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学帽を被った少女「歴史が動く刻って、どんなことが起きると思います?」
翡翠毛の知的な青年「いや、急に問われても分かりませんよ。
それに、歴史というものは数式や物理的な運動とは違い、絶対的かつ、普遍的な[[rb:秩序>オーダー]]の基づいて動く現象ではない、論理が通用しない[[rb:混沌>カオス]]です。そんなもの体験しないことには分かりません。
・・・っで正解はなんなんですか。」
少女「さあ?」
青年「"さあ?"って・・・そういうものは自身で理解しているものなのでは。」
少女「ただ戯れで問いかけただけですよ。
まぁ、私なりに答えを出すなら"誰も予想しなかったことが起きること"でしょうか。尤もこれは誰でも思いつくようなありきたりな答えですけど。」
青年「・・・意外です。貴女程のお方ならより革新的で真理に近しい何かをお考えになられているかと。」
少女「そうでしょうか。
まぁ、そのありきたりの中にこそ、真理は潜んでいることもある。あなたも長生きすれば分かりますよ。」
少女「世界は予想不可能の連続、そう考えると・・・常に、少しづつ、歴史は動いている。我々の与り知らぬところでね。」
第一話 ~星空~
ここは大きくも小さくもない、ごく普通の規模の町だ、地理的に言うならば、ドイツの北端に位置し、農業と鉱業で栄えている、そんな記憶容量を割くほどの価値もないようなただの町だ、だが、いや、"だからこそ"と言うべきか、一見して普通の町にも才の炎は燻っているものだ。
ブオーっと大きな火柱が、町はずれの広々とした岩場から立ち上る。それは稲妻のように高く光の柱を形成し、周囲を照らしつける、まるで太陽が霞んでいるように見えるほど膨大な光量と、急な温度の上昇により周囲が歪んで見える。
その中心、発生源と思われる場所から天に向け掌を掲げる何者かがいた。
焼かれた樹木のような灰色の毛、垂れ下がっている耳、狼だろうか、しかしそういうにはいささか異質な金色に輝く2本の角が生えている、そして驚く程に低い背丈を古典的な尖り帽と傷んだ古いコートで着飾っており、胸の辺りには十字架のような形を模した黒色の首飾りをぶら下げている。
驚いたことに、岩場から立ち上る火柱は彼から発生しているものだった。
少年「ふぅーっ・・・よし!!」
少年「これで全部の課題はクリア〜!」
そんなことを呟くうちに、火柱は消えていた。
モブA「おお、今日も派手にやってるなぁ〜。」
モブB「あの子はいつも元気でいいわね〜。」
モブC「もうあんたは十分だよ、立派な魔術師におなり!」
モブD「"ノア"が有名な魔術師になったら取り柄がないようなこんな田舎町も安泰だな!」
ノア「うん!オレ、絶対魔術師になるから!」
その光景を見ながら民衆は言う、どうやら火柱の発生源である彼は"ノア"というようだ。
この世界は所謂、魔術、及び魔法など自然的科学の通用しない理を持つ世界だ。魔術とは生命に宿りし魔力の力を使い引き起こされる奇跡であり、時には生活の一部として、時には信仰の対象として、様々な想いと共に形を変える不可思議な現象。
いつから、そして何故このような力がそこにあるかは誰も分からない。しかしそれらを探究し、時に戦いに身を投じる者、彼らは"魔術師"と呼ばれ、英雄として扱われる、彼らに憧れ魔術師を目指す者は後を絶たない・・・尤も、この灰毛の少年もその一人であるのだが。
町に戻り、少し高い位置にある孤立した小さめの家に駆け寄り、勢いよくドアを開ける。
ノア「おじいちゃんおじいちゃん!」
そう少年が呼んだそれは深紫色の鱗に、顔には白い髭をたくわえた、神話の龍をそのままヒトガタに落とし込んだような外見をした老人だ。
老人「おお、どうした、ノア。」
ノア「全部クリアしたんだよ!課題!」
老人「そうかそうか、成長したなノア。」
ノア「だからさ!そろそろ受けさせてほしいんだよ!入学試験!」
老人「えっ、ダメ」
ノア「えぇ〜〜〜〜〜・・・」
さて、一つ説明だが、この世界では魔術師になるためには正式な手順を辿らなければならない。
言われてみれば当然だろう、魔術は誰でも気軽に扱える上に使い方を誤れば簡単にヒトの命を奪う、だからこそ、魔術師には一般人とは違い、特別な教育機関で数年先輩の魔術師の授業を受け、卒業すれば晴れて正式に魔術師になれるというシステムをとっているのだが・・・特にノアは名門の中の名門と言うべき"ノエル魔術学院"を志望している。
この学院は全世界に点在する魔術学院と比較しても圧倒的な実績があり、受かれば未来の成功は約束されたも同然であり魔術師を目指す多くの者は1度は夢見る領域だ。
ノア「な!ん!で!だぁ〜!絶対受かるって!オレ天才だし!!」
レウス「才があるとかないとか、受かる受からないの問題じゃなくてな、お前まだ11歳だろう。その歳で学院に送り出すのに心配がないとでも?
