【番外編:主様は寝かせてもらえない】(朱雀&銀郎×夕陽)※R描写あり

  (※性的描写あり)

  その日、夕陽は穏やかに告げた。

  「これは、部外者を伴ってはいけない任だ。すまないが、留守を頼む」

  目的地は、遥か東の外れ。同行するのは影祓いの一人、朝影。夕陽が“個人”として出向く極秘任務であり、朱雀と銀郎の名が表に出るわけにはいかなかった。

  出発の朝、まだ陽も昇りきらぬうち、家の前でふたりは静かに見送った。

  朱雀は何も言わなかった。銀郎も、ただ頷いただけだった。けれど、どちらの目にも映っていたのは、焚き火の火が風にさらわれるような、ぽっかりとした喪失。

  その日から、家の中はまるで魂を抜かれたように静まり返った。

  二週間後。

  門をくぐった瞬間だった。

  どこからともなく風を切る音がして、気づけば朱雀が走ってきていた。

  「夕陽様――っ!」

  そのまま勢いよく飛びつき、夕陽の胸に抱きつく。赤い尻尾はぶんぶんと嬉しげに揺れ、顔を埋める肩口には微かに鼻を鳴らすような気配すらあった。

  「本当に、無事だった……よかった……!」

  ぎゅうっと締めつけられるような抱擁に、夕陽はふっと微笑む。

  その様子を、少し離れたところから静かに見守っていたのが銀郎だった。

  「……無事のご帰還、何よりです。お疲れ様でした」

  深々と頭を下げる声は穏やかだったが、その腰の銀色の尻尾が、控えめに左右へ揺れているのを夕陽は見逃さなかった。

  そっと、朱雀の頭を撫でながら、夕陽は銀郎の方へと視線をやる。

  そして、まるで幼子に手招きするように、片手を優しく差し出した。

  銀郎の肩がわずかに揺れた。次の瞬間には、もう足音もなく傍らへ来ていた。

  「……っ、失礼します」

  低くつぶやき、朱雀の背中越しにそっと、けれどしっかりと抱きついた。

  夕陽の濃紺の羽織の端がふわりと揺れて、三つの鼓動が重なる。

  ただ、それだけの再会が、涙が出そうなほど、満ち足りていた。

  その夜、寝所は静かだった。

  朱雀と銀郎は並んで布団に横たわり、仰いだ天井に、遠い心を重ねていた。

  「なあ、銀郎」

  「……何だ」

  「なんか……手を伸ばせば届くのに、遠いなって、思ってる」

  「……私も、同じことを考えていた」

  ――今ごろ、主様はもう眠っただろうか。

  あれほど疲れていたのだから、きっとぐっすりと――

  ……と、そのときだった。

  廊下の先、かすかな足音。

  ピシリと床板が鳴って、襖の向こうから、優しい声が届いた。

  「……入っていいか?」

  驚いて顔を見合わせる二人。

  銀郎がそっと身を起こして襖を開けると、そこには、どこか所在なげに立ち尽くす夕陽の姿があった。

  「夕陽様……どうされました?」

  控えめに問いかけると、夕陽はきまり悪そうに俯き、小さくつぶやく。

  「ちょっと……淋しくてな。こっちで寝てもいいか?」

  その言葉に、朱雀の耳と尻尾がぴくりと動く。

  銀郎の胸の奥も、熱くなるのを感じていた。

  ――夕陽も、自分たちと同じだったのだ。

  強くて優しくて、いつも守ってくれる主様が、同じ孤独を抱えていたことに嬉しさが込み上げる。

  「夕陽様」

  呼びかける声は低く、どこか喉の奥でくすぶる熱を孕んでいる。

  「それってさ……俺たちに抱かれてもいいってことだけど、わかってて言ってる?」

  ふいに投げられた朱雀の言葉に、夕陽の肩がぴくりと動いた。

  返事はない。ただ、ゆっくりと視線だけが朱雀に向けられる。

  その頬には、かすかな赤み。

  銀郎の横でそれを見た朱雀は、心底楽しげに笑った。

  「……もう。せっかく今日は、ゆっくり休ませてやろうとしたのにさ」

  朱雀は夕陽の背中に手を回し、ぐいと引き寄せ――

  「……あとで、やっぱり止めた、とか言わないでね?」

  低く呟いた声は、どこか震えていた。

  その隣で、銀郎もそっと腕を伸ばし、夕陽の手を包むように握る。

  「おそばにいてくださって、ありがとうございます……夕陽様」

  ふたりに挟まれるようにして、夕陽が微笑む。

  寂しさを温もりで埋めるように、静かで優しい夜(?)が、再び始まった。

  朱雀の指が、背後から夜着の合わせを乱し、素肌へと滑る。

  夕陽が小さく身じろぎすると、朱雀はその反応に喉を鳴らして、さらに身を寄せた。

  「……がっつくな、朱雀」

  銀郎の声が低く落ちる。

  「乱暴にするな。手荒く扱うな。……夕陽様は、帰ってきたばかりなんだ」

  朱雀は一瞬だけ動きを止め、ちらと銀郎を睨む。

  「わかってるよ。でも、俺だって、ずっと我慢してたんだ」

  そう言いつつも、手つきは幾分か和らいだ。

  夕陽は朱雀に背を預けたまま、銀郎と向かい合うように座っていた。

  そのまま、唇を――誰かの指が、そっとなぞる。

  触れるか触れないかの繊細な距離。銀郎だ。視線を向けずとも、その手の熱で分かる。

  「……前戯くらい、させてください。あなたの体は、急がず慈しむべきものですから」

  囁くような声音に、胸が微かに波打つ。

