悪堕ち竜人TFいじめられっ子が異世界で連鎖堕ちのお手伝いしたりいじめっ子に復讐したり 後編

  不審者みたいな黒いローブと翼をはためかせ、ボクは空を飛んでいる。

  クルカ砦って、人間が呼んでいた砦から、少し飛んだ先にその農村はあった。人間たちの住む農村だ。

  まだ畑には苗が芽生えたばかりで雑草をむしったり、害虫を取ったりとまだまだ忙しそうな人間の様子が、日が傾いた今、遠い上空からでも見て取れる。

  「……ど・れ・に・し・よ・う・か・な?」

  指折り数えて、人間の居る位置を確認する。ボクの任務は人間の王が送り出した戦士たちを倒すために考えた作戦を実行すること。そのためにはこの村を制圧しようと考えていて、手始めにボクの犠牲になってくれる人間をさがしている。

  ふと民家の裏、畑の方からは影になって見えない位置に、人間が集まっているのが見えた。

  4人の屈強そうな男たち、そして彼らに挟まれるようにして怯えている青年。

  「なぁ、ケビンよぉ。俺たち、友達だよなぁ?」

  青年は肩を掴まれ、動けない。おびえた表情で背中を壁に預け、涙目になりながらも、相対する者に視線を返しているのを見ると、どこか既視感があった。

  「今日もさぁ、俺たち野良仕事で疲れて酒を飲みてぇわけよ。だが金がねぇ。わかるだろ?」

  「……疲れているのは俺も一緒だ。君たちに渡すお金なんかないよ。これは、母さんの薬を買うお金なんだ。」

  ケビンって呼ばれた人間は、男たちにそう言い返す。身体は震えてはいるけれど、彼の目にはこいつらなんかには屈しない、という意志の強さが顕れていた。

  しかしそこは多勢に無勢。何とか逃れようとするも、拳と脚が飛び、彼は地面に倒れ伏す。

  「ありがとなぁ!ケビン!大丈夫!お前のおふくろさんの事は俺たちが何とかしてやるからなぁ!」

  男たちは硬貨の入っているであろう袋を彼から奪い取ると、ぽんぽんと得意げに軽く放り投げると、ひらひらと手を振ってその場を去った。

  アイツらにしようかな。何故かはわからないけれど、なんとなく腹が立つ。上空からゆっくり近づくと彼らは、村はずれの民家の前に集まっていた。きっと村の中でも身分の低い者の家だ。壁には穴が開き、藁葺きの屋根もどことなくまばらだ。

  「大丈夫なんすか?こんなことして。」

  男たちの中でも身長が一番低い男が声をかけたのは先ほど金を直接奪い取った男。よく見ると服の仕立てが良い。きっと村の中でも身分の良い立場なのだろう。彼らの手には、まだ日が沈んでないというのに松明が握られている。

  「大丈夫だ。ここは中心部から大分外れているから、大きい音を立てたところで、誰も気づきゃしねぇよ。それに、俺は村長の息子だからな。ろくに仕事もできないような病気の穀潰し、始末したほうが村の為になるってもんだ。あとは……ケビンの奴が苦しむ姿を俺は見たい。なまじ頭が良いからって、俺たちのことを見下した目ぇしやがって……。」

  そういうと、彼は手にした松明をぼろ家に押し付ける。木の燃える臭い、次いで悲鳴、肉が燃える臭いが混ざる。煙が飛んでいるボクのところまであっという間に立ち込める。

  男たちの嗤い声。……頭が痛い。頭の中が煩い。人間同士が争ったところで何とも思わない。はずなのに。誰かが泣いている。脳裏に浮かぶ記憶、泣いていたのは……僕?

  頭を横に振り、雑念を追い払う。気が付くと男たちは去り、燃え盛る家の前、膝をついて慟哭する人間、ケビンの姿があった。

  彼の後ろに翼を広げて降り立つ。村の外れだから、きっと誰にも見られていないだろう。彼の姿が僕に重なる。やっぱり……彼にしよう、きっと、彼は良い素体になるだろう。

  自分の人差し指に軽く牙を食い込ませると、赤い血が指を濡らす。魔族も人間も、同じ赤い血が流れているのに、それでも分かり合えない。なんて感傷に浸りつつ、こちらに気が付いていない彼に後ろから近づいていく。

  彼の背中にそっと血で円を書く。こちらを振り向いた彼の目は、昔、何度も鏡で見た、僕の目と同じ、憎悪と悲嘆に満ちていた。

  「全部“なくしてしまえ”ばいいよ。ボクみたいに、ね?」

  彼に描いた魔法陣は、ボクを魔族に変化する際に使われたものを簡略化した意匠で、簡略化した分、使う魔力が多かったりするのだけれど、それはボクの魔力でカバー、使用する魔力を大幅に増やすことで変化速度も大幅アップ……ってね。僕の境遇に似ているところもあるから、きっと君も物言わぬ獣になんか“ならない”よ。