本番になって逃げ出したくなっても儂は助けてやれん、強大な力を振るう者にはいつだってそれに釣り合う責任が纏わりつくものだ。
それに例え実力があったとしても、何が起こるか分からんのが魔術師の道だ、かつて死紫色の竜王と呼ばれた儂、"レウス・ロアーズ"でも今となってはただの無力なイケオジ、舐めちゃぁあかんぞ魔術師世界。
大体、魔術師になって何を目指すんだ。」
ノア「そんなの決まってるだろ・・・
魔術師の頂点、[[rb "至高の魔術師">マスターウィザード]]になって、オレが魔術師の中で最強だって、証明するんだぁーっ!」
レウス「うん、知ってる、毎日聞いてるからな。」
[[rb "至高の魔術師">マスターウィザード]]、それは魔術師達における最高クラスの階級であり、名実共に最強とされる魔術師に贈られる称号でもある、その数、なんと現時点で全世界で12人、ノエル魔術学院はこの12人の中の過半数を輩出しており、ノアがここにこだわる理由はそこにある。
レウス「"至高の魔術師"になるということは他の魔術師達とは一線を画す実績を積みつづけなければならないが・・・もちろんそれには危険が伴う、だからお前には許可できん、せめてあと5年は経たんとなぁ〜お前みたいな青臭坊主にはまだまだ早いってことだ。」
ノア「分からず屋め・・・」
ノア「まったくあのじじいめ、いつまでもオレを子供扱いして!むしゃくしゃするな〜!」
場面は変わり、ここは町の広場に続く街道だ。
ノアは何かイライラすることがあるとおやつを食べて気を紛らわすルーチンがある、というか物に当たるのは良くないのでそう教え込まれている。
というわけで、理屈の通じないガキンチョのノアはむしゃくしゃして気分転換におやつを買いに来たのであった。
ノア(ずーっと厳しい課題も我慢してこなしてたのに!それに・・・思い返すと瞑想とかさらに向けて魔術を何百回も放つとかつまんないものばっかだっし!もう今日ばがっつり食ってやる!・・・ん?)
広場から何やら聞こえる、女性の助けを求める声だ、そして黒いコート羽織った・・・2人の魔術師と思しきヒト影が会話している、事情聴取しているようだ。
女性「た、助けてください!じゃないと赤ちゃんが魔獣に!」
魔術師「落ち着いてください、その魔獣の特徴から推察するに、[[rb:飛竜>ワイバーン]]でしょう、しかしそのサイズとなると我々の階級では手に余る、より上の階級の者の協力を待たなければ・・・」
女性「そ、その方が来れば助かるんですか!?」
新人魔術師「連れ去られた時は今朝だと言っていましたね・・・もしかすると、息子さんは既にもう・・・」
女性「そ、そんな・・・」
魔術師「馬鹿者!不安にさせるようなことを言ってどうする!!」
新人魔術師「す、すみません!」
魔術師「飛竜が飛んで行った方角はどこか覚えていますか?息子さんは必ず助けます」
女性「えっと方角は確か・・・」
ノア(・・・オレが行ったら助けられるかな。
いやいや!顔も知らない他人のためにそんなことするなんて馬鹿のすることだ!オレはやらないからな!絶対に!!やらないからな!!)