  銀郎の手が、掌、指先、肩口、そして首筋へと、敬虔にも似た手つきで撫でていく。

  くすぐったさの奥にある熱が心地よくて、思わず瞼を閉じた。

  そのとき、背後で朱雀の呼吸が荒くなる。

  朱雀の胸が、夕陽の背に押し付けられるほどに寄ってくる。

  「……っ、朱雀――」

  名を呼んだ瞬間、銀郎の手がそっと離れた。

  その熱を惜しむように、肌がひくりと震える。

  だが銀郎は完全には背を向けなかった。

  視線を外そうとしても、ちら、とこちらを見ているのがわかる。

  その目が、朱雀に煽られていく自分を映していると思うと――余計に、熱が昇る。

  「……乱暴にするなよ」

  低く漏れた銀郎の声が、かすかに揺れていた。

  その声音に、責められているのは朱雀でもあり、自分自身でもあるように感じて――夕陽は息を呑む。

  次の瞬間、朱雀の腕がぐっと夕陽の腰を引き寄せ、体が後ろへ傾いた。

  支えを失ったように、夕陽の背が布団に落ちる。

  仰向けに寝かされた体に、朱雀の熱が覆いかぶさった。

  代わるように、朱雀の唇が、夕陽の唇を塞ぐ。

  深く、強く、息を吸われるような口づけ。

  目を開ける暇もなく、ただその熱に沈められていく。

  「夕陽様、夕陽様……」

  名前を呼ぶ声が、耳元で溺れそうなほど繰り返される。

  囁きというより、もう呪文のようだった。

  押し寄せるキス。甘噛み。舌先でなぞるように耳たぶを奪われ、首筋に齧りつかれる。

  とにかく彼は、欲しいと思った分だけぶつけてくる。

  愛おしい――

  でも、ちょっと待って、朱雀――

  「……っ、ん……朱、雀……」

  抗議にもならない言葉を漏らせば、今度は唇の端をぺろりと舐められる。

  「……だって、久しぶりだったから。我慢できない……」

  こぼれるような声が、どこか子供じみていた。

  夕陽の都合や体調なんて頭にない。今、触れたくてたまらない。

  そんな欲望と好意がむき出しで、正直すぎて、だから余計にたちが悪い。

  けれど、胸の奥のどこかが温かくなる。

  この子はいつだって、そうだった。

  欲しいものを欲しいと言い、寂しいと泣き、愛しいものには全力で飛び込んでくる。

  その純粋さが、ときに暴力にも似た衝動を孕むことを、夕陽はよく知っていた。

  そして今、それを受け止める覚悟を、自分は――

  「……ん、朱雀、少し……ゆっくり……」

  そう言いかけた唇に、また甘く噛みつかれる。

  「……無理。今だけ、言うこときかない……」

  目の端に銀郎の姿が見えた。

  こちらを見ようとせず、けれど明らかに耳が朱雀の声に反応して、揺れている。

  ……ごめん、と思う。けど、それ以上に――

  「……朱雀」

  そっと名を呼び、額に手を添える。

  乱れていく呼吸の中で、朱雀の瞳が潤んで揺れた。

  どうしようもなく、いとしかった。

  朱雀の動きは最初こそ荒くて、夕陽の腰を掴む手にも力が入りすぎていた。

  でも、呼びかけに応えるように、次第に動きが緩やかになっていく。

  まるで、彼の中の何かが、触れ合いの中で溶けていくようだった。

  「……夕陽様、あったかい……」

  かすれた声が、喉奥からこぼれる。

  目を伏せた朱雀は、まるで子供が大切な毛布を抱きしめるように、夕陽の胸に額を押し当ててくる。

  強引に奪うばかりだった唇が、今は震えながら何度も額に、頬に、首筋に、愛しげに触れてきた。

  「……俺、ずっと……さみしくて……」

  涙混じりの囁きが、心を締めつける。

  その体温を、震えを、肌で感じながら、夕陽は背中にそっと手を添える。

  「……私も、同じだったよ」

  小さな声に、朱雀がぴくりと震えた。

  それだけで、彼の動きはまた変わった。

  衝動ではなく、確かめるような動きへ――触れ合うたび、心を探すように。

  そして、朱雀の背にある赤い尻尾がゆっくりと揺れる。

  横目にちらりと、銀郎の姿が見えた。

  相変わらず、彼は座ったまま身じろぎもしない。

  でも――その銀色の耳が、今はわずかに伏せられていた。

  「……がっつくな、乱暴にするな、手荒く扱うな」

  低く、静かな声。

  怒っているようで、どこか切なさもにじむ。

  夕陽と視線が交わると、銀郎はすぐにそれを逸らした。

  だが、その耳と尻尾は嘘をつけない。

  じっと見ていなければ傷つきそうで、でも、目を背けても離れられない。

  そんなふうに、じっと息を潜めて見守っている。

  「銀郎……」

  呼びかけようとした唇に、朱雀がまた口づけを落とした。

  「……やだ。今は俺だけ見て……」

  子供みたいに拗ねた声で、朱雀は夕陽の両頬を掴む。

  視界が彼の赤に染まった。

  ……まったくもう。どうしてこうも、放っておけないのだろう。

  愛しさが、満たされていく。

  体も、心も。

  そして――朱雀が震える息とともに、深く果てる。

  ぎゅっと抱きしめられたまま、朱雀の体が小刻みに揺れ、夕陽の肩に濡れた吐息が触れた。

  何かを押しつけるように、すがるように抱きしめられて、夕陽はその頭を優しく撫でる。

