ケモケモクエストメモリアル-ハーレムのダイチ-全年齢版

  「自分と付き合ってくれ!!」

  目の前の4人の雄から同時に告白された僕。

  …これがゲームなら、だれかを選んで、ハッピーエンドになるのだろう。

  確かにここはゲームの世界と言っても、過言ではないが…。

  しかし自分も相手も男…

  その告白に対し出した僕の答えは…

  ケモケモクエストメモリアル-ハーレムのダイチ-全年齢版

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  Prologue-世界での始まり-

  …ここは、どこだ…?僕は、どうなって…確か僕は、トラックに轢かれて…。

  突如目が覚める。するとそこは、どこか大きな部屋だった。一人の…獣の顔をした人が壇上に立っている。

  「私たち、セイント学園の人間は…」

  …えっ!?セイント学園!?それに、目の前に立っている男の人は獣人!?周りにいる人も獣人だらけ…!もしかしてここは、ケモケモメモリアルの世界!?死からの異世界転生というやつでは!?

  ケモケモメモリアル…それは僕が一番大好きな乙女ゲーム…。攻略対象はみんな獣人の男…。そう、僕は男の獣人が好きなケモホモナーだ。世界観は日本と似たような感じのファンタジー世界で2年制のセイント学園に在籍している2年生のヒロインが、攻略対象と仲良くなりながら結ばれるゲームだ。

  攻略対象は4人。完璧獅子獣人の第2王子様のレオン・クラウス。傍若無人な俺様公爵のタイガ。田舎の町から幼馴染と今年入学するロウガ。国一番の財閥の熊獣人のバーグの4人だ。

  あたりを見回す。…ゲームの中で見た4人が実際にいる!…ここは本当にゲームの世界なんだ。…つい、興奮してしまう。…だが、あたりを見回すとゲームのヒロインのマリアがいた。…まさか、僕は悪役令嬢なのか!?だが、悪役令嬢であるメアリーもいる。それどころか、ロウガの幼馴染のアンも、バーグの妹のカオリも学園内にいる。そもそも、僕の性別は男のようだ。しかも人間。ゲームの中で人間の男の登場人物はいなかったような。

  …いわゆる入学式と呼ばれる会が終わる。改めて、持っていた手鏡で自分の姿を見る。どこにでもいる普通の容姿をした平凡な人間の男。

  …僕は、誰なんだ…?

  僕は、ゲームにも出てこない役。一般で言うところの、モブ生徒Aでしかなかったのだ。

  僕の名前は大地。生前は地球という世界で暮らしていた。実際に地球には存在しない獣人の男が好きなケモホモナー。高校2年生。今の僕自身も、セイント学園の2年生のようだ。不思議なことに、この世界での知識を持っているし、言葉も普通に分かる。この世界の生活水準も地球に似ている。生前得意だった料理やお菓子作りもできるようだ。勉強に関しても問題ないようだった。自慢ではないが、生前は勉強の成績が良かったからだ。それに合わせ、自分もセイント学園内で勉強の成績はいい方だった。一方、生前は運動があまりできなかったため、スポーツ関連に関しては、あまり成績が良くなかった。

  ここの世界での僕は、両親のいない、孤児院出身という身分のようだ。名前も決まっていなかったため、生前と同じ「ダイチ」と名乗ることにした。不思議なことに、周りの人は僕がダイチと名乗っても何の違和感も持っていないようだった。…一応、これが異世界特権というものらしかった。

  …死んでしまったことは、悲しい。でも、僕のあこがれの雄獣人のいる世界に転生できた。かっこいい雄獣人もいっぱいいる!!できることなら、かっこいい獣人の雄と付き合えたらいいな…。

  一抹の期待を抱きながら、僕の第2の人生はスタートしたのだった。

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  Spring Event

  レオンエピソード1-出会い-

  セイント学園の生徒になった僕は今、ある程度学問での成績が良かったため、先生の勧めで生徒会補佐に所属している。…いわば学級委員長みたいな立場だ。生徒会には、生徒会長であるレオン会長も、本来のヒロインである、マリアさんも所属している。初めての顔合わせの時、皆の前で自己紹介をした。

  「ダイチと言います。よろしくお願いいたします。」

  その時のあいさつは、あたりさわりのないものだった。レオン会長も、僕の返事に対し、よろしくと言っていただけだった。

  そんなこんなで生徒会に所属してから1か月がたった。…今日の議題は、定例のクラス対抗の競技に対してだった。…僕は、生前お菓子を焼くことが好きだった。…だから、今日の生徒会の議題の休憩中。自分が焼いてきたクッキーをみんなに振舞った。マリアさんを含め、みんな美味しいと言ってくれた。僕はクッキーをレオン会長にも手渡す。

  「レオン会長。1枚、どうですか?」

  「…ダイチか。…そうだな。1枚、もらおうか。」

  そう言ってバスケットからクッキーを1枚とって、レオン会長がかじる。

  「…うまいな。上品な甘さで、優しい。…私好みの味だ。」

  「本当ですか?よかった。…実は蜂蜜を混ぜてみたんですよ。…だからですかね?」

  「…ダイチはお菓子を焼くのがうまいんだな。…今度、私の好きなお菓子を作ってもらいたいんだろうが、かまわないだろうか?」

  「もちろん、かまわないですよ。レオン会長」

  「…レオンでいい。私のことはレオンと。…そう、呼んでほしい。」

  「…えっ、でも…」

  「私がそう、呼んでほしんだ。」

  「…分かりました。…レオン」

  「それでいい。私たちは、対等な立場なのだからな。」

  そして、議題が進む。競技の内容も決まり、会議が終わったため皆で帰り支度を進める。

  「ダイチ。よかったら一緒に寮まで帰らないか?」

  「…えっ。は、はい、いいですよ。」

  「それはよかった。…では行こうか。ダイチ。」

  笑顔で僕に提案するレオン。イケメンの笑顔のインパクトは半端がない。…僕はどきりとしてしまった。

  寮までの帰り道。僕とレオンとの会話の話題で上がったのは、お互いの趣味や僕の作るお菓子に関してだった。

  「ダイチの趣味を聞いても構わないかな?」

  「僕ですか?…そうですね。お菓子を焼くこと以外でしたら、料理をすることとか、本を読むこととかも、好きですよ。最近は、恋愛小説を読むことがマイブームです。」

  「ダイチらしい、かわいらしい趣味だな。」

  「かわいらしいだなんて。…ほかの女の子が聞いたら嫉妬するような言葉ですね。レオンは小説とか読むの?」

  「私か?私はそう言った小説を読んだことはないな。…幼いころから王子としての教育を受けてきたから。…そう言った本を読んだことがないんだ。」

  昔のことを思い出したのか、レオンは、少しだけ寂しそうな顔をした。

  「大変だったんですね…。」

  「そうだな。…でも、ダイチがおすすめする本だったら、読んでみてもいいかもしれないな。…恋愛小説以外では?どんなジャンルを?」

  「そうですね。…冒険物語とか、それ以外だったら、料理関係の本を読みますね。」

  「ダイチはお菓子が焼くことがうまかったもんな。…それを聞いて、納得だ。」

  「レオンは?趣味とかないの?」

  「私か?…さっきも言ったが、ほとんどを教育に費やしてきたから。でも、そうだな…」

  「…?」

  「趣味なのか、特技なのかはわからないが、教育の一環としてバイオリンのレッスンを受けていた。だからかな…バイオリンを演奏することは、好きだな。」

  「すごい!楽器を演奏できるなんて!…僕は楽器関連の音楽のセンスはなくって。…歌を歌うことは、嫌いじゃないけど。」

  「ダイチの歌。聞いてみたいな。」

  「…だったら、僕もレオンのバイオリン。聞いてみたい。今度、聞かせてくれますか?」

  「…改めて他人に聞かせるとなると少し恥ずかしいな。…ダイチにがっかりさせないよう。少し練習しておく必要があるかな。」

  「楽しみにしてるよ。レオン。」

  「…ダイチの趣味の話に戻るが、ダイチはどんなお菓子をよく焼くんだ?」

  「…そうですね。一番はやっぱりクッキーですね。他はマドレーヌや…パウンドケーキや…後、焼きプリンとかも、出来ますよ!」

  「…プリンか!?」

  少し、顔を乗り出して言葉を放つレオン。イケメンの顔が僕に近づく。吐息が僕にかかる。レオンとの近さを感じ、照れてしまい、顔を赤らめてしまった。

  「は、はい。…プリン、好きなんですか?」

  「…あ、ああ。実は甘いものが大好物でね。…その中でもプリンがお気に入りなのさ。…周りから子供っぽいと思われるのは承知しているのだが…」

  「…そんなこと、ないです。好きなものを好きというのは正しいことだと思います。…馬鹿にするなんて、ひどいと思います。」

  「…ありがとう。そう言ってくれると、少し、救われた気分になるよ。」

  「当たり前のことを、言っただけですよ。…レオン会長。」

  「…レオン、だろ?」

  「そ、そうでしたね。ごめんなさい。レオン。…そういえば、プリンが好きなんですよね。…でも、プリンは保存が難しいし、会議中に持ってくるのは、難しいかな…。」

  「…だったら、休みの日。2人きりになった時、食べさせてくれないか?」

  「…えっ?ふ、2人きり…ですか?」

  「ああ。私もダイチとだと一人の生徒として自然体で接することができる気がするんだ。…それに、今日のクッキーがあんなにおいしかったんだ。プリンもきっとおいしいに決まっている。…駄目だろうか?」

  「そんなことないです!…でも、そんなに期待させて、美味しくなかったら、申し訳ないです。」

  「そんなこと、気にしなくていいさ。…よければ、来週の週末に食べさせてもらえるかな?」

  「大丈夫ですよ。その日、予定はありませんし。」

  「…ありがとう。来週、楽しみにしている。…もう部屋についてしまった。ダイチと話していると、時間がたつのは早い気がするな。…それでは、また。ダイチ。」

  「はい、来週、楽しみにしててください。レオン。」

  そう言って、レオンと別れた僕。2人きりで会う週末。…かっこいいレオンと2人きりというシチュエーションに僕は胸が高鳴ってしまった。

  そして、来週。本当に2人きりでレオンに僕が作ったプリンを食べてもらった。レオンは喜んでくれた。レオンが、他のお菓子も食べてみたいと言ってくれたため、僕は了承した。代わりに、その日、僕はレオンが弾くバイオリンを聞かせてもらった。レオンのバイオリンの演奏はうまく、つい聞きほれてしまった。僕が思わず拍手をすると、レオンを照れたような。でも少しうれしそうな顔をしてくれた。

  …その日以降、時々レオンと2人きりで僕の作ったお菓子を食べてもらうという日常が追加された。

  タイガエピソード1-出会い-

  セイント学園の休日。平日は学園から給食という形で料理が出るが、休日に関しては、購買等で買うか、自分で作るかの2択だった。生前、僕は料理が得意だったため、自炊をしている。今日は晴れた休日。のんびり一人で自分の作った料理が入ったバスケットを開ける。さぁ、食べようというとき、大きな影が僕の前に伸びた。顔を上げると大きな黄色い体をした青い目の虎獣人。…タイガが目の前にいた。タイガは急にニヤリと笑うと、僕が作った卵焼きを無断で手に取り、口に含んだ。

  「あっ!」

  僕が何か言う間もなく、タイガはもぐもぐと口に含んでいた。

  …この光景を見て思い出す。これはケモケモメモリアルにあるワンシーンと同じだ。ヒロインであるマリアさんが自分の作ったお弁当を食べようとすると、不意にタイガが現れ、おかずを勝手に口に含み、

  「不味いな。もっとうまくなった方がいいんじゃね?」

  マリアさんの作ったお弁当を酷評しガハハと笑いながら立ち去る。…初めてそのシーンを見た時は思わず、なんだ!こいつは…と、感情移入してしまったものだ。…それ以降、悔しさと怒りからマリアさんは料理の腕を上げ、タイガに再び料理を食べてもらい、仲良くなっていくのだが…。

  …そのシーンを思い出す。やっぱり、自分の作った料理を不味いとタイガは酷評するのだろうか。…改めて自分がそのシーンの立場になると、辛いな…。

  「美味いな…俺様好みの味だ…。」

  「…えっ!?」

  思ってもみなかった感想だった。ついあっけにとられていると、タイガは僕に尋ねた。

  「お前、名前は?」

  「えっ、あ、ダ、ダイチです…ええと、あなたはタイガさん…ですよね?」

  「よくわかってるじゃねぇか!さすが、俺様だな!一般庶民にまで俺様の名が広まってるとはな!」

  ガハハと笑いながらタイガが自慢そうに告げる。…広まっているのは、実は、悪評の方なんだけどね…。

  俺様気質のタイガ。公爵のため、周りの生徒や先生も注意することができず。自分の取り巻きを作ってはリーダーとして振舞う。取り巻きもタイガのことをもてはやす。…確か悪役令嬢のメアリーも、その取り巻きグループの中にいたはずだ。

  「ところで、ダイチは何をしているんだ?こんな寂しく一人で?」

  「え、あ、昼ご飯を食べるところです。」

  「ふぅん…まぁ良い。俺様が他の料理も、評価してやるよ!」

  「ちょ、ちょっと!タイガさん…。」

  僕が止める間もなく、タイガが僕の料理を次から次へと口に含む。おかげで、僕が作ったお弁当はすべてタイガの腹の中に入ってしまった。

  「あ、あぁ…僕の昼ご飯が…勝手に食べないでくださいよ…タイガさん!」

  「…ほぉ、俺様にたてつくとは、いい度胸じゃねぇか…今後、どうなるか?わかってるよなぁ…?」

  怒り顔を向けてタイガが僕に告げる。イケメンの怒り顔というものはそれだけで迫力がある。タイガが口を開ける。

  …僕は思わず恐怖から目を閉じ、身震いをしてしまった。

  「…はぁ。まぁ、いい。今日は特別だ。うまかった弁当に免じ、今日は許してやらぁ。」

  そういうと、タイガは怒り顔をやめ、僕のほっぺをムニュムニュとわしづかみにした。

  「え、た、タイガさん!?」

  「ふぅん。人間の男のほっぺにしちゃ、なかなか触り心地がいいじゃねぇか…!気に入った!ダイチ、お前には俺様の昼飯を作る栄誉をくれてやる。ありがたく思え!ガハハ!」

  「か、勝手に決めないでください!タイガさん!」

  「なんだ?イヤだっていうのか?…お礼として、俺様がいいこと、してやらなくもないんだがな…」

  そう言って、かっこいいタイガさんの顔が僕の顔に近づく。…吐息が顔にかかる。思わず、ドクンと胸が高鳴ってしまった。

  「くっ!なんて顔してやがるんだ?ダイチ。まるで取って食われるような雌の顔しているじゃねぇか…ガハハ!」

  「なっ!?からかったんですか!?タイガさん…!」

  「俺様の行動にケチをつけるダイチが悪いんだぜ。…それにしても、タイガさん…な。」

  「な、何か変だった?」

  「…ダイチ、これからお前には俺様のことをタイガと呼ぶ栄誉をくれてやる。これからは俺様に気軽に話しかけることができるというおまけつきだ!その代わり、ダイチは俺様に弁当を作るんだ!…これは、俺様からの、命令だ!」

  「そ、そんな勝手な!タイガさん…」

  「タイガ、だろ?」

  「…タイガ。」

  「それでいい。…俺様のご機嫌を取っていれば、そのうち、本当にいいこと、してやってもいいぜ!ガハハ!」

  「もう、タイガったら…。」

  「…ところで、ダイチ。お前はどんな料理が得意なんだ?」

  「ええと、卵焼き、唐揚げ、生姜焼き、肉じゃが…」

  「…ほぉ、ダイチは肉じゃがが得意なのか。…肉じゃがは俺様の好物だ!ダイチ、今度の週末、俺様に肉じゃがを振舞うんだ!」

  「週末、ですか?…うん。その日なら、予定もないし、大丈夫だよ。…でも、肉じゃがはさすがに弁当に入れるのは、難しいかな?」

  「…だったら、俺様が特別に2人っきりでお前の料理を食べに行ってやる!光栄に思うんだな!ガハハ!!」

  「うん。僕も、作った料理を食べてもらうのは、嬉しいよ。」

  「…思った反応と違うな。…まぁ、いい。肉じゃがに関しては厳しい評価をつけるから、覚悟しておけよ!」

  「うん。タイガの期待に応えられるような味になるよう。頑張って作るよ。」

  「期待しておくぜ。ガハハ!…ダイチ。弁当の礼だ。」

  そう言って、購買で買ったであろうパンを僕に手渡した。

  「…お前の昼飯を全て食べてしまったお詫びだ…なんだ?そんな顔をして?俺様がこんなことしちゃ、悪いか!?」

  「そんなことないよ、タイガ。これはありがたくもらっておくね。」

  「…ダイチには笑顔が似合うな。」

  「…なにか言った?」

  「…!何も言っちゃあいねぇよ!じゃあな!来週の週末、期待してるぜ、ダイチ!ガハハハハ!!!」

  高笑いしながら去っていくタイガ。2人きりで会う週末。…思わぬ出来事だったがかっこいいタイガと2人きりというシチュエーションに僕は胸が高鳴ってしまった。

  そして、週末。約束通り、タイガと2人きりで僕の作った肉じゃがを食べる。タイガは、美味いな…と一言言ったきり、無我夢中で食べていた。その様子に思わずクスリと笑うとそんなにおかしいか!?と少し怒った顔になってしまった。

  機嫌を直したタイガに得意な料理を聞かれ、オムライスと答えるが否や。来週、俺様にオムライスを作る栄誉をくれてやると一方的に告げた。僕の作った料理を食べてもらうことは好きだったため、快く了承した。タイガは少しあっけにとられた顔をしたがガハハと笑った。

  …その日以降、時々タイガと2人きりで僕の作った料理を食べてもらうという日常が追加された。

  ロウガエピソード1-出会い-

  セイント学園の学生生活の中で、僕は図書委員をやっている。…生前は、料理をすることが一番好きだが、本を読むことも好きだった。図書委員の活動を通じて、様々な人を見ることができる。…物語が好きな人。勉強を一心不乱に行うために参考書を開く人。特定の分野に興味があり、その本ばかり借りる人。…様々だ。

  今日はセイント学園の図書館で受付をしている。普段は何人かのグループを組んで図書委員の作業に当たっている。今日の僕の担当である受付の作業が終わって、交代の人が来たため、今日僕はやることは終わりだ。すぐに帰ろうかとも思ったが、ここ数日、毎日図書館に通い詰め、頭をうんうんとうならせている僕と同じくらいの背丈をした狼獣人がいたので、話しかけてみることにした。

  …僕の記憶が正しければ、あの姿はケモケモメモリアルの攻略対象である、ロウガ君だったはずだ。

  「何か困りごと?…最近図書館に通い詰めているみたいだけど。」

  「えっ、俺…ですか?ええと、あなたは…?」

  「ごめん。自己紹介の方が先だったね。僕の名前はダイチ。2年生で図書委員をやっているんだ。…最近、困っているような顔をした君の姿をよく見かけるから。つい声をかけちゃったんだ。…迷惑、だったかな?」

  「そ、そんなことないです。先輩だったんですね。…お、俺の名前はロウガと言います。…セ、セーヌ村から今年入学したばかりです。」

  やはり、目の前にいる狼獣人はロウガだった。…せっかくだから、少し、話をしようかな。…それに困っているみたいだし。

  「セーヌ村って、僕、聞いたことないなぁ。…どんなところなの?」

  「あ、セーヌ村はここから離れた田舎の村だから、ほとんど聞いたことがないんだと思います。ええと、山と川しかなくて、住んでいる人も少ないですし。幼馴染のアンとこの学園に入学して…俺、人見知りが激しいから、友達がいなくって…」

  「そうなんだ…よかったら、僕と友達にならない?」

  「えっ?俺と…ですか?」

  「うん。ロウガ君と。…迷惑、かな?」

  「そんなことないです!とても、嬉しいです!でも、俺、こんな性格だから…話をすることが上手じゃないし、明るくもないし…先輩を退屈させてしまうかも…」

  「そんなこと、気にしなくていいよ!…それよりも、ロウガ君。何か困りごと?最近図書館に来て、本を読み漁っているみたいだけど。…参考書?」

  「あ、は、はい。…俺、この学園に奇跡的に入学できたようなもんで、授業についていけていなくて。だから、勉強を…」

  「…よかったら、勉強、教えようか?」

  「え、そ、それは嬉しいですけど。…でも、迷惑なんじゃ。」

  「迷惑なんかじゃないよ。…ここだと、他の人の邪魔になるから、あっちの談話室に移動しようよ。」

  「は、はい。よろしくお願いします。」

  そう言って僕とロウガ君は談話室へと足を運ぶ。

  「じゃあ、どの科目からやろうか?…苦手な科目とか、ある?」

  「ほとんど全部、なんですけど、特に数学が…」

  「分かった。じゃあ、今日は数学と、時間があれば語学をやってみようか。」

  ロウガ君の勉強を見てあげる。自分で言ったとおり、正直出来はよろしくない。…このパターンはおそらく基礎を理解していないまま問題を解こうとしているパターンだ。

  「この問題はね、この数式を使うと、解けるんだよ。…じゃあ、まずは数式から覚えるところから、始めて見ようか。」

  教える内容に関して難しい問題を解かせることではなく基礎の数式を覚えるところから始める。内容も、もっと易しいところから。…僕が教えた甲斐があったのか、一応基礎を少しは理解できたみたいだった。僕が、教えた数式を使用する問題をロウガ君に解かせた。

  「と、解けた…!俺でも、解けた…。」

  「どれどれ…うん。合ってるよ。頑張ったね。ロウガ君。」

  つい、ロウガ君の頭をなでてしまう。これではまるでロウガ君を子ども扱いしているみたいだ。

  「ご、ごめん。ロウガ君。つい、子供を扱うような真似をしてしまって。…嫌、だったよね?」

  「…嫌じゃないです。ダイチ先輩なら…」

  「…えっ?」

  「…俺、こんな性格だし、頭もよくないから、親にもこんな風に褒められたことがなくて。…だから、ダイチ先輩が褒めてくれた時、俺、うれしかったっす。」

  年齢相応な顔を見せるロウガ君。そんなロウガ君に庇護欲にも似たものが沸いてしまった。

  「そっか。…嫌じゃなくてよかった。…勉強の話に戻るけど、確かにロウガ君。この学園の勉強についていくのは、大変だと思う。」

  「…はい…」

  しゅんとなるロウガ君。でも、元気づけるように僕は言う。

  「それで、これからなんだけど、もしよかったら僕が勉強、見てあげようか?」

  「…えっ?」

  「もちろん、毎日というわけじゃないけど。僕が図書委員の仕事が終わった日の後なら時間もあるし。…どうかな?」

  「嬉しいです!ダイチ先輩。…でも、迷惑なんじゃ。」

  「さっきも言ったけれど迷惑なんかじゃないよ。僕から申し出たことだし。それに、誰かに勉強を教えることは、僕自身の学力の向上につながるし。」

  「…だったら、お願いしてもいいでしょうか。」

  「もちろんだよ!」

  「後…」

  「…?」

  「後、もし、学力が上がったら、さっきのように、褒めてくれますか?」

  上目づかいで、でも、一生懸命な顔でロウガ君が告げる。…褒められる経験がほとんど無かったであろうロウガ君からの精一杯のお願い。僕はそのお願いに対し、言葉ではなく、頭をなでることで応えた。…ロウガ君は驚いたような顔を一瞬したが、その後嬉しそうな顔をした。もう少し一緒に勉強をし、いい時間になったのでそろそろ今日の勉強を終わりにしようと僕から切り出した。ロウガ君も、わかりましたと了承してくれた。

  寮までの帰り道。ロウガ君と2人っきりになった僕はロウガ君に話しかける。

  「ロウガ君ってクラブ活動とかしているの?確か今、仮入部の時期だったよね?…行ってみたクラブ活動とか、ある?」

  「…まだ、どこにも行ったことないです。俺、こんな性格だから他の人が大勢いる雰囲気とかに慣れてなくって。…だから、苦手意識とかあって。」

  「そっか。…でも、まだ仮入部の段階だから、少し覗いてみるくらい、してもいいんじゃないかな?」

  「…ダイチ先輩は?どのクラブ活動に所属しているんですか?」

  「僕?…ロウガ君に聞いておきながらどのクラブにも所属していないんだ。…一応生徒会補佐に所属しているから、それが代わり…かな?」

  「…そうなんですか。でも、ダイチ先輩はすごいです。みんなをまとめる生徒会に所属しているなんて…」

  「そんな大したことはしてないよ。…ロウガ君って、走ることとか、得意?」

  「え?あ、は、はい。村の周りには山しかなかったんで。走ることだけは…」

  「…だったら、陸上部とか…どうかな?」

  「えっ?陸上部…ですか?」

  「うん。陸上部。走ることが得意なロウガ君にぴったりだと思う。それに、陸上部だったら、団体種目だけでなく個人種目もある。…もちろんチームワークがあるに越したことはないけど。…いざとなったら、個人種目で活躍すればいいんだし。」

  「で、でも、俺なんかが…」

  「…その言葉、禁止!」

  「…え?」

  「それは、自分を卑下する悪い言葉だよ。…それに言い方は悪いけど、言い訳を正当化しているみたい。だから、自分なんかと言って、可能性を狭くするのは、よくないよ。」

  「…」

  「…陸上部にはね。僕のクラスの生徒も所属しているんだ。その人とは友達でね。誰とでも話すことができる。緊張して人前ではうまく話せなかったり、会話が苦手な人でもね。コミュニケーション力が高い人なんだ。…よかったら、僕がその友達にロウガ君のことを紹介してあげる。…だから、1回、足を運んでみるだけでも、どうかな?」

  「…そう、ですね。せっかくのダイチ先輩の助言ですもんね。俺、陸上部に、一度、行ってみます!」

  「うん。…でも、一度見に行ったからって陸上部に決めなくてもいいんだよ。やっぱり雰囲気とかあるし。ロウガ君の学園生活なんだ。ロウガ君が決めることなんだからね。」

  「ありがとうございます。先輩。…せっかくだから、いろんな部活の雰囲気を味わいたいと思います。…ダイチ先輩、一つ、お願いを聞いてもらっても、いいですか?」

  「何?」

  「お、俺の手を、握ってくれませんか?そしたら、勇気が、でるかもしれない…です。」

  「そんなことでよかったら、いくらでも。」

  そう言って、僕はロウガ君の手を握る。初めは弱く握り返された手だったが、少し、強く握り返されるのを感じた。

  「今日はありがとうございました。ダイチ先輩。…部活動のことは、自分の中で一生懸命考えてみようと思います。…これから、勉強、よろしくお願いします…。」

  「こちらこそ、だよ。…でも、無理はしないようにね。」

  「…分かりました。ありがとうございます。」

  そう言って、その日はロウガ君と別れた。次に図書館で一緒に勉強をするためにロウガ君と会った時、ロウガ君がいろいろな部活動を見てみて、最終的に陸上部に入部することを決めたと言ってくれた。いろいろな部活動を見てきた中で、雰囲気も良く、自分にも優しく話してくれる先輩もいるからだそうだ。それに、走ることが好きでもあるからだそうだ。

  …まだ、他の人と話す時に緊張して口ごもることもあるけど、村の人たちとは違い、自分の言うことを最後まで聞いてくれる友達もできたと。ロウガ君ははにかむような笑顔を見せながら報告してくれた。

  …その日以降。僕の図書委員の仕事が終わった後に2人きりでロウガ君の勉強を見てあげるという日常が、追加された。

  バーグエピソード1-出会い-

  生前、僕の家は農家だった。…だから、小さいころから土いじりをし、とれた野菜を使って料理や、お菓子を作ることがあった。セイント学園には、園芸部というものがない。だから、畑なんて、あるはずなかった。

  「…どうして、こんな学園の隅に畑が…?」

  セイント学園の誰の目にもつかないような場所にそれはあった。そこには、青々とした緑が生い茂っており、そばにはキャベツと思われるものが、栽培されており、収穫まじかだとわかった。…キャベツはみずみずしく、他の緑も丁寧に手入れがされているようだった。

  …その光景に少し感動し、思わず近づく。

  「そこで何をしている?」

  「ひゃっ!」

  低いうなり声が近くで上がる。思わず振り返ると、そこには自分よりも大柄な白熊の獣人が立っていた。その獣人は綺麗な赤い目をしている。

  「す、すみません。つい、目についてしまったから。…ええと、僕の名はダイチと言います。…よろしければ、あなたの名前を教えていただけませんか?」

  「バーグだ。」

  バーグ…思い出した。ケモケモメモリアルに出てくる攻略対象の一人だ。

  「バーグさん、ですね。…この畑は?バーグさんが野菜を育てているの?」

  「…学園から許可をもらって僻地の部分を借りた。…ここの野菜は、わし一人で育てている。…お前は…」

  「…?」

  「お前は、わしが、怖くないのか?…周りでは何と呼ばれているか?知っているだろ?」

  …ゲームの中で、確か、バーグは吸血公と呼ばれていることを思い出した。巨躯な体に雪を思わせる真っ白な体。…特に、特徴的な深紅の目からそう呼ばれているのだ。

  「吸血公…だっけ?」

  「ああ、そうだ…」

  少しだけ寂しそうな顔になるバーグさん。

  「でも、僕はバーグさんのこと怖くないよ。…雪みたいな綺麗な体をしているし。その赤い目も、僕はルビーみたいで、好きだよ。…それに、こんなにうまく野菜を育てられる人が悪い人なはずないよ。」

  「あ、ありがとう。」

  「別にお礼を言われることは言ってないよ。」

  「な、なぁ。」

  「…何?」

  「お、お前の名前は、ダイチといったな?」

  「うん。そうだけど。」

  「よ、よかったら、わしと…その…」

  「…?」

  「…わしと、その、友達になってくれないか?…実は、今まで友達と呼べる存在がいないんだ。…迷惑だったら、別に断ってくれてもいいんだ…。」

  「そんなことないよ!もちろん、嬉しい!バーグさん!」

  「…本当か!?」

  目を輝かせながら僕に告げるバーグさん。その顔から隠しきれない嬉しさがにじみ出ていた。

  「本当だよ、バーグさん!」

  「…バーグだ…」

  「…えっ?」

  「わしのことは、バーグと。そう呼んでほしい。…わしもダイチと、呼ばせてもらうから。」

  「分かった。バーグ。」

  「…」

  少し満足そうな顔をするバーグ。…話すことが苦手なのか、それ以降、口を開きそうになかったので、僕から質問をしてみることにした。

  「バーグ、この畑では、どんな野菜を育てているの?」

  「え、あ、ああ。…そうだな。もうすぐ収穫間際なものはキャベツと玉ねぎと、アスパラガスも育てているな。…夏から秋用でトマトに、ナスに、サツマイモに、かぼちゃに…冬に向けて、ホウレン草やニンジンとかを、植える予定だ…。」

  「そんなにいっぱい!…すごいね、バーグ。…一人で、大変でしょ?」

  「…そんなことない、一人で土いじりをすることには、なれているから。…緑はわしが大切に育てれば応えてくれる。…人と違って…。」

  少し、昔を思い出したのか、寂しそうな顔をしたバーグ。…そんな顔、バーグにはしてほしくない。

  「もし、よかったら…」

  「…」

  「もし、よかったら、時々この畑を耕すのを、僕も手伝ってもいいかな?」

  「…えっ、それって…」

  「…僕も、植物を育てた経験があるから。力にはなれると思うし。…どうかな?」

  「…こちらこそ、お願いしたいくらいだ…ぜひ、頼みたい。」

  僕からの提案に対し、年相応な笑顔を初めて見せてくれたバーグ。…厚かましい願いだとわかっているが、僕はバーグに更なるお願いをした。

  「…その代わり、なんだけど。…お願いを聞いてもらっても、いいかな?」

  「…お願い、とは?」

  「…畑で収穫した野菜。少しもらってもいいかな?…僕は料理をしたり、お菓子を作ったりするのが好きなんだ。…だから、バーグが育てた野菜を使って料理を作りたいんだ。」

  「…そんなことでよければ、かまわない。…わしも、育てた野菜を誰かに食べてもらいたいと思っていたんだ。…一人で食べるには、少々量が多すぎるから…廃棄するのも、もったいないし…」

  「本当、嬉しい!ありがとう!」

  「…早速だが、必要な野菜はあるか?…あそこの区画は、収穫間際なんだ。」

  「そうだね…。じゃあ、キャベツと、玉ねぎ、もらってもいいかな?せっかくだから、ロールキャベツを作ってみようと思うんだ。」

  「…ロールキャベツ!」

  少し、興奮した顔で応えるバーグ。

  「うん。ロールキャベツ。…バーグ、もし、よかったら…」

  「…?」

  「もし、よかったら、僕が作ったロールキャベツ、食べる?…もうすぐお昼時だし。…1人分も2人分も、変わらないし。…僕も自分が作った料理を、誰かに食べてもらうこと、好きだから…」

  「本当か?是非、食べさせてもらいたい。」

  「うん。じゃあ、僕の部屋に来る?調理器具は僕の寮の部屋にそろってるし。…それとも、出来たものを、ここに持ってこようか?」

  「…できれば、ダイチの部屋で食べさせてほしい。…出来立てを、味わいたい。」

  「分かった。じゃあ、いっしょに行こうか。」

  そう言って、僕とバーグは2人並んで歩く。歩いている時、バーグの姿を見ておびえたような顔をする生徒もいる。その姿を見るたび、バーグは少しづつ落ち込んだ顔をしていった。そんな気分を吹き飛ばすべく、僕はバーグに質問をした。

  「バーグって、料理とかできるの?」

  「わしか?…実は料理はからっきしでしたことがないんだ。…料理、手伝えなくて済まない。」

  「気にしなくっていいよ。…僕も初めての時はうまく作れず失敗していたんだ。…もう部屋についちゃった。入って、バーグ。」

  そう言って、バーグを部屋に招き入れる。バーグはきょろきょろとあたりを見渡していた。

  「バーグ、何か珍しいものでもあった?…なんかきょろきょろしているけど…」

  「あっ!す、済まない。…友達の部屋に入るということ自体、生まれて初めてだったから。」

  「…じゃあ、僕が栄誉ある第一号だね。…じゃあ、お客様、せっかくだから、ロールキャベツができるまで、少し待っていてくださいね。」

  あえて、茶目っ気たっぷりにバーグに告げる。バーグは僕の椅子に座り、ぴしゃりと動かなかった。

  「…バーグ。もしよかったら、暇つぶしにそこにある本、読んでもいいよ。…本とか、読んだりするの?」

  「わし?本は、読むな。…作物に関する本だったり。小説だったり。」

  「…意外。…あっ、ごめん。作物関連は分かるけど、小説を読むなんて、思ってもみなかったから。」

  「…妹のカオリが勧めてくれてな。…たまにわしも、読ませてもらっているんだ。よかったら、この本、読ませてもらってもいいか?」

  「いいよ。しばらくゆっくりくつろいでね。」

  そう言いながら料理を作る。時折バーグの方を見るとバーグは鼻をひくひくとさせていた。

  「お待たせ、ロールキャベツ出来たよ。一緒に食べよう。」

  そう言って僕とバーグはロールキャベツを食べる。

  「…美味いな。…ダイチは料理が本当に得意なんだな。」

  「そこまでじゃないよ。…でも、ありがとう。…うん。おいしい。…使っている野菜が、新鮮だからかな?…味に、甘みを感じる。」

  「…これが、わしが作った野菜から…出来ているのか…」

  「…そうだよ。バーグの愛情をたっぷり浴びて育ったから、こんなにおいしくなったんだよ。」

  「…感動だ。」

  それ以降は、無我夢中で僕が作った料理を食べていた。…その後、バーグは僕の部屋にあった小説を読んでいた。…バーグは会話することが苦手だったのかもしれない。僕と寡黙なバーグとの間に会話は少なかった。…でも、穏やかだと思う時間が、流れ、過ぎた。

  「あっ!そろそろ、夜になっちゃう。…時間がたつのは、早いね。」

  「…もうそんな時間なのか。わしも、気が付かなかった。…そろそろ、お暇させてもらう。」

  「うん。今日はありがとう。バーグ。」

  「…ダイチ。」

  「…どうかした?バーグ。」

  「…これから畑の世話、よろしく頼む。」

  「うん。一緒に頑張ろうね!」

  僕からの返事に対し、バーグは満足げにうなずいた後、去っていった。

  …その日以降。時々バーグと2人きりで畑の世話をするという日常が、追加された。

  [newpage]

  Summer Event

  レオンエピソード2-本来の正ヒロインマリアとの交流-

  「今日は私がお菓子を焼いてきましたの!皆さん、食べてください!」

  いつもの生徒会での集まり。休憩時間にマリアさんはみんなにお菓子を振舞った。中身は、カップケーキ。一つ一つにラッピングがしてあり、形がとても綺麗だった。…まるで、お店で売っているような完成された形をしていた。

  マリアさんはそう言いながら、まず、レオンにお菓子を渡した。

  「レオン会長、美味しいですか?」

  「ああ、美味しいよ。ありがとう。マリアさん。」

  「嬉しいです!…レオン会長。私のことは、マリアと、そう呼んでくださいませんか?」

  「しかし、女性を呼び捨てにするのは…。」

  「私がそう呼ばれたいんです。…もっと、レオン会長と、親密になりたいから…」

  「…分かった。では、…マリア。」

  「はい。レオン会長…」

  マリアさんがレオンにマリアと呼ばれた時。マリアさんは喜ぶような、うっとりとした顔をしていた。…この世界でのマリアさんは、レオンが好き、なのかな?

  「レオン会長。私が作ったお菓子とダイチさんが作ったお菓子、どちらがおいしいですか?」

  つい、僕の名前が聞こえたので、はっとしてしまう。…なんで僕を引き合いに出したのだろう?

  「それは…」

  「私の作ったお菓子の方が、美味しいですよね…?」

  「…どちらもおいしかったさ。…優劣を比べられるようなものではないさ。」

  「…そう、ですか。」

  レオンからの返事に対し、少ししゅんとした顔をするマリアさん。だが、次に声を発した時、マリアさんはレオンに笑顔を向けて質問した。とてもかわいらしいと評価できる笑顔だった。…やはり、マリアさんは本来のヒロインなだけあって、美少女だ。その笑顔に、見とれる男性も、多いだろう。…レオンも、そうなのかな?

  「レオン会長は、どんなお菓子が好きなのですか?私、作らせていただきたいですわ!」

  「…クッキーが、好きかな?」

  …あれ?レオンはプリンが好きなんじゃなかったっけ?

  「クッキー!私、作るのが得意ですの!必ず、レオン会長のために作らせていただきますわね!」

  「…ありがとうマリアさん。」

  「うふふふ…」

  そう笑った後、マリアさんは他のメンバーにもカップケーキを手渡した。その際に、僕の作ったお菓子とどっちがおいしいかを笑顔で聞いていた。その笑顔に見とれる人も多かったのだろう。ほとんどの人がマリアさんの方がおいしいという感想を言った。マリアさんは、その言葉ひとつひとつに、笑顔を見せた。…僕には、作られたような。…僕に見せつけるような少しいじわるのような顔のように感じた。

  そして、最後に僕に手渡す。

  「ダイチさん。…これをどうぞ。」

  「…ありがとう。マリアさん。」

  そういって、僕にカップケーキを手渡す。…改めて見ても、完成度が高かった。そのカップケーキを口に含む。

  「…どうですか?ダイチさん。」

  「…とてもおいしいですよ。マリアさん。」

  「ふふふ。ありがとうございます。」

  マリアさんは僕に笑顔を向けたままお礼を言う。…だが、その笑顔はやはりどこか無理やり作られたもののように感じた。そのままレオンの側に行くと思いきや、マリアさんは僕に話しかけてきた。

  「…ダイチさん。ダイチさんは、レオン会長と、何か特別な交流があるのですか?…少し、親密そうに感じましたので。」

  「…いいえ、特にありませんけど。」

  「…そうですか。」

  マリアさんの中で何か感じ取っていたのだろう。そんな質問を僕にしてきた。…僕は嘘をついてしまった。僕からの返答に対し、納得したのかはどうかわからないが、別の質問へと変わった。

  「ダイチさんって、お菓子を作るのが、趣味なんですの?」

  「はい、そうですよ。マリアさん。」

  「そうなんですのね。…なんだか、女の子らしいですわね。ダイチさんって。」

  「…えっ?」

  「…気にしたらごめんなさい。殿方がお菓子を作るっていうイメージがあまりなかったものですから。なんだか似合わないと思ってしまって。こういうのは、私のような女性が得意なイメージを持っていたので。…まだまだ、視野が狭いですわね。私。」

  「…そんなことないですよ。マリアさん。」

  「…ここだけの話なのですけど…」

  「…?」

  そう言った後、マリアさんは耳元で僕にささやいた。

  「私、レオン会長のことを頼れる殿方だと思っております。…お恥ずかしながら、私、レオン会長に恋愛的な意味で、好意を抱いておりますの。」

  「…え?」

  「…応援、してくださいますか?」

  マリアさんからの直接的な宣言。うすうすそんな予感はしていたが、思わず、反応に詰まってしまった。

  「…はい…」

  「ありがとうございます。ダイチさん。」

  そう僕にお礼を言った後。マリアさんは僕のもとから離れた。

  その後の会議もつつがなく終わった。…だが、僕の心はどこか上の空になってしまった。

  レオンが終わりを宣言し、みんなが帰路に就こうとする。…いつもと同じように、僕はレオンと帰ることにした。…だが、先ほどのマリアさんの宣言が僕の心から離れなかった。…だから、つい、聞いてしまった。

  「レオンって、マリアさんのことをどう思っているの?」

  「…急にどうした?そんなことを聞いて。」

  「…いえ、ちょっと気になったから。」

  「…そうだな。かわいらしい女性だと思うな。仕事の出来も悪くないな。」

  …やはり、レオンも、マリアさんのことを好いているのかな?…確かに、レオンとマリアさんが並ぶと、美男、美女でお似合いだ。…男の僕と違って、並んで違和感もない。…なぜだろう。嫌な気持ちが、湧きあがる。これは…嫉妬心?

