捕食者

  「まずいな…」

  私は殺し屋だ。現に今ターゲットを殺害して逃走している。まぁ色々と何度かぬかったせいでかなりピンチなのだが。

  バウバウバウグルゥゥゥ

  目の前に犬が飛び出す

  「まずい避け…うがッ」

  なんとか回避を試みるも動物の反射神経恐るべし反応されて腕を噛まれてしまう。

  「イタッ!!この犬ッ」

  犬を殺そうにももみ合っている中で銃は使いにくくナイフで格闘していれば時間がかかり追手に見つかってしまう。女は犬を一旦払いつつ誘導用の殺傷力が低い爆弾を投げる。

  キャンッ

  いくら訓練を受けているといえど犬は犬。爆弾の爆発で怯み動きが止まる。その隙を突き犬を近くの崖の下へと投げ込んだ。

  「ハァハァ…なんとかギリギリ助かった」

  しかしこれで終わりではない。犬は追手の放ったもののうち一匹でしかないし追手自体からも逃げないといけない。だが腕には酷い噛み跡があり追手に見つかれば抵抗はできそうにない。かといってどこかに隠れるにしても木に登るのはつらいし登ったとして追手が少し探せば見つかってしまう。

  女は完全に追い詰められていた。

  女は助かる方法を考えるが思いつかずとりあえず噛まれた腕の止血をすると走り出す。

  助かる方法、助かる方法、助かる方法…

  そんなことを考える女の視界に崖崩れの跡が映る。崖崩れといっても陽動のため2日ほど前に女が爆破したものだが。とにかくそこは周りの断崖絶壁と違い多少崩れた土でなだらかになっている。女はそれを見ると躊躇なくそれに飛び込んだ

  [newpage]

  何分ほど気絶していただろうか?受け身は取ったが全身が痛い。

  とりあえず自身の確認する。

  確認した結果打撲はあるものの折れているのは元から噛まれて使い物にならなくなっていた右腕のみ。後はナイフを無くした程度で逃げるだけならそれほど問題にはならないだろう。

  女がそんなことを考えていると

  グルゥゥゥ

  先ほどの犬のような唸り声が聞こえる。しかも四方全てからである。

  「囲まれたな…ここまで沢山犬がいるなら人だっているだろ?出てこいよ怖いのか?」

  女は挑発をして相手に隙を作りにかかる。しかしそれが全て無駄だと悟るのに時間はそれほど必要無かった。

  泣き声の主が一匹森から出てくる。

  「犬じゃない!?狼か…」

  出てきたのは犬ではなく狼だった。いつもの女であれば犬も狼も怖くはない。だが今狼に囲まれているのは武器も利き腕も使い物にならない少し力が強いだけの女だった。

  「こりゃ逃げられないよね…でも戦うにしてもこの状況じゃ分が悪すぎるよ…」

  女は独り言をつぶやき落ち着こうとする。

  そもそも元から野生動物というのは女と相性が悪いのだ。女の武器はその体と巧みな話術による色仕掛けと交渉だ。裏切らせ、秘密を聞き出し、鍵を空けさせ、首すら差し出させる。そんな事をやってのけるのがこの女の特技なのだ。

  しかし野生動物にそれは通じない。いくら乳や尻で誘惑しようとそれは高カロリーの脂肪の塊でしかなく、明日牛一頭分の肉をあげるから一旦引いてくれなんて言って聞き入れてくれる相手ではない。

  今死体ですら捨てるのには全く勿体ないと思わせるほどの女の体は、ただ狼が明日生きるための餌として殺され消費されるのだ。

  「なんとか道を開いて逃げれば…」

  そんな事を考える女に数匹の狼が飛びかかってくる。

  女はそれをなんとかかわしはじき飛ばして守る。何度も何度も何度も何度も何度も女は狼をかわし続ける。だがそんな女にも限界はあった。すでに消耗している中の戦闘に一瞬足元がおろそかになる。

  「あッマズッ」

  ドサッ

  女は派手に転んだ。

  不味い不味い不味い不味い不味い起き上がらなきゃ起き上がらな…

  「うぐっ」

  避けつつ起き上がろうとうつ伏せになった女の背に狼が飛び乗る。

  狼の狙い逃走させないための無慈悲な一手が振り下ろされる。

  バキッボギッ

  狼のそれは女の予測の数倍は強かった。足に噛み付いた狼の牙は肉を抉るどころではなく骨まで砕き咀嚼する。そのまま狼は彼女の尻に喰らいつくと脂肪の塊を引き剥がし喰らっている。