  「……おかえりなさい、夕陽様」

  ずっと待ってた、寂しかった、やっと会えた――そんな想いが詰まった言葉。

  「……ただいま、朱雀……」

  熱が静かに引いていくなか、残るのは確かな温もりと、心地よい疲労。

  そして、銀郎の視線――

  まだ彼の時間は、始まってすらいない。

  ――ようやく朱雀の熱が引き、乱暴にほどかれた着物の裾を銀郎がそっと整える。

  「……お疲れ様でした、夕陽様」

  その声は、どこまでも優しく、静かだった。

  けれどその瞳の奥には、朱雀を睨み据えた鋭さと、火照りを滲ませた熱が入り混じっている。

  「“お疲れ様”って、なんで俺が迷惑かけたみたいになってんの?」

  「事実、乱暴だったろう。夕陽様が乱れている間、お前がどれだけ荒かったか……」

  銀郎の声はあくまで穏やかだが、語尾に刺が混じる。

  「……うっさいな。愛が溢れただけだっつの」

  ぽつりと零れた朱雀の言葉に、夕陽は思わず苦笑して、ふたりの間を見上げる。

  喉が乾いている。思うように声が出ず、掠れた声が喉奥で甘く揺れるのがわかる。

  そんな自分を見つめる銀郎の瞳が、静かに揺れていた。

  「すぐにはしません。……でも、抱かせてください。私の愛し方を、覚えていてほしいんです」

  夕陽が目を伏せ、唇を噛む。銀郎はその手を取り、そっと額に当てた。

  「痛いところはありますか? 冷たい手で、すみません……でも、丁寧に、いたします」

  耳元にかかる吐息さえも、朱雀の熱とはまるで違う。

  銀郎の唇はそっと、夕陽のこめかみに触れ、首筋をなぞるように降りてゆく。

  「ゆっくり……ほぐして、いきますね。貴方が痛まぬように」

  夕陽がぎゅっと目を閉じる。すでに身体は火照りきっていたが、それでも銀郎の指先が触れるたび、別の感覚が波のように押し寄せる。

  やがて銀郎は、夕陽の白い夜着の紐を解くと、そっと胸元に頬を寄せた。

  「……綺麗です。どこも、傷つけたくない。……私の愛で、もう一度、満たさせてください」

  朱雀の激しさで疲弊した身体に、銀郎の慎重な手つきが滑り込む。

  ひとつひとつ確かめるような愛撫が、やがて甘い熱を灯し直す――。

  銀郎の手のひらが、静かに夕陽の腰にまわされる。

  指先は熱を帯びているのに、触れ方はどこまでも繊細で、まるで壊れ物でも抱くような、慈しみに満ちていた。

  「……そんな顔、されると……」

  夕陽の吐息が熱を含む。

  疲れているはずなのに、銀郎の優しい指が、肌の上をなぞるたび、胸の奥に甘い疼きが灯る。

  「申し訳ないと、思わないでください。……貴方を愛することが、私の救いなんです」

  銀郎はそっと夕陽の頬に口づける。

  額に、瞼に、鼻筋に、唇の端に――一つ一つを確かめるように。

  それはまるで、恋を告白するような、祈りにも似た口づけだった。

  そのまま銀郎は、夕陽の白い夜着をそっと開き、露わになった胸元に指を這わせる。

  「傷んでませんか……? 朱雀が……強引でしたから」

  「……っ、もう……いい、おまえまで……」

  拒む言葉の端が震えていた。

  快楽ではなく、銀郎の優しさに、心がほどけてしまいそうで。

  銀郎はその震えをすくい取るように、胸元へ唇を落とす。

  そのまま肌をなぞり、言葉を交えずに、熱を伝えていく。

  愛撫は緩やかで、けれど確かに深く、夕陽の感覚をじわりじわりと溶かしていく。

  「夕陽様、ここ、……もう、こんなに」

  「言うな、っ……黙って……っ」

  けれど銀郎の指先は黙らなかった。

  朱雀が荒らした跡を、丁寧に、何度も撫でて、ぬるく絡める。

  「……私だけ、覚えてください。朱雀ではなく……私の形を、声を、手の熱を」

  銀郎の低く抑えた声は、夕陽の耳朶に絡みつき、喉奥に甘い痺れを残す。

  もうやめてくれと叫びたくても、銀郎の舌が触れるたび、身体が正直に反応してしまう。

  銀郎の身体がゆっくりと夕陽の上に重なる。

  けれどその動きに荒々しさはない。ただ、覆い尽くすように、絡みつくように、逃がさぬように――全身で夕陽を包み込む。

  「……もう、他の何にも触れさせたくない。私のものになってください。今度こそ、ちゃんと……」

  囁きは耳元に落ち、低く湿った声が、意識の深いところに染み渡る。

  銀郎の手は、丁寧に、ねっとりと肌を撫でる。

  なぞる指は柔らかく、けれどその軌跡には欲が滲む。どこまでも独占欲にまみれていた。

  「朱雀にされたところ……全部、私の痕で塗り替えますね。どこもかしこも、私だけのものに」

  乳首を指で軽くなぞったかと思えば、口に含み、唇と舌でねぶるように味わう。

  ちゅっ、ちゅく、と控えめな水音が、余計に淫靡な空気を濃くする。

  「んっ、……ぁ……や、やめ……っ、」

  声に抗う気配は薄い。

  銀郎のやさしい執着が、じわじわと理性を溶かしていく。

  「夕陽様……身体は、こうして従順に応えてくれるのに、まだ心を許してくださらないのですね」

  太腿を撫でながら、指先はその奥へとじりじりと進む。

  秘部をなぞり、軽く開いて、残っていた熱と名残を確かめるように触れる。