  「あ……あ゛あ゛ア゛ああア゛あああ゛ぁぁ゛ぁぁ゛ぁあ゛ああぁ゛っぁぁぁ!!!!」

  絶叫。そして始まる変化。彼の茶色い毛髪が徐々に顔全体に広がっていく。鼻が前方に伸びていき、マズルが形成されていった。大きくて黒い鼻は犬かな?それとも狼かな?耳の位置があっという間にずれて、頭頂部に尖ったフサフサの耳がピコピコと動く。口からは人間の歯がポロポロと落ちていき、鋭い牙が生えそろい、喉奥からは唸り声が聞こえてきた。全身の筋肉が膨張し、着ていた服が破れ、獣毛に覆われて、お尻からフサフサの尻尾が揺れる。

  「アオォォォォォォォォン!!!!」

  狼の遠吠え。新しい魔族の誕生。ニィッとボクの口が裂けた。

  「お誕生日おめでとう。……ねぇ、君の名前を教えてくれるかな?」

  「お……俺は……。オレは……。オレ……は?」

  ちゃんと言葉を喋れている。成功するかどうかはわかってなかったから嬉しいな。でも、ちゃんと自分が何者なのか、っていう自覚はボクと一緒でまだ定まってはいないみたい。これは、いったんお城に持ち帰って考えよう。

  くるりくるくる、と指をまわして別の魔法を使う。指定した場所への“空間転移”。イクサの元へのテレポート。空間が揺らぎ、城へ通じる異次元の通路があらわれ、彼の背中を押して、ボクは鼻歌交じりに帰還した。

  日はまさに沈もうとしていた。

  [newpage]

  魔王の住む城は、この国の不帰の森と呼ばれる森の奥深くにあると言う。その古城の中、魔族の戦士たちの詰め所。その個室。

  「ウォル~。いる~?」

  ボクは、以前つけられていた護衛の一人。狼獣人のウォルの部屋の扉をノックした。ちなみに最初に僕を追いかけてきた内の一人も彼だった。

  「なんだ、元人間。」

  低い、威圧的な声。前に振り切って単独行動したのをまだ怒っているみたい。彼の灰色の鬣が逆立ち、喉から響く唸り声。

  「ちょっとウォルに頼みたいことがあるんだけれど……新人さんの教育。」

  「あ゛?お前がすればいいじゃねえかよ。……って新人?この城に居る奴以外の生き残りが居たってか?」

  ボクは連れてきたケビンの背中を、ウォルの部屋に向かって押してあげた。

  「ま、魔族……?お、オレは……?」

  彼は未だ、思考が定まっていないのか、うわごとのように言葉を繰り返す。

  「えへへ、ウォルと同じ狼の獣人ができちゃった、ボクがイクサにされたみたいにね。ボクが手ずから教育してもいいけど、ボクは魔王様のモノだからさ。ね、ウォル、彼に、君はもう“人間じゃない”って教えてあげて?」

  ゴクリと彼を見てウォルの喉が鳴る。ウォルの同類も多くが人間との争いで死に、今やこの砦に両手で数えるほどしかいないと聞いている。ピクリとウォルの股座の布が動いたのが見えた。

  ウォルは腰布を紐解き下半身を露わにすると、彼に近付く。そして、思いっきり彼のマズルを咥えた。

  「!?」

  「俺が上だ!新入り!返事は!」

  咥えながら灰色の狼が吼える。

  「が、がう!」

  閉ざされた口で返事をするケビン。

  「よしっ!じゃあ四つん這いになって、こっちにケツを向けろ!」

  ウォルに命令されるままに、彼は動き、部屋の真ん中で四つん這いになった。狼の群れの序列が、もう決まっちゃったみたい。ピチャリピチャリとウォルは彼の下の穴を舐めて解し、そして、覆いかぶさった。

  「力抜けよ……。抜かないと、いてぇぞ……?」

  「は、はい……。」

  肉の触れ合う艶めかしい音。何度も何度もウォルは抽送を繰り返す。そのたびに喘ぐ二人。いいなぁ、ボクもイクサにあんなふうに激しく犯されたい……なんて。

  狼の荒い息が二つ、部屋に響く。

  「おらっ!お前はなんだ!言ってみろ!」

  「お、オレは……オレは……。」

  激しく灰色の狼に責め立てられてなお、まだ、彼はどこか心の奥で抵抗しているみたい。しょうがないなぁ。最後の一押し、手伝ってあげよう。

  ボクはケビンの目の前に移動して、彼の目を見つめた。彼の瞳の中でボクの赤い瞳が輝きを増していく。

  「辛いこと、みんな忘れちゃおう?ケビン。全部“なくして”生まれ変わろう?」

  彼の目が赤く染まる。それと同時にウォルがひと際強く、ケビンの中に突き入れ彼のうなじを噛みつく。欲望を大量に吐き出し、雄の匂いが部屋に広がった。

  「さぁ、お前はなんだ?もう一度言ってみろ?」

  ウォルが言った。いつの間にか朦朧としていたケビンの目は焦点が合い、はっきりと自らの意志を感じられるようになっている。

  「オレは、狼獣人のケビン……。魔王様とウォル様に忠誠を誓います!アォオオオオオン!」

  狼が遠吠えをあげる。仲間が増えた喜びで思わず笑みが漏れる。

  「えへへ、ありがとう、ウォル。じゃあ、今度は彼を連れて、あの村を制圧しに行こ~!」

  「あ~……それはわかったが。その前に、片付けだな……。」

  ポリポリと頬を掻きながら、ウォルはケビンと水浴びをするために外へと出て行く。なんだかケビンの顔が赤い。あ、ボクが掃除して置いてあげよう。そう思ってボクは物置にブラシとバケツを取りに行きつつ、彼らが仲睦まじそうに並んで歩いていくのを見送ったのだった。

