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毎日が似たようなことの繰り返し、それに対し嫌気がさしはじめていた。
僕は毎日何をしているんだろう?
「あっ……」
そんな考え事をしているとミスをする。
「なにやってんだ!」
近くに居た仕事場の先輩の怒鳴り声が響く。
仕事やってます。 そう僕は答えたいが、そういう状態ではないので
無意識のような、つまりオート機能で返事を返していた。
「……すいやせん、今処理します。」
そして、どーも調子が悪い、イージーミスを繰り返している。
なんでこんなにも調子が悪いんだろう?でも頑張る意味もあるのか?
そう自問自答しながら自らが犯したミスの後始末をしている。
そんな中
「何やってんだ……ったく」
「……」
怒り口調なのに親方はそれ以上何も言わず後始末を付き合ってくれた。
「……」
「ありがとう」は愚か「すいません」とか「どうも」すら言葉が出ない。
見た目より老けた親方。それでも親方は良い人だった。皆にも多分慕われている。
親方との出会い、それは、6年ぐらい前のことだった。
人の温もりなど知らなかった僕、今の今まで一人で生きていけていた。
でも、一度、快楽を知ると、猿が一度アレを覚えて、死ぬまでそれをするみたいに
僕は、偽りとわかってはいてもその温もり(娯楽)に身を任せていた。
公園にてたむろう若者達、その中に僕も居た。
遊んでいるときは楽しい、でも話がついていけない時は少ししんどくなる。
トイレにでもいって少し一人になりたい、そう思ったときだった。
「カジヤも吸うか?」
そういわれ、言葉を発した先を見ると、今の話題に退屈そうにしながら、それを煙草をふかして過ごす奴が居た。
僕と年も変わらない、煙草に関しては、あまり興味なかった。百害あって一利無しというぐらいだ。
「ぁ……ぃゃ……」
20歳未満における喫煙が体に悪影響を及ぼすのは知っていただから僕はそれを拒みたかった。
……が、いつの間にか僕の元に視線が集中した。
「お、もしかしてカジヤ、初煙草? 金かけて吸うなんてあほかもって俺も思ってたんだがやっぱいいもんだわ煙草」
「んだよーな。(そうだよな) 依存ある分やっぱたまんねぇーんだよね。 抜くのと一緒みたいで気持ちいいんだわ」
「ぇっと……」
これは、もしかして、吸わなきゃ仲間から除外される?
そう思ったとき、頬に一筋の汗がたらりと流れた。
「俺も煙草もらっていいか?」
「じゃー俺も」
「どーぞ、どーぞ、どうせ、親の金だしなぁ」
「……」
その時僕は思った、親を悪い意味で利用しようとしているこいつらとはやっぱり自分とはあわないかも。
「ほい、カジヤ」
そういって余計なお節介で煙草を持たされる。
「いや、二十歳まで我慢する」そういえたら楽なのに、みんなが二十歳未満のこのグループ
そして、もし吸わなかった場合、どうなるか、勝手に脳が想像した。したくもない光景だったが。
見よう見まねで二つの指の間に煙草をはさむ。
体が特に指先が震えている。 依存というのが怖かった。
気が強い方ではない僕はきっと煙草に依存してしまうだろう。
依存が怖いのもあった、吸いたくないのもあった、でもせっかくできた友達の輪から除外されたり
殴られたりしないかが怖かった。
そして、火をつけられる。
煙草の独特の臭い匂いが鼻をさす、こんなの吸ってどうなるんだろう。何がうまいんだろう。
そう思ったときだった。
そう考えると、少し探究心が沸く、そう、僕は煙草に吸われるんじゃなくて、探求的意味で吸いに行くんだ。
けしてそれは悪い人生経験じゃないだろう、それにこの場をうまくやり過ごすには仕方が無いことだ。
そう、大丈夫、大丈夫なんだ。
そして、煙草を唇に咥えようとした時だった。
「カジヤ、んなもん吸う暇あったらちょっと手伝えいうたじゃろが!」
体がビクッとする間も無く、指に挟んでいた煙草が指から離れた。
正確には奪われた。
「んだよ、てめぇー」
「俺らの営み邪魔すんじゃねぇーよ」
「……はぁ……みて分かるじゃろ? わしはこいつの保護者だ」
「そうなのか、カジヤ?」
「ぁ……ぃゃ……しら……」
保護者などではない、ましてや、顔見知りや親戚でも無い気がする。
「未成年の喫煙は、法律では、違法じゃったよな?」
「……んだよ、この爺ぃ……ぉぃ、カジヤ、場所変えるぞ」
「ぁ……ぅん」
本当はもう関わりたくなかった。
このいきなり割って入ってきたおじさんともこの腐ったやつらとも
でも、極力穏便に生きようとする僕は、オートで相槌を打ち震える足でいやいや行こうとした。