  「朱雀の残り香がまだ……でも、大丈夫。全部、私で満たしますから」

  銀郎は焦らさず、しかし急がず、ただただ念入りに愛でる。

  夕陽が息を詰め、腰を引こうとすれば、それを逃さぬよう腕をまわして抱き寄せる。

  「逃げないで。お願いです。……私を、見て。私だけを」

  唇を重ねるとき、涙が滲むほどの熱がそこにあった。

  何度も舌を絡め、啜るように、何度も口づけて、夕陽の呼吸を奪っていく。

  その奥に、自分を許してもらいたいという願いと、許されなくても構わないという執念が入り混じっていた。

  「――……もう、入りますね。奥の奥まで……貴方の全部に、私を刻ませてください」

  そう囁いて、銀郎はゆっくりと身体を重ねていく。

  優しく、しかし深く、執拗に。

  まるでひとつに溶けて、境界を消してしまうように。

  銀郎の動きはとにかく丁寧だった。

  深くまで一度沈めたあと、すぐには動かない。ただぴたりと密着したまま、夕陽の中の熱と震えを確かめている。

  夕陽は瞳を伏せたまま、わずかに眉を寄せて唇を噛んでいた。

  声にならない吐息が漏れ、その喉元を、銀郎がそっと舌先でなぞろうとした瞬間。

  「……しつけぇなお前、まだやってんの?」

  投げやりな声が、横から投げかけられる。

  その声の主、朱雀は肘をついて身体を起こしていた。乱れた夜着を肩に引っ掛けたまま、頬杖をついてこちらを見ている。

  「俺ん時よりずいぶんねっとりしてんじゃん。……ってか、夕陽様の反応、違くね? 乱れすぎじゃない?」

  銀郎がぴくりと肩を震わせた。けれど返事はせず、ただ指先で夕陽の髪をすくい、こめかみに口づけを落とす。

  「……そう見えるなら、そうなんでしょうね」

  「はあ? 何その余裕……。ってか、ちょっと悔しいんだけど」

  朱雀の目が、銀郎と夕陽の絡み合う身体を見つめたまま、じり、とこちらににじり寄る。

  「俺もこんな顔、させたかったんだけどな。なあ、夕陽様」

  その声には冗談めいた響きと、否定できない本気が混ざっていた。

  夕陽は応えず、ただ銀郎の背をぎゅっと抱きしめた。

  言葉はなくても、その手の動きがすべてを語っている。

  「……やっぱずりぃわ、銀郎。そんなふうにされて、夕陽様も気ぃ許すに決まってんじゃん」

  銀郎は振り向かず、ただ淡く笑った。

  「私は、夕陽様の全部を愛したいだけです。……誰にも、譲りたくない」

  「なにそれ……っ、ズルすぎんだろ……」

  朱雀がぽつりとこぼすと、もう一度布団に崩れ込んだ。

  けれどその赤い瞳は、きっちりと、銀郎に抱かれて乱れる夕陽を映し続けていた。

  「いいよ……せいぜい気持ちよくさせてやんなよ。俺の時より、もっと……」

  その呟きが、まるで嫉妬を塗り込めた呪いのように、静かな空間に沈んでいった。

  銀郎は、朱雀の視線を意識しながら、改めて夕陽に顔を寄せる。

  「見られても、いいですよね。夕陽様……これ以上ないくらい、私だけに乱れてください」

  そして――ふたたび、深く、結びついた。

  銀郎の動きは、はじめこそ慎重で優しかった。けれど、夕陽が彼に縋るように腰を揺らし、快楽に喘ぐたび、その奥底で抑えていたものが少しずつ溢れていった。

  「……夕陽様、もう少し……我慢を……」

  そう囁く声は震えていた。首筋に噛みつくようなキスを落とし、内側を這うように擦って、突き上げて――快感の波が絶え間なく押し寄せる。

  「……あっ、銀郎、も……だめ……っ」

  何度目か分からない絶頂の余韻に震えながらも、夕陽の身体は、まだ快楽に抗えず、銀郎を求めるようにしがみついていた。腰が、膝が、布団の上で小さく跳ねる。

  その様子を見ていた朱雀が、枕に顔をうずめたまま、ぼそりと毒を吐く。

  「……あーあ、絶対、俺の時よりイってる」

  「……嫉妬ですか?」

  銀郎は淡く笑いながら、夕陽の中に熱を注ぎ込むべく、ゆっくりと深く突き立てた。

  「っ、――っあ、……ぅ……!」

  抑えたくとも溢れてしまう声。快感が胸の奥に、骨の芯にまで届き、夕陽の背が仰け反った。白い夜着が肌にはりつき、汗と涙に濡れた睫毛がかすかに震える。

  「……夕陽様、私も……もう、限界です……」

  銀郎が耳元で囁いた刹那、深く押し込んだまま、その奥へと果てた。

  「……あ……っ……ん……っ」

  夕陽の身体が一瞬、びくりと跳ねる。銀郎の熱が内側に広がっていく感覚に、思わず目を閉じ、震える指がシーツを強く握った。

  「……はぁ……っ……銀郎……」

  彼の名を、掠れた声で呼ぶ。銀郎は満足げに額を重ね、その手で夕陽の髪をそっと撫でた。

  「……愛しています、夕陽様」

  その言葉に、朱雀が枕をぶん投げた。

  「……はいはい、ごちそうさま。次、俺の番な」

  息も絶え絶えの夕陽が、反射的に銀郎の胸に顔を埋める。

  「……む、無理だ……今日は、もう……寝かせてくれ……」

  けれど、当然その願いは――聞き入れられなかった。

  ***

  障子の向こう、虫の音だけが囁くように響く夜。

  川の字に並んだ布団の真ん中で、夕陽は目を閉じていた。