  「…だが、私は…」

  「…?」

  「…いや、何でもない。…そういえば先ほどの会議の途中、マリアさんがダイチに向かって、言っていたな。」

  「…!?」

  まさか、マリアさんがレオンに抱いている感情のことを、聞いていたのだろうか?

  「ダイチにお菓子作りは、似合わないと。」

  「え、ええ…」

  そっちの方か。…だがなぜか僕は安堵してしまった。

  「私は、お菓子を作るというダイチの趣味は、素晴らしいものだと思うよ。」

  「…え?」

  「なぜだろうか。ダイチがお菓子を作るということに違和感を感じていなくてね。…それに、ダイチも言っていただろう。好きなものを好きと言って何が悪いのかと。…胸を張っていい。ダイチの趣味は私…いや、みんなに向けても誇れる趣味だと思う!」

  「本当ですか?」

  「もちろんだとも!…それに…」

  「…?」

  「…あの場では、言葉を濁したが、私はダイチの作るお菓子の方が、好きだ。」

  「!?」

  「…確かに、マリアのお菓子は完成度が高かった。…だが、どこか、手造りにしては違和感を感じてしまったんだ。…でも、ダイチの作るお菓子は違う。…素朴だが、優しい味がしたんだ。…もっとダイチの作るお菓子を私は食べたい。…だからこれからも、作ってくれるか?」

  「…ありがとうございます。レオン。…もちろん!」

  「…それともう一つ。…マリアには内緒にしてもらいたいことがある。」

  「何…ですか?」

  「私が一番好きなお菓子が本当はプリンだということは、くれぐれも内緒にしてほしい。…これは、私とダイチの2人だけの秘密だ。」

  「分かりました。レオン。…2人だけの、秘密ですね。」

  「…約束だぞ、ダイチ。それでは、また。」

  そう言って、レオンと僕は別れた。

  レオンから、僕の趣味は誇っていいと言ってくれた後押し。僕の作るお菓子の方が好きだと言ってくれた事実。…そして2人だけの秘密。…レオンと親密になってきているという事実に、さっきまで落ち込んでいた気持ちが、なぜが浮上しているのを、感じた。

  タイガエピソード2-悪役令嬢メアリーとの交流-

  「最近、タイガに付きまとってるあんた、目障りなのよ!」

  いきなりそう僕に告げる女の人。目の前には、悪役令嬢であるメアリーとタイガの取り巻きが数人集まって僕をなじっている。…どうしてこうなったのだろう。

  タイガに料理を振舞う日常が始まってからの夏が近づく。今日も僕が作った料理をタイガと2人きりで食べる。食べ物はハンバーグと、サラダ。そしてスープとオードソックスなものだった。…だが、ハンバーグはタイガのリクエストだ。…だんだんと、タイガの好みがわかってきた。

  「タイガって、意外と子供っぽい食べ物が好きだよね。」

  「は、はぁ?何言ってるんだ、ダイチ!」

  「だって、タイガがリクエストするものって、ハンバーグとか、オムライスとか、カレーとか。子供が好きなものばっかりなんだもん。…それに、サラダを最後に食べる。野菜嫌いな面もそうだし。」

  「ダイチ。俺様に喧嘩を売ってるのか?…俺様をからかうとは、いい度胸だなぁ…?」

  「ごめん。ごめん。…でも、なんだかんだ言って、サラダを含めて僕が作った料理を残さず食べてくれて、嬉しいよ。」

  「…俺様好みの味で、優しく、美味いからな…。」

  「…えっ?」

  「な、何でもねぇよ!次の料理はビーフシチューだ。分かったか!」

  「う、うん。…でも、そんなに得意料理ではないから、シェフが作る料理ほどおいしくはないかもしれないけど。」

  「…俺様の期待を裏切るなよ?」

  にやりとタイガが笑って告げる。

  「分かったよ。タイガ。…話は変わるけど、タイガは公爵だから、専属シェフみたいな人が家にはいたんじゃないの?…さすがにプロの味には、かなわないと思うんだけどなぁ。」

  「…確かに俺様の家には専属のシェフがいる。…客観的に見れば、味もダイチのよりも美味いだろう。…それは、認めてやる。」

  「…そう、だよね。」

  「…だが、その家では俺様は常に一人だった。…一人で食事をすることが日常だった。シェフも、俺様のことをおびえてばかりで。…美味いだけの味気ない食事。それが日常だった。…だが、今はダイチがいるから。家で食べる時よりも、美味く感じる。…何だ、その顔は?俺様だって、変なことを言っているとは分かっているんだからよ!」

  「そんなことないよ。…一人での食事、寂しくなかった?」

  「…別に何とも思わねぇよ。もう、慣れちまったしな…」

  ぶっきらぼうに言うタイガ。…なぜだかそれはタイガの強がりに見えた。

  「そういえば、タイガの友達とは一緒に食事をしたりしないの?」

  「友達だと?」

  「うん。例えば、メアリーさんとか。他にも、タイガの側に居る人、結構多いでしょ?」

  「…あいつらは友達なんかじゃねぇよ。俺様の…下僕みたいなやつらだ。」

  「ちょっと!それは少しひどい言い方なんじゃないの?」

  「違わねぇよ。あいつらは、俺様の公爵という立場を目当てに集まってる奴らだ。表面上は俺様に友好的に接しているが裏では何を言っているかわかったもんじゃねぇ。俺様に何かあればきっとあざけ笑うだろうよ。…俺様に友達なんてもんはいねぇんだ。」

  「…そんなことないよ。」

  「…ダイチ?」

  「僕は…僕は、タイガのこと、友達だと思ってるよ。僕が友達じゃ、駄目かな?」

  「…本当に、そう思っているのか?」

  「もちろんそうだよ。」

  「…ふん。仕方ねぇ。この俺様が、特別にダイチ。お前を俺様の友達だと、認めてやる。…これは栄誉なことなんだからな!ありがたく思えよ、ガハハ!」

  初めはぶっきらぼうな態度をしていたタイガだったが、最後には大笑いした。…タイガには笑顔が似合う。僕はそう感じた。

  食事を終え、僕はタイガに質問をしてみた。

  「タイガって、甘いもの好きだったりする?」

  「ダイチ。俺様がそんな子供っぽく見えるのか?…別に好きじゃねぇよ。」

  「…そっか、残念だな。」

  「…何がだ?」

  「実は僕、お菓子を作ることも好きなんだ。…だから、タイガにも食べてもらおうと思っていたんだけど、甘いものが好きじゃないんじゃ、しょうがないね…。」

  「…クッキーだ。」

  「…え?」

  「…だからクッキーだと言っている!俺様が食べてもいいというお菓子は!ダイチ。俺様の友達であるという証に特別に俺様に好きでもない、お菓子を作るという栄誉をくれてやる!…だから、作れ!」

  「…食べたいと言ってくれれば、クッキーを焼いてあげるんだけどな…。」

  「…何!?」

  「やっぱり、僕は嫌々じゃなくて、自分から求めてほしいと、思ってるんだけどな?」

  「…ああ、分かったよ!俺様はダイチの作るクッキーが食べたい!これでいいんだろ!?」

  「それでよろしい!」

  「…ここまで俺様に言わせたんだ。満足する出来じゃないと、承知しないからな!」

  「タイガの期待に応えてみせるよ。」

  「約束だからな!」

  タイガと約束し、その日を終える。

  そして、2週間後。約束通り、僕はタイガのためにクッキーを焼いてバスケットに入れていた。約束の時間よりも早くついてしまった。…初めは僕と会うときに、いつも遅刻していたタイガも、最近は時間通りに現れるようになった。遅刻癖がなくなったのは、いいことだ。

  その時だった。一人の女の人を筆頭に、数人が僕の目の前に現れる。

  …そして、話は冒頭に戻る。

  「最近、タイガに付きまとってるあんた、目障りなのよ!」

  自己紹介もなしに、いきなり僕に告げる女の人。記憶が正しければ、その女の人は確か、悪役令嬢のメアリーだったはずだ。

  「いきなり何なんですか!?それにあなたは…」

  「黙りなさい!庶民風情が。このメアリー様に口答えするなど、おこがましい!」

  やはり、目の前にいる女性は悪役令嬢のメアリーのようだ。

  メアリーの言葉を筆頭に、次々と周りの取り巻きたちが僕に対する悪態を告げる。

  「タイガ様の付き合いが悪くなったのはお前のせいだ。」

  「庶民風情がタイガ様に接するなど、おこがましいにもほどがある。」

  「下心が見え見えなんだよ。」

  「タイガ様の価値が下がるだろうが!」

  次々に告げられる非難の言葉。恐ろしさのあまり、僕は何も言えず、ただ黙っているだけだった。そんな様子に周りはヒートアップしていき、ついにメアリーが行動を起こした。

  「こんなくだらないもので、タイガのご機嫌を取るなんて、浅はかすぎるのよ!」

  そう言って、クッキーの入ったバスケットをベンチから叩き落とす。

  「ああっ、何するんですか!?」

  「いい気味ね!これ以上タイガに付きまとう気なら、承知いたしませんことよ!」

  高笑いしながらメアリーが立ち去る。それに合わせ、周りの取り巻き立ちも笑いながら去る。

  呆然としている僕だが、我に返り、バスケットの中身を見る。

  「…ああっ!」

  せっかく作ったクッキーは砕けてしまっていた。幸い、地面には落ちていなかったが。

  「…どうしよう。」

  つい、絶望感を感じる。数分そのまま何もできずにいると、タイガが現れてしまった。

  「待たせたな、ダイチ。約束通り、クッキーは作ってきてくれたんだろうな?」

  「…え、あ、ご、ごめん、タイガ。…実は作るのを忘れてしまったんだ。」

  「だったらその横にあるバスケットは何だ?」

  「え、こ、これは…」

  戸惑っている僕をよそにタイガはバスケットを無理やり手に取り、中身を見てしまった。

  「ごめんなさい、タイガ。…せっかく楽しみにしてくれていたのに。」

  「何があった?」

  「そ、それは…」

  珍しく、怖い顔をして僕に尋ねるタイガ。その迫力に負け、正直に何があったかを話してしまった。

  「あいつら…」

  怒り顔のまま、うなるように言葉を紡いだタイガ。…久しぶりだった。こんな顔をしたタイガを見るのは。

  「…俺様のものを傷つけやがって…」

  「…え?」

  低いうなり声のまま何かをつぶやいたタイガ。あまりにも小さな声だったため、聞き取ることはできなかった。

  「…何でもない。」

  そう告げた後、タイガは砕けたクッキーのかけらをつかみ、口に含んだ。

  「…美味いじゃないか。ダイチ。」

  「えっ?」

  珍しく、悪態のない。タイガからのストレートな賛辞。思わず、声を出してしまった。

  「俺様の目に狂いはなかった。ダイチ。お前にはお菓子を作る才能があるぜ!ガハハ!」

  笑顔を見せながら、僕に告げるタイガ。その笑顔に、僕は不覚にもときめいてしまった。

  「本当?よかった。」

  「…ダイチ。安心しろ。これからはあいつらがダイチにちょっかいを出さないように俺様がシメてやる…俺様がお前を守ってやる…。だからダイチ。これからも、俺様に対しお菓子を作るんだ!」

  強引な命令口調のタイガ。だが、その言葉には思いやりが含まれていた。

  「分かった。…ありがとうタイガ。」

  「…ダイチにはやはり笑顔が似合うぜ。」

  タイガの最後の言葉を僕は聞き取れなかった。思わず聞き直そうとすると、

  「次は、カップケーキを作るんだ!約束だ、ダイチ!ガハハ!!」

  そう笑いながらタイガは去っていった。

  タイガが僕に見せた優しさと、守ってやるという言葉。…そして、約束をし、次があるのだという事実。そのことに、嬉しさを感じる自分がいた。

  ロウガエピソード2-ロウガの幼馴染アンとの交流-

  「そこのあなた。もしかして、名前はダイチと言うんじゃないの?」

  いきなり僕に言葉を発する女の人。…その声からはなんだか僕に対する敵意が感じられる。どうしてなんだろう?

  ロウガ君に勉強を教える日々が始まってから夏が近づく。初めはほとんど勉強の内容を理解することができなかったロウガ君も、少しづつだが、基礎の部分を理解できるようになっていった。苦手科目は数学で、伸びは確かによろしくない。一方で、語学の方は伸びが良い。…日本でいう文系向きな学生というイメージだ。

  「ロウガ君。ここ、間違ってるよ。式はあっているけど、数字が間違ってる。…ケアレスミスだから、気を付けてね。」

  「あっ、ほんとだ…すみません。」

  僕からの指摘にしゅん…となるロウガ君。

  「…でも、この公式を使うというところに気づけただけ、進歩だよ。一緒に勉強している成果が出ているよ。」

  頭をなでながらロウガ君に告げる。僕と同じくらいの背丈だったロウガ君も、ぼくより少しだけ背が高くなっていた。悲しそうな顔から一転、嬉しそうな顔になった。

  「本当すか?…嬉しいです。」

  「…でも、ミスはミスだからね。…数学はここまでにして、次は歴史にしよっか。」

  「はい!ダイチ先輩!」

  そう言って歴史の勉強に取り組む。…以前ロウガ君のために、面白い歴史の本を探し、読んでみたらどうかと勧めてみた。ロウガ君は素直な性格なのだろう。僕が勧めた本を、最後まで読んでくれた。そのおかげなのかどうかわからないが、歴史の勉強は思っていたよりもスムーズに進んだ。

  「…うん。合ってる。歴史に関しては大丈夫になってきたね。」

  「…本当すか!?…ダイチ先輩のおかげです!」

  「僕は大したことしてないよ。きちんと勉強しているのは、ロウガ君なんだから。」

  「そんなことないっす!…俺が過去の偉人の名前を覚えることができたのも、ダイチ先輩が勧めてくる歴史の本が面白かっただからっす。…だから、興味を持つことができたんっす!」

  「そっか、ロウガ君の力になれているみたいで、僕、嬉しいよ!」

  「…ダイチ先輩は女神様みたいっす。俺にとても優しいし。」

  「えっ!?そんな、大げさだよ!」

  「本当っす!…ダイチ先輩に出会えなかったら、勉強についていけず、そのうち一人で退学していたかもしれない。陸上部に入ることができず、一人きりのままで友達ができなかったかもしれない。…アンにからかわれ続けていたかもしれない…」

  「えっ?…それって」

  「…だからダイチ先輩は俺にとって可能性を広げてくれた恩人っす!」

  最後に笑顔で僕に告げるロウガ君。…話の途中で出た、アンのことを聞くのはまずいことかもしれないと僕は察する。…だって、悲しそうな顔をしていたから。

  「…まだ少し時間があるけど、勉強しすぎも疲れるし、今日の勉強はここまでにしようか。」

  「はい!今日もありがとうございました!ダイチ先輩!」

  教科書をカバンに詰め込むロウガ君。せっかくなので、ロウガ君のことや近況について少し質問してみることにした。

  「ロウガ君って、本とか読んだりするの?セーヌ村にいたときとか。」

  「俺っすか?…実はまともに本を読んだことなんてなかったんすよ。文字だらけで中身が難しいからちんぷんかんぷんだし。すぐに嫌気がさしてしまって、読まなかったっすね。」

  「そうなんだ…。」

  「でも、ダイチ先輩が勧めてくる歴史の本とかは分かりやすく、面白かったっす!本をまともに読まない俺でもついつい手が進んでしまって。ダイチ先輩は?どんな本を読むんすか?」

  「僕?そうだなぁ。…最近のマイブームだと恋愛小説とか、かなぁ…少し女の子っぽいかな?」

  「そんなことないっす!ダイチ先輩の読んでる本、俺も読んでみたいっす!」

  「本当!?…僕もロウガ君と本について語り合いたいと思っていたんだ。じゃあ、今度、お気に入りの小説を持ってきてあげる!」

  「約束っすよ!」

  そう言って、2人でくすくすと笑う。

  「…ねぇ、ロウガ君。他に読んでみたい本のジャンルとかってある?」

  「他に…すか?」

  「うん。今までの本は僕が選んだ本だし。…せっかくだから、ロウガ君の好みも知りたいなぁって思って。」

  「…スポーツの本…」

  「えっ?」

  「いや、何でも…」

  「ううん、聞かせて!」

  途中で自信を無くし、言うのをやめようとした声を僕はさえぎった。

  「スポーツ関連の本とか、読んでみたいっす。」

  「ロウガ君、陸上しているんだもんね。興味が出るのは、当然だよ!」

  「…実は最近、陸上で悩んでいることがあって。」

  「…悩み?」

  「…陸上に関する知識が、足りていないと思うんすよね、俺。」

  「…先輩とかは教えてくれないの?」

  「もちろん、フォームとかは聞いたら教えてくれるっす!頼りになる先輩方っす!…でも、体のつくりは一人一人違いますし。知識とか、そういった面は聞くだけじゃなく、自分でも、勉強するべきだと思うんす!」

  「…ロウガ君は立派だね!」

  「えっ!?ど、どうしてっすか!?」

  「だって、上達したいからこそ自ら学ぼうとしているじゃない。好きで、その上一生懸命でないと、そんなことなんかできないよ!」

  「あ、ありがとうっす。」

  「じゃあ、図書館が閉まるまでの残りの時間で、スポーツ関連の本、いっしょに探してみよっか。」

  「…いいんすか!?」

  「もちろんだよ!…正直、走り方とかといった技術面に関して、僕では教えることができないから力になってあげられない。…でも、僕も何かロウガ君の力になってあげたいから。」

  「ありがとうございます!ダイチ先輩!」

  「じゃあ、僕は栄養学の本を中心的に探してみようかな。…僕は料理を作ることが得意なんだ。だから、運動部向けの料理のメニューとか分かるかもしれないし。」

  「…ダイチ先輩、料理できるんすか!?」

  「うん、得意だよ!」

  「…ダイチ先輩の手料理、食べてみたいです。」

  「じゃあ、今度作ってあげる!」

  「楽しみっす!」

  「それじゃあ、本探してみよっか。ロウガ君はフォームとか適切な呼吸の方法とかといった技術面に関する本、探してくれるかな?」

  「了解っす!」

  そうして、本を探し出す僕とロウガ君。閉館間際に再び集まり、借りる本を決めた。ロウガ君は自分で選んだ呼吸法に関する本と僕が探したアスリート向けの適切な栄養学の本を借りていた。ついでに僕は、アスリートの人が好んで食べる料理の本を借りた。

  「これで俺も、もっとうまくなれるよう頑張るっす!」

  「その意気だよ!ロウガ君!」

  「はいっす!…ダイチ先輩、お願いがあるんですけど、いいっすか?」

  「お願い?…何かな?」

  「…一度でいいから、陸上部で俺が走っている姿、見てほしいっす…」

  「…えっ?」

  「だめ…すか?」

  「そんなことないよ!とても嬉しい!でも、どうして?」

  「先輩に、俺がかっこよく走っているところを見てほしいから…」

  「…え?ごめん、聞き取れなかった。…もう一度言ってくれる?」

  「…先輩には感謝してるんす!だから、俺が少しでも成長している姿を見てほしいんす!」

  「ロウガ君。…分かった。必ず見学させてもらうね!」

  「約束っすよ!」

  そう約束した後、僕とロウガ君は別れた。

  そして、別の日。約束通り、運動場にやってきた。目的はもちろん、走っているロウガ君の姿を見るため。僕の姿を見るや否や、ロウガ君は嬉しそうな顔をした。…だが、部活中ということもあって、まじめに走り込みを行っており、部活中に僕と話をする機会は訪れなさそうだ。そのままその姿を眺めていると、いつの間にか目の前に一人の女の人が現れて言った。

  …そして、話は冒頭に戻る。

  「あなた、もしかして、名前はダイチと言うんじゃないの?」

  自己紹介もなくいきなり敵意を隠そうともせず僕に話しかけてきた女の人。…僕の記憶が正しければ、確かロウガ君の幼馴染のアンという名前なはずだ。

  「ええ、そうですけど…あなたは?」

  「私?私の名はアンよ!ロウガの幼馴染の!」

  「アン…ですか?」

  「来やすく呼び捨てで呼ばないでちょうだい!」

  「はい、すみません。…ええと、アン…さん。」

  「それでいいわ。」

  強気な口調で僕に告げるアンさん。…やはり、ケモケモメモリアルに出てくるアンで間違いなさそうだ。

  「それで、アンさんは僕に、何か御用でしょうか?」

  「そうね。少し、気になったからかしら?」

  「えっ?…どういう意味ですか?」

  「…最近ロウガが嬉しそうにあなたの名前を出すものだから。どんな人かと思ったのよ!…思っていたよりも、なんかパッとしない人ね。」

  「…すみません。」

  「…まぁ、いいわ。あなた、ロウガから私のことを聞いたことがあるでしょ?」

  「…ええ。同じ村の幼馴染ということだけですけど。」

  「たったそれだけ?…いいわ、私とロウガがどれだけ仲がいいかということを、あなたに特別に教えてあげるわ!」

  そう言って、アンさんは僕が何かを言う前に一人で話し始めた。

  …同じ村の同じ月に生まれたこと。ロウガ君に字を教えたのは私だということ。ロウガの両親と仲が良いのは私だけということ。小さいころ泳げないロウガに泳ぎを教えたのは私だということ。友達のいないロウガと遊んであげたのは私だけということ。

  …だが、なぜだろう。その口調からはロウガをどこか見下しているようにも感じた。…まるで、ロウガは自分のものだと、示すような感じもした。

  「ロウガには、私がついていないとダメなのよ!私さえいればいいの!!あなたはおよびじゃないのよ!!」

  アンさんは最後にそう言って、去っていった。

  陸上部の練習が終わり、ロウガ君が僕のもとにやってくる。僕が複雑そうな顔をしていたのに気づいたのだろう。ロウガ君が僕に話しかけた。

  「ダイチ先輩。今日は来てくれてありがとうっす!」

  「…え?あ、もちろん、約束したからね。」

  「…アンと、何かあったっすか?」

  「…どうして、そう思うの?」

  「走っている途中。アンとダイチ先輩が話しているのが見えたから。…部活中だから話しかけることはできなかったんすけど。」

  「…うん。アンさんから、ロウガ君のことを聞いたんだ。」

  「…そうっすか。…本当のことを言うと、実は俺、アンは苦手なんっす。」

  「え?そうなの?」

  「…確かに感謝できる部分もあるにはあるんす。…でも、強引で、嫌なことも無理やりさせるし。俺の気持ちを感じ取ってくれないような態度だったし。」

  …アンさんとの話の言い方や節々から、そのことは、わかる気がした。

  「…村でちょっとした友達ができそうになった時にも、邪魔されたことがあったんす。」

  「え?」

  「小さい頃なんすけど。行商人が数日滞在するということで、俺と同じくらいの子供が居たんです。…勇気を出して話しかけて、その子と話すようになったんす。…でも途中でアンが割り込んできたからその子と話をすることができなくなって。結局、そのまま。」

  「…ひどい話だね。」

  「…うじうじしていた俺にも悪い部分はあったんす。…でも、この学園に来て、友達ができた。ダイチ先輩のような、勉強を教えてくれる優しい先輩もできた。…だから、今俺、幸せなんっす!」

  「ロウガ君…ロウガ君にはもっと幸せになる権利、あるよ!」

  「ありがとうございます!ダイチ先輩!…ところで、俺の走っている姿、どうだったっすか?」

  「うーん。そうだね。…生き生きとしている…感じだったかな?」

  「…かっこよくは、なかったんすか?」

  「ううん、そんなことない!かっこよかったよ!」

  「…!ありがとうございますダイチ先輩!」

  嬉しそうな満面の笑みで告げるロウガ君。ついついその頭をなでてしまう。…ロウガ君は更に嬉しそうな顔をした。

  「もうこんな時間すか。…今日は見学に来てくれて、ありがとうございました!」

  「どういたしまして、ロウガ君。」

  「…ダイチ先輩!」

  自分の部屋に帰ろうとする僕を呼び止めるロウガ君。数秒黙った後、意を決して僕に告げた。

  「アスリートにはたんぱく質が必要不可欠なんす!」

  「確かに、たんぱく質は大事だよね。」

  「…だから…」

  「…?」

  「だから、今度、ダイチ先輩が作る肉料理を俺に振舞ってくれないっすか!?」

  「もちろん、かまわないよ!ちょうどいい本も借りてあるし!ロウガ君においしいと言ってもらえるように頑張るよ!」

  「約束っすよ!ダイチ先輩!それと、また、勉強教えてくださいね!」

  最後にそう言って走り去ったロウガ君。先輩として慕ってくれることの嬉しさと、これからも勉強を教えていく日常が続くこと。…そして、新たな約束を交わせたことに嬉しさを感じる自分がいた。

  バーグエピソード2-バーグの妹カオリとの交流-

  「あなたが、お兄様の話していた、ダイチ様ですか?」

  新しく図書委員の仕事のグループメンバーが決められるとき、一人の女性が僕に向かって尋ねる。…お兄様?この女の人は、もしかして…。

  バーグと畑の世話をし始めてからの夏が近づく。そろそろ夏の野菜であるトマトが収穫できそうな時期だ。

  「バーグ。トマト、順調に育っているね。」

  「ダイチ。…そうだな。順調に育っている。わし一人では世話の手が回っていなかっただろう。感謝している。」

  「力になれているようで、よかった。」

  前世での畑仕事の経験が活きている。バーグの迷惑になることもなく、世話をできていると思っているからだ。…適切な育て方の提案もできる。バーグも僕の言葉に耳を傾け、うん、うんとうなずいてくれた。

  「ダイチ、以前作ってくれた、アスパラガスのベーコン巻。素朴だが美味かったぞ。」

  「よかった。…でもそれはバーグが作ったアスパラガスがおいしいからだよ!素材が味を引き出している…のかな?…そういえば、バーグって、トマトは好きなの?」

  「…いや、普通だな?それがどうした?」

  「トマトって、結構好き嫌いが分かれる野菜だから。だから気になって…」

  「そうだな…わしは普通だが、妹のカオリはトマトが好きだな。」

  「…妹さん?」

  「ああ、わしにとって自慢の妹だ。」

  「せっかくだから、どんな人か聞いてもいい?」

  「構わないぞ。…わしの妹はな、わしの姿を見ても物おじせず、わしのことを慕ってくれる優しい妹だ。それにな、わしが作った野菜をおいしいと言って笑顔で食べてくれる。わしに面白い小説を教えてくれる。」

  「素敵な妹さんなんですね。」

  「ありがとう、ダイチ。…そういえば妹は図書委員に所属していたはずだ。…今後、接する機会があると思うが、その時はよろしく頼む。」

  「分かったよ、バーグ。」

  「うむ。」

  「…畑の話に戻るけど、バーグ。僕から植える野菜の提案をしてもいいかな?」

  「構わないぞ、ダイチ。ここはわしとダイチの2人の畑なんだから。…一人ではなくなった畑だから。」

  「…ありがとう、バーグ。それで、トウモロコシを植えたいと思うんだけど、どうかな?バーグはトウモロコシ、好き?」

  「トウモロコシは好きだぞ!甘くておいしいし。…もちろん賛成だ!」

  「ありがとう!トウモロコシは甘くておいしいからスープだけじゃなくお菓子にも活用できるし。ポタージュとか、スコーンとかにしても、美味しいよ!」

  「…もちろん、作ってくれるんだよな、ダイチ?」

  「きちんと収穫できたら、作ってあげるよ!」

  「…育てる楽しみが、また一つ増えた!」

  そう言いながら、バーグは生き生きと作業をしていた。

  ある程度今日すべき作業が終わったため、バーグのことについて質問をしてみることにした。

  「バーグって、どんな食べ物が好きなの?参考までに聞いておきたいんだ。」

  「わしか?…そうだな。料理で言えば、スープとかが好きだな。」

  「…意外だね。てっきり、ステーキとかが好きなイメージがあったから。」

  「ステーキのような肉も好きだぞ。…だがな、どちらかというと、素材本来の優しい甘さを感じられるようなものを好むようになってな…。だから、ダイチがトウモロコシのポタージュを作ってくれると言ってくれた時、すごく嬉しかった。…ぜひ、食べたいと思った!」

  「ふふふ。期待に沿えるようがんばって作らなくちゃね。…他には?…例えば、お菓子とかは好き?」

  「お菓子か…大好きだ!」

  「ホントに?」

  「ああ。特に、ブルーベリーマフィンとかに目がなくてな。…よく、店に行っては買っていたもんだ。」

  「そういえば、畑に果物を植えていないよね?どうして?」

  「…実は果物を植えた経験が、わしにはないんだ。…そもそも、畑を耕すことが趣味になったきっかけは、妹のカオリの影響でな。たまたま2人で初めてプランターにミニトマトを植えてみたんだ。2人で一生懸命手入れをした。そして、ようやく収穫して2人で食べあった。その時、カオリが笑顔で美味しいと言ってくれてな。その笑顔がわしにとってとても嬉しかった。…もっとカオリを喜ばせてやりたい。その想いから、どんどん作物に関する勉強をするようになって…今に至るというわけだ。それに、木になるような果物は育つのに時間がかかる。…さすがに2年では、収穫もできそうにないしな…」

  「バーグ。」

  「…?」

  「バーグって、妹想いのいいお兄ちゃんだって改めて思えたよ!」

  「べ、別に大したことじゃない。」

  「そんなことない。とても、素敵な動機だと思う!バーグのこと、尊敬しちゃう!」

  「そこまで言われると、照れてしまうじゃないか。…お菓子の話に戻ろう。ダイチは、お菓子を焼くのがうまいのか?」

  「うん。お菓子を焼くことは得意だよ。…マフィンも、作れるよ?どうしたの、そんな顔をして。…もちろん、食べさせてあげるから、安心していいよ。」

  「期待している。…ダイチの作る料理はどれもおいしいんだ。…お菓子も、美味いに決まっている。その時が楽しみだ。…今度は、わしがダイチのことを聞いても構わないか?」

  「もちろん構わないよ。」

  「…ダイチは本、好きなのか?図書委員会に所属しているくらいだから。」

  「うん。好きだよ。料理の本とか、よく借りているんだ。でも最近は、恋愛小説がマイブームかな。」

  「それはいい。…実は妹のカオリも恋愛小説が好きでな。…以前、カオリから小説を勧められたことは話したことがあったな?だからわしは最近、カオリから恋愛小説の本を勧められることがあるんだ。…せっかくだ。もしよかったらダイチと同じ本を読んで感想を語り合いたい。…可能なら、カオリも含めて3人で語り合いたい。…きっと、ダイチと話が合うだろう。」

  「もちろん!大歓迎だよ!」

  「ありがとうダイチ。…そろそろ日が暮れてきた。名残惜しいが、今日はこれで解散にしよう。」

  「わかった。…またね、バーグ!」

  「ああ。ダイチ。…またな。」

  2人別れのあいさつを交わした後、2人の交流場所である畑から離れ、部屋に戻った。

  後日、図書委員の委員長から、現在仕事をしているグループのメンバー変更のお知らせを受け、メンバーが変更された。僕と同じ、男の人が3人。…そして、女の人が1人の合計5人。改めてグループが決まり、仕事を始めようとしようとした瞬間。女の人が僕に対し声をかけてきた。

  …そして、話は冒頭に戻る。

  「あなたが、お兄様の話していた、ダイチ様ですか?」

  声をかけられ、女の人を見る。大和撫子を彷彿とさせるようなたたずまい。そして、どこか上品さも感じられた。…僕の記憶が正しければ、この女の人はケモケモクエストにいた、カオリという女性だったはずだ。

  「そうですけど…あなたは?」

  「失礼いたしました。急に尋ねられても困りますわよね。…私の名はカオリと申します。」

  「カオリさん…もしかして、バーグの妹さんですか?」

  「その通りですわ!」

  やはり、目の前の女性はケモケモクエストに出ているカオリで間違いなさそうだ。

  …だが、目の前の女性は僕の知っているカオリとは違っていた。

  …ケモケモクエストでのカオリの立ち位置はバーグと交流するごとに口出しをし、妨害をしてくるブラコン的なキャラで、正ヒロインであるマリアに対していいイメージを持っておらず、エンディングでバーグと結ばれる直前も、最後まで認めようとしない意固地なキャラだった。だからなのか。目の前にいる女性があのカオリだとは結び付かなかった。

  「よろしければ、ダイチ様。親睦を兼ねて少し、お話をさせていただいても構わないでしょうか?」

  「もちろん、かまわないよ。カオリさん。」

  「カオリで結構ですわ!私の方が年下ですし。それに、バーグお兄様とお友達なら、私にとってもお友達ですわ!」

  「分かった。カオリと呼ばせてもらうね。僕のことも、様をつけなくても構わないよ。ダイチ、と呼んでくれても構わないよ。」

  「殿方を呼び捨てで呼ぶなんて…でしたら、これからはダイチ先輩と、呼ばせてもらいますわ!」

  心からの笑みを浮かべて僕に告げるカオリ。…今、目の前にいるカオリは僕に対して友好的だった。

  「ダイチ先輩は、バーグお兄様と仲がよろしいのですわよね?」

  「うん。仲がいい友達だと思ってるよ。」

  「やはり、そうなのですわね!…よかった…。」

  「…よかったとは?」

  「バーグお兄様に、素敵な殿方のお友達ができてうれしいという意味ですわ!」

  「素敵だなんて…大袈裟ですよ。」

  「…実は最初、私、お兄様のことが心配でしょうがなかったのです。…知っての通りだと思われますが、周りでは、お兄様は吸血公でなんて呼ばれていて。…周りに人がいないであろうことは想像できましたの。…入学して、再会した時も、やはり一人でした。…そして、寂しそうでした。」

  「…」

  「…でも、次に会った時、お兄様は笑顔で生き生きとしておられましたの!理由を聞かせていただくと、友達ができたと。…あんなにうれしそうなお兄様は初めて見ました!その方について尋ねたところ、料理の得意な優しい殿方だということで。…どんな方だろうかと思いながら、私自身、お会いすることを楽しみにしておりました。そして、今日会うことができて、お兄様のお友達であるダイチ先輩が優しそうな方だということが分かって私、満足ですわ!」

  「恥ずかしいな。…でもありがとう、カオリ。」

  「こちらこそですわ!…そういえば、ダイチ先輩。ダイチ先輩も、恋愛小説がお好きだとお兄様からお伺いしました。…具体的には、どのような内容の小説が好きなのですか?」

  「僕?僕はハッピーエンドの展開になる小説が好きだな。…ちょっとべただと思うけど。」

  「そんなことありませんわ!やはり、恋愛小説の見どころは困難を超えたハッピーエンドと決まっております!」

  「そういうカオリは?」

  「私ですか?私は、ハッピーエンドも、どこか物悲しいエンドの本も、どちらも好きですわ!しいて言えば、身分違いの恋とか、性別を超えた恋が成就するお話が好きですわ!」

  少し興奮したように僕に告げるカオリ。本当に恋愛小説が好きなのだと僕には分かった。

  カオリと話をして、時間がたってしまった。そろそろ、仕事をしないといけない時間だ。

  「カオリ。申し訳ないけど、そろそろ受け付けの仕事をしなくちゃ。」

  「あら、もうそんなに時間がたっていましたのね。私も仕事をしないと。…ダイチ先輩。最後に一言だけ、いいですか?」

  「いいよ。何かな?」

  「これからも、お兄様の良き理解者…いいえ、お友達としていてくれますか?」

  「もちろん!」

  「ありがとうございます、ダイチ先輩。…これからも、お兄様のこと、よろしくお願いいたします!」

  そう最後に告げた後、カオリは本棚の整理をしに去っていった。

  バーグと新たな作物を育てる日常や、小説を語り合う未来があること。そして、バーグの妹のカオリも、僕に友好的に接してくれる事実に嬉しさを感じる自分がいた。

  [newpage]

  Vacation Event

  レオンエピソードInterlude-プライベートビーチ-

  この学園にとうとう本格的な夏がやってきた。レオンのご厚意で僕たち生徒会に関するメンバーは今、クラウス王国のプライベートビーチに来ている。王国御用達なだけあって、綺麗な青い海。綺麗な砂浜。そして、他に誰もおらず人ごみでない環境。生前に見ることができなかった光景を見ることができ、僕は感動のあまり一人笑みを浮かべていた。

  「待たせたね。みんな。」

  そう言いながら水着姿のレオンが現れる。

  …レオンは着やせするタイプだったのだろう。厚い胸板。綺麗に割れたシックスパックに力強さを表す腕と脚。…それに、立派な鬣が一層目の前にいる男を雄だと感じさせた。…周りの男たちと比べても、その肉体は素晴らしいものだ。…雄のエロスを感じてしまい、場違いながら見とれてしまった。

  「どうした、ダイチ?顔が赤いようだが…?太陽の暑さにやられたのか?」

  「…!い、いいえ、大丈夫です!」

  顔が赤いのを暑さにやられたと勘違いしたのだろう。レオンが心配そうに僕に尋ねた。

  「そうか、ならよかった。ダイチ、もしよかったら、女子のメンバーが来る前にビーチパラソルの準備を手伝ってもらっても構わないかな?」

  「もちろんです!レオン。」

  そう言いながら僕とレオンは2人でビーチパラソルの準備をする。他のメンバーもあっちこっちで日陰を作る準備をしていた。

  「…ダイチ、ずいぶんかわいらしい水着を着ているな。」

  僕が来ている水着は、オレンジの一般的な水着だ。太ももの部分にかわいらしいイラストが描かれている。つい、その絵がかわいらしくて、買ってしまったのだ。

  「レオンの方こそ…その…」

  「…?」

  「その、とても、男らしいと思います。…男であるはずの僕がつい見とれてしまうほど…」

  「ありがとうダイチ。…新しく新調したかいがあるというものだ。」

  レオンの水着は黒色のおしゃれな水着。レオンの黄金色の体毛と、とても似合っている。僕からの感想に対し、レオンはさわやかな笑みを返してくれた。その時、周りが騒がしくなる。…女子のメンバーの準備が済んで、やってきたのだろう。

  「お待たせしました!皆さん。」

  マリアさんを筆頭に水着を着た他の女子が現れる。マリアさんはやはりはたから見ても美少女だ。スタイルもいい。水着を着ているマリアさんを見て改めてマリアさんが女なのだと実感した。

  …これがいい意味なのか、悪い意味なのか、今の僕にはわからなかった。

  「レオン会長!その水着、似合ってますわ!…とても男らしくて素敵です!」

  レオンの姿を見るや否や嬉しそうに駆け寄るマリアさん。その目に僕は映っていないようだった。

  「ありがとう、マリア。そこまで褒められるものじゃないさ。」

  「そんなことありませんわ!…レオン会長。私の水着姿、どうですか?」

  「…よく似合っていると思うよ。」

  「ありがとうございます!レオン会長。この日のために私、真剣に悩んだかいがあったというものですわ!」

  笑顔でレオンにお礼を言うマリアさん。…開放的な夏がそうさせているのだろうか。いつもよりもレオンとマリアさんの距離が近づいているように感じた。

  「やっぱり、お似合いだよな。あの2人。」

  「かっこいいレオン会長とかわいらしいマリアさん…お似合いの2人ですわね…」

  この光景を見た周りから2人に対する賛辞が聞こえる。マリアさんにも聞こえていたのだろう。より一層笑みを浮かべた。…僕から見ても、お似合いのカップルに見える。…僕と違って。

  なぜだか少しだけ気持ちが落ちこむ自分がいた。

  「レオン会長!よろしければビーチバレーをいたしませんか?ぜひとも私と組んでほしいですわ!」

  「マリア…。ああ、かまわないよ。…ダイチ。」

  レオンが急に僕の名前を呼んだため、とっさに驚いてしまった。

  「ダイチ。よかったら、私たちと組んでくれないか?」

  「はい。」

  …その言葉を発することができなかった。マリアさんが僕を見る視線が一瞬とても冷たいものに変わったからだ。

  「…ううん、レオン。僕は少し、パラソルの下で休ませてもらおうと思います。」

  「…ダイチ、大丈夫か?よければ私が付き添っておこうか?」

  「気遣いありがとう、レオン。でもせっかくだからマリアさんとビーチバレー楽しんでよ。僕は大丈夫だから。」

  「ダイチさんの言うとおりですわ!レオン会長。せっかくだから、楽しみましょう!」

  「…分かった。では行こうか、マリア。」

  その言葉をきっかけに2人は砂浜へと足を運ぶ。僕はその姿をパラソルの下で遠くから眺めた。ビーチバレーが始まる。マリアさんは楽しそうだ。相手から放たれるボールをマリアさんがトスし、レオンがきれいにスマッシュを決める。そのボールは綺麗に相手のコートめがけて落ちていった。