  [newpage]

  夜。人の時間は終わり、魔が目を覚ます。音もなく、狼の群れが村を目指して駆けていくのを、ボクは空からじっと見ていた。

  群れのリーダー、ウォルが簡単な指示を出すと、彼らは散開する。各々が指示通りに家屋を襲い、中の村人をできる限り生きたまま引きずり出す。

  今回の任務は村の制圧。そのために、村の一員であるケビンを仲間に引き入れたのだ。村の警備状況、どこに何があるのか、その全ては、群れの仲間に伝達されている。村の周囲に張り巡らされた背の高い木製の防護柵も、彼らの身体能力なら軽々と飛び越せた。

  ボクは見物と空からの見張り役、逃げ出すものを見つけたら空から知らせたり、できればボク自身でも人間を捕まえる仕事。

  まぁ、彼らは優秀で、ボクの出番なんて無さそうだ。退屈だからケビンが向かった酒場の様子を“遠見”の魔法で覗き見ることにした。だって、彼がアイツらをどうするのか、ボクはとても気になったから。

  酒場の中には店主と、あの時、ケビンの家に火を放った男たちが四人。なにやら楽しそうに話している。

  「ケビンのやつ、居なくなっちまうなんてなぁ。」

  「まぁ、アイツが居なくなって清々するぜ。あいつが泣いてやがるの、うるさくてすぐ聞きたくなくなっちまったしよぉ。」

  彼らの言葉に反省や後悔なんて無かった。そこに突然、狼の獣人が扉をけり開けて入ってきる。それを見て、彼らは目を丸くして驚いていた。

  「命令はできる限り生かして……。できる限りだ……。こいつらは……殺す。」

  ケビンは命令を復唱するけれど、残っていた復讐心の方が勝ったみたい。驚いて動けない男たちのテーブルにとびかかり爪を一閃。一番背の小さい男の首が飛び、血が噴き出す。残りの三人の内一人は腰を抜かし、椅子から転げ落ち、這うようにして扉に向かう。その這いずる男の頭を狼男は思いっきり踏み砕いた。残る二人の内、一人は壁にかかっていた斧を取る。大きく頭上に振り上げ狼の後ろから振り下ろそうとした。その瞬間、狼の後ろ脚が男の顎を蹴り砕く。そして、最後に残ったのは身なりのいい男がただ一人。

  「ば、化け物め。な、なにが目的だ。か、金か?金なら、命さえ助けてくれるならいくらでも払う。だ、だから……。」

  「……お前たちは敵だ。」

  「その声、お、お前、まさか……!」

  狼が男の言葉を無視して喉笛に食らいつく。血が噴き出し、辺りに鉄と生臭い臭いが漂った。狼の遠吠えが村の各所から響き渡る。それに呼応してケビンも雄叫びを上げた。どことなくもの悲しい声色だったような気がした。

  ケビンが4人の男を相手している間、店の店主が裏口から逃げ出そうとしたのを、ボクは見逃さず。空から降り立ち、軽く腕を捻りあげると、店の中に放り投げた。

  「あ……トワさん。命令違反……ですよね。オレ……いかなる処罰でも受ける所存です。」

  ケビンが耳を垂らし、尻尾がクルンと巻いてしょげている。ボクはとても面白い物が見れて満足だよ。

  「あぁ、大丈夫。ちょっと術式に血が必要だったから、何人かは間引くつもりだったよ。お疲れ様。」

  ひょいひょいと、男の死体をまとめて担ぐ。こんな細い腕なのに、軽々と重い物が持ち上がるなんて、竜人の身体ってすごいなぁ。そのまま、村の中心部に足を運ぶと、狼たちに囲まれて、村人たちが肩を寄せ合い怯えていた。

  彼らのことは気にせず、死んでいる男たちの血で村人全員が中に入るように円を描く。魔力を込めて、祈りを込めて。ちゃんと失敗“しない”ように。

  魔法陣が光る、村人たちは皆一様に、大人も子供も、男も女も、頭を抱え、身体が変化していく。服が破れ、筋肉が膨張し、尻尾が、耳が、毛皮が、ケビンの肉体が変化した時と同じように、一様に、村人たちは狼の獣人の姿へと肉体が変化していく。変化の末、狼の遠吠えが村中に響き渡った。

  とはいえ、皆、彼みたいに一人一人自覚させるわけにもいかないからなぁ。と悩んでいるうちに、ウォルが吼えた。

  『全員、整列!』

  魔力の込められた言葉。彼らは三々五々、ウォルの前に集まり、綺麗に整列して跪く。

  『貴様らは、全員、魔王様に仕える狼獣人の一族となった!これからは、魔族の一員として生きるのだ!理解せよ!遠吠えをあげよ!アォオオオオォォォン!』

  仲間にだけ伝わる、念話の魔法。それが、変化したての村人たちには効果覿面だったのだろう。今、彼らが属しているのは人間ではないということ。彼らの身体はもはや人間ではないということを知らしめるのには。