「待て……家の手伝いしろっていったじゃろうが!」
僕でさえビクッとした気迫に満ちた声、傍に居た一人が
「……行った方がいいんじゃねーか? じゃ、また近々な」
「あ、うん……はっ……はい」
この声の主(おじさん)のことはこの時まで知らなかった。
でもそれが、僕の人生において師匠たる大事な存在で、大工を教えてくれた親方であった。
助かった、解放された。そう思うと同時に、これからどうなるのかと思った。
何か目的があって助けてくれたのか? そう思った。
じぃ……っと僕のことを見るそのおじさんを悪い人では無いとなんとなくだが思った。
「家来い」
「はっ?」
「茶菓子ぐらい出してやる」
「……はぁ……」
でも嫌な気はしなかった。助けられた代わりに、見返りとして付き合う。別に普通のことだと思う。
頃合いがついたら抜け出そう。 そう思った。
「いやぁ、たまの休日なんじゃが、相手もおらんでな、散歩しとったら、グループで一人浮いたオマエが煙草をビクビク吸おうとしとったからの」
「……」
前言撤回、別にそんな良い人じゃなさそうだ。
僕はそんな風になってなかったはずだ。
グループで一人浮いた。 一人浮いた……。
帰りたくなった、その場を逃げ出したくなった。
もし、今までのグループとこの助けてくれたおっさんと選ぶとしたら、前者を選ぶような気がした。
だって、嫌な時間もあったけど、楽しいときもあったのだ。だから僕はグループに属していたのだ。
それでも結局は……
「ほれ、ついたわい、茶菓子は、ケーキ系とあんこ系どっちが良いかの?」
「……ぇっと……」
「すいません、用事思い出したんで帰ります」そういえたらどんなに楽だろう?
「わかった、両方でいいかの?まぁ、ケーキ系は日持ちせんからのぉ……」
おっさんの顔を見上げた時だった。
「ぁ……」
それは邪気の無い笑みだった。一人浮いていたと言われ不快に感じたのがなんでか分からなくなった。
確かに僕は、さっき自分でも自覚していたようにあのグループから一人浮いていたかもしれない。
でも、それを人に言われたのは辛かった。わがままかもしれないけど、でも本当に傷ついた。
でも結局本当のことなんだ。
「うっ……」
あれ……僕泣いてるんだ? こんな年で、見ず知らずの人の前で泣いているんだ。
情けないな。そう思った。涙を堪えようとした。
このおっさんは俺をどんな目で見ているだろう?
あざ笑っている?同情して悲しんでいる?
「……ガキじゃのぉ……でも嫌いじゃないわい」
「うっせぇ!! ガキじゃ!!……」
でも、反論しているうちに分かった。ただ同情しているとか、馬鹿にしているとかそんなんじゃないと。
うまくは言えない、言葉のぬくもりを感じた。そんな気がしたときだった。
ぎゅっと抱きしめられた。
「ぁ……」
言いかけた言葉は喉につっかえて、そのままどこかに消えてしまった。
そして、言葉の変わりに、自分が欲しかったのはこういう純粋な温もりなんだと。
気持ちの良い涙があふれ、両目からこぼれていった。
「ところで、主の名前はカジヤでいいのかのぅ?」
「……」
返事をする代わりに僕はゆっくり頷いた。
「ふむぅ、良い名じゃのぉ」
「んっ……」
僕は、言葉に迷った。「ありがとう」とか「どうも」とか言わないといけないんだろうか?
でもその言葉を言うのは少し恥ずかしかった。
「わしは、、大工のノクレトじゃわい、他に聞きたいことあるかの?」
「……別に」
「そうか、じゃ、わしから質問していいか?」
その問いかけに何故か答えられなかった。嫌な印象を与えてないかそれだけが心配だった。
「……」
「無言=(は)承諾とみなすからのぉ?」
そう言ったとき何故か僕は、コクリと頷いていた。
「……めんこいのぉ……カジ……」
「ぅ……」
舐めまわすような言葉、それに僕は体がビクッと震えた。
「……」
や、やられる?……。
じわり冷や汗がわき出た。 そっか、僕の人生これで終わるのか……。
そう人生の最後を覚悟した時だった。
「さて、じゃぁ、茶菓子でも食うかの」
そういってハグを解かれそうになる。ソレに対し僕は、気が付けば、自分から求めていた。
「んっ……そうか……じゃ、もう少しな、怖かったろう?……あんなに震えておったもんなぁ……」
そういって、おっさんは、僕に楽になれと促すように優しく背中をさすってくれていた。
そして、ようやく収まりかけていた涙は再びあふれ始めた。
強がってた。傷つくのが怖くて、嫌われるのが怖くて。
でも、このおじさんは、僕を嫌な意味で笑おうとしない。
今日、このおじさんに会えたことは、運命なんだろうか?