  「やりましたわ!レオン会長!」

  嬉しかったのだろうか。スマッシュが決まった瞬間、マリアさんがレオン会長に抱き着いた。

  「…マリア。さすがに人前で抱きつかれるのは…」

  「…あっ!申し訳ございません、レオン会長!私、嬉しさのあまり、つい…。迷惑でしたか?」

  「…」

  マリアさんからの問いに対しレオンが何と答えたかは僕には聞こえなかった。「そんなことはないさ。」とか、「私なら構わないよ、マリア。」とか、笑顔で返事をしたのだろうか。そして、笑顔を返すマリアさん。どちらの答えでも、あの2人なら違和感を感じない自分がいた。

  …お似合いの2人。…僕が間に入り込むすきなど、はたから見たらないだろう。なぜだか一抹の寂しさと疎外感を感じた僕はみんなを残し、一人、砂浜を歩いた。砂浜は綺麗で、歩いているうちに少しづつ、落ち込んだ気分も戻ってきていた。近くで、カニが横歩きをしている。カニを見ながら歩いていたため、ついバランスを崩し、こけてしまう。

  「あいたっ!」

  思わず足首を見たが、捻挫はしていないようだった。

  「…何やってるんだろう。僕。そろそろ戻ろう…。」

  一人での散歩から戻ると、レオンが声をかけてきた。…どうやらビーチバレーは終わっていたようだ。

  「どうしたんだ、ダイチ。…姿が見えないから、心配したんだ。」

  「ごめん、レオン。…綺麗な砂浜だったから思わず歩いていたんだ。」

  「…そうか、ならいい。」

  「レオンは?…マリアさんとのビーチバレーは終わったの?」

  「ああ、ついさっきな。せっかくだから少しサーフィンをしようと思ってな。」

  「レオン、サーフィンができるの!?」

  「ああ、一応な。」

  「すごい!波に乗るレオン、かっこいいんだろうな。…僕、見てみたい!」

  「…その期待に応えられるようかっこよく波に乗って見せるさ。…だが、もし失敗して転んでも、笑わないでくれよな!」

  僕にそう言い残した後、サーフィンをしに行くレオン。波がある部分まではきれいなフォームでクロールをしながら力強く泳ぎ、そして波に近づく。もちろん失敗などなく、波に綺麗に乗れていた。そして、サーフボードを掲げたまま、僕の元に戻ってきた。

  「ダイチ、どうだった?私の姿は。」

  「…とてもかっこよかった!さすがだね、レオン!」

  「ありがとうダイチ。」

  「ええ、とてもかっこよかったですわ!レオン会長!」

  いつの間に側に居たのだろう。僕の隣でマリアさんがレオンに対し、サーフィンをしている姿の感想を言っていた。

  「マリアも、ありがとう。」

  「…レオン会長。よろしければ、私に泳ぎ方を教えていただけませんか?」

  「…なぜ?」

  「先ほど、綺麗なフォームで泳いでおられましたから。…実は私、泳ぎは苦手なんですの。…だから、少しでも泳げるようになりたくて。…レオン会長なら丁寧に教えてくれると信じておりますから!…迷惑、でしょうか?」

  「…それは構わないが。」

  ちらりと僕の方に目をやるレオン。

  「僕は構わないよ、レオン。マリアさんに泳ぎを教えてあげて。…大丈夫。せっかくだから、僕も近くで泳がせてもらうね!」

  「ご厚意感謝いたします。ダイチさん。」

  「…分かった。では行こうか、マリア。」

  「はい!よろしくお願いいたします。」

  2人連れ添って、砂浜を後にし、海辺の浅い場所へと移動する。その途中で…

  「キャッ!」

  マリアさんが声を上げて倒れそうになる。とっさのところでレオンがマリアさんを支える。

  「ありがとうございます。レオン会長!」

  「けがはなかったか?…足にけがをしたのなら、泳ぎを教えるのは…」

  「レオン会長のおかげで、どこも怪我をしておりませんわ!」

  「そうか。ならいい。…まずは水に慣れるところから始めた方がいいかな?もちろん、足が地面につくところの深さで始めよう。」

  「分かりましたわ!レオン会長!…一つ、お願いを聞いていただいても構わないでしょうか?」

  「…何かな?」

  「よろしければ、私が水に慣れるまで、手を握っていただけないでしょうか。…ほとんど泳ぐ機会などありませんでしたから、私、不安で仕方がなくって…」

  「…構わないよ。」

  「ありがとうございます!レオン会長!では、よろしくお願いいたします!」

  嬉しそうな顔をしながら浅瀬へと入ったレオンとマリアさん。マリアさんのお願い通り、マリアさんが水に浮かんでいる間、レオンはマリアさんの手を握っていた。マリアさんは嬉しさからか満面の笑みを浮かべる。

  …なんだか、レオンとの間に距離を感じてしまった自分がいた。…これ以上2人を見ているのが、なぜだか少し辛い。…気を紛らわせるべく、僕も海へと入った。海は青く綺麗で、とても気持ちよかった。僕自身泳ぎが得意ではなかったが、水に浮かんでいるだけで、少しリラックスできていた。

  …気が緩んでいたのだろう。いつの間にか足がつかないところまで来てしまったようだ。…戻らなくっちゃ。だが、その時、少し大きな波が僕を襲い、バランスを崩してしまった。

  「わっ!」

  思わず声を上げる。とっさのことだったため、パニックを起こしてしまった。さらに不運なことに、先ほどこけた衝撃からか、足が攣ってしまった!思うように泳ぐことができず、もがいてしまう。

  やがてそのうち、腕だけでもがく体力がなくなってしまった僕は、おぼれ、水の中に沈んでしまった。

  「ダイチ!」

  僕の気が遠くなっていく中、遠くで、誰かが僕の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。

  …そして、暗闇の中。僕が感じたのは僕の唇に何かが触れている感触と温かな感触。…口の中に温かなものが広がる。

  「ケホッ!ケホッ!はぁ…はぁ…」

  せき込み荒く息をする僕。そんな僕の目の前にいたのは、獅子獣人の男。…レオンだった。

  「ダイチ、大丈夫か!?」

  「レオン…ここは?」

  「心配したんだぞ!急にいなくなるから!」

  「ごめん、レオン。…僕、おぼれてたんだ…。レオンが助けてくれたの?」

  「ああ。…助けられてよかった!」

  「ダイチさん、大丈夫ですか?」

  レオンの隣に現れて心配そうな口調で僕に大丈夫かと尋ねたマリアさん。その声色とは裏腹に、その目はどこか冷たい感じがした。

  「マリアさん。…ありがとうございます。心配してくれて。」

  「ダイチ。まだ体が安定していないだろう。…マリア。ダイチのことは私が見ておく。だから、みんなのところに戻るといい。」

  「ですが…」

  「せっかくのビーチなんだ。みんなにも、もちろんマリアにも楽しんでほしい。」

  「…分かりましたわ…」

  少し落ち込むようなしぐさを見せた後、マリアさんはみんながいる方へ歩いていった。

  「本当にごめんね、レオン。せっかくの機会なのに、僕に付き添わせる形になってしまって。」

  「そんなこと、気にしなくていい!ダイチが無事でいてくれただけで、十分だ!…初めて、王子としての教育を受けてよかったと思う。救助方法を学んでいたからこそ、ダイチを助けることができたから!」

  「レオン…」

  「まぁ、実際、人相手に人工呼吸をすることなんて初めてだったから。人形と実際の人間では違うと実感した。」

  「じ、人工呼吸…」

  僕の口に感じたあのあったかさは…レオンの…!?

  「今から話す内容は私とダイチ、2人だけの秘密だ。…人工呼吸とはいえ、他人と唇を合わせたことは生まれて初めてなんだ。」

  「えっ!?じゃあ、レオンのファーストキスを、僕は…ごめんな…」

  「謝る必要なんかどこにもない!人として当然のことをしたまでなのだから!」

  「レオン…」

  「ダイチ…」

  急に真顔になるレオン。そして、僕の耳に唇を寄せ、そっと告げた。

  「ダイチの唇、柔らかかったよ…」

  「な、ななななな…!」

  「フフフ、あわてる余裕ができるほどには回復しているみたいだな。…だがまだ動くには早いな。私が側に居るから、安心していいぞ、ダイチ。」

  そうレオンが言った後、レオンは僕の頭をレオンの膝の上に乗せた。…これは俗にいう、膝枕…!レオンからの行動に、恥ずかしさと、雄としての包容力を感じる自分がいた。

  いつまでそうしていたのだろう。安心していた僕は、つい、転寝をしてしまったようだ。目を開けると、そこにはレオンの顔があり、頭には逞しい脚の感触を感じる。レオンはずっと僕に膝枕をし続けてくれたようだ。

  「レオン、ありがとう。もう大丈夫みたい。」

  「…そのようだな。そろそろ日が暮れる。夜ご飯はバーベキューを用意しているんだ。一緒に行こうではないか。」

  そう言うとレオンは僕をおんぶしながらバーベキューの場所に向かった。

  「レオン、恥ずかしいよ!」

  「さっきまで倒れていたんだ。これくらいのことは当たり前だ。」

  「レオン…でも、僕、重たいでしょ?」

  「そんなことない!むしろ軽いくらいだ!きちんと食事をとっているのかどうか心配になるくらいだ!」

  「…ねぇ、レオン。」

  「…何かな?ダイチ。」

  「相手が、マリアさんでも、同じこと、した…?」

  「…」

  「ご、ごめん!今のは忘れて…!」

  「多分、同じことをしただろうさ。…人命救助という行為は大切なことだから…。」

  「…」

  「でも、きっと、今みたいな気持ちにはなっていないだろうな…。」

  「えっ?どういう…」

  「…ダイチ、もうバーベキューの準備は済んでいるみたいだ、みんな待ってるぞ!」

  明るい口調で僕に告げるレオン。レオンが僕をおんぶしている姿を周りも見ていたのだろう。心配しながらも、お姫様みたいだなと、からかわれてしまった。僕も周りの人に、心配をかけたことへ謝罪とお礼の言葉を言った。周りの人は気にするなと言ってくれた。僕に対する反応はマリアさんも周りと同じだった。…だが、僕はマリアさんの目を見ることができなかった。

  楽しいバーベキューが始まる。思い思いの場所で食材を焼いていたが、レオンはまだ僕のことが心配なのだろう。僕の側に居てくれた。持ち寄られた食材はとても新鮮で、とてもおいしかった。僕の予想通り、マリアさんはレオンに自分が焼いた肉を勧めていた。レオンはありがとうと言いながらその肉を食べる。マリアさんは嬉しそうだった。

  …楽しい時間はあっという間に終わるのだ。学園に戻りそれぞれが自室へと戻る。…綺麗な砂浜を歩いたこと。…おいしいバーベキューの味。…そして、人工呼吸とはいえレオンとキスをした事実と唇の感触を思い出し、思わず僕は赤面してしまう。

  このビーチで過ごした夏は、僕にとって忘れられない夏となった。

  タイガエピソードInterlude-遊園地-

  この学園にとうとう本格的な夏がやってきた。いわゆる夏休みに入ったとある日。

  「今週の週末、俺様と一緒に遊園地に行くぞ!異論は認めないぜ!ガハハ!」

  タイガは僕の部屋に入るや否や強引に告げた。偶然にも、その日は予定がなかった。

  「その日なら構わないよ、僕も予定がなくて開いていたし。…僕に予定があったら、どうするつもりだったの?」

  「そんなの、決まってる!俺様の方を優先させてもらうぜ!ダイチは俺様が認めた…その、…友達、なんだからな!」

  まるで子供の様に告げるタイガ。…でも、タイガが僕のことを友達だと認めて言ってくれた。そのことが、純粋に嬉しかった。

  「分かったよ、タイガ…。でも遊園地か…」

  「なんだ?不満なのか?」

  「ううん、遊園地に行くのは楽しみだよ!…でも、この時期だから、入場チケットとか手に入るのかな…?」

  「なんだ、そんなことか!その遊園地は俺様の家も協賛している!だから、チケットを手に入れることなどたやすい!というか、すでに、持っているんだがな!」

  そう言いながら2枚のチケットを僕の目の前でひらひらとさせるタイガ。…まったく、用意周到なんだから…。

  「そこまで準備しているなら、行くしかないよね!…でも…」

  「…でも、だと?まだ何かあるのか?」

  「…正直なところ、タイガの取り巻きの人たちと、いっしょに行くのは…その、性格とか、合わないと思うし…」

  「何言ってるんだ、ダイチ。」

  「何って?」

  「決まっているだろう!遊園地に行くのは俺様とダイチ。2人だけだ!他の奴は誘ってねぇよ!」

  「いいの、タイガ?誘わなくて。…後で文句言われるんじゃ…」

  「あいつらの中に俺様のすることに文句を言う度胸のあるやつなどどこにもいねぇさ!だからダイチ、俺様と2人きりで遊園地に行くんだ!」

  「それなら、安心かな。…それなら、よろしくお願いします。」

  「おう、期待してくれていいぜ!その日のプランも考えてある!楽しみにしていろ!ガハハ!」

  「…タイガと2人きりか…。」

  「俺様じゃ不安なのかよ!?」

  「ううん、そうじゃないよ。…まるで、デートの誘いみたいだなぁと思ったからさ。」

  「デ、デ、デ、デート!?俺様が!ダイチを!?」

  「ごめん、今の言葉は忘れて…」

  「…あながち間違いじゃないかもな…」

  「…えっ?何か言った?」

  「…いや、そうだ、これはデートだ!この俺様がダイチを雄らしくエスコートしてやるぜ!ガハハ!今日言いたいことはこれで終わりだ!…ダイチの手作りのお菓子はないのか?」

  「急に来られたんだから作っているわけないでしょ?せめて、欲しいんだったら、事前に言ってよね。」

  僕からの突っ込みに、タイガはバツの悪そうな顔をした。

  そして、当日。遊園地までの道はタイガが用意してくれた馬車に揺られながら向かった。本当に2人きりで向かう遊園地。これから行く遊園地にワクワクしながら馬車に揺られることおよそ30分。ようやく遊園地までやってきた。

  …やはり休みなだけあって人が多い。だが、タイガが用意してくれたチケットのおかげですんなり入ることができた。

  「早速だ。約束通り、この俺様がダイチをエスコートしてやるぜ!…まずは、定番のこれだな!」

  そう言って、タイガが指をさしたのはジェットコースター。

  「一応聞いておく。ダイチはジェットコースター、問題はないか?」

  「問題ないよ。僕、こういう乗り物、大好き!」

  「ならいいぜ!ガハハ!…俺様達はラッキーだ!ほとんど列ができていない!今すぐ並ぶぞ!」

  「ちょっと意外…」

  「…なにか俺様、変なこと言ったか?」

  「ううん、そんなことないよ。…でも、タイガのことだから、無理やり一番前に割り込むんじゃないかとちょっとだけ、ひやひやしたから…」

  「心外だな!いくら俺様でも、ダイチの前でみっともない真似をするつもりはないんだぜ!」

  「そうだよね、さすがのタイガでも、そんなことはしないよね!」

  「…当たり前だ。」

  少しだけ声が小さくなったタイガ。それがなぜかは分からなかった。そして列に並び10分ほどたつ。僕たちの番が回ってきて、ついにジェットコースターに乗れるようだ。

  「最前列か…俺様達にぴったりの場所だな…ダイチ、怖かったら、手をつないでやってもいいんぜ!ガハハ!」

  「大丈夫。言ったでしょ?僕、こういう乗り物、好きなんだから!」

  「…そうか。」

  ふたたび声のトーンが少し下がるタイガ。…僕が怖がる様を楽しみにしていたのかもしれない。…それか、まさか…ね。

  そして、ジェットコースターに乗り、スピード感を味わう。90度回ったり、途中1回転したりして、それなりに時間がたっているだろうが、あっという間に感じた。

  「やはり、ここのジェットコースターはいつ来てもいいもんだ!ガハハ!」

  「そうなんだ。タイガは遊園地、よく来るの?」

  「ああ、俺様一人でな。」

  「…寂しくなかった?」

  「全然。むしろ、うるさいやつらが周りに居なくて、せいせいしたくらいだ!だから、今俺様、新鮮な気分だ。…誰かが側に居るなんて、考えつきもしなかったからな…」

  「タイガ…」

  「そんな声をするなって。せっかくの俺様とダイチの、デートなんだからな!」

  「で、デート!?」

  「ダイチが言い出したんだろう。俺様と遊園地でデートがしたいと。」

  「僕、そんなこと言った気は…」

  「細かいことは気にすんな。…せっかくだ、ダイチ、どこか行きたいアトラクションはあるか?…ダイチの意見も聞いてこその、デートだからな!ガハハ!」

  「タイガ…。そうだね。…僕、このアクアシップに乗ってみたい!」

  「ダイチ、意外とお目が高いな!アクアシップは俺様もお勧めするアトラクションだ!」

  そして、アクアシップへと2人で向かう。残念ながら、今度は少しばかり、待つ羽目になりそうだ。

  「くそっ、結構並んでやがるな。」

  「仕方ないよ、タイガ。それだけ人気だということの証だよ。…その分、楽しみが増えたと思わなきゃ。」

  「ダイチは前向きだな。…仕方ねぇ。並ぶか。」

  そうタイガが告げ、列へと並ぶ。待っている間、話題に出たのは僕が作るお菓子の話だった。

  「ダイチ。ダイチが作る中でおすすめのお菓子は何だ?」

  「おすすめ?…どういう系統かによるかな?焼き菓子?それとも、ゼリーのような感じのもの?」

  「せっかくだから両方聞かせてくれや。」

  「そうだな…焼き菓子なら、マドレーヌかなぁ…。」

  「ほう。」

  「ゼリーのような感じだと…系統はちょっと違うかもしれないけど、羊羹とか?」

  「羊羹!?」

  「ど、どうしたのタイガ!そんなに大きな声を出して。」

  「俺様、実はあんこが好きなんだ。」

  「…え?」

  「これは俺様とダイチの2人だけの秘密だぞ!実は今までも、俺様にお菓子を献上した奴らはいた。クッキーとか、それこそマドレーヌとか…。もちろん、ダイチの作るお菓子の味には遠く及んでいなかったがな!…だが、今まで羊羹を俺様に献上した奴らはいなかった。…俺様の一番好きなお菓子なんだがな…。」

  「タイガ…」

  「だから、ダイチ!次に俺様にお菓子を作るときは、羊羹を作れ!…いや、作ってください。」

  俺様気質のタイガからは考えられない口調での頼み。…それほど、好きなんだろう。

  「分かったよ、タイガ!次会うときは羊羹、だね!」

  「頼んだぜ!ガハハ!」

  タイガと話をしているとあっという間に時間がたってしまった。タイガも太鼓判を押すだけあって、アクアシップは豪快ながらも、清涼感あふれる乗り物だった。

  「そろそろ喉が渇いたな…若干昼食には早いが、むしろ混んでいない今こそチャンスだな…ダイチ。俺様が昼食を買ってきてやる。その代わり…」

  「わかってるよ、タイガ。席の確保、だね!」

  「話が早くて助かるぜ!飲み物はオレンジジュースでいいか?」

  「うん、かまわないよ。…あっ、お金…」

  「さっきも言っただろ、これは俺様とダイチのデートなんだと!だから、金は出さなくていいぜ!」

  「ありがとう、タイガ。…じゃあ、厚意に甘えさせてもらおうかな?」

  「…いつも、俺様がもらっている立場だからな…」

  「えっ?何?聞こえなかったけど…」

  「何でもねぇよ!じゃあ、ちょっくら買ってくるぜ!ガハハ!」

  そう言いながら昼食を買いに行ってくれたタイガ。僕は近くに座って食べれる場所を探し、タイガを待った。そして、約10分後。2つのハンバーガーと一本のジュースを持って戻ってきた。そのジュースの容器は大きくて、なぜかストローが2本刺さっていた。

  「ありがとう、タイガ。…でも、ジュース、1本しかないよ?」

  「これは…だな…。」

  「…?」

  「おすすめを、店員に、聞いたんだ。2人で分け合えるような飲み物はないかと。そうしたら何を勘違いしたのか、ストローを2本つけた飲物をよこしてきやがったんだ。…確認しなかった俺様も、悪いが…ああ、今思い返しても…」

  「タイガ…?」

  「い、いや…だが…」

  若干挙動不審なタイガ。

  「…ああ、もういい!ダイチ!こうなったらヤケだ!俺様とこのジュースを飲むんだ!」

  「ええっ!?でも、それって…!」

  「残す方がもったいない!俺様は覚悟を決めた!ダイチも覚悟を決めろ!」

  「わ、分かったよ、タイガ!」

  そう言いながら目の前のジュースを2人で飲む。はたから見たら男同士一つのカップからジュースを飲みあうなど変に見えるのだろう。だが、かっこいいタイガと間接キス…。場違いながら僕は照れを感じてしまい、ジュースの甘さをうまく感じ取ることができなかった。

  それからはタイガと2人で、様々なアトラクションに乗った。ゴーカートでは2人競い合いながら走りあったり。メリーゴーランドでは2人でかぼちゃの馬車に乗りながら穏やかに周りの風景を見たり。ちょっとしたゲームセンターでは2人で協力できるゲームをした。エアホッケーも楽しんだ。…勝敗は運動神経が抜群なタイガの勝ち越しだった。…UFOキャッチャーではタイガが虎のぬいぐるみを一つとった。とてもかわいらしいぬいぐるみ。

  「ダイチ、プレゼントだ。受け取れ!ガハハ!」

  そう言って、タイガはとったぬいぐるみを僕にくれた。

  「ありがとう、タイガ!」

  そう言いながら、渡されたぬいぐるみを見つめる。とてもかわいらしい。

  …タイガからのせっかくのプレゼント。とっても嬉しかったので、つい、そのぬいぐるみを見つめ、抱きしめてしまった。

  「…やっぱり返せ!」

  そういうや否や、タイガは僕の手からぬいぐるみをひったくってしまう。

  「タイガ…?」

  「…そんな顔をするな。これはあとでダイチにやる。…今は、」

  「…?」

  「今は、俺様だけを見ていればいいんだ!」

  「タイガ。まさか、ぬいぐるみに嫉妬…」

  「そんなわけないだろ!?ダイチ!次はここに行くぞ!」

  「えっ…ここ?」

  強引に次の行き先を告げるタイガ。だが、指でさされた場所を見た瞬間、僕の声は小さくなった。だってここは…。

  「どうした、ダイチ、そんな声を出して…ははぁん。さては…」

  「タイガ、あの、出来れば別の場所がいいかなって…」

  「さっきまで俺様をからかった罰だ!次はここに行く!異論は認めないぜ!ガハハ!」

  有無を言わせないタイガの言葉。次に行くアトラクションの場所は決まってしまった。

  …そこは僕の苦手な…。

  …うーらーめーしーやー…

  「ぎゃあああああっ!」

  僕は目の前の存在に対し悲鳴を上げてしまった。…そう、次に向かったのはお化け屋敷。

  …乗り物とかに強い僕でも、こういうたぐいのものは苦手だった。怖さのあまり、つい、タイガに抱き着いてしまう。

  「ほぉ…。ダイチにも苦手なものがあったとはな…。」

  「タ、タイガ…意地悪だよ!僕、こういうの苦手なのに…!」

  「すまねぇな!俺様、知らなかったんだから!だから、悪くないもんね!ガハハ!」

  「タイガ!」

  …うーらーめーしーやー…

  「ぎゃあああああっ!」

  怖がった僕がタイガに抱き着く。その行為は僕たちがお化け屋敷を出るまで行われた。

  …普段の僕ならタイガに抱き着くという行為にドキドキしていただろうが、今は別の意味でドキドキしている気持ちの方が強かった。

  「タイガ…うう、ひどいよ…」

  「…俺様をからかった罰だぜ、ダイチ!もうすぐ日が暮れるな。…こんなに1日って短かったんだな。最後にあれ、いっしょに乗ろうぜ!」

  そう提案された乗り物は観覧車。並んでいる人はだれもいない。すぐに乗り込むことができた。だんだんと上昇していく観覧車。綺麗な夕焼けが目の前に広がる。思わず、その光景に見とれてしまった。

  「綺麗だね…タイガ。」

  「そうだな…」

  僕の顔を見ながらタイガがそう答える。少し真剣な表情をしている。その表情になぜかドキドキしてしまい、顔がそらせない。そして、観覧車が頂上付近に近づく。

  「ダイチ…」

  そう言いながらタイガの顔が僕に近づく。えっ、これって…。僕は思わず、目をつむってしまった。

  ギュムッ!

  「ふえっ!?」

  僕は思わず声を上げてしまった。何とタイガは僕の鼻をつまんでいたのだから。

  「タ、タイガ!?」

  「なんだ?ダイチ、そんな顔をして。まさか、キスをされると思っていたのか?ガハハ!」

  「そ、そんなこと…」

  「いたずら成功だな!ガハハ!」

  「もう、タイガったら!」

  僕の顔を見ながら大笑いするタイガ。思わず、僕もつられて笑ってしまう。そして、観覧車が地上付近へと近づく。そして、タイガは僕の顔を再び少し真剣な表情で見る。

  「ダイチ…」

  「何?」

  …その言葉を告げることができなかった。僕の唇がタイガの唇でふさがれていたからだ。

  驚きのあまり、僕は固まってしまう。時間にして数秒だっただろう。…だが、その時間は僕にとってはとてつもなく長いものに感じた。観覧車から降りるときの記憶は、曖昧だ。…タイガとキスをしたという事実が、記憶を曖昧にさせた。

  「観覧車の景色、よかったな、ダイチ!ガハハ!今日誘ったかいがあったもんだぜ!ダイチのそんな顔も見られたことだしな!」

  「タイガ…もしかして、僕にこんな顔をさせるためにキスをしたの?これもいたずら?もしかして、他の人にもこんないたずら、してるんじゃないよね?」

  「ダイチ…。」

  急に真顔になるタイガ。綺麗な青い目で僕の目を見ながら、告げる。

  「ダイチ。これはいたずらなんかじゃない。それに俺様は誰にでも自分の唇を許すような軽い男じゃない。…それだけは、忘れるな!…馬車が到着したみてぇだな。名残惜しいが、さっさと乗り込もうぜ!ガハハ!」

  そう言った後、僕とタイガが馬車に乗り込む。僕の手には先ほどタイガがとったぬいぐるみが握られていた。タイガと馬車の中で会話をしたはずなのだが、その内容は頭に残っていない。…さっきのタイガの言葉が頭に残っていたからだ。…あれは、どういう意味…だったのだろう。それに、タイガとキスをしたという事実を思い出して照れを感じてしまい、赤面してしまったため、深く考えることができなかった。

  タイガと遊園地で過ごした夏は、僕にとって忘れられない夏となった。

  ロウガエピソードInterlude-林間学校-

  この学園にとうとう本格的な夏がやってきた。僕は今、学園が所有しているキャンプ場…いわゆる林間学校に来ている。…ペアであるロウガ君と一緒に。

  セイント学園では夏休みに男子学生の希望者に対し、林間学校を開催している。内容は1年生と2年生が一人づつペアを組み、1日を通して親睦を深めるというものだ。1年生と2年生のペアなのは少しでも1年生が先輩を通じて学園生活に溶け込んでほしいという理由と安全行動のためなのだそうだ。

  自由参加のため、生徒会などの活動で忙しいレオン、まったく興味のないタイガ。畑の世話をしたいバーグは不参加だ。僕自身、不参加の予定だった。でも、ある日。ロウガ君から一緒に行かないかと誘われた。

  「ダイチ先輩。ダイチ先輩って、林間学校に興味があるっすか?」

  「僕?…うーん。そこまでかなぁ?ペアになる1年生もいないし。」

  「そうっすか…。」

  「…どうしたの、ロウガ君。」

  「いや、何でもないっす…。」

  「…せっかくだから、話してみてよ。ロウガ君に、そんな顔してほしくないし。」

  「…だったら、ダイチ先輩。俺のお願いを聞いてもらっても、かまわないっすか?」

  「お願い?」

  「…もしよかったら、俺とペアになって一緒に林間学校に参加してほしいっす!…せっかくの夏休みなんっす。…せっかくだから、何か思い出がほしくって。…駄目っすか?」

  「そんなことはないよ。…でも、陸上部の先輩には声をかけたの?もっと親密になるチャンスじゃないの?」

  「…他の先輩方はすでにペアになる1年生が決まってるみたいっす。1年生通しではペアになることができないですし。…それに、俺はダイチ先輩とペアになりたいんす!」

  ロウガ君からの強いお願い。期待するようなまなざしで見られたら、断れないじゃないか…。それに、林間学校がある日は特に予定もないし、ちょうどいいかな…。

  「うん、わかったよロウガ。林間学校がある日は特に予定もなかったし。それに、ペアの子も決まってなかったから。じゃあ、ロウガ君。僕でよかったら、ロウガ君とペアになって林間学校、参加させてもらうよ。」

  「ダイチ先輩…ありがとうございます!」

  はじけるような笑顔でお礼を言うロウガ君。

  「お礼を言われるようなことじゃないよ、ロウガ君。」

  「そんなことないっす!とても嬉しいっす!…ほかならぬダイチ先輩だから…。」

  「えっ?ごめん。最後聞き取れなかった。」

  「…何でもないっす。そういえば、ダイチ先輩。去年は林間学校に参加したんすか?」

  「…僕は参加していないよ。その時にはペアになってくれる先輩はいなかったし。」

  …正確にいうと、去年の時点で僕は存在していなかったため、参加できなかったという方が正しいのだが。

  「そうなんすか。…実は林間学校で何をするかは俺、知らないんすよね。」

  「僕も聞きかじった程度しか知らないけど。実質自由行動みたいなもんらしいよ。」

  「そうなんすか?」

  「うん。林間学校で、川で泳ぐペアもいれば釣りをするペアもいるみたいだし。夜は一応キャンプファイヤーを実施するみたいだけどそれも自由参加みたいだし。だから、実質何をするかはあらかじめペアで決めるということみたいだよ。」

  「ダイチ先輩。…だったら、今日のうちに何をするか、ある程度決めておかないっすか?」

  「構わないよ。せっかくだから、ロウガ君の意見を聞いてみたいな。」

  「そうっすね。…午前中は一緒にハイキングとかどうっすか?俺自身田舎の出身だから、山歩きとかそういうのはできるっす!」

  「構わないよ、ロウガ君。」

  「昼食はどうするっすかね?」

  「ええと、確か昼食と、翌日の朝ごはんに関しては、学園から用意されているはずだったから、心配しなくてもいいよ。」

  「そうっすか…じゃあ、午後は…。ダイチ先輩。川で泳ぐか釣りをしたいんすけど。…ダイチ先輩はどっちがいいっすか?」

  「そうだね。…釣りはやったことないな。でも、どちらかといえば、川で泳ぎたいかな。」

  「了解っす!じゃあ、午後は川泳ぎに決定っす!夕食はどうするっすかね…?」

  「そうだね。夕食に関しては各自で作るようになっているから…。ロウガ君はリクエストとかある?」

  「…そうっすね…うーん。思いつかないっす。」

  「…じゃあ、野外キャンプでの定番の食事になるけどカレーとかどうかな?」

  「カレーっすか!?」

  「う、うん。カレー。ロウガ君、カレー好きなの?」

  「大好きっす!」

  「ちなみに、甘口と辛口、どっちが好きなの?」

  「…甘口っす。辛すぎるのは、苦手なんす…。ダイチ先輩は?」

  「僕はどっちでもいいけど、せっかくだからロウガ君の好みに合わせて、甘口にしようか。」

  「ありがとうございます!ダイチ先輩。その後は…。」

  「せっかくだから、キャンプファイヤーにでも参加してみる?」

  「そうっすね!俺も賛成っす!」

  「じゃあ、林間学校の予定はこれである程度決まったね。」

  「そうっすね!ダイチ先輩。林間学校、楽しみっす!…当日、よろしくお願いします!」

  「こちらこそ。いい思い出になる林間学校にしようね!」

  そして、林間学校当日。僕とロウガ君以外にも結構な人数がいる。…思っていたよりも、林間学校は人気なようだ。あちらこちらに、ペアが見られる。

  「ダイチ先輩!早速、いっしょにハイキングに行こうっす!」

  「ちょ、ちょっとロウガ君!そんなに慌てなくても大丈夫だよ!」

  「あっ…すみませんっす。つい、楽しい気分を抑えられなくて。」

  「そんな気持ちになるのは仕方ないよ。…それにしても、いい空気だね、ロウガ君。セーヌ村もこんなにいい空気なの?」

  「そうっすね…都会の町よりは空気がきれいだと思うっすけど…でも俺はこっちの方が空気がきれいだと思うっす!」

  会話をしながら、山を登る僕とロウガ君。ロウガ君は慣れているのだろう。速いペースでどんどんと登っていく。一方僕は山登りに慣れていないため、ロウガ君のスピードについていくだけで精一杯だった。

  「ダイチ先輩、早くっす!」

  「ご、ごめん、ロウガ君。」

  「…!あっ、す、すみませんっす!俺、はしゃいじゃって!ダイチ先輩のペース、考えれていなかったっす…。」

  僕の負担に気づき、しゅんとなるロウガ君。せっかくの林間学校なのだから、ロウガ君にそんな顔はしてほしくない。

  「気にしなくていいよ、ロウガ君。…でも、少しだけゆっくり歩きながら景色を楽しんでもいいかな?…せっかくのきれいな景色なんだし。」

  「もちろんっす!ダイチ先輩。重ね重ね、すみませんっす…。」

  「すみません、じゃなくてありがとうと言ってくれた方が、僕は嬉しいよ。」

  「ダイチ先輩。…そうっすね!ありがとうございます…っすね!ダイチ先輩。ダイチ先輩は海と山、どっちが好きっすか?」

  「うーん。…ごめん。どっちも好きだから決められないや。優柔不断でごめんね。…ロウガ君は?」

  「実は俺も、どっちかと問われても、すぐには決められないっす。山は空気がきれいっすし、海は青い景色がきれいっすし…先輩と、おそろいっすね。」

  「うん。僕たち、おそろいだね。」

  そう2人で笑いながら、山を登る。そして、頂上までたどり着く。

  「ダイチ先輩!遠くまで緑でいっぱいっすね!」

  「本当だ!綺麗な景色だね…。ヤッホー!」

  ヤッホー…ヤッホー…僕が叫ぶと、山彦がこだました。

  「ダイチ先輩?なんすか?それ。」

  「えっ?ああこれ…ごめん。つい、山の頂上に着くと、やってしまうんだ。さっき僕が叫ぶと、声が返ってきたでしょ。これは山彦と行ってね。つい、面白いからしてしまうんだ。」

  「そうなんすね!じゃあ、俺も。ヤッホー!」

  ヤッホー…ヤッホー…ロウガ君の声があたりに響いた。

  「本当っす!声が返ってきたっす!」

  「でしょ!不思議だよね。」

  もう一度ロウガ君と2人でヤッホーと言い合った後、山を下りた。

  学園で用意されたお弁当を食べ、午後。当初の提案通り、近くの川にロウガ君と向かった。

  川でお互い着替えあう。僕とロウガ君のほかには誰もいないようだ。一応のマナーとして、着替え中はお互いの裸を見ないようにした。

  そして、2人水着に着替える。

  「かわいらしい水着っすね!ダイチ先輩!」

  僕が来ている水着は、オレンジの一般的な水着だ。太ももの部分にかわいらしいイラストが描かれている。つい、その絵がかわいらしくて、買ってしまったのだ。

  「ロウガ君も水着、似合ってるよ!」

  「本当すか!?ありがとうございます!」

  ロウガ君の水着は、ハーフパンツの様な水着。ゆったりとした水着だが、川場では動きやすそうだった。

  改めてロウガ君の体を見る。

  「ロウガ君の脚、筋肉がついてるね!初めて会った時よりも太くなってる…あっ、ごめん!じろじろ見ちゃったりして!」

  「気にしてないっす!でも、そうっすね。確かに学園に来る前よりかは脚も太くなった気がするっす。…部活で走りこんでるからっすかね?」

  「そうかも。…それに脚だけじゃない。」

  僕がそう言うと、ロウガ君の隣に立ち、並んだ。

  「体格も、しっかりしてきたし。それに背の高さも、最初は僕とロウガ君は同じくらいの高さだったのに今では抜かれて、ロウガ君の方が高いよ!」

  「きっと、成長期だからっすね!俺、まだまだ成長するっすよ!先輩の倍くらいの背丈になったりして!」

  「そこまで行くともう巨人だよ!」

  その姿を想像し僕は笑う。ロウガ君もつられて笑っていた。

  「ダイチ先輩。ダイチ先輩って泳ぎは得意っすか?」

  「うーん。泳ぎはそこまで得意じゃないかな?一応泳げるくらいのレベルだし。どちらかというと水の上で穏やかにぷかぷかと浮かんでいる方が好きかな。ロウガ君は、泳ぐの得意なの?」

  「俺は、まぁ、一応っすね。さすがに水泳部にはかなわないけど、クロール程度ならできるっすよ。」

  そう言った後、ロウガ君はクロールで川を泳ぐ。意外と泳ぎがうまい。豪快なフォームで泳いでいる。

  「まぁ、こんなもんっすね。」

  「そんなことないよ。結構、泳ぐの上手だったよ!」

  「ありがとうございます。ダイチ先輩。」

  そう言った後、ロウガ君は再び泳ぎ始めた。僕の方は川の中でゆっくりと水につかる。足が着く程度の深さなので、おぼれる心配はない。数分そうしていると。

  「ダイチ先輩。」

  急にロウガ君から声がかけられる。ロウガ君の方を振り向く。

  「わっ!」

  思わず声を出してしまう。ロウガ君が僕の顔に水をかけてきたからだ。

  「いたずら成功っすね!」

  子供っぽい笑顔で僕に告げた。

  「ロウガ君!…そっちがその気なら、こっちだってこうだ!」

  「わぁっぷ!」

  そうして僕はロウガ君の顔めがけて水をかけた。

  そうして、しばらくの間お互いの顔に水をかけて楽しみあった。

  しばらく川で遊んだ後、夕食を作り始めるのにいい時間になった。

  「ロウガ君。そろそろ夕食の準備をしようか。予定通り、カレーにするね!」

  「もちろん、甘口っすよね?」

  「安心していいよ、ロウガ君。…そういえばロウガ君はキャンプとかの経験とかある?」

  「俺っすか?…実は初めてなんっす。」

  「じゃあ、料理を作った経験は?」

  「…ほとんどないっす。」

  「そっか、分かった。…包丁を使うのは危ないかな。じゃあ、今から僕が火を起こして野菜を切るよ。ロウガ君は僕が切った野菜を焦がさないように鍋をかき混ぜてくれないかな?」

  「鍋をっすか!?熱そうっすよ!?」

  「…おたまでかき混ぜてほしいという意味だったんだけど…」

  「あっ、そういう意味だったんすね!分かったっす!」

  「お玉はそんなに激しく回さなくてもいいよ。具材が外に転げちゃいけないし。」

  「分かったっす!ダイチ先輩。」

  そう言って僕とロウガ君はカレー作りに取り掛かる。起こした火で飯盒炊飯をすることは生前以来だったため、ご飯を焦がさないようにすること。それだけが心配だった。ご飯を研ぎ、専用の器具に入れて火を通している間。僕はカレーの具材を切って鍋に投入する。ロウガ君は恐る恐るお玉をかき混ぜていた。

  「ロウガ君、そんなに怖がらなくていいよ。こんな風にかき混ぜたらいいよ。」

  そう言って、ロウガ君の手を取ってかき混ぜ方を教えてあげる。ロウガ君は驚いた顔をしたけど、僕の手を振り払うことなく。むしろ僕の手に身をゆだねるような行動をとった。もう大丈夫だと思った後、僕はロウガ君の手を放し、カレーの鍋に水を投入した。

  「ロウガ君。ここまで来たら時々かき混ぜるくらいでいいよ。僕はご飯が焦げないよう火を見ておくから。もし、鍋の水が沸騰してこぼれてしまったら教えてね?」

  「分かったっす!ダイチ先輩!俺、片時も目を離さないっす!」

  「そこまで神経質にならなくても大丈夫だよ、ロウガ君。」

  30分程度カレーの具材をゆでた後、ご飯がいい具合に炊き上がった。そろそろかと思いロウガ君と交代し、僕は鍋にルーを入れて解けるまでかき混ぜた。

  そして、カレーができた。

  「ロウガ君、カレーができたよ。一緒に食べよう!」

  「はいっす!」

  2人で作ったカレーをロウガ君と一緒に食べる。口に含んだ後、ロウガ君は笑顔で僕に告げる。

  「カレー、美味いっす!ダイチ先輩!料理を作ることなんてほとんどなかったっすけど、結構楽しいもんなんすね!」

  「よかった!ロウガ君が喜んでくれて!…うん、カレー、美味しいね!」

  「…この味は俺にとって、忘れられない味になったっす!」

  「大袈裟だよ、ロウガ君。」

  「そんなことないっす!ダイチ先輩と2人で作った料理だからこそ、なおさらおいしく感じるっす!」

  ロウガ君はまっすぐな笑顔を見せながら僕に告げ、カレーを食べた。よほどおいしかったのだろう。少し作りすぎてしまったかなと思った量のカレーだったが、ロウガ君はすべて平らげてしまった。