  彼の声に反応して、村人の一人が吠える。一人、また一人と、自分が狼の獣人であると、ウォルが群れのリーダーであると認めるかのように咆哮した。こうして、この村の人間はほとんど全て、狼の獣人、魔族の仲間へと堕ちてしまったのだ。

  「……そんなことできるのなら、ケビンの時もそれを使えばよかったんじゃ?」

  「……別にいいだろ。単にアイツが……俺の……。」

  一拍。どこかためらいがちだったが、ボクのことをちゃんと仲間だって認めてくれたのか、ウォルは口を開く。

  「好みだった……ってだけだ。」

  彼に寄り添うようにして尻尾を振るケビンをほほえましく思いながら、ボクはイクサに報告するために翼を広げ、この場を後にした。

  [newpage]

  ボクとイクサで立てた作戦は単純なもので、要は待ち伏せと奇襲だ。

  手始めに人間の国の王都から砦につながる道の中で、砦から最も近い村を堕とす。

  異世界から召喚された戦士たちは、落とされた砦を取り戻すために街道を通り、道中の村で休息を取るだろう。近くに安全に休息できる村があるのに、誰が好き好んで野宿する者がいるだろうか。

  しかし、彼らが訪れる村はすでに落とされ、元人間の村人たちの部隊で待ち伏せ済み。そこからの奇襲でなんとかしよう、というもの。

  幸いにも、彼らの国に潜入している同胞から入ってきた情報によると、砦を落とされたことに恐慌した王は、すべての戦線から異世界から召喚した者たちを撤退させ、本城に集めた。

  そしてその中から特に優秀な10人を砦に向かわせて、他は本城の警護に回すという、戦力の逐次投入になりそうな構えだ。

  だからこちらは最大戦力、イクサ自身も出撃して、大勝負をかけるつもり。もちろんボクもイクサの傍に……と言いたいところだけれど、空から哨戒できる存在は貴重だから、僕は最初は空からの目として頑張るつもり。

  しかし、狼獣人の部隊とはいえ、異世界から召喚された戦士の相手は大変かもしれない。だから、もう少し数を揃えておきたいな。

  と、ボクが思ってやってきたのは、村のはずれ。共同墓地。

  ファンタジーでは定番の死霊術。それを試してみよう。動く人間の死体。それも生きているように見せられたら、きっと良い囮になる。

  「さぁ、起きて。君たちは皆、まだ”死んでない”よ……。」

  墓場全体に魔力を込めて、死者の目を覚まさせる。ガタガタと木棺の揺れる音がした。地面から手が生え、十数人の生ける屍たちが地面から這い出す。

  うんうん、見た目も、少し手を加えればごまかせそう。生ける屍たちはふらふらと起き上がり、命令を待っている。こちらを見つめる濁った瞳。さて、彼らにちゃんと仕事を与えないとね。

  「いいかい。これから、この村の中で君たちは村人のふりをするんだ。そして、人間を見つけたら、できるだけ気が付かれないように……殺せ。」

  自分でも信じられないくらい、冷酷な口調だった。それがなんだかおかしくて、ボクは自然に口元をゆがめた。

  そうこうしている内に、順調に彼らが街道を進めば村に到着するころだ。陽が傾き、あたりが暗くなり始めたころ、ボクは翼を広げ空に飛び立つ。どうか、仲間が誰も”傷つかない”ように、と祈りながら。

  [newpage]

  「そろそろ、砦の前の最後の村に着くはずだ。」

  同行者の一人が言った。名前はなんて言ったか、元はサラリーマンだったと言っていたのは覚えているのだが、異世界に召喚されたうちの一人、ケンジは思案する。

  どうしてこうなってしまったのだろうか。ただ、高校でいつもの日常を過ごしていただけなのに。こんな血なまぐさいことに巻き込まれ、早数か月。何とか元の世界に戻れないかと過ごしているうちに、あれよ、あれよと、もてはやされ、何時の間にやら人外との戦争の最前列だ。

  あのゴミクズを好きに弄ってストレス解消をしていたあの頃が懐かしい。なぜか自分たちと同じ場所には居なかったし、こんな時にもグズな奴だ。

  彼の頭の中にあるのは現状に対する不平と不満ばかりだった。肉体の強化魔法でごまかしているとは言え、連日歩き続け、疲労がたまっているのもあるだろう。彼らには休息が必要だった。

  「あ、灯りが見えるよ。もう少しで休める!」

  そう言って駆けだしたのは10人のうちの一人、ケンジよりも年下の少年。ムードメーカーを自称しているが、その実、トラブルメーカーで、その尻拭いを他人にやらせるはた迷惑な奴。ケンジ達が止める間もなく一人で村の門へと走っていった。

  舌打ちが数回、同行者も腹が立ったのだろう。ケンジもしたかったが、この中では年少なので自重した。

  「さて、僕は村長のところを訪ねてくる。君たちは宿と酒場に手分けして行って、部屋の確保と食料の確保を頼む。」

  この中でも最年長の男、この部隊のリーダーを務めている男が指示を出す。たしか教師だとか言っていたか。正直に言ってイチロの先公に比べると月とスッポン。コイツがあのクラスの担任だったら、あのゴミに告げ口された時、こちらの立場の方が危うかっただろう。それくらい清廉潔白な男だ。