頭の中で葛藤した末にその場をノアは立ち去った、自身が女性が指さした方向に無意識に向かっていることにも気付かずに……
ノアが立ち去った後、そこにもう2つヒト影が近づいていた、1人はフードを深々と被り、顔は見えないが、大柄で威圧感を漂わせた男・・・もう1人はノアよりは二回り以上歳上に見える眼鏡をかけた暖かい黄色をした毛の優しそうな少年、2人とも魔術師と同じ黒いコートを羽織っており、どうやら魔術師のようだ、しかし、大柄な男のコートには他の魔術師とは違う、特殊な模様が刻まれている、あれは大アルカナ・・・世界の紋章だろうか。
大柄な魔術師「すまない、少しいいか。」
魔術師「すみません、今はこの方の話を・・・って、あなたは!?」
眼鏡の少年「緊急事態ですか、ここは先生と僕で引き受けます、手短に話せますか?」
魔術師「は、はい!こちらの女性の息子さん・・・赤ん坊がどうやら飛竜に連れ去られたようです!」
大柄な魔術師「方角は分かるか。」
魔術師「はい!あちらに飛んで行ったと!」
大柄な魔術師「感謝する、お前たちは彼女の護衛を頼む、飛竜が彼女の顔を覚えているかもしれない、急ぐぞ。」
大柄な魔術師はそう言うと、一瞬脚に力を入れたかのように見えた次の瞬間・・・その場から消え去った。
移動の時、一瞬フードから彼の顔が覗き込んだ、黄金の鱗に覆われた、神話の竜がヒト型に落とし込まれたような・・・その姿はまるで・・・
眼鏡の少年「あ!す、すみません、お礼もできずに・・・」
魔術師「いえ、彼がいれば百人力です。彼に感謝を伝えてください。」
女性「こ、こちらこそ・・・ありがとうございます・・・息子を、どうか助けてください・・・」
一言交わした後、少年もまた過ぎ去った黄金の後を追い駆け出した。
新人魔術師「すみません、会話に入れなくて分からなかったんですけど・・・彼ら、何者なんですか?」
魔術師「眼鏡の彼については知らないが・・・もう片方、大柄な魔術師の方は知っている、世界のアルカナは最も階級の高い魔術師のコートに刻まれるもの・・・あの方は・・・」
一呼吸置く、そして瞬間の静寂の後、魔術師は口に出した。
魔術師「彼は全世界で12人しかいない、"至高の魔術師"の称号を持つ、最強の魔術師の1人だ。」
広場の会話からしばらく経ち・・・
ノアは町外れの森の前にいた。
ノア(結局こっちに来ちゃった・・・まぁ、助けたらおじいちゃんもきっと認めてくれるし?これは自分のため・・・自分のため・・・)
そんなことを考えながら森の中に進む、飛竜の根城になっているからか、野生動物の姿は少ない、他の魔獣にも襲われずにドラゴンの元に辿り着けるかもしれない。
ノア「それにしたって、なんで急にドラゴン?ワイバーン?がヒトを襲ったんだ?ここ数年誰も襲われなかったのに。」
実の所、飛竜など大型の魔獣がヒトを襲うことはあまりない、何故ならヒトは身体のサイズが小さいため巨大に成長する大型魔獣の栄養とするには不十分だからというのが大きな理由だ。
大型魔獣がヒトを食糧として求めるのは、何らかの影響により生命活動に支障が出るほど魔力を消費した時、自然回復では賄えない魔力の空腹を補うためだ。
そもそも魔獣というものは"魔力を扱うものの知性を持たない動物"と定義されている種であり、生物種である以上、その生存戦略に魔力が組み込まれているものだ、だから魔獣達は魔力を求め、空腹を満たそうとしている。
・・・まぁ、だからといって生まれて間もない赤子を攫う価値があるとは到底思えないが。
ノア「ん?感じたことない"魔力のにおい"・・・すぐ近くにいるのか!」
