百合ップルだと思ってたのに受けに告られるし、成人するまでプラトニック貫かせられてるのに、キスは先に攻めにするってどういう事ですか〜獣人彼氏の分からsex編〜
「はぁ〜い、配信始まりましたぁ♡」
「おつかれ皆ー。カンパーイ。」
甘い声と淡白な声で始まる生配信。ユユカノチャンネルこと兎の獣人族ユユと人間のカノは、女子高生二人組の動画配信者だ。
ユユがジュースの入ったグラスを気だるげに掲げて乾杯の音頭を取ると、コメント欄が一面グラスを傾け合う絵文字で満たされる。
今日も今日とて配信開始直後だと言うのに、同接はもう四桁である。
なぜこのチャンネルに人がこんなに集まるのか、その理由は二人の関係性にある。
「今日の質問、早速いちゃおーっ。」
「おー。」
「さぁて選ばれし第一問目は〜....これ!ででん!お互いが初めてポッキーゲームをしたのはいつですか?」
「いつだったっけ。気づいたらもうしてたよね。」
「初めてした時とか懐かしー!覚えて無さすぎる!」
あっけらかんとカノはけらけらと笑う。
それに釣られてフフッと歳の割には大人びた笑い方で相方も返答する。
そう。二人は女の子同士でありながら、ポッキーを折らずに最後まで致す仲なのだ。そして、それが日常である。
それ故に、特殊な性的嗜好を持つ視聴者層にウケて今に至る。
二人の仲は入学したての高校でも広まり、今や校内生徒及びファン公認のカップルである。
で、あると思われていた。一名の男子高校生を除いて。
「ギリ間に合った....!今日は質問箱か。」
その男子高校生、ティグは恋人であるカノの生配信をリアルタイムで追う。
「ははっ、かぁーわいっ。....お、過激だなぁ。NG無しかよ。」
次々と質問を捌いてる彼女らの声をどこか遠くで聞きながら呟く。
「俺、てっきりカノはユユと付き合ってると思ってたんだけどなぁ...。」
夜の空気に当てられてティグは感傷にふける。当時の衝撃の告白を思い返しながら。
───それは高校入学して一ヶ月経った頃。
隣のクラスのユユに一人で屋上へ行けと一方的な約束を交わされ、その時間に俺は律儀にそこへと訪れるとカノが居た。なんだかそわそわして、捕食対象の小動物によく似ていて愛らしく、俺の本性が擽られた。
俺、ティグは虎の獣人族だ。ちょっと美味しそうとか思っちゃうのは本能なので、思うだけは許して欲しい。
それにしても何だか甘酸っぱい空気になっていて、こちらまでその熱気に当てられて頬が火照る。
「っぁ、あの....っ!」
先に口火を切ったのはカノだった。
まるで野生で肉食獣に立ち向かうかの如く、その声は震えていて、すっごく食欲がそそられたのはここだけの話。
「ぅ、えっと、来てくれて、ありがとうございます...」
落ち着きなく彷徨う目が、とても愛らしかったのを今でも覚えている。
「あ...いえ...」
でも、高校生になったばかりの思春期真っ只中の俺には、気の利いた言葉など返せる度量も無く、無難な返答しか出来なかった。
目の前に居る女子生徒は、必死に言葉を探しているようで、小声であの...えっと...と呟いている。
そして、覚悟が決まったのか、ぐっと顔を上げて目線を合わせてきた。
決意を固めた彼女の澄み切った瞳に、俺は期待してしまう。そんなこと、絶対にある訳がないのに。
───だって、彼女はユユの恋人だから。
入学当初からまざまざと今まで見せつけられてきた。
周りの皆も認める学校の公認カップルで。
彼女達にとって俺らはモブでしかなくて。
カノに初めて抱いた感情を伝える事も許されず、飲み下すしかなくて。
非情な現実を改めて突きつけられたみたいで、対照的に俺の瞳が絶望でどんどん濁っていくのが分かった。
「ず.....ずっと!」
「......うん。」
何を言われるんだろう。怖いなぁ。知りたくない。高揚した頬を携えて、薄く涙の膜が張ってキラキラとしている目を逸らしてしまいたい。
現実を、突きつけられたくない。
そんな俺の思いなんか届くはずもなく、非情にも目の前の口が開く。
「入学式の時から....初めて見た時から!ずっと好きでした!」
「へ......?」
「つ、つき...付き合ってください!」
ガバッと効果音が着きそうなくらい、勢いよく頭を下げられた。