それともラッキーな偶然なんだろうか?
どちらにしても、僕は初めて、家族以外を純粋な意味で好きになったと思う。
そして、ほんの僅かな体臭も何故か嫌じゃなかった。
今なら分かる。きっと運命だったんだろうと。
そんな思い出を思い出していた。
そんな思い出に黄昏ながらも手は勝手に動き、気づけば、親方の手伝いもあり後始末は終わっていた。
親方に「ありがとう」それぐらいは、言おうと僕も思った。
「じゃぁ、な気ぃ抜くなよ」
「あ、あ……」
もじもじしている僕を尻目に親方は持ち場へと戻った。
どんなに厳しくても、あの人の下なら働けるそう思った。
僕は今が幸せなんだと思う。不必要みたいに扱われていた嫌な昔と違い
今は、少なくともここは、僕の居場所だ。
怒ってくれる、ほめてくれる、フォローしてくれる。
そう思った時、不調だったのが嘘みたいに体が動くようになった。
そして、2時間後、太陽はもっとも高い位置にきた頃
「そろそろ飯すっかぁー」
「「へぇーーい」」
飯のひと段落、僕は返事する代わりに、ふぅっとため息をついた。
その時だった。遠方から声が聞こえた。
「あっ、危な……」
「っち、ばっきゃ……」
その後、角材が倒れる音がした。
その騒がしい音に紛れ。
「ぐぁあああああああああっ!!」
「おや、親方ぁああああああっ!!」
何が起きたのか分からなかった。
助けに行く、確かめに行く、いづれにせよ動かないといけないのに、足がびくついて動かなかった。
そして、叫び声の後、僕以外が声のほうに集まって行った。
ようやく足が動いた頃には、他の皆が重傷の親方と軽傷の仕事仲間を、救急車の搬送に向けてか待機させていた。
親方の頭からは、二筋の血が流れていた。
「……おや、親方ぁあああっっ!!」
数分遅れでようやく僕は叫んだ、恥ずかしいとか思う余裕はない。
ただ、親方の元へかけよった。
「……ったくぅ……せっかく睡魔が痛み誤魔化してたってんに……心配するにはおせぇーぞ、ガジ」
「……う、うるせぇ……ね、寝るな……寝たら死ぬぞ!!」
「……ったく、オーバーだなぁ、唾つけときゃ直るって」
そういった親方が軽傷の腕をあげ、指先に唾を付けようとした時だった。
「ぉっ、いってぇ……」
「お、親方ぁ……っ!!」
まださっきの礼をいっていない、それが気がかりだった。
もちろん、まだ親方に恩返しが全然出来てなかった。
そして、救急車が来るまでの数分間、僕は視線を気にせず号泣しながら親方の傍に居た。
搬送される前にいった言葉は、
「ったくぅ……まだまだガキだなぁ……可愛がりがあるわなっ、カッカ」
そして、他のみんなはともかく、僕だけは、調子悪かった時以上に効率が悪くなっていた。
なにをしても意識ここにあらずといった状態。
その状態を察した、親方の次に偉い人が僕を帰らせた。
(どうしてみんな普通に働けるんだ?親方がこんな状態(死ぬかもしれない)なのに)
結局は、親方より仕事が大事なのか?
そりゃ、納期は間に合わせないといけないが、非常事態というものもあるだろう?
そして、僕は、この日を境に仲間とか仕事とかが良く分からなくなった。
そして、気が付けば家に閉じこもり、最低限の食事を済ませ1週間、僕は仕事を無断欠勤した。1日目2日目は電話がなったが、3日目からはならなくなった。
みんなは親方のこと心配じゃないのだろうか?
そう思う中、気がつけば親方に同情をしていた。
親方は厳しいけどいい人だ。僕を拾ってくれた。
そして、みんなはみんな親方を慕ってると思っていた。
でも結局は仕事仲間、そんなもんなんだと、殆ど食事がのどを通らない。
そして、久しぶりに夢を見た。
久しぶりといったのは、印象に残るほどの夢を見たという意味でだ。
それは、親方のお葬式の夢だった。
泣きながら目が覚めた。
「……ぐぅ……親方ぁぁ………」
みんなみんな腐ってる、誰かの命より仕事が大事なのか?
