大学の友人に誘われてナンパをすることになった引っ込み思案のニンゲンが、こわもての虎おっさんを引っ掛けてしまう話

  ☆

  「じゃあ、次は樋口な」

  「えぇ……。僕はいいよ」

  小さな橋の前で尻込みする僕を見ながら、2人の友人はニヤニヤ笑って背中を押した。

  「そう言うなよ。みんなやってるんだからな」

  「そうそう。柴田なんか、見事お持ち帰りしたんだぜ」

  狸獣人の言葉にぷっ、と笑う猫獣人。

  「あれはお持ち帰りしたというよりも、されたと言った方が正しいと思う」

  「確かに。あんなおばあちゃんに捕まって、柴田どうなるんだろうな」

  「あいつ子犬みたいに顔だけはかわいいから、搾り取られるんじゃねえの?」

  「童貞卒業は羨ましいけど、婆さん相手はやだなあ」

  ケラケラと笑う二人の獣人を見て、僕は眉をひそめる。

  ……僕、ナンパなんかしたくないのに。

  ☆

  

  僕、樋口達也にとって、今日は初めて尽くしの1日だった。

  この春、僕は上京して念願の雄獣大学に入学出来たのだ。

  今日はその入学式で。

  僕の希望した心理学部は希望者が少なかったらしく、新入生は4人だけだった。

  お調子者っぽい狸獣人の田沼に、小柄でかわいらしい犬獣人の柴田。

  ちょっと皮肉屋の猫獣人の猫村。

  そして僕、内気で消極的なニンゲンの樋口。

  どちらかと言うと、みんな派手さはなくて陰キャな雰囲気で、僕は安心したのを覚えている。

  みんなも僕と同じように感じたのだろう。

  しばらく話すうちに陰キャの僕たちはすっかり仲良くなってしまった。

  『せっかくだから、この後飲みに行こうぜ!』

  だから突然の田沼の誘いにみなは頷き、引っ込み思案の僕も勇気を出して参加する事にしたのだ。

  生まれて初めてのお酒はなんていうか、楽しかった。

  味はそんなに美味しいとは思わなかったけど、飲むと気分がよくなって、身体がふわふわするようだった。

  少しだけ気持ちを大きくなって、普段の引っ込み思案が嘘のように色々と喋ってしまう。

  そこで、田沼の誘導尋問に引っ掛かってしまったというか……つい童貞だって話をしてしまったのだ。

  『俺も俺も!』

  『俺もだな』

  『……実は俺も』

  みんなお互いが未経験ということをさらけ出すと、お酒が入ってテンションがあがった田沼がこんなことを言い出した。

  『なあ。……ナンパって、やってみないか? 俺、可愛い女子と付き合ってみたいんだ』

  ……えぇ。

  でも、顔をしかめたのは僕だけで。

  「いいねえ」

  「おもしれえじゃん!」

  

  猫村と柴田は興味深そうな顔をしているのだ。

  「それはちょっと……」

  しかし3人に比べて僕は、ここに来て持ち前の引っ込み思案が顔を覗かせる。

  「なんだよ。樋口、いいだろ?」

  「そうだよ、おもしれえじゃん」

  「何事も経験は大事だと思うよ」

  「……う、うん…」

  その強気の姿勢に、僕は思わず頷いてしまう。

  ……そんなことしたくないのになあ。

  3人と僕はきっと違うのだから。

  正直なところ、僕はゲイだ。

  しかも俗に言う、ケモナーなんていう獣人好きで。

  だからわざわざ雄の獣人が多い、この雄獣大学を選んだぐらいなのだ。

  ……女の子相手のナンパなんて、全然興味ないのに。

  と言っても、人見知りの僕に、男相手のナンパなんか、余計に怖くて出来ないけど。

  でも、初めて仲良くなった大学の友人達に嫌な顔をさせたくなかったから、僕は渋々参加する事にしたのだった。

  ☆

  飲み屋を出ると、田沼は街の中央にある、コンクリートで作られた小さな橋の前に僕らを連れていく。

  「じゃあ、今からこの橋を通る奴がいたら、どんな奴でも順番にナンパしていこうぜ」

  「おいおい、相手が男だったらどうすんだよ」

  だが、柴田の言葉に酒で真っ赤になった顔の田沼は、当たり前のように言う。

  「決まってるだろ。ナンパするんだよ」

  「えー」

  嫌そうな顔をする柴田にしたり顔で言う狸獣人。

  「これは度胸試しでもあるんだぞ。こうやって、心を鍛えたらほんとにツガイを見つけた時も、臆せず告白出来るって父ちゃんが言ってた」

  「ツガイ……そうかあ」

  柴田と猫村が嫌に感心したような顔をしている。

  獣人にとって、ツガイというのはかなり重要な要素らしい。

  ニンゲンの僕にはよくわからないけど。

  「じゃあ、言い出しっぺの俺、いきます!」

  田沼はそう言うと、橋の向こうに現れた同年代のかわいい鹿獣人の女性の元に駆け寄っていく。

  「うわっ、ずるっ。かわいい子選んでんじゃん、あいつ」

  「でも見ろよ。一生懸命話しかけてるのに無視されてるぜ。あっ、バッグで頬殴られた」

  「……」

  相手にされずに、すごすご戻って来る田沼。

  「……全然ダメだった」

  思いのほかしょげてしまった田沼を見て、2人は笑う。

  「抜け駆けしようとするからだろ」

  「うるせえっ。そしたら次は猫村、柴田、樋口の順番な」

  「わかったよ」

  次に指名された猫村は、橋のたもとで緊張した顔をしている。

  「あっ、来た。げっ……」

  顔をしかめたその視線の先には仕事帰りなのだろう、作業着にごついガタイをした猫獣人が歩いていた。

  ちょっと格好いいと思ったが、さすがにノンケの彼らに言うわけにはいかない。

  「あれ、絶対いかないとダメか?」

  「当たり前だろ。約束なんだからな」

  田沼の言葉に、すごすごとごつい猫おっさんに近づく猫村。

  「……」

  一言二言言葉をかわすと……。

  ごちんっ!

