境内には縁日の屋台が並び、祭囃子が鳴り響いていた。
提灯の明かりが薄暗い夏の夜を照らす。町の神社の夏祭りは、陽が沈んでからが本調子だと言いたげに賑わいを見せている。浴衣姿の男女や家族連れは、それぞれ笑顔を浮かべて喧騒を作り出していた。屋台で買ったであろうお面を頭に飾った少年が、俺の隣を駆け抜けてゆく。息子がまだ小さかった頃のことを思い出し、思わず顔が綻ぶ。小さな手を引いて縁日を巡ったあの日が、今ではもう、遥か遠くの記憶に感じられた。
そういえば、祭りに顔を出すのも随分と久しぶりだ。だが、今夜はこの賑やかな縁日に用があるわけではない。
先日、家に届いた一通の手紙。そこには、夏祭りの夜に執り行う神事の対象者になった旨が記されていた。祭りの夜にそんなものがあったことは初耳で、なぜ自分が選ばれたのかもさっぱりわからなかった。とは言え、無下に断るわけにもいかず、疑問を抱いたまま今夜を迎えていた。
「やあ、お待ちしていましたよ」
社務所を訪れると、豚の宮司は朗らかな笑みを浮かべて俺を迎え入れた。案内のままに靴を脱いで上がり、その後をついていく。
「神事というのは、何をすればいいんでしょうか。……そもそもどうして俺が?」
挨拶もそこそこにそう尋ねると、宮司は穏やかな笑みを崩さないままこう返した。
「まずはお風呂に入って、身体を清めてください。こちらへどうぞ」
俺の質問の答えにはなっていない。不満げな表情が伝わってしまったのか、宮司はこう続ける。
「詳しいことは後ほど説明しますよ。ちなみに、あなたが選ばれたのは神様の思し召しです」
「それは、どういう──」
「ま、ただの偶然ですな。言ってしまえばくじ引きですよ」
そう言うと、ふふっと笑い声を上げて、宮司はその場を去っていった。
宮司に案内された先は、民宿にありそうな少し広めの浴室だった。神輿担ぎや奉納相撲など、行事の参加者が使うのだろうか。脱衣所で一人きりになると、外の喧騒や祭囃子が微かに耳に届いた。
お清めと言っていたことを思い出し──何をさせられるのかはさっぱりだが──いつもより入念に身体は洗っておいた。蒸し暑い空気に汗ばんでいたため、ちょうどよかったとも言える。湯船に浸かるかどうかは迷ったが、せっかく用意してくれたのだろう。それを無碍にするのも忍びなく、俺は熱い湯へ足を浸けた。
ふぅと息を落ち着かせると、浴室の扉が開き、湯けむりに大きな影が浮かび上がった。それから、低い声が浴室に響いた。
「どこぞの熊かと思うたら、[[rb:隈造 > くまぞう]]じゃねえか」
「……なんだ、[[rb:寅吉 > とらきち]]か」
寅吉──幼馴染の虎が、そこに立っていた。もともと骨太な体格に加え、加齢とともにでっぷりと出てきた腹のせいで、縞模様の身体はまるで黄色いすいかのようだ。腹の出方に関しては、俺も強く言えないのだが。
「オメェも宮司に呼ばれてきたのか?」
「ああ、何をするかはさっぱりだが」
身体を流すのもそこそこに、寅吉は湯舟へ勢いよく足を踏み入れてきた。跳ねた水しぶきが顔にぶつかり、顔を顰める。がさつなところは昔から変わっていない。
寅吉と俺は、乳飲み子だったころからの付き合いだ。近所に生まれ、離れないまま、共に育ってきた。互いにこの町を出ることもなく、家庭を築いてからもその付き合いは続いている。腐れ縁と言った方がいいのかもしれない。
「祭りに来るのも久しぶりじゃの」
「そうだな、俺も子供が小さかったころ以来だよ」
「お前はこういう神事があること、知ってたか?」
「まさか。ガキの頃から祭りにゃ来とるが、ワシも知らんかったわ」
どうやら今夜執り行われるであろう神事の内容は、寅吉も知らないらしい。
「滝行でもさせられるんじゃろうか」
「この辺には滝なんてないだろ」
「知っとるわバカ。冗談じゃ」
俺と寅吉は、互いにさっぱり事情が掴めないといった様子で、はてと首を傾げた。まあ、いくら考えても答えは出ないだろう。身体の芯がほどよく温まってきた頃合いで、俺たちは風呂から上がった。