  けれど、眠ってはいなかった。

  脱力した身体の奥に、熱の名残がまだ燻っている。

  ぐったりと横たわり、浅い呼吸の奥、微かな緊張が胸の内を撫でていく。

  右手には朱雀の気配。左手には銀郎の気配。

  どちらも静かに寝息を立てているように見えて――

  だが、ほんの少し、空気が揺れた。

  ふと、左から銀郎の指がすっと伸びて、夕陽の髪に触れた。

  流れる髪をそっと掬い、耳の輪郭をなぞる。

  そして、音もなく、唇を寄せて――

  「……っ」

  耳朶にふれた舌先の熱に、夕陽は思わず吐息を洩らした。

  ほんの微かな声だったが、それは右側の朱雀の耳にも届いた。

  「……銀郎、なにやってんだよ」

  朱雀の声が低く唸るように響く。

  だがその声もまた、どこか熱を孕んでいた。嫉妬と、焦れたような興奮と――抗えぬ衝動。

  「寝てると思ったんです。でも……こんな声、出されたら……」

  銀郎の声はまだ冷めやらぬ熱を帯び、抑えきれない欲がにじみ出ていた。

  再び耳を舌で撫で、吐息をそっと吹きかける。

  「や……っ、あ、……やめ……」

  夕陽の声が、くぐもった甘い音でこぼれる。だがその手は、もう疲れ果てて抵抗する力を失い、二人を受け入れていた。

  朱雀が、ぐっと体を乗り出す。

  銀郎の腕を押しのけるようにして、自分も夕陽の首筋に頬を寄せ、舌を這わせた。

  「声、出すなよ……また俺も、止まんなくなるだろ……」

  その低く掠れた声に、夕陽の背筋がぞくりと震える。

  「……ま、待て、ほんとに、もう、今日はこれ以上、無理だ……。寝かせてくれ……」

  夕陽の微かな呟きを、銀郎も朱雀も聞き逃さなかった。

  「もう、遅いですよ――」

  「それは無しでしょ。俺たちをこんなに煽っといて、今更逃げる気?」

  「――違っ……」

  微睡みの静けさは破られ、布団の中に、熱がじわじわと満ちていく。

  交錯する舌、重なる吐息、ふたりの銀妖の愛撫に、夕陽の理性は少しずつ、ゆっくりと溶かされていく。

  舌が首筋を這うたび、熱がじんわりと広がっていく。

  銀郎の唇が耳朶を優しく啄み、朱雀の指先が肩のあたりから衣をそっとずらす。

  夕陽は微かに身をよじるが、どちらの手も、もう離れてはくれなかった。

  「……うう……ふたりとも、少しは……私の歳も考えてくれ……」

  「なに言ってんの、まだ若いでしょ」

  「おまえたちほどじゃーー」

  言葉は最後まで続かなかった。

  銀郎の舌が、鎖骨のくぼみに沈んだ瞬間、夕陽の口から、耐えきれない吐息が洩れる。

  「……やっぱり……かわいい声、出すんだな。夕陽様って」

  朱雀の声が低く、ぞくりとするほど熱を含んでいた。

  その声と共に、指先が胸元に触れ、ゆっくりと撫であげてくる。感触を確かめるように、まるで何度も夢に見た宝物をなぞるように。

  「銀郎の時とは……違う顔、してる」

  挑むような声で囁かれ、夕陽は眉を寄せる。

  「馬鹿なことを……」

  けれどその声音は、抗うにはあまりにも心許なく、朱雀の言葉を否定しきる強さはなかった。

  銀郎の手が、夕陽の手をそっと取り、その指先に唇を落とす。

  「違わない……私の時も、朱雀の時も……いつも、綺麗なんです。

  でも今夜は……ふたりとも一緒にいる。だから、誰にも譲らない。どちらにも、譲れない」

  手の甲に伝う舌の感触が甘く、熱い。

  朱雀が低く笑いながら、夕陽の耳元に唇を寄せる。

  「なあ、夕陽様。今夜だけでいい。……俺たちふたりとも、もっと、抱いて」

  「……言ったな、朱雀……っ」

  銀郎の声がかすかに震える。その瞳には、羞恥と焦燥、そして抑えきれない想いが滲んでいる。

  夕陽は、ゆっくりと目を開けた。

  真上から覗き込むふたりの銀妖。どちらも、違う光を宿した目で、ただ真っ直ぐに自分を見つめている。

  ――このふたりに、こんな顔をさせるのは、きっと自分だけだ。

  「……お前たちには、敵わないな。……じゃあ、もう、本当に、今日だけだからね……」

  その言葉を合図に、ふたりの手が夕陽の体を同時に包み込む。

  左右から注がれる熱。指先が絡み、舌が交差し、愛撫は徐々に、深く、繊細に、そして狂おしいほど激しくなっていく。

  左から銀郎の吐息が頬を撫で、右から朱雀の手が腰をゆっくりと辿る。

  夕陽は目を閉じたまま、ひとつ息を吐いた。

  今夜だけは、強さも理性も置いていこう――そう決めたのは、どちらの熱も、あまりにも真っ直ぐだったから。

  優劣ではない。比べるものでもない。

  けれどふたりの愛し方は、あまりにも違っていた。

  銀郎は、怖いほどに丁寧で、壊れものに触れるような指先で、ひたすらに優しい。

  触れられるたびに、自分の奥にある孤独や痛みが、何かあたたかなもので包まれていく気がした。

  一方で朱雀は、衝動のままに貪るような情熱を抱えていて、けれど芯は脆いほど繊細で、ただ「好き」という気持ちだけでぶつかってくる。

  押し寄せる波のような愛撫に、息を飲んだ。

  (……こんなにも、私は……求められていたのか)