魔力のにおいを感じた方向にノアは走る、少し先に開けた土地があった、そしてその場には竜が入るのには十分に見える洞穴があった、その中には1匹ワイバーンが眠っている、そして・・・おぎゃあと、赤ん坊の泣き声だ。洞穴のすぐ側の岩影に隠されるように、揺り籠に入れられたままの赤ん坊が、母を呼ぶように泣いている。
ノア「いた!あの子が攫われたやつか!」
ノアは赤ん坊の元に駆け寄る、後もう少しで目の前の小さな命は助かり、大団円だろう。
──────そんな、気の緩みが、致命的なミスに繋がるとも知らずに。
バキッ!・・・枝の折れる音、目の前のものに気を取られたからか、見えていた不安要素に、ノアは気づけなかった。
飛竜の目が覚める、魔力を持とうと、結局は野生動物のそれだ、ノアを獲物を奪い合う同じ野生動物にしか思えず、その光景からノアの意思、善意を想像することは出来ない知性なき者。それは当然の激昂を露わにし、凶爪が救世主を容赦なく残酷に抉り取ろうとする。その光景を見れば、誰もが2人の死を確信するだろう。
──────だが、覚えておくことだ、魔術師の戦いは目に見える形が[[rb:"勝敗">本質]]ではない。
「ボム!!」
振り向いたノアの指先から巨大な魔方陣、それとともに轟音と共に炎が立ち上る、ノアが最も得意とする火属性の魔術だ、それを胸にもろに受けたワイバーンは大きな咆哮を上げ、ノアを睨む、想定外のダメージを動揺している。
ノア「ケホッケホッ急に起きてくんなよ!砂煙でむせちゃうだろ!」
聞く耳を持たない飛竜にそれは意味の無いどころか大きな声を上げたことで逆上したのか闘志をさらに燃やす、より激しい野生に溢れた牙と爪の攻撃を繰り出す。
激しくなる攻撃を見てノアは十字架のような首飾りを取り出しそれを構える、そして十字架はノアの意思に呼応するように変形し柄のような形となりそこから赤く熱を帯びた刃が生成される、それはノアの身の丈を程大きくなり、飾りから武装へと役割を変化させた、ただの首飾りではなかった、それは魔術により生み出された1つの武具だったのだ、片刃の大剣となったそれをノアは軽々と振り回し、飛竜の猛攻へ対抗する。
ノア「そ〜・・・らっ!」
左から来る爪の引っ掻きに合わせ剣を振る、剣は飛竜の鋼鉄のような爪を削り取り前脚に傷を負わせる。
傷みに喘ぐ飛竜、その恨みを乗せた右から側来る叩きつけをノアにぶつけようとする、ノアも流石に反撃を取れなかったのか、前方に火を噴射して後退し回避。
そして最後に牙でノアを捕捉しようとするが・・・真正面から来るその攻撃に合わせるように、ノアは斬りあげる。顎から目にかけ切り傷と火傷を与え、ワイバーンの片目を失明させた。
ノア「ふふん!楽勝!」
圧倒的だ、恐らく1対1という条件ならノアは負けないだろう。ノアには並外れた直感と魔力量、そして天性の戦闘センスがあった、この程度の飛竜に今更負ける道理などない・・・1対1という条件なら。
飛竜が更に怒り咆哮を上げる、もはや我を忘れて暴走してるのか、内に宿る魔力を暴走させ溢れさせた、そして溢れんばかりの圧倒的な暴力で攻撃を仕掛けるが・・・その標的はノアではなかった。
ノア「・・・っ!?もしかして・・・しまった!!」
もはや怒りで目の前が見えない飛竜の矛先は赤ん坊へと向く、魔力の使い方も、魔術も知らないまだ脆弱な命、簡単に押し潰されることは想像にかたくないだろう。
ノア「間に合え!!!」
足から爆発を起こし急加速する、一寸先まで巨体が到達していたが、割り込みが間に合い間一髪で助かった。
だが、2度はない。
飛竜がもう一度、攻撃を行う。
ノア(ヤバいヤバいヤバいヤバい!さっきの移動の反動で体勢が!回避できない!