脱衣所に戻って身体を乾かしていると、宮司が何やら布を抱えてやって来た。
「こちらに着替えてくださいね」
そう言って、俺と寅吉にそれを手渡してくる。神事用の服なのだろうか。広げただけでは着方がさっぱりわからなかったので、宮司に教わりながら、用意されたそれに袖を通していく。
「……巫女服?」
鏡に映るのは、白い襦袢に朱色の袴を身につけた……熊と虎のおっさん。俺たちは、紛うことなき巫女装束にその身を包んでいた。スカートのようになっている袴は、やたらと空気を通して股が落ち着かない。宮司の指示で下着を身につけていないため、余計にそう感じる。いよいよもって、何をさせられるのだろうかという不安が胸のうちを埋め尽くしていった。
「がっはっは! 似合わんのう!」
「お前には言われたくない」
対する寅吉は、不安など微塵も感じていないのか、指をさして笑ってくる。あらゆるところ──特に腹──がぱつんぱつんに張っているその姿は、出来の悪い仮装のようだった。まあ、それはお互い様なのだが。
着付けを終えた俺たちは、宮司の案内で本殿へと足を踏み入れた。御神体が祀られているであろう空間は、行灯の揺らめく光が仄かに闇を照らしていた。鼻を突くのは、重く漂う甘ったるい香り。嗅いだことのない匂いは、何か特別な香でも焚いているのだろうか。外とは違い、どこかひんやりとした空気が被毛を撫でる。
あまりにも非日常な雰囲気に、俺は思わず身体を硬くした。隣に立つ寅吉もそれは同じようで、珍しく強張った表情を浮かべていた。
宮司は俺たちを座らせると、盃に入った酒を飲ませた。それから俺たちの前に座り、何やらお経──神社だから祝詞か──を上げ始める。
一定のリズムで唱えられる言葉と、甘ったるい匂い、それに染みてきた酒。闇の中に身体が溶けてしまいそうな感覚に陥り、腹に力を入れて耐える。完全に、この雰囲気に俺は呑まれてしまっていた。
「さて、あなたたちがすべきことはあの中に入っています」
祝詞を上げ終えた宮司は、こちらへ振り向くとそう言った。どうやら、今のは前準備に過ぎなかったらしい。
その手のさす先に視線をやると、古めかしい小さな木箱がぽつんと置かれていた。暗がりの中で分かりづらいが、その下に敷かれているのは布団だろうか。……既に、嫌な予感で頭の中が埋め尽くされている。
「では私はこれで」
伝えるべきことは全て口にしたとでも言いたげに、宮司はその場を足早に立ち去った。残された俺と寅吉は、木箱の前にあぐらをかき、どうしたものかと顔を見合わせる。
「……まあ、箱を開けないことには始まらないか」
そう呟き、俺は意を決して木箱の蓋を持ち上げた。
中に入っていたのは、小さな巻物と、白い紙の包み。巻物の方に何をするかが記されているのだろうと思い、それをほどいていく。神事とは何をするのだろうか、不安とともに若干の好奇心も湧きつつ、俺はその内容に目を通していく。だが、その巻物の内容を理解した瞬間、俺は唖然とした。
──端的に言えば、巫女装束に身を包んだ男同士でまぐわえと記されていた。
思考が追いつかず、手が止まる。わけがわからない。ここの神様は一体何を考えているのだ、と文句を言いたくなる。冗談にしてはタチが悪いな、と寅吉に笑いかけようとすると──
「……仕方ないのぅ、さっさと済ませるぞ隈造」
「はぁ!?」
投げられた予想外の言葉に、声が裏返る。
「なんじゃ、大きな声を出しおって」
寅吉は、うるさいと言う風に耳を塞ぎ、こう続けた。
「ワシだってしたくはないが、神様の前で罰当たりなことはできんじゃろう」
そう言うと、寅吉は俺の後ろに腰を下ろして、強く抱きしめてきた。襦袢越しに、巨体の熱気が伝わってくる。驚いて引き剥がそうとするも、腹へがっしりと回された腕は太く、抜け出すことは叶わなかった。それから、柔らかい腹の下で、明らかに硬い何か──推測しなくてもわかる──が背中へ押し付けられていることに気が付く。
「っ……おい! なんで硬くしてるんだ!」