  片方の耳を朱雀に甘く吸われ、首筋に銀郎の指が触れた瞬間、思わず腰が揺れる。

  理性をなだめる声も、今はどこにも見当たらない。

  どちらの唇も、どちらの舌も、どちらの愛も、愛しいと思った。

  交差する手のひらが、自分の身体の上で重なり、混じり合い、次第に区別がつかなくなっていく。

  「夕陽様……もっと……触れても、いいですか?」

  「俺にも、遠慮しないで……おまえが欲しいって、ちゃんと俺にも……言ってよ」

  そんなふうに、左右から名前を呼ばれる。

  震える声で。低く囁くように。

  それはまるで、心の奥をそっと撫でられているようだった。

  胸元に這う指が重なり、熱を持った唇が肩口に触れた。

  どちらか一方を振り払うことなど、もうとうにできなくなっていた。

  「……おまえたちは……本当に、どうしようもないくらい……」

  小さく笑った夕陽の声に、朱雀と銀郎は一瞬、動きを止めた。

  だが、次の瞬間には、まるでその言葉が合図だったかのように、ふたり同時に夕陽の唇へと触れた。

  左右から重なる熱。

  舌が、指が、声が、どこまでも溶け合っていく。

  どちらが先かなんて、もうわからない。

  けれど、今だけは確かに、この腕の中にあるすべてが、夕陽のもので――

  そして、夕陽もまた、ふたりに抱きしめられていた。

  唇を奪われながら、首筋を這う舌と、胸元を這う指先――

  すべてが甘く、切なく、溺れるような快楽を誘っていた。

  夕陽の瞼の裏には、熱に霞むふたりの姿が揺れている。

  片や、やや低い体温の朱雀は、耳元をぬるく舐め、時折、囁くように熱を注ぐ。

  もう片方の銀郎は、どこまでも慎ましく、だが確かに、夕陽の鼓動をなぞるように指を這わせ、肌の奥に潜り込もうとしていた。

  ――心を、見透かされているような愛撫だった。

  「……ここが、気持ちよいのですね」

  囁かれる声は穏やかで、それゆえに抗えない。

  押し寄せる波を前にした小舟のように、夕陽の身体は銀郎の指先ひとつで揺れていく。

  「や、……め……少し、待って……っ」

  言葉にならない声が喉奥から漏れた。

  それを朱雀が聞きつけて、さらに耳元を深く吸う。

  体の奥が、熱を帯びている。

  意識がとろけていく。

  指先から零れる音、震える息、ふたりの熱が渦を巻くように重なり、どうしようもなくなっていく。

  「我慢しないでください。……今夜は、私たちが全部、受け止めますから」

  銀郎の手が、指が、喉元を撫でて下り、夕陽の秘めた部分へと辿り着く。

  そこを、まるで宝物を扱うように丁寧に、包み込むように撫でられた瞬間――

  「……あっ……、ぁ、ぁ……っ!」

  喉の奥から漏れた吐息は、自分のものとは思えないほど甘く、掠れていた。

  腰が跳ねた。

  喉が鳴った。

  感情も声も、指先の熱に溶かされるように。

  硬くなっていたものが、銀郎の掌で震え、あふれ、最後の熱をぶつけるように果てた。

  銀郎は一度も急かすことなく、すべてを受け止め、静かに撫でながら夕陽の呼吸が落ち着くのを待っていた。

  視界の端で、銀郎が静かに手を引くのが見えた。指先には、まだ夕陽の名残がかすかに絡んでいる。

  朱雀もまた、耳を離し、顔を寄せてくる。

  「……夕陽様……可愛すぎて、やば……」

  「……っ……お前たちは、本当に……」

  ――駄目だ。思考が霞んで、うまく言葉が出てこない。

  胸の奥に残った熱と震えだけが、まだ確かに余韻を刻んでいる。

  だが、それすらもほんの束の間だった。

  「……夕陽様」

  ふいに耳元で、朱雀の声が囁いた。

  震えるような、けれど深く潜った声。

  その呼びかけに、夕陽はゆるく目を開けた。視界に映ったのは、朱雀の伏せ目がちの横顔。頬を染め、唇をかすかに噛んでいる。

  「俺も……触れていい?」

  その声には、朱雀なりの遠慮と、抑えきれない焦がれが滲んでいた。

  返事をするより先に、朱雀の指先が、夕陽の頬にそっと触れた。

  手のひらが熱い――それが愛しさからなのか、ただの昂ぶりか、もはや判別できない。

  「銀郎ばっかり、ずるい……俺だって……夕陽様のこと、誰よりも――」

  ふいに、唇にやわらかな熱が触れた。

  舌を差し出すような甘い口づけではない。ただ、ぴたりと唇を合わせるだけの、切実なそれだった。

  (……朱雀)