・・・もうこうなったら!)
「どうとでもなれ!」
ノアが赤ん坊に覆い被さり目を瞑る、策も技もない、覆い被さった程度で赤ん坊が助かる保証もない、それでも、ただ、祈るだけだ。
ノア(頼む・・・!助かって・・・!)
そして飛竜が2人の命を奪いさろうと攻撃しようとした・・・その瞬間。
──────何かを強く叩きつけた爆音が響く、目を瞑ったノアにはその正体はすぐには分からない、だが多方予想はつくだろう、飛竜が自身にその巨体を叩きつけた音だろう・・・と。
ノア(・・・違う?)
目を開ける、自身の目の前に、拳を振り上げた黄金の竜のような大柄の男、そしてまるで何かに吹き飛ばされたように天高く舞い上がる飛竜、状況は明らかだ、何度予想を繰り返してもそうとしか理解ができないし、それ以外が選択肢に入らない。ならば、目の前の男は、何者なのか。
風鳴く夕焼けの背景に、靡く世界のアルカナが刻まれたコート、そして小石を蹴飛ばすように飛竜を吹き飛ばすその姿。
ノア「・・・"至高の魔術師"」
言葉が出ない、それはノアにとって憧れの一つであり、いつかの夢だった、それが明確な形にとして現れた、その歓喜。そしてそれが・・・それはまるで・・・自分にとって親のような存在と瓜二つの姿形をしていたことに対する困惑。
様々な感情が入り乱れ、どれが本当かわからない、もしくはその全てが本当か、しかし、ただ、純然たる事実として・・ノアはその後ろ姿に、確かに"惹かれていた"のだ。
そして金色の英雄の後に、また1人少年がやってくる。
眼鏡の少年「せ、先生!ちょっと待ってくださいよ!」
金色の魔術師「すまない、ヒトが襲われていたからな、急いで駆けつけたんだ。」
その言葉を聞き、テルは心配そうに、ノアと赤ん坊の元に駆けつける。
眼鏡の少年「大丈夫?怪我はない?その子、君が守ってあげたの?」
ノア「あっ・・・えっと・・・」
ノアも騒ぎ立てる心の中、確認する、擦り傷以外は問題なく、赤ん坊も人の暖かさに触れて安心したのか泣きやみ寝ている。
ノア「・・・うん。」
眼鏡の少年「良かった・・・頑張ったね!」
金色の魔術師「頑張ったも何もあるか、魔術師ではない民間人の許可のない戦闘行為は違反行為だ、決して褒められたものではない。」
眼鏡の少年「あぁ、すみません・・・」
金色の魔術師「お前はその子供を保護しろ、俺は巣穴を見てくる。」
眼鏡の少年「はい!」
金色の魔術師は飛竜の巣穴に潜った、彼がこの場にいたのはほんの1分ちょっとだったというのに、その印象は強烈で、たった一人の少年の[[rb:認識>それまで]]を変えるには十分すぎるほど強烈な刺激となった。
眼鏡の少年「ああは言ってるけど、先生は堅いだけ怒ってるわけじゃないから、勘違いがしないであげてね。僕たちが来る前にその子を助けてくれてありがとう。」
ノア「・・・あっえっとそいつは・・・腕試しで挑みに行ったらなんかいただけだし!そ、それにオレ1人でも勝ってたし!」
英雄が去り、我に返った、しかし子どものノアには理屈の無い淀みが喉につっかかり、今一番言葉に出すべき言葉が出ない。
眼鏡の少年「─────でも、君はその子を抱えてる。だから、ありがとう。」
ノア「っ・・・」
眼鏡の少年は、複雑そうな表情のノアを後にしようとする、どうやら金色の魔術師が巣穴から出たようだ。
眼鏡の少年「先生の話を聞いてくるから、その子のこと、後ちょっとだけ頼める?」
ノア「ちょ、ちょっとまって!」
眼鏡の少年「ん?」
ノア「あぁー・・・えっと・・・なんていうかそのぉー・・・
─────あ、ありがとうって・・・伝えて。」
ノアは淀みを飲み込んで、一言伝えた、少し恥ずかしそうに、しかしそれは1人の少年の確実な成長の1歩だった。