「母ちゃんとはしばらくご無沙汰だからよぉ……仕方ないじゃろ」
慌てふためく俺の耳元で、寅吉は囁くようにそう言った。
「それに、この匂いのせいじゃろうか……身体が火照って仕方ないわい」
首筋にかかる鼻息と、鼓膜を震わせるその低音に、胸が締め付けられる。
回されていた腕が動き出し、腹や胸をまさぐってきた。その感覚に俺の身体も火照ってくる。こいつほどではないが、俺もこの匂いと酒のせいでどうにかなっているようだ。
次の瞬間、寅吉は袴のスリットに手を差し込み、俺のものをぐいと握ってきた。思いのほかひんやりとしているその手に、俺は身体をびくりと震わせる。
「バ、バカ野郎! 何触ってるんだ!」
「へへ、オメェだって半勃ちじゃねぇか。ワシと一緒でご無沙汰なんじゃろう?」
その手を掴んで止めようとするも、こいつは気にせずと言った様子で俺のものを扱いてくる。寅吉の言葉通り、確かに妻とはもう何年もしていなかった。この歳になると、一人で処理するほどの欲もあまり湧かない。誰かに触れられること自体が久しく、そのせいで反応してしまった。そう、それだけなのだと俺は思い込む。
俺の反応に呼応するように、背中へ当たる感触もその大きさを増していく。寅吉は腰をへこへこと動かして、袴越しに雄のシンボルを擦り付けてくる。女を抱くときは、こうしているのだろうか。想像してしまい、目をぎゅっと瞑る。
「それにしても、相手が隈造でよかったのぅ」
腰の動きを止め、寅吉はそう言った。その言葉の意図が知りたくて、俺は訊ねる。
「ど、どういう意味だ」
「ほれ、拾ったエロ本見ながら一緒にセンズリこいたじゃろ? 見せ合った仲じゃ」
「……何十年前の話だよ」
寅吉の言葉に、学生時代の──大きな声では言えないような──思い出が、色鮮やかに脳裏に浮かぶ。河原で拾った、薄汚れた成人向け雑誌。寅吉は大喜びでそれを持ち帰り、我慢できないと俺の目の前でことを始めた。誘われるままに、俺も一緒に。我ながら馬鹿なことをしたものだと笑みが浮かぶ。だが、あのときの俺は、本の内容ではなく、隣で快楽に耽る寅吉の姿に興奮を覚えていた。
──そうだ。俺は、こいつのことが好きだった。
隣にはいつも寅吉の姿があって、気が付けば、その姿を追いかける俺がいた。
だが、それは叶わぬ想いだと知り、俺は青春の中にその想いを置いてきた……はずだった。
どうやら、捨てたものだと信じていた想いは、胸の奥深くに鍵をかけて眠っていただけらしい。
……妻のことは、もちろん愛している。嘘偽りなく、心から。
だが、今こうして胸に湧き上がる感情に目を瞑ることが、どうしてもできなかった。
「ああ、もう……身体を離せ。お前のも触ってやるから」
俺は寅吉の腕を掴み、そう口にする。
これは神事で、身体を重ねるのは仕方のないことなのだ。神様が望んでいるのだから、俺たちはそれに応える他ないのだ。いくら言い訳を重ねても、罪が消えるわけではない。それでも、この想いを正当化するには、いくら理由があっても足りないように思えた。
「へへ、乗り気になってきたじゃねぇか……」
目の前の虎は、俺の想いなど知らないようで、舌なめずりをしながら口元を歪めている。その挑発的な表情に、どうしようもなく興奮を覚えてしまう。
膝立ちになって向き合う。視線を下にやると、互いに袴の一部が持ち上がっており、山を作っていた。よく見れば、その頂点は色が濃くなっている。朱色の布の下は、透明な粘液で湿っているのだろう。
俺たちは正面から抱擁を交わした。でっぷりと突き出た腹がぶつかり、若干の息苦しさを覚える。寅吉の背中に両腕を回すと、汗ばんでいるのかしっとりとした感触が伝わってきた。同時に、腹の下で、袴を盛り上げている箇所が触れ合った。そこを擦り合わせるように、寅吉は腰を動かしてくる。俺のものも濡れていて、布地に先端が擦れる感覚に吐息が漏れた。
先ほどと同じように、寅吉は袴のスリットから手を差し込み、俺のものに触れてきた。それに倣って、俺も寅吉のそこに手を差し込む。蒸して湿った空気の中で、ひときわ熱いものに手が触れた。鼓動が高鳴り、音が遠くなっていく。鼻息が荒くなっていないか、不安になってしまう。
