1話 男の娘になってするコトと言えば

  頭の中を人差し指で小刻みに刺激されているかのような意地の悪い鈍痛と、喉が渇きで張り付くような違和感を覚えて目を覚ました頃には、日はすっかり登っていた。

  酒の飲み過ぎ。

  昨日は何軒かハシゴしたような気がするが、3軒目からの記憶があやふやだ。

  フラつく身体を起こして、俺はなんとか立ち上がる。

  足がまるで棒になったみたいだし、酔いのせいか見慣れた狭い部屋までいつもより大きく見える。

  頭痛が酷いし気持ち悪い。

  だけど水でも飲めば多少マシになるだろう。

  何しろ頭も胃も吐き気で一杯だ。

  きっと俺の体は、何度酒をかっくらっても慣れることのない体質なんだろうと思いながらノロノロとした歩調で洗面所へと向かう。

  「あー……。あ゛っー…………っ」

  喉の調子か耳までおかしくなったのか、やけに甲高い掠れた声が自分の口から漏れた。

  顔洗って髭剃って、あと水をコップいっぱいくらい飲めばスッキリするはずだ。

  そうしたら昼前までゆっくり寝よう。

  そう考えていた時だった。

  俺は、水垢まみれの鏡に映った自分を見て思わず顔をしかめた。

  何故なら見知らぬ女の顔がそこにあったからだ。

  いや、女と言い切るにはまだ未成熟な子供のそれみたいな。

  「ん〜〜〜??」

  誰なんだ。

  この鏡に写った人物は。

  やけにブカブカに感じる自分のサイズの合わない服に包まれた小柄な身体。

  目は切れ長だけれどぱっちりしていて、全体的にほっそりとしていてまだ成長途中であることを感じさせる手足。

  見覚えはないのだが何故か懐かしく思えるほどよく知っていると感じるその姿。

  そうだ、生まれつきの癖っ毛だけはそのままな気がするけど、散髪に行きたくなるくらいには長くて。

  ただ一つわかる事はさっきから妙に甲高く掠れる声で鳴く少女?は間違いなく今の俺であることだけだ。

  「いやぁ……。えぇ……」

  全身を隈なく探してみたが何度確かめても結果は同じだ。

  (マジかよこれ……)

  女にでもなってしまったと言うのだろうか。

  それならばと恐る恐る股間に手を伸ばすと確かな感触がある事に安堵するも束の間、血液がさして集まってもないのに、小さな手で掴んでも指と指がくっつかない太さのモノに驚いて飛び退いてしまった。

  「ひぃっ……!」

  履きっぱなしだったボクサーパンツから逃げ出すように隙間から突き出たそれは紛れもなく男性の象徴であり、今ここで少しだけ膨れているのは俺の意思とは無関係な反応を示していた。

  「本当にどうなってるん……だ?」

  ふと、鏡の中の自分に目線を戻すと、そこには不自然なくらい見目麗しい姿があった。

  思わず手を伸ばしてみるが当然の如くその手は何も触れない。

  だが鏡の中では確かに俺の手が『その子』の顔をそっと撫でていた。

  視点だっていつもよりずっと、というか遥かに低い。

  子供の頃、この洗面台とのもどかしい距離感に不自由を感じてあまり歯磨きが好きではなかったことを今になって思い出す。

  平均身長ギリギリなのが数少ない取り柄だったというのに、これは一体どうしたものか。

  それに髭の一本もない綺麗なお肌。

  ツルツルで吸い付くように柔らかであった。

  現実逃避するようにその柔らかさを存分に楽しんでいると、急にドアノブがガチャガチャと音を立てて回り出して、思わず跳ね上がってしまう。

  そして間髪入れずに扉が勢いよく開かれる。

  まずかった。

  俺の部屋はいつも鍵なんて掛けてないし、それを知ってる友人は当たり前のように不法侵入してくる。

  別にそれ自体は今更気にする間柄でもないのだが、今は違う。

  この状態で奴と出くわそうものなら面倒なことになるのは明らかだ。

  非常事態に頭の中の警報と二日酔いの頭痛が共鳴して酷い焦燥感が生まれ、心臓が早鐘を打ち始める。

  「中山、まだ寝てるのか?」

  最悪のタイミングで一番入ってきて欲しくない奴が入ってきた。

  竹中努。

  筋骨隆々でゴリゴリの、マッチョ野郎である。

  悪い奴じゃないし寧ろいい奴ではあるが単純、今俺が置かれている状況を誰かに聞かれでもすれば、事細かく言う事間違い無しだ。

  幸か不幸か、奴は風呂場には目もくれずリビング兼寝室の方へと歩き出したらしいので今のうちに逃げてしまおう、そう思うがブカブカのシャツにパンイチだけという姿が妙に心細くて、俺はその場で右往左往してしまう。