眼鏡の少年「分かった、伝えるよ!」
屈託ない微笑みと了承の言葉の後、金色の魔術師の元へ駆け込んだ・・・
眼鏡の少年「先生!」
金色の魔術師「子ども達はどうだった。」
眼鏡の少年「灰色の子は少し擦り傷があったくらいで2人とも問題ないみたいです。赤ちゃんの方は今は寝てます・・・えーっと、その子は?」
巣穴から出てきた彼の手には、小さい子どもサイズの飛竜が抱えられていた。
金色の魔術師「巣穴の奥にいたんだ、恐らくあれの子どもだろう。どうやらつがいはいないようだったが・・・」
眼鏡の少年「子どもが産まれてたんだ・・・だからヒトを襲って・・・」
金色の魔術師「そうだな、だが幸いにもヒトらしき残骸は巣穴には無かった、恐らく森の動物をあらかた狩り尽くしたあと、ヒトを襲い始めたんだろう、あの子は運が良かったな、おかげで助かった。」
眼鏡の少年「その子、どうします?親はもういないですし・・・」
金色の魔術師「保護してこちらで育てる、魔獣の竜種は長寿故か繁殖欲が薄い上に1度に産む卵の数が少ない、いたずらに数を減らすのはバランスを崩すからな、成長したら自然に返すか、懐いたら騎乗用の飛竜にする。」
眼鏡の少年「そっか。しばらくの間だけど、これからよろしくね!」
魔術師というものは、ただ戦い、英雄のように振る舞うものじゃない、ただ戦う力があればいいだけではなく、ヒトのため、世界のため、そのあらゆるものに敬意を払い、命を賭ける。それは時に無謀な願い事や綺麗事のように感じるかもしれない。そしてその過程で凄惨な悲劇も目にし、世界に絶望する、破滅へと通ずる道でもあるかもしれない。ノアもいずれは歩むことになる、その先になにがあるかは、その先に意味を見出した者にしか分からない。だが、先の見えない暗闇でなければ、[[rb:星>希望]]は見えないものだ。そして─────
眼鏡の少年「ああ、それと、あの子から伝言があるんです。」
金色の魔術師「伝言?話してみろ。」
眼鏡の少年「"ありがとう"・・・ですって。」
金色の魔術師「・・・そんなことか、礼は要らないと伝えてやれ。」
眼鏡の少年「・・・他になにか伝えたいことは・・・」
金色の魔術師「・・・言うべきことはない、だが・・・
あれはきっと、良い魔術師になる。理屈じゃない、ただそう感じただけだが・・・俺があれを評価するなら、そうなるだろうな。」
裏も表もない、ただ純粋な賞賛、しかし、それはノアには届かないが、[[rb:目標>あこがれ]]からそう呼ばれた、きっとその事実に意味が宿る。
数時間後、すっかり日は沈みノアは[[rb:保護者>レウス]]同伴の事情聴取を終え、家に帰ってきていた、まぁ、事情聴取を行ったのはノアを助けた2人ではなく、女性に事情を伺っていた普通の魔術師達だったが。あの2人は最初から別の目的のためにこの町に訪れたようだが・・・それを済ませて帰ってしまった以上はもはや関係ない話だ。その後の事情聴取でこっぴどく叱られたノアは、ようやく家に帰れてクタクタと言った様子だ・・・だが事情聴取を終えたわけではない、[[rb:保護者>レウス]]もひとつやふたつ言いたいことがあるものだ。
レウス「なぜ、戦いに行った。」
ノア「・・・倒したらおじいちゃんを見返せると思って・・・」
レウス「なぜ、周りに相談しなかった。」
ノア「自分1人でも大丈夫だって思って・・・」
レウス「・・・儂や町のみんなに要らぬ心配をかけた自覚はあるか。」
ノア「うん・・・ごめんなさい・・・」
レウスは一呼吸置き、もう一つ質問する。
レウス「─────お前は初めて敵と対峙して、どう思った。」
ノア「─────っ!」
