白い結婚式

  白、白、白。どこを見渡しても、目の前には白色ばかり。風になびいて、別の色も見えるが、すぐに見えなくなってしまう。

  街は白で覆われていた。すれ違う人は誰もが皆白い服を着ている。履き物も白いもので、頭は白い被り物で隠す者や髪をまとめるものを白い紐にしている者がいる。

  「今日はこの国の誕生祭か?」

  ある旅人が尋ねると、尋ねられた人はにっこり笑って答えた。

  「いいや、今日はこの国を統べる龍神様と番様の結婚式なんだよ。あんた、いい時にここに来たね。」

  〜

  「番様、背筋を伸ばしてくださいませ。」

  「は、はい!」

  龍神が住む屋敷の1つでは、番様と呼ばれた女性が慌てて背筋を伸ばした。後ろでは侍女が髪を綺麗に結い、別の侍女は女性の顔に化粧をしていく。

  女性の顔は強張っていた。これから控えている式への緊張で顔は笑えない。

  「番様、ご安心ください。綺麗に仕上がっておりますよ。」

  「う、うん。」

  「今日の番様はいつにも増して美しいです。龍神様がご覧になったら天候が崩れてしまうやもしれませんね。」

  「う、うん。」

  緊張で聞いているのか、聞いていないのか。女性は同じ返事しかしていない。後ろで仕上がりを見守っている侍女が言った。

  「番様、お子様たちのことはご心配なく。別の者が仕度を手伝っております。完了次第、番様の元へお連れになります。」

  「う、うん。あの子たちは、大丈夫そう?」

  「ご心配なく。いつもの様子と違うことに胸を躍らせていらっしゃるご様子です。」

  あれから3年。龍神と番の間に生まれた双子はすくすくと成長し、そろそろ、ということで式を挙げることが決まった。

  〜

  「さぁ、終わりました。」

  「番様、いかがですか?」

  侍女たちが数歩下がって番を見る。女性は立ち上がって鏡で確認した後、侍女たちの方を向いて言った。

  「とっても素敵。みんな、ありがとう。」

  彼女の言葉に侍女たちは頭を下げた。

  〜

  「ウテナ。」

  侍女の手に手を乗せて移動した先には、彼女が愛している人が笑ってこちらを見ていた。

  「ウィル…。」

  ウテナと呼ばれた番は龍神であるウィルの手に自分の手を乗せた。

  「とても綺麗だ。今日は感情を抑えるのが大変だな。」

  「みんなが困らない天候ならなんでも大丈夫だよ。無理に抑えて苦しくなるウィルは見たくないから。」

  「ウテナ…!」

  ワッと外が騒がしくなる。何事かとウテナがキョロキョロすると、侍女が耳元で教えてくれた。

  「空に虹がかかったのです。龍神様の心情の表れでしょう。」

  ウテナが見た先でウィルは本当に嬉しそうに笑っていた。

  〜

  「龍神様、番様のお出まし!」

  その言葉で2人が民衆の前に出てくる。それと同時に、ワッと声が上がった。ウテナはその勢いに思わず圧倒される。

  どこを見ても白。みんな嬉しそうにこちらを見て、声をあげている。おめでとう、ありがとう、お幸せに。その言葉が飛び交う。

  「それでは宣言をさせていただきます。」

  司祭の言葉に歓声は止まる。互いを愛し合うことは、番という存在と惹かれ合うのは当然なので誓いを立てることはない。番同士がめでたく結ばれたことを宣言することが結婚式で1番大切なことなのだ。全員が宣言を聞くべく、耳を澄ませている。

  「今ここに、1つの番が揃った。」

  司祭の厳かな言葉が響き渡る。

  「我らが龍神様が番様を迎えられた。」

  その言葉に、ウィルはウテナの手を握る。白地に金の刺繍が施されたウィルの衣装は、日に当たってきらめいている。対してウテナの衣装は、同じ白地のドレスに、胸元に桃色の花が挿されていた。

  「龍神様の安寧の下、この祝福が永く続くよう、その祝福がみなにも伝わるよう願って、ここに新たな夫婦が誕生したことを宣言する。」

  再び、ワッという歓声が巻き起こった。ウィルはウテナの腰に手を回して民衆の方を向くと、手を振って応える。それに倣って、ウテナも手を振ると、民衆はさらに大きな歓声と共に手を振り返した。

  〜

  一旦民衆の視線から離れた2人は、少ししてから再び姿を現した。ウテナは先ほどと同じ衣装だが、ウィルは違った。そもそも、人の形を取らず、龍の姿となって飛んでいるのだ。最愛の人をその背に乗せて。

  本来なら四龍が龍の姿で夫婦が乗った輿を引きながら飛ぶのが通例だが、ウィルがウテナを自分の上に乗せると言って聞かず、四龍はウィルの周りを飛ぶ形になっている。ウィルの背の上に乗るウテナは、手元に抱えてある籠の中から桃色の花びらを民衆に向かって撒いた。今まで孤独に生きていた龍神の元にやってきた番は龍の世界に春を呼んだようなもの。春の訪れを象徴するかのようなこの儀式は、誰もが喜ぶ。花びらが手のひらに落ちてくれば、自分に幸運が舞い降りるとまで言われるほどだ。

  子供たちは喜んで花びらを掴みに行き、見事捕まえられた子は次々と龍の姿になってその場でくるくると回る。大人たちは花びらが舞う中を、龍神の象徴である白い布を振って2人を祝福する。老人たちは、膝をつけてただただ頭を下げる。

  ウィルとウテナは何度も回っては花びらを撒くことを繰り返した。