  特にパンツから脱走した都市伝説のリカちゃんはマジでまずい。

  この膝下まである彼Tでも隠しきれるか不安になる。

  「……居ない。トイレか」

  俺の姿が見当たらないとわかると急に声のトーンが下がり、ブツクサ文句を言いながらこちらの方へ向かってくる。

  まずいまずい。

  見つかりでもしたら終わりだ。

  俺の平穏な生活が脅かされてしまう。

  そう思って浴槽に身を潜めようとした、その時だった。

  キイという音を立てて扉が開かれる。

  マズイマズイマズイ。

  なんとか身を隠そうとなんの遮蔽物もない風呂場で悪あがきをするもそんな些細な抵抗は意味をなさなかった。

  「中山、風呂場に居るならそう言え……っ!?」

  風呂場の扉を開けた竹中努が固まる。

  そりゃそうだろう。

  こんな物語性すら感じる存在と目があったら男だって固まる。

  「誰だ……?」

  マッチョ野郎はそんな定番過ぎる言葉をなんとか絞り出すと風呂場へ一歩踏み込む。

  ああ、終わった。

  俺は何もかも終わってしまったんだ。

  しかしそんな諦観の思いも束の間。

  「お前……」

  マッチョ野郎は俺の顔を見るなり眉間に手を当てて何かを考え込み始めた。

  なんなんだ。

  俺になにかついてでもいるのか?

  いや付いてるけど。必死に内またになって隠そうと努力はしていた。

  そんな疑問と恐怖を抱く俺を置き去りにしばしの間思考の海に浸った後、マッチョ野郎はようやく口を開いた。

  「……中山か」

  俺はその事実を飲み込むまでにしばらく時間を要したものの、なぜだか本能的に頷く事を躊躇ってしまう。

  なんで普段から馬鹿みたいな事しかしないコイツがこんな時に限って異常な知性と勘の良さを見せ付けるのか。

  そう訝しみながらも諦めも込めて、俺は恐る恐る頷いた。

  「……なんで分かったんだ……?」

  背丈なんてうんと縮んでるし、髪も伸びていて風呂場の鏡に映るその姿はむしろ女のそれだ。

  しかも股間からはあり得ないサイズの男性器をぶら下げていて、明らかに異常。

  なのにどうしてこの竹中という大男は俺の事を中山と断定できるのだろうか?

  「分かるも何も……そのシャツもパンツも昨日お前が着ていたやつだ」

  そう言ってマッチョ野郎が指差したのは水色のボーダー柄をしたブカブカのシャツと黒いボクサーパンツ。

  それは確かに昨日から俺が着ていたものだ。

  (なんでパンツまで把握してんだよ)

  「朝起きたらこんなんなってて……。なんなんだよこれ……」

  深く考えると変な気分になってきそうなので、敢えて自分の悲痛な叫びで思考を隅に追いやる。

  「中山、お前なにも覚えてないのか」

  「なんだ?なんだよそれ……」

  本当に何も思い出せないと訴えるような目付きでマッチョ野郎を見つめると、その大男はため息をひとつ吐いてこう言った。

  「二日酔いが酷そうだな。味噌汁作ってやる。今はとりあえず風呂に入れ。出たら飯食って話しをしよう」

  ☆☆☆

  あの後俺、中山幸(なかやま こう)は言われるがままに風呂場に湯を溜めると、汗と疲労で冷えた身体を温めるように浴槽に浸かっていた。

  小さくなった身体には賃貸の狭い浴槽は少し快適で、そのまま頭まで潜る。

  息の続く限り全身を湯の中に沈めて、一分とちょっと。

  苦しくなった所で上げてみても、頭の中がすっきりした気は全くしなくて、むしろ先ほど竹中に言われた言葉が頭の中でぐるぐると回り続けて頭痛がする。

  (何も覚えてないのかって……。皆目見当もつかねえよ)

  掬い上げた腕についた水滴はきめ細やかな肌の上で球になって、ツウと滑って湯船の海に落ちていった。

  まるで生まれ変わったみたいだな、などとどうでもいいことを考える。

  小さくなった肩幅。

  腕はか細く、手の平はふわふわと柔らかい。

  細い指は滑らかで、爪なんて丸くて磨いたかのように輝いていて。

  おそらくまだ一日も経たないはずなのに、全てがおかしくて笑いそうになる。

  昨日まではこんな身体じゃなかったのに。

  いや、今も男の身体ではあるからちょっと言い方がおかしいのは分かっているけども。

  しばらく湯に浸かった後、湯船から上がり石鹸で肌を洗う。

  髪質はずいぶん良くなったけれど、相変わらず癖のある天然パーマは羊かなにかみたいで溜息が出る。

  よく見れば、股間のアレは手首より極太だと言うのに、皮を少し被ったままなのは以前と変わらない。

  まるで地面を走る石油のパイプラインを思わせる太い血管が走った肉棒。

  勃起させたらどうなるだろうかと無体もない考えが浮かぶけれど、竹中にそんなところ見られたらそれこそおしまいだから、楽しみはあとで取っておこうと慎重に洗う。

  しかしこのタマの大きさもどういう事だろう。

  まるで雄ヤギのようなピンクのそれが負けじと存在感を放っている。

  持ち上げる、なんて表現を自分の身体で味わう事などないかと思っていたが、これは確かにそう言わざるを得ない。

  ずっしりとした重量感に指が勝手に沈み込んでしまうほどだ。

  下手に抑えずに歩いたら、色々ぶつかり合ってしまいそうでひやひやするくらい。

  まるで手榴弾か何かだ。

  今までもそうだったが、これからはより一層大事にしよう。

  そう思いながら泡を流水で洗い落としていくと、多少さっぱりした気分にもなった。

  バスタオルで全身を拭きながら、乾燥を終えて暫くそのままだった洗濯ものから適当な服を着込もうとする。

  が、結局どれも合わなかったので、彼Tにまったく窮屈なパンツになんとかXXLサイズのモンスターを押し込む。

  多分しばらくはこれが俺の正装だろう。

  風呂場の扉を開けると食欲をそそる味噌汁の香りが台所から漂い、マッチョ野郎がフライパンで何かを焼いているようだった。

  「竹中あ。上がったぞ〜」

  サイズの完全に合わなくなったぶかぶかのシャツが歩く度にずり落ちてきてしまうので、それを片手で押さえながら俺が台所に立つ大男にそう声を掛けると、その巨漢は俺の方を一度チラリを見てからそのままこう言った。