  橋の向こう側にいる僕たちにも聞こえるような大きな音が、猫村の頭から響くのだ。

  やったのはもちろん、猫おっさん。

  拳を振り上げると、猫村の頭にげんこつを振り下ろしたのだ。

  相当痛いのだろう。

  頭を抱えてその場にしゃがみ込む猫村と、プリプリ怒ってその場を立ち去る猫おっさん。

  「だ、大丈夫かよ」

  僕たちは慌てて、猫村の元に駆けつける。

  「大学生になったばかりなのに、しょうもないことしてんじゃねえって」

  涙目の猫村。

  「へっ? あのおっさん、なんでそんなこと知ってるんだよ」

  柴田の疑問に立ち上がりながら猫村は答える。

  「あれ、俺の親父だから」

  「……ぷっ」

  「うそ……くくく……」

  「えっ……」

  目を丸くする僕たちを見て、嫌そうな顔をする猫村。

  

  「だから嫌だって言ったんだ……。次は柴田な」

  ☆

  そのまま、僕たちのナンパは続いた。

  犬獣人の柴田の場合、通り掛かったのが犀獣人の高齢女性で。

  『化粧の匂いがきつくてやだなあ』と言いながら、嫌々近づいてナンパしたところ、どうもお気に召したみたいで、有無を言わせずそのままどこかへ連れていかれてしまったのだ。