身体に比べるといささか小ぶりで、ずんぐりとした形の寅吉のものをそっと握る。片腕で抱きしめる身体が少し震え、それと同時に、手に握るものもぴくりと脈打った。十分に硬くなっているそれは濡れていて、ゆっくりと扱くと粘っこい水音が聞こえてくるようだった。
寅吉は、俺の背中に回していた腕を離すと、襦袢に滑り込ませて胸を弄ってきた。その指先が突起に触れ、思わず甘い声が漏れてしまいそうになるのを必死に抑える。
「お、おい、どこ触って……っ」
「乳には違いねぇからな、揉んでも減るもんじゃないしええじゃろう?」
がははと笑いながら、寅吉は卑猥な手付きで刺激を加えてくる。悔しいが上手いその動きに、俺のものは硬さを増していく。続けられる愛撫で全身は敏感になっており、首筋にかかる寅吉の吐息ですら、快感となってしまっていた。
されるがままでいることに腹が立ち、俺も寅吉の襦袢に手を差し込む。白い被毛は想像していたよりも柔らかく、手のひらを優しく包んだ。筋肉で意外と張りがあるその膨らみを優しく揉むと、寅吉の鼻息が荒くなるのがわかった。被毛に隠れた突起を指の腹で撫でると、抑えきれない声が漏れ出すのも。してやった、と嬉しくなり、俺は刺激を加える手の動きを続ける。
縞模様の長い尻尾が、視界の端でゆらゆらと揺れている。それは快感の波を表しているようで、吐息とともにぴんと張った。どうされると具合が良いのか、一目瞭然でわかりやすい。
欲望のままに身体を弄り合い、二人分の吐息が薄闇に溶けていく。耳を澄ますと、遠くから祭囃子が聞こえてきた。時折、祭りを訪れた町民の笑い声がそれに交じる。そのうちの誰も、本殿で俺たちが情事に耽っているなど想像していないだろう。
行灯の揺らめく光に照らされる寅吉の顔は、快感に口元が歪み、必死に声を押し殺している。こんな表情を浮かべるのだと、初めて知った。こんなことがなければ、一生知り得ることのなかった幼馴染の姿。
「寅吉……」
好きだ、と漏れてしまいそうになる口を、ぎゅっと噤む。その一線だけは超えてならないと、必死で自制する。
しばらくして、寅吉は俺の腕を掴んで扱くのを止めさせた。手に握る寅吉のものはこれ以上ないほどに張り詰めていて、今にも精を吐き出してしまいそうだった。
「っ……イキそうか?」
俺がそう訊ねると、寅吉は──達しそうなのは事実だろうに──首を横に振り、こう続けた。
「ん、いや……『まぐわう』とはどこまでを言うんじゃろうか」
「……は?」
「ほれ、あの巻物に絵が描いてあったじゃろ? あれに倣うべきなんじゃろうか」
荒い息を整えながら、寅吉はそう言った。巻物の絵、それは言うなれば子作りをしているような様子が描かれていた。……つまり、直接的な物言いをするのであれば、挿入しなければならないのだろうか。そう寅吉は言いたいのだろう。
「それは──」
そこで、木箱の中に入っていた白い包みを思い出す。身体を離し、その包みを開く。浮かび上がる筒状の形から大体の想像はついていたが、中身はローションのボトルだった。
「……そういうこと、なんだろうな」
「ん、んむ……」
寅吉も、さすがにそれは気が引けるのかバツが悪そうに目を逸らした。
別に、誰が見ているわけでもない。そこまでの行為をしなくても、何の問題もないだろう。俺はそこまで信心深いわけでもない。だが寅吉は、どうするべきか思い悩んでいるように見えた。『神様の前で罰当たりなことはできん』とは言っていたが、意外と本心からの言葉だったのかもしれない。
「……はぁ、俺が抱かれてやるよ」
気が付けば、そんな言葉を口にしていた。寅吉に気を遣っているわけではなく、俺が俺の欲望を満たすための言葉だった。
「えっ……い、いいのか?」
目の前の虎は、ぱっと表情を明るくしてそう言った。こちらの想いなど知る由もないその様子に、胸が痛む。
「……お前のなら、すんなり挿入りそうだしな」