  「テーブル、綺麗にしといてくれ」

  なんだか少し不機嫌な竹中の背中を眺めながら食卓の上を台拭きで拭いていると味噌汁と目玉焼きとウインナー、適当に残っていた漬物。そして白飯が運ばれてくる。

  「ほら、食え」

  いつの間にか冷凍庫に入っていたシジミを解凍した味噌汁。

  本当に二日酔いに効くのかは微妙なラインだが、なんだか気を利かせて作ってくれただけで嬉しいような気がして一口飲んでみる。

  「うん、旨い……」

  「ん」

  俺の家に勝手に出たり入ったりする失礼な奴だけど、冷蔵庫には知らぬ間に何かと食材やら酒が買い足されている。

  竹中は料理を作るのが好きなのか、こうして簡単なものだが朝飯や晩飯を作ってくれることがままあった。

  二日酔いで食を受け付けないかと思っていた身体は、味噌汁のおかげかちゃんと食欲を感じてくれて目の前の料理に手をつけ始める。

  ウインナーは塩味と油でご飯が進むし目玉焼きの黄身は半熟で白身のカリッと感とマッチしてて旨い。

  シジミの味噌汁も絶妙に出汁が効いていて思わず一口啜る度にほっとため息をこぼしてしまうほどだ。

  「満足したか?」

  対面に座るマッチョ野郎が箸を進めながらそう聞いてくるので素直に頷く。

  異様に発達した筋肉にそぐわない繊細な箸使いに感心していると、向こうもちょうど食べ終わったのかご馳走様と呟いて食器を片しに行った。

  流し場で皿を泡立てながらも感じるチラチラとした視線にこそばゆい心地がする。

  なんとなく見られたくない気持ちになって顔を伏せていると、竹中も同じ事を考えていたのか言葉を濁しながらこう言った。

  「服のサイズ合うの、ないのか」

  胸元までずり落ちてしまったシャツに視線を落とすとやたらに存在を主張するぴんとたった二つの突起が目に入り、そのシルエットに妙な違和感を覚えた俺は慌てて裾を引っ張って隠すも無駄な抵抗だった。

  これは朝食を食べていた時もずっとそうだったのだろう、シャツと先端が擦れて変な声が出かけるのを堪えた。

  「なっ……ないと思う……っ。パンツはむしろキツい」

  股間の存在感たっぷりのブツが擦れないように少しだけ内股に、前屈みになって答える。なぜだか身長は小さくなって痩せたくらいに思えるこの肉体は、下半身に全てが凝縮でもされたというのか、尻肉まで量感たっぷりで、ボクサーパンツなのに尻の割れ目が半分以上見えてたりしてなんだか収まりが悪い。

