が。

  ほんの少しでも、長く、永く。

  続いて欲しいと思う。

  ほんの一瞬でも。

  俺達は。

  

  『龍狼ファインディング』

  

  どうやって俺達は出会ったんだろう。

  正直、全然きっかけは覚えていないんだ。

  ただ、もうずっとこうして。

  俺はじいさんの隣で笑っている。

  灰色の目は、俺の姿を捉えることは出来ない。

  光を映すこともない。

  けれど、凄く澄んでいる。

  「のう、真。」

  「どうした、じいさん。」

  じいさんの優しい声に俺は応える。

  じいさんは一瞬迷ったような表情を浮かべた。

  そして俺の手をそっと握る。

  ごつごつとした、けれど心細い手。

  「…ワシが死んだら、お前はワシのことを忘れて、生きてくれないか?」

  もう自分の死期が近いことを、じいさんはこのとき悟っていたのかもしれない。

  けれど、このときの俺はただそれを笑い飛ばす事しか出来なかった。

  ここで頷いてしまえば、じいさんが本当に居なくなってしまうかもしれない、と。

  そう思ったからだ。

  「何言ってんだよ。俺がじいさんのこと、忘れるわけねぇだろうが。それに、じいさんはまだ全然生きれそうだ。俺が保障してやるよ。」

  「…そうかのう?」

  「そうだよ。むしろ俺より長生きするんじゃねぇの?」

  「ほっほっほ。…それは無理でも、お前の子供の顔ぐらいは見たいのう。」

  「まかせとけよ。彼女いねぇけど。」

  そしてじいさんは俺の頭をやさしく撫でるのだ。

  くしゃくしゃと、くしゃくしゃと。

  

  じいさんから貰ったお守り。中にはじいさんの鱗と髭が入っている。

  龍にとって、とても大切な髭の一部。

  そんなものもらえねぇ、と断ったんだが無理矢理渡されたもの。

  俺はたまにそれを開いては触っている。

  もう体温なんて残っているはずも無いのに、暖かく感じて。

  今日もまた、俺は爺さんのところに行っていた。

  日の当たる縁側で、俺は背伸びをし横になる。

  「なぁ、じいさん。」

  「なんじゃ?」

  じいさんは縁側より部屋の中に居る。

  布団の中で横になり首だけをこちらに向けていた。

  近頃では起き上がるのも難しくなってしまったのだ。

  けれど、まだ生きている。

  生きてくれている。

  「…」

  俺は言葉を詰まらせてしまった。

  じいさんの息子から頼まれた事を言おうとして、いえなくなってしまったのだ。

  もう先が短い事。

  何が起きても不思議じゃないこと。

  じいさんを病院に、入院させたい事。

  本人はとても嫌がっているらしいのだ。

  …俺と逢えなくなるのが。

  一人になるのが、嫌だ、と。

  この年で、病院に入院となれば、退院する事はほぼ無いだろう。

  病気に関する知識が無い俺でも、そんなことはわかる。

  けれど、このままここに居ても、一人で死んでしまうことだってある。

  本人の好きにさせてあげたいとも思う。

  だけど。

  少しでも、ほんの少しでも長生きして欲しいと。

  生きて欲しいと。

  そう思ってしまうのは、わがままなのだろうか。

  本人がこのままで居たい、というのに。

  病院に押し込めて。

  少しでも生きて欲しいからと。

  本人の希望を摘み取って。

  それでも生きて欲しいと。

  そう思うのは、わがままなのだろうか。

  わからない。

  わからなくなってしまった。

  「…じいさん。」

  「だから、どうしたんじゃ?」

  「俺は…じいさん。俺、少しでもじいさんには長く生きて欲しいんだ。」

  「…」

  じいさんは何も言わない。ただ静かに聞いてくれている。

  ぽろぽろと、言葉が。

  俺の拙い言葉が溢れる。

  「だから、じいさんにとってはきついかもしれない。一人にしちまうかもしれない。ボケて、俺のこともわからなくなっちまうかもしれない。けれど、だけど。俺はじいさんに生きて欲しいんだ。」

  「…」

  「俺…俺…酷いやつだよな。ごめんな、じいさん。ごめん…」

  「いいんじゃよ。…お前さんは、本当に優しい子だ。お前さんのおかげで、ワシももう少し、ほんの少し長く生きたいと思ったよ。」

  俺はじいさんのそばにかけよる。

  縁側の光が、遠いのに、眩しくて。

  じいさんの差し出す手をぎゅっと握り締める。

  俺の体温は、伝わるだろうか。

  じいさんの手は、酷く冷たくて。

  俺の体中に生える毛を、全て。

  全てあげても足りないほどに、冷たくて。

  

  清潔な、白を基調とした部屋。

  そこで横になるじいさんの手をぎゅっと握り締めながら。

  俺はなんてことのない話をじいさんにしていた。

  今日の授業はこんなことがあってさ。

  昼はこんなの食ったぜ。

  最近はこんなのが流行ってんだよ。

  じいさんが若い時は、なにしてたんだ?

  そんな、本当になんてことの無い話。

  呼吸を助けるためのマスク。

  体中に繋がれた点滴のコードとケーブル。

  それでも、じいさんは俺の話を聞いて笑ってくれていた。

  たまに喋る事もできるけど、すぐに苦しくなってしまうらしい。

  けれど、それでも。

  じいさんは、生きている。

  

  

  俺のしたことは、罪なのだろうか。

  許されない、大罪なのだろうか。

  本人が苦しいと。

  そう思っていたのに。

  生きていて欲しいという、俺のわがままで。

  その苦しみを与えてしまった。

  きっと、罪なのだろう。

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