  そして、2人で後片付けをしていると、いつの間にか日が暮れていた。そろそろキャンプファイヤーをするという声が聞こえたため、ロウガ君と2人その場所に向かう。そこにはすでに焚火ができており、あたりを明るく照らしていた。

  「綺麗だね、ロウガ君。あったかいや!」

  「本当っす!とっても明るいっす!」

  あたりを見渡すといくつかのペアが焚火を囲んでいた。じっと、焚火を見るペア。楽しく談笑しているペア。手を取って踊っているペア。様々だった。穏やかに焚火の火を僕が見ているとロウガ君は僕に近づき、とある提案をした。

  「ダイチ先輩。もしよかったら、いっしょに近くの花畑に行かないっすか?」

  「花畑?」

  「さっき、同じ陸上部の部員から聞いたんす。近くに綺麗な花畑があると。…どうっすか?」

  「いいよ。僕も行ってみたい!」

  「善は急げっすね!」

  そうしてその場を離れ、2人で近くの花畑へと向かう。あたり一面、緑色と花の色。とても綺麗だ。

  「綺麗…それに、草の感触が気持ちいいや!」

  思わず仰向けに寝転ぶ。ロウガ君も僕の近くに寝転んだ。

  「俺自身、花はそこまで興味がなかったっすけど、こうして花畑を見ると、来てよかったっす!」

  「素敵な場所を教えてくれてありがとう。ロウガ君。」

  「どういたしましてっす!あっ、先輩の頭上に綺麗な赤い花があるっす!」

  そう言って仰向けになっている僕の上にロウガ君が覆いかぶさるようにして花を見る。ロウガ君の顔が僕の目の前にあり、吐息が感じられるほど近い。ついドキドキしてしまった僕だが、ロウガ君は気にしていないようだった。

  その時、ビュゥッ!と強い風が吹く。

  「わわっ!」

  強い風に驚いたロウガ君の片腕のバランスが崩れる。僕の顔の真上にあったロウガ君の顔が僕に急に近づいてしまう。…そして。

  「…んんっ!?」

  僕の唇とロウガ君の唇が重なる。とっさのことだったので、お互い固まってしまう。数秒そうしていたのだろう。我に返ったロウガ君が驚いたように僕から離れた。

  「す、す、す、すみませんっす!ダイチ先輩!」

  「え、え、あ、あ、ロウガ君、き、気にしなくていいよ!さっきのキスは…その、事故みたいなものだったし、その…忘れてくれても…」

  「…忘れてほしくないっす…」

  「…え?」

  「…さっきのキスは確かに事故だったかもしれないっす。…でも、俺にとってのファーストキスだったんす。…だから、その事実をダイチ先輩には覚えていてほしいっす…!」

  あわてたような顔から真顔になり、僕に告げるロウガ君。その表情は真剣だった。僕はロウガ君からの返事に対し、うなずくことしかできなかった。

  「ありがとうっす、ダイチ先輩。…そろそろ戻る時間っすね…」

  「そうだね…」

  キャンプ場に戻るまでの間。僕とロウガ君の間に会話はなかった。…たとえロウガ君が話を振ってきたとしても、僕はうまく答えられなかっただろう。…さっきのロウガ君とのキスと真剣な表情が頭から離れなかったからだ。そして、楽しかった林間学校も終わり、学園へと帰る。

  「ダイチ先輩、改めて俺とペアを組んでくれてありがとうございました。…素敵な思い出に、なったっす!」

  「こちらこそ、ありがとうロウガ君。」

  そう言いあった後、お互い学園の自室へと戻った。

  ロウガ君と林間学校で過ごした夏は、僕にとって忘れられない夏となった。

  バーグエピソードInterlude-夏祭り-

  この学園にとうとう本格的な夏がやってきた。夏の暑さが深まっていく中、畑でとれる野菜も変わってきた。

  「バーグ、こっちのトウモロコシが収穫時期だね。」

  「そうだな。この時期のトウモロコシはやはり身が詰まって甘い。これもきっとうまいだろう。」

  僕が畑で育てることを提案したトウモロコシもすくすくと育ち、食べごろになっている。

  「バーグはこのトウモロコシをどんなふうに食べたい?」

  「やっぱり一番はポタージュだな。」

  以前僕が言ったことを覚えていたのだろう。開口一番にポタージュだと告げた。

  「バーグ、スープが好きって言ってたもんね。」

  「それ以外だと、サラダ、マフィンとかのお菓子…ああ、茹でただけの素朴なトウモロコシも好きだぞ!」

  様々な食べ方がバーグの口から次々と出てくる。よっぽど好きなのだろう。

  「焼きトウモロコシは?ゆでたものとどっちが好き?」

  「決めがたいな…どっちも好きだから…そういえば、焼きトウモロコシか…。」

  僕が言った言葉に対し何か思ったのだろう。しばらく無言になった後、バーグは口を開いた。

  「ダイチ。今週の週末、近くの河原で夏祭りがあるのを知ってるか?」

  「うん。誰かが話しているのを聞いたことがあるくらいだけど。バーグは祭り、好きなの?」

  「…あいにく、人前に出ることが苦手でな。外に出かけた経験がほとんどないから…」

  「…ごめん。」

  そうだった。バーグはその見た目から吸血公なんて呼ばれ、周りから避けられていたのだった。それを失念していた。

  「だが…そうだな…」

  「…?」

  「…ダイチ、よかったらわしと夏祭りに出かけないか?」

  「…え?バーグと?」

  「そうだ。せっかくの夏休みなんだ。何か思い出に残ることをしたいと思ってな。…駄目、か?」

  「ううん、そんなことない!その日なら予定もないし、是非行きたい!」

  人前に出ることが苦手なバーグが勇気を出して誘ってくれたのだ。僕もその想いに応えたいと思った。

  「ありがとう。…夏祭りでは、様々な屋台の種類があるそうだ。あいにく、わしは行った経験がないからわからないが、焼きトウモロコシをはじめ様々な食べ物が売られているそうだな。…どんなものが売られているか知ってるか?」

  「そうだね…定番なもので言えば、焼きそばとかたこ焼きとか…」

  「フムフム…」

  「お菓子で言ったら、綿あめとか、りんご飴とか…かな?」

  「綿あめとは、どんな食べ物なんだ?」

  「うーん。砂糖菓子といえばいいのかな?ふわふわした感じの。」

  「フム。…想像がつきにくいな。…まぁいい。せっかく夏祭りに行くんだから、実物を見て買えばいいか…。」

  「そうだよ!当日のお楽しみということで!」

  「…夏祭りに行く楽しみが増えたな。後、その日には花火を打ち上げるそうだ。わしも遠くで見たことはあるが綺麗だったのを覚えている。ダイチは花火とか好きか?」

  「もちろん大好きだよ!打ち上げ花火とか、迫力があって好きだよ!」

  「それはいい。誘うかいがあるというものだ。…ダイチは手持ち花火とか、したことはあるのか?」

  「僕?もちろんあるよ!」

  …実際に経験があるのは生前の地球であって、この学園に転生してからは経験がない。でも、やったことがあるかに関しては、同じことだろう。

  「ダイチはどんな花火が好きなんだ?」

  「手持ち花火も好きだし、ねずみ花火も、好きだよ!」

  「ねずみ花火?聞いたことがないな。…どんな花火なんだ?」

  「火をつけるとね。周りをクルクルと動いて、最後に音を出してはじける花火だよ。」

  「それは面白そうな花火だな。」

  「バーグは?どんな種類の花火が好きなの?」

  「わしか?わしは、線香花火が好きだな。」

  「線香花火もいいよね。ゆらゆらと綺麗に動いてぱちぱちとはじける様子とか。」

  「夏の時期はいつも妹のカオリとやってな。特にカオリが好きなんだ。…そうだダイチ。せっかくだから夏祭りにカオリも誘っていいか?きっと喜ぶだろう。」

  「もちろん構わないよ。バーグってホント妹想いだよね!」

  「…わしにはもったいない妹だ。」

  「そんなことないよ!お互いのことを思いあう素晴らしい兄妹だよ!」

  「ありがとう、ダイチ。そう言ってくれると嬉しい。じゃあ、わしとダイチとカオリ。3人で夏祭りを過ごそうじゃないか。」

  「楽しみにしているね、バーグ!」

  そして夏祭り当日の夜。暑い日中も、夕方になれば涼しくなっていくものだ。夏祭りということで、今日のために浴衣に近いものを買ってみた。バーグとカオリはどんな格好で来るのかな?待ち合わせの河原で待つこと数分。バーグとカオリがやってきた。

  「待たせて済まない。ダイチ。」

  「お待たせして申し訳ございません。ダイチ先輩。」

  バーグの格好は甚平だった。若干古風な感じもするが、体格のいいバーグに似合っている服装だと思った。一方のカオリは淡いピンクのかわいらしい浴衣を着ている。僕から見れば、2人とも服装が似合っており、美男、美女のカップルに見えた。

  「2人とも、服装、似合ってるよ!」

  「ありがとうございます。ダイチ先輩も浴衣姿、似合っておりますわ!そうでしょう、お兄様?」

  「…あ、ああ。似合っている。」

  「…?バーグ、どうかした?僕の格好…変?」

  「…色っぽいと思ってしまった…」

  「えっ?」

  「い、いや何でもない!」

  「そう?それならいいけど。…それじゃ一緒に行こうか、バーグ、カオリ。」

  「うむ。」

  「…ダイチ先輩、お兄様。そのことなんですけれども…」

  「…?どうかしたの?カオリ。」

  「実は私、お友達にこの夏祭りに先に誘われていたことを失念しておりましたの。あまりにもお兄様が嬉しそうだから言い出せなくて。…本当に申し訳ございません。」

  「…そうなんだ。」

  「…お兄様がお一人なら、心苦しいですがお友達のお誘いを断っていたでしょう。…ですが、今日はお兄様にはダイチ先輩がおります。…だから…」

  「…わしのことは気にしなくても構わない。約束を守るということは大切なことだから。…今日はわしとダイチ、2人で夏祭りを堪能することにする。…構わないか?ダイチ。」

  「そういうことなら仕方ないね。カオリ、気にしなくていいよ!バーグと2人でうんと楽しむから!」

  「ありがとうございます。ダイチ先輩、お兄様。」

  「それじゃあ行こうか、ダイチ。」

  「うん、それじゃあね、カオリ。」

  「…お兄様、ほんの少しだけ、よろしいですか?」

  「どうした、カオリ?」

  「あのですね…」

  そういうとカオリはバーグの耳元で話し始めた。詳しい内容は僕には聞こえなかったが、マナーとかという単語が、聞こえた気がする。

  「分かった。カオリ。」

  「それではお兄様、ダイチ先輩。」

  そういうと今度こそカオリは僕たちのもとから去っていった。

  花火が上がるまでの時間。バーグと屋台をめぐることで時間を過ごした。初めは食べ物。焼きそばやたこ焼きを買い、2人で分け合いながら食べた。

  「屋台での食べ物は結構濃い味をしているんだな。」

  「そうだね。においも強いし、食欲をそそられるよね!」

  「わしも、普段食べないようなものを食べれて、新鮮な気分だ。…フムフムこれは…オムソバ?焼きそばと何が違うんだ?」

  「卵が乗っているかどうかの違いだと思うよ。」

  「なるほどな。材料を一つ足しただけで名前が変わるとは、料理とは奥が深いな。」

  「バーグ、気になる食べ物、他には会った?」

  「そうだな…あの看板にある焼き鳥とは?七面鳥とかとは何が違うんだ?」

  「フフッ…」

  「な、なにかおかしなことを言ったか?わし…」

  「ううん、そういえばバーグって、家が資産家だってことすっかり忘れていたよ。普段畑をいじっているのを見ることの方が多かったから。つい、忘れていたよ。」

  「う、ううむ。改めて言われると、複雑な気分だな。」

  「ごめんごめん。焼き鳥っていうのはね、切った鶏肉を串にさして、塩とか、たれとかをつけて食べる串焼きなんだ。せっかくだから、1本買ってみようよ。」

  そう言って僕はバーグが指さした焼き鳥の屋台に2人で向かい、1本焼き鳥を買った。

  「ダイチはいいのか。」

  「うん、僕は大丈夫。どう?お味は。」

  「初めて食べたが美味いな。…だが、やはり味が濃いな。」

  「焼き鳥に関しては、屋台のものも店のものも味は濃い方が多いよ。」

  「そうなのか。…また一つ、参考になった。」

  「バーグ、あそこに焼きトウモロコシの屋台があるよ。せっかくだから、食べてみない?」

  「構わないぞ、ダイチ。」

  そう言って、焼きトウモロコシを2本買い、感想を言い合う。

  「トウモロコシ、美味しいね、バーグ。」

  「…確かにうまい。だが、わしとダイチが育てたトウモロコシの方も、負けてはいないな。」

  「そうだね。バーグと僕の2人で愛情込めて育てたトウモロコシだからね。」

  「うむ。」

  「…そろそろ、甘いお菓子とか、食べたくない?」

  「うむ、そうだな。せっかくだから、綿あめというものを食べてみたい。どこに売ってるか…」

  「向こうの方かな?行ってみよう、バーグ!」

  「…ダイチ。」

  「…?何、バーグ。」

  「人が多くなってきた。はぐれてはいけない。だから、その…」

  「え?」

  「その、手をつないでも、かまわないだろうか?」

  「えっ!?」

  「いや、すまない!イヤだったら、構わない…」

  「…そうだね、はぐれたらいけないし。じゃあ、バーグ。エスコートよろしくお願いします。」

  そう言って僕が手を差し出すと、バーグは壊れ物を扱うように軽く触った後、しっかりとぼくの手を握った。そして、5分ほど歩くと、綿あめ屋さんの屋台が見えた。

  「バーグ、あれが綿あめだよ。」

  「あれも、お菓子の一種なのか?ふんわりとして、大きいお菓子なんだな。」

  「せっかくだから、買ってみたらどう?」

  「そうだな。それも夏祭りに来た目的の一つだからな。」

  そう言って、バーグは綿あめを1個買い、口に含んだ。

  「とても甘いお菓子なんだな、綿あめというのは。見た目通り、ふんわりしている…。」

  「それはそうだよ。綿あめはね。砂糖だけでできてるんだから。」

  「砂糖だけで!?そんなお菓子もあるんだな…」

  そう言いながら綿あめを食べるバーグ。よほどお気に召したのか、一人で綿あめを平らげてしまった。

  その後は、食べもの以外の屋台を見て回った。バーグは初めてだったからか、どこか子供の様にはしゃいでいた。射的では、バーグがクマのぬいぐるみを取ろうと照準を合わせて玉を発射したが、ぬいぐるみが重たかったのか、当たってもぬいぐるみが倒れなかったため、景品を取ることができなかった。…当たってたのに、とぼやいていたが、そういうものだと僕が説明すると、納得したのか次の屋台へと向かった。

  次は金魚すくい。僕は3匹だけ捕まえることができたが、バーグは3回挑戦しても、すぐにポイが破れ、金魚を取ることができなかった。

  「バーグ、もっと水平にポイを傾けたらいいよ。手を貸して?」

  僕の言葉にバーグはすぐに従って、ポイを持った手を僕に差し出した。その手を上から僕は握る。そしてその姿のまま金魚に近づく。そしてポイの上に金魚が乗り、すくうことができた。

  「とれた!!」

  バーグは油断していたのだろう。金魚が跳ね、ポイが破れてしまった。

  「最後まで、油断しちゃだめだよ、バーグ。」

  僕がそう言うと、バーグは少しばつの悪そうな顔をした。ちなみに僕がとった金魚は店に戻した。さすがに金魚を飼うことなど、出来そうにないからだ。

  「少しだけ待っていてくれ。」

  金魚すくいの店を出た後、バーグはどこかに行ってしまった。そして5分後。バーグを待っていると後ろから声がかけられた。

  「待たせたな、ダイチ。」

  「バー…グ?…どうしたのそれ?」

  バーグの顔にはお面がかけられていた。ファンシーな熊のお面。…正直言ってバーグには似合っていなかった。

  「いや、な。かわいいお面を売ってたからな…つい。…それに、これなら少しは怖がられるのを避けられるんじゃないかと思ったから…」

  「バーグ…」

  「このお面、わしに似合っているか?」

  「…ううん、正直に言うと、似合ってないかな…」

  「そうか…」

  「でもね、バーグ。そんなお面をつけなくったって僕はバーグのこと、全然怖くないよ。…それにきっと、バーグの外見だけじゃない。その中身が素晴らしいとわかってくれる人が僕以外にもきっとできる!だから、バーグには堂々としてほしい!」

  「ダイチ、ありがとう!…そうだな、似合っていないものをつけても意味がない…な。だが、これはどうしようか。せっかく買ったのだから捨てるのは忍びない。」

  「うーん。…カオリにあげたら?カオリなら似合ってると思うし。」

  「そうだな、これはカオリへのプレゼントにするか!…ダイチ、そろそろ花火が上がる時間だ。河原に移動しようじゃないか。」

  そうバーグが告げた後、僕とバーグはあまり人の少ない場所を見つけることができたため、そこに腰を下ろした。移動する際も、はぐれてはいけないとバーグが言ったため、そこまでの道中、手をつないだ。

  花火が上がるまでの時間、僕たちは無言で河原を見つめた。そして、

  ヒュー…ドカン!

  その音を引き金に、色とりどりの花火が上がる。大小さまざまで、とてもきれいな光景だった。

  「たーまやー!」

  「…?どうした、ダイチ?そんな声を出して。」

  「あっ、ごめん、バーグ。つい声を出してしまって。僕ね、いつも打ち上げ花火が上がるのを見るとき、つい言っちゃうんだ。」

  「…マナーみたいなものか?」

  「ううん、マナーとはちょっと違うんだけど、なんというか、僕なりの、通過儀礼?かなぁ…?」

  「そういうことなら、わしも。たーまやー!」

  花火が上がると同時にバーグが声を上げる。つい、その光景がおかしくて笑ってしまう。僕の笑いにつられたのか、バーグも笑っていた。そして、次々と花火が打ちあがる。

  「もうすぐ最後の花火が打ちあがる時間だ。…何でも一番大きくてきれいな花火だそうだ。」

  「きっと綺麗なんだろうな。楽しみ!」

  そして数分後、バーグの言葉通り、打ち上げられた花火がいったん止まる。そして、ヒューという音がした。…これがバーグの言っていた一番きれいな花火なのだろう。

  「ダイチ…」

  「何?」

  …その言葉を言うことができなかった。花火が開いた瞬間。僕の唇がバーグの唇でふさがれていたからだ。…数秒、唇を重ねた後。バーグの顔は僕の顔から離れた。

  「バ、バ、バーグ!?な、何を…!?」

  「カオリから、親密なものが2人、一番きれいな花火を見るときには唇にキスをするのがマナーだと言っていた。…わし自身、他人の唇にキスをしたことは今までなかったが…違うのか?」

  「え、え、えっと、違うというか、違わないというか…。」

  「…?」

  「あのね、バーグ、それは、おそらく恋人同士が花火を見るときにする行為だと思うんだ…」

  「こ、こ、恋人!?」

  「う、うん…」

  「だとしたらすまない!ダイチ!恋人でもないのに許可もなく唇を奪ったりして!」

  「う、うん。そんなに落ち込まないで、バーグ。…初めてのキスの相手が僕じゃバーグは嫌だろうけど、僕は気にしないから。」

  「…嫌じゃない。」

  「…え?」

  「さっきのキス、わしは決して嫌じゃなかった。わしはダイチのことをとても大切な存在だと思っている。…そのことだけは、信じてほしい。それと、わしとキスをしたという事実を、少しは気にしてほしい。」

  真剣な顔をして僕に告げるバーグ。その表情が、気持ちが嘘でないことを僕は理解した。だが、僕はバーグとキスをしたという事実に赤面してしまったため、コクンとうなずくことしかできなかった。寮までの帰る間。僕とバーグとの間に会話はなかった。たとえバーグが僕に話を振ってくれたとしても、恥ずかしさのあまり言葉を発することができなかっただろう。

  「今日は楽しかった。ありがとうダイチ。…では、またな。」

  別れのあいさつに対しても、僕は返事ができず、こくんとうなずいただけになってしまった。

  バーグと夏祭りで過ごした夏は、僕にとって忘れられない夏となった。

  …う腐腐腐腐!今日の光景は感動的でしたわ!お兄様とダイチ先輩が手をつなぐ光景。そして、2人キスをする瞬間…美しかったですわ!嘘をついてでも、2人を観察したかいがありました!…それにしても、ダイチ先輩もまんざらじゃなさそうでしたわね。…素晴らしい光景をありがとうございました。お兄様、ダイチ先輩。…う腐腐腐腐。

  [newpage]

  Autumn Event

  レオンエピソード3-心無き噂と重なる音楽-

  セイント学園に暑い夏が去り秋が到来した。今日も生徒会で定例の会が始まる。…だが、今日はいつもと違っていた。

  「…今日の議題はこれで終わりとする。…それでは、解散してくれ。」

  レオンがいつも通りに解散を宣言する。だが、その声にいつものような覇気は感じられなかった。周りのメンバーもどこかよそよそしく感じる。…きっと、1つの噂が関係しているのだろう。

  …レオン王子は実は王家の生まれの人間ではない…

  世間からいつの間にか発信された噂。根拠などどこにもない。だが、人というものは噂というものが好きなようで、いつの間にか世間に広まっていた。当然、セイント学園にも広まってしまった。1人、2人なら生徒会のメンバーもだれも気にも留めていなかっただろう。だが、全生徒に噂が広まってしまい、陰ながらレオンのことを悪く言っている生徒の声を聞いたことがある。若干覇気がないレオン。こういう時こそ、レオンを元気づけるだろうと思っていたマリアさんも今までの態度とは違ってなぜかレオンに少しよそよそしくなってしまっていた。…かける言葉が、見つからないのかな?

  いつもと同じようにレオンと自室に戻る。だが、レオンは僕に話しかけようとしていない。…どこか肩を落としているようにも思えた。

  「レオン、今週の週末、会える?…最近サツマイモの料理にはまっていてね。…サツマイモのプリンに挑戦したいと思っているんだ。よかったらレオンにも食べてほしいと思っているんだけど、駄目、かな?」

  「ダイチ…。すまない、今週の週末は予定があるんだ。すまない。」

  「…そうですか。残念です。」

  レオンが好きなお菓子を引き合いに出しても駄目なようだ。仮に予定があったとしても、プリンはぜひ作ってほしいと力強く言ってくれるはずのレオン。…そこまで噂、気にしているのかな…?

  「レオン、もしかして噂、気にしているの…?」

  「ダイチには関係ない…!」

  「…ごめんなさい。」

  「…!すまない。今日の私はどうかしているようだ。すまないが、今日は一人で帰らせてもらうよ…。」

  そう言いながら一人自室へと戻るレオン。僕はそんな噂などまったく気にしていないが、やはりレオンにとってはつらいことなのだろう。週明けになって初めてレオンと会った。

  「レオン、生徒会室に一緒に行こう!」

  「ダイチ…。ああ、喜んで。」

  そう言いながら生徒会室までの道すがら2人で歩く。その道中ちらちらと僕たちを見てくる視線があった。

  …正確にいうと、レオンを見ているが正しかった。ひそひそと何かを話している声が聞こえる。ある集団の横を通り過ぎた時、話し声が聞こえてしまった。

  「見ろよ、偽りの王子様のご登場だ。…生徒会長にも、王子だからなれたというのに…生徒会長の器として本当はふさわしくないんじゃないか?」

  「ちょっと、そこの人たち!」

  その声が聞こえてしまった僕は思わず大きな声を上げてしまう。

  「いいんだ、ダイチ…。」

  「でも、レオン!」

  「本当に、いいんだ。…すまない。今日は気分がすぐれない。悪いが、今日の集まりは中止だとダイチから皆に言ってほしい。ちょっとだけ、休ませてもらうよ。」

  そう言いながら肩を落として去っていくレオン。

  「あの会長の姿…やっぱりあの噂は本当だったんだな!」

  勝手な結論をつけて言いあった後、僕の目の前から去っていくその集団。僕の中にはその集団を怒る気持ちよりも、レオンを心配する気持ちの方が大きかった。仕方なく今日集まった人に中止の連絡をする。

  「もしかして…」

  周りのメンバーから、ひそひそとレオンに対しての話し声が聞こえる。…いままで、レオンと仲良くしてきた人からの声は無関係の人たちの声よりも、心に響いてしまった。

  …僕は意を決してある人に話をしてみることにした。

  「マリアさん。」

  「…どうかされました?ダイチさん。」

  「もし、よかったらなんだけど、今週末僕と一緒にクッキーを作って、レオン会長に食べてもらわない?」

  「…申し訳ございません。ダイチさん。その日は予定がありますの…。」

  …断られるとは思っていなかった。ほかならぬレオンのことだから、提案を受け入れてくれると思っていたのだが…

  「ねぇ、マリアさん。マリアさんは、レオンの噂、信じているの?」

  「…いいえ、下らない噂だと思っておりますわ…。」

  「…だったら。」

  「…申し訳ございません。今のレオン会長にかける言葉が私には見つからないものですから。…今日のところは、私も失礼させてもらいますね。ダイチさん。」

  そう言いながら僕のもとを去るマリアさん。その声からは僕を冷たく扱うときとは違った冷たさが込められていると感じた。マリアさんは今回、力になってくれないであろうと感じた僕は翌日、レオンのいるクラスに直接足を運んでいた。…そこにはレオンはいなかった。

  ちょうどよく先生がいたので、レオンがいたかどうかについて聞いてみることにした。

  「先生、今日レオンは来ていないのですか?」

  「ダイチ君か。…ああ、レオン君から体調不良だと聞いている。」

  「…分かりました。ありがとうございます。」

  これが風邪とかの体の問題なら、看病すれば治るかもしれない。…でも、心の問題だとしたら。

  …放課後、レオンの部屋の前に行き、ノックをする。

  「レオン、お見舞いに来たよ。」

  「…ダイチか。…すまない。今日は気分がすぐれなくてな。会えそうにない。」

  「そうですか…もしかして、熱とか出してます?最近季節の変わり目だから風邪をひいてるの?」

  「…いや、熱は出ていない。…だが、季節の変わり目だから疲れているのかな?…少々、気分が悪いんだ…」

  「…分かりました。レオン、お大事に。」

  「…ありがとう、ダイチ。」

  次の日も、その次の日も、レオンは体調不良で休みなのだと先生から聞いた。

  …僕は確信する。レオンは体ではなく、心にダメージを負っているのだと。レオンを元気づけてあげたい。多少強引な手を使ってでも、レオンに会う必要がある。

  そう感じた僕は金曜の放課後、レオンの部屋に向かった。

  「レオン、具合はどう?」

  「…ダイチか。あまり、変わらない…かな。」

  「…そっか。ねぇ、レオン、明日レオンの部屋に行きたい。」

  「済まないが具合が…」

  「レオンにどうしてもお願いしたいことがあるんです!だからレオンに会いたい!お願いします!」

  「ダイチ…。分かった。では明日、ダイチだけで私の部屋に来てほしい。」

  「ありがとう!レオン!」

  そう言い、僕は明日に備えて準備をする。

  今週レオンのことをずっと考えていた。どうすればレオンのことを元気づけられるかと。僕程度では、レオンの力になってあげられないかもしれない。でも、少しでも、レオンを元気づけてあげたい!その想いが僕に行動を引き起こさせた。そして、翌日。約束通り、僕はレオンの部屋の前に来た。

  「レオン、僕です。…開けてくれますか?」

  「ダイチか。…ああ、約束したからな。」

  そう言って、レオンは扉を開けてくれる。今までもレオンの部屋の中に入りお菓子を食べあうことはあったが、いつも部屋は整っており、綺麗好きなのだとわかる部屋だった。

  …でも、今はすこしだけ散らかっている。…やはり、片づけをする心の余裕がなかったのであろうことが想像できた。

  「レオン、これ、お見舞いのプリン。…材料にサツマイモを入れたんだ。レオン、プリン好きだったから、食べてほしくて…。」

  「…ああ、ありがとうダイチ。だが、今は食欲がなくてな…済まないが、冷蔵庫に入れておいてくれないか?」

  「分かったよ。レオン。」

  僕はプリンを冷蔵庫に入れる。心の問題は食欲といった体の不調にも現れてきている。…このままだとレオンは弱っていくばかりだ。

  「レオン、前にお願いを聞いてほしいといったよね?早速、聞いてくれるかな?」

  「ダイチ…。お願いとは?」

  「レオンに、バイオリンで曲を弾いてほしいんです!」

  「…済まない。今はうまく弾けそうにない…」

  「そんなことは気にしません!実はレオンにどうしても弾いてほしい曲があったから聞きたいんです!」

  我ながら強引に進めていると思っている。だが、それでも今じゃないといけないと思わせる何かがあった。

  「…分かったよ、ダイチ。…それで、弾いてほしい曲とは?」

  「光という曲です。確かピアノだけでなくバイオリンの演奏もある曲だから。…弾いたことありますか?」

  「…光という曲なら楽譜がある。だから、弾けると思う。」

  「よかった。じゃあ、レオンの隣に行ってもいいかな?」

  「…構わない。」

  レオンからの許しをもらった僕はレオンの隣に行く。レオンがバイオリンを弾こうと指を動かした瞬間、僕は大きく息を吸った。

  「…ダイチ、どうしたんだ?大きく息なんか吸って。」

  「この曲、僕も好きなんだ。レオンが昔、僕の歌を聞いてみたいって言ってくれたことがあったでしょ?せっかくだから、レオンの弾くバイオリンに合わせて歌いたいんだ。」

  「…ありがとう、ダイチ。では、一緒に…」

  そう言って、レオンのバイオリンの演奏に合わせ、僕は歌いだす。

  …この歌を選んだのには理由がある。…光…これは信頼の歌。初めは嘘偽りで出会った二人。でも、交流を続けていくうちにお互いの真実をさらけ出す。真実を知っても2人は離れず、むしろ固い結束で結ばれる。…そんな曲だ。

  僕が歌い終わるのと同時に、レオンの演奏も、止まった。

  「レオン。」

  僕はレオンの目をまっすぐに見つめ、自分の本当の気持ちを告げることにした。

  「僕にとって、レオンが王子様かどうかなんてどうでもいい。僕はレオンのこと、一人の人間として素晴らしい人間だと思ってる。生徒会長としての堂々とした振舞い、みんなをまとめる姿。だからこそ、みんなはレオンを生徒会長だと認めてるんだと思うよ。…もちろん僕も認めてる。僕じゃ、正直頼りないし、そこまで力になってあげられないかもしれない。…でも、僕はレオンの味方だから。…僕のこと、信じてください。」

  「…ダイチ…。」

  先ほどの歌の意味と僕の言葉を信じてくれたのだろう。レオンの目から突然涙があふれる。止めようとしても止まることがないようだった。そんなレオンを僕は優しく抱きしめた。

  レオンは僕の腕の中で、泣き続けた。

  「ダイチ、ありがとう!」

  ひとしきり泣いた後、レオンは僕に向かって笑顔でお礼を言った。

  「お礼を言われるようなこと、していない。…当然のことをしただけだよ。」

  「そんなことない!ダイチのその行動で私は救われているんだ。」

  「…僕の方こそ、レオンに助けてもらってばかりだよ。」

  「なぁ、ダイチ。私は立派な生徒会長として、皆をまとめられていると思うか?」

  「もちろんだよ!そうじゃなかったら、みんなはレオンを生徒会長になんか任命していない。王子さまだという肩書だけでは今まで立派に仕事なんかできない。レオンだからこそ、出来ることなんだよ!」

  「その言葉、信じるよ…ダイチ。」

  その時、ぐぅ…という音が鳴った。…どうやらレオンのおなかの音のようだった。

  「恥ずかしいな…。そういえば今日何も食べていないことを思い出したよ。ダイチ、そういえば、プリンを作ってきてくれたんだったな。冷蔵庫から持ってきてくれないか?」

  「いいよ、レオン。…はい、どうぞ!このプリン自信作なんだ。…どう、かな?」

  「美味い!特に、サツマイモの上品な甘さが感じられる!やはりダイチの作るお菓子は最高だ!」

  「ありがとう、レオン。」

  「ダイチ…。」

  真顔で僕を見つめるレオン。

  「ダイチのおかげで、私は勇気をもらえた。…決めた。私の決意を来週の全校集会で皆に聞いてもらいたいと思う。…だから、ダイチにお願いがある。」

  「お願い?」

  「私の話す決意を隣で聞いてほしい。…私が信頼できるダイチに。」

  「レオン…分かった。必ず、側に居るよ。」

  「ありがとう。」

  「レオンが元気になってくれてよかった。今日のところはこれで失礼させてもらいますね。…レオン、全校集会で、またね。」

  「ああ、またな。…ダイチ。」

  そして、全校集会の日がやってきた。壇上に立つレオン。約束通りレオンの側で僕はレオンの宣言する言葉を聞いた。

  「私の噂については皆も知っていると思う。…私が王家の生まれでないことを私自身否定させてもらうが、そのことを信じきれない人もいるだろうことは認めている。…だからこそ、宣言したい!私がどのような立場であろうとも、セイント学園の生徒会長として残りの期間、皆を導くと約束する!もう逃げたりしない!私自身の行動で示してみせる!だから、私を信頼し、ついてきてくれ!!」

  堂々としたレオンからの宣言。…一瞬の沈黙。そして、

  パチパチパチパチ!!

  あたりから鳴りやまない大きな拍手。この場にいる全員が認めたのだろう。レオンが生徒会長としてふさわしい人間だと認められた証拠だ。

  「ありがとう!必ず、皆の信頼に応えてみせる!」

  そう言い終わったあと、レオンは壇上から降りていった。

  その後行われた生徒会の定例会議では日常の風景が戻った。皆がレオンを信頼し、マリアさんも以前と同じような態度でレオンに接していた。…正直、マリアさんがレオンに接する好意の光景は自分にとって複雑だった。…でも、皆がレオンを信頼し、今まで以上に生徒会メンバーの団結が深まったように感じた。

  …後日談になるが、噂を聞いたクラウス国王がレオンは正真正銘王子であると全国民に告げた。…やがて、レオンが本当は王子様ではないという下らない噂は、人々の間で語られることはなくなった。

  …くだらないうわさが流れた時、最初、私は気にしていなかった。でも、周りが私を見る視線が冷たいものになっていくのを感じていた。やがて、他の生徒会のメンバーが、私をどこか腫物を扱うように接したことにつらさを感じていた。ダイチと歩き、いつもの私に関するうわさがはっきりと聞こえた時、私は落ち込んでしまった。それと同時にダイチもこの噂を信じるようになってしまったらと思うと、今まで以上の恐怖を感じた。だからつい、ダイチにも会わないようにしてしまった。

  …だが、ダイチは私を信じてくれている。私の味方であり続けてくれている。そのことに嬉しさを感じ、同時に安堵のあまり涙があふれてしまった。そんな情けない私を優しく抱きしめてくれるダイチ。…あったかい存在だった。…私もダイチの信頼に応えたい。ふさわしい人間でありたい。決意が固まった。…ダイチ、こんな私に勇気をくれてありがとう。私もダイチのことを誰よりも信頼しているよ。

  タイガエピソード3-俺様虎の思い出の味-

  セイント学園に暑い夏が去り秋が到来した。少しずつ肌寒くなってくる時期。段々長袖を着てくる生徒がみられるようになった。秋といえば食欲の秋、スポーツの秋などさまざまあるが、僕自身食欲が増したのか、秋ならではの様々の料理に挑戦していた。そして、その料理をタイガとともに食べあう。僕が作る料理に対し、タイガは残すことなく、すべて平らげてくれた。

  その中でも、今タイガの中ではご飯ものにはまっているようだった。栗ご飯、サツマイモご飯、炊き込みご飯…などといったものだ。ご飯ものは次の日まで日持ちができるので、多く作ってタイガへのプレゼントにもしている。

  「やっぱり、ダイチの料理じゃないと、俺様どこか物足りねぇや!ダイチ、卒業したら俺様の専属シェフとして働くことを認めてやる!」

  「そんな先なこと、決められないよ…。でも、ありがとう。そう言ってくれて。」

  「俺様は本気だからな!ガハハ!」

  タイガはそう告げた。俺様気質なタイガだが、最近周りの生徒から物腰が柔らかくなったとの評判を聞いた。…出会ったばかりの昔のタイガで語られる内容といえば、悪評ばかりだった。

  でも、そんなタイガも変わることができた。それも、いい方向に…僕は自分の友達が褒められているのを聞いて嬉しくなった。

  とある日。学園内をぶらぶらと歩いていると、ベンチで大の字で寝ているタイガを見つけた。制服を若干来崩していびきをかきながら眠っていた。いつもかっこいいタイガだが、その時はなぜだかかわいさを見出してしまった。僕はタイガの頭の隣に腰かけ、寝顔を見た。傲慢ないつもの表情からは考えられないほど、あどけなさを感じた。

  「かわいい…」

  つい、言葉に出てしまった。聞こえたかな?と思ったけど、タイガはいびきをかき続けていた。

  思わず、生前地球で昔飼っていた猫を思い出す。この猫も、寝顔がとてもかわいらしく、のどの下をなでてやると、ゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らしたものだ。つい、そのことを思い出し、タイガを同じようになでてやる。僕がなでてやると、気持ちいいのか、猫と同じようにタイガもゴロゴロと喉を鳴らしていた。

  …いつものタイガからは考えられない姿だった。

  「ふふっ…」

  つい、笑みがこぼれる。ひとしきり喉をなでた後、僕は手のひらをタイガのほっぺへと当てた。思ったよりも固く、大きな顔。タイガが雄だと改めて思った。数分手を置いていると、タイガは信じられない行動に出た。何と、タイガは僕の手を取って口元に持っていき、ペロペロと舐め始めたのだ!

  「ひゃっ!」

  思わず声が漏れる。だが、僕が声を上げても、タイガは起きなかったようで僕の手をペロペロと舐め続けた。

  「あめぇな…」

  寝言だろうか、タイガの口から漏れる。僕の手を舐めまわすだけだったが、かぷかぷと甘噛みし出した。…このままだったらガブリとかみつかれるかもしれない!