沈黙が部屋を埋め尽くす、埋め尽くされた沈黙が部屋を過ぎ去るまで、刹那な程一瞬だっただろうか、永遠に見紛う程だっただろうか、少なくとも、ノアは後者に感じただろう。
ノア「・・・怖かった・・・最初こそは・・・余裕だって、楽勝だっで・・・おぼったけど・・・ひぐ・・・うぇ・・・」
ここに来るまで、必死に隠していた本音の吐露する、ぷるぷると震え、大粒の涙を流し、それを指で拭いながら・・・初めての殺し合いならそう感じて当然だろう、それにノアはまだ11歳の幼子なのだから。
ノア「本当に・・・途中までは上手くいっだげど・・・ひぐ・・・あの子が狙われた時"助けなきゃ"って・・・ぞれで庇った時・・・本気で攻撃されそうになっで・・・うぅ・・・殺されるっで思って・・・えぐ・・・」
レウス「そうか・・・なら聞こう、次で最後だ。」
ノア「・・・?」
レウス「"その思いをしても、お前はまだ魔術師になりたいか"。」
その言葉を聞いたノアは、涙で顔をくしゃくしゃにしながらも、恐怖に震えて尚目を真っ直ぐにレウスへと向け、言った。
ノア「怖かったけど・・・怖がったけど・・・オレ・・・やっぱり魔術師になりたい・・・!だって・・・!だって・・・!」
レウス「・・・なら、一旦泣き止んでくれ。
見せたいものがあるんだ。」
ノア「・・・っえ?」
そう言いレウスが取り出したものは、ある一通の手紙だった。
レウス「読み上げてみろ、泣いていたら読めるものも読めないだろう?」
ノア「・・・これって・・・」
受け取ったそれの差出人の名前を見て驚愕する、差出人は・・・
レウス「お前が助けた子の母親からだ。」
そう聞き、涙を堪えて、少しずつ、ゆっくりとノ。
「とりあえず、最初にお礼から言いたいと思います。私の子を救ってくれて、ありがとうございます。
そして直接お礼を言いに行けず、手紙という形になり申し訳ございません、まだしばらくあの子の傍から離れられないので、あなたの元に恩返しをするのはまだ先の話になりそうです。
自分語りになってしまいますが、私の夫はかつて魔術師として戦い、戦死しました。あの子は、夫の忘れ形見で、そして私にとって唯一の家族です。
あなたには、何度お礼をしても足りません。私の子を救ってくれて、本当にありがとう。
あなたはあの後魔術師の人達に叱られて、悪いことをした気分、というか悪いことをしてしまったのかもしれないけれど、どうか気に病まないでください。
たとえあなたがどんな悪いことをしてしまっても私の中ではあなたはヒーローです。繰り返しになるけれど、あの子の為に命を賭けてくれて、夫が生きた証を救ってくれて、ありがとうございます。
あなたはきっと、素晴らしい魔術師になれると、我が子と共に、その道がきっと明るい未来に繋がると信じて応援しています。」
読み上げた後、ノアは引っ込めた涙をもう一度溢れさせる。だけれど、それは恐怖を思い出した表情とは違う、その自分が助けたヒトと、その者が応援すると綴った自分の夢の先にある明るい光景に思いを馳せた、それは希望から来る涙。
レウス「・・・正直儂は、お前を見くびっていた、お前は戦いの中には在るべき存在じゃないと、いずれその戦いの中の恐怖心に負け逃げ出してしまうと・・・
だが結果は違った、お前は命を賭けて目の前の救うべき命を身を顧みず守ろうとした、逃げてしまえば自分だけは確実に助かったかもしれなかったのに・・・
強くなったな、ノア。」
そう告げ何か決意をした表情で、レウスはノアに、もう一度問いかける。
レウス「提案がある、ノア。
泣いたままでいい、そのままのお前に委ねたい。」
ノア「?」
きょとーんと理解が進まないノア、とそのまま口を開き話し始めるレウス。そしてその内容は・・・
レウス「お前の魔術学院入学を今この場で認める。」
ノア「・・・えっ!?」