  無事帰ってきたらいいけど。

  こちらを振り向いた柴田の悲しそうな顔が目に焼き付いてしまった。

  でも、田沼と猫村は当たり前のように笑っている。

  そして、ついに次は僕の番。

  尻込みしても無理矢理橋の前に押し出された僕は仕方なく誰かが通り掛かるのを待つ。

  緊張で胸がドキドキするのがわかる。

  息苦しささえ感じてしまうぐらいだ。

  田沼達と違って、僕は別に童貞卒業なんかどうでもいいのだ。

  逆に女の人に気に入られると非常にまずい。

  ……どうか、どうか断ってくれるような、当たり障りのない人が通りますように。

  僕は目をつぶって、必死に祈るのだが……。

  「おい、マジかよ……」

  あれだけテンションの高かった田沼がドン引きしたような声を出す。

  「あれ、やばくない?」

  猫村の声で僕は目を開ける。

  そこにいるのは……。

  どす、どす、どす、どす……。

  「……」

  人を射殺せる目と言うのはああいうのを言うのだろうか。

  2、3人殺してムショに入ってました言われても素直に納得出来てしまいそうな、人相の悪い重量級の虎獣人が肩を怒らせて歩いていた。

  見上げるほどのその背丈は3メートルを越えるだろう。

  体つきはまるでプロレスラーのよう。

  派手なシャツの上にクリーム色のジャケットを羽織っているのだが、それらが筋肉でパンパンに膨れ上がっているのが見てとれるのだ。

  下に履いているチノパンも同じ。

  その太ももなんて、下手したら子供の胴ほどもあるだろう。

  首と手首にはぶっとい金の鎖をじゃらじゃらとぶら下げていて、明らかにカタギではないのがわかる。

  「ねえ……あの人に声かけないと……いけないの……」

  僕は思わず、泣きそうな声を出してしまう。

  「うーん。あれはきついかも……」

  猫村は、僕の気持ちを汲んでくれるが。

  「いや、行くだけ行ってみようぜ!」

  田沼は無責任にもそんなことを言い出したのだ。

  「おい、でも樋口になんかあったら……」

  「大丈夫だって。周りに人もいるのに、変なことしてきたりしないって」

  酒の力で気持ちが大きくなってるのか、田沼はそう言うと、僕の身体を前に押した。

  「あっ……」

  僕はよろけるように前に出ると、あろう事か、そのゴツムチの虎獣人にぶつかってしまうのだ。

  とんっ。

  ぎろりっ。

  その鋭い目が僕を睨みつける。

  「ひっ……ご、ごめんなさい!」

  僕は慌てて、ペコペコと頭を下げる。

  そんな僕を鋭い目線で見つめながら、虎獣人は口を開く。

  「別にいいが……兄ちゃん、俺になんか用か?」

  「えっ……」

  意外にも怒っていなさそうな様子に、戸惑った僕はつい、後ろを振り返る。

  すると無責任な狸獣人が、いけいけと手でジェスチャーするのだ。

  その勢いに押されるように、僕は話しかけてしまうのだ。

  「あの……ぼ、僕とお茶でもどうですか?」

  「ふうん……」

  厳つい虎獣人は値踏みでもするように、僕の顔を覗き込んだ。

  「……いいぜ」

  「へっ?」

  僕は目を丸くする。

  大人をからかいやがってと、いつ殴られるかびくびくしていたぐらいなのに。

  「あ、あの……」

  「じゃあ、さっさと行くか。そうだ、茶ぁシバくよりも、もっと美味いもん食いに行こうぜ」

  「えっ、えっ……」

  虎獣人は僕の腕を掴むと、目を白黒させたままの友人達を放置して、歩き出したのだった。

  ☆

  ……ど、どうしよう。

  見ず知らずの、コワモテ虎獣人に腕を引っ張られたまま、僕は知らない路地裏に連れ込まれていた。

  その太い腕は僕の力ではとても振り払う事は出来ないだろう。

  たとえ振り払う事が出来ても、逃げ出せるわけがない。

  「……」

  人通りのない寂れた道を、切れかけて点滅している蛍光灯がかろうじて照らしていた。

  ……僕、どうなるんだろう。

  この人がヤクザだったら、このまま外国に売られたり、内臓を取られたりするんだろうか……。

  考えるだけで涙が出てきそうになる。

  田沼と猫村が警察に通報してくれたらいいけど、柴田の時の対応を見ていれば望み薄だった。

  「ん?」

  そんな僕の気持ちに気づいたのか、やくざみたいな虎獣人は足を止めると、僕の顔を覗き込んだ。

  その顔はなぜか苦笑いをしている。

  「おいおい。ナンパした方がびびってどうすんだよ」

  「……」

  「心配すんな。別におめえをひでぇ目に遭わせたりはしねえからさ」

  「はい……」

  「どうせ友達とナンパごっこでもやってたんだろ。それか罰ゲームってとこか。それに付き合ってやっただけだ」

  「……なんで」

  ……なんでわかるんだろう。

  まるで心の中でも読まれたようで、僕は呆然としてしまう。

  虎獣人はそんな僕に笑いかけた。

  「わかるさ、そんなこと。……まあ、残りの2人よりは、俺はおめえに声かけられた方がうれしかったけどな」

  「……」

  ……えっ、どういう事?

  「俺もおめえみたいに男好きだからよ。しかも若いニンゲンが好みなんだ」

  突然の告白に、僕は呆気に取られてしまう。

  しかもそれは、僕がゲイだと前提の言葉で。

  「えっ、その……僕は……」

  ……カミングアウトしたわけでもないのに、なんでわかるんだ。

  動揺する僕を見て、虎獣人はくつくつと笑う。

  「隠さなくてもいい。顔見りゃわかる」

  「……」

  僕は思わず自分の頬っぺたを触ってしまう。

  「俺はな、おめえみたいなのがタイプなんだよ。ちっこくて華奢で、ヒゲも生えていないようなかわいらしいタイプがな。……おめえの方はどうだ。こんなおっさんでもいいのか?」

  「ええと……」

  そう言われて改めて僕は虎獣人の顔を見る。

  さっきまでは恐さが勝っていたせいでちゃんと見れてなかったが、落ち着いて見てみると、かなり格好いい。

  華奢な僕とは真逆の男臭い風貌は正直、どストライクだった。

  そうなると現金なもので、怖さが薄らいでしまうのだ。

  「……はい」

  僕はちょっと意識してしまい、顔を赤らめて頷いた。

  「ほんとか?」

  「はい。タ、タイプです」

  「そうかそうか……」

  嬉しそうに牙を剥きだしにして、ニヤニヤ笑う虎獣人。

  「じゃあ、問題ねえな。……おめえ、名前なんてんだ」

  「た、達也です」

  「そうか。俺は虎鉄だ」

  「虎鉄さん……」

  「さあ、自己紹介が済んだんだ。さっさと美味いもん食いに行こうぜ」

  ☆

  「ここだ」

  虎鉄さんが連れてきてくれたのは、いかにも場末、といった感じの寂れた雰囲気のラーメン屋だった。

  「まあ見た目は悪いがな、ここけっこう美味いんだぜ」

  虎鉄さんはそう言って笑うと、ごめんよと暖簾を潜って店に入る。

  僕も慌ててその後をついていくと、ぷんと豚骨のいい匂いが鼻をくすぐった。

  「らっしゃい!……なんでえ、虎鉄かよ」

  いかにも美味い料理を作りそうな、でっぷり肥えた猪獣人が、気安い感じで虎鉄さんに話しかけた。

  「田舎の親父さんの法事に帰るって言ってなかったか?」

  「ああ、さっき帰ってきたところだ」

  「……そんな格好でかよ」

  「いいだろ。葬式じゃねえんだから」

  仲間内ではこんな感じなのか。

  厳つい顔で拗ねたように言う虎獣人は、言えば怒られそうだけど、なんかかわいく思えた。

  「で、法事が終わった早々、若ぇ子を引っ掛けたってわけか」

  節操ねえなあ、と、笑う猪獣人。

  「馬鹿言え。引っ掛けられたのは俺の方だ」

  にやにや笑う虎鉄さんは、カウンター席にどっかり座ると、隣の椅子を引いて、俺に笑いかけた。

  「なんだ兄ちゃん、かわいい顔したニンゲンの癖にいい度胸してんなあ」

  ちょこんと座る僕を見て、猪獣人は笑う。

  「いや、それは……」

  「お茶でもどうですかって言われてな。そんな事言われちまったら断るわけにいかねえだろ」

  自慢げに猪獣人に話す虎鉄さん。

  「んで、食っちまったわけか。どう見ても虎鉄のタイプだもんなあ。棚から牡丹餅って奴だ」

  「ば、馬鹿言え!」

  苦笑いする虎鉄さん。

  「さすがに未成年に手は出せねえよ。でもせっかくだから、美味いラーメンでも喰わせてやろうと思ってさ」

  ……なんだ。

  手を出さないと聞いて、がっかりしている自分に気づいて僕は驚いてしまった。

  いつの間にか、僕は、厳ついけど気さくな虎獣人に惹かれてしまっていたのだ。

  まるで一目惚れでもしてしまったように。

  

  「相変わらずだな。そんな物騒なナリしてるわりに、本気で気に入った奴には手を出せねえんだからよ」

  「う、うるせえっ! ラーメン屋は黙ってラーメン出してりゃいいんだよ!」

  「へいへい」

  猪おっちゃんは軽口を叩きながら、手早くラーメンを作り、2人の前に置いた。

  「さあ食ってくれ。うちの自慢の豚骨ラーメンだ」

  「はい、いただきます」

  僕はデカい器を自分の方に引き寄せると、ズルズルと麺を啜る。

  「……美味しい」

  「美味いだろ」

  にこりと笑ってみせる虎鉄さん。

  