  男に言われるまま、ケンジは宿の方へ向かった。しかし、村の中から生活音のような音がしているが、どこか妙だ。何かはわからないが嫌な予感がする。先ほど一人で先行したチビも戻ってこないし。いつの間にか彼は少し手に汗をかいていた。

  「ギャアァア゛ア゛アアア゛アア゛ア!」

  悲鳴。いったい何が起きたのだろうか。声の出所は何処か民家の中の様だった。ケンジ達は4人でその民家の方へと様子を見に向かう。あれだけの大きな悲鳴だったというのに、村人が一人も出てこないのはおかしいと思ったが、そんなことよりも悲鳴の主の様子を見なければ、何か危険が迫っているのか確認しなければ。そう思ってケンジは仲間の一人に扉を開けるよう促した。

  軋みを上げて扉が開く。家の中では老婆が刃物で何か固いものを割ろうとしているように見えた。

  ガツン、ガツンと音を立てて、赤いしぶきが部屋に飛ぶ。老婆がこちらに気が付いたのだろう。こちらを向いてほほ笑んだ。

  手元の割っていたものに最初に気が付いたのはケンジの同行者の一人だった。ほぼ反射的だったのだろう、彼の手から火炎魔法の炎の線が伸び老婆を燃やす。老婆の手元にあったのは、先行していた、あのトラブルメーカー。そいつの頭部だった。

  あまりのスプラッタさに、一人が吐いた。自身も吐きそうだったが、ケンジともう一人はこの時は何とか持ちこたえていた。炎の魔法を唱えた男がひきつった声をあげ、腰を抜かし、地面にしりもちをつく。あんな状況、恐怖を感じないほうがおかしいのだ。

  しかし、それが良くなかった。燃え上がる老婆がその瞬間、こちらに向かって突進してきたのだ。死んでいてもおかしくないというのに、腰を抜かした男に抱き着き、肉が、燃える臭いがあたりに立ち込めた。さすがに耐えられなかったのだろう、もう一人も胃の内容物を吐き出す。そしてその場には二人分の吐しゃ物と一人の惨殺死体、二人の焼死体が残されていた。

  辺りから狼の遠吠えが聞こえ、呆けていた精神を何とか取り戻す。血の臭いを嗅ぎつけやがったのかと、ケンジは歯噛みした。しかし、野生の狼が村の壁を越えて襲ってくるだろうか、何か思い違いをしていないだろうか。そう思っているとさらなる悲鳴が聞こえた。酒場の方だ。

  酒場に向かおうとするケンジたちの前に、何かが、降り立った。

  [newpage]

  ボクは満足気に空からその村の惨状を眺めていた。

  一人は生ける屍に頭を割られ、一人が燃え死に、4人は酒場で死体の相手をしているうちに狼たちに奇襲され何もできずに息絶えた。きっと後で彼らの胃袋におさまるだろう。残るは4人。どうしてくれようか、そう思って3人残っている方に降り立った。この状況なら、もう空からの見張りは必要ないだろう。追加の援軍が来るなんて話もないし。

  黒いローブをはためかせ、彼らの前に降り立つと、やっとのことで武器を構えた。先ほどまでの惨状で動揺しているのだろう。一人は槍、一人は弓、そして、ケンジは剣を構える。

  弓をつがえた人間から矢が放たれると、本来ならありえない軌道で何本もの矢が全方位からこちらに迫った。このままじゃハリネズミになっちゃいそう。

  だけど。本能が言っている。こんなもの”効かない”って。反射的に目を閉じてしまったけれど、何かがウロコに触れた感覚の後、矢はすべて地面に落ちた。痛くも痒くもない。

  信じられないと、彼は目を見開いている。そこに槍を持った人間がこちらに突撃してきた。抉るように槍を前に突き出し狙うは胸、心臓を一直線。

  「”動くな”」

  相手の足元が急にありえない速度でぬかるむ。槍持ちは泥に足を取られ、地面に倒れこんだ。転倒した衝撃で槍がこちらに飛んできて地面に落ちた。ボクは少し考えて、地面に倒れこんだ彼が手放した槍をそっと拾う。

  「えいっ」

  すっと、まるでスポンジケーキにナイフを入れるかのようにあっさりと、彼の背中、心臓のあたりに槍の穂先が入った。そのまま槍を突き立てる。苦悶の悲鳴と痙攣。少しして、彼は動かなくなった。

  「ひどいなぁ。こんなもの刺そうとするなんて。」

  ふと、気が付くともう一人、剣を構えていたケンジがいない。逃げたのかそれとも。そう思った瞬間、彼はすでにボクの後ろに居た。

  「死ね!化け物!」

  ありえない速度だった。一瞬で音もなく、距離を詰められるどころか、後ろを取られ、そのうえ、剣を構えているなんて。

  「あ……」

  これは防げないかも、とっさに魔法を使おうとしたけれどそれより早く刃が僕に振り下ろされた。

  金属音。

  恐る恐る目を開ける。

  彼の剣が、大きな赤い腕に防がれ、止まっていた。

  「無事か、トワ。すまん、少し遅くなった。一人手ごわいやつがいてな、取り逃がしてしまった。」

  「……イクサ。」

  イクサが助けに来てくれた。うれしい。いつもより胸がドキドキしてるのは、戦いで昂揚しているせい?