  「タイガ…起きて!」

  もう片方の手でタイガをゆさゆさと動かす。ようやくタイガが起きたようだ。

  「誰だよ?…せっかく俺様がいい夢を見ていたというのに…」

  「タイガ!」

  僕が声をかけるとタイガが数秒ぼおっとした後、素っ頓狂な声を上げた。

  「だ、ダイチ!?どうしてここにいるんだ!?」

  「タイガが寝ている姿を見ていてつい…」

  「俺様の寝顔を見られるとはな…クソッ、油断したぜ…!」

  「ねぇ、タイガ。いい夢、見られてたの?」

  「なんでそんなことを聞くんだよ?」

  「だってタイガ、いい夢を見ていたといったから。」

  「ああ、いい夢だったぜ。夢の中で俺様は極上のマッサージを受けていてな。そのうえ、甘いお菓子が現れたんでな。俺様、つい、ぺろりと…いや?今も…」

  そう告げた後、タイガが僕の手を見る。僕の手が濡れていることを目撃したタイガ。

  「ダイチ、お前、俺様に何をしやがった!?全部話せ!」

  ちょっと怖い顔で告げるタイガ。その迫力に負け、僕はすべて話した。タイガの喉の下をなでてあげたこと。そして、ほっぺの上に置いていた手をタイガにつかまれ、舐めまわされていたこと。

  「そんな俺様の恥ずかしい姿をダイチに見せるとは…何たる不覚だ!」

  「かわいかったよ、タイガ!」

  「うるせぇ!ダイチ!俺様の無様な姿を見たんだ!罰として、お前にも恥ずかしい目にあってもらう。」

  「ええっ!?罰って、僕、何も悪いことしてないのに!」

  「うるせぇうるせぇ!異論は認めねぇ!」

  「…そもそも罰って、僕に何をさせるつもりさ…」

  「…そうだな…俺様の安眠を妨害した罰だ!ダイチ、俺様に膝枕をしてもらう!」

  「ひ、膝枕!?」

  「拒否することは許さねぇぜ!これは罰なんだからな!」

  「分かったよ…タイガ。…でも、少しだけだからね!」

  そう言って、ベンチに座り、膝をタイガに差し出す。タイガは僕の膝の上に頭を置いて、満足そうな笑みを浮かべた。

  「恥ずかしいよ…タイガ!」

  「そうじゃないと罰にはならねぇだろ?」

  「…タイガは恥ずかしくないの?」

  「俺様?全然。むしろ、どこかいい気分だぜ!」

  「…そう、それならいいんだけど。僕の膝、硬くない?」

  「全然。むしろ、柔らかくて気持ちいいぜ!約束通り、俺様はひと眠りさせてしまう。その間、動くんじゃねぇぞ!」

  そうタイガが告げた後、目をつむると、すぐに寝息を立て始めた。…仕方ないなぁ…と思いながら、僕は秋の風を感じるようにした。

  周りを見ると、色づいた葉っぱがひらひらと落ちてきている。その様子を見て、綺麗だなぁとしみじみと風流を感じていた。

  そして、約1時間。タイガは幸せそうに寝息を立てていた。だが、そろそろ膝がしびれてきた。タイガには悪いが、起きてもらうことにする。

  「タイガ、そろそろ起きてよ…」

  「…んだよ、せっかく気持ちいい枕だったのに…」

  「ごめん。…でも、僕の膝がしびれてきたから、そろそろどいてくれると…」

  「…仕方ねぇ。これくらいで勘弁してやるか。」

  タイガはそう言って、僕の膝の上から頭をどけ両手を上にあげ、背伸びをした。

  「…よほど気持ちよかったみたいだね。穏やかそうに寝てたよ。」

  「おう、久しぶりに熟睡できた気分だぜ!ありがとうな!ダイチ!ガハハ!」

  タイガがようやく起きたので、せっかくだからベンチで会話をすることにした。

  「タイガ、今度の定期テスト、どうだった?」

  「俺様か?聞くまでもないだろ?もちろん問題ないぜ!」

  「凄いよね、タイガ。…授業をまじめに聞いていないって聞いたのに。」

  「俺様は特別なんだ。この学園の勉強くらいできて当り前だ。」

  「そうだね。タイガは運動神経も抜群だし。すごいと思うよ。」

  「そういうダイチは?テストどうだったんだ?」

  「僕?今回は自信あるよ。それなりにいい点出せていたから。」

  「俺様にとっては、ダイチの方がすごいと思うぜ!」

  「そんなことないよ…。」

  「いいや、俺様と違ってきちんと勉強をしての結果だ。努力していることがわかる。それに料理もうめぇ!努力家で家庭的…ダイチが女だったら、俺様が嫁に欲しいくらいだぜ!」

  「タイガ…ありがとう…」

  タイガからの賛辞。だが僕は喜んでとらえることができなかった。努力家で家庭的だと言ってくれたことは嬉しい。だが、タイガは女だったらと言った。

  …男の僕では、恋愛対象外なのだということを感じ、なぜだか少し気分が落ち込む自分がいた。

  「どうした?ダイチ…。」

  「…えっ?」

  「なんか、嬉しそうじゃなさそうだからよ。」

  「そ、そんなことないよ!努力家だって言ってくれてうれしいよ。」

  「…それならいいが。…ダイチ。」

  「…何?」

  「あえて聞かねぇが、俺様の言葉をダイチが嬉しくとらえているかどうかくらいわかる。俺様とダイチの仲なんだ。…もっと俺様を信じてくれても、いいんだぜ!ガハハ!」

  「タイガ…ありがとう!」

  「おう、やっぱダイチには笑顔が似合うぜ!ガハハ!」

  「タイガの方も、笑顔、とても似合ってるよ!」

  2人で笑いあう。そして、簡単な会話をした後、一人の獣人が僕の前にやってきた。

  …あの姿は、ロウガ君だ。

  「ダイチ先輩!こんなところで会えるなんって、偶然っす!…そちらの人は?」

  「こんにちは、ロウガ君。隣は、タイガ。…タイガ、あいさつくらいしなよ。」

  「…」

  「…タイガったら。ごめんね、ロウガ君。」

  「気にしてないっす。」

  「それにしてもロウガ君、嬉しそうだね?何かいいことがあったの?」

  「実はっすね、歴史の定期テストで高得点が取れたんす!」

  「ホント!?」

  「数学はまだまだっすけど、でも、平均点に近づいたんす!」

  「凄い、ロウガ君!」

  思わずロウガ君の頭をなでてあげる。ロウガ君は嬉しそうな顔をしていた。

  「そんなことないっす!ダイチ先輩が勉強を教えてくれるからっす!」

  「でも、テストの点はロウガ君が努力して勉強を頑張っている証拠だよ。ロウガ君は努力家だね!」

  「ありがとうございます、ダイチ先輩!そろそろ買い出しに戻らなくっちゃっす!じゃあ、また今度勉強、よろしくお願いするっす!またっす、ダイチ先輩!」

  「うん、またね。ロウガ君。」

  笑顔でロウガ君を見送ったあと、タイガを見る。…タイガからは先ほどの笑みが消え、真顔になっていた。

  「タイガ、どうかした?」

  「…ダイチ、あのくそ狼とは仲がいいのか?…勉強会とか言っていたが…2人で会っているのか!?」

  「ど、どうしたの?タイガ。なんか、顔が怖いよ…。」

  「いいから、言え!」

  「…うん。仲がいいと思うよ。確かに、図書館でロウガ君に勉強を教えていることも事実だし…。…タイガ?何か気に障るようなこと、言ったかな?」

  「…何でもねぇよ…。」

  「…でも、タイガ…。」

  「何でもないと言っているだろ!?」

  「…!?」

  「わりぃ。今の俺様はどうかしていた。…悪いが今日はこれで帰らせてもらうことにするぜ…」

  そう言いながら、一人去っていくタイガ。その姿を僕は黙って見送った。その後もタイガを見かけることはあったが、僕を避けているのか、すぐに離れていった。そのことが、寂しい。

  …正直、そうなった原因はわからないが、タイガと再び話せるきっかけが欲しい。…なにか、ないかな?うんうんと頭をうならせていると、遊園地でタイガがあんこに目がないと言っていたことを思い出した。

  …せっかくだから、あんこを作ったお菓子を食べてもらいたい。レシピを考えていると、一つのレシピが頭に浮かんだ。

  …このお菓子は生前、おばあちゃんから教えてくれた僕のお気に入りの菓子だ。せっかくだから、このお菓子を作ろうと決めた。

  週末。僕はお菓子を作って、タイガの部屋の前に行き、ノックをした。

  「タイガ、いる?」

  「ダイチか…俺様に何の用だ?」

  「タイガ…ごめん。タイガがなぜ僕に対して怒っているのかはわからない。…でも僕はタイガと仲良くしたい。だから仲直りの意味を込めてお菓子を作ったんだ。…お菓子だけでも、食べて欲しい。…開けて、くれるかな?」

  「入れ…ダイチ。」

  そう言って、タイガの部屋の中に入る。今までお邪魔してきた時と同じで、少し、散らかった部屋だった。

  「それで、お菓子というのは?」

  「うん。タイガ、あんこが好きだと言ってたでしょ?…だから、僕が好きなお菓子を作ったんだ。」

  そう言って一つ取り出し、タイガにお菓子を差し出す。小さな球状のお菓子。はたから見れば、あんこを丸めただけに見えるだろう。…僕が作ったのは、おはぎ。…僕のおばあちゃんと作った思い出のお菓子だ。

  お菓子を一つ手に取り、タイガが口に含む。

  「…グランマの味がする…」

  そう言いながら、タイガはおはぎをもぐもぐと食べる。なぜかは分からないが、タイガの目から一筋の涙がこぼれた。

  「タイガ、どう?…おいしくなかった?」

  「そんなことない!グランマの味を思い出したから…つい…」

  グランマという単語が聞こえた後、タイガの目から次々と涙があふれていく。悲しさと嬉しさの入り混じった表情…そして、涙。僕はとっさにタイガを抱きしめた。…タイガの涙が止まるまで。

  「…ダイチ。すまねぇな。…急で悪いが今から俺様のことを話したいと思う。…2人だけの秘密にしてくれるか?」

  「…いいよ、タイガ。」

  「…俺様の家の家族は正直仲がいいといったもんじゃねぇ。格式ばった父。いいなりの母。…傲慢な俺に対し、興味を持ってくれる家族はいなかった。」

  「…」

  「…だが、小さいころはそんな俺様を見てくれた人がいる。…それが俺のグランマだ。グランマはいつも優しくてな。俺にあんこを使った様々なお菓子を作ってくれた。…ダイチが作ってくれた今のようなお菓子を含めてな。俺にとって、グランマは俺様の小さい頃の心の支えだった。だが、亡くなってしまってな。それ以降、俺様は荒れてしまった。今なら自分でも分かる。ろくでもない行動をとっていたと。…それをとがめる奴らも、いなかったしな。」

  「…タイガにとって、グランマという人はとても大切な人だったんだね。」

  「ああ、そうだ。…どうして今まで思い出さなかったんだろうな、グランマのことを…ダイチ。」

  「…」

  「俺様にグランマのことを思い出させてくれてありがとう。…それと、すまなかった。」

  「…何が?」

  「ダイチに冷たく当たってしまったことだ。…はっきり言ってやる。ダイチは悪くねぇ。俺様がガキだっただけのくだらない理由だった。」

  「理由を聞いても?」

  「…そんなもん、恥ずかしくて言えねぇよ…」

  「…そっか。」

  「ダイチ。お前は俺様にとってとても大切な存在だ!だから…これからも俺様と仲良くしてくれ!」

  「もちろんだよ!タイガ!」

  「今日はありがとうな、ダイチ!せっかくだから、作ったお菓子、全部もらってもいいか?」

  「もちろん!はい、どうぞ!」

  タイガの望みに応え、持ってきたお菓子を全部タイガにあげた。タイガはそれを全部おいしそうに頬張った。

  …ダイチに俺様の寝顔を見られた時、正直言って恥ずかしかった。俺様のこんな姿、他の奴らに見られたらあざけ笑われていただろう。…あの時は罰だなんて言ったが、ダイチには俺様のこんな姿を見せるのも悪くない。そう思った。ダイチの膝の上は柔らかくとても気持ちよかった。…ダイチは頑張り屋で料理もうまい。ダイチが女なら、俺様のものにしていたかもしれない。…ダイチが女なら…。自分で言っておきながらその言葉に俺様自身が違和感を感じていた。だが、深く考えることはできなかった。知らない男の頭をダイチがなでている。2人きりで会っている!俺様のものを取られたように感じ、つい強い口調でダイチを拒絶してしまった。…ダイチは俺様のものだと決まっていないのに。…自分でも分かる。これは…嫉妬心だ。俺様が全面的に悪いのに、ダイチは俺様のためにお菓子を作ってきてくれた。そのお菓子からはグランマの味がした。子供のころの心のよりどころだった。俺の大好きなグランマを。つい涙を流してしまう。ダイチはそんな俺様を見て優しく抱きしめてくれた。泣き顔なんざ、他の奴らになんか見せたこともないし、見せたくもねぇ!…だが、ダイチには自分の弱い部分をさらけ出しても構わない。そんな自分をだせぇとは思わなかった。こんな俺様にいつも優しく接してくれるダイチには感謝しているんだ。…ありがとう、ダイチ。

  ロウガエピソード3-自分だけが読者の小説-

  セイント学園に暑い夏が去り秋が到来した。周りの植物も少しずつだが紅葉を迎えている。食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋。様々なものがあるが、これらに当てはまる人物が一人いる。…それはロウガ君だ。

  まず、食欲の秋。ロウガ君は育ちざかりなのか、ボリュームのある料理を僕にリクエストするようになった。それに合わせ、背も伸びていくようになった。今では僕より頭一つ分近く背が高い。

  「ダイチ先輩、次は生姜焼きが食べたいっす!」

  「ロウガ君、相変わらず肉料理が好きだもんね。」

  「はいっす!タンパク質は大事っすからね!」

  「…でも、野菜もきちんと、食べないとだめだよ。」

  「わかってるっすよ、先輩。…でも、先輩の手作りのドレッシングなら俺、いくらでも食べられるっす!」

  「ホント!?ドレッシングは本を見て作ってみたんだ。お口にあったようでうれしいよ。ちなみにどの味が好きなの?ゴマ?和風?シーザー?」

  「どれも好きっすけど、しいて言えばシーザーっすね!野菜だけでなく卵とかベーコンにも合いますしね!」

  「そっか、じゃあ生姜焼きの次は…ビーフシチューとシーザーサラダなんて…どうかな?」

  「大賛成っす!」

  「そういえば、ロウガ君。セーヌ村では料理を作ったことなかったんだよね?」

  「そうっすね。…ほとんど経験がないっす。」

  「…アンさんとかは作ってくれなかったの?」

  「アンっすか?…確かに作ってくれたことはあったんすけど…」

  「…?」

  「ここだけの話っすよ。アンって実は味音痴らしく、極端に濃い料理だったり、焦げ焦げの料理だったりでほとんど食えたもんじゃなかったんす。それなのに食べなさいと命令することがあって…正直言うと嫌だったんす。」

  「…そうだったんだ。」

  「両親が作ってくれた料理もアンと比べたらおいしいっすけど、先輩と比べたら全然っすね!」

  「そこまで褒めなくても…」

  「俺の正直な感想っす!…先輩の恋人になれる人は幸せなんだろうな…先輩の手料理、毎日食べさせてもらえるんすから!」

  「恋人だなんて、僕にはまだいないよ。」

  「…そうっすか。…ちょっとだけ安心っす。先輩に恋人なんてできたら俺が手料理を食べられる頻度、減ってしまうっすからね!」

  「…恋人か…僕にはいないけど…」

  「…何すか?」

  「ロウガ君の恋人になれる人は、幸せだと思ってさ!」

  「な、なんでっすか?」

  「だって、明るいし、人懐っこいし。一緒に居て楽しい存在だからだよ。」

  「ありがとうございます。…でも…」

  「…?」

  「でもそれは、ダイチ先輩と出会えたから、そうなったんすよ!そういう意味でも、俺にとって、ダイチ先輩は大切な恩人っす!」

  「そっか。ロウガ君の力になれてよかった。」

  「はいっす!…ダイチ先輩。…お願いがあるんす。」

  「…何?」

  「…次の生姜焼き、一緒に作ってもいいっすか?」

  「僕は構わないけど、どうして?」

  「アンに教えてやろうと思うんす。これこそが正しい料理の形だと。先輩の料理を見たらきっと考えが変わると思うっすから!」

  くすくすと笑いながら告げるロウガ君。

  「ロウガ君も、結構意地悪な人なんだね。」

  「今までのお返しっす!それに、アンはダイチ先輩に生意気な口をきいていたんす!これくらいがちょうどいいんす!」

  そう言いながら、僕とロウガ君の2人で笑った。

  次に、スポーツの秋。ロウガ君は陸上部で日々励んでいるらしく、毎日朝起きてからランニングしているのだと僕に告げてくれた。この前、陸上部を見学していると、休憩時間中に僕の姿を見かけたロウガ君がやってきて僕に告げた。

  「ダイチ先輩、見学に来てくれてうれしいっす!」

  「ロウガ君。…また一段と走るのが速くなった?」

  「実は、図書室で借りたフォームの本を取り入れてみたんす。俺、スタートの時、ただ漫然と走っていただけなんすよね。だから、スタート時に思ったように走れないことが多々あって。…でも、この本を読んで目からうろこだったっす!スタートの仕方にもいろいろあって、実践してみたら思うように走れたっす!」

  「ロウガ君は努力家だね。様々なことを実践に取り入れているんだから。」

  「そんなことないっす。…でも、ありがとうっす。…ダイチ先輩。」

  「何?ロウガ君。」

  「もしよかったらでいいんすけど、たまにでいいんで俺と一緒に朝、ランニングしないっすか?」

  「うーん。ありがたい申し出だけど…ランニングか…」

  「…駄目っすか?」

  すこしだけしゅんとなるロウガ君。あわてて僕はロウガ君に理由を告げた。

  「ううん。そんなことないよ。…だけど、僕は走るのが遅いから、きっとロウガ君のペースについていけないと思うな。…やっぱり、走るのはそれぞれのペースというものがあるしね。」

  「…そうっすね…」

  「誘ってくれたのに、ごめんね。」

  「そんなことないっす!…じゃあ、ウォーキングは…駄目っすか?歩くだけだから先輩とも一緒に歩けるっす!」

  「それなら僕にもできるかな!…でも、陸上の練習の邪魔にならない?」

  「そんなことないっす!確かに体を休めるのは陸上において重要なことっす!でも、逆に体を動かさずに休むと、それはそれで駄目みたいなんす。そういうときこそウォーキングをして、適度に体を動かしつつ休養を取る方法も重要なんす。だから、決して邪魔なになんかならないっす。…それに、ダイチ先輩と少しでも一緒に居たいっすから…」

  「えっ?最後なんて言ったの?聞き取れなかった。」

  「何でもないっす!…どうっすか?俺と一緒にウォーキングするのは。」

  「そのくらいなら、構わないかな?」

  「よっしゃあっす!」

  「大袈裟だよ!だったら、料理を作り始める前の30分間、一緒にウォーキングしてみるのはどうかな?…実は僕も最近運動不足を感じていたんだ。確かに一人で歩くよりも2人で歩いたほうが楽しいし。お腹も適度にすくから、一石二鳥だしね!」

  「決まりっす!それじゃ、よろしくお願いするっす!…今日は、これで帰るんすか?」

  「うーん。どうしようかな?これといった予定はないけど。」

  「じゃあ、もう少し俺の走る姿を見ていてほしいっす!あと短距離を何本かとクールダウンのウォーキングで今日は終わりっすから!俺の走りを見ていてほしいっす!」

  「分かったよ。ロウガ君。」

  そう言って、ロウガ君が走りに戻る。入れ違いで、僕がロウガ君のことを紹介した友達がやってきた。

  「ダイチ。今日はロウガを見に来たのか?」

  「はい、そうですよ。どうですか?ロウガ君の様子は。」

  「初めのころはオドオドして走りも基礎が駄目だったが、最近は自信もついてフォームも安定している。向上心もあるしこれならレギュラー入りも、時間の問題だろうな。」

  「そっか、ロウガ君が頑張ってくれているようでよかったよ。」

  「ロウガがここまで成長できたのはダイチのおかげだろうな。」

  「…そんなことないですよ。僕は大したことなんか。」

  「そんなことないさ。成長というのは部活動を通じてだけでなく日常生活でもはぐくまれる。ロウガがダイチのことを話す時、とても嬉しそうに話している。…まるで恋人のことを自慢するような口ぶりだったぞ」

  「ち、違いますよ…恋人では…」

  「わかってるさ、ダイチ。…そういえば、恋人といえばだな…」

  「…」

  「ここだけの話だぞ、ダイチ。実は1年のかわいらしい女子がロウガのことを呼びだしたそうだ。…おそらく、告白でもしていたんじゃないか?入部当初と違って、ロウガは体つきもたくましくなったからな…どうした、ダイチ。そんな顔して…さては、子離れする親のような感じを味わってるんだな!」

  「…そうかもしれません。」

  「これからロウガも様々な人と関わり、成長するだろうさ。じゃあな、ダイチ。」

  そう言って友達は去っていった。

  そして、日が暮れ、ロウガ君が戻ってきた。

  「お待たせしたっす、ダイチ先輩!それじゃ一緒に帰ろうっす!」

  「う、うんそうだね。」

  そう言って寮までの帰り道2人で並ぶ。

  「…どうしたんすかダイチ先輩?さっきから少し変っすよ?」

  「そう、かな?…ロウガ君がかっこよくなったんだなぁと思ってさ」

  「きゅ、急にどうしたんすか?俺のことをかっこいいだなんて…」

  「実は、ロウガ君が女の子に呼び出されたという話を聞いちゃって…少し寂しさに似たものを感じちゃってさ。」

  「そのことっすか…」

  「告白とか…されたの?」

  「ダイチ先輩に隠し事はできないっすね。…確かにその子に告白はされたっす。私と付き合ってほしいと。かっこいい俺のことが好きになったと。…女の子に告白されたのなんて生まれて初めてだったから、正直ちょっと嬉しかったっす。」

  「…そう、だよね。」

  「…でも、俺はその告白を断ったんす。」

  「どうして?タイプの子じゃなかったの?」

  「見た目だけで言えば、かわいらしい子だと思ったっす。話したこともあったんっすが、ちょっと控えめだけど、いい子だとは思うっす。」

  「なら、どうして?」

  「ダイチ先輩に会える時間が減るのが、いやだったっすから…。」

  「…え?」

  「告白された時に感じたのはダイチ先輩のことなんっす。確かにその子と付き合うことで、違う生き方が得られたかもしれないっす。…でも、俺にとってはそのことよりも、ダイチ先輩と過ごす日常の方が大切だと感じたから。だから、俺は告白を断ったんっす!…そんな顔をしなくてもいいっす!自分の意志で断ったんすから。…自分の意志で決めたんすから!だから先輩、これからも俺に勉強、教えてほしいっす!」

  「ロウガ君。…ロウガ君の意志で決めたなら、僕はそれを尊重するよ。じゃあね、ロウガ君。」

  「はいっす!」

  そう言ってその日はロウガ君と別れた。

  最後に、読書の秋。初めて勉強した時と比べてロウガ君の学力はみるみる上昇していった。歴史や語学に関してはもう問題ない。苦手だった数学も、理解しつつある。平均的な学力に到達するのは、時間の問題だろう。今日の勉強を終える。

  「ロウガ君。今日の勉強、お疲れ様。数学も、勉強の成果が出ているよ!」

  「ダイチ先輩、ありがとうっす!」

  そう言いながらロウガ君の頭をなでてあげる。いつものようにロウガ君は嬉しそうな顔をしてくれた。

  「そういえばダイチ先輩。ダイチ先輩が勧めてくれたこのカナタっていう恋愛小説、とっても面白かったっす!」

  「ホント!?」

  「ホントっす!長い間会えなかった片思い通しの2人が、時間も距離も離れてでも思い続けての、2人結ばれるラスト、すごくよかったっす!他にも、おすすめの本を教えてほしいっす!」

  「うん、いいよ!じゃあね…」

  「その姿は、ダイチか?」

  僕の姿を見た白色の熊獣人の男の人が声をかけてきた。

  「バーグ。こんなところで会うなんて偶然だね。…どうしたの?」

  「カオリから勧められた本を借りようと思ってな…そちらの狼獣人は?」

  「僕の友達のロウガ君だよ!」

  「…よろしくっす。」

  「…こちらこそよろしく。わしの名はバーグという。…その本は、もしかしてカナタというタイトルの小説か?」

  「うん、そうだよ。バーグも読んでくれたの?」

  「ああ、ほかならぬダイチに勧めてもらった本だからな。当然わしも読ませてもらった。」

  「よかった!勧めた甲斐があったよ。」

  ついつい、小説の話でバーグと盛り上がってしまう。3分ほど話した後、当初の目的を思い出したバーグは僕のもとから去っていった。

  「ごめん、ロウガ君。一人にさせちゃって。」

  「…俺だけじゃ、なかったんすね…」

  「…え?」

  「わかってたっす。ダイチ先輩はこんなにも魅力的な人なんだから。友達も多いに決まってる。本を勧める人だっているに決まってる。…俺の知らない人とも交流があるに決まってる。…俺だけじゃないって、わかってたっす…」

  「ロウガ君…」

  「…」

  「…ロウガ君、他の人には秘密にしていることなんだけどね。」

  「…何すか?」

  「ほら、芸術の秋ともいうじゃない?だから、僕最近小説を書いてみたんだ。」

  そう言って1冊のノートをロウガ君の目の前に見せる。そのノートに僕はメモリアというタイトルをつけた。

  「本なんて書いたことないからプロみたいにうまくはかけていないんだけどね。」

  「そうなんすか?でも、小説を書くなんてすごいっす!」

  「だから、ロウガ君。もしよかったら、僕が書いた小説の最初の読者になってくれないかな?」

  「俺が…最初…すか?」

  「うん。駄目なら別に…」

  「そんなことないっす。是非、読ませてほしいっす!」

  「よかった、じゃあ、これどうぞ。」

  「ありがとうございますダイチ先輩。せっかくだから、自室で読ませてもらうっす。」

  「そうだね。そろそろ図書館の閉館時間だし、ちょうどいいかな。今度、感想聞かせてね!」

  「はいっす!」

  そして、次の勉強会の終わりにロウガ君は僕が書いた小説の感想を言ってくれた。

  「ダイチ先輩。ダイチ先輩が書いてくれた小説読んだっす!」

  「どう、だったかな?」

  「とても素晴らしかったっす!初めてとは思えないできだったっす!」

  「ホント!?嬉しい…」

  「たくさん魅力的なキャラはいたんすけど、一番のお気に入りのキャラは狼也っすね!あこがれの先輩にお近づきになるために努力する姿…感銘を受けたっす!」

  「お気に入りのキャラがいてくれて、よかった!」

  「それでなんですけど、ダイチ先輩。お願いがあるんす。」

  「なぁに?」

  「ダイチ先輩が書いたこのメモリアという小説、俺にくれないっすか?」

  「え?」

  「この本があると登場人物の様に勇気をもらえる気がするんす!俺でももっと頑張れる気がするんす!…だから!この本、俺に欲しいっす!」

  「ロウガ君…。そこまで熱心に言われちゃ、あげないわけにはいかないよね。」

  「ありがとうございます、ダイチ先輩!大切にするっす!」

  「うん、大切にしてね!」

  勉強会が終わり、部屋の前で別れるとき

  「ダイチ先輩、本当にありがとうっす!これからも、よろしくお願いするっす!」

  僕があげた本を見せながら、ロウガ君は去っていった。

  …ダイチ先輩は本当に優しい人だ。俺の食べたい料理を作ってくれる。嫌な顔をせず、勉強を教えてくれる。陸上部に入るきっかけも作ってくれた。もし先輩がいなかったら俺は孤独のまま学生生活を終えていただろう。…それどころか、途中で逃げ出した可能性も、考えられる。ダイチ先輩からもらってばかりの俺。少しは、かっこよくなれたのだろうか?最近、女の子から告白された。そんなこと生まれて初めてだったので、少し嬉しかったっす。…でも、同時にダイチ先輩と過ごす日常を考えた。彼女と過ごす日常とダイチ先輩と過ごす日常。…どちらが大切かを考えたら、迷うことなく自分の中で答えが出た。俺は彼女の告白を断った。彼女は泣きながら去っていった。少しかわいそうに感じたが、後悔はしていない。自分の意志で決めたことだから。…この意思も、ダイチ先輩がくれたものだ。図書室での勉強後、ダイチ先輩の友達と思われる獣人がダイチ先輩の勧めた本のことを話題にあげた。…当たり前だと思う。ダイチ先輩にはダイチ先輩の交友関係があり、俺の知らない関係性もあるのだ。身勝手ながら、その事実に俺は嫉妬したっす。でも、ダイチ先輩が書いた小説。俺が最初の読者…。そう思うと心が浮かんでいくのを感じたっす。小説の内容も素晴らしかったっす。…でもなぜだか、ダイチ先輩と俺以外にその小説の内容を語り合ってほしいと思わなかった。だからつい、その本が欲しいとダイチ先輩に言ってしまった。ダイチ先輩は喜んでこの本を俺にくれたっす。俺とダイチ先輩しか知らない本の存在…。俺だけが読者の本の存在に、なぜだか独占心と優越感が芽生えたっす。

  バーグエピソード3-文化祭でのワンシーン-

  セイント学園に暑い夏が去り秋が到来した。少しずつ日が落ちていくのを実感しながら畑を耕す。今の時期、畑ではサツマイモを収穫している。大量に収穫できた。…使い方が困るほどに。

  「バーグ、サツマイモ、大量にできたね…」

  「うむ。ここまで取れるとは、わしの想像以上だな。調子に乗って作りすぎてしまった。サツマイモは保存が持つとはいえ、どうしたものか。」

  こんもりとバケツ一杯に盛られるサツマイモ。嬉しいはずなのに、困るという複雑な心境だった。

  「バーグって、サツマイモ料理では何が好きなの?」

  「サツマイモか…どっちかといえば、お菓子が好きだな。…スイートポテト、焼き芋…」

  様々な芋のお菓子を使った名前がバーグの口から出てくる。…よっぽど、好きなんだろうな。

  「ところでバーグ、この前の定期テスト、どうだった?」

  「テスト?特に問題はないな…すべて平均点以上だ。」

  「すごいね!…いつ勉強しているの?」

  「主に畑仕事をした後の夜だな。…ダイチと過ごしている時は勉強していないからな。」

  「きちんと勉強しているんだね。」

  「わしを何だと思っておるんだ。畑仕事しかしてないと思っていたのか?勉強していないと、卒業できないに決まっているじゃないか。」

  「それも、そうだよね。ごめん。…畑と勉強以外で最近していることとかある?」

  「最近は小説を読んで過ごしているな。ダイチやカオリが勧めてくれた小説。どれも面白いぞ!」

  「よかった!勧めた甲斐があったよ!」

  「今度は冒険ものの本を読んでみたい!おすすめがあったら教えてくれ!」

  「もちろん!…どんな本がいいかな…」

  本のタイトルを考えながら、そのタイトルをバーグに告げる。いくつかタイトルを言いあった後、ケモクエの小説を読んでみたいと言ってくれたため、今度僕が持っている小説を貸すことを約束した。

  「バーグ、そういえばもうすぐセイント学園での文化祭だね。…その日、どうするの?」

  「わしか?参加する気はないな…」

  「…どうして?」

  「この見た目だしな。…生徒もあまり話しかけてこないし。畑の世話でもするかな。」

  「…そう…」

  「ダイチは?」

  「午前中は図書委員の出し物とかで手一杯かな?午後は何もないから、ぶらぶらと見て回ろうと思ってるよ。」

  「ふむ、そうか。いい土産があれば持ってきてくれると嬉しいな。」

  しみじみとした顔をしながら告げるバーグ。…学園の交友関係はほとんどないバーグ。…このままでいいのだろうか。…バーグ自身にとって。おせっかいなのはわかってる。でも、僕はすこしでも、バーグに学園生活を楽しんでもらいたい。

  「ねぇ、バーグ。もしよかったらなんだけど、一緒に文化祭、参加してみない?」

  「…ダイチ。誘いは嬉しいが、わしは…」

  「駄目…かな?」

  「むぅ…だが、ダイチのお願いだし…」

  僕の提案に迷っている様子を見せるバーグ。その時、ピンとある考えが僕の中でひらめいた!

  「バーグ、一緒に見て回るんじゃなくて、一緒に出し物をしない?」

  「出し物…とは?」

  「バーグの畑でとれた野菜を使った料理を文化祭で出してみようよ!」

  「…わしの野菜をか?」

  「うん!バーグの畑で作る野菜の味がいいのは僕が保証する!せっかくのみんなに食べてもらうチャンスなんだ!だから、どうかな?」

  「…それならまぁ、わしは構わないが…だが、ダイチ。何を出すんだ?」

  「…え?」

  「正直言って、わしは料理などほとんどできない。ダイチが作るお菓子を出すにしても、それほど多く出すことはできないだろう。とれた野菜の量も、種類によっては出すほど多くないものもある。ダイチも手伝ってくれるとはいえ、それなら活動するのは昼からになるだろう。」

  「…」

  僕は考える。…バーグ一人でもできる簡単な出し物。数に困らない量の野菜を使う必要性。悩みに悩んだ。ふと周りに視線をやると、大量にあるサツマイモが目に浮かんだ。大量にある野菜はサツマイモ…サツマイモなら甘くて人気が出るだろう。…そうか!

  「バーグ!文化祭で出す内容、思いついたよ!」

  「本当か?」

  「うん、あのね、焼き芋屋さんをやったらどうかな?」

  「焼き芋屋?」

  「うん。サツマイモを使った焼き芋屋。ほら、夏祭りの屋台のような感じで。火を通すだけだから当日までに少し練習すればだれにでもできる。材料もサツマイモだけで済む。それに、サツマイモの在庫に関してもそれほど問題ないと思う。午前中に関しても、バーグ一人だけで調理もできる。…ぴったりだと思ったんだけど、どうかな?」

  「…そうだな。お菓子と違って、焼くだけならわしにもできそうだな。いいかもしれない。」

  「ホント!?」

  「…だが、実際、活動は可能なのか?わしの活動は部活動として認められているものではないしクラスの出し物でもないし。」

  「多分大丈夫だと思うよ。部活動でなくても同好会とか、個人で出す出し物だったとしても生徒会に申請して承認すれば出せたと思うし。」

  「…それならば…」

  「ねぇ、バーグ…」

  「…?」

  「提案しておいてなんだけど、これは僕のわがままでもあるんだ。バーグがやっぱりやりたくないんだったら、しなくてもいい。だから、改めてきくね。バーグは文化祭に参加、したい?」

  「ダイチ…。ありがとう、わしのことを考えてくれて…。決めた、わしも文化祭に参加したい!もちろん、わし自身の意志だ!」

  「ホント、よかった!善は急げだ!早速、レオンに申請をしなくっちゃ!」

  「…レオン会長とは仲がいいのか?」

  「うん。同じ生徒会のメンバーだしね。」

  「…そうか。」

  「どうかした?」

  「…いや、何でもない。重ね重ねすまないが、申請、よろしく頼む。」

  「任せておいて!じゃ、当日までにサツマイモの大きさに応じていくらで売るかとかの打ち合わせや、焼き芋の練習、しなくっちゃね!」

  バーグと出し物をすることを決めた後、僕はレオンに申請書を出した。

  「レオン、文化祭の出し物の申請をしたいんだけど構わないかな?」

  「内容を見せてもらっても構わないか?」

  「もちろんです。これが内容になります。」

  「なになに…焼き芋屋…か。少し質問をしても構わないか?」

  「はい、大丈夫ですよ。」

  「参加者がバーグとダイチとなっているが…バーグ公とダイチの2人は仲がいいのか?」

  「ええ。大切な友達ですよ!」

  「そうか…」

  「…レオン?」

  「…すまない。出し物の話に戻ろう。火を使う以上講習を受ける必要があるが、それは大丈夫か?」

  「はい、僕もバーグも、もちろん大丈夫です。」

  「分かった。材料に関しては?」

  「バーグの畑でとれたサツマイモを使おうと思っています。大量にとれたので、在庫に関しても問題ないです。材料もサツマイモだけなので、味にも問題はないと思います。」

  「…分かった。申請を許可しよう。」

  そういうとレオンは僕の出した申請書に承認印を押してくれた。

  承認印をもらったことをバーグに報告する。

  「バーグ、承認印もらったよ。」

  「すんなり承認が通ったな。」

  「まぁ、簡単な内容だしね…ただ火を使うということで講習会に参加する必要があるけどね。」

  「…ダイチと一緒ならば、構わない。」

  「もちろん、忙しかったら僕も焼くのを手伝うつもりだから、構わないよ!」

  「なら、構わない。よろしく頼む。」

  そして、講習を受け、バーグが焼き芋の焼き方を覚え、文化祭当日を迎える。

  午前中は、図書委員での文化祭の仕事があったため、約束通り、バーグ一人に任せている。

  午前中の図書委員の仕事は、カオリも協力してくれている。

  「ダイチ先輩。バーグお兄様と出し物をされるのですよね。」

  「うん。焼き芋屋さんをするんだ。よかったら来てほしいな!」

  「ぜひ行かせてもらいますわ!…でも、大丈夫でしょうか?」

  「え、何が?」

  「確かに焼き芋の品質に問題はないのでしょう。…でも、人とあまり接する機会のないお兄様に笑顔とかできるかどうか。…それに失礼だとわかっておりますが、以前もお話ししたとおり、お兄様は少々…強面ですから…。」

  「…」

  カオリからの心配ごとに僕は何も答えることができなかった。…その予想は的中していた。バーグの屋台の周りには人がおらず、ほとんど売れていないようだった。

  「バーグ…どう、調子は…」

  「ダイチ…済まない、ほとんど売れていないんだ。せっかくダイチが協力してくれたのに…」

  「落ち込まないで、バーグ。これからは僕も協力するから。」

  そう言って僕も協力したが30分たっても人が来る気配はなかった。昼飯がてら、バーグが焼いた焼き芋を2人で食べる。

  「こんなにおいしい焼き芋なのにね…」

  「そうだな…」

  「…」

  「せめて一口でも食べてくれれば、買ってくれるかもしれないのだがな…」

  「…それだよ!」

  「どうした!?ダイチ。大声を上げて!」

  「実際に食べてみてもらえばいいんだよ!」

  「丸々サツマイモを1本渡すのか?だが、それでは…」

  「そうじゃないよ…見てて…」

  そう僕が言うと焼いたサツマイモを包丁で細かく切った後、小さな棒にさしていった。

  「これは?」

  「実際にこのサツマイモを食べてもらえばいいんだ!…いわゆる試食ってやつだよ!それと…」

  僕は即座に現像可能なカメラを近くの人から借り、バーグの顔を映すとパシャリとその顔写真を撮った。

  「な、何してるんだ!?」

  「あのね、野菜を売る時も、写真でだれが作ったかがわかる野菜の方が信頼度が高いんだ。だからバーグの顔写真をつけて、ついでに宣伝しようと思うんだ!」

  「わしの顔を…怖がられないか?」

  「大丈夫!…僕を信じてくれる?バーグ。」

  「ダイチ…信じるよ。」

  「ありがとう!じゃあ、行ってくる!バーグは焼き芋を焼く準備、よろしくね!」

  そう言った後、僕は試食品を食べてもらうべく、人ごみの前に行った。

  「おいしい焼き芋売ってますよ!よかったらどうですか?」

  「焼き芋か…味の方はどうなんだ?」

  「もちろんおいしいですよ!よかったらこれ試食品です。実際に食べてみてください!」

  「ほぅ…いただこうか。うん、美味いな!」

  「今ならこの人が焼き立てを提供しています!」

  そう言って、バーグの顔写真をセットに場所を教える。

  「この人がか?」

  「そうです!こんなにおいしい焼き芋を作る人が怖いはずないでしょう?」

  「…それもそうだな。行ってみるか。」

  「ありがとうございます!」

  僕の試食宣伝の効果はあったのだろう。何人かのお客さんが焼き芋屋さんに足を運んでくれていた。

  「焼き芋いかがですか?」

  「ダイチか?何をしているんだ?」

  「タイガ!あのね、焼き芋を売ってるんだ!…これ、試食品。よかったら食べてみて!」

  「…美味いな!どこで売ってるんだ?」

  「ここで売ってるんだよ!」

  そう言いながらバーグの顔写真を見せて場所を教えた。

  「…バーグ公と仲がいいのか?」

  「うん、そうだけど…どうしたの?タイガ…」

  「…いや、何でもねぇよ。せっかくダイチが勧めたんだ。1個買ってやるか。」

  「ありがとう、タイガ!」

  「お礼は俺様のほっぺにちゅーでもいいんだぜ!?」

  「当店はそんなサービスはやっておりません!」

  クスリと2人笑いあった後、タイガは僕の前から去っていった。

  試食品もすべて配り終えたため、バーグの元へと戻る。バーグのもとにはちょっとした行列ができていた。…主に女性が多そうだ。それも理由がある。サツマイモには美容成分と食物繊維などが豊富に含まれていると宣伝したからだ。

  「ダイチ、手伝ってくれ!」

  嬉しいような、困ったようなバーグの悲鳴。その言葉に応え、焼き芋を売るのを手伝った。焼き芋を食べた後の感想が広まったのだろう。おいしい焼き芋くださいという声は途切れることなく続き、気付けば夕方、終わり近くなっていた。

  「ほとんど売れたね、バーグ。」

  「そうだな…ダイチ、タイガ公と仲がいいのか?」

  「うん。友達だよ。…バーグって、タイガのこと、知ってるの?」

  「一応顔見知り程度だが。俺の大切な友達のダイチから紹介されたとわしの目の前で言っていたから…」

  「…タイガ、僕のことそう思っているんだ。」

  「…ダイチは、交友関係が広いのだな。」

  「そこまでじゃないよ。バーグ。」

  僕たちが会話していると、新たな客がやってきた。…それは獅子獣人の男の人。

  「ダイチ。様子を見に来た。」

  「レオン!わざわざ来てくれたの?」

  「出し物を承認したのは私だからな。確認する義務がある。…隣にいるのは、バーグ公か?」

  「そうだよ、レオン!」

  「…やはり、ダイチは交友関係が広いんだな。…納得だ。」

  「ああ、わしの大切な人だ。」

  「バーグ…レオン…?」

  「ああすまない、せっかくだ。私も一つ買わせてもらおうか。」

  「ありがとうございます。レオン!」

  笑顔でお礼を言う。僕から手渡された焼き芋をレオンが頬張った。

  「美味いな!ここの焼き芋は!ダイチが一生懸命宣伝しているだけのことはあるな!」

  「…見ていたんですか!?」

  「見回りの時に、少々な。…ではな、ダイチ。生徒会でまた会おう。」

  「うん、またね!レオン!」

  笑顔でレオンにお礼を言う僕。バーグはほとんど無言だった。改めてバーグの顔を見ると、複雑そうな顔をしていた。

  「どうしたの、バーグ?」

  「…いや、何でもない…」

  「お兄様、ダイチ先輩!」

  声の方に振り向く。そこにはカオリとその友達と思われる生徒が数名いた。

  「お兄様、焼き芋、売れているようでよかったですわ!」

  「ああ、ダイチのおかげだ。…俺一人では全く売れなかっただろう。」

  「ダイチ様とバーグ公は仲がよろしいのですか?」

  「もちろんですわ!」

  カオリの友達からの質問にカオリが答える。バーグは困った顔をした。

  「それで、数はありますか。」

  「ええと…うん。ちょうどよかった。今いる人数分で、完売だよ!」

  「ラッキーですわね、さぁみんな、いただきましょう!」

  そう言ってカオリたちに焼き芋を売る。おかげですべて売ることができた。片付けの時間。

  「バーグ、焼き芋全て売れてよかったね!」

  「ああ、そうだな…」

  「それに、みんなにバーグのことも知ってもらえたね!」

  「…?」

  「こんなにおいしい野菜を作れる素晴らしい人だってことだよ!バーグ!胸を張って!」

  「ダイチ、ありがとう。…わし一人だったら、きっと成すことはできなかっただろう。」

  バーグからのお礼。それだけで僕は十分だった。

  …余談だが、バーグがおいしい野菜を作れる獣人だということはセイント学園の生徒の知ることとなったので、バーグは他の生徒とすれ違う時に、怖がられずにあいさつをしてくれるようになった。