あんなに親方苦しそうだったのに。
ただ、黙々と仕事をして……。僕が怪我したとしてもそうなっちゃうんだろ?
そうだろ?
6日前、某病院
病院にて、頭部に3針縫う怪我が二箇所、腕は、ねんざレベル。仕事復帰には。1ヶ月ちょっとかかりそうだが
現場監督としては、退院後にすぐできるみたいだった。とりあえず、仕事場に電話、今はちょうど昼休みだ。
「おーい、わしじゃわし」
『お、親方、怪我大丈夫ですか!?』
「後数日後には退院できるみたいじゃわい」
『おー、そうなんですか、あ……そういえば、カジヤのやろうが……』
「んっ?ガジがどうしたんじゃ?」
そう言われ、ガチで泣いていたガジを思い出した。
『いえ、あの後、親方が怪我したのが相当ショックだったみたいで、仕事ろくにこなせなくなったんで帰したんですが』
「ふむ? まぁ、あいつはまだガキじゃからなぁ」
『昨日と今日、無断欠勤してましてね』
「ふむぅ……そうか、あいつにはわしが直々にいっとくわい」
『分かりました。 なんかあいつみてると昔の自分みたいですわ』
「そうじゃな、まだあいつは青いしのぉ、ところで、ガジとわしがおらんでも納期間に合うか?」
『あ、はい、なんとか』
「そうか、それはよかったわい、じゃ、ガジのことはわしに任せてくれ」
『分かりました、では、また連絡待ってますね』
「おぅ、みんなのこと宜しく頼むわい」
そして、出ないとはわかってはいても、ガジの携帯に電話を回した。
……
……
案の定出なかった。でもなぜかその結果に、わしはにやりと笑んだ。
6日後、(現在)某アパート前
あらたまった精密検査で退院できたのは夕方になった。
タクシーを手配して、乗って、今はガジのアパート前に居る。
ゆっくりとドアノブをまわすが、やはり鍵がかかっていた。
そして、わしは、入院時に届けてもらった貴重品バックからあるものを取り出した。
嫌な夢を見た僕は寝汗でびっしょりだった。
眠気は少しあったが、今寝たらまた悪夢を見そうだった。シャワーでも浴びてくるか……。
そして、僕は、服を脱ぎ上半身裸になった。 ズボンにも手をかけようとしたときだった。
「ふむっ、まだまだ肉つきが弱いのぉ、もっとビシバシやらんとじゃな?」
「へっ!!……」
恐る恐る振り向くと、頭に包帯をぐるぐる巻いた親方が居た。
「よぅ、ガジ」
「親方……」
それは、おばけでもみているような感覚だった。寝起きが故に夢見心地な感覚もあった。
「親方……生きてる?」
「おぅ、生きてるぞ、足もあるしな、ガッハッハ」
「……これ夢じゃない?……」
「夢じゃったらどうする?」
「……」
その問いかけに僕は口を紡いだ。そして、数秒ほど間を空けて今度は質問し返した。
「逆に、親方だって夢だったらどうする?」
「んんっ!!??」
少し困惑している親方、確かに言ってる意味が分からなかったかもしれない。
しかし、要領のいい親方は言いたいことを瞬時に理解する。
「そうじゃなぁ、つまりガジが言いたいのは、わしがガジと夢で出会ったらじゃよな?」
「……」
確かに言いたいことはそうだった。そして、気がつけば何かに期待するかのように親方を直視できなくなっていた。
「ガジ」
「……はい」
「これが夢ならしてみたいことがあっての、良いか?言うだけ言っても」
「……聞くだけ聞きます」
「ガッハッハ、ガジらしい、回りくどいことは好かんから単刀直入に言うぞ?いいな?」
「……親方十分回りくどい」
「ガッハハ、わしとセックスするか?……ガハッハなーんて言った……」
「……んっ……は、はい、お、お願いします」
「らどんな反応ううっ!?……ほ、本気か?」
「ゆ、夢でしょ?これ」
「ん……」
親方が何かを考えながら僕に近づく。そして親方の手が僕の腕を掴んだ。
「んっ!?」
そして、手を引かれ、そのまま優しく抱きしめられた。
あの時の様に、あの時と変わらない親方の体温、親方の匂い、これは紛れもなく……g…
「じゃぁ、夢ってことでしようかのぉ」
「ぅ……」
心臓がバクバクする。そうこれは夢なのだ。そして、なぜだろう、今まで意識したことなかったのに
体が反応する。視線を感じるとはこういうことなのだろうか?
「ガジ……めんこいぞ……。いい声で鳴かせてやるからな?」
「んっ……お願いします」
そういって僕は生唾をごくりと 飲んだ。
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