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日が落ち始め、部活終わりの高校生たちが帰宅していく頃。サッカー部での今日の活動も終わり、部員たちは部室に戻り始めていた。
「潔~、先戻ってるぞ」
「おう!お疲れ」
潔世一もその中の1人だが、他の部員が部室に戻っていく中、グラウンドに残りボールを眺めていた。そしてもう一度、ゴールに向かってボールを勢いよく蹴った。
「…よし、今日はここまで!帰るか~…」
潔はそう言って、ゴールに入ったボールを取りに行った。ボールを片付けて、部室で着替えて、家へと帰宅する。いつも通りの帰宅ルーティンを、潔は今日も辿ろうとした。
ふと、空を見上げると、うっすらと月が出始めていた。そんな光景に気を取られ、足を止めていたその瞬間だ。
「…っ!!?痛ってぇ!!」
ゴンッ!!と鈍い音をたてて、どこからか降ってきた物体が潔の頭にぶつかった。物体はそのまま2回3回と弾んで、地面を転がっていく。
痛みに悶えつつ潔が物体に目を向けると、それはなんとサッカーボールだった。
驚いて後ろを振り返ると、その時。何か大きな影が柵を飛び越え、グラウンドに降りてきた。潔はそれを思わず二度見した。
降りてきたのは、おそらく他校の制服を着た、1人の少年だったからだ。
「ありゃ?もしかしてぶつかっちゃった!?めんご!」
「………いや、当たったけど…誰?」
到底本気とは思えない謝罪を受けながら、潔は呆然と少年を見つめた。おそらく同い年くらい、しかし妙に幼い雰囲気だ。
「俺?蜂楽廻っていうんだ!君は?」
「え、えっと、俺は潔世一。…ってそうじゃなくて!」
「ん?あ~、ちょっとリフティングしながら帰ってたら、高く蹴りすぎてここに入っちゃった!だから取りに来た!」
不可解な説明をしながら、蜂楽廻と名乗った少年は笑った。…この柵、かなり高いんだけどな。潔はそう思いながらも、ツッコむのはやめておいた。
「それよりさ、君もサッカーやってるの?仲間だねっ♪」
「ああ、まぁ…一応サッカー部だし」
「いいねぇ、ナイスヘディング!」
「いや、お前がぶつけたんだろ…!」
会話が成立しているような、していないような、いつの間にかそんな変な状況になっている。
空から降ってきた謎の少年に潔が振り回されていると、後ろから聞きなれたコーチの声が聞こえてきた。
「おい、部室閉めるから早く来いよー!誰と話してんだー?」
「あっ、やばっ。じゃあまたね、潔!」
「え、おい!…しかもそこから帰んのかよ…」
コーチに見つかる前にと、蜂楽は素早く柵を飛び越えて去ってしまった。しかもボールを持ちながら片手で。あの身体能力は何なんだと、潔は驚いて立ち尽くした。
(変なやつ…)
そう思いながら潔がボールを拾うと、何故かいつもと少し違う感触だった。よく見てみると、そのボールは潔の高校の備品…ではなく、"ばちら めぐる"と手書きで書かれた市販のよくあるサッカーボールだった。
「あいつ…ボール取り違えてんじゃん…!!」
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…そんなことがあってから、翌日の放課後。潔が学校を出た瞬間だった。
「やっほー、潔!待ってたよん♪」
「…なんでいるんだよ!」
学校の前には、なんとサッカーボールを持った蜂楽が潔を待ち伏せしていた。驚く潔に対して、蜂楽は笑顔で駆け寄ってくる。
そして、持っていたサッカーボールを潔に向かって蹴った。
「うおっ、なんだよ急に!って…うちの学校のやつじゃん」
「そ!これ返しに来たの。昨日間違えちゃってさー!」
「ああ、ありがとう…。そういえば俺の方も…これ」
蜂楽が蹴って渡してきたボールは、潔の通う学校の備品だった。昨日取り違えたボールを、わざわざ返しに来てくれたらしい。
そんな潔も返すタイミングを探していた蜂楽のボールを、丁度返すことができた。嬉しそうに笑う蜂楽は、本当に幼い少年のようだ。
「でさ~、君もサッカー好きなんだよね!俺とサッカーしない?」
「え?そりゃ好きだけど、どこで」
「あっちの公園!サッカーボールがあればどこでもサッカーできるでしょ?ほら行こー♪」
「え、おい!」
潔の返事も待たず、蜂楽はボールを蹴りながら公園に向かって走り出した。慌てて潔は蜂楽を追いかけて、結局公園に向かうことになってしまった。
(…ん?)
その時、風で揺れた蜂楽の髪の隙間から、妙なものが見えた気がした。首元に、何か見慣れない模様が見えたような…しかしそれは一瞬のことで、気のせいだろうと潔は首を横に振った。
「ほらっ、ここ広いでしょ〜。じゃあ早速1on1ね!」
「いや、急すぎるだろ…!そもそもどこがゴールなんだ?」
蜂楽を追いかけて着いた公園は、もちろん潔も子供の頃によく行った馴染みのある公園だ。公園には数人の子供や親子がいるが、そこそこ広いからか誰も潔たちのことは気に留めない。蜂楽はボールを地面に置くと、潔の後ろにある木を指差した。
「俺はあの木の枝の間に入れたらゴール。潔は俺の後ろのあの枝の間ね。じゃ、始め!」
「え、…ちょ、おい!」
潔がそんな説明を聞いた直後。蜂楽が瞬時に走り出し、ボールを蹴った。
(はやっ…!?)
状況を理解した潔は、ボールを取ろうと蜂楽の前に出た。しかし、そんな潔の動きを読むように、蜂楽は華麗に躱す。必死に蜂楽の動きを追う潔を見て、蜂楽は楽しそうに笑った。
「いいねぇ君!楽しくなってきた!」
この数秒間の間だけでも、明らかな実力差を潔は感じ取った。何者なんだ、こいつは。しかしそんな状況でこそ、潔はより熱くなる。
(…ここだ!!)
蜂楽の足の動きと、ボールを蹴る方向を見て、その一瞬の隙を突いて潔はボールを奪った。…と思った瞬間、潔の足元のボールを蜂楽が勢いよく蹴り上げた。
「なっ…!」
ボールは潔の頭の上を通り、宙を舞う。その瞬間、潔の視界を影が覆った。
潔の頭の上を、蜂楽が飛び越えてボールを蹴った。意味不明な跳躍力と瞬発力に驚き、潔はただ蜂楽の姿を見上げることしかできない。
その時だった。靴紐の解けた蜂楽の通学靴が片方脱げ、潔は蜂楽の足を間近で見た。その一瞬でもわかるほどの違和感。普通の人間の足とは違う。
「…痛っ!!」
潔の顔に脱げた蜂楽の靴が直撃した時、蜂楽は枝の間に向かってボールを勢いよく蹴った。ボールは枝の間を通り、公園の柵に当たった。
「よーし、1点!…ありゃ、靴脱げた」
「…お前なぁ…」
笑顔で歩いてくる蜂楽に、潔は呆れながらも拾った靴を渡した。…しかし、潔の目線は蜂楽の左足に向かっている。
「…なぁ、その足…」
「ん?あ、言ってなかったっけ?」
「…言ってなかったも何も、俺ら昨日が初対面だろ…」
潔がさりげなく聞くと、蜂楽は何の動揺もせず呑気にそう言った。人間というより、動物に近い見た目をした左足。蜂楽はその足を潔に見せると、無邪気に微笑んだ。
「…俺、ハーフなんだよね。人間と、獣人の」
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