  …わしはずっと一人だと思っていた。これからも一人で畑を耕す学園生活を送るのだと。…だが、ダイチが現れてから、わしの世界は広がったように思う。そこまで興味のなかった小説を読んだ。わしが作った野菜の料理を食べわしの作った野菜に自信を持てるようになった。…そして、文化祭。わしの予想通り、わしの顔を恐れて買いに来る客はほとんどいなかった。そんなわしをダイチは見捨てることなく、側に居て、一緒に売れるよう考えてくれた。…大切な友達。温かな感情が広がる。…でも一方で、こんな気持ちを覚える自分がいた。タイガ公と会った時に大切な友達だと堂々と宣言されたこと。レオン会長と話す時もダイチは笑顔だった。その時は焼き芋が売れて嬉しい反面、そんな顔を他の奴らに向けてほしくないという感情が占めていた。…わしにとってダイチは大切な友達…のはずだ。…だが、さっき感じたわしのこの気持ちは…もしかして…嫉妬?その感情に向き合った時、わしはどうなるのだろう。今はまだ、答えは出なかった。

  [newpage]

  Winter Event

  レオンエピソード4-仮面舞踏会~離したくないその手-

  秋が終わり冬がやってきた。ひらひらと雪が降り、肌寒さを感じてきた。

  今日は珍しく、レオンと偶然廊下で出会ったため、せっかくだから会話をすることにした。

  「レオン、最近肌寒さを感じてきたね。」

  「ダイチ、そうだな。…ダイチは体調大丈夫か?風邪などひいていないか?」

  「大丈夫だよ、レオン。」

  お互い冬服姿のまま語り合う。冬服を着ているレオンはスマートに見える。…やはり着やせするタイプなんだろうな。

  「それにしても、この時期はシチューが食べたくなるな。」

  「珍しいね。レオンがお菓子以外のものを話題に上げるなんて。」

  「心外だな。私だってお菓子以外で好きな食べ物くらい、あるさ。」

  「それもそうだよね。ごめん、レオン。…シチューか…」

  「ダイチ、シチューが作れるのか?」

  「もちろん、作れるよ!」

  「ぜひ、作ってほしい!」

  「構わないよ、レオン。具材は何にしようか?」

  「そうだな…鶏肉に、ジャガイモ、玉ねぎ…ああ、ブロッコリーなんかも、いいかもしれないな。」

  「あれ?にんじんは?定番だよね。」

  「…実はにんじんは好きじゃないのさ。…恥ずかしいことにね。」

  「意外!レオンにも苦手な食べ物あったんだね。」

  「私にだって苦手な食べ物くらいあるさ。」

  「…だったら、なおさらにんじんを入れようよ!レオンのにんじん嫌いが克服できるように!」

  「ダイチ…だがな…」

  「実はね、バーグの畑で育てたにんじんが収穫時期なんだ。一度食べてみたけど、実が詰まって甘みが大きいんだ!だから、レオンでも、きっと食べられるよ!」

  「バーグ公とダイチの2人で育てた野菜か…」

  「そうだよ!…どうしたの、レオン?」

  「…何でもない。ダイチのお墨付きだったら、きっとおいしいんだろうな。…だったら、食べてみても、いいかな…」

  「ホント!?だったら、今週末、予定はある?僕が作ったシチュー、食べよう!」

  「ダイチ。私の方は予定がないからぜひともこちらからお願いしたい。…よろしく、頼む。」

  「うん、僕の方こそ。週末、楽しみにしているね!」

  そして、週末。僕の部屋で夕食代わりに僕が作ったシチューをレオンと一緒に食べる。

  「ダイチ、このシチュー、色が白いんだな。」

  「クリームシチューにしてみたんです!…ビーフシチューの方が好きでしたか?」

  「そんなことないさ。どっちも好きだよ。…ではいただこうか。」

  そう言った後シチューをレオンが口に含む。

  「どう…かな?」

  「美味いぞ!ダイチ!」

  「よかった、レオン!どんどん食べて!」

  その後、シチューをどんどんと食べるレオン。…にんじんをよけながら。

  「レオン、せっかくだからにんじん、一個だけでも食べてほしいな。」

  「ダイチ、…分かった。せっかくダイチが作ってくれたんだからな。」

  そう言いながら恐る恐るレオンがにんじんを口に含む。もぐもぐとした後、レオンが口を開いた。

  「…おいしい…」

  「ホント!?」

  「ああ、今まで食べたどのにんじんよりもおいしいぞ!」

  そう言って2個、3個とにんじんを口に含む。その感想はお世辞ではなく本当だとわかった。

  「今まで食べたにんじんはどこか味気なかった。…だがこのにんじんは、ダイチが言ってくれた通り甘くて私も食べられる!」

  「苦手克服だね…レオン!」

  「ダイチのおかげさ…」

  ふふっと2人笑いながらシチューを食べる。レオンはよほど気に入ったのかお代わりまでしてくれた。

  「ダイチ、ごちそうさまだ。また一つ、大人に近づけたよ。」

  「お粗末様でした。レオン。気に入ってくれたようでうれしいよ。」

  「…ダイチは料理もお菓子も美味い。きっといい奥さんになれるだろう!」

  「奥さんって…僕は、男だよ。」

  「…すまない。つい。…ダイチだと違和感がなかったものだからな…」

  「複雑だなぁ…でも、ありがとう、レオン。」

  「当たり前のことを言っただけさ。…ダイチとなら、幸せな家庭を気付けるだろう。…その存在に、嫉妬してしまうな…」

  「そうだといいんだけどね。…でも、嫉妬だなんて…」

  「…私の本心だ。…ダイチ、今日はありがとう。また、誘ってほしい!」

  「もちろん!楽しみにしててね、レオン!」

  そして、今日も生徒会での定例会が始まる。議題はこの時期行われるダンスパーティに関してだった。

  「華やかな感じを演出した方がいいんじゃないかしら…」

  「もっとクラシックな感じを出したらどうか。」

  様々な意見がメンバーから出る中、レオンはうんうんとうなずいていたが、いまいち決定打にかけるような感じだった。

  「レオン会長、よろしければ女性は花を胸元に飾るというのは、どうでしょう?」

  マリアさんからの提案。…これはゲームの中のケモケモメモリアルにあったダンスパーティでマリアさんがしている格好だ。

  「悪くないが…うむ。…ダイチ、君はどう思う?」

  レオン会長が僕に意見を求めた。マリアさんはすこし冷たい視線を僕に向けたが、せっかく聞いてきたのだ。素直に僕の意見を言うことにした。

  「そうですね…仮面舞踏会とかはどうですか?」

  「仮面…なぜ?」

  「…理由を言っても構わないでしょうか。」

  「もちろん構わない。」

  「ありがとうございます。…セイント学園は自由と自主性を重んじる学園だとは分かっています。様々な立場、家柄の人が入学する場所だとも。…でも、実際、家柄や立場に縛られて、話しかけてみたいのに話すことができない。そういう場面があることをたびたび見てきましたから。…仮面ということで自分の姿を隠すという意味で若干マイナスにとらえる人もいるかもしれません。…でも、仮面をつけるその日だけは誰もが自由に話しかけることが許される…そんなパーティにしたいです。」

  「ダイチの言うことも一理あるな…皆はどう思う?」

  「そうですね…確かに一理あると思う。」

  「これも、ある意味自由という感じで、セイント学園の方針に沿っていると思いますね。」

  周りから賛同の声が上がる。

  「では、ダイチの意見で賛成という方は挙手してほしい。」

  周りから手が上がる。

  「過半数以上の賛同が得られたみたいだな。…では、今年のダンスパーティは仮面舞踏会に決定する!」

  ぱちぱちと賛成の拍手が上がる。…マリアさんも拍手をしているので、認めてくれているようだ。

  「ダイチ、ありがとう。君のおかげで、今年の内容が決まったよ…どうしたんだ、そんな顔をして。何か、あるのか?」

  「…レオン、もう一つ、僕から提案があるんだけど言っても構わないかな?」

  「どうぞ、ダイチ。」

  「ありがとうございます。…もう一つの提案なのですが…」

  そう一言置いた後、僕から提案をする。…僕の提案にマリアさんが真っ先に反対を述べる。何人かの女子もそうだ。…確かに、一部の女子からは受け入れがたいものだろう。だが、それでも、せっかくだから僕の提案を受け入れて欲しい。再びの多数決。今度は反対意見もあったが、何とか過半数の賛成は得られた。…僕の案は可決されたようだ。

  …そして、ダンスパーティの日。僕の提案通り、全員が目元に仮面をつけた仮面舞踏会が始まる。…そして…

  セイント学園の生徒全員が入場する。仮面の色は様々だが、みんなの格好は黒一色…。それも男女同じスタイルの正装だった。

  …僕が提案したのは仮面舞踏会だけではない。男女同じスタイル…いわゆるユニセックスというスタイルの正装だ。これを提案したことには理由がある。セイント学園だけでなく、この世界一般では基本的には男女のカップルが主流だ。だが、男同士、女同士の恋愛もないわけではない。だが、そんな人たちは人目を忍んで会い、その人たちは後ろ指をさされることを恐れている。…でも、今日だけは、そんなことを気にせずに楽しんでほしい。そんな思いから提案をしたのだった。…周りを見渡す。近くに狐と犬の男の2人組が仲良く手をつなぎながら談笑している。それだけでない。あちらこちらで同性同士、似たような風景が見られる。…よかった…。僕は安堵した。今日だけは世間のしがらみに縛られることなく、楽しんでほしいな。つい、周りの光景に笑みを浮かべ、あたりを再び見渡すと、曲に合わせて踊っている人たちが見えた。どの人もみんな楽しそうだ。それに、踊るだけでなく、貴族や平民などの身分を超えて談笑している姿も見られた。つい、あたりを歩いていると、一人の人間にぶつかってしまった。

  「すみません。」

  「こちらこそ…ダイチか?」

  「その声は…レオン?どうしたの、こんなところで。」

  「見回りを兼ねてあたりを歩いていたところだ。」

  「…そうですか。どうですか?今日のダンスパーティは。」

  「思っていたよりもいいものだと感じているよ。…先ほどから今まで話かけられたことのない生徒から声をかけられてな。…様々な立場を超えての交流があると、効果を実感しているよ。」

  「よかった。今日だけは、立場を気にせずにいろんな人から話しかけられるね!レオン。」

  「ああ、そうだな。…ダイチ…いや、そこのあなた。」

  「…?」

  「よろしければ私と踊っていただけませんか?…一人の人間として。」

  「レオン…いえ、一人の人間として、あなたの申し出をお受けいたします。」

  そうして僕たちは曲に合わせて踊った。僕の踊りはうまくなく、足がつまずきそうになったが、目の前の人間は僕を巧みにリードし、うまく踊ることができた。そして、曲が終わる。

  「ありがとう、楽しませてもらったよ。」

  「こちらこそありがとう、あなたのおかげで綺麗に踊ることができました。」

  「それはよかった!もし、よかったら…」

  「ダイチ!」

  その時、僕を呼ぶ大きな声が聞こえた。大きな黄色い虎の格好をした男の獣人。

  「…もしかして、タイガ?」

  「おう!仮面をしているからな、いろんな奴らから声をかけられて仕方がなかったぜ!いつもはうっとうしくて仕方がねぇと思うが今日は特別だ!…いろんな奴らと楽しませてもらってるぜ!」

  「それはよかった!企画した甲斐があったよ!」

  「ダイチ、今から一緒に俺様と踊るんだ!」

  そういうと、タイガは僕の手を取り、手の甲にキスをした。

  「なっ!」

  僕とレオンから声が上がる。タイガはにやりと笑うと、僕の手を取って別の場所へと連れだした。そして、踊り出す。レオンは僕のそんな様子をただ黙って見送った。そして、踊る。タイガの踊りは豪快で、思わずつまずきそうになる。だが、転びそうになった時はタイガが僕の腰をつかんで防止してくれた。そして、曲が終わる。

  「俺様、楽しかったぜ!ダイチ!」

  「こっちこそ、楽しかったよ、タイガ!」

  「…ダイチ、俺様と…」

  「ダイチ先輩!」

  笑顔の狼獣人の男の人が僕に声をかけた。

  「ロウガ君?どうした?」

  「ダイチ先輩の姿が見えたっすから…それよりも…その…」

  「…?」

  「俺と一曲、踊ってほしいっす!せっかくのダンスパーティなんすから!」

  「…」

  タイガとロウガ君が顔を見合わせる。どこか相手を品定めしているような表情に感じた。…一瞬の沈黙。そして、タイガが僕の手の甲に再びキスをした後、告げた。

  「…仕方ねぇ。今日のところは譲ってやるか。…様々な奴らと触れ合うことが目的のパーティだからな!」

  そう言ったあと、タイガは僕の目の前から去っていった。

  「ダイチ先輩!」

  少し強めな口調で僕に告げた後、ロウガ君はタイガにキスされた手とは逆の手の甲にキスをして、告げた。

  「今から俺と踊るっす!…うまくリードできなくても、ごめんっすけどね!」

  そう言って、ロウガ君と2人で踊る。…どこかぎこちない踊りになったが、それでも、踊りきることができた。

  「ダイチ先輩、俺と踊ってくれてありがとうっす!」

  「こちらこそ、ありがとう。これからどうするの?」

  「同じ陸上部の部員から誘われているんす!だからダイチ先輩、申し訳ないんすが…」

  「僕のことは気にしなくていいよ!せっかくのパーティなんだ。思う存分、楽しんで!」

  「ありがとうございますっす!ダイチ先輩!」

  そう言った後、ロウガ君は僕の前から去っていった。

  そろそろお腹がすいてきたので、軽食のコーナーに立ち寄る。そこで他の人とあいさつを交わしている白熊の男の獣人を目撃した。

  「バーグ!」

  「ダイチか、会えてうれしい!」

  「バーグ、さっきの人と何話していたの?」

  「話というほどじゃない。軽いあいさつ程度だ…だが…」

  「…?」

  「…だが、今までの俺だったら、こんなパーティでも話しかけられることなどなかっただろう。…ダイチのおかげだ。感謝している。」

  「どういたしまして、バーグ。」

  そう言いあった後、2人で軽食をつまむ。この野菜はわしとダイチが作った野菜の方がうまいなど笑顔で話し合う。軽食をつまんだ後、バーグと別れた。

  もうすぐパーティが終わる時間。ダンスの場所に足を運ぶと、一人の獅子獣人の男の人。レオンがいた。

  「レオ…」

  「レオン会長!私と踊ってくださいますか?」

  そうレオンに声をかける人がいた。あれは、マリアさんだ。

  「マリア…」

  「せっかくの機会ですもの!私に思い出を作ってくださいませ。」

  「…分かった。では一曲、お相手願おうか。」

  「はい、レオン会長!」

  そう言って、2人が躍り出す。

  「レオン会長とマリアさん。踊る姿がお似合いだわ!」

  「美男美女でまるでカップルみたいだよな!」

  周りからそんな声が聞こえる。仮面で顔を隠していても、オーラは隠しきれないのだろう。そんな姿を見て、僕もお似合いな2人だと思い、なぜだか胸が痛んだ。そして、曲が終わる。

  「ありがとうございます!レオン会長!」

  そう言った後、なんとマリアさんはレオンの手の甲にキスをしたのだ!

  「マ、マリア!?」

  「ごめんなさい、私としたことが、つい嬉しくって。…嫌…でしたか?」

  「…構わない。」

  「よかったですわ!…せっかくですから、レオン会長も…」

  そう言って、自分の手のひらを差し出すマリアさん。…レオンがどんな行動をとったのかは僕にはわからない。…その光景をなぜだか見たくなかったため、パーティが終わるまでの時間、その場から離れ、自室に戻ったからだ。

  …そして、翌日。生徒会メンバーで片づけをし、片づけを終える。今日は解散だとレオンが告げた後、皆が帰り支度をし、帰路に着く。僕も帰り支度をし、帰ろうとするとレオンから呼び止められた。

  「ダイチ、すまないが少し残ってくれないか?」

  「構わないよ、レオン。」

  そして、その場に僕とレオンの2人だけが残った。周りに誰もいないことを確認したレオンは僕の手の甲にキスをし、告げた。

  「ダイチ、今から私と踊ってくれないか?」

  「レオン、これは?」

  「私がダイチと踊りたいと思ったからだ…駄目か?」

  レオンからのダンスのお誘い、嬉しかった。…でも、一つの行動が頭に浮かんだため、その手を取ることができなかった。

  「レオン、マリアさんにも手の甲にキス、したんだよね…」

  その光景を思い出し少しだけ声のトーンが低くなった。

  「…ダイチ。私は手の甲でさえ、キスをしたいと思った相手にしかキスをしない。…自分の意志でキスをする相手を、決める!」

  「レオン…?」

  「…あの時は一人の人間同士の立場だった。だが今は、レオンとダイチとして踊りたいんだ!この手をどうか、とってほしい!」

  「レオン、喜んで!」

  レオンが近くのラジカセのスイッチを押し、曲が流れる。その曲に合わせ、誰もいない観客の中。僕たちは2人で踊った。レオンのリードはやはり巧みで、気持ちよく踊ることができた。

  「レオン、ありがとう!気持ちよく踊ることができたよ!」

  「ダイチ、こちらこそありがとう。…とても、晴れやかな気分だ!」

  「レオン…」

  「ダイチ、今日のところはこれで失礼するが、私が先ほど言ったことを忘れないでほしい!私は自分の意志で、ダイチにキスをしたんだ!」

  そう言った後、レオンは僕の前から去っていった。…レオンからの言葉の意味。…あれは、そうとらえても、いいのかな?…手の甲に感じた唇の感触とあいまって、僕は赤面してしまった。

  …ダイチと過ごす何気ない日常。それは私にとってかけがえのないものになっていた。ダイチが作る料理はおいしくて、今まで苦手だったにんじんも、ダイチの作る料理なら食べられると思った。自分にとって、ダイチは自分の苦手だったものを素直に話せる、大きな存在になっていたんだな。そして、ダイチの意見を基にしたダンスパーティ。思いのほか皆に受け入れられ、個人的にもよかったと感じた。そして、ダイチと2人踊りあうとき、幸せを感じた。…だが、タイガ公がダイチに近づき、私に見せつけるようにダイチの手の甲にキスをした時、私は激しい怒りと嫉妬を感じた。…こんな気持ちになるのは生まれて初めてだった。それからも、様々な生徒に話しかけられる傍ら、ダイチのことを目で追っている自分がいた。狼獣人の男と踊るダイチ。楽しそうにバーグ公と話すダイチ。…嫉妬心は増すばかりだった。マリアから誘われ、一曲踊る。マリアから手の甲へのキスをお願いされたが私はしなかった。…いや、したくなかった。…ダイチ以外には。…ダイチだからこそ、私の唇を、許せるのだ。ダンスパーティの片付けが終わり、2人きりになった後、ダイチの手の甲にキスをした。ダイチだからこそ、したい行為だった。それから、一人の人間同士の立場ではなく、レオン個人である私とダイチの立場として、踊った。…私が、そうしたかったからだ。ダンスを終える。…だが、本当は私はその手を離したくなかった。…かなうことなら、ダイチと2人きりでずっと永遠に踊っていたい。…この幸せな気持ちを味わっていたい。…願うことなら、ダイチも私と同じ気持ちであってほしい…!私自身の自分の気持ちを自覚する。

  …そうか、私はダイチに…!

  タイガエピソード4-初めての叱責と温かな気持ち-

  秋が終わり冬がやってきた。ひらひらと雪が降り、肌寒さを感じてきた。

  週明けにベンチに座ってそんな景色を眺めている僕。そうしていると急に見知らぬ手で僕の目がふさがれた。

  「わっ!」

  「だーれだ?」

  いたずらっぽい口調で僕に告げる。…その声は…

  「タイガ!?」

  「あたりだぜ!ダイチ!」

  ガハハと笑いながらその両手を上げ、僕の目に現れるタイガ。まるでいたずら成功だと言わんばかりの表情だ。

  「もう、タイガったら…ところで、どうしたの?わざわざいたずらをしに来ただけじゃ、ないんだよね?」

  「さすがダイチ、俺様のことをわかってるじゃねぇか!ガハハ!」

  「それで、用件は?」

  「ダイチ、今週の週末、空いているか?」

  「僕?この週末なら、空いてるよ!」

  「それはいい!だったらこの週末、俺様と水族館に行くんだ!」

  「水族館?…珍しいね。ごめん。タイガのチョイスとは思えなかったから…」

  「実はな、イルカのショーがそこでは行われているらしくてな。ダイチなら好きだろうと思ってな!」

  「うん、イルカとか好きだよ!でも、よくわかったね。」

  「…ダイチのことなら、何でもわかるさ。」

  「…何?」

  「何でもねぇよ!せっかくの俺様とのデートなんだ!気合を入れろよ!」

  「デートって…タイガったら…」

  「なんだよ、ダイチは俺様とのデートが嫌だってのか?」

  「そんなことないよ。デート、楽しみにしているよ!」

  「当たり前だ、ガハハ!」

  「ねぇ、タイガ、デートに当たってのリクエストとか、ある?」

  「ダイチも結構乗り気みてぇだな!せっかくだ!昼食は向こうで食べるとして…さしあたってはデザートだな!よし、ダイチ!その日はデザートを用意するんだ!」

  「いいよ、リクエストはある?」

  「なんだか、なめらかなのどごしのお菓子が食べてぇ気分だな。」

  「分かった!水ようかんとか、フルーツのゼリーとか用意するね。ちょうど冬だから、冷たく食べられるだろうし!」

  「期待してるぜ!ガハハ!」

  「ところでタイガ。タイガの苦手な食べ物ってある?」

  「突然どうした?」

  「今まで、好きな食べ物しか聞いていなかったから。タイガにもあるのかと思って。」

  「俺様?あると思うか…だったら当ててみろよ!」

  「…かぼちゃ、ニンジン…」

  「残念だな!俺様別に苦手じゃないぜ!」

  「…トマト、なすび…」

  「…ダイチもしつこいやつだな…」

  「…ピーマン!」

  「うげっ!」

  「その反応は…さてはタイガ、ピーマンが苦手だね!」

  「そ、そ、そんなわけねぇだろ!ダイチ!」

  「ふーん。…だったら、次に会った時に作る料理はピーマンの肉詰めに決定だね!」

  「そ、それは勘弁してくれぇ!」

  「ふふふっ…まるで子供みたい…かわいいよ、タイガ!」

  「うっせぇ!俺様をここまでコケにできるのはダイチだけだなぁ!」

  「ごめんごめん…でもね…」

  「…んだよ…」

  「好き嫌い、出来ればなくした方がいいと思うんだ。もし、タイガがピーマン料理を克服したいんだったら僕も協力するよ…だから…」

  「ダイチ…チンジャオロースだ!」

  「…え?」

  「くそっ!俺様にこれ以上言わせるなよ!そこまで言うなら協力してやる!」

  「立場が逆だと思うんだけどな…」

  「なんか言ったか?」

  「…何でもないよ。分かった。タイガのために、腕によりをかけて作らせてもらうよ。」

  「…ダイチにはかなわねぇな…善は急げだ。今晩、振舞ってもらえるか。」

  「やる気だね、タイガ。もちろん構わないよ。」

  そして、料理のための食材を買いだし、僕の部屋で料理を作り始めた。

  「料理ができるまでくつろいでいていいよ。…って何ですでにベッドを占領しているのさ!」

  「ダイチの部屋は今や俺様の部屋だと言っても過言じゃないからな!ガハハ!」

  「もう、仕方ないな…」

  こうなったらタイガは聞く耳を持たないだろう。仕方がない。僕は料理に専念することにした。そして、料理ができる。

  「お待たせ。できたよ。」

  「…出来ちまったか…」

  そして、タイガは目の前の皿にあるチンジャオロースを敵を見るような目で見る。安心させるよう先に僕は料理を口に含む。僕の食べる姿を見て意を決したのだろう。タイガは口を開き、目の前の料理を食べた。

  「どう…かな?」

  「…美味いぜ!ダイチ!俺様がピーマンを食べるなんて夢にも思わなかったぜ!」

  「よかった、口に合ったみたいで。」

  「でもちょっと味付けが濃いか?」

  「少しでもピーマンの苦みが抑えられるように工夫したからね!」

  「えらいぜ!ダイチ、褒めてやるぜ!ガハハ!」

  そう言いながらタイガは僕が作った料理を全て食べてくれた。片づけを終え、タイガが自室に戻ろうとする。

  「ダイチ、週末の約束、忘れるんじゃないぞ!」

  「わかってるよ、タイガ!…でも、最近寒さが増しているから、風邪をひかないようにね!」

  「俺様を誰だと思ってるんだ、ダイチ。ぜってぇ、そんなへまはしないぜ!ガハハ!」

  最後に高笑いした後、タイガは去っていった。

  そして、当日。セイント学園のベンチで待つ僕。待ち合わせ時間になってもタイガは現れなかった。…珍しい。最近のタイガでは考えられないことだった。そして30分後、僕の目の前にタイガが現れた。

  「待たせたな!ダイチ。」

  そう言って現れるタイガ。なんだか顔が少し赤い気がする。

  「…タイガ…なんか少し、変だよ?」

  「そんなことないぜ、ダイチ!それじゃあ、行こうぜ!」

  そう言いながら歩き始めるタイガ。…若干声がかすれているような気がする。よく見れば、足取りもふらふらしている。…もしかして…

  「タイガ、もしかして熱あるんじゃ…」

  「大丈夫だぜ!ダイチ!」

  「ちょっと顔、貸して!」

  そう言って強引にタイガの顔を振り向かせ、ぼくの手をタイガのおでこに当てる。

  「やっぱり熱、あるんじゃないか。…今日は自分の部屋で休んだ方がいいよ!」

  「俺様は大丈夫だ!」

  「大丈夫なわけないでしょ!?」

  つい、声を荒げてしまう。思えばタイガにこんな声を出したのは、初めてだった。

  「こんなに熱があるのに、大丈夫なわけないでしょ?体だってふらふらしているし、こんな時は体調を優先するのが普通でしょ!?」

  「ダイチ…だがな…」

  「僕だって、タイガがそんな様子じゃ、デートなんて、楽しめないよ。タイガには元気でいてほしい。…それでも行きたいんだとしても僕は行かない!タイガの体の具合が治るまで、行かないからね!」

  …つい、声が涙ぐんでしまい、僕の目から涙がポロリとこぼれた。

  「ダイチ…分かった。…今日はすまねぇ。俺様、自室に戻らせてもらうぜ…」

  一人で帰ろうとするタイガ。僕はそんなタイガに寄り添い、体を支えた。

  「…ダイチ?」

  「こんなタイガをほっておけるわけないでしょ?今日と明日、タイガの看病、させてもらうよ。」

  「ダイチ、すまねぇ…」

  「…こういう時は、ありがとう…だよ」

  「…ありがとう、ダイチ。」

  そう言って、タイガの部屋へと2人ではいる。ベッドの上に物があったため、机の上にいったん置き、タイガを寝かせ、体温計で熱を測る。

  「38度5分…やっぱり熱があるんじゃないか!」

  「…せっかく、ダイチが楽しみにしてくれたデートだったんだ。…だから多少…」

  「水族館へはいつでも行ける。だから今度は、元気になったタイガと笑顔で行こう!」

  そう言って、タイガに笑顔で告げる。タイガも笑顔を返したが、どこか弱弱しい笑みだった。

  「喉も悪そうだね、タイガ。…ちょっと待ってて…」

  「行かないでくれ…ダイチ…」

  宙に差し出されたその手。僕はその手を優しく握りながら元気づけるようにタイガに告げた。

  「タイガ、大丈夫。ちょっと材料を買ってくるだけだから。」

  そう言って僕は看病のための材料を買いに購買に向かった。そして、10分ほどして、僕はリンゴを擦ったものをタイガに食べさせてあげた。

  「タイガ、喉、大丈夫…食べられそう…?」

  「ダイチ、これくらいなら大丈夫だ。」

  「…よかった。」

  「甘くてうめぇな。」

  「うん。蜂蜜を入れたんだ。喉にも優しくて栄養もある。今のタイガにはぴったりだと思って。」

  「ありがとうな。ダイチ。」

  すりおろしリンゴを食べた後、タイガがお礼を言う。

  「タイガ、少し眠った方がいいよ…僕、お皿、片づけてくるね。」

  「…行かないでくれ…ダイチ。」

  ふたたび差し出されるタイガの手。…その手はどこか弱弱しく、縋りつく何かを求めているようにも見えた。

  「分かったよ、タイガ。この手を離さないから…だから、少し、眠った方がいいよ。」

  再びタイガの手を握る僕。安心したのだろうか。タイガはすやすやと寝息を出し始めた。しばらくそうしたのち、もう大丈夫だと思った僕はそっとタイガの手をベッドの上に置き、夕食の下ごしらえをした。

  そして夕食時、眠っていたタイガが目を覚まし、僕に告げた。

  「ダイチ、ずっといてくれたのか?」

  「当たり前でしょ?こんなタイガを放置したまま帰るなんてできるはずないよ。…そろそろお腹すかない?」

  その時、ぐぅっ…とおなかが鳴る音がした。タイガの腹の音だった。

  「別に、俺様は…」

  「こんな時くらい、正直になっていいんだよ。タイガ。」

  「ダイチ…そうだな。俺様、お腹がすいた。」

  「よかった。あとは温めるだけだから、ちょっとだけ待ってね。」

  そう言った5分後、雑炊を作った僕はタイガに食べさせるべく持ってきた。

  「ちょっと熱いかもね…ふぅふぅ…はい、タイガ。あーん。」

  「ダイチ、俺様は…いや、ありがとう。いただくぜ。」

  そう言った後、タイガは僕が持っていたスプーンを口に含み、雑炊をすべて平らげた。その後、熱を測った。

  「38度2分…まだまだ高熱だね…」

  「ダイチ。」

  「そんな顔をしないで、タイガ。また明日来るから、ゆっくり休むんだよ。」

  タイガの手を握りながら告げた後、タイガの部屋を出た。

  そして、翌日。約束通り、タイガの部屋の前にやってきた僕。タイガは迎え入れてくれた。

  「タイガ、体、どう?」

  「…昨日よか、幾分かましだな…」

  タイガの熱を測ってあげる。

  「37度8分か…まだちょっと高いね。朝、食べてないでしょう?今から作ってあげる。台所、借りるね。」

  そう言って、30分ほどかけて朝食のスープを作った。

  「はい、タイガ。野菜のスープ。…トロトロになるまで煮込んだから。食べやすいよ。スープだから、ちょっと冷めても風味が変わらないから、少し冷ましておいたよ。」

  「ダイチ、ありがとうな。…美味いな。このスープ。」

  「ホント!?よかった…」

  「…まさかピーマンなんかいれてないだろうな?」

  「…変なところで心配性だなぁ…タイガは。もちろん、入れてないよ。」

  「ならいい。…でもまぁ、このスープなら、ピーマンを入れても問題ないだろうがな…」

  「…次スープを作る時、こっそりピーマン、入れちゃおうかな?」

  「…俺様をいじめないでくれよな。ダイチ。」

  「…タイガ、かわいい…。」

  「…ありがとよ。」

  「素直なタイガの方が僕、好きかな?…いつものタイガも好きだけどね!」

  「…ダイチ。」

  「せっかくだから、持ってきた本でも読ませて時間をつぶさせてもらおうかな。椅子、借りてもいいかな?」

  「…構わねぇぜ。…なんていう本なんだ?」

  「聞いたところ、ちょっと面白い感じの小説で、義兄弟っていうタイトルの本なんだ。」

  「いつかその本、貸してくれや。」

  「分かったよ、タイガ。」

  そう言って僕は本を読ませてもらう。本当は会話をしたらいいのだろうが喉を悪くしてもよくない。タイガもそれを理解しているのだろう。僕に対し、何も言わなかった。昼は、うどんを作ってあげた。今回もふぅふぅと冷ましてあげた。タイガは何も言わず素直にうどんを食べてくれた。…全部食べてくれた。食欲も多少は回復したのだろう。…いいことだ。

  「タイガ、よかったらゼリー、食べる?ほら、前約束したでしょ?水族館にゼリーを作って持っていくって。」

  「ダイチ…いただくぜ。…甘くておいしいぜ。」

  「羊羹も食べれそう?こしあんを使ったから、喉への負担は少ないと思うよ。」

  「ありがたく、食べさせてもらうぜ。」

  「…ねぇ、タイガ。汗かいてない?」

  「…ちょっとかいているな。」

  「よかったら、ぬれタオルで汗、拭ってあげようか?」

  「…俺様の体を、ダイチがか!?」

  「い、いやだったらいいけど…」

  「…嫌じゃねぇ。してくれたら、ありがたい。」

  「分かった。じゃあ、服、脱いでくれるかな?」

  僕からの言葉に対し、タイガはすぐに服を脱ぐ。上半身が裸のタイガの姿。筋肉でがっしりしており、雄だと示すような体つきをしていた。つい、ドキドキしてしまったが、雑念を切り替え、タイガの上半身を拭いてあげた。そして、下半身。さすがに大事な部分までは拭くのははばかられるため、パンツは履いたままにしてもらった。俺様はいいんだぜ…とか言っていたが、上半身だけでドキドキしっぱなしなんだ。もし拍子に、大事なところを触ってしまったら、僕の方が熱が出てしまう。下半身もがっしりしており、上半身と合わせて、タイガは雄なのだということをしみじみと実感させた。汗を拭いた後、熱を測ってあげる。

  「37度5分か…だいぶ下がってるみたいでよかった。」

  「ダイチ、ありがとうな。」

  「どういたしまして。…僕は夕ご飯の準備をするね。」

  そう言って30分後、雑炊を作ってあげた。タイガは雑炊をすべて平らげた。

  「タイガ、コンロは使えそう?」

  「…それくらいなら、何とかできそうだ。」

  「よかった。明日の朝の雑炊を作るためのスープ、残してあるんだ。あとはご飯を入れれば食べられるようにしてある。ご飯の予約はしてあるから、大丈夫だよ。」

  「何から何までありがとよ、ダイチ!」

  「うん。じゃあ、僕はこれで…」

  「…ダイチ!」

  「…?」

  「最後に、俺様のお願いを聞いてくれないか?」

  「いいよ、タイガ。」

  「…俺様の頭、なでてくれ…」

  タイガからのお願いに僕は言葉ではなく頭をなでることで返事をした。タイガは満足そうな顔をしてくれた。

  「それじゃあね、タイガ。…ゆっくり休んでね。」

  そう言って、僕はタイガの部屋を出た。

  その2日後、タイガの風邪はすっかり治ったみたいで、今週の週末こそ水族館に行くぞと告げた。幸運なことに、僕が風邪をひくことはなかったので、タイガとの水族館をめいいっぱい楽しむことができた。

  …ダイチと過ごす何気ない日常。それは俺様にとってかけがえのないものになっている。ダイチの作る料理やお菓子はどれもうまい。…それがたとえあの食材を使っていたとしてもだ。運悪くダイチにその食材を知られてしまった。その食材はピーマン。子供だとは我ながら思うが、どうしてもあの苦みが苦手だった。だが、ダイチの作る料理は別で、ピーマンであったとしても、食べることができた。水族館デート…正直そのことに浮かれ切っていた。俺様は運悪く風邪をひいていた。…もし同行するのが他の奴らなら馬鹿にされていただろう。だが、ダイチは俺様の身を案じてくれた。…初めてだった。あんな風に俺様の身を案じて叱ってくれたことは。そして、温かかった。その心が。…その手が。手を握ってほしいという我ながら子供じみた願いでも、ダイチはかなえてくれる。優しい笑顔で。そして料理もおいしい。…ダイチの恋人になる人は、きっと幸せだろう。それが俺様なら、どれほど幸せなのだろう。…でも、もし俺様以外の奴なら。…嫉妬心でおかしくなりそうだった。…次の日もダイチはやってきてくれ、俺様の看病をし、料理を作ってくれた。そして、体を拭いてくれた。…無防備な自身をさらけ出すこと。他の奴らの前では決してそんなことできねぇ。…だが、ダイチなら俺様の弱さをさらけ出せる存在だと実感する。…あの場では冗談交じりで言ったが、俺様の下半身を触られたら、ダイチに何をしていたか俺様自身、わからねぇ。…自分が抑えきれないだろうと感じた。最後に俺様の頭をなでてくれたダイチ。その温かさが何よりも俺様に響いた。…初めてだった。他者にこんな気持ちを感じたのは。温かな手を俺様自身で守ってやりてぇ…幸せにしてぇ…誰にも渡したくねぇ…!

  …そうか、俺様はダイチに…!