  「ここは安くて美味いんだ。気に入ったらあのナンパ仲間も連れて食いにきてやってくれ」

  「は、はい!」

  僕が麺を勢いよく啜る隣で、虎鉄さんはラーメンに乗っているチャーシューやメンマをあてにちびちびと焼酎を飲んでいた。

  チャーシューを口に放り込むと、渋い顔でくいと焼酎を呷る。

  ……大人だなあ。

  渋い雄の姿に、僕は思わず見惚れてしまう。

  負けずに虎鉄さんも、僕を酒の肴にするようににやにやしながら眺めてくるのだ。

  「……やっぱりかわいい奴を見てると、酒がすすむぜ。……おい大将。焼酎もう1杯入れといてくれ。その間に小便に行ってくらぁ」

  「さっさと戻ってこねぇと、ラーメン伸びちまうぞ」

  「へいへい」

  のっそりと立ち上がると、どすどすと店の奥にあるトイレに向かう虎鉄さん。

  その後ろ姿を見つめていると、猪おっちゃんは焼酎のグラスをカウンターに置きながら、僕に言う。

  「あんなふうに怖ぇ外見してるけどよ、中身はまっとうな奴なんだ。良かったらあいつと仲良くしてやってくれ。…好きになったからって、嫌がる奴に無理矢理手ぇ出すようなタイプじゃねえからよ」

  だから僕は頷いてみせる。

  「……はい。大丈夫です。僕も虎鉄さんともっと仲良くなりたいから……」

  「……」

  一瞬目を丸くした猪おっちゃんは、破顔してみせる。

  「なんだ、そうなのか。そりゃよかった」

  バンバンとカウンター越しに僕の肩を叩く猪獣人。

  「……なんだ、俺に隠れて内緒事か?」

  トイレから戻ってきた虎鉄さんがズボンで手を拭きながら僕たちの顔を覗き込む。

  「な、なんでもねえよ」

  慌てたように答える猪おっちゃんをじろりと睨みつける虎鉄さん。

  「まさか、達也を口説こうとしてんじゃないだろうな。駄目だぞ、こいつは俺のもんなんだからな」

  そういうとその分厚い身体を僕の身体を抱きしめるのだ。

  心地好い体毛の感触。

  ニンゲンより熱い体温と、かすかな香水、そして圧倒的な雄の匂いに包まれてしまう。

  僕の顔は真っ赤になってしまっているはずだ。

  心臓がバクバクと音を立てて動いているのがわかる。

  「よく言うぜ。手を出す度胸もない癖によ」

  僕が硬直している間も、虎鉄さんをからかう猪おっちゃん。

  「そっ、そんなことねえよ!」

  ムキになったように、首を振る虎鉄さん。

  「俺だってやるときにはやるんだ。ただ、俺は嫌がる奴に無理矢理ってのは……」

  酒に酔ってしまっているせいか。それとも自分を抱きしめてくれる虎獣人の温かさに酔ってしまったのか。

  僕はつい、虎鉄さんの胸の中で、本音を漏らしてしまうのだ。

  「僕……虎鉄さんだったら……いいですよ……」

  「……」

  その言葉に、かあっ、と音がするように一瞬で顔が真っ赤に変わってしまう虎獣人。

  

  「ば、馬鹿な事言ってんじゃねえ!」

  今気づいたとばかりに慌てて僕の身体から手を離すと、虎鉄さんは椅子に座って焼酎を一気に呷った。

  「大将。すぐに酒がなくなっちまったじゃねえか。もう、一升瓶で持ってきてくれ!」

  ☆

  そのまま照れたように、一気に焼酎5本を飲み干してしまった虎鉄さん。

  やがてラーメンも汁まで飲み干した虎獣人は、少し物足りないような顔をしながらも立ち上がる。

  「じゃあ、そろそろ行くか」

  「……はい」

  虎鉄さんは少し酔ったような顔をしているが、足取りはしゃんとしていて、お店の会計も払ってくれた。

  僕が自分のラーメン代は出しますと言っても、『馬鹿野郎、俺が誘ったんだ』、と取り合ってくれない。

  「また来てくれよ!」

  猪おっちゃんの声に押されるように僕たちは店を出た。

  「……」

  しばらく僕たちは黙って歩き続けた。

  やがて二股の分かれ道に来ると、虎鉄さんは足を止める。

  「……ここをまっすぐ行くと、達也がナンパしていた橋に出る。そこまで行けばちゃんと帰れるだろ」

  「あの……」

  「じゃあな。楽しかったぜ」

  虎鉄さんは振り向きもせず、片手をあげると、僕に教えた道と逆方向に歩いて行こうとした。

  「……」

  