  女の希望は完全き絶たれた。もはやこの足では戦うことはもとより逃走は当然歩くどころか立ち上がることすら出来ないだろう。

  だが女は諦めが悪かった。まず上に乗っている狼を大きく揺れることで退けさせ無駄だと知りつつも匍匐前進のようにして進もうとする。

  その時女の脳に危険信号が流れる咄嗟にうつ伏せから仰向けに体制を移すとまさに今首に噛みつかんとしていた狼の一撃を回避する

  「このままどうにかしてどうにか…どうにか…」

  女はもはやまともに思考もできない。ここで死んだ方が楽であろう事も分からないほどに…

  [newpage]

  女は転がる以外に動くことは出来ない。そんな中数発の首や心臓、頭への攻撃をそれだけで回避する。だがそれももはや彼女の体力では厳しいだろう。小柄な狼が俊敏に彼女の喉笛を掻っ切ろうと飛びかかってくる。

  女は避けるのは無理だと悟った。だがなんとか反射的に動いた腕がそれをガードする。運の良いことに小柄な狼は比較的咬合力が弱いらしい。すぐに腕を噛み砕くには至らなかった。

  とは言えそれに何の意味があるのだろう?片腕は最初から使えずもう片方も一旦使えないしもうじき完全に使えなくなるだろう。

  抵抗の手段は全て無くなった。

  一匹の狼が腹に乗った。何をするかは当然自明であるが女はその予測が外れている事を切に祈る。

  まぁ無駄なのだが。

  女の予測通り狼は腹を喰い破ると口を腹へと突っ込み腸を引っ張り出して手で引き裂いては口へと運んでいる。

  女は痛みに怯みそれにより小柄な狼に腕を押される。

  2匹の狼が女の足に近づいていく。

  女の食べ応えのありそうな足はすぐさま狼によってぐちゃぐちゃの肉塊へと変えられる。

  その度に力は弱まり小柄な狼の顔は女の喉に近づいていく。

  最後の狼は女の胸に齧りついた。

  どんな男でも見てしまうその胸ももうただの脂肪の塊だった。

  女の魅力は狼たちによってぐちゃぐちゃに犯され壊された。多くの男を怪獣にし懐柔してきた下半身は見るに堪えない骨と肉の混合物に、男たちの精子を沢山受けた子宮は狼の口の中に、そして最大のトレードマークであった乳はもはやただの脂肪の塊として狼の栄養となるしかない。

  それは女にとってどんな陵辱よりも屈辱的なものだった。これに比べればきっと死後に犯されることも、追手に捕まり散々で惨憺な拷問を受けその末殺されたとしてもこれほどの屈辱では無いだろうとすら思えた。

  そしてボギッっという音と共に遂に女の最後の四肢は完全にもがれた。

  狼はその腕を見せつけるように女の目前で喰らう。バキッボッキゴリという砕く音が女の絶望をさらに深める。

  「死にたくない…死にたくないよ…」

  などという言葉は当然狼には伝わらない。そもそもここで狼がどこかへ行ったとしてその傷では1時間も持たないだろう。今まで何人も殺してきた女ならわかっているだろうにそのすがるような誰にも届かない哀れな叫びはただ狼たちの咀嚼音にかき消され周りに伝わることすらなく消えた。

  1分と少し後、小柄な狼は腕を食べ終えたらしい。まだ口からはみ出している白く可愛らしい指をそのまま飲み込むと最後の大仕事に取り掛かった。

  下半身と腹の下半分をほぼ失い失血により意識を失いかけていた彼女もその痛みに目覚める。

  狼は口をいっぱいに開けると首に噛みつく。

  腕にすらかなり時間をかけていたその牙では当然さらなる時間がかかる。その牙は何度も何度も女の首にかみつきボロボロにしていく。

  女は後悔していた。なぜ最初の攻撃を避けてしまったのか。あれに当たっていれば無残に壊される自分の身体もここまでの苦しみも受けなくて済んだのではないかそんな手遅れな思考をしなんとか痛みを紛らわせる。

  突然呼吸が苦しくなる。気道が切れたのだろう。女は早く死ぬように祈るがまだまだ時間は掛かりそうだ。

  段々と視界が狭まる。首から何かが流れ出す感覚。頸動脈が切れたのだろうか。女にとって永遠とも思える時間はもうすぐ終わることになる。

  ベキッ

  潰れる音と共に女の首は胴体から完全に切り離せれ落ちる。もうすでに血が流れきっていた女の首からはそこまで血は流れない。

  女は完全に死んだ。女としても生物としてももはや女が本人だったと分かるものはまだほとんど傷の無い彼女の頭くらいだった。それすらその後砕かれ吐き出された髪の毛などの長い体毛や少し残った骨以外彼女の身体は何も残らなかった。