「あぁ!? 喧嘩売っとるんか!? ワシの方がでかいじゃろうが!」
罪悪感を薄れさせるために冗談で投げた言葉だったが、寅吉はムキになった。袴をたくし上げ、いきり立つものを鼻息荒く見せつけられる。まじまじと見たのはあのとき以来だが、控えめに言っても俺の方が大きいのは事実だ。
「じゃあお前が入れられる側でいいな」
「ぐぅ……! い、いや、ワシの方がデカいからオメェを気持ちよくさせられる!」
必死で主張する寅吉をいなしながら、ローションを指に塗る。さすがに慣らさないで挿入するのは無理だろう。粘度の高い液体に包まれた指を、尻にあてがう。常温とはいえ、ひんやりとした感触に、きゅっとそこが締まった。……あいつのものの大きさを考えれば、指の二本くらいが入れば十分だろうか。口にしたら怒られそうな言葉は喉元で止めておいた。
袴を下ろしてもよかったのだが、絵に倣うのであれば着衣のままでするのが正しいのだろう。……正しい、とはいったい何だろうか。男同士、巫女装束を着てまぐわう時点で正しいやり方も何もない気がする。神様の考えていることは、全くもって理解が及ばない。
「……お前もちゃんと塗っておけよ」
「お、おう……」
ボトルを手渡すと、寅吉は恐る恐るといった様子でそれを受け取った。袴をたくし上げ、ローションを自分のものに塗り広げていく。時間をおいて少し萎えていたものが、また天井を向き始めているのが見えた。
指二本は意外とすんなり入り、特に痛みや苦しさもなかった。後ろを弄るのは初めてだが、なんとかなるものだなと胸を撫で下ろす。
布団の上に仰向けになり、俺は脚を上げて股を開いた。まるで赤ん坊のおむつを替える時のような体勢だな、と思う。寅吉は足元で膝立ちになり、俺の両足を掴んで支えてくれた。
「んぅむ、まさかこの歳になって、幼馴染のケツをまじまじ見ることになるとはなぁ」
「ぶん殴られたいか」
こちらから望んだこととはいえ、恥ずかしい格好には変わりない。雰囲気をぶち壊すその言葉に腹が立ち、俺は寅吉を睨む。
「ま、優しく抱いてやるから安心しろ」
「……言い方が気色悪いが、頼むぞ」
寅吉の大きな身体がこちらへ倒れ込んできて、ローションで湿った場所に、いきり立つものの先端が触れた。顔を上げても、袴に覆われていてそれは見えない。寅吉のものは、火傷してしまうのではないだろうかと思うほどに熱く、身体に力が入ってしまう。
「……挿入れるぞ」
緊張した面持ちで寅吉はそう言った。俺はその目を見て頷く。
触れ合う箇所に体重がかけられるのがわかり、俺は可能な限り力を抜いて身を任せる。つぷ、という音が聞こえた気がした。熱いものが肉を押しのけて、俺の中に入ってくる。歯を食いしばっても、漏れ出る声は我慢できなかった。
「っ……ぐ、あ……っ」
寅吉の動きが止まり、付け根の盛り上がった肉が尻に押し付けられる感覚を覚えた。どうやら、根元まで挿入ったらしい。思ったよりも痛みはなかったが、その異物感に顔が歪む。
「だ、大丈夫かっ……?」
俺の顔の横に手を付き、覗き込みながら寅吉は声をかけてきた。こいつも締め付けがきついのか、少し辛そうな表情を浮かべている。だが、大丈夫だと伝えると、安心したように顔を綻ばせた。
「へへっ……俺ん中はどうだ?」
「ん、んむ……気持ちいいぞ……」
冗談めかして投げた問いかけに、目の前の虎は照れ臭そうに笑った。その表情と、俺の身体でこいつが快感を得ているという事実に、下腹部がじんわりと熱を帯びる。
「……慣れてきたから、動いていいぞ」
俺がそう言うと、寅吉はこくりと頷き、ゆっくりと腰を動かした。熱いものが引き抜かれる感覚に、呻くような声が漏れる。水音が響き、俺の中に寅吉のものが入っては出ていく。
気持ちいいのかと問われると、首を横に振る以外にない。だが、寅吉と繋がっているという事実が、俺の胸を喜びで埋めていく。
俺の上で、寅吉は腰を振っている。腹と胸が揺れ、その谷間に行灯の光が影を落とす。荒い息を吐きながらぎゅっと目を瞑っていて、その口元はだらしなく半開きになっている。