  「俺の服だともっと合わない。あとで家から妹のお古を持って来る」

  「妹のって……。俺は男だっての。そんな変態みたいな格好したくねえっての」

  竹中の妹、名前は陽菜。

  たしか今年で中学生3年になるって言ってたっけ。

  顔も知ってるし何度か会ったこともある。

  こいつは酒が入るとすぐ妹の自慢を始めるから要らない情報まで入ってきてしまうから余計、生々しくて。

  その妹さんのお古なんて着ていたら変なプレイでもしているみたいになってしまうだろう。

  そんな羞恥プレイは御免被る。

  「下はキツイかも知れないが大体背格好は同じくらいだし、スウェットみたいなズボンとシャツなら大丈夫だろう」

  「でもよ……」

  「下着は自分のに決まってるだろ。嫌なら買いに行け。その格好で外うろつかれたらこっちがたまったもんじゃないから持ってくるんだ」

  「うっ……」

  それを言われてしまうとぐうの音も出ない。

  「お、お願いします……」

  ちょうど皿を洗い終えて、蛇口を捻って水を止め、マッチョ野郎にぺこりと頭を下げて懇願する。

  「その前に昨日の反省会といくか」

  「そ、そうだな。もしかしたら何か元に戻れる方法が見つかるかも知れねえし」

  そうと決まれば善は急げだとばかりに俺は昨日の出来事を思い返しながら色々と曖昧な記憶を整理する。

  「えーっとお……昨日は……」

  夏休みなのもあって、その日も大学の友人達と飲みに行ったのは間違いない。

  一軒目は生ビールに焼き鳥、串カツが旨くてだいぶ調子に乗った気がする。

  二軒目は安くて美味くてしこたま飲めるイタリアンのファミレス。

  ワインもボトルで赤も白も空けて、つまみのピザも食いまくってたっけ。

  「このタイミングで他の奴らは帰った気が……する」

  確かそこからは竹中とサシ飲みになった、それは間違いない。

  竹中の行きつけらしいバーに移動して……それからの記憶は曖昧だ。

  「俺も飲ませすぎたのがダメだった」

  そう言って竹中は小さな身体をさらに縮こまらせて小さくなる俺に、謝罪をこぼした。

  「や、もういいんだけどよ……。やっぱり覚えてねえってだけだし……」

  とりあえずお開きにするかと店を後にして、駅に向かう最中に……そうだ。

  「締めにラーメンが食いたいって俺が言ったんだ。その日は飲んだ割にけっこう気分が良くって、それで……」

  ラーメン屋を前にしたのはいいものの、深夜までフル稼働だったのだろう。

  グリストラップからする油臭い匂いに顔をしかめて、けっきょくラーメン屋には立ち寄らずに帰ろうとしたんだっけ。

  「で、そのあと……。なんだっけ?そのあと、確か……」

  そこまで言うと俺は言葉を止めて黙りこくった。

  何故だろう、そこから記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっている。

  ラーメン屋に行ってないでそのまま帰ったのだとして、この身体の原因は一体……。

  「す、すまん……覚えてない……」

  「そうか」

  竹中は素っ気なくそう答えると、さっさと立ち上がりキッチンへ向かい水の入ったコップを二つ持ってくる。

  そしてそのうちのひとつを俺に渡して、ゆっくりと口を開いた。

  「……その後な、お前が気持ちが悪いっていうもんだから公園のトイレにでも連れて行こうとしたんだが……」

  「お、おう」

  俺がもう一杯水を喉に流し込むのを待って、竹中はまたゆっくりと話し出す。

  「露店と言った方がいいだろうか、道端に怪しげな店が出ていてな。いつもだったらそのまま素通りするところなんだが、その時のお前は何かに憑かれたようにふらふらとそっちに近づいていったんだ」

  「う、うん……それで……?」

  俺はまるきりそこらへんの記憶が抜け落ちているせいで先が読めず、冷や汗をかきながら話の続きを催促する。

  「真夏なのにローブみたいなのを頭まで被っていたが、肌の白さは目立っていた。露店の店主は陽菜と同じ位に見えて、俺はお前を止めるかその子に夜も遅いから早く家に帰るように促すか迷った。ただ……」

  そこまで言うと竹中は少しの間を置く。

  何か言いにくいことでもあったのだろうかと、俺が身構えていると、意を決した様子で続きを口にした。

  「ローブからちらりと見えた制服が、陽菜の学校の制服に似ていた」

  「は!?」

  思わず俺は大きな声をあげて立ち上がる。

  そして竹中の次の言葉を待つ。

  「俺も酔っていたし、気のせいで済まそうかと思った。でもな、陽菜が前に学校の話をしていた事をふと思い出してしまった。『魔女みたいな風貌で、頼めばたいていの事は叶えてくれる同級生の子が居る』と。嫌な予感がしてお前を止めようとしたその時……」

  「ど、どうなったんだ……?」

  俺の動揺をよそに竹中はこう続けた。

  「お前は露店の店主と泥酔した様子で少し会話した後、小さな瓶の蓋を開けて匂いを嗅いだ後で……俺が止める間もなく一気に飲み干した」

  嫌な予感がする。

  いや、予感じゃない。俺は知ってる。だってそれは……。

  「今の俺のこれは……その時飲んだ薬のせいって事なのか?え、マジ!?」

  「うるさい」

  そう言って竹中は俺の言葉を遮ると、淡々と続きを話し始める。

  「慌てて俺が駆け寄ってお前をひっつかんで店主に謝った。粗相をしませんでしたかとか、そんなような事をな。そうしたら……」

  ごくりと自分が喉を鳴らす音が嫌に大きく響いた気がした。

  「そしたら、その店主はこう言った」

  ごほんと竹中が咳払いをして、喋り始めた。

  『あ~、酔い止めじゃないって言ったのにい……そのお兄さん。困るなあ……。けっこうスペシャルな代物なのにい……』

  『あ、あの。これはどういう薬?なんで……?』

  『ん~……。……ちょっとお特殊なお薬なんですう……』

  迫真の演技だった。

  抜けた記憶の中でさえそんな口調の人物が居たのではないかと思ってしまうくらいに。

  こいつの隠れた才能かもしれない。

  そこまで言うと竹中はそれより先を言葉にするのを少し躊躇ったように口を噤んでしまう。

  「早く言えよっ!」

  と俺が急かすと、竹中は覚悟を決めたようにこう言った。

  「……惚れ薬」

  「……はい?」

  言葉の意味が理解できずに俺は素っ頓狂な声をあげた。

  竹中はそんな俺の様子を見て、少し呆れたように溜息をつく。

  「だから惚れ薬だ。その店主が言うにはな」

  「ほ、惚れ薬?え?なんで……」

  「だから俺に聞かれても分かるわけないだろ」

  竹中は珍しく怒りっぽく言うと俺を睨みつけた。

  確かにそうだ、悪いのは飲んだ俺であって竹中ではない。

  俺は半分混乱した頭でぼんやりと考える。

  (えっと……つまり今のこの身体の原因は惚れ薬の……。いやでもそんな事ってあるのだろうか)