  何も言ってくれない。

  また会おうとか、連絡先を教えてくれとか。

  虎鉄さんにとっては、ただの行きずりの出会いなのだ。

  そう考えると、僕の手は自然に動いた。

  その手が伸びて、虎鉄さんのジャケットを掴んだのだ。

  「……どうした?」

  優しい顔で振り返る虎獣人。

  「あの……」

  このまま別れたら、もう二度と会えないような気がしたから。

  「もう少し……一緒にいちゃ駄目ですか?」

  ごくり。

  僕の言葉に喉を鳴らす虎獣人。

  「ば、馬鹿……何言ってんだ……」

  「僕……虎鉄さんの事……好きになっちゃったみたい……」

  引っ込み思案な僕が、そんなことを口に出してしまうなんて。

  だが、虎鉄さんは首を振る。

  「あのなあ、こんな行きずりのおっさんに、そんな事言ったら勘違いされちまうぞ。俺だってお前の事……好きになっちまいそうなんだから……」

  「好きになって欲しいです」

  「……」

  「好きになって欲しい。虎鉄さんの側にいて、もっとたくさん虎鉄さんの事知りたいんです」

  「……俺は達也が考えてるようないい奴なんかじゃねえ。今だってほら……」

  虎鉄さんは僕の手を握ると、それを己の股間に押し付けた。

  「あ……」

  それは熱く、硬くなっていた。

  「えらそうな事を言っても、こんなに勃っちまってる。本音じゃな、こいつを達也の中に入れて交尾することばかり考えちまってるんだ。これ以上一緒にいたら、我慢出来なくなっちまうからよぉ。……出会ったばかりのおめえに、この逸物をぶち込んで種付けしちまえって本能が叫んでやがるんだ。いい歳したおっさんが、未成年相手に浅ましいだろ?」

  自嘲する虎獣人に、僕は首を振った。

  獣人にはツガイという概念がある。

  これと決めたら、絶対に手に入れたい相手がいると。

  僕は獣人じゃないけど、今その気持ちがわかった。

  どうしても虎鉄さんが欲しい。

  たとえこの虎獣人にとって、行きずりの関係でも僕はかまわなかった。

  この瞬間だけでも虎鉄さんのものになりたかったのだ。

  「僕も……僕も抱いて欲しいです。虎鉄さんに初めてをもらってもらいたい……」

  「……は、初めて……」

  ごくりと唾を飲み込む虎獣人。

  

  「今晩、ずっと一緒にいちゃ……駄目ですか?」

  「……」

  ☆

  「本当にいいのか?」

  すでにホテルに連れ込んでいるというのに、こわもての虎獣人はそんなことを聞いてくる。

  「はい」

  ……もうシャワーも浴びちゃったのに。

  備付けのガウンをすでに着ていた僕は、おかしくなって、少し笑ってしまった。

  すでに覚悟を決めた僕とは違い、いまだに後ろめたさを感じている虎鉄さんはまだシャワーを浴びてなかった。

  ……獣人なんだから、もっと強引に襲われると思ったのに。

  でも、興奮してないわけじゃないのだろう。

  ズボンの上からでも、いきり勃っている様子がはっきりと見えるのだから。

  「そうか」

  虎鉄さんはまるで壊れやすいガラス製品でも扱うように僕の身体を優しく抱くと、そっと抱え上げて柔らかくベッドに横たえた。

  「虎鉄さん……んん……」

  その大きなマズルを僕の唇に押し付けると、ゆっくりと舌を差し入れて来る。

  ぬちゅっぬちゅっ……。

  ひたすら優しい舌での愛撫。

  俺のものだと言わんばかりに僕の口の中を掻き回すのだが、その動きは穏やかで。

  初めてキスを、セックスをする僕を安心させるような優しさしかそこにはなかった。

  緊張している舌先をそっと絡めとると、キスの快感を教え込むようにくちゅくちゅと動かし、僕がもっと、と舌を伸ばそうとすると、からかうようにすっと離し、歯列を撫でていくのだ。

  