  ロウガエピソード4-いつも勇気をくれるその声に-

  秋が終わり冬がやってきた。ひらひらと雪が降り、肌寒さを感じてきた。

  今日も僕とロウガ君は図書館で勉強会。…初めて勉強会をした時と比べて、ロウガ君の学力はめきめきと向上していた。語学だけでなく、数学に関してもそうだ。

  「ロウガ君。…うん、あってるよ。」

  「本当っすか!?よかったっす…結構難しい問題だったから。」

  「そうだね、これは応用問題だから難しく感じるのは当然だよ。…でも、そんな問題も、ロウガ君は解けるようになった。…かなりの進歩だよ!」

  「…そう言ってくれると、嬉しいっす!」

  「…これなら、これからは勉強会の必要もないかな…」

  「どうしてっすか…?俺、ダイチ先輩とする勉強会、楽しみにしてるんすよ!」

  「ごめんね。…もう冬だし。ロウガ君に勉強を教えられる時間も、あとわずかだから…」

  「…もうすぐ、ダイチ先輩とお別れなんすね…」

  「…悲しんでくれるの?」

  「当たり前っす!ダイチ先輩は俺の…その…恩人…なんっすから!」

  「…ありがとう、ロウガ君。そう言ってくれると嬉しいよ。」

  「確かに、ダイチ先輩もいつまでも俺の勉強を見てくれるわけじゃないっすもんね…」

  「そうだね。…でも、今のロウガ君なら大丈夫。きっと、最適な勉強法を見つけられる。だから、自信をもって!」

  「ダイチ先輩…分かったっす!俺、ダイチ先輩に甘えてました。一人でも、頑張るっす!」

  「ロウガ君。今のロウガ君には友達がいるんだから、決して一人じゃないこと、忘れないでね!」

  「…そうだったっす!今の俺には友達もいるんす!一人ぼっちの、俺じゃないんす!」

  「そうだよ!ロウガ君!」

  「ダイチ先輩、励ましてくれてありがとうございますっす!…でも、次の定期テストが終わるまでは勉強会を続けてくれるとありがたいっす…」

  「そうだね。うん、もちろんいいよ!」

  「ありがとうございますっす!…先輩のおかげで前回のテスト、数学が平均点に届いたんす!今度のテストは平均点プラス10点を目指すっす!」

  「その意気だよ、ロウガ君。でも、油断して、数値を間違えるようなケアレスミスはしないようにね!」

  「大丈夫っす!見直しはきちんとしてるっす!心配ないっす!」

  「それならいいよ…だったら、ロウガ君。もし、次のテストで数学の点数が平均点より、10点高かったら、ご褒美を込めて好きな食べ物、作ってあげる!」

  「本当っすか!?」

  「もちろんだよ!」

  「楽しみっす!…先にリクエストしてもいいっすか?」

  「いいよ、何がいい?」

  「パエリアがいいっす!」

  「…意外。てっきり、肉料理のリクエストかと思った。」

  「いっつも肉だからっす!だからこそ、魚介も食べてみたいんす!いろんなダイチ先輩の料理を食べたいんす!」

  「分かった、パエリアだね!約束してあげる!」

  「約束っすよ!ダイチ先輩!」

  そして、運命の定期テスト。そして返却日。学校が終わるや否やロウガ君は図書館に入ってきた。

  「ダイチ先輩、俺、やったっす!平均点よりも12点上回ったっす!…今回のテスト、難しめに作ったみたいっすから平均点は低めだったんすけど…でも、俺、やったっす!」

  「ロウガ君、おめでとう!…でも、ここは図書館だから、お静かに…ね。」

  「…すみませんっす。」

  「…でも、約束だもんね。じゃあ、今週末、作ってあげるよ!」

  「…ありがとうございますっす!ダイチ先輩!」

  「じゃあ、今週末は僕の部屋に…」

  「…せっかくだから、俺の自室で作ってほしいっす!」

  「えっ?」

  「いつも、ダイチ先輩の部屋にお邪魔しっぱなしっすから。たまには俺の部屋で作ってほしいっす!…実はあこがれなんっす。おいしいにおいがあふれる自分の部屋っていうのが。…今までの人生で、無かったっすから。…あっ、両親が俺に対して冷たいという意味じゃないっすよ!…なんかあこがれるんす!自分の家に帰った時においしい料理のにおいがして、俺の帰りを奥さんが待ってくれる…そんな生活が!…ダイチ先輩なら、いい奥さんになれるっすよ!」

  「ロウガ君。僕は、男だから奥さんではないよ…でも、分かった。今回はロウガ君のご褒美だもんね。じゃあ、今週末はロウガ君の部屋で料理を作らせてもらうね。」

  「…俺の願いをかなえてくれて、ありがとうございますっす。ダイチ先輩。それと…」

  「…?」

  「今まで俺に勉強、教えてくれてありがとうございましたっす!」

  「こちらこそ、良い経験になったよ。」

  「…ダイチ先輩、勉強会が終わっても、ここに来てもいいっすか?」

  「もちろん、構わないよ。」

  「ありがとうございますっす!ダイチ先輩!ひとまず、今日は部活があるからこれで失礼するっす。週末、楽しみにしてるっす!」

  そう意気揚々と告げた後、ロウガ君は去っていった。…さすがに、もう一度図書館ではお静かにと野暮なことは言わなかった。

  そして、週末。約束通り、パエリアの具材をもってロウガ君の部屋にやってきた。

  「入ってくださいっす!ダイチ先輩!」

  「お邪魔します。」

  そう言ってロウガ君の部屋に入る僕。ほとんど来たことのないロウガ君の部屋は新鮮さを僕に感じさせた。

  「思ったより、片付いているね。」

  「なっ!?ダイチ先輩!俺が部屋を片づけられない男だと、思ってたんすか!?」

  「ごめん、ごめん。気に障ったんなら、謝るよ。」

  「別にいいっす…実はその通りなんすから。」

  「え?」

  「俺の部屋にダイチ先輩が来ることが決まったから、あの後慌てて片付けたんす!慣れない掃除機とか使って。」

  「…いつもはどんな部屋なのさ。」

  「…想像にお任せするっす…」

  「しょうがないなぁ、ロウガ君は。これは、ロウガ君の奥さんになる人は、大変だろうね。」

  「…俺だって、そんな人ができたら、きちんとするようにするっすよ!」

  若干すねたような声を出したロウガ君が、僕に対し言い訳がましく、告げた。

  「夕食まで時間があるね。せっかくだから、ロウガ君から陸上部の話、聞きたいな!」

  「そうっすね!俺も話したいっす!」

  「そういえば、今まで借りた本の中で参考になる内容、あった?」

  「やっぱり、スタートの方法っすね!それと、呼吸法もそうっす!」

  「呼吸?」

  「どっちかっていうとメンタルケアの方っすね。ほら、気持ちが乱れていると呼吸も乱れるっていうじゃないっすか。そういうときこそ、一定の呼吸をするように気を付けて自分を落ち着かせるんす。あとは、規則正しい生活の重要性…すね!」

  「ロウガ君、規則正しい生活、きちんと送れてる?」

  「失礼っすね、ダイチ先輩!もちろん送れてるに決まってるじゃないっすか!」

  「ホントかな?」

  「ホントっすよ!…まぁ、確かに陸上部に入ったばっかりのころは、夜更かしすることとかあって、つい授業中寝てしまったり、陸上部でうまく走れなかったりすることがあったっすけど。今はそんなこと、全然ないっすよ!ダイチ先輩は?夜更かしとかしちゃうんすか?」

  「僕?…実は、あるんだ。夜更かししちゃうこと。小説を読んでいるとついつい時間を忘れちゃって、気付いたら夜中になってたな…。」

  「ダイチ先輩の方が、不規則な生活っすね!」

  「一本取られたね…でも、ロウガ君とのウォーキングの前の日は、遅れないように早寝することを心掛けているんだからね!」

  「少しでも、ダイチ先輩の健康の役に立っているなら本望っす!」

  「そういえば、ロウガ君って短距離と長距離、どっちがメインなの?」

  「部活に入りたてのころは両方やってみたっすけど、今メインなのは短距離から中距離っすね。…実は先輩、俺、レギュラーに選ばれたんすよ!」

  「ホント!?すごいね!」

  そう言いながらロウガ君の頭をなでてあげた。

  「ありがとうございますっす!ダイチ先輩。…実は2週間後の週末に近くの競技場で大会があるんす!」

  「ロウガ君も出るの?」

  「もちろん、俺も出るっすよ!」

  「凄いね!何の競技に出るの?」

  「200m走と400m走と800m走の3つっす!」

  「そんなに出るんだ!すごいね!…自信のほどは?」

  「もちろんばっちり!…と言いたいんすけど、200m走だけはそこまで自信がないっすね…」

  「どうして?」

  「俺、スロースターターというべきなのかわからいっすけど、後半の伸びの方が強いんす。だから、すぐに結果が出てしまう短い距離に関してはそこまでなんっす。」

  「…そうなんだ。」

  「でも、俺、手を抜くつもりはないっすよ。どれも入賞を目指すっす!」

  「やる気だね!ロウガ君。」

  「昔の俺じゃあ、こんなこと考えられないっす!…こんな気持ちになったのもダイチ先輩のおかげっす!」

  「…ロウガ君の役に立てたようで、僕、嬉しいよ。」

  「ダイチ先輩。よかったら俺のこと、応援に来てほしいっす!」

  「2週間後の週末って言ってたよね?」

  「そうっす。」

  「ごめん。午前中は生徒会の予定が入ってて…でも、午後からなら応援に行けるよ!…それでも、構わないかな?」

  「もちろんっす!ダイチ先輩が応援に来てくれるだけで、満足っす!」

  「じゃあ、応援に行かせてもらうね。…そろそろいい時間になったし、僕はパエリアの調理の方に取り掛からせてもらうね。」

  「分かりましたっす、ダイチ先輩!」

  そう言って、パエリアの準備に取り掛かる。味付けをし、あとはフライパンの中でご飯が炊きあがるのを待つだけだ。

  「いい匂いがするっす…」

  「もうすぐ出来上がるよ!」

  「…ダイチ先輩。せっかくのごほうびなんっす。俺のお願い、聞いてくれてもいいっすか?」

  ロウガ君から耳元でささやかれるお願い。若干恥ずかしかったがロウガ君からのお願いなのだ。ご褒美を兼ねてかなえてあげることにした。…5分後、ドアがノックされる。

  「おかえりなさい、ロウガ君。」

  「ただいまっす!…いいにおいっすね!今日のご飯はなんっすか?」

  「今日のご飯はパエリアだよ!」

  「…夢がかなったっす!」

  感極まったロウガ君がいきなり僕に抱きついてきた。逞しくなったロウガ君に抱きつかれ、僕はドキドキしてしまった。

  「ロウガ君。恥ずかしいよ…」

  「ごめんっす。でも、こんなやり取りができたことが嬉しくって!ダイチ先輩!パエリア、一緒に食べるっす!」

  そう言って、ロウガ君とパエリアを食べる。気に入ってくれたのだろう。ロウガ君は大盛りによそったはずのパエリアを平らげ、更にお代わりを要求した。

  そして、2週間後の週末。約束通りロウガ君の応援にやってきた。すでに、周りには観客がいて、選手を応援しているようだ。…あっちに、女子の集団がいる。それに、アンさんの姿も見える。耳を澄ませるとロウガとの声が聞こえたため、アンさんを含めた女子の集団はロウガ君を応援しに来たのだろう。その時、競技を終えたであろう陸上部の同級生の友達を見かけたため、話しかけることにした。

  「お疲れ様です。」

  「ダイチか、ありがとう。…もしかしてロウガの応援か?」

  「そうです。…ロウガ君の様子、どうですか。」

  「…正直に言うと、よくないな…200m走に関しては、まだ仕上がっていないから結果が出ていない。それは無理もないとわかっている。だが、800m走でも、入賞を逃したのは、惜しいな…」

  「体の不調…?」

  「いや、どっちかといえば気持ちの問題なのだろう。…初めての大会なんだ。無理もない。緊張と相まっていつも通りの走りができていない。…最後の400m走では、結果が出てほしいものだが…」

  「ロウガ君なら、大丈夫ですよ。」

  「…ダイチがそう言うと大丈夫だと思えて不思議に仕方がない。…そろそろ、400m走が始まる。…ロウガを、応援してやってくれ。」

  それだけ言うと、友達は去っていった。

  ロウガ君がトラックに近づく。やはり緊張しているのか、どこか表情も硬い。

  「ロウガ、頑張って!」

  「ロウガ、ファイト!」

  周りからロウガ君を応援する声が聞こえる。その中にはアンさんの声も聞こえた。それでも、ロウガ君の表情は硬い。…僕にできることは、ロウガ君を応援することだけだ。だが、それでも、僕の声を届けたい。僕は大きく息を吸い、声を上げた!

  「フレー、フレー、ロウガ!」

  僕の大声を聞いて反応したロウガ君が僕の方を向く。アンさんを含む周りの女子が僕の方を向いたが、気にしない。

  「ロウガ君!自分を信じて!どんな結果でも構わない!かっこいいロウガ君の姿を僕に見せて!」

  精一杯の僕の応援。…少しは気持ちがほぐれたのかな…?ロウガ君の顔に笑みが浮かんでいた。そして、運命の400m走。パァンという音とともにロウガ君は走り出した。最初はほかの選手と並ぶような走りを見せる。だが200mを過ぎたあたりからスピードを上げ、他の選手を追い抜く。…そして、

  「400m走1位は…セイント学園のロウガ!」

  わぁっと周りから拍手が送られる。女子の集団も手を取り合いながら喜んでいる。トラックから戻ってきたロウガ君に向けて僕は告げた。

  「かっこよかったよ!ロウガ君!」

  僕のその声に、ロウガ君はガッツポーズを上げて応えてくれた。すべての競技を終えた後、閉会式が行われる。周りの女子の集団もそれぞれ帰っていく。友達に聞いたところ、閉会式の後、陸上部で集まって軽いミーティングを行うそうだ。僕が行っても邪魔になりそうなので、僕も先に帰らせてもらうことにした。

  …そして、一人で自室に戻り、夜を迎える。もうそろそろ寝ようかなというときにコンコンとノックの音が鳴った。誰だろうと思い外に出るとそこにはロウガ君がいた。

  「どうしたの?ロウガ君。」

  「…ダイチ先輩にお礼を言いに来たんす。」

  「お礼を言われるほどのことなんかしてないよ。ただ、ロウガ君を応援しただけで。」

  「そんなことないっす!ダイチ先輩の応援があったからこそ、俺は頑張れたんっす!…ダイチ先輩…」

  「…?」

  「俺のかっこいいところ、ダイチ先輩に、見せられたっすか?」

  「もちろんだよ!走る姿、とってもかっこよかったよ!」

  「ホントっすか!?」

  「嘘なんか言わないよ!あの中で、一番かっこよかったよ!それに、とっても生き生きしていた!」

  「嬉しいっす!」

  そう伝えた後、ロウガ君は僕にハグをしてきた。恥ずかしかったが、僕もハグを返した。そのままの状態のまま、ロウガ君が口を開いた。

  「ダイチ先輩。俺…。」

  「…?」

  「先輩には感謝してもしきれないんす。ずっと、ダイチ先輩からもらってばかりの俺だったから…」

  「ロウガ君。」

  「…今日は本当に応援に来てくれてありがとうっす!俺の大切なダイチ先輩に俺の活躍する姿を見せられたこと、自分自身を褒めてやりたいっす!…今日は夜遅いのでこれで失礼するっす!」

  ひときわ強くハグをした後、僕の体から離れ、ロウガ君は去っていった。

  …ダイチ先輩と過ごす何気ない日常。それは俺にとってかけがえのないものになっていたっす。いつも俺に優しく勉強を教えてくれたダイチ先輩。ダイチ先輩がいなかったら勉強についていくことなど不可能だっただろう。…勉強会自体を終えると聞いた時、正直寂しかったっす。…でも仕方がないっす。ダイチ先輩の卒業も近いっすから。ダイチ先輩に勉強に関して何も心配することはないと示したかったっす。だから、今まで以上に勉強を頑張ったっす。ご褒美と言って、俺はパエリアをねだったっす。…実は俺にはあこがれがあったんっす。俺の帰りを待ちながら料理を作ってくれる存在。…そんな願い。そして、今日そのあこがれがかなった。…嬉しかった。その理由もわかっているっす。お帰りと言ってくれた相手がダイチ先輩だったからっす。他の人だったら、たとえ同じ料理を用意されていても、こんな幸せな気持ちにはならなかったっす。…大切なダイチ先輩…だったから。もらってばっかりだった俺。少しでも、ダイチ先輩の隣に立つにふさわしい雄になりたい。…俺のかっこいい姿をダイチ先輩にもっと見てほしい。だから、陸上の大会でいいとこを見せようとしたっす。でも、緊張してしまって、800m走ですら入賞できなかった。気持ちが落ち込む。…緊張と相まって、体が思うように動かない。周りから俺を応援してくれているはずの声も、俺には届かない。…やっぱり俺はあの村でいた時と同じ。何もできない存在でしかないのかな…。その時、声が聞こえた。…その声だけははっきりと聞こえる。ダイチ先輩の声だ。ダイチ先輩が大声を出して応援してくれた。その声に勇気が沸き上がった。…どんな結果であれ、ダイチ先輩だけには俺のかっこいい姿を見せたい。…もう、あの頃の俺じゃないと証明したい!…俺は今の自分を取り戻すことができた!だから、1位を取ることができたっす!そして、夜。ダイチ先輩にお礼を言い、思わずハグをしてしまった。…今や背丈は俺の方が大きい。…こんな小さな。でも暖かな存在だと改めて認識したっす。…温かくて、優しく、いつも勇気をくれるその声。…手放したくない。守りたい。…そして、俺だけのものにしたいという独占欲が沸き上がる。…こんな気持ち、ただの友達なんかに起こらない。今までダイチ先輩からもらった分。俺自身がダイチ先輩を幸せにすることでかなえたい!願うことなら、ずっと俺だけの側に居てほしい。俺だけの帰りを待っていて欲しい!

  …そうか、俺はダイチ先輩に…!

  バーグエピソード4-誓いの儀式と自らの想い-

  秋が終わり冬がやってきた。ひらひらと雪が降り、肌寒さを感じてきた。

  外での農作業は若干辛いものがある。だが、収穫される野菜を見るたびに、そんな辛い気持ちも吹っ飛ぶ。今日もバーグと畑仕事をしながら他愛のない話をした。

  「バーグ。この畑でとれたにんじん、シチューにしたらとても美味しかったよ!」

  「そうか、ダイチの料理はどれもおいしいもんな。きっと、シチューもおいしいんだろうな。今度、作ってくれないか?」

  「もちろん、構わないよ。」

  「楽しみだ…そういえばダイチ…」

  「…?」

  「冬と言ったらやっぱり鍋だよな。ダイチは鍋とかはするのか?」

  「うーん、そこまでしないかな。一人だし。」

  「…だったら、今週末わしの部屋で鍋を作ってくれないか?」

  「バーグの部屋で?」

  「ああ、カオリも誘ってな。…カオリが最近、豆乳鍋というものをたべてみたいといったからな。わしは知っての通り料理は出来ない。だから、ダイチ。もし、よかったら…」

  「もちろん、構わないよ!」

  「ホントか?」

  「当たり前じゃない!僕とバーグの仲じゃないか!…バーグ、苦手な食べ物とかある?」

  「とくにはないぞ。」

  「じゃあ、カオリは?」

  「カオリも、苦手な食べ物はなかったはずだ。」

  「よかった。じゃあ、鍋に入れる具材は僕が決めて構わない?カオリには、スープを用意もらえたら、ありがたいな。」

  「カオリにはわしから伝えておこう。…今週末、楽しみにしている。」

  そして、週末。バーグの部屋で鍋パーティを楽しむ。僕のお願い通り、カオリはスープをすでに調達してくれていた。僕とカオリで台所に立ち、具材を切る。

  「ダイチ先輩、しめじはこんな感じでよろしいでしょうか。」

  「構わないよ、カオリ。それにしても手際がいいね!」

  「うふふ。これでも淑女ですから。一通りの家事は出来ますわ!ダイチ先輩の方こそ、素晴らしい手際ですわ!お兄様にあらかじめ伺っておりましたが、料理ができるのは、本当みたいですわね…。」

  「ありがとう、カオリ。」

  「ダイチ先輩の得意料理は何なのでしょう?もしくは最近はまってる料理とかを教えていただけると、嬉しいですわ!」

  「そうだね…やっぱりお菓子を作るのが、好きかな。最近はバーグの畑でとれたかぼちゃのパイとかをよく作るかな…それ以外だと、キッシュとか…。」

  「素晴らしいですわ!料理ができる殿方はやはりかっこいいと思いますわ!」

  「そうなんだ。…カオリは僕のこと変だとは思わないの?普通、男の人が料理はともかくお菓子を作るってことは周りから見て珍しいと思われているから。」

  「私はそうは思いませんわ!素晴らしいことだと思います。やはりできないよりもできる方がかっこいいと思いますわ!」

  「ありがとう、カオリ。」

  「どういたしまして、ウフフ。…ダイチ先輩。」

  「…?」

  「…いえ、何でもございません。そろそろ、出来上がりそうですわね!それでは、持っていきましょう!」

  そして、出来上がった鍋をバーグのもとに持っていった。

  「お待たせいたしましたわ、お兄様!」

  「バーグ、お待たせ!」

  「2人とも、ありがとう。…いい匂いだな。」

  「…豆乳鍋というものは初めて作ったから、楽しみですわ!…それにダイチ様が選んでくださった具材ですもの。きっとスープにあうと思いますわ!」

  「豆乳鍋のレシピは本で見たことがあったからね。役に立ってよかった。」

  そう言いながら3人で鍋をつつきあう。時折、バーグに具材を勧めるなど、和やかな雰囲気の中で行われた鍋パーティ。

  「…こうしてみると、なんだか家族見たいですわね!」

  「か、家族だと!?」

  「ええ、お兄様とダイチ先輩と私。…何か変なことをおっしゃいましたか?」

  「い、いや…」

  「どうしたの、バーグ?そんなに慌てて…確かに今の状況、家族みたいだね!」

  「その通りですわ!お兄様とその奥さんのダイチ先輩!その食卓にお邪魔する私!…こう言っては何ですが、はたから見ると私、邪魔ものみたいですわね…」

  「お、奥さん!?僕が!?」

  「ええ、別におかしいことではありませんわよね…そうですわよね…お兄様?」

  「ダイチが…奥さん…」

  「何納得したような顔しているのさ!?バーグ。」

  「私、構いませんわよ!ダイチ先輩が義理のお兄様でも!私、喜んで義理の妹になりますわ!」

  「カオリ!?これ以上からかうのはやめてよ…」

  「ダイチが…俺の…俺以外の奴…」

  「ほら、カオリ!冗談言ったからバーグがどこか遠い世界に行っちゃったじゃないか!ほら、バーグ、戻ってきて!」

  「…私、結構真面目でしたのに…」

  そして、我に返ったバーグと再び鍋をつつきあう。そして、〆を含めて3人ですべて平らげた。

  「ごちそうさまだ、ダイチ、カオリ!…美味かったぞ!」

  「どういたしまして、お兄様!これもダイチ先輩の仕込みの良さとお兄様が提供してくださった野菜の質が良かったからですわ!」

  「僕の方こそ、楽しかったよ!バーグ、カオリ。…そろそろお暇させてもらおうかな?」

  「その前にダイチ先輩、お兄様。…少々、よろしいでしょうか?」

  「…?構わないよ、カオリ。バーグも、いいよね?」

  「わしも構わないが…」

  「ありがとうございます。…実はなんですが、お二人はボランティアに興味はございませんか?」

  「ボランティア?うん、まぁ、無くはないかな…」

  「実はですね、来週の週末なんですけど、孤児院のボランティアをしないかと、孤児院を運営しているシスターから提案を頂けましたの。」

  「珍しいね。カオリに孤児院と接点なんてあったんだ。」

  「実は昔、買い物の途中でそこに在籍しているシスターと偶然にもお話したことがありますの。お互い小説の話で盛り上がって、今では、文通をする仲ですわ!」

  「カオリ、恋愛小説すきだったもんね。そのシスターとも、恋愛小説の話で盛り上がったの?」

  「そうなんですの!だから、今回このようなお話を頂けたので私はぜひともお受けしたいと思っております…ただ…」

  「…?」

  「失礼を承知で申し上げますが、お兄様は…その、少々昔から子供から怖がられておりまして…だから…その…」

  「…」

  カオリの言葉に対し、バーグは無言だった。おそらくそれは肯定を意味しているのだろう。

  「…僕は構わないよ。せっかくだから、バーグも一緒に行こうよ!」

  「わしか…だがな…」

  「大丈夫!僕には秘策があるんだ!…ねぇ、カオリ。孤児院の子供たちって何人くらいいるの?」

  「確か、10人ほどでしたわ。」

  「だったら、僕がお菓子を作って持って行っても、構わないかな?」

  「もちろんですわ!きっと、子供たちも喜びますわ!」

  「…わしも、行こう…」

  「よろしいのですか?お兄様。」

  「せっかくの機会だ。…わしも参加してみたいと思っている。それに…」

  「…?」

  「実はわし、子供が好きなんだ…」

  「そうなんだ、初めて知った。ねぇカオリ、孤児院にはいつ頃行けばいいの?」

  「そうですわね…お菓子を持参していただくということでしたら、14時頃に孤児院に到着するのがよろしいかと…」

  「分かった、14時だね!それまでに準備をしておくよ。」

  「わしも、構わない。」

  「ありがとうございます。お兄様、ダイチ先輩。当日、楽しみにしておりますわ!」

  そう言った後、カオリがバーグの部屋から出ていった。

  「…ダイチ、今更なんだが…その、秘策というのは?」

  「それはね…」

  「…?」

  「バーグの畑でとれた野菜をお菓子の材料にしようと思ってるんだ!…そういえば、バーグに了承を得てなかったね。…構わないかな?」

  「もちろん、構わないぞ!わしの育てた野菜をもっと多くの人に食べてもらえる大切な機会だからな!」

  「ありがとう、バーグ。当日なんだけど、朝にバーグの部屋にお邪魔しても構わないかな?結構大人数になりそうだし、お菓子作りの手伝いをしてもらえると嬉しいな。」

  「それは構わないが、わしはお菓子を作ったことがない。だから、力になれるか…」

  「そんなことないよ!バーグにはね、茹でた野菜とかを細かくつぶしてほしいんだ。…お菓子作りって結構力がいるんだ。…だから、力の強いバーグに手伝ってもらえるとありがたいんだ!」

  「ダイチ。それならわしにもできそうだ。…もちろん手伝わせてもらう。」

  「ありがとう、バーグ。それじゃあ、当日、よろしくお願いします。」

  そして、当日の朝。約束通りバーグの部屋にやってきた。…作るお菓子やちょっとした料理は決めてある。野菜をつぶす作業はバーグのおかげで、楽をすることができた。…2人で作ったお菓子、子供たちが喜んでくれるといいな。

  そして、昼過ぎ。カオリと合流した僕たちは3人で孤児院前にやってきた。

  「カオリさん、本日は来ていただきありがとうございます。お二人もお忙しい中ありがとうございます。歓迎いたします!」

  シスターはバーグを見ても恐ろしそうな顔を見せなかった。…きっと、いろんな人を見てきたからだろう。

  「早速で申し訳ないのですが、子供たちに会ってもらえませんか?」

  「もちろんですわ!お二人も、構わないでしょうか?」

  「僕は構わないよ。」

  「…わしも、構わない。」

  シスターに案内され、大部屋へと招かれる。そこでは10人ほどの子供たちが遊び跳ねていた。僕たちの姿を見て喜ぶそぶりを見せたが、バーグの顔を見た途端、少し恐ろしいものを見るような顔になった。…バーグもそれを予想できたのか、すました顔をしているが、僕にはわかる。…しゅんと落ち込んでいるのだと。…だからこそ、僕とバーグで用意した秘策を披露する。

  「みんな、こんにちは!僕の名前はダイチ。隣のお姉さんがカオリで右の大きな男の人はバーグ!今日はみんなにプレゼントを持ってきたんだ!」

  「プレゼントって、なぁに?」

  「今日のためにね、僕たちお菓子を焼いてきたんだ!みんなで一緒に食べよう!」

  「お菓子!?」

  子供たちが嬉しそうな声を次々と上げてくれた。

  「それはいいですわね。それじゃあ、みんなで、食堂に行きましょうか。お三方も一緒に参りましょう。」

  シスターの先導の元、僕たちと子供たちは食堂に向かった。そして、僕たちが用意したお菓子を子供たちに振舞った。

  「このケーキ、美味しい!」

  「こっちのパイも!ありがとう、お兄ちゃん!」

  次々とお礼の言葉が告げられる。子供たちの顔はみんな笑顔で心からの笑顔だとわかる。

  「ねぇ、みんな。みんなはにんじんが好き?」

  「にんじん?きらーい!」

  僕からの質問に対し周りの子供たちから嫌いとの声が次々と上がる。

  「実はね…そのケーキにはにんじんが入ってるんだ!」

  「えっ!ホント!?こんなにおいしいのに?」

  「ホントだよ!そしてね、今日のお菓子で使用したにんじんは隣にいるバーグが作ったんだよ!」

  「ええっ!?しんじられなーい!」

  「それだけじゃないよ!パイに使われているカボチャも、キッシュに入っているほうれん草も、全部バーグが育てた野菜なんだよ!」

  「すごーい!」

  「僕、にんじんたべられたよ!ありがとう、お兄ちゃん!」

  次々とバーグへ感謝の言葉が告げられる。さっきまでの顔とは違って、みんな目を輝かせている。バーグは照れくさそうな。…でも嬉しそうな顔をしていた。

  お菓子を食べた後は、子供たちはみんなバーグの前にやってきた。もちろん笑顔で。

  他にどんな野菜を作っているのか。何をたべたらそんなに大きくなれるのかとか。様々なことを聞かれていた。とある一人の子が、バーグの方を向いて、お願いをしてきた。

  「バーグお兄ちゃん。…僕のお願いを聞いてもらっても、良いかな?」

  「お願いとは?」

  「あのね、僕、肩車してほしいんだ!」

  「そんなことであれば、もちろん構わないぞ!」

  そうバーグが子供に言った後、その子供を肩車してあげた。子供はたかーいと無邪気に微笑んでいた。それを見たほかの子供たちも、僕もやってほしいとバーグにお願いをしていた。バーグはもちろん、子供たちのお願いに応えてあげていた。

  その後は、広場で子供たちがはしゃぎまわる。バーグはそれを穏やかな顔で見ていた。しばらくそうしていると、シスターを連れたカオリが僕たちに向けて話しかけてきた。

  「お兄様、ダイチ先輩。…実はこの孤児院に教会があるの、ご存じでしたか?」

  「教会が?すごいね。」

  「そんな大したものではございませんわ。毎日朝みんなでお祈りをする場です。…それと、昔の話なんですが、この教会は結婚式の場に使われておりました。今は久しく、結婚式の用途では使われておりませんが…」

  「結婚式ですか!?」

  カオリが少し大きな声を上げる。

  「…実は私、一度結婚式の神父をやってみたいと思っておりましたの!でも、そんな場所ありませんでしたから、あきらめておりました。…ダイチ先輩、お兄様。よろしければ、お二人の結婚式をこの教会であげてみませんか?」

  「ええっ!?」

  「わ、わしとダイチの、結婚式!?」

  「そんな格式ばったものではございません。ただのまねごとみたいなものですわ!…シスター、構わないでしょうか?」

  「もちろん、構いませんわ!…この教会では同性同士の結婚式も執り行っておりました。」

  「いや…だが…」

  「この教会も、きっと喜ばれることでしょう。」

  「シスターもそう言ってくださっておりますわ!…お二人は嫌なのでしょうか…」

  「…僕は嫌じゃないよ…」

  「ダイチ!?」

  「シスターもこう言っているし。せっかくだから、カオリの夢、かなえてあげたいんだ。…バーグは僕が相手だと、いやかもしれないけど…」

  「イヤじゃない!」

  「決まりですわね!お兄様、ダイチ先輩。早速、行いましょう!」

  そうして決まった僕とバーグの結婚式。…真似事とはいえ、少し緊張してしまう自分がいた。子供たちがお菓子と遊んでくれたお礼だと言って、花で指輪を作ってくれた。せっかくなので、使わせてもらうことにした。子供たちが参列者となった結婚式が始まる。そして、カオリが告げる。

  「ダイチ先輩。あなたはバーグお兄様を良きパートナーとして迎え入れることを誓いますか?」

  「はい、誓います。」

  「バーグお兄様。あなたはダイチ先輩を良きパートナーとして迎え入れることを誓いますか?」

  「ああ。誓う。」

  「…では、誓いのキスを…」

  誓いのキス!?ええっ!?まさかの言葉に僕が慌てる。バーグが僕の顔を真剣に見る。なぜだか目がそらせない。バーグは僕の目を見た後、花の指輪がつけられている手を取り…

  チュッ…

  子供たちが作った花の指輪にキスをした。

  「おめでとう、お兄ちゃん!」

  周りからお祝いの言葉が次々と述べられる。

  「これにて誓いの儀式は終わります。…ダイチ先輩、お兄様。私のお願いをかなえてくださり、感謝いたしますわ!」

  最後はカオリからの言葉で締めくくられた。

  そして、僕たちがセイント学園に戻るときには子供たちがみんな悲しそうな顔をしていた。だがバーグが必ずまた来ると言った後は嬉しそうな顔をしていた。そして、3人でセイント学園に戻る。カオリが先に自室に戻り、バーグの部屋の前で僕が自室に戻ろうとすると、バーグが僕に対し、感謝の言葉を告げた。

  「ダイチ、今日はありがとう。ダイチのおかげで、子供たちに喜んでもらえた。…わし、嬉しかった。あんな笑顔を見ることができて。」

  「バーグ、どういたしまして。」

  「…ダイチ!」

  「…?何?バーグ…」

  「わしは、真似事とはいえ、ダイチと結婚式を挙げられたことを嬉しく思っている!最後にそれだけ、伝えたかった。…またな。ダイチ。」

  最後にそれだけ言うと、バーグは自室に戻っていった。

  …不意打ちのバーグからの言葉。さっきの言葉はそうとらえても、良いのかな…?気恥ずかしさと照れを感じてしまい、僕の顔は赤くなってしまった。

  …ダイチと過ごす何気ない日常。それはわしにとってかけがえのないものになっていた。

  鍋パーティの時、カオリが家族みたいだと言った時、わしは違和感を感じなかった。…それほどまでにダイチが隣にいることがわしの中で自然になっていたのだ。そして、カオリがダイチのことをわしの奥さんだと言った時、まず思い浮かんだのは幸せだった。ダイチが、わしの奥さん。…もしそうなら、どれほど幸せなのだろう。わしの帰りを待ってくれて、笑顔で出迎えてくれるダイチ。…悪くない。でも、その時同時に思い浮かべてしまった。その笑顔がわし以外の奴に向けられる未来を…そんな未来を考えた時、わしの心は嫉妬心とダイチに笑顔を向けられる奴への怒りでいっぱいになった。…こんなどす黒い感情、ただの友達に向けるような感情でないこと、わし自身、わかっていた。…わしは子供が好きだ。だが、生まれて今まで、子供たちからわしに笑顔を向けられることはなかった。…実のところ、孤児院に行ったとしても、怖がられるだけだということは、わし自身、わかっていた。でも、ダイチのおかげで、子供たちはわしにあこがれの顔を向けてくれた。笑顔を向けてくれた。そして、わしにお願いをしてくれた。そのどれもが嬉しくて、お願いを全て聞いていた。そして、教会での結婚式。真似事だとは分かっていてもわしの心は高揚していた。誓いのキスだとカオリが言った時、わしの視線はダイチの顔からそらせなかった。なけなしの理性を振り絞り、花の指輪にキスをすることで抑えたが、周りにカオリや子供たちがいなかったら、ダイチにキスをしていただろう。…いや、違う。キスなんて優しいものじゃない。思うがままダイチの唇をむさぼっていただろう。まるで熊が蜂蜜を舐めまわすがごとく。わしのこの感情がより具体的なものに変わり、そしてわし自身、確信した。

  …そうか、わしはダイチに…!

  [newpage]

  かくして4人の雄は自覚する。自分はダイチに恋をしていると。

  性別なんか関係ない。ダイチが男かなんてどうでもいい。自分はダイチを誰よりも愛している。

  そして、本能で理解する。自分以外にもダイチに恋をしている男が他にもいると。

  ダイチは絶対に渡さない。自分の恋人にしてみせる。絶対に自分がダイチを幸せにしてみせる!

  そして、ダイチに告白をするべく、4人の雄は動いたのだった。

  [newpage]

  そして、話は冒頭に戻る。

  「自分と付き合ってくれ!!」

  目の前の4人の雄から同時に告白された僕。思わず、その告白に対して聞き返してしまう。

  「その告白…本気、なんだよね?」

  「もちろんだ!私はダイチを愛している!」

  「俺様のこの気持ちに嘘偽りなんかねぇぜ!」

  「ダイチ先輩、俺、本気っす!」

  「当たり前だ。わしと結ばれて欲しい!」

  目の前の4人からの告白。その表情が、その声色が、本気で自分を思っての告白だと理解することができた。…僕は…!

  「レオンの告白を受け入れる。」

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  「タイガの告白を受け入れる。」

  [jump:11]

  「ロウガ君の告白を受け入れる。」

  [jump:12]

  「バーグの告白を受け入れる。」

  [jump:13]

  「…気持ちの整理が追い付かず、その場から逃げ出してしまった!」

  [jump:14]

  [newpage]

  「レオンの告白を受け入れる。」

  僕は、レオンの告白を受け入れることにした。

  「ダイチ、ありがとう!絶対に私が幸せにして見せるからな!」

  レオンの告白を受け入れた僕に対してレオンは緊張した顔から一転、笑顔になり、レオンは心からの笑顔で誓いの宣言をしてくれた。

  Epilogue

  レオンと恋人になってから1か月がたった。変わったことといえば、レオンにお菓子を振舞い、語り合う日が増えたことだ。そして、レオンが僕の側に居る頻度が、増えた。今日は僕たちにとって最後の生徒会の定例会だった。

  「レオン、今まで生徒会長、お疲れ様。後任も、無事決まってよかったね。」

  「ダイチ、ありがとう。なんだか少し、肩の荷が下りた気がするよ。…後任の生徒会長に関しても今後を任せられる人だ。…これからは私がいなくても、学園は大丈夫さ。…それに…」

  「…?」

  「今後は生徒会の定例会議で時間がなかった分。ダイチと過ごすことができる日が増える。それは私にとって、とても幸福なことだ!恋人とともに2人きりで過ごす時間が増えるのだからな!」

  「レオン、恥ずかしいよ…」

  「恥ずかしがることなんか何一つないさ。今日もダイチの部屋にお邪魔したい。…いいだろうか。」

  「…今日はレオンの部屋に行きたいかな…レオンにしてみたいこともあるし。」

  「私にしたいこととは?」

  「…レオン、最近肩がこることとかある?」

  「私か?…いや、特には…」

  「そっか、残念だな。せっかくだから、レオンにマッサージをしてあげようと思ったんだけど、必要ないなら、いいかな。」

  「…すまない。急に肩が凝ってしまった。これはダイチのマッサージを受ける必要があるな!」

  「レオンったら…」

  「いいだろう?これもスキンシップの一つだ!ダイチがしてくれるのだからな!ついでに、私もダイチにマッサージをしてあげよう。ダイチはもんでほしいところとかあるか?」

  「腰…かな?」

  「なるほど、腰か。では、お尻を丁寧に触る必要があるな!」

  「お尻!?レオンのエッチ!」

  「…私だって雄だ。恋人のお尻くらい触りたい気持ち、わかるだろ?」

  「…もう…」

  「すまない。腰だな…分かっている。きちんともませてもらうよ。」

  約束通り、僕はレオンの肩をマッサージしてあげた。レオンはだいぶ楽になったと言ってくれた。お返しとして、レオンは僕の腰をもんでくれた。力加減もよく、気持ちよかった。なお、ついでにお尻をなでられたのは、言うまでもないことだろう…。

  そして、週末。今日はレオンと近くの緑地公園でデートをする予定だ。…改めてデートと言うと、気恥ずかしい。…昨日もレオンと2人で一緒に夜まで過ごしたというのに。待ち合わせの場所に向かおうと玄関を通り過ぎようとする。そこには、なぜか数人の女子生徒とマリアさんがいた。その横を通り過ぎようとすると、一人の女子が大声を出して急に僕を非難してきた。

  「こいつよ!マリアさんの靴に針を入れていた男は!」

  いきなりそんなことを言われて訳が分からなかった。つい足を止め、聞き返してしまった。

  「急に何ですか?いったい、僕が何をしたというのですか?」

  「しらばっくれないで!あなた、マリアさんの靴に針を仕込んだでしょう!」

  「えっ?そんなこと、僕してないよ!」

  「嘘をつかないでちょうだい!私、この目で見たんだからね!」

  「私もよ!なんて卑怯な人なの!」

  女子生徒の声を聞き、何事かと人が集まってくる。女子生徒の声を聞くにつれ、周りの人が僕を見る視線が、冷たいものに変わっていく。

  「この人、マリアさんの靴に針を仕込んだ最低な人よ!」

  「こんな人、退学になればいいのよ!」

  「そんなこと、僕はしてないよ!」

  「だったら、私たちが嘘をついているとでもいうの!?ひどい人!」

  女子生徒の声が強くなっていく。僕は誤解だとマリアさんの方を向いて言おうとしたが、マリアさんは目から涙を浮かべている。そして、先にマリアさんが口を開いた。

  「ダイチさん、ひどいですわ!いったい、私が何をしたというのでしょう!?ダイチさんに恨まれるようなこと、私、何一つしていないのに!」

  そう言いながら、手で顔を覆いながら、泣き出すマリアさん。

  「マリアさんを泣かせて、最低な人!」

  「男の風上にも置けませんわ!」

  何とか、マリアさんに言葉を告げようとした僕。…だが、僕は見てしまった。泣いている風を見せながら、口元が笑っているのを。…まさか、本来の正ヒロインであるはずのマリアさんが…嘘、だよね?