  「……ごめん」

  「謝るな、余計に悲しくなる」

  「……そ、そうだよな」

  俺は改めて自分の掌を見つめながら、なにか特徴はないかとしげしげと見つめる。

  なにもない。ただひたすら綺麗な指だった。

  「一万円」

  「は?」

  唐突に竹中がそう呟いたので、俺は顔を上げる。

  「惚れ薬の瓶一本の値段だ。俺はそのおジャ魔女に言い値で払う羽目になった」

  「そ、そうなんだ……」

  思ってたより高くて、大学生には少し……いや、かなり痛い金額だ。

  竹中の懐事情はよく知らないけれど、俺の為にぽんと出してくれたのか。

  「えっと……じゃ、じゃあさ。俺に出来る事なら何でもするぜ?バイト代入るのまだだしよ……」

  こんな事ならもっと日雇いのバイトに行っておけば良かった。

  遊び過ぎ。

  夏休みも始まったばかりと言うのに心許無い財布事情に辟易とさせられる。

  俺がそう言うと竹中は大仰に溜息をひとつ、俺の小さな肩に手を置いてこう言った。

  「……まあ、その借りは置いておいて、俺は家に戻って陽菜の要らない服を貰ってくる。多分大丈夫だろう、しばらく待ってろ」

  「お、おう」

  竹中の手は大きくとてもがっしりとしていて、自分の肩なんてすっぽり覆われていた。

  俺が頷くと竹中は荷物を掴んで立ち上がると、玄関の方にずかずか向かっていく。

  「あ、待って」

  俺が慌てて竹中の後を追おうとすると、竹中はドアノブを握ったままこちらを振り返った。

  「なんだよ」

  俺は少し迷いながらもこう口にする。

  「あのさ……今の俺ってどういう感じに見えてる?」

  さっき見た自分の姿が思い出されて不安に駆られる。

  今でも、というか先ほどの話のせいで余計実感が乏しいのだ。

  遅くはない、すぐにでも夢だと気が付いた方が絶対にいい。

  「あー……」

  竹中は唸ると、少し困ったような表情をして言葉を濁した。

  そして、はっきりとは答えなかったものの、俺の不安を煽るような事を言う。

  「言い難いが、あれだ」

  「?」

  竹中は俺に背を向けたままこう呟いた。

  「可愛い」

  「なっ……!」

  そしてそのままドアを開けると、そそくさと部屋を出て行ってしまった。

  (何なんだ!一体……)

  俺は洗面所に向かうと、再び洗面台の鏡を覗き込む。

  そこに映し出された自分の姿はあまりにも幼い子供のようで、我ながら驚きを隠せない。

  手も足も小さいし、顔立ちだって丸顔になってて違う生き物みたいに見える。

  唇だって小ぶりなのにぷっくりとしていて、まるで綺麗なさくらんぼのようだ。

  そんな顔がたった四文字の形容詞で真っ赤に上気して、頬がぴくぴくと小刻みに揺れる。

  「これじゃあまるで……」

  その先の言葉を言いかけて口をつぐむ。

  代わりに溜息をひとつこぼすと、竹中が帰ってくるまでふて寝をする事にした。

  あいつが家まで帰ってくるまで、おそらく一時間ちょっと。

  「オナニーでもして、気ぃ紛らわそ……」

  俺はそう呟いて、太腿にもたれかかった慣れないソレに手を伸ばす。

  先っぽに触れると糸を引く粘液がべったりと指にまとわりついたのを感じて、身震いした。

  ☆☆☆

  このからだになってはじめての記念すべき行為なのだ。

  俺は慣れた手つきでぱんつを膝まで下ろすと、既に甘く息づき始めている肉棒にそっと指を這わせた。

  まだ完全に勃ちあがってすらないというのに、その先端は包皮からわずかに顔を覗かせてはしたない液体をこぼしている。

  「はっ、あ……あっ」

  おぼつかない手つきは、初めてその行為に挑戦した時を思い出させた。

  心臓がどくどくと必死に動いて、血液をそこに送り込んでいるのがはっきりと感じられる。

  血管が浮き出て、鼓動にあわせてぴくんぴくんと震えるそれはやけにグロテスクで、でもどこか愛らしい。

  「ふあっ……んっ」

  竿の真ん中を優しく両の掌で包み込んで、ゆっくりと上下に動かすと、その快感はすぐさま脳へと伝播して目の前が真っ白になる。

  俺はたまらず目を閉じて夢中で手を動かし続けた。

  自分のものを両手を使って大きく扱くなんて信じられもしないことなのに、それがまるで当たり前のように感じられる。

  「ふうっ……んっ……」

  扱き上げるスピードが早くなっていくにつれ、だんだん身体が火照って汗がにじんできた。

  脳内麻薬が溢れだして、腰骨のあたりがじんわり痺れるようにむずむずする。

  そして次の瞬間には快感が波のように押し寄せて、ついに完全な形を持った雄の器官が硬く反り返る、筈だった。

  「い゛っ!?」

  突如として全身を駆け巡る痛みに、俺は慌てて手を離して目を開けた。

  「あ……あっ……?」

  歪なまでに巨大な生殖器を守る筈の包皮が、まるできつ過ぎて首元が閉まりかけたシャツのように亀頭を締め上げ、その緊縛に抵抗しようと慌てて膨張したそこがさらにそれを締め上げて……。

  「い、いだっ……だずげっ……」

  痛みを堪えようと思い切り股間を押さえつけると、ますますその痛みが酷くなって涙が滲む。

  「はあ゛っ……んぐっ……」

  あまりの激痛に口からは獣のような声がでた。

  早く何とかしなくちゃいけないのに、痛くて痛くてそれどころじゃない。

  すぐさまこの激痛から解放されたいのに、この身体のバカ!