・・・そしてその内容は衝撃的な内容だった、頑なに認められなかったノアの願いを、今、この場で受諾すると。
ノア「・・・ほ、本当に良───」
レウス「ただし!・・・条件を設ける。
それを満たせば認めてやろう。」
ノア「それでもいい!すぐクリアしてやるから!」
気がつくとノアの眼から涙は引っ込んでいた、それは強く願い、挑み打倒する力強い真っ直ぐな眼だ。
レウス「やる気があるならばよろしい、条件だが、ズバリ今までお前に出した課題、それの数倍、いや、数十倍以上の難易度の課題複数出す、数は教えん、そしてこれを今日から数えて"1年以内"にクリアすることだ。
それが無理なら大人しく諦めろ、この条件を1度でも呑んでクリア出来なければお前の魔術学院入学は文字通り一生認めん、もちろん[[rb:途中離脱>リタイア]]も認めない。
それでもお前は条件を呑むか?」
ノア「うん!おじいちゃんがびっくりするくらい速くクリアするから!」
─────この刻、誰も予想しなかった、いや、出来なかった。
これは希望であり、救いであり、願いである、それは誰のものでもなく、ただ語られる[[rb:英雄譚>ものがたり]]、そしてこの瞬間、この何気ない1幕は英雄譚を形作る歴史の奔流、その中心にある台風の目となる一人の少年、その原典となったのだ。
歴史は、今も確かに動き続けている、我々の与り知らぬところでね。
レウス「それじゃあ、早速、"この町の外周を魔術を常時発動した状態で10周しろ"、休憩はなしだ、タイムリミットは日の出まで。」
ノア「は!?まって!それキツ!最初くらいせめて5周とかから─────」
レウス「スタートの合図はなし!歩いたり立ち止まったり魔術解除したらさらに1周追加するからよろしく〜。」
ノア「ひぃー!おにー!あくまー!くそじじー!!」
課題の内容を聞き、逃げ出すように外を出た、だがもう心配はないだろう、1つ困難を乗り越え、前を向いたあの子は、その困難の先の景色を知っているから。
レウス「すっかり元気を取り戻しおって。
儂らがどれだけ心配したと思っとるんだか・・・
でも、これでいい、アイツに泣き顔は似合わん、そうだろう?"エルド"よ・・・」
走る、ただひたすらに、がむしゃらに、たった今課せられたものだけじゃない、今、自分はより大きな何かに向かって走ってる。
いつからそうだったか、それに意味があるのか、
そんなのはもう知らない。
振り返る時間なんてもったいないから。
意味なんていちいち考えたら、足が止まるから。
自分が向かってるその先の風景に、今はただ思いを馳せていたいから。
誰にも止められない、誰にも止まらせない、ただ立ち止まるな、立ち止まるなって言い聞かせ続けて、視える景色が今日を境に変わった気がする。
世界が変わったのか、自分が変わったのか、正直どうでもいい。
それよりも、変わった証として変わった景色を見てちょっとだけ零した言葉を大事にこの先に持っていきたい。
「星空って、こんなに綺麗だったっけ」
無辜が己を変え、同じ無辜だった数多を礎に、いつかは世界を変える者。其れをヒトは英雄と呼ぶ。
英雄とは、暗き夜を往く旅人である、視えぬ視界の中で、地を踏み締め、草を掻き分け、遥か向こうを指し、時につまづき、時に迷い、時に歩みを止めてしまう。
しかし彼らはその先に輝かしい幻想を見る、それは何故だっただろうか、遥かなる[[rb:宙>ソラ]]、そこに浮かぶ最も身近で最も遠い光の群れ、彼らは星空に導かれる、暗き夜で[[rb:標>しるべ]]となるものは、いつも星空だったのだ。
To be continued…
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