  「チッ!新手か!それも恐らく大物。俺ともう一人じゃ分が悪いか……。」

  そう言ったのも束の間、いつの間にか彼はかなり離れたところに居た。瞬間移動か、はたまた他の能力か。

  「”逃がさない”……!」

  この村全体を覆うほどの結界。外に逃げようとする者を弾き飛ばす大規模なもの。念のために魔法による罠を彼の周囲に張っておく。

  彼は舌打ちをした。逃げられないと判断し、再びこちらに剣を構えて向き直る。

  「くそっ、しょうがねぇ。全力で殺してやる。」

  やはり一瞬で距離を詰めてくる。しかし、今回は様子が違った。ケンジの身体の様々な場所から血が噴き出す。仕掛けておいた罠にはまったみたい。薄くて目には見えにくい透明な氷の刃が彼の全身に突き刺さっていた。

  ケンジは血が噴き出し、倒れこむ。彼にボクは近づいた。このくらいで終わらせるつもりはなかった。彼には、彼が僕に合わせた目よりひどい目に会ってもらいたい。

  そう思って、彼の血で、彼の身体に、魔法陣を書いた。

  彼の身体が痙攣する。体が大きく膨張と収縮を繰り返し、奇妙な鳴き声を上げた。全身の毛が逆立ち、うっすらと全身に生えそろう。耳が頭頂部に移動し、円形の耳が周囲の音を拾うように大きくなる。細長いマズルが伸び、その顔はまるでドブネズミの様。手足の骨格も歪み、物を持ちにくい形に手が変形し、その様相は人間の子供サイズの化け物鼠。急に伸びた前歯がガチガチと震えていた。幸い、変身の過程で全身の怪我は消えてなくなっていたので死にはしないだろう、まだ。

  「ヂュッ!?ヂュヂュッ!?」

  でもどうやら失敗しちゃったみたい。言葉が喋れないのを見るに、これが、イクサが前に言っていた物言わぬ獣ってやつなのかな。まぁいいか。彼の額に別の魔法をかける。彼がどこに居ても、彼の情報が入ってくるようにそんな“探知”する魔法を。そして最後に、結界を解除して彼を放した。どこへでも逃げればいい。その身体で、どう生きるか。悪趣味だとは思うけれど、ちょっと楽しみだった。

  一目散に逃げる大鼠を見送ると、ボクが遊んでいる間にイクサは弓使いを始末していたみたい。あとに残ったのは大量の血と肉片だけ。

  「この戦い、我らの勝利だ!」

  イクサが勝鬨を上げると村中から狼の咆哮が響く。こうして、少し取り逃がしてしまった者もいるけれど、戦死者を出すことなくこの戦いは終わったのだった。

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  大鼠は駆けていた。城に戻れば、きっと誰かが気が付いて、元に戻れるように魔法をかけてくれるはずだ。そう彼は信じていた。雨の日も、風の強い日も、日差しの強い日も、ずっとずっと力の限り走り続けた。この姿になってからは魔法を使うことができなかったが、思った以上にこの鼠の身体は力が強いのか、あまりものを食べたり飲んだりしなくても体が動いた。

  何日経ったかはわからないが、鼠は夜、ついに城下町の門をくぐる。王の城までもう少し。

  大鼠の姿を見て、夜の街に行きかう人々が悲鳴を上げた。武器になりそうな日用品を構え、友好的でないのは簡単に見て取れる。何か言いたかったが、鼠の喉奥から出るのは、鳴き声だけ。

  「早く衛兵を呼べ!」

  そう言った男の手に持った箒の柄が鼠に刺さった。どうして、と鼠は思った。お前たちが平和に暮らせるように、今まで頑張ってきたのに、と。鼠の腹に誰かの蹴りが飛んだ。痛みのあまりうめき声をあげる。どこかで聞いたことがあるようなうめき声だと、ネズミは思った。誰も彼もが鼠の腹を蹴っていく。そしてついに、鼠は血を吐き、動けなくなった。今際の際の鼠の思考は、

  (”こんな国、滅んじまえ”)

  という呪詛。

  その様子をはるか遠くの森の中から緑色のウロコをした竜人が楽しげに見ていたことは、見ていた本人以外、誰も知らない。

  [newpage]

  あれから、魔族と人間の戦いは小康状態に収まっている。人間の国の王は、上位層の戦士をほとんど失い、さらに恐怖し、新たに異世界からの召喚を試みたようだけれど、何かに邪魔されたのかあれからうまくいっていない、というのを風の噂で聞いた。そのおかげもあって、魔族の領域は徐々に広がっている。

  まぁ、ボクは前線に引っ張りだこ。今もあの術式を実用できるのは、ボクだけみたいで、他の人が試してみた結果、魔族には変異せず、物言わぬ獣になるばかり。改良が待たれるけれど、何時になることやら。

  今日も今日とて、ボクは前線に近い大きな町を堕としてきたところ。皆、喜びの雄叫びをあげて、魔族に変化してくれて、ボクも嬉しい。今までの村と違って、人の行き来の多い、大きな街だったからか、いろんな種族に変化して、報告を聞いた城にいた皆も嬉しそうにしていた。