  「んん、んん……」

  がむしゃらさなど欠片もない大人のキス。

  僕はいつの間にか、その分厚い身体にしがみつき、必死に舌を動かしていた。

  そんな僕の頭を、厳つい顔をほころばせながら虎鉄さんは撫でてくれる。

  くちゅんっ。

  「あっ……」

  口を離されると、名残惜しくて目で追ってしまう。

  キスをされただけだというのに、僕はすっかりこの虎獣人の虜になってしまっていたのだ。

  「……ガウン……脱がしちまってもいいか?」

  興奮した様子で、でも性急さは感じさせないまま笑いかける虎獣人。

  きっとその風貌で獣のようにがっついてしまえば、初夜の僕が怖がってしまうかもと考えてくれているのだろう。

  そんな優しさが僕は嬉しかった。

  「はい」

  「ありがとよ」

  その大きな掌を器用に動かして、僕を丸裸にしてしまう虎鉄さん。

  薄暗い照明に照らされた僕を見て、感に堪えないように小さく呟く。

  「きれいな肌をしてやがる……」

  もう我慢出来ないとばかりに、服を脱ぎ捨てる虎獣人。

  ……すごい。

  着痩せするなんて表現があるが、こんなにも当てはまる人を見るのは初めてだった。

  服を脱ぐことで体毛の下に隠されていた筋肉が膨れ上がるように感じられたのだ。

  脂肪と筋肉が程よく入り混じったその身体はまさに雄の身体だった。

  そしてその股間から天を突くように生えた逸物も雄そのもので。

  使い込まれているのだろう。

  完全に剥けきったその太長い茎は黒ずんでいて、猫科特有のトゲが全周を取り巻いていた。

  先端には我慢汁がぷっくりと盛り上がり、少しでも刺激を加えれば、竿を伝って流れ落ちてしまうだろう。

  そしてその下に重たそうにぶら下がるグレープフルーツほどのサイズの双球。

  僕の持ち物とは違う、凶悪な代物なのだ。

  きっと虎鉄さんは、その凶器を無理矢理にでも僕の肉穴にねじ込んで、雄の子種で膨らませる事だけを考えているにちがいない。

  それが、雄の本能だから。

  でも、目の前の虎獣人は見た目とは裏腹にそのような荒っぽい行為には移らなかった。

  ただただ僕を気持ち良くさせるために愛撫をすることに終始するのだ。

  再び唇を重ねた後、僕の肌を堪能するようにあちこちにキスを落としていく。

  唇だけではなく、舌や牙を使い、僕の全身をはい回るのだ。

  「ぬちゅ……じゅる……くちゅくちゅ……ぐちゅっ……」

  「ああっ……」

  くすぐったさと快感に、僕は身もだえしてしまう。

  その舌が至らない場所は、僕の全身で存在しなかった。

  首筋、胸、太股、腹、そして脇や股間まで。

  まるで空腹の子猫がミルクを舐めるようにひたすら執着を見せつけながら、舐めつづけるのだ。

  「あっあっあっあっ……」

  ざらついた虎獣人の舌での愛撫。

  繰り返されるたびに肌は赤くなり、それと同時にくすぐったさは鳴りを潜め、快感がその存在感を増してしまう。

  「ううっ……」

  それは突然だった。

  そのざらついた舌が乳首を刺激した途端、僕の身体はビクンと震え、いきり勃った逸物の先端から、ほんの少しの白濁液が漏れたのだ。

  とろっ。

  「……」

  かあっと顔が赤くなるのがわかった。

  僕は乳首を舐められただけでイッてしまったのだ。

  必死に表情を強張らせ、そのことを虎鉄さんに悟らせまいとする。

  だが、鋭い嗅覚を持つ虎獣人をごまかす事は出来なかった。

  顔をあげた虎獣人はマジマジと僕の股間を見つめた。

  「イッちまったのか……」

  「み、見ないで……」

  僕は恥ずかしくなって、両手で股間を隠そうとする。

  「いいじゃねえか」

  それを片手でやすやすと防いだ虎鉄さんは、嬉しそうに舌を伸ばし、亀頭に浮いた白い玉をべろりと舐めとった。

  「んんっ!」

  生まれて初めて陰部に感じた、他人からの刺激。

  それは虎獣人にとってはアムリタのように感じられたのか。

  「もっと、もっと出してくれ……」

  熱に浮かされたように、虎鉄さんは僕の強張りを舐めしゃぶる。

  くちゅっ……じゅるっ……ねちゅっ……じゅるじゅるじゅる……。

  「んんんんっ!」

  僕は身体をのけ反らせた。

  初めてのフェラチオは、脳天に響くほど気持ち良くて。

  硬く膨らんだ逸物に感じるざらついた舌の表面と、生暖かい感触が心地好かった。

  特に敏感な亀頭をなぞられると、それだけでびくびくと身体を振るわせてしまう。

  「あ、駄目……イッちゃうっ!」

  どぷっどぷっ……。

  僕は我慢できずに虎鉄さんの口に吐精してしまうのだ。

  ごくり。

  「……若ぇな。青臭さがたまんねえや」

  それを嬉しそうに飲み込むと、再び竿に刺激を加える虎獣人。

  「んんんっ!」

  敏感になっている逸物は、くすぐったさを主張する。

  「なんだ、くすぐったかったか」

  くちゃりと顔を歪めて笑う虎鉄さんは、僕の身体をベッドの上で転がした。

  うつぶせになる僕の身体を見下ろしながら、ゆっくりと股を開かせるのだ。

  その視線の先には僕だって見たことのない菊門が晒されているのだろう。

  「虎鉄さん……恥ずかしいです……」

  僕は思わず呻いてしまう。

  「気にすんな。達也の身体は、今は俺のもんなんだからよ」

  さりげなく虎鉄さんのもの扱いされるのがこんなにも嬉しいなんて。

  虎鉄さんは股を開くと、そこに顔を埋めてぴちゃぴちゃと舌を動かした。

  「あっ……」

  唾液をまぶしつけるように動かしたかと思うと、舌先を潜り込ませて来るのだ。

  「汚い……」

  「大丈夫だ。俺のためにちゃんと洗ってくれたんだろ?」

  「……」

  そんなあからさまに言われると、また顔が赤らんでしまう。

  ずる……ずる……ずる……。

  唾液に濡れた舌先はゆっくりと菊門を通過していく。

  拡げられる感触はどこか心地好かった。

  舌先で虎鉄さんの唾液を塗りたくられる感覚が、まるでこの虎獣人の色に染められてしまっているようで。

  「次は指で拡げてやるからな」

  舌を引き抜いた虎獣人はそう囁きかけると、口に加えて濡らした指先を僕の肉穴に埋め込んでいく。

  ぬちゅぬちゅぬちゅ……。

  「んんっ」

  舌先よりも強く押し広げられる感覚。

  そこには微かに快感があった。

  「なんだ、気持ちいいのか>達也は才能がありそうだな」

  「さ、才能?」

  「ああ。俺の雌になる才能だ」

  「……」

  あまりの恥ずかしさに抗議しようと口を開く僕。

  だがっ。

  ぐちゅりっ。

  「ひいっ!」

  口を開いていたのが悪手だった。

  ふいに訪れた強い快感に、僕は喘ぎ声をあげてしまったから。

  ……なに、これ。

  それは全身に電撃が走るような快感だった。

  「知らねえのか? 前立腺って奴だ。雄を雌に変えちまう泣きどころなんだが……」

  にちゃりと笑う虎獣人。

  「こんなところも敏感なんて、ますます達也は雌に相応しいじゃねえか」

  ぐちゅぐちゅぐちゅぐちょっ……。

  そう言いながら指先を掻き回す虎獣人。

  「んんんっ!」

  確かに敏感なのだろう。

  あまりの快感に、僕は口を押さえて喘ぎ声を出さないようにするのが精一杯だったから。

  掻き回されれば掻き回されるほど、身体の奥底から燃え上がるような快楽の炎があふれるように感じてしまう。

  「……んっ!」

  口を閉じ、ただ目に涙を滲ませながら悶える事しか出来ない。

  だが、この虎獣人はそのぐらいの刺激で許してくれる事はなかった。

  緩みはじめた肉穴にもう1本太い指を追加すると、僕が1番感じる前立腺を、強く押し潰したのだ。

  ごりっ!