間抜けな音が口から出た俺はというと、何が何やら状況が分からず、とりあえず彼女の頭を上げさせるにはどうしたらいいのかと焦った。
「えっ、え.....?待って、え、とりあえず顔を上げて...?」
思わず彼女の近くまで駆け寄って、屈んで肩に触れようとした。が、多感なお年頃だ。そう易々と異性に触れてしまって大丈夫なのかと色々考えてしまう。
触れようと伸ばした手が空を彷徨う。
堰を切ったように、彼女はそのまま言葉を続ける。
「もう....もうどうしようもなく好きなんです....!初めて好きになったんです!見るだけでドキドキして、それで...!」
頭を下げた時みたいにまたガバリと彼女は頭を上げる。
何の前触れもなく彼女が頭を勢いよく上げるものだから、その顔の近さに思わず喉が鳴った。
「あっ...」
「......」
「ご、ごめんなさ....ぃ。」
「いや...頭、ぶつからなくてお互い良かったね...」
沸騰しそうな頭でようやく紡ぎ出した言葉のなんと情緒の無さよ。
悲しいかな、異性への経験値の無さに、初めて俺は後悔をした。
ここで女子がときめくような言葉や行動を取れなくて何が男だ。畜生、悔しい。
「好き....」
ぼぅっと俺を見つめる彼女が、思わずポロリと口にでてきてしまった様子で呟く。
しかし、その言葉が信じられなくて、俺は可愛げのない返事をしてしまった。
「...でもお前、ユユと付き合ってるんだろ?」
なんで俺にそんな事を言うの、と続けようとした所で、今度は彼女がぽかんとする番だった。
「えっ...?なんで?なんで私がユユと付き合うの?」
「は?」
「え?」
.....もしかして、もしかすると、そんな淡い期待が胸を高鳴らせる。
やめろ、期待するだけ無駄だ。やめろ、やめてくれ。
それ以上俺が望む言葉を紡がないでくれ。
そんな思いを込めて俺は口を開く。
「だっていつもお互い引っ付いてるし、それに、その....ポッキーゲームやら何やらで、何かと皆の前でキスしてんじゃん。」
「?うん。それがどうかしたの?」
「えっ...!?」
「だってユユとだよ?普通だよ、そんな事。付き合うなんてことは絶対無いよ。ユユは私の家族だもん。」
衝撃的すぎる価値観に触れて俺は開いた口が塞がらなかった。
「っ、じゃあいつもやってる生配信はなんなんだよ!?カップルチャンネルだし、チャンネルの名前も...!」
急いで俺はポケットに手を突っ込んでスマホを取り出すと、つい昨日の過激な百合行為に及んでいる配信のアーカイブのサムネを見せる。
〜【照れたら】アイシテル♡ゲーム【負け】〜
よくある普通のタイトルとサムネ、ただのあの照れ続けるまでかっこ「愛してる」を言い合うゲームだと思うだろう。
だが二人の配信は違う。序盤は何の変哲もなくとも、何でもかんでも徐々に過激化していくのだ。なんと特殊な視聴者には有難い配信だろうか。
「途中から、っ目隠しして後ろから、き、キスされてたり、その...際どい所触り合いっこしてたりしただろ...!?」
あの行為が恋人同士でなくて何なのだろうか。
俺は脳内が半ばパニックになりながら、直接的な言葉を出来るだけ避けて、目の前の彼女に真意を問う。
「えー!昨日のやつ観てくれてたの!ありがとう...!大好きなティグ君に見てもらえてたなんて、嬉しすぎるよ...!」
もう俺には何が何だか分からない。何故、どうして、そんな単純な疑問の単語しか頭に浮かばなかった。
「結局お互い照れなくてタイムオーバーになっちゃって、引き分けになってオチがつかなかったんだよね。恥ずかしいな...」
普段はもっとちゃんと終われてるのになと、カノはぽっと顔を赤くさせながらモジモジしている。
もうここまで来ると俺の脳内はキャパオーバーで、ぽかんと口を開けるしかなかった。
「あの...それで、返事は今じゃなくても良いから、欲しいなー、なんて...。じゃあ...。」
そういってズレた羞恥心からか、逃げようとするカノに、俺は咄嗟にその腕を掴んで引き留めて、何も考えられない頭でこう言った。
「喜んで。」
───今でもこの選択が良かったのかはまだ分からない。
分かっているのは、俺の倫理観に芽生えていた黒い感情が、徐々に輪郭を現して来ている事だけ。