  なんとか痛みから逃れるために萎えそうなイメージを必死に頭の中で思い浮かべる。

  早く、早く……。

  よし、竹中だ。

  竹中のあの筋肉塗れの腕や脚をイメージするんだ。

  俺は目をつむって必死に竹中の事を思い出す。

  暑苦しい筋肉ダルマの顔、腕、腹……顔は爽やかなんだよなあ……。

  (って、それじゃ俺変態じゃねえか!)

  なんとか理性で欲望を抑え込んで、俺は深呼吸を数回繰り返した。

  「ふうっ……ふうっ……」

  多少痛みが和らいだものの、未だぎちぎちに締め付けられたままのそこを指で触ってみると、先端は真っ赤に充血して腫れぼったく膨張しているのが分かる。

  一応、意識すれば大丈夫みたいだけれど、少しでも気を抜いたらまた同じ痛みに襲われると思うと怖くて触れなかった。

  「無理ぃ……絶対無理だ」

  俺は椅子にもたれかかるようにぐったりと項垂れる。

  「これじゃあ……」

  (オナニーすらできないじゃねえか)

  しかも竹中に助けて貰ったようなものだ。

  「なんで竹中の事ばっか考えてんだろ……」

  痛みに涙が頬を濡らす。

  それでも性欲というのは恐ろしいもので、甘勃起したペニスはまだまだ満足しきれていないと訴えるかのようにひくひくと別の生き物みたいに蠢いていた。

  「き、気持ち悪っ……!」

  大丈夫、これはただの生理現象だ。だから時間が経てば収まる……筈。

  (ってあれ?)

  そこでふと気が付いたのだが、今の俺の身体は全身が敏感になっていた。

  肌を撫でるだけでぞくぞくとした感覚が背筋を駆け上ってくるし、乳首はシャツが少し擦れただけで腰が砕ける。

  俺はそんな自分の身体の感覚の変化に恐怖を覚え始めていた。

  「だ、だめだっ……早く何とかしないと……」

  ペニスは勃起させないように、でも性欲は解消するには、と俺の脳裏にひとつの案が浮かび上がる。

  シャツを脱ぎ捨てて、胸の先端を見てみれば、その突起は充血して硬く膨れ上がっていた。

  「俺、男なのに……なんでこんな……」

  大きめの乳輪に粟立つような感触を覚えて、指でそっと撫で回してみる。

  「んひっ!」

  電流のような快感が、背中を駆け抜けていって俺は身体を仰け反らせた。

  (こ、これ……すっげえ気持ちいい……)

  調子に乗って片方の乳首だけをくにくにと弄りまわしていると、もう片方の胸が切なくなってくる。

  これではまるで性器が3つに増えたかのような感覚だ。

  「ひうっ!?」

  少し強めにつまんだだけで、目の前に火花が散るような快感が脳天まで駆け上がった。

  (こ、これ……好きかも)

  俺はもうすっかり乳首に夢中になり、夢中でその行為を続けていた。

  人差し指と親指で摘みながらくりくりとこねると、ペニスがひくりと痙攣して我慢汁をどろりと放出したのが分かる。

  「ふわっ……はんっ……」

  まずいまずい、また勃起しそうになっている。

  竹中、竹中……。

  俺は頭の中で必死に竹中の姿を思い起こす。

  デカい背筋の隆起、血管の浮いた筋張った二の腕、厚い胸板、太い首……。

  すると暴れ出しそうな龍がゆっくりとその力を収めて、だんだんと大人しくなっていく。

  「んっ……はあっ」

  よし、股間はなんとかなりつつも、性感が高ぶるのは止まらない。

  俺は必死に乳首だけを人差し指と親指で弄り回す。

  (こんなところ、竹中に見られたらどうしよう)

  「んうっ……!」

  ぞくりとした快感が背筋を駆け上ってくる。

  (もしも竹中に乳首を引っ張られたら……)

  そんな事を考えるだけで、もう我慢の限界だった。

  「んああっ……な、なんでっ……!」

  また勃起しそうになるが、なんとか俺はそれを堪える。

  (違う違う……そういうんじゃない)

  必死に理性を保とうとするが、身体の方はもうその気になってしまっているのか、竹中の姿を思い浮かべるだけでどくどくと血管が脈打っていた。

  「だ、だめ……」

  下半身はもう自分の意思ではどうにもできない程に熱を帯び始めている。

  椅子から立ち上がって、ひょこひょこ歩きでベッドに近づくと、俺はそこに倒れ込んだ。

  「ああ……」

  ひんやりとした布団に包まると、それだけで妙な安心感が全身を包む。

  (気持ちいい……)

  でも身体が火照ってしまって眠れない。

  熱っぽいし、乳首はじんじんするしで、なんだかふわふわした気持ちだ。

  乳首を引っ張れば、

  竹中の事を思い出して萎えそうになるけど、それもどこか寂しくて……。

  俺は布団に包まったまま、無意識のうちに太ももをすり合わせていた。

  「ん……はあ……」

  気持ちいい、でもやっぱりイケない。

  (まだ乳首触りたい……)