  思いは、声にならなかった。けれど朱雀は、まるで心を読んだように、夕陽の頬に額を預け、微かに震える声で続けた。

  「俺にも……ちょうだい。夕陽様の、今を……全部」

  朱雀の言葉は、熱を帯びた風のように夕陽の耳朶を撫で、胸の奥をざわつかせた。

  ほんの少し前まで果てていた身体が、まるでそれを思い出そうとするように、呼吸の奥をくすぐる。

  朱雀の手が、ゆっくりと胸元へと滑りこむ。

  その動きは不器用なくせに、どこか必死で、どこまでも優しかった。

  (やめておけ……私はもう……)

  そう思っても、言葉は声にならない。

  朱雀の手がそっと脇腹に触れた瞬間、夕陽の体はぴくりと震えた。

  微かな吐息が漏れ、それを聞いた朱雀の目が、ぱっと熱を宿す。

  「……反応してる、夕陽様……」

  耳元で囁かれたその言葉に、恥じるような熱が頬を染めた。

  だが、朱雀はその羞恥すら愛おしむように、指先で胸の尖りを撫でる。

  「……っ……」

  唇が鎖骨のくぼみに落ちた。

  濡れた舌が、そこにひとつ熱を描いていく。

  「ねぇ、夕陽様……、俺でも、気持ちよく、なって……?」

  朱雀の手は、ゆっくりと下腹へと滑り込む。

  果てたばかりのその場所に、もう一度火が灯りかけている。

  指先がなぞるたびに、体の奥がじわじわと疼いて、呼吸が乱れ始めた。

  「っ……朱雀……」

  その名を呼んだとたん、朱雀は顔を上げ、まっすぐに見つめてきた。

  切なげな瞳、あふれそうな感情。

  そのすべてが、夕陽の胸を撃つ。

  そして、ほんの少しだけ唇を緩めて、朱雀が囁いた。

  「もう、我慢したくない……俺だって、夕陽様に触れて……愛してるって、言いたい……」

  熱が少しずつ戻っていく身体の奥。

  朱雀の手に触れられるたび、理性の境界がふやけていくようだった。

  けれど、背後からそっと寄り添う温もりが加わったとき、夕陽の息ははっきりと揺らいだ。

  「……銀郎……?」

  囁くように名を呼んだそのすぐ耳元に、温かく湿った感触が触れた。

  首筋に舌が這い、耳の後ろをそっと啄むように吸われる。

  「……愛されていますね、夕陽様は……こんなにも……」

  銀郎の声音は、低く震えていた。

  静かで、けれど、どこまでも深くて、壊れそうなほど真剣だった。

  「朱雀だけじゃありません……私も、ずっと、貴方を……」

  囁きながら、首筋に唇を這わせ、うなじに小さく口づける。

  甘く切ないその重なりに、夕陽の体は熱を持ち始めていた。

  背中に感じる銀郎の胸の鼓動と、正面から自分を見つめる朱雀の瞳。

  「っ、……やめ……どちらか、ひとりずつ……でないと……」

  か細く洩れた抗いに、どちらも答えなかった。

  ただ静かに、慈しむように、二人の銀妖が愛を与えてくる。

  朱雀は胸元に口づけを落としながら、手のひらでじわりと温もりを包み込む。

  銀郎はうなじを這うように舐めながら、首筋にゆっくりとキスを重ねた。

  体はもう、自分のものではなかった。

  二人の熱が、音もなく夕陽をさらっていく。

  けれど、不思議と怖くなかった。

  夕陽の呼吸は、もう静かな波ではいられなかった。

  ふたりの愛撫は、まるで異なる旋律でありながら、重なるたびにひとつの調和を奏でていく。

  朱雀の手は真っ直ぐで、まるで焔のように熱く、情熱に突き動かされるように夕陽を求めていた。

  だがその指先は、驚くほど優しい。欲望のままに貪るのではなく、夕陽の反応ひとつひとつに戸惑い、愛し、慈しみを注いでくる。

  「夕陽様……ここ、こうされるの、好きだよね……?」

  「……ぁっ、……もう、……許して……」

  その声に、夕陽はただわずかに首を振った。否定ではない。ただ、答えを出す余裕がないほどに、心も体も満ちていた。

  そして背後から絡む銀郎は、対照的に静かで緩やかだった。

  唇で耳をなぞり、舌でうなじをくすぐるように撫で、指で肩から腰を撫でおろす。その軌跡がやけに切なくて、ふと涙が滲みそうになる。

  「……貴方のすべてに、心まで触れられるなら……」

  銀郎の囁きは、いつも通りの穏やかさの中に、焦がれるような情が見え隠れしていた。

  その声だけで、体の芯が震える。

  朱雀の掌が、熱を溜めるようにじっくりと愛撫を続ける。

  銀郎の指が、耳の裏に触れてそっと押し当てられる口づけに、くたりと肩が落ちた。

  「……っ、あ……もう……だめ……っ」

  そんな言葉とは裏腹に、朱雀の指が愛を刻むたび、銀郎の舌が首筋に触れるたびに、夕陽の体は正直に震えていた。

  「夕陽様……感じて……俺の手で……」

  「どうか……委ねてください、貴方を満たせるなら、何度でも……」

  ふたりの銀妖が、ひとつの祈りのように重なる。

  あたたかな手、しとやかな唇、焦がれる想い。

  夕陽の体はそのすべてを受け止めて、限界の先へと押し上げられていく。

  「っ……! あ……ぁ……っ……!」

  高まった熱が、胸の奥で弾ける。