  「ひいいいいっ♡!」

  我慢することなど出来なかった。

  部屋に響くような泣き声をあげてしまう。

  魂を引き抜かれるような快感。

  「……」

  気がつけば、僕は射精をしてしまっていた。

  部屋に漂う濃い精液の匂い。

  「……すまん」

  その匂いにあてられたのか、虎獣人は呻いた。

  「もう、我慢できねえ」

  ぎしぎし。

  その巨体がベッドの上に乗り、僕の身体を包み込む。

  ……あっ。

  熱せられた鉄のような塊が、僕の肉穴に押し付けられた。

  「達也……達也……」

  熱に浮かされたような虎獣人の声。

  そして、僕の下半身に与えられる引き裂くような衝撃。

  めりめりめりめり……がちゅんっ!

  「あああああっ!」

  誰憚ることなく僕は叫んだ。

  それほどの圧迫感を感じてしまったから。

  さいわい、虎鉄さんが拡げてくれたおかげで強い痛みは感じなかった。

  だが、何かが身体の中に侵入してきたという違和感。

  肉穴の中で脈打つ熱い塊は、それが生き物だと強く僕に感じさせられた。

  ……喰われてるんだ。

  強い雄に組み敷かれ、捕食されているような錯覚を感じてしまう。

  それが、僕は堪らなく嬉しかった。

  僕自身が虎鉄さんのものになったような気持ちになれたから。

  「……動くぞ」

  しばらくは身動きせずにいてくれた虎鉄さんも、堪えかねたように小さく呟く。

  そして、ゆっくりと腰を動かし始めた。

  ぐちょっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ……。

  ゆっくりと優しい、機械的な動きからは、虎鉄さんの焦燥のようなものを感じた。

  本能に任せて、がむしゃらに腰を振りたいのだろう。

  組み敷いた雌の身体の事など考えずに、ただ種をつけるためだけに掘削機のように腰をたたき付け、肉をえぐり、奥深くにしとどに種を流し込み孕ませてしまいたいと。

  それを理性で押さえ込み、ひたすら僕を気持ち良くしたいと考えているのだ。

  腰を振りながら角度を変え、僕の表情を伺いながら少しでも気持ちいいところを刺激しようとしてくれている。

  ごちゅんっごちゅんっごちゅんっ……ごりっ!

  その試みは成功した。

  深い角度で押し込まれた肉棒が、僕の前立腺を打ち壊すような勢いで押し潰したから。

  「んああああっ♡♡!」

  僕は絶叫する。

  指先で触られた時とは時限が違う、おぞましささえ感じる凶悪な快感。

  内臓を壊されるような衝撃なのに、それがすべて快感に変換されて僕の脳にたたき付けられたのだ。

  「んぎいいいいっ♡♡!」

  その瞬間、僕は壊れてしまったのだろう。

  おそろしく強大な快楽を教え込まれて。

  「ぎもぢいいいいいっ♡♡!!!」

  はしたなくよがり狂う雌の姿に、必死に理性を保とうとしていた虎獣人の堪忍袋の緒が切れた。

  「うおおおおっ!」

  獣の雄叫びをあげ、僕の身体を掴み、ひたすら掘削を開始する。

  そこにはもう、ヒトは存在しなかった。

  快楽を貪る2匹の獣だけ。

  「うおおおおおおおおおっ!!」

  がちゅがちゅがちゅっ、ごり、ごりごりごりごりごりごりごりごりごりっ、ばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんっ、ごつごつごつごつごつんっ!

  「ひぎっ♡、ひぎっ♡、ひぎいいいっ♡♡!」

  「気持ちいいか? あぁ? 気持ちいいか?」

  ごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅごちゅっ!

  「ぎもちいいですうううっ♡! 狂っ……狂っちゃうううっ♡♡!」

  ばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんっ!!

  「狂っちまえ。おかしくなっちまえ!」

  「んひいいいいいっ♡♡!」

  荒ぶる虎獣人は僕の身体をおもちゃのように扱った。

  肉棒を引き抜き、体位を変えながらその感触を貪るように楽しんだ。

  後背位から、駅弁、松場崩し、ありとあらゆる体勢で僕を犯し、僕は快楽の泣き声を響かせるのだ。

  「しゅごいっ♡、しゅごいいいっ♡♡!」

  正常位で突き入れられながら、僕は気が狂ったような喘ぎ続ける。

  「俺のこと好きか? 俺のこと好きかぁぁぁっ!」

  「しゅきっ♡、ごでづざんのごどぉ♡、だいずぎだがらああああっ♡♡!」

  「じゃあ、俺のガキを孕みてえか?」

  「ほじいっ♡、虎鉄さんの子供♡、ほじいでずうううっ♡♡!!」

  「じゃあ孕ませてやるよ。ちゃんと俺のガキを受精しやがれっ……うおおおおっ!」

  ただでさえデカい肉棒が膨れ上がり、僕の最奥まで突き入れられた。

  「イクぞおおおっ!」

  びゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ!