  だめだめ。そんなはしたないことしちゃだめだ!って頭では分かっているのに、身体は言うことを聞いてくれない。

  まるで誰かの手が操っているみたいに、俺の手はゆっくりと胸を触り始める。

  「あっ……」

  もどかしい刺激が胸を包んで、思わず声が出てしまう。

  なんだかさっきよりも感じやすい気がする……。

  俺は夢中になって胸の先っぽをこねくり回した。

  「んうっ……」

  気持ちいい……。

  でも物足りない。

  「はっ……あっ……」

  少し強めにつまんだり、爪を立ててぐりぐりと押し込むようにすると、それだけで身体がびくびくと痙攣してしまう。

  それでも俺は手を休めなかった。

  「あっ……ああっ!」

  だめだ、こんなんじゃ全然満足できない!もっと気持ちよくなりたいっ!

  (胸だけじゃ足りない……)

  先ほどから気がかりだったのは、乳首を刺激すると腰の奥、会陰部の裏のあたりがきゅんきゅんと疼いてしまう事だ。

  無意識のうちに俺はその箇所に指先を滑らせていた。

  (うう……気持ちいいけど……)

  なんだかちょっと物足りないような、そんな気がする。

  肛門括約筋をキュッと閉めたり緩めたりしながら、俺はそのもどかしさに身体をくねらせる。

  「ふーっ……ふーっ……」

  俺は意を決して指先を会陰部にあてがうと、そこをほぐすようにゆっくりと揉んだ。

  (男なのに……俺女みたいじゃん……)

  理性ではそう思っても、身体の疼きは止まってくれない。

  「んはっ……」

  片方の手で乳首を愛撫しながら、もう片方の手でぐりぐりと会陰部を刺激する。

  「んっ……はぁ……ぁ……」

  優しく、決して痛くしないように注意しながらゆっくりと刺激していくと、なんだかとっても心地が良い。

  (これやばいかも……)

  あまりの気持ち良さに、俺は夢中になってその行為に没頭した。

  まあつまり俺が外から刺激しているのは肛門の中の前立腺なわけで。

  必死になってケツのあなを開け閉めしたり腰を揺すったりしているうちに、なんだかお尻の奥がむず痒いような、そんな感覚が湧いてくる。

  「んうっ……」

  俺は暑苦しくなって布団を押しのけると、股を大きく開いて、片方の手で会陰を刺激しながら、もう片方の手でそっとアナルに指をあてがった。

  ぷっくりと膨れ上がった肛門の皺に人差し指で触れて、つつ……となぞる。

  「ひゃっ……!」

  その瞬間、びりびりと背筋を電流のような快感が駆け巡った。

  出口だけでこんなに気持ち良いんだったら、中なんてもうどうしようもないかもしれない。

  指をつっこんで直接前立腺をいじくりでもしたら……。

  そんな事を想像するだけで、もう肛門がひくひくと痙攣し始めて止まらなかった。

  (うう……こんなんじゃ俺、マジでホモみたいじゃんか)

  そう、男としてそればっかりは……。

  だからこうして女の子みたいに股の間のちんことアナルの間をいじらしく刺激したりして。

  「はあ……ああ……」

  頭がちかちかして、前立腺のあたりが大きく収縮するのを指で感じる度に、俺は自分が本当に女になっていっているような錯覚に陥る。

  「やだ……俺、男だっ……」

  でももう限界だった。

  身体はどんどんと熱を帯びていくし、顔は涙や鼻水でぐちゃぐちゃだ。

  また自分の精一杯のオスの部分が鎌首をもたげそうになるのを、竹中を夢想して必死に抑え込む。

  「竹中……たけなかっ……」

  俺は泣きそうな声でそう呟きながら、乳首、会陰、括約筋の開閉、竹中と大忙しの身体を必死に総動員して、欲求を発散しようと躍起になる。

  「くっ……あ……」

  しかしもうあと一歩のところで絶頂に手が届かない。

  足の指先までも伸ばしてピアノ奏者の指のようにピンと伸ばして、全神経を集中して乳首をこねくり回し、会陰部を揉みしだく。

  びくびくと打ち震える肉棒の先端からは壊れた蛇口のようにカウパー腺液が流れ出して、ベッドのシーツを濡らしていた。

  「竹中っ……」

  俺は縋るような気持ちで、頭の中にいる竹中に呼び掛ける。

  (俺……もうだめ……)

  朦朧とした意識の中、俺はとうとう理性を手放した。

  (だめだって分かってるのに……)

  お尻の穴が勝手にくぱくぱと口を開いては閉じているのが分かる。

  会陰からそっと指が離れて、つつと下に移動していき、アナルの皺の一本一本を、丁寧に優しくなぞっていく。

  そしてそのままくぱあと左右に押し広げるようにすると、そこからとろりとした液体が溢れ出た。

  (あ……なんか濡れてる)

  俺は無意識のうちに腰を浮かせて、肛門から腸液を分泌させていたのだ。

  (俺……男なのに女みたいになってきてるんだ……)