ずっと、この時間が続いてくれればいい。幼馴染の虎に抱かれながら、俺はそんなことを思った。だが、それは叶わない願いだ。
寅吉の動きが止まり、薄目で俺を見つめてきた。がさつな普段からは想像もできないその表情は不意打ちで、腹の奥が疼く。出そうか、と訊ねると、寅吉は無言で頷いた。
「……なら、さっさと済ませろ」
まだダメだ、などと言えるはずもなく、俺は寅吉にそう言い放つ。だが、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「……いや、まだこうしていたい」
「お、おい……なんでそんなこと言うんだよ」
「……抱いていると、可愛く見えてきてのう……」
狼狽える俺に覆い被さり、寅吉は耳元でそう囁いてきた。生温い吐息とともに低い声が耳を撫で、頭が痺れた。身体がびくりと震え、締め付けるように力が入る。
「っはぁ!? 変なことを言うな! さっさとイけ!」
それを誤魔化すように、俺は声を荒げる。
「す、すまんすまん。冗談じゃ。怒らせたなら謝る」
顔を上げた寅吉は悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。冗談、という言葉は棘のように胸を刺す。
「……こうしてお前と二人で話すのは、久しぶりだと思うての」
一転して神妙な表情を浮かべて、寅吉はそう続けた。ころころと変わる顔は、昔から変わらない。ただ、今日は知らない顔ばかり見せられている。
「……ああ、俺も、そう思うよ」
無性に切なくなり、視界が滲む。そんな表情を見せたくなくて、俺は目を瞑った。すると、寅吉は俺の頬に手を添えてきた。何事かと思って目を開くと、眼前に迫る寅吉と視線がぶつかった。
鼻先が触れ合い、口の中に、寅吉の舌が入ってくる。ざらざらとした感触が、敏感な内側を撫で回す。俺の中に、幼馴染の味が広がっていく。拒むことなど、できるわけがなかった。
「……煙草臭いな」
照れ隠しについた悪態を、寅吉は笑って受け流した。それに釣られて、思わず口元が綻ぶ。
「イっていいか……?」
再び覆い被さってきた寅吉は、耳元でそう囁いてくる。俺は寅吉の背中に両腕を回し、大きく頷いた。それを確認した寅吉は、わかったと言った風に腰を上げる。それが勢いよく振り下ろされ、水音とともに寅吉のものが俺の中を侵してくる。
中を擦られる感覚に、声を抑えられなかった。寅吉もそれは同じようで、腰を動かすたびに、呻くような喘ぎ声が響く。
──神様、どうか今だけは、目の前のこいつを愛することを赦してほしい。
寅吉を抱きしめる両腕に力を込めて、俺はそう願った。
「っ……隈造っ、イくぞ……っ!」
ひときわ強く腰が振り下ろされ、寅吉は俺の頭をぎゅっと胸に抱えた。石鹸と汗が混じった匂いに包まれる。それと同時に、熱いものが中に注ぎ込まれる感覚が身体に広がった。抱きしめる大きな身体は、何度も震え、その度に俺を侵すものが脈打つ。
「寅吉っ、寅吉っ──」
幼馴染の名前を呼び、下腹部を満たしていく精を受け止める。その一滴も溢さないように。寅吉のものが中で小さくなるまで、俺は抱きしめる腕を離さなかった。
身体を流して外に出ると、祭囃子は止んでいた。
賑やかだった縁日は、屋台の骨組みを残すのみで、境内は静寂に包まれている。提灯の明かりは消え、俺と寅吉は月明かりに照らされる。
「しかし、こんな神事とはのぉ……。そりゃ誰も知らんわい」
巫女装束ではなく、少しよれたシャツと短パン姿の寅吉は、呆れたようにそう言った。気まずさは残っているはずだが、寅吉なりの気遣いだろう。いつも通りの様子で俺に接してくる。だから俺も、何事もなかったかのように振る舞えた。
「はは、誰にも言えないだろ」
「んむ、つまりワシらだけの秘密じゃ」
寅吉はそう言うと、少年のような笑みを俺に投げかける。
虫の音に包まれて歩く田舎道は、どこか懐かしい匂いに満たされていた。
<了>