  「女性を泣かせるなんて、ひどい男だな。」

  周りの生徒からも、そんな声が漏れる。この状況下、僕の味方はいないようだ。僕を非難する言葉が悲しくて、僕の目から涙がこぼれる。だんだん、周りの言葉が聞こえなくなっていく。…助けて、レオン…。

  「これは何の騒ぎだ?」

  …男の人の声が聞こえた。…その声は、僕の恋人である、レオンの声だった。

  「レオン会長!この男が、マリアさんの靴に針を仕込んだのです!」

  「こいつ、最低な男なんです!」

  「…ダイチが、マリアの靴に針を仕込んだという証拠は?」

  「私、見たんです!昨日、こいつがマリアさんの靴に針を仕込んでいるのを!」

  「私もみましたわ!」

  「…それは何時ごろの話だ?仕込んでいる瞬間を見たんだ。当然、いつ行われたかも知っているはずだろ?」

  「…夕方の、5時ですわ…」

  「ならば、ダイチにはアリバイがある。その時間は私と一緒に夕食をともにすべく行動していた。その時間には私とダイチは購買にいた。その証明は売り手がしてくれるだろう!」

  「…ですが!」

  「この中のみんなに聞く!私のこの証言が嘘だと思うものはこの中にいるか!?」

  堂々としたレオンの宣言に対し、嘘だと告げるものはいなかった。堂々としているレオンに対し、僕を非難していた女子生徒はきょろきょろと焦るようなそぶりを見せていた。

  「私の証言と君の証言。…ずいぶんと食い違っているようだが?」

  「これは…その…」

  「正直に本当のことを話せ。…誰に、ダイチのことを貶めるよう言われたんだ?」

  「…マリアさんに言われました。そこの男がマリアさんに嫌がらせをしているから、仕返しを手伝ってほしいと…」

  「嘘ですわ!私、そんなことを言った覚えがありません。この嘘つき女たちのすべて私を貶めるためのでたらめですわ!」

  「ひどい!嘘つき女だなんて!マリアさんがやれって言ったんじゃない!」

  「レオン会長…」

  マリアさんは懇願するような目でレオンを見た。…だが、マリアさんを見るレオンの目は冷ややかだった。それに気づかないマリアさんはレオンに懇願していた。

  「レオン会長!私のことを信じてください!私、そんなことを言った覚えがありません。レオン会長、私、あなたのことが好きです!好きな相手に嘘をつくようなこと、私は致しませんわ!」

  「…ダイチになら、嘘をついても構わないと…?」

  「い、いえ、そういうことでは…」

  「あいにくだが、マリア。私にはすでに恋人がいる。私の恋人は目の前にいるダイチだ!」

  「嘘ですわ!…だって、その男とレオン会長は男同士…」

  「信じられないと?…なら証拠を見せてやる。しかとその目に焼き付けるといい。ダイチ!」

  「えっ?レオン…んんんんんんんっ!!」

  レオンは僕を引き寄せるや否や、僕にキスをしてきた。…舌を絡める熱いキスだ。レオンは十数秒マリアさんや周りに見せつけるように僕にキスをした。キスの余韻で、僕は腰が砕けてしまった。レオンは僕の肩を抱き、僕を支えた。

  「見ての通りだ!ダイチは私のれっきとした恋人だ!」

  「そ…んな…」

  マリアさんは絶望したような顔をしていた。先ほどの決定的な光景を見せられて、反論する力が尽きたのだろう。周りの女子生徒も、おろおろするだけだった。

  「ダイチは私が最も愛する大切な人だ。ダイチを泣かせて貶めようとするやつを私は許さない!…たとえそれが、お前であったとしてもだ。」

  「…う、うぅ…」

  「お前のような偽りだらけの女を私は受け入れるつもりはない。私を見くびるな!…今回のことは、追って処分を下す。」

  「…」

  「二度と私とダイチに近づくな。」

  最後に冷たくマリアさんに吐き捨てた後、レオンは僕の肩を抱き、マリアさんの前から去った。

  …向かった先は、レオンの自室。ショックを受けている僕を慰めるべく、レオンは僕を抱きしめた。

  「レオン、さっきはありがとう。」

  「何を言っている。恋人として、当然のことをしたまでだ!」

  「そんなことないよ。レオンがいてくれたおかげで、僕、救われた。…でも、どうしてマリアさんが…」

  「…あの女の話はしなくていい。もう、終わったことだ。これからはダイチを貶めるようなことは、しないだろう。」

  「そう…だね…ねぇ、レオン…いいの?」

  「何がだ?」

  「…さっきのキス。…もしかしたら、男同士ということで、レオンが悪く言われるかもしれないと思うと…」

  「私は何一つ間違ったことはしていない!むしろ、周りの奴らにダイチが恋人だと見せつけられて誇り高い気分なんだ!…ダイチは、いやだったか?」

  「そんなことない!とっても嬉しかった!それに…」

  「…それに?」

  「僕、わがままだな。…レオンにもっとキスしてほしいと思ってしまったから…」

  「ダイチ、そんなことでいいならいくらでもしてやる!ダイチは私の恋人なんだからな!」

  「レオン…」

  「ダイチ…」

  急に真剣な表情になるレオン。僕の視線とレオンの視線が重なる。僕はゆっくりと目を閉じる。そして2人、触れるだけのキスをする。安心から少し眠くなる僕。

  「ごめん、レオン、なんだか眠くなってきちゃった。」

  「ダイチ…私の腕の中で眠るといい。…これからはずっと、私が側に居るから…」

  「ありがとう、レオン…」

  最後に僕がそう言うと、僕はレオンの腕の中でゆっくりと目を閉じる。…温かくも優しいレオンの腕の中、僕は…いや、僕たちは幸せを感じながら眠りについた。

  ケモケモクエストメモリアル-レオンエピソード-   …End

  [newpage]

  「タイガの告白を受け入れる。」

  僕は、タイガの告白を受け入れることにした。

  「俺様を選んでくれてありがとう、ダイチ!ま、まぁ、俺様が選ばれることは分かりきってたことだがな!ガハハ!」

  僕からの告白の返事を受け取ったタイガは豪快な笑顔を見せていた。だが、僕にはわかる。タイガは不安を感じていたのだと。僕からの返事を聞く前のタイガのしっぽはへにゃっと垂れ下がっていたが、僕がタイガの告白を受け入れた時、しっぽがぶんぶんと揺れ動いていたからだ。

  Epilogue

  僕がタイガの告白を受け入れた週明け。いつの間にか僕とタイガが付き合っているということが全生徒の間で知れ渡っていた。疑問に思ってタイガに相談すると、タイガ自身が公言しているということだった。

  「俺様の恋人なんだぜ!自慢して何が悪いんだ?ガハハ!」

  「で、でも、タイガ…いいの?」

  「何がだ?」

  「だって、僕とタイガは男同士だから、タイガが悪く言われるんじゃないかと思って…」

  「安心しろよ。俺様に向かってそんなことを言う度胸のあるやつ、ほぼいねぇよ!さすが、俺様だと思っておけばいいんだ!ガハハ!」

  「ホント、自信家なんだから…」

  「だが、そんな俺様にダイチは惚れたんだろ?」

  「まぁ、否定はしないけど…」

  「…けど?なんだ、それは?」

  「僕は、自信家のタイガも好きだけど、ちょっと情けないタイガも、僕に甘えてくれるタイガも、好きだよ!」

  「…ダイチにはかなわねぇぜ…それよりも、今日の料理は…ピーマンの肉詰めで頼むぜ。」

  「…いいの?タイガ、ピーマン嫌いなんじゃ…」

  「俺様がピーマンごときで怖気づいてちゃぁ、ダイチの恋人として格好がつかねぇじゃねぇか…それに、」

  「…?」

  「今後、ダイチの手料理が毎日食べられるんだ。…ダイチの作る料理は残さず食べてぇ…どんな料理であったとしてもだ!」

  「タイガ…ありがとう。タイガの心意気、受け取ったよ!じゃあ、今日はピーマンの肉詰め、頑張って作るよ!」

  「おう、ガハハ!…でも、味付けは濃い目でたのむぜぇ…」

  タイガのピーマン嫌いを克服する争いは、しばらくかかりそうだ。

  そして、タイガと恋人になって2週間がたっての週末。タイガから緑地公園へのデートに誘われたため、待ち合わせ場所にて待つ僕。タイガにしては珍しいチョイスだが、たまにはのんびり公園を散歩するのも悪くねぇしな。ということだった。タイガとのデートが嬉しくて、約束時間よりも30分も早く着てしまった。そのまま、タイガを待っていると、一人の女子生徒を筆頭に、数人の生徒の集団が僕のもとへとやってきた。…その女子生徒はケモケモメモリアルの悪役令嬢のメアリーだった。

  「あなた、タイガと付き合ってるって本当なの?」

  「…本当だよ、メアリーさ…」

  パァン!

  メアリーが急に僕のほほを叩いた。その衝撃に唖然としていると、メアリーが僕をなじった。

  「なんであんたみたいな地味男がタイガと付き合えているの!?あんたにタイガはふさわしくないわ!」

  「そんなこと、あなたに言われる必要は…」

  「黙りなさい!庶民風情が!タイガにふさわしいのは本来この私なのよ!あなたは邪魔ものなのよ!とっとと身を引きなさい!」

  「…嫌です。」

  「なんですって!?」

  「…僕はタイガが好きです。そしてタイガは僕を選んでくれた。タイガの想いに応えたい。だから、たとえあなたがタイガのことを好きだったとしても、その言葉に応えるつもりはありません!」

  パァン!

  ふたたびメアリーが僕のほほを叩く。

  「生意気なのよ!あんたさえいなければ、タイガは私のものだったのに!そう思うでしょ?みんな!?」

  メアリーの言葉を筆頭に次々と他の生徒が僕をなじる言葉を告げた。

  「タイガとメアリーならお似合いだが、お前はタイガにふさわしくない!」

  「タイガの付き合いが悪くなった!お前のせいだ!」

  「タイガがおかしくなったのはお前が原因だろ!」

  「とっとと消えろよ!」

  次々と僕に向けられる非難の言葉。浴びせられる言葉を僕は黙って聞いていたが、だんだんとその言葉はエスカレートしていく。…僕はだんだんと怖くなっていった。そのうち、言葉ではなく、暴力を振るわれるのではないかと思った。…助けて、タイガ…。

  僕の予想通り、一人の男子生徒が僕を殴ろうとこぶしを振り上げた。だが、その時。

  「お前ら、俺様の恋人に何をしている!?」

  タイガからの怒りの声が上がった。タイガの姿を見て笑顔を見せようとした面々だったが、タイガの表情を見て、おびえるような表情を見せた。…だが、そんな中でもメアリーは勝気な様子だった。

  「タイガ!今、この愚か者にタイガはふさわしくないと思い知らせているところですわ!」

  「ダイチが、俺様にふさわしくない…だと?」

  「その通りですわ!タイガとこいつでは、住む世界が違いすぎますわ!」

  メアリーからの言葉を筆頭に、次々とタイガに向けて言葉がむけられる。

  「タイガ、俺たちのもとに戻ってきてくれよ。タイガらしくないぜ、そんな姿!」

  「タイガが誰かに固執するなんてダサい真似、するはずがないもんな!」

  「いつものタイガはどこに行ったんだ?」

  「黙れ!!!」

  タイガからの再びの怒号。その言葉に驚いた生徒たちは今度こそ黙りこくってしまった。

  「ダイチが俺様にふさわしくないだと!?ふざけるな!ダイチは俺様が選んだ自慢の恋人なんだ!そんなダイチを俺様は誰よりも愛してるんだ!」

  「どうせ、いつもの気まぐれでしょう!?私には分かるわ!だって、タイガは…」

  「だれも信用してないみたいだな…いいだろう。俺様とダイチが恋人だという証拠をお前らに見せてやる!…ダイチ!」

  「えっ?タイガ…んんんんんんんっ!!」

  タイガは僕を引き寄せるや否や、僕にキスをしてきた。…舌を絡める熱いキスだ。タイガは十数秒メアリーや周りに見せつけるように僕にキスをした。キスの余韻で、僕は腰が砕けてしまった。タイガは僕の肩を抱き、僕を支えた。

  「見ての通りだ!ダイチは俺様のれっきとした恋人だ!」

  「そ…んな…」

  メアリーは愕然とした表情を浮かべた。そんな周りの様子を気にせず、タイガは言葉を告げた。

  「見ての通りだ。ダイチは俺様が選んだ恋人だ!次にダイチに何かをしてみろ、俺様はそいつを許さねぇ!」

  「嘘だ…タイガが、誰かに固執するような…ダサい真似…」

  「今の俺様がダサいか?…別に構わねぇよ。俺様は昔の傲慢だった俺様よりも、今の俺様の方が好きだ!…今までお前らに情けねぇ姿を見せたことなかったよな?…だが、ダイチはそんな俺様も受け入れてくれた。…その温かさを俺様は手放すつもりはない!…俺様が守ってみせる!」

  「…タイガ…」

  「…俺様のことを悪く言うことは甘んじて受け止めてやる。…俺様の責任だからな。」

  「…」

  「今日限りで俺様とお前らとはサヨナラだ。…ダイチを傷つけたお前たちを俺様は許すつもりはない。」

  「…」

  「二度と、俺様とダイチに、近づくな。」

  今までタイガとつるんでいた集団に絶縁宣言をした後、タイガは僕の肩を抱き、去っていく。…メアリーの泣き声だけが、唯一聞こえていた。

  そして、向かった先は、タイガの自室。僕を慰めるべく、タイガは僕を抱きしめていた。

  「ダイチ、大丈夫か?…ほほが赤くなっているぜ。もしかして、殴られたのか?」

  「…うん、でも、大丈夫だよ…」

  「俺様のダイチに傷をつけやがって…ぜってぇ許さねぇ!」

  「…でも、いいの?タイガ…」

  「何がだ?」

  「あの人たちのこと…」

  「別に構わねぇよ。恋人であるダイチと比べるまでもねぇ。俺様が自分の意志で選んだんだ。後悔はしてねぇよ!」

  「ありがとう、タイガ。」

  「ダイチ…」

  タイガは僕の叩かれたほほをなで、労わるように僕のほほに優しくキスをした。

  「…痛むか?」

  「ううん、大丈夫。タイガが優しくしてくれたから。…でも、僕、欲張りだな…。」

  「…何がだ?」

  「もっとタイガとキスをしたいって思っちゃったから…」

  「そんなことでよかったら、俺様がいくらでもしてやる!」

  「タイガ…」

  「ダイチ…」

  急に真剣な表情になるタイガ。僕の視線とタイガの視線が重なる。僕はゆっくりと目を閉じる。

  そして2人、触れるだけのキスをする。安心からか、眠くなる僕。

  「ごめん、タイガ、なんだか眠くなってきちゃった。」

  「ダイチ…いいぜ、俺様の腕の中で眠るといい。…この腕はダイチ専用だ…俺様、ダイチを永遠に離さねぇぜ…!」

  「ありがとう、タイガ…」

  最後に僕がそう言うと、僕はタイガの腕の中でゆっくりと目を閉じる。…温かくも頼りがいのあるタイガの腕の中、僕は…いや、僕たちは幸せを感じながら眠りについた。

  ケモケモクエストメモリアル-タイガエピソード-   …End

  [newpage]

  「ロウガ君の告白を受け入れる。」

  僕は、ロウガ君の告白を受け入れることにした。

  「…ありがとうございます…ダイチ先輩…ありがとうございます!!」

  涙ながら僕にお礼をいうロウガ君。嬉しいはずなのに泣いている姿を見て、僕は思わずロウガ君の頭をなでようとしたが手がロウガ君の頭に届いていない。…いつのまにかロウガ君はこんなにも成長していたんだと改めて思った僕だった。

  Epilogue

  ロウガ君と付き合い初めて2週間がたった。…時折手をつないでは照れあってしまう初々しい出来立てのカップルだと思う。…でも、そんな僕たちにも変わったことがある。…それは…

  「ダイチ、今日は俺、鍋が食べたいっす!俺の部屋で作ってもらってもいいっすか?」

  「ロウガ、もちろん構わないよ!」

  それは僕たちの呼び方が変わったこと。ロウガ君…いや、ロウガからお願いされたからだ。

  「俺たちせっかく恋人になったんす!ロウガ君だなんて他人行儀な呼び方はいやっす!ロウガと呼んでほしいっす!…俺も先輩のこと、ダイチって呼びたい…恋人なんすから…」

  「恋人…そうだね、僕たち恋人なんだもんね。分かったよ、ロウガ君…いや、ロウガ!」

  「ありがとうございますっす!ダイチ!」

  そして、恋人のロウガと鍋をすべく、ロウガの部屋で調理をする。

  「ダイチ、俺幸せっす!」

  「急にどうしたの?」

  「素敵な恋人が俺の部屋で料理を作ってくれて一緒に食べる生活…以前も言ったけどあこがれだったんす!」

  「素敵だなんて…ロウガの方が素敵だよ。背だって僕よりも高いし体つきもがっちりとしていて。…ロウガも雄なんだなぁって思うし。」

  「ありがとうっす!でも、ダイチの方が素敵っす!…一つだけ聞いても、良いっすか?」

  「なに、ロウガ?」

  「…どうして俺を選んでくれたんすか?」

  「どうしたの、急に突然。」

  「だって、俺の恋のライバルの男たちは俺よりも地位も権力もあり、魅力的な雄だった…それは認めるっす。そんな中でも、ダイチに頼りっぱなしだった俺が選ばれたのは、どうしてなのかなって思ったっす…。」

  「…そうだなぁ…頑張ってるところに魅かれたからかな。」

  「俺、そこまでのことは…」

  「最初は全然だった勉強も頑張ってできるようになった。人付き合いも頑張って自分から向き合おうとした。陸上も頑張って努力して僕にかっこいい姿を見せてくれた。…そんな努力家なところに、僕は魅かれた。…そして、好きになったんだ!」

  「ダイチ、俺、変われたっすか?…かっこよく、なれたっすか?」

  「もちろんだよ!ロウガ!」

  「ダイチ!俺、今まで生きてきてよかったっす!!」

  「大袈裟だよ、ロウガ。…もうすぐ鍋ができるよ。食器とか、準備してくれる?ロウガ。」

  「はいっす!!」

  そうして僕とロウガの2人で鍋をつつく。何気ない日常だが、僕とロウガにとって幸せな日常だった。

  更に、2週間後の週末。ロウガに誘われて、僕は陸上部の見学をしていた。僕がロウガに向けて手を振ると、それに気づいたロウガが僕に手を振り返してくれ、そのままトラックを走っていった。ロウガが走りに行った代わりに、陸上部の友達が僕に話しかけてきた。

  「最近のロウガ。調子は抜群だな!」

  「ホント!よかった…」

  「それもこれも、お前という恋人ができたからだな!」

  「…え、ええっ!?どうして、知って…!」

  「そりゃあ、わかりやすいからな!お前がいるときといないときとではロウガのテンションがかなり違う。陸上部の奴ら全員、それを知ってるぜ!」

  「…そう、なんだ。」

  「俺はお前とロウガのこと、応援してるぜ!陸上部の奴らも、お前たちのことを気持ち悪がってるやつはいねぇから安心しろよな!」

  「…ありがとう。」

  「さて、俺もそろそろ休憩は終わりとするか。せっかくだからロウガの応援をしてやれよ。」

  「そうさせてもらうね!」

  友達はひらひらと僕に手を振りながら、去っていった。

  30分ほどロウガの走る姿を眺めていた。その時、隣から女の人が僕に話しかけてきた。

  「あんた、ダイチよね?」

  「ア、 アン…さん…」

  話しかけてきた女子はアンさんだった。目つきも鋭く、僕に対する敵意を隠そうとしていなかった。

  「ロウガのことで話があるの。顔を貸しなさい。」

  「…分かりました。」

  しかたなく、僕はアンさんについていく。アンさんは人気のない隅っこに僕を呼び出した後、開口一番、僕に強い口調で聞いてきた。

  「あんた、ロウガと付き合ってるって本当なの!?」

  「…どうして、それを…」

  「いいから、答えなさい!どうなの!?」

  「その通りです。…僕とロウガは付き合ってます。」

  「ふざけないで!!!」

  急に金切り声を出すアンさん。僕が言葉を発する前に次々と罵声が浴びせられる。

  「あんたにロウガは不釣り合いよ!!ロウガは私がいないとだめなの!!ずっと一緒に居たのは私!!ロウガは私のモノなのよ!!」

  「ロウガはモノじゃない!」

  「黙りなさい!」

  パァン!

  激高したアンさんの手が僕のほほを強くたたく。痛みに若干ひるんでしまった。そのすきをついたアンさんは更に僕に言葉を浴びせてきた。

  「あんたがいるからロウガがおかしくなった!私の大切なロウガだったのに!!私の、ロウガを返してよ!!」

  「…」

  怒りがヒートアップしていくアンさんに僕は何も言えなかった。…心のどこかでもう何を言っても無駄だと悟っていたのかもしれない。…それがいけなかったのだろうか。アンさんは過激な行動に出てきた。

  「…そうよ、あんたさえいなければロウガはきっと目を覚ますわ!私だけのロウガに戻ってくれる!!…お前を殺せば!!」

  そして、アンさんはポケットに忍ばせていたナイフを取り出し、僕ににじり寄る。銀色に妖しく光る刃物…その存在に僕は怖気づいて、尻もちをついてしまった。

  「こ、こないで…」

  「あんたにロウガは渡さない…死になさい!!」

  刃物を持ったアンさんが僕に近づく。…このまま殺されてしまうのかな…助けて…ロウガ…。

  「やめろ!!!!!」

  強い男の声が聞こえた。その声は僕の愛する恋人であるロウガの声だった。

  「ロウガ!!!」

  僕が名前を呼ぶ前にアンさんがロウガの名前を呼ぶ。…飛び切りの笑顔で。…こんな状況にもかかわらず、なぜ、笑顔でいられるのか。…目の前のアンさんのことが何一つ理解できなかった。

  「何をしようとしていたんだ!?アン!!」

  「ロウガ、待ってて、今すぐこいつを殺して、ロウガの目を覚まさせてあげる。ロウガには私がついてる。私だけが…ロウガの…」

  「ふざけるな!!!」

  「…え?」

  ロウガからの怒りの言葉に若干ひるんでしまうアンさん。…予想でしかないがロウガから今までこんな口調で否定される経験などなかったのだろう。ロウガは僕に近づくと、僕を守るように抱きしめてきた。

  「お前は今、俺の大切な恋人を殺そうとしているんだぞ!分かっているのか!?」

  「そいつのせいでロウガがおかしくなったからでしょ?私のロウガは私を否定することなんかしない!私のロウガは…」

  「いい加減にしろ!」

  「ひっ!」

  「さっきから聞いていれば、私のロウガだと!?思い込みはそこまでにしろ!俺の恋人は目の前のダイチだけだ!お前なんかじゃない!」

  「嘘、嘘よ…だって、そいつは男で…ロウガも…」

  「…分かった。アン。お前に現実を見せてやる。俺の恋人はお前じゃなくてダイチだけだ!」

  「えっ?ロウガ…んんんんんんんっ!!」

  ロウガは僕を引き寄せるや否や、僕にキスをしてきた。…舌を絡める熱いキスだ。ロウガはアンさんに見せつけるように僕にキスをした。

  「やめて!!」

  泣きそうなアンさんの言葉を無視し、僕にキスをし続けるロウガ。キスの余韻で、僕は腰が砕けてしまった。ロウガは僕の肩を抱き、僕を支えた。

  「見ての通りだ!俺の恋人はダイチだけだ!お前なんかじゃない!俺は恋人を傷つけようとしたお前を絶対に許さない!」

  「そんな…私の…ロウガは…」

  「あの村で2人きりだったロウガはもう、どこにもいない。」

  「ああああああっ!!!!」

  「二度と俺とダイチに近づくな。」

  アンさんとの絶縁宣言をしたロウガが僕の肩を抱いて守るようにしながらアンさんの前から去っていく。…ロウガは一度も振り返らない。…その場でただアンさんの慟哭だけが、響いていた。

  そして、向かった先はロウガの自室。僕を慰めるべく、ロウガは僕を抱きしめていた。

  「ダイチ、すまないっす。怖い思いをさせて。ほほ、痛むっすか?」

  「ロウガ、心配してくれてありがとう。大丈夫だよ。それに、ロウガのせいじゃないよ。」

  「…俺がアンにもっとはっきり言えていたら、ダイチが傷つくことなんかなかったんす。」

  「でも、ごめんね。ロウガの友達だったのに…」

  「…正直のところ、アンにとって俺は友達なんかじゃなくて所有物だったんす。…俺自身、そんなにアンのこと大切に思っていなかったっすから。今俺が一番大切なのは恋人のダイチだ!愛してるっす!!」

  「僕も、愛してるよ、ロウガ。」

  「俺がダイチを守るっす!もうあの頃の俺じゃない!だから安心してほしいっす!」

  そういうと、ロウガは僕のほほをいたわるようにやさしくキスをしてくれた。

  「嬉しい、ロウガ。…でも、僕、欲張りだな…。」

  「…何がっすか?」

  「もっとロウガとキスをしたいって思っちゃったから…」

  「そんなことでよかったら、俺がいくらでもしてやるっす!むしろ、俺がしたいっす!!」

  「ロウガ…」

  「ダイチ…」

  急に真剣な表情になるロウガ。僕の視線とロウガの視線が重なる。僕はゆっくりと目を閉じる。

  そして2人、触れるだけのキスをする。安心からか、眠くなる僕。

  「ごめん、ロウガ、なんだか眠くなってきちゃった。」

  「ダイチ…そうっすね、このまま一緒に眠るっす。…俺が腕枕をしてあげるっすから、俺の腕の中で安心して眠るっす…!」

  「ありがとう、ロウガ…」

  最後に僕がそう言うと、僕はロウガの腕の中でゆっくりと目を閉じる。…温かく、成長し逞しくなったロウガの腕の中、僕は…いや、僕たちは幸せを感じながら眠りについた。

  ケモケモクエストメモリアル-ロウガエピソード-   …End

  [newpage]

  「バーグの告白を受け入れる。」

  僕は、バーグの告白を受け入れることにした。

  「ありがとう、ダイチ!わし、幸せだ!」

  バーグは告白が受け入れられたとわかった瞬間、感極まって僕に抱き着いてきた。僕も嬉しくてバーグを抱きしめ返した。バーグからは、緑と温かい陽だまりのようなにおいがした。

  Epilogue

  バーグと付き合い初めて2週間がたった。バーグとの関係は初々しい。だが、時々バーグが積極的になり、僕を抱きしめるようになってきた。そして、バーグと2人きりで過ごす時間が増えた。今日もバーグの部屋にて2人で過ごす。

  「ダイチ、こんな感じでかき混ぜたらいいか?」

  「バーグ、そんな感じで構わないよ。具材が焦げそうになったら、僕に言ってね。火の加減を調整するから。」

  最近変わったこと。それはバーグも料理をしてみたいと言ったことだ。その理由を聞いてみると。

  「…あこがれだったんだ。恋人とともにキッチンで並んで料理を作ってみることが。わしには縁のないことだとあきらめていた。…だがせっかくダイチと恋人になれたんだ。…ちょっとくらいわしの望みがかなってもいいだろう。」

  ほとんど人と関わることができなかったバーグのささやかな望み。…恋人の僕がかなえてあげたいと思い、バーグとともに料理を作ることを決めた。バーグはほとんど料理をしたことがないと言っていた。だから、最初から包丁を使って食材を切ることは難しいと思うので、簡単な作業をお願いすることにした。…それに僕も恋人とともに料理をすることにあこがれはあった。そして、2人で作ったシチューが完成する。

  「バーグ。シチュー出来たね。2人で食べよう!」

  「ああ、一緒に食べよう!」

  そして2人でシチューを食べあう。お互い美味しいなどの感想を言い合いながら和やかに食事をする。

  「ごちそうさまでした。」

  「ごちそうさまだ。ダイチ。…料理もなんだかいいものだと感じてきたぞ。」

  「それはよかった。…シチュー、作りすぎて余っちゃったね。…ちょうど一人分くらい余ったけど、明日バーグが食べる?」

  「いや、これはカオリに持って行ってあげようと思う。…カオリにも、是非わしとダイチで作った料理を食べてもらいたいと思う。」

  「…本当にバーグはカオリのことを大切にしてるんだね!ちょっと妬けちゃうな…。」

  「ダイチ、わしはカオリのことをあくまで妹として大事にしている。だが、ダイチのことは恋人として大切に思っているんだからな!」

  バーグは僕を抱きしめながら告げる。…冗談で言ったことだがバーグは本気にしたようだ。ちょっとした罪悪感を感じながらも、バーグに抱きしめられたことが嬉しかった。

  そして、2週間後の週末。バーグとともに畑へと向かう。卒業も近づいている。なのに、バーグは野菜の苗を植えていた。

  「もうすぐ僕たちも卒業だね。…ねぇ、バーグ。もうすぐこの畑ともお別れなんだよね。それなのに野菜の苗を植えて大丈夫なの?」

  「大丈夫だ、ダイチ。…実はカオリが今後畑の世話をしてくれるようになったからな。」

  「カオリが?…それは嬉しいことだけど、さすがに一人でこの広さの畑を維持するのは大変じゃないかな?」

  「…そのことなんだがな、ダイチ。実は文化祭でわしとダイチが出したサツマイモが好評だっただろ?そのおかげで作物を育てることに興味を持った生徒がいてな。カオリとその生徒で畑の維持をすることになったんだ。人数もいるから、来年は園芸部として、正式に畑を維持することが決まったんだ。」

  「凄いね!園芸部になるんだ。」

  「カオリの働きかけもあってのことだな。それに、カオリが畑の一部を花壇にして花を植えるという計画をしていてな。野菜に興味はなくても花には興味があるという生徒もいるそうだ。だから来年以降も部員が増える予定だとカオリが話していた。…わしも嬉しい。わしの育てた畑を有効活用してくれて。…わしとダイチの、子供みたいな存在だからな。」

  「こ、子供って…!」

  「実際似たようなものだろう。わしとダイチで耕し、作物を育てた畑なのだから…それに」

  「…?」

  「この畑はわしとダイチを結び付けてくれた大切な畑なんだ。感謝してもしきれない大切な場所だ。だから、この場所が今後も続いていくということで、わし、嬉しいんだ!」

  そういうとバーグは感極まったのか急に僕を抱きしめた。ドキドキしながらも僕はバーグを抱きしめ返した。数十秒抱きしめあった後、バーグがゆっくりと体を離し、僕の肩に手を置く。そして、ゆっくりと僕の顔に近づく。かっこいいバーグの顔が僕に近づく。…キス、されるのかな…?僕はゆっくりと目を閉じる。

  「お兄様…」

  その時、僕とバーグ以外の声が聞こえた。僕たちは思わず体を離す。声の発生源の方を見ると一人の女性が立っていた。…カオリだった。

  「お兄様…ダイチ先輩と何をなさろうとしていましたの?…まさか、キス…?」

  「か、カオリ、こ、これは…」

  僕は慌てふためいてしまう。だが、そんな僕をよそに、カオリは僕たちに言葉を紡ぐ。

  「…最近バーグお兄様が幸せそうな顔をすることが増えましたの。前に私にシチューを持ってきてくださった時のあの表情。今でも忘れられませんわ!…もしかして、お兄様とダイチ先輩は付き合っているのでしょうか?…男同士…」

  いくら仲がいいと言っても、カオリにとってバーグが男である僕と付き合うのは、反対なのかな…?僕は少し落ち込んでしまう。そんな僕の様子を見たバーグが堂々とカオリに告げた。

  「ああ、わしとダイチは付き合っている。男同士なのはわかっている。それでも、わしはダイチを愛しているんだ。」

  「…なら、その証拠を!その証拠を私に見せてくださいませ!お兄様とダイチ先輩が付き合っているという決定的な証拠を!!」

  カオリが僕たちに告げる。…だが、その口調はケモケモメモリアルのゲームで聞いたような関係性を否定してほしいような口調ではなかった。…むしろなにかを期待しているような…。そんな口調だった。

  「…分かった。わしもカオリに隠し事はしたくない。わしとダイチが恋人だという証拠をカオリに見せてやる!」

  「えっ?バーグ…んんんんんんんっ!!」

  バーグは僕を引き寄せるや否や、僕にキスをしてきた。…舌を絡める熱いキスだ。バーグは十数秒カオリに見せつけるように僕にキスをした。キスの余韻で、僕は腰が砕けてしまった。バーグは僕の肩を抱き、僕を支えた。

  「見ての通りだ!ダイチはわしのれっきとした恋人だ!」

  数秒の沈黙が僕たちの間に流れた。そして…

  「キ…」

  「…」

  「…?」

  「キマシタワーーーーー!!!!」

  「!?」

  「うっひょおおおおおおお!!!!お兄様とダイチ先輩のキスシーン!なんて美しいのでしょう!感動的な光景でしたわ!それをまじかで見られるなんて!私、なんて幸せ者なのでしょう!!」

  「か、カオリ…?」

  「体格差…男同士…なんて美しい響き…この光景は心のメモリーに永久保存ですわ!!」

  「カオリ…!」

  バーグからの言葉に我に返るカオリ。さっきまでのハイテンションはちょっとだけ鳴りを潜めた。

  「…申し訳ございません。つい、興奮してしまいましたわ…。殿方の前で恥ずかしい…。でも、私満足ですわ!」

  「か、カオリは何とも思わないの…?僕とバーグは男同士…」

  「性別など、愛する二人の前では些細なことですわ!むしろ、それがいいんじゃないですの!背徳的だからこそ燃え上がる!!私、お兄様とダイチ先輩の愛を応援しておりますわ!!」

  「カオリ。わしとダイチの関係を認めてくれているのか?」

  「当たり前ですわ!誰が反対しようとも、私はお二人の味方ですわ!!だから、安心してくださいませ!!」

  そう僕たちに告げた後、カオリは僕たちの前から去ろうとする。最後に気になったことがあったため、僕はカオリに質問をした。

  「…カオリは寂しくないの?バーグが他の誰かのものになって…」

  僕からの質問に足を止めた後、僕の顔を見て、カオリは正直な気持ちを告げた。

  「…確かにまったく寂しくないと言ったら嘘にはなりますわ…。でもそれ以上に、お兄様のことを理解してくれるパートナーができたことが何よりもうれしいですわ!それが、私も信頼しているダイチ先輩だった。だから、良いんですの!…ダイチ先輩、これからもお兄様と末永く幸せでいてくださいませ!!」

  そう笑顔で言った後、カオリは今度こそ僕たちの前から去っていく。

  …う腐腐腐腐…この気持ちを一刻も早くシスターと共有しなくては…。

  …カオリの声が聞こえた気がした。

  その後、僕たちが向かった先はバーグの自室。お互い無言だった。…先に口を開いたのは僕の方だった。

  「カオリは、僕とバーグの関係を認めてくれているみたいだね。」

  「そうだな、わしも嬉しい。カオリが、わしとダイチのことを認めてくれて…だがな…」

  「…?」

  「だがもし、カオリがわしとダイチの関係を否定したとしても、わしは恋人をやめるつもりはない!ダイチはわしの愛する大切な恋人なんだからな!」

  「バーグ、ありがとう。…僕、嬉しい…。」

  「ダイチ…」

  無言になり見つめ合う僕たち…そして…。

  ちゅっ…。

  2人触れるだけのキスをした。

  「嬉しい、バーグ。…でも、僕、欲張りだな…。」

  「…欲張り?」

  「もっとバーグとキスをしたいって思っちゃったから…」

  「そんなことでよかったら、わしがいくらでもかなえてやる!ダイチはわしの恋人なんだからな!」

  「バーグ…」

  「ダイチ…」

  急に真剣な表情になるバーグ。僕の視線とバーグの視線が重なる。僕はゆっくりと目を閉じる。

  そして2人、触れるだけのキスをする。安心からか、眠くなる僕。

  「ごめん、バーグ、なんだか眠くなってきちゃった。」

  「ダイチ…わしの腕の中で眠るといい。…これからはずっと、わしが側に…いる。」

  「ありがとう、バーグ…」

  最後に僕がそう言うと、僕はバーグの腕の中でゆっくりと目を閉じる。…大きくて温かい、陽だまりのような腕の中、僕は…いや、僕たちは幸せを感じながら眠りについた。

  ケモケモクエストメモリアル-バーグエピソード-   …End

  [newpage]

  …気持ちの整理が追い付かず、その場から逃げ出してしまった!」

  告白に返事をしないことは失礼なことだとは分かっている。だけど、その時はパニックを起こしてしまい、逃げ出してしまったのだ。そして、はぁはぁ…と息を荒げながら自室へと戻り、ベッドへとへたりこんでしまう。…4人の男が僕なんかに告白するなんて…あこがれていた4人から…まさかのハーレム!?…こんな展開、ゲームの中でもなかったよ!顔を赤らめ、気持ちの整理が追い付かず、頭の中がぐるぐると空回りしている。…だが、4人の雄はそれを待ってくれない。鍵をかけ忘れていた僕の部屋の扉が開かれ、4人が僕の部屋に入り込む。…誰かが僕の部屋に入ってくることはあったが4人そろって部屋に入ってくるのは初めてだった。

  「ダイチ!どうして私から逃げるんだ!」

  「俺様の告白をなかったことにするつもりか!?」

  「ダイチ先輩!俺まだ返事を聞いていないっす!」

  「わしの告白の返事を聞かせてくれ!」

  4人から詰められ、僕はとっさに口を開く。

  「みんなの告白から逃げるつもりはなかったんだよ!…でも!」

  「…だったら!」

  「…でも、まさか4人から同時に告白されるなんて思ってもみなかったから、気持ちの整理が追い付いていないだけで…」

  「ダイチ…。私のことが嫌いなのか?」

  「…俺様のことが、嫌いなのか?」

  「…俺じゃあ、駄目なんすか…?」

  「わしのこの気持ちは…迷惑なのか?」

  「そんなことない!告白してくれてとても嬉しい!みんなのことは大好きだよ!…誰か一人だなんてこの場ですぐ、決められないよ…」

  「…」

  「それに本来、ゲームの世界ではみんなはマリアさんとかメアリーと結ばれるわけで…こんなハーレム展開になるなんか想像していなかったわけで…」

  「…なんで俺様があんないけすかねぇ女と結ばれなくちゃならないんだ?」

  「ゲームの世界…本来は…?どういう意味なんだ…ダイチ?」

  「え、あ、そ、それは…」

  「ダイチ先輩!どういうことっすか!?」

  「…すべて話せ!」

  4人からの圧力がすさまじく、隠し通すことはでき無さそうだった。…僕は口を開いた。本当は僕は地球という星に生まれ事故によってこの世界に転生したこと。ケモケモメモリアルのゲームの中でみんなのことを知っていたこと。本来はマリアさんがみんなと付き合うはずだったこと。…こんな4人から同時に告白される展開はゲームでもなかったため、動揺していること…すべて。

  「ごめんなさい。謝って許されることじゃないけど…でも、僕、皆をだますつもりはなくて…。」

  「そうか、分かった。ダイチは別の星から来た転生者で、すでに私たちのことを知っていた。…まとめると、こういうことなんだな。」

  「はい、そうです。…でも、僕…」

  「なるほど…ダイチはギフテッドと呼ばれる存在というわけか…」

  「えっ?ギフテッド…それは、どういう?」

  「…天からの贈り物という意味だ。交流したものに幸せを与える素晴らしい存在らしい。」

  「そんな…僕、幸せを運ぶ存在なんかじゃ…」

  「なるほどな…確かにダイチは俺様に幸せを運んできた。ギフテッドと言われて納得したぜ。」

  「タイガ…でも…」

  「だからと言って、俺様がダイチをあきらめるつもりなんかねぇぜ!たとえギフテッドであろうがなかろうがな!」

  「俺もそうっす!ダイチ先輩を譲る気はないっす!」

  「わしもだ。…いうまでもないことだがダイチをあきらめるつもりなどない!」

  「もちろん私もだ。ダイチを他の雄に渡すつもりはない!それに、ダイチ以外の奴と結ばれるつもりなどない!」

  「みんな…でも…」

  「ダイチ…答えは決まらねぇのか?」

  「ごめんなさい…みんな同じくらい大切だから…だから一人だけ選ぶだなんて…欲張りなのはわかってる!でも、僕…。みんなのことが、好きなんだ!!」

  …僕たちの間に沈黙が流れる。その時…!

  …あなたの決意、聞かせてもらいました…

  「だ、誰!?」

  僕の部屋に女性と思わしき声が響き渡り、一筋の光が差し込む。目を開けると、鳥の姿をした美しい女性が立っていた。

  「あ、あなたは…」

  あっけにとられている僕たちの中、レオンが何とか声を発する。

  「私はこの世界の神…!」

  「この世界の…俺様、聞いたことあるぜ。この世界に神がいると。…確かに、神々しさを感じるが…本当なのか…」

  「ええ、私は神である腐ェニックス…!信者からは汚超腐人とも呼ばれているわね…!」

  …腐ェニックス…汚超腐人…!僕はその名を聞いたことがある!それも地球で!腐女子…そして貴腐人を超越した究極の存在だと!!

  「神っすか…目の前に急に現れたところを俺は見たっす…信じるしか、無いっすね…」

  「…汚超腐人という言葉はカオリから聞いたことがある。その神様…が、わし…いや、わしたち…に何の用だ?」

  「私のことは汚超腐人で構いません。あなたたちのことはダイチを通じて見させてもらいました。ダイチ!よい総受けを私に提供してくれて感謝するわ…!」

  「ええ!?総受けって!?」

  「ハーレムと同じことでしょう。男を4人、自分に惚れさせているのだから!」

  「そ、それは…」

  「…男同士…キスシーン…美しい光景でしたわ…!…ダイチ。まだ、パートナーとなるべき男を選べずにいるのですね…」

  「…はい、そうです…」

  「では、私から一つ、奇跡を授けましょう!!」

  そう汚超腐人が言葉を放つとあたりが…いや、世界が光に包まれた!!

  そして目を開ける。だが何も変わっていないように見えるが…

  「今の光…汚超腐人…先ほどは何を…?」

  「私の奇跡の力で時を戻させていただきました!今の季節は桜咲く春に変わっています!」

  「な、何!?俺様、もう一回2年生をするのか!?」

  「ええ…ダイチともう一年学園で過ごす…あなた…いや、あなたたちにとって素晴らしい出来事でしょう…?」

  「で、でも。俺の体型、入学前に戻ってないっすよ…?」

  「安心するといいわ。周りのものにはその体で入学したと認識される。…肉体からすれば強くてニューゲームというわけよ!」

  「わしたちは戻された1年でダイチを自分のものにしろというわけか。」

  「察しがいいですわ。その通り。1年猶予を与えました。…ですが…」

  「…?」

  「可能性は無限大…あなた方以外の男がダイチを手に入れる…そんな未来になる可能性もあるのですよ…」

  「なっ!」

  「ふざけるな!」

  「嫌っす!」

  「そんな!」

  「ダイチが魅力的な男であることはほかならぬあなたたち自身が証明しているでしょう!」

  「…」

  「…ダイチをめぐっての男同士の戦い…これからどうなるか…楽しみにさせてもらうわね…!」

  う腐腐腐腐…と笑いながら汚超腐人は僕たちの目の前から消えた。

  目の前の出来事が理解できなくて、数分誰も何も言えずにいた。僕は意を決して口を開く。

  「あの…」

  「…そうだな。どちらにせよ、私のすることは変わらない…ダイチ!私はダイチを愛している!私の愛をこの一年かけてじっくりと教えてやる!」

  「ええ!レオン!?」

  「俺様もだぜ!出会いはひどいもんにしちまったが、まだ1年あるんだ!その間に俺様の魅力をもっと知ってもらえばいい話だからな!」

  「タイガも!?」

  「俺だってそうっす!今の俺は進化した俺なんっす!今度は俺、ダイチ先輩を守れるっす!だから俺から目をそらさないでほしいっす!」

  「ロウガ君まで…」

  「わしもだ!ダイチをあきらめるつもりなんかない!本当はダイチともっとたくさんの野菜を一緒に育てていきたいと思っていたんだ!わしはこのチャンスを逃すつもりなんかない!」

  「…バーグも…だよね…」

  …この4人は僕をあきらめる気はないのだろう。他の男たちに対してバチバチと敵意を向けている。…これからの僕の日常、どうなるのかなぁ…かっこいい男が4人…そりゃあ、とっても嬉しい展開だけど…!!!…あわただしい日常に、なるんだろうな…。

  いろいろ頭の中でぐるぐると考えてしまう僕。そんな考えの僕をよそに、4人の男は満面の笑みを浮かべて、僕に宣言をした!

  「愛してる!!ダイチ!!」

  ケモケモクエストメモリアル-エクストラエピソード-ハーレムのダイチ-  …Never Ending