  「ん”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ♡♡!」

  お腹が膨らんでいく感覚に僕は泣いた。

  蕩けるような甘い快感と、満たされていく幸福感。

  僕はそれを感じながら、意識を失っていく。

  「くそっ、本気で好きになっちまうじゃねえか……」

  そんな虎鉄さんの声を聞きながら。

  ☆

  「これ、飲んでおけ」

  ホテルを出た頃には、夜が明けていた。

  疲れきった顔をした僕に、虎鉄さんは小さな錠剤を渡す。

  「これは……」

  「アフターピルだ。ニンゲンは孕みにくいから大丈夫だと思うが、獣人の精液は強いからな。ニンゲンなら雄相手でも孕ませる事があるっていうからよ」

  気まずそうな顔をしている虎鉄さん。

  酔いも醒めて、自分が未成年相手にとんでもないことをしてしまったという自覚があるのだろう。

  「あの……」

  僕はすがるように言葉を放つが、それを遮るように虎獣人は一方的な別れを告げる。

  「じゃあな。楽しかったぜ」

  そう言うと、虎鉄さんは僕に別れを告げる。

  「また……また会ってはもらえないですか?」

  僕は必死に訴える。

  虎鉄さんと離れたくない。

  その気持ちでいっぱいだったから。

  だが。

  「駄目だ」

  苦虫を噛みつぶしたような顔をする虎獣人。

  「俺だって……俺だって達也の事が好きだ。本気で孕ませて嫁にしてやりてえぐらいに」

  その目はごまかしのない、本気の目で。

  「だったら……」

  「だがなぁ」

  虎鉄さんは笑う。

  若い頃のようにがむしゃらに無茶をすることが出来ない、分別のある大人の顔で。

  「こんなおっさんと、おめえみたいに若くてかわいい奴が釣り合うわけねえだろ」

  「そんなこと……」

  「そんなことあるんだよ」

  虎鉄さんは諭すように言う。

  「俺は良くても、きっと達也が後悔しちまうはずだ。もっといい奴とツガイになればよかったってな」

  「……」

  黙りこくってしまう僕を見て、虎鉄さんはほろ苦い笑みを見せる。

  「でもまあ……」

  「?」

  「もしも……もしも、もう一度達也に出会えたなら……」

  虎鉄さんは言う。

  「それは運命だと思って、今度こそお前を俺の嫁にしちまうからな」

  にかっと笑うその顔は男臭くて。

  「はい!」

  僕は勢いよく頷いたのだった。

  ☆

  「達也、あの後大丈夫だったのかよ?」

  家に帰って着替えだけ済ませた僕は、そのまま大学に向かった。

  正直、身体の怠さと失恋したショックでそれどころではない気分だったのだが、授業の初っ端からサボるわけにはいかない。

  教室に入って適当な席に着いた途端、田沼と猫村が怖ず怖ずと近づいて来るのだ。

  「うん。大丈夫だよ」

  僕は笑ってみせる。

  そんな気分でもないが、友人たちを心配させても仕方ないのだから。

  「それにしても酷いよね。僕が連れ去られて行くのを2人して黙って見てるなんてさ」

  冗談めかして言うと、やっと安心したように2人は笑った。

  「だってあんなやくざみたいなおっさんに歯向かったり出来ないから」

  「そうそう」

  「ひどいな、俺達友達だって、田沼言ってたのに……」

  「へへへ」

  笑ってごまかす狸獣人。

  「そういえば柴田は?」

  「ああ、ライン送ったら、心配するなってだけ返信きてた」

  猫村は言う。

  「まあ、樋口と違って相手は女の人だから大丈夫だと思うけど……」

  そんなことを話していると。

  がらがらがら。

  「みんな集まってますか?」

  扉が開いて、外から担当教授が入ってくる。

  大柄な男性獣人だ。

  紺のスーツに身を包み、黒縁の眼鏡をかけた、いかにも真面目そうな虎獣人。

  「昨日はすみませんでした。父親の三回忌があったので、お休みさせていただいたんですよ」

  柔らかい物腰ですまなさそうな顔をする虎獣人の顔を見て……僕の顔が硬直した。

  「あれ、全員集まっていないようですね。柴田くんはおやす…っ!」

  教室を見回した虎獣人の言葉が突然途切れる。

  僕の姿を目に留めて。

  「……なんで」

  僕は呟いた。

  田沼も猫村も気づいてないのだろう。

  あれは一瞬の邂逅だったから。

  でも僕にはわかる。

  1晩一緒に過ごした僕には。

  「……虎鉄さん」

  僕は誰にも聞こえないような小声で呟く。

  そう、目の前で人の良さそうな顔で教壇に立っているのは、虎鉄さんだった。

  あのやくざのような風貌をした虎獣人。

  その虎鉄さんが、まったく別人のような風体で僕の前に立っているのだ。

  「……」

  虎鉄さんも僕の姿に気づいたのだろう。

  思いがけない現実に戸惑ったように僕を見ていた。

  「先生、どうかされましたか?」

  猫村の声に首を振る虎鉄さん。

  「いえ……ええと、自己紹介をしておきますね」

  気を取り直したように虎獣人は口を開く

  「みなさんの担当をする、心理学部教授の寅村虎鉄です、これから4年間、よろしくお願いしますね」

  にこやかに生徒に笑いかける。

  「寅村先生……」

  ……また会えたんだ。

  じわじわと嬉しさがこみあげて、嬉しさで涙が滲みそうになる。

  『もしも……もしも、もう一度達也に出会えたなら……それは運命だと思って、今度こそお前を俺の嫁にしちまうからな』

  虎獣人はそう言ってくれていたのだから。

  嬉しさを噛み締めるそんな僕に向かって、虎村先生はにこやかに笑顔をみせた。

  だが眼鏡越しのその鋭い視線は、昨夜街で見せたものと同じだった。

  獲物を狙うような鋭い視線。

  それが僕に向けられているのだ。

  「樋口くん、でしたね」

  名簿を見ながら虎獣人は告げる。

  「ちょっと伝えておきたいことがあるので、授業の後、私の部屋に来て下さい。……もちろん、1人きりでね」