  最近忙しかったから、少し休むために城に戻る。イクサもイクサで前線に出ずっぱりで、こうしてゆっくり会えるのは久しぶりだ。

  服を全部脱いで、トントンと軽くイクサの部屋の扉を叩いて部屋に入る。

  「……久しいな。」

  「うん……、ずっと会いたかった。」

  ベッドに座っているイクサの隣に軽く座ってもたれる。イクサも裸、逞しい身体。ボクが体重をかけたところでびくともしない。そっと彼の太い腕に肩を抱かれ、彼の方を向くとそっと口づけされた。

  そのまま舌を入れられて、金色の瞳がボクをまっすぐ見つめているのが、少し気恥ずかしくて視線を落とした。がっしりと頭を掴まれて、互いの唾液を交換していく。次第にドロリと毒腺からの媚毒も混ざり、互いの目が妖しく光った。

  どれくらいこうしていただろうか、息継ぎをするかのように口を離す。イクサの股座のスリットから徐々に大きなモノがそびえたつ。それをボクは優しく両手でさすった。

  ああ、これから彼に愛してもらえる、と思うと、ダラダラと口の中に唾液がたまってしまう。イクサも気持ちがいいのか、低い唸り声をあげつつ、彼の先端が先走り液で濡れていく。

  大きく口を開けて、彼を口に含む。牙で傷つけないように気を付けて。優しく、舌も使って念入りに磨いていく。ピクリピクリと彼自身が脈動するのを感じると、彼がボクの額の角をつかんだ。

  「クククッ。さぁ、俺も動いてやろう。覚悟はいいか?トワ。」

  「ふぁい……、魔王様♡……いえ、イクサ……♡」

  腰を激しく前後する彼。勢いよく突き入れられる彼の剛直。口の中に広がるのは彼の雄の匂いと、先走りのしょっぱさ。ああ、早く、早くと気が急いてしまう。喉奥を擦られ息が苦しくなるけれど、それよりも快感が勝って、恍惚とした表情を作った。

  そしてついに、勢いよく突き入れられ、口の中に広がるのは精の味、雄の香り。彼の精液を、喉を上下させて飲み込むと、なんだかボクも興奮してきて、スリットの中のボク自身もぴくぴく反応しちゃう。

  「あは……♡おいし……♡」

  「随分と淫らになったものだ。初々しかったあの頃もよかったが、今のお前も可愛いらしいぞ。」

  イクサに褒められてうれしくて頭が茹ってしまう。もっと、もっと褒められたい。もっと、もっと愛されたい。そっと彼の足元から立ち上がり、壁に手をついて彼に背中を向ける。尻尾を立てると、ボクの下の穴が、きっと彼の目からも見えることだろう。

  「フフフ。しょうがない奴め。そんなにお望みなら、いいだろう。満足いくまで犯してやる、愛しきものよ。」

  「はい……♡」

  力を抜いて、イクサを待つ。腰を大きな手で掴まれて、下半身に熱いものが触れる。ゆっくりと、中に入ってくる。彼との距離が近くなるにつれて、幸福感が高まり、嬌声をあげた。

  「あ゛っ♡あ゛ぁっ♡あぅ゛っ♡あはっ゛♡はいってる♡なかにっ♡」

  「まだ、入っただけだというのに、そんなに可愛い声をだして、体がもつのか?しょうがない奴だ。」

  何度も大きく腰を動かして、抽送を繰り返される。トゲトゲの凶暴な肉の棒が中で動く。中を擦られる快感と、奥を突かれる快感と。愛しい人とつながっていられる、という充足感で全身が満たされていく。

  「はぁ゛♡あ゛っ♡すきっ゛♡そこっ゛♡いっちゃ゛♡やぁ゛っ♡」

  「ふっ……ふっ……良い締まり具合だぞ、トワ。そろそろ……良いか。」

  イクサが急にボクのうなじに噛みつく。少し痛みで身じろいでしまうけれど、それさえも甘い感覚。何をしているのだろう、と軽く後ろの方を向くと、イクサ自身も指を自らの牙で傷つけ血を流していた。ボクとイクサの血を混ぜ合わせた指が僕のお腹をなぞる。

  「さぁ、俺の子を孕んでもらうぞ。トワよ。」

  なぞる指が魔法陣を描き、薄桃色の光を放つ。体の中に何か、今までに感じたことのない感覚があった。一度溶けて、何か別のものになる感覚。人間じゃなくなった時が近いかもしれない。

  「子供は何人くらい作ろうか。竜人種が改めて栄えるためにも、両の手では足りないくらい産んでほしいぞ……。」

  ああ、つまり、何回もこうして愛してくれるのだと理解して、口角が上がる。一刻も早くボクを孕ませようとイクサの動きが速くなる。そして今までで一番強い衝撃。奥の奥、最奥まで突かれたかと思うと熱い液体が大量に中に注がれた。