  そう思った途端、なんとも言えない背徳感が全身を襲う。

  それと同時にアナルがきゅうっと収縮して、熱い何かがこみ上げてくるのを感じた。

  人差し指がついにそこに触れる。

  (ひくひくしてる……)

  触れただけで、アナルは何かを受け入れるようにひくりと動いた。

  そうして人差し指をゆっくりと挿入していくと、肛門括約筋が迎え入れるかのように収縮して指の根元までぐっぽりと咥え込む。

  「んうっ!」

  腸壁が指に絡みついてくる感覚に背筋が震える。

  熱くぬめった肉壁がぐいぐいと指を締め付けてくるのだ。

  でも、そこじゃない。入り口近く、自分が股を開いて一番気持ち良いところ、そこへとぐいぐい押し込んでいく。

  「あっ……ああっ!」

  一際強い快感が脳天を突き抜けてきて、目の前が真っ白になった。

  (ここっ……ここが良いっ……!)

  俺は夢中になって指を動かした。

  アナルの入り口付近にある性感帯を指で押し込むように刺激すると、まるで電流が流れたみたいに身体が痙攣する。

  (あ、これすごいっ……)

  あまりの快感に目がちかちかとして、意識を失いそうになる。

  全身から汗がぶわっと吹き出し、顔は涙やら鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。

  「あふっ……んうっ……!」

  しかしそれでも手の動きは止まらない。むしろどんどん激しさを増していく。

  (もっと欲しいっ……)

  俺は空いていた左手で乳首を刺激することも忘れない。

  こねくり回したり、引っ張ったりする度に、まるで電撃のような刺激が下半身へと伝わっていく。

  「お゛っ……」

  もう声を我慢する余裕もなかった。

  快楽に身を任せ、ただひたすらに絶頂へと向かっていく。

  「んふっ……お゛っ……」

  指で抉る度に、脳天を直撃する快楽も強くなっていく。

  もうだめだ。我慢できない。

  俺は乳首をぎゅっとつねり、会陰部をぐりぐりと押し込むようにして刺激し、そして前立腺を抉るように思い切り押し上げた。

  「お゛っ……イくっ……!」

  その瞬間、頭の中が真っ白になり、全身から力が抜けていくような脱力感と共に俺は絶頂を迎えた。

  「お゛っ……!!」

  俺の意思とは関係なく、身体ががくがくと震える。

  背中が大きく反って、ブリッジのような体勢になったまま硬直した。

  しかしそれでもまだ身体の痙攣は止まらない。

  「あ゛っ……ああ゛っ……たけながぁっ……!」

  全身が強張るたびに、乾いた絶頂が押し出されるように飛び出してくる。

  そして次第に全身の力が抜けていき、俺はぐったりとベッドに沈み込んだ。

  「お゛っ……お゛ぉっ……♡」

  だらしなく舌を出して、まるでカエルのように四肢を投げ出して大きく股を開いたまま放心している。

  (おれ……男なのに……こんなになっちゃってる)

  どれくらい時間が経っただろう。

  乳首もちんこもアナルも全部丸出しにして、肛門なんてぱくつかせながら余韻に浸っていた。

  甘い余韻の中、視線の端に何かが見える。

  紙袋を提げたおおきな手が見えた。

  「え……」

  その瞬間、頭の中が急激に冷えていくのを感じた。

  「な……たけなか……?」

  俺は恐る恐る顔を向ける。

  そこには紛れもなく竹中の姿があった。

  とてもじゃないけど、顔を上げてその表情を窺い知る気にはなれない。

  (まずい……)

  頭の中が一気にパニックになる。

  もう頭の中はぐちゃぐちゃで訳が分からない。

  謝る……いやそれは違うだろ!だって俺は別に悪いことなんてしてない。

  「あ……あの、これは……」

  俺は言い訳しようと口を開いたが、何も言葉が出てこなかった。

  (どうしよう)

  どうすれば良いのか分からないまま視線をさ迷わせていると、竹中の股間に目が留まった。

  ズボンからでも形がはっきりわかる位横に張り詰めていて、そこは大きく盛り上がっている。

  (おっきい……)

  俺の怪物のようなそれ程ではなかったけど、竹中のそれはとても大きくて、逞しかった。

  いつから自分の痴態を見ていたのだろう、そんな疑問が頭をよぎる。

  竹中は何も言わない。ただじっと俺の身体を見ているだけだ。

  それくらい強い視線を全身に浴びているのを感じていた。

  親友が、自分のあられもない姿を見て股間を膨らませている。

  その事実に頭がおかしくなりそうだった。

  嬉しい?気持ち悪い?興奮している? 色んな感情がごちゃ混ぜになって、俺の頭はパンクしそうだった。

  そんな俺の意識とは正反対にばくばくと動く心臓のせいで完全な勃起を迎えた陰茎が包皮によって絞首台のように締め付けられ、 そしてパンパンに膨らんだ陰嚢の中でギュルギュルと精液が作り出されていく。

  痛くて痛くて堪らないし、見られてるしで、頭の中はもうぐちゃぐちゃで。

  居た堪れなくなったのだろう、俺の本能と理性は、身体の方と乖離していた。

  俺の生まれ変わってはじめての自慰行為のフィニッシュは、肛門を使ったオナニーで、親友の視線をおかずにして。

  強制シャットダウンした俺は、そのまま意識を手放した。