雨が降り続く空の下。ゆたゆらと揺れる蝋燭の灯りを見つめる小さな子どもがいた。後ろから声がかかる。
「坊ちゃん、次は何をして遊びますか?」
尚も見続ける子ども。後ろから声をかけた男は少し眉を寄せている。お昼を過ぎてもう夕刻。昼からずっとこの状況なのだ。男は心配でならない。
「坊ちゃん、何か考え事ですか…?」
思い切って聞いてみた。この子どもはまだ3歳。この頃はたくさん話したり駆けたりするもの。しかし、この子どもはどこかをじっと見つめることが多く、静かなのだ。
声をかけられて初めて、それまで黙って動かなかった子どもはピクリとした。
「…じぃ。」
蝋燭を見つめたまま、子どもは後ろの男に声をかけた。
「はい、坊ちゃん。」
「…ははうえは、くるしんでいるのか?」
子どもの母親は、我が子を産んでから寝込んでいる。父親がつきっきりで妻を看病しており、子どもは母親の元に行ったことはない。
男は、子どもの口から母親についての質問を初めて聞いた。常に寡黙な子どもは、幼いながらに母親を心配していたのだ。思わず答えられなかった男を、体の向きを変えて目を合わせてきた子どもは、覚悟をしたような目で見てきた。
「じぃ、おしえてくれ。それがわたしじしんのせいであっても。」
この子どもは、母親が産後の影響で寝込んでいることを知っているのだ。出産したのは自分であり、自分が他の龍とは違う存在であることも。そして、その違いで自分が母親を苦しめてしまったのだと悟っているのだ。
「坊ちゃん。」
男は静かに話し出す。
「母君が体調を崩されているのは、坊ちゃんのせいではございません。母君はご自身がお産まれになった時から御身体が丈夫ではなかったのでございます。」
子どもは黙って聞いている。
「御懐妊された際、出産に御身体が保たないと言われておりました。しかし、番様はなんとしてもお産みになると仰ったのです。愛する人との愛の証であるから、と。」
母君から番呼びになっていることに子どもだけが気づいていた。男はにっこりと笑って続ける。
「番様は坊ちゃんをお産みになった際、泣いて喜ばれました。ご自身で面倒を見ることができなくても、坊ちゃんの声が少しでも聞こえるとそちらの方を向いて『行かなくちゃ、あの子が泣いている』と無理をしてでも起き上がろうとされていたのですよ。」
「ははうえが…」
「はい。ですから、たくさんお話ししてください。そして、泣いたり、笑ったりしてください。坊ちゃんの声を屋敷中に響かせるのです。母君は坊ちゃんの声を楽しみにお待ちしておりますよ。」
子どもは少し俯いてから顔を上げて笑った。
「じぃ、わたしにあそびをおしえてくれ。まだわたしがしたことのないあそびをたくさん。」
今頃の子どもが笑うような笑みを初めて見た男は、一度目を瞑ってから目を開けた。
「仰せのままに。…坊ちゃんにお教えしていない遊びはたくさんあります。たくさん知ってください。」
*
少し離れた部屋で目を閉じていた女性がゆっくりと目を開けて顔を動かした。
「ベルダ?起きたか?」
支えていた男が声をかける。女は掠れた声で言った。
「…える」
「ん?」
「…あの子が、笑って…る」
すぐに遊びを覚えたウィルは使用人たちに勝負を挑んでは勝利している。彼らは本気でやっても負けてしまうのだ。じぃを除いては。
「じぃ、もう一勝負だ!」
「光栄でございます。」