  「愛しているぞ、我が妻よ。強い子を産んでくれ。」

  「はい……♡あなた……♡」

  後世の歴史書に、異世界から戦士を召喚したとされる人間の王国の記述は、この時代以降、存在しない。

  この王国の記述で、最後に書かれているのは、魔族の領地を最大で世界の二割ほどまで減らしたということと、魔王イクサの妻トワを召喚したという功罪だけである。

  悪堕ち竜人TFいじめられっ子が異世界で連鎖堕ちのお手伝いしたりいじめっ子に復讐したり 後編 了

  [|>ルートを選んでください。

  光落ちルート[jump:8]

  逃亡ルート[jump:9]

  人間が滅びるルート[jump:10]

  [newpage]

  ED1 光落ちルート

  その人間から放たれた光は、どこか懐かしさを感じさせるものだった。人間の頃の記憶と感性が全て蘇り、涙が出てくる。僕はなんてことをしてしまっていたのだろう、という後悔が僕を襲った。

  「ヒカル!今なら奴を倒せる!止めをさせ!」

  神官のような服装をした男性が叫ぶ。わかっている。僕なんて死んでしまった方がいいんだ。この姿になって、僕はどれだけの人々を犠牲にしてしまったのだろう。

  「魔族なら一撃で消し飛ばす魔法のはずなのに、なんでこいつは生きているんだ……?まさか。」

  騎士の鎧を着た人が剣を振り上げる。僕は目を瞑り、裁きの時が訪れるのを待った。

  「……?」

  何も起こらない。目をうっすらと開けると、先ほど光の魔法を放った彼が手を広げて立っていた。

  「待ってくれ……。彼と、話がしたい。」

  それからヒカルと呼ばれた人と、いろいろと話をした。どうしてこの姿になったのか、僕の罪、ボクの罪。でも、僕はボクのしたことを否定したくはない。だって魔族だって人間と同じで生きていたかっただけだもの。

  「お互いに殺し合わなくてもいい世界にできれば……それが最善とは思わないか?」

  彼の申し出を受け、僕は、彼の言葉をイクサに伝えることにした。それで僕が死んでも、それはそれ。それで僕の罪が許されることはないだろうけれど、罪の意識で苦しむことはなくなるだろう。

  彼らに見逃され、僕は翼を広げて、イクサの待つ城に向かうのだった。

  終

  [newpage]

  ED2 逃亡ルート

  「もう、この城も持つまい。トワ、お前だけでも逃げるがいい。」

  城のあちこちで戦闘音が響く、多くの人間たちが最後の攻勢として直接城攻めを始めたのだ。人間を魔族に変化させる方法が安定しない今、魔王を殺せば瓦解するとの判断だろう。

  「でも……イクサ。ボクだって、イクサの為に死ぬ覚悟はできて……。」

  その先の言葉は言わせてもらえなかった。そっと口をつけられたから。

  「言うな。お前の中には俺の子もいるのだろう?なら、お前は生きろ、魔族は滅びる運命かも知れぬが、お前さえ生き残れば、まだ目はある。」

  涙で前が見えない。でもそうイクサに言われて、ボクは死ぬわけにはいかなくなった。空間転移の魔法を使って、遠く離れた魔族の領域に通じる通路を作成する。

  「イクサ……ご武運を。」

  「何、そう簡単にやられるつもりもない。生きていれば、また会おう。」

  そしてボクは、逃げ出した。お腹の中には、彼との間にできた卵。人間の手の届いていない山の奥で、ボクはずっと卵を温め続けていた。

  後に風の噂で、ボクはイクサの死を知った。気が狂いそうだったけれど、ボクはお腹を撫でて気持ちをなんとか落ち着ける。絶対に許さない。絶対にこの子を育てあげ、この世界の人間を滅ぼしてみせる。

  だからどうか、この子が“死なない”ようにと祈りを捧げ、ボクは目を閉じた。

  終

  [newpage]

  ED3 人間が滅びるルート

  あれからボクたちは着々と魔族の領域を増やしていった。異世界から召喚した戦士も、魔族に堕としてしまえば、その力はそっくりそのまま奪える。

  そうしているうちに人間の領域が徐々に狭まり、この国でもう最後。数多の人間たちの屍山血河を築き上げ、何人もの魔族たちが人間の血で描いた魔法陣は、もうすでにこの国を覆っている。後は術式を展開するだけ。

  あれからどんどん増えていった魔族たち。彼らの魔力を使えば、国一つ分の人間くらい、きっと魔族に変えることができるはず。失敗なんて“しない”。

  魔法陣のはるか上空からこの国の様子を覗くと、皆が魔族に生まれ変わっていくのが目に見える。これでもう、どこか見つかっていないところに居る人間しか、この世界にはいなくなったことだろう。

  ボクはその様子に満足して、イクサの待つ城に帰ることにした。

  「ただいま戻りました。イクサ。」

  「これで、我が悲願は成った。よくやったぞ、我が妻よ。」

  ボクはイクサに駆け寄り抱き着く。逞しい腕で抱きしめられると頭の中が幸せでいっぱい。

  「身重のお前に、無理ばかりさせてすまないな。だが、これでようやく俺たちも落ち着けるというもの。」

  「うん。もう少しで生まれるくらい大きくなったよ。」

  ボクはぽっこりとしたお腹を見せて、にっこりと笑いかける。やさしくお腹をなでられてボクは幸せだ。愛しい夫。愛しい子供。何か忘れている気がしたけれど、それでもボクは幸せだった。

  おしまい