  愛されて、優しく溺れて、果てる。

  その瞬間、名を呼ぶことさえできずに、ただ静かに目を閉じた。

  ……愛されている。この身の奥まで、そう刻まれた。

  温もりの渦の中、夕陽は静かに目を閉じていた。

  身体の奥まで溶けてしまいそうなほどに愛され、すべてを委ねたあとの余韻に、心までもが浸されている。

  ふわりと、首筋に唇が落ちた。

  銀郎だ。柔らかな髪が頬を撫で、慎ましやかな愛情がそこにあった。

  「……すみません。夢のようで……」

  背後から腕がきゅっと回り込んでくる。銀郎が、まるで貴重なものを抱くように、夕陽を包み込んでいた。

  「……貴方がこんなふうに、私たちを受け入れてくれるなんて……思っていませんでした」

  「私も、こんなふうになるなんて思わなかった。けれど……」

  そこで言葉を切り、夕陽はふたりの銀妖に目を向けた。

  柔らかく、確かに存在を抱きしめるような瞳で。

  「……今は、幸せだと思ってる。誰かの温もりを、こんなに愛おしいと思ったのは、きっと初めてだ」

  その一言に、銀郎の尻尾がわずかに揺れ、朱雀は赤い耳を伏せて照れくさそうに視線を逸らした。

  静かな夜だった。

  鼓動だけが重なり合い、三人の息づかいが一つになる。

  これが永遠でなくてもいい。けれど――

  この温もりを、できる限り長く守りたいと、夕陽はそっと胸の奥で願った。

  ぬくもりが満ちた布団の中で、三人はしばし静かに身を預けていた。

  朱雀は夕陽の胸に頬を寄せ、銀郎は背後からそっと抱き込んでいる。淡い汗の匂いと安堵の息が交錯し、夜はまだ静かだった。

  ふと、朱雀がもぞもぞと体を動かした。赤い耳がわずかに揺れている。

  「……ね、夕陽様」

  「ん……?」

  「も、もう一回……いい?」

  その声は、どこか悪戯っぽく、けれど本気で――なにより、ちょっと恥ずかしそうだった。

  銀郎がぴくりと反応し、後ろから抑え気味に小さく笑う。

  夕陽は数秒、完全に沈黙した。

  そして、ひくりと頬を引きつらせながら、枕に顔を伏せる。

  「……無理だ。ほんとうに無理だ、朱雀。私、もう魂が抜けかけてる……っ!」

  「じゃ、じゃあ、あの鬼灯、……ってのだっけ? あいつ呼んでよ! 俺の魂いくらでもあげるから……!」

  「そういう問題じゃない……!」

  布団の中、三人の温もりの中心で、夕陽は力なく笑った。

  そしてその笑いは、銀郎にも朱雀にも伝染して、しばらくの間、夜の静寂をくすぐるような笑い声が続いた。

  夜はまだ長い。けれど、今はひとまず、ぬくもりと笑顔の中で眠ろう。

  そんな風に、優しく幕が下ろされたのだった。

  番外編:主様は寝かせてもらえない 完

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  ※※※あとがき(長いです)※※※

  ■「朱と銀の誓約ー二人の銀獣を保護したら執愛されましたー」は、本編・番外編ともに、これにて完結となります。

  ご拝読、誠にありがとうございました。

  うん十年前に、BL版・水◯黄門みたいなのをやりたいなぁと妄想していたのが原点で、第一話の連理の枝だけでも漫画にしようとしてた事はあったのですが力尽き、そのまま世に出ることはなく、時だけが過ぎていきました。この度、小説という形ではありますが、彼らの物語を再び紡ぐ事が出来て、楽しくも愛しいひと時でした。

  【銀郎×夕陽】

  銀郎は夕陽の意思を無視できない男です。夕陽様も、誰かに荷を背負わせるくらいなら自分で全部持つという自己犠牲精神の塊なので、最後はもう鬼灯を出さないと無理だ!ってくらい、想いが平行線すぎて、何度頭を抱えたかわかりませんでした(笑)義理堅く、思慮深く、忠誠心が高いものの、本心では夕陽様を独占し支配したいという秘めた欲を抱え、理性が剥がれると、ちょっと危ない方へ行ってしまう人でした。……だが、それがいい。もしバッドエンドが存在するとしたら、監禁ヤンデレルート。

  【朱雀×夕陽】

  朱雀は激情型で、勝手に動いてくれる、非常に動かしやすいキャラではあったものの、その生い立ちから心は繊細で、『夕陽様』という支えがないと立っていられないような脆い側面もありました。私の書く攻めはよく泣くんですが、もうね、大好きなんです。泣くヘタレ攻め。何でも一番じゃないと気がすまない彼が、最後は二番目でもいいから捨てないでと縋り付く。最高か?

  【夕陽様】

  慈愛と包容力の化身。強くて凛としてカッコイイ受けをコンセプトに、初めて挑んでみたタイプのキャラクターでした。

  私の書くヘタレ攻めと非常に相性が良く、どんな情けない姿でも丸ごと愛で包んでくれる。

  そりゃもうね、朱雀や銀郎じゃなくても「抱いて!」ってなるわ……。篠宮も黒耀もこっそり抱かれたかったに違いない。夕陽様量産型にして、みんなに1人ずつ配りたい。そして私にも1人ください。

  長くなりましたが、また別作品でお会いできたら幸いです。

  ありがとう読者様、貴方がいちばん神だ!!!